独居高齢者に対する効果的なDOTS方法についての検討 ○椎千佳代、木佐貫菜々子、又木真由美※、濱田京子、和田陽市(都城保健所 ※日南保 健所) 1 はじめに 平 成 24 年 の 新 登 録 結 核 患 者 の 半 数 以 上 は 70 歳 以 上 で 、 中 で も 80 歳 以 上 の 患 者 は 全 体 の 1/3 を 占 め 、結 核 患 者 の 高 齢 化 が 進 ん で い る 1) 。平 成 26 年 8 月 1 日 現 在 、都 城 保 健 所 で 管 理している治療中の高齢結核患者のうち独居高齢者は 4 割弱を占める。 高 齢 結 核 患 者 に は 、 合 併 症 や ADL の 低 下 な ど さ ま ざ ま な 問 題 が あ る 独居高齢者より、服薬継続への不安の声が聞かれた。中川らは 3) 2) 。 地 域 DOTS の 際 、 、治療成功の要因に、治 療 終 了 後 ま で DOTS 実 施 が あ る こ と で 優 位 な 差 が み ら れ た と 述 べ て い る 。独 居 高 齢 者 の DOTS を実践し、効果的な対策について検討したので報告する。 2 方法 文献を参考に、独居高齢者に対して必要な支援について整理した。患者の不安等につい て調査し、服薬支援アセスメント票にて評価、患者の問題点を整理した上、必要に応じて DOTS 方 法 の 見 直 し を 行 っ た 。 3 表1 独居高齢の結核患者に必要な支援について ① 家族だけでなく、本人への服薬指導の強化 結果 ② 服薬の必要性の理解の促し、理解度の確認 1)独居高齢の結核患者に必要 な支援は、表 1 の 8 つに整理で ③ 副作用による治療中断をできるだけ避けられるような働きかけ ④ 受診方法が確立されているかの確認 ⑤ 結核既往歴有りの対象は前回の治療状況を確認・評価の上、より深い支援を考える ⑥ 医療機関が変更になる場合は、治療がきちんと継続されているか等の確認を行う きた。 2)5 事例への支援について ⑦ 治療に関して孤独を感じないような訪問等の関わり ⑧ 合併症に注意を払い、結核の治療と一緒にうまく進められるよう注意を払う 独 居 高 齢 患 者 5 事 例 に つ い て DOTS を 行 っ た 結 果 表 2 5事 例 の DOTSの 状 況 に つ い て は 表 2 の と お り で あ る 。治 療 継 続 中 の 事 例 E は 、 対象者 DOTS内容 治療状況 規則的な服薬ができなかった。事例 E の詳細に A ①②③④⑦⑧ 変更なし 終了 支援 B ①②③④⑤⑦⑧ 変更あり 終了 ついては、表 3 のとおりである。なお、実際の C ①②③④⑥⑦⑧ 変更あり 終了 支援については、表 1 と関連するものはそれぞ D ①②③④⑦⑧ 変更なし 終了 れ の 番 号 で <>内 に 示 し た 。 E ①②③④⑥⑦⑧ 変更あり 継続 事 例 概 要:80 代 女 性 初 回 治 療 病 型 bⅢ 2 喀 痰 塗 抹 最 大 G2 号 透 析 中 の た め 県 外 の 病 院 に 入 院 勧 告 退 院 後 の 外 来 医 療 機 関 は 入 院 、 透 析 医 療 機 関 と 別 副 作 用 な し 長 女 が 週 に 1~ 2 回 訪 問 日 常 生 活 は 自 立 (デ イ サ ー ビ ス (週 2)・配 食 サ ー ビ ス (週 2)・ホ ー ム ヘ ル パ ー (週 1)) 表 3 事 例 の 登 録 時 か ら の 経 過 、 支 援 に つ い て 時期 状況 登録 ・肺結核と診断される ~ ・県外の専門病院入院 入院 ・3剤治療、副作用なし ・12/1退院 ・本人と初回面接。体調良好。規則 的な治療が必要であることは理解し 退院 ている ~ ・長女が週1回程度訪問。