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君津中央病院の
ICT活動
国保直営総合病院 君津中央病院 感染制御室
感染管理認定看護師
1. 施設概要
堀井 俊男
2. はじめに
当院は、袖ヶ浦・木更津・君津・富津の4市によっ
当院の感染対策チーム
(以下、ICT)は平成26年度現
て昭和13年に開設されました。施設は木更津市にあ
在、医師(ICD・専任)1名、看護師(ICN・専従)1名、
る本院(写真1−①)と富津市にある分院からなります。
看護師長1名、臨床検査技師(ICMT・専任)1名、薬
本院は24診療科661床(一般病床637床、感染症病床
剤師(専任)1名、事務担当(総務課)2名、の計7名で
6床、結核病床18床、第二種感染症指定医療機関)、
構成されています
(写真2)。
分院は9科36床(一般病床36床)を有し、千葉県南部
平成27年度からは増大する業務やメンバーの突発的
の中核的医療施設としての役割を担い、良質な医療の
な休業等に対応するため薬剤師・臨床検査技師各1名
提供に努めています。平成21年1月には千葉県2機
が新たに加わり、9名体制でスタートする予定です。
わたしの病院の感染対策
目のドクターヘリが配備され
(写真1−②)、出動件数
は年間600件を超えるほどになっており、県の救急医
療拠点としても重要な役割を果たしています。
写真2 君津中央病院 ICT
上段左から:ICN・堀井俊男、ICMT・高橋弘志、
薬剤師・末政忠巳、事務担当・廣瀬慶降
下段左から:看護師長・鶴岡典子、ICD・畦元亮作、
事務担当・三井葉子
写真1−① 本院全景
3. 感染予防対策の組織
感染予防対策にかかわる組織として病院運営委員
会・院内感染対策委員会が設置され、感染予防対策に
関する事項を審議、決定しています。委員は病院長を
はじめとして看護局、事務局の局長、薬剤科長、検査
科長の5名に ICTの7名を加えた12名で構成されてい
ます。
委員以外にオブザーバーとして新生児センター長や
救急救命センター長、外科、小児科、栄養科や施設管
理班などの医師、コメディカル13名が登録され、委員
写真1−② 出動するドクターヘリ
会に適宜参加しています。ICTは病院長直轄の機関とさ
れ感染管理の実働部隊として活動すると共に、院内感
染対策委員としても重要な役割を担っています
(図1)。
2015 APR No.2
1
病院長
ICT
医師1名、看護師2名、
臨床検査技師1名、
薬剤師1名、事務2名
院内感染対策委員会
・委員
病院長、看護局長、事務局長、
検査科長、薬剤科長、ICT
・オブザーバー
新生児センター長、
救急救命センター長、外科医、
呼吸器科医、小児科医、
総合診療科医、医療技術局次長、
看護局次長、結核病棟師長、
分院師長、栄養科、歯科衛生科、
施設管理
感染対策リンクチーム
全部署から各1名、合計30名
図1. 君津中央病院 感染予防対策の組織図
写真3−② リンクチーム定例会の様子
4. 手指消毒に関する活動
ICT と連携し、臨床現場で対策を実践する部会とし
当院の手指消毒剤使用量は平成24年(1年間)で1
て感染対策リンクチーム
(以下、リンクチーム)が平成
日1床あたりの手指消毒回数(回数/実稼働床・日)に
わたしの病院の感染対策
24年度から活動しています。それまでは看護局内に
すると1回に満たない病棟が複数ありました。そこで
安全感染対策委員会がありましたが、安全対策が主の
手指消毒の遵守率向上を目的に、病棟ごとの1日1床
委員会であり、感染予防対策に関する活動は充分では
あたり手指消毒回数を月報(図2)として毎月配布する
ありませんでした。また放射線科やリハビリテーショ
ことを開始しました。当初は「もっとやっているは
ン科などの医療技術局や事務局では院内感染予防に関
ず」「流水で洗っているから関係ない」などの声が聴
する活動は特に行われていませんでした。このため委
かれましたが、並行して院内研修会で目に見えて汚染
員会の方針や決定事項、ICT の対策が臨床現場に十分
が無い場合は手指消毒剤を選択する事や、適切なタイ
反映されていないという問題があり、ICT の提案で発
ミングと適切な使用量を守ることを繰り返し説明して
足しました。
いきました。また、手指消毒をしたくなる製剤も必要
リンクチームは院内の全部署から1名(2名でも可)
と考え、採用されていた製品の見直しを行いました。
が参加し、ICTを加えた37名(写真3−①)で構成され、
毎月1回の定例会を開催して活動しています。
写真3−① 君津中央病院 感染対策リンクチーム
任期は2年で、5年以上の経験者を目安として各所
属長が選抜します。今年度は病院機能評価の更新審査
が予定されていた為、ほとんどのメンバーが継続して
活動しています。
発足3年目となった現在、手指衛生遵守率の向上や
消毒剤の適正使用など、テーマごとに7∼8名のワー
キンググループに分かれ、それぞれがリーダーを中心
に主体的に活動しています
(写真3−②)。
2
丸石感染対策 NEWS
図2. 手指消毒剤使用量 月報
従来、ゲルタイプの手指消毒剤が採用されていまし
たが、何回か手指消毒をするとカスがでる、ノズルが
詰まって思わぬ方向に薬剤が出たなど、使用感や使い
勝手に対する否定的な意見が聞かれたため、フォーム
タイプへの変更を考え比較調査を行いました。
調査は1日1床あたりの手指消毒回数が最も多かっ
た NICUで行いました。
NICU の看護師(40名)に1ヶ月間、フォームタイ
®
プ(ウエルフォーム )の手指消毒剤を使用してもら
®
い、従来品(ウエルピュア )との比較アンケートを行
写真4 君津中央病院採用 手指消毒剤
・ウエルフォーム®(300mL) ・ウエルパス®(300mL)