服薬支援 1/13 可 ・1/14訪問DOTS時、空袋、残薬の数 が合わず ・薬カレンダーから薬を取るのが面 1/14 倒で、薬を元に戻してしまっていた ~ ・次回受診可能日まで、処方薬が足 1/25 りない ・1/15、1/16、1/20訪問DOTS時、空 袋、残薬ともに数が合っていた 支援 ・長女に、規則的な服薬の必要性、結核薬の副作用について説明。退院後、地域DOTSの協力依頼< ②③> ・咳、痰症状、食欲等変わりないか体調確認<③⑧> ・外来受診はどのように行うか確認<④> ・外来通院医療機関に、治療内容について確認<⑥> ・初回面接、訪問DOTS実施。空袋、残薬確認<⑦> ・規則的な服薬の必要性について病院から聞いているか確認、再度必要性を説明<①②> ・服薬支援アセスメント票にて評価を行い、総合判定2点。月1回程度の訪問DOTSを行うこととす る。今後の治療について、長女、保健所と一緒にがんばりましょうと伝える<⑦> ・長女に、薬カレンダーへの薬のセット、訪問時1週間分の空袋の確認を依頼。本人に、服薬後空 袋をとっておいてもらうこと、服薬手帳へのチェック、カレンダーの順番通りの服薬を指導<①> ・咳、痰症状、食欲等変わりないか体調確認<③⑧> ・空袋、残薬確認<⑦> ・一包化を主治医に依頼。治療内容、治療期間について確認<①> ・ケアマネジャーに地域DOTSの協力依頼。利用中の社会資源を教えてもらう。 ・配食サービススタッフに規則的な服薬の必要性を説明。月~土の空袋確認、服薬手帳への記入を 依頼。 ・長女に、日曜日の空袋確認を依頼<①②> ・1週間毎日訪問DOTS、空袋、残薬確認。毎日の服薬の継続をねぎらう<⑦> ・1/26訪問DOTS時、空袋の数が多い ことが判明。過剰服用していると思 われる 1/26 ・直接服薬確認のもと、毎日服薬継 ~ 続できている 4 ・咳、痰症状、食欲等変わりないか体調確認<③⑧> ・薬の処方日数を確認後、長女と次回受診日を確認、受診の促し<④> ・ケアマネジャー、主治医に相談。火・木・土は透析医療機関が、水・金はデイサービスが、月は 保健所が、日は家族が担当し、直接服薬確認することとなった。処方薬は、本人が間違って服薬し ないように、それぞれの担当に配布 ・変更したDOTS方法について患者に説明<⑦> ・担当者(家族、ケアマネジャー、デイサービス職員、ヘルパー職員)会議にて、現在のDOTS方法に 問題がないか確認。DOTSの継続を依頼 考察 5 事例に対し支援を実施した結果、独居高齢者に必要な 8 つの支援全てを要さずに規則 的な服薬が継続できた事例がある一方、事例 E は 8 つの支援のみでは規則的な服薬が継続 で き な か っ た 。4 事 例 と 事 例 E の 経 過 、支 援 に つ い て 比 較 し て み え た 課 題 に つ い て 述 べ る 。 まず、事例 E は入院中に本人と面接できなかったため、家族や医療機関など他者からの 情報のみでアセスメントを行った。そのため、本人の認知レベルや治療の理解度等、十分 に把握できない部分があった。日常生活が自立していることから、認知レベルは正常だと 考えたが、実際は規則的な服薬が困難であった。より正確にアセスメントできるように、 登録時から患者と密な関わりをもつことが重要であると考える。 ま た 、 4 事 例 に つ い て は 、 DOTS カ ン フ ァ レ ン ス 等 で 病 棟 と の 情 報 交 換 が で き た が 、 事 例 E に つ い て は 、 入 院 中 の DOTS 等 に つ い て 、 医 療 機 関 と の 情 報 交 換 が 十 分 に で き な か っ た 。 患者との面接が実施できない場合も含め、医療機関との情報交換については十分な対策が 必 要 と 考 え る 。情 報 交 換 に お い て 、DOTS ノ ー ト 、結 核 地 域 連 携 パ ス な ど の 機 能 を 持 ち 合 わ せている服薬ノートの利用拡充の必要性が言われている 4 ) 。現 在 、宮 崎 県 で も DOTS を 行 う 上で服薬手帳を利用している。服薬手帳を服薬確認だけでなく、医療機関との情報交換に 有効活用すると、医療機関、保健所ともに 患者に合った支援ができると考える。 事例 E は現在、関係機関に協力を求めたことで、規則的な服薬が継続できている。 橋本 ら 5)が 、 福 祉 制 度 の 利 用 や 関 係 者 に よ る サ ポ ー ト 体 制 に よ り 、 家 族 だ け で な く 地 域 全 体 で サ ポ ー ト で き る シ ス テ ム を つ く り だ し て い く こ と が 必 要 だ と 述 べ て い る よ う に 、地 域 DOTS 体制づくりの重要性が示された。高齢者は、関わりのある医療機関や施設等を有する場合 が多い。本人、家族、保健所だけでできることには限界がある。 それぞれの関係機関、職 種によって関わりのある場面が異なるため、それぞれからみた患者の情報を共有する と、 患 者 を 多 角 的 に 捉 え る こ と が で き 、地 域 DOTS へ ス ム ー ズ に 移 行 で き る と 考 え る 。ま た 、地 域 DOTS の 体 制 づ く り の た め に は 、 DOTS が 治 療 完 遂 の た め に 必 要 で あ る こ と を 、 本 人 、 家 族、関係機関に理解してもらうことが重要である。 また、その方法において、小林 6 )は 、 視聴覚媒体を用いた教育介入の有効性を示している 。それぞれの対象に合わせ、視聴覚に 働 き か け る 方 法 で 結 核 ・DOTS に つ い て 正 し い 知 識 を 提 供 し て い く 必 要 が あ る 。 5 おわりに 独 居 高 齢 者 の 地 域 DOTS を 成 功 さ せ 、治 療 完 遂 さ せ る た め に は 、よ り 密 な 患 者 の ア セ ス メ ン ト を 行 う こ と が で き る よ う な 取 り 組 み と 、患 者 を 取 り 巻 く 地 域 で の DOTS 体 制 づ く り が 重 要であると考える。 参考文献 1 ) 結 核 予 防 会 : 結 核 の 統 計 2013 、 2013 2 ) 結 核 予 防 会 : 第 80 回 総 会 シ ン ポ ジ ウ ム Ⅰ . 結 核 か ら 見 た 日 本 、 結 核 、 2 012 、 8 7 、 367- 381 3 ) 中 川 環 他 : 大 阪 市 の 結 核 治 療 成 功 要 因 の 分 析 に よ る DOTS 事 業 の 評 価 、 結 核 、 20 07 、 82 、 10 、 765-769 4 ) 浦 野 真 紀 子 : 薬 局 ・ 福 祉 等 の 関 係 機 関 連 携 の 取 り 組 み と 保 健 所 の 役 割 、 結 核 、 2 011 、 86 、 12 、 976- 978 5) 橋 本 容 子 : 地 域 DOTS の 推 進 ― 服 薬 支 援 計 画 票 を 活 用 し て ― 、 結 核 、 2009 、 84 、 4 、 165 -172 6 ) 小 林 典 子 : 日 本 版 DOTS の 技 術 強 化 、結 核 対 策 の 評 価 と 新 た な 診 断 ・ 治 療 技 術 の 開 発 ・ 実 用 化 に 関 す る 研 究 、8、 136 - 154 、 2012
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