・ウエルセプト® (500mL) ・ゲルタイプ (60mL)
いました。結果(図3)は総合評価で従来品(ウエルピュ
®
ア )と比較して「良い」が65%であったため、平成
®
平成26年6月から個人で携帯しやすいよう、ポシェッ
25年8月からフォームタイプ(ウエルフォーム )へ切
トの配布を開始しました(写真5)。希望者のみ ICT で
り替えました。
配布しています。汚れた場合は院内で洗濯処理を行い
返却します。リンクチームが個人持ち推進活動を行
悪い
13%
塗り拡げやすさ
乾燥までの時間
同じ
7%
良い
80%
効果があったと考えます。
液だれ
悪い
23%
良い
35%
よりも増加したまま推移しており、手指消毒の向上に
わたしの病院の感染対策
同じ
57%
から急激に増加し、その後やや減少しましたが配布前
同じ
27%
肌荒れ感
悪い
8%
い、2ヶ月の間に500名以上の希望者がありました。
手指消毒剤の払い出し量(図4)はポシェット配布開始
良い
35%
悪い
38% 良い
65%
同じ
12%
総合評価
悪い
8%
同じ
27%
良い
65%
図3. 従来品との比較アンケート結果
(n=40)
写真5 携帯用ポシェット
しかし、アンケートや聞き取りから従来品を好む方
も存在する事がわかりました。手指消毒剤に対しては
個人の嗜好があり、100%支持される商品はないと
考えます。ICT としてできるだけ個人の嗜好にも応え
るべく、ゲルタイプや他の商品も継続採用してもらえ
るよう、用度課と交渉しました。コストと倉庫スペー
スの観点から統一する事が望ましいですが、フォーム
タイプを主とすること、各製剤につき一商品一容量に
絞り込むことで継続採用が認められました
(写真4)。
250000
ポシェット配布開始
200000
ウエルフォーム®導入
150000
100000
リンクチーム・
ワーキンググループ
活動開始
®
部署や各病室に配置する手指消毒剤はウエルフォーム
とし、個人で携帯する場合や部署で統一できる場合は
50000
好みの商品を選択できます。内視鏡室では頻回にグ
ローブを着脱するため乾燥までの時間が早く、ウエル
®
フォーム に比べてグローブの着脱がしやすいという
0
4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
平成25年・月
平成26年・月
®
理由からウエルパス 手指消毒液0.2%(以下、ウエル
®
パス )が選ばれています。
図4. 手指消毒剤払い出し量の推移
(単位mL)
2015 APR No.2
3
手指消毒剤使用量の急激な増加は、病院経営の立場
から望ましくないと考える施設があるかもしれませ
ん。当院では、使用量の増加とともにMRSAの新規検
出数は減少しているため一定の理解を得られています
(図5)。
MRSA新規検出数(入院患者)
140
120
123
120
13006
12000
90
100
手指消毒剤使用量(単位 L)
14000
8000
60
6000
40
4000
20
2000
0
0
平成23年 平成24年 平成25年
写真7 シールド製品の透析センターでの配置
(赤線内)
と実際の装着 10000
80
6010
5917
6. 地域への活動
平成23年 平成24年 平成25年
図5. MRSA 新規検出数と手指消毒剤使用量
5. 個人防護具に関する活動
君津中央病院では、地域住民の健康づくり支援を目
的として「出前講座」を行っています。この制度は、
医療をテーマとする講座を希望する地域の方々に病院
職員が直接出向いて行うものです。29の講座があ
り、感染予防に関して「感染症疾患と予防対策」など
わたしの病院の感染対策
手指消毒剤と同様に、個人防護具も必要な場面で適
4つの講座を設けています。感染予防に関するニーズ
切な防護具をいつでも使用できる環境が不可欠です。
は高く、平成25年度に14回実施された講座の内、4
特殊な部署であっても必要な防護具を配置しなくては
回を ICNが担当しました。対象は小学校の生徒・父兄
なりません。ドクターヘリでは限られたスペースや軽量
や県立高校・養護教員の方々、地域の高齢者学級、老
化が求められる中でも工夫して配置しています(写真6)。
人養護施設の職員研修など多岐に渡り、それぞれの対
また、手に取りやすく、使いやすいことも必要で
象や希望に合わせた講座を実施しています。
す。当院ではゴーグルやシールド付マスクの使用量が
また、君津・木更津地域では昨年度、インフルエン
非常に少なく、必要な場面で防護ができていない事が
ザや感染性胃腸炎の集団感染が高齢者施設や障害者支
考えられました。原因としてゴーグルやシールド付マ
援施設、保育施設で多発し問題となっていました。こ
スクは箱が大きく配置するスペースがない、マスクを
うした経験から予防対策を徹底する目的で保健所が企
一旦外してシールド付マスクをつけるのは面倒、など
画し、当院が協力する形で施設の職員を対象に研修会
が挙げられました。対策としてマスクに装着するシー
を開催しました。施設の特徴を考慮し、対象別に行っ
ルド製品を採用し、防護実施の啓発を行っています
ています。高齢者・障害者施設では44施設79名、保
(写真8)。
育施設では45施設49名が参加しました
(写真7)。
天井にマジックテープで張り付けられたグローブ
写真8 研修会ではカメラ付きチェッカ−で 手指消毒結果を共有[写真提供:丸石製薬]
おわりに
病院内だけでなく、地域全体で取り組む感染対策が
ガウンやゴーグルは小分けして収納
写真6 ドクターヘリ内部
4
丸石感染対策 NEWS
求められる中、君津・木更津地域の中核病院として貢
献できるよう、ICT 一丸となって努力していきたいと
思います。