Paparoloオカリナの特徴に関して / 1 7

Paparoloオカリナの特徴に関して
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【通常のオカリナとの違いについて】
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日本のオカリナ(ほぼ全てと言ってしまって差し支えないと思われます)とパパローロ・オカ
リナ(パパローロ氏:本名 Manuel Barreiro マニュエル・バレイロ氏が制作するスペインガリシ
アのオカリナ)の違いを列挙しますと、以下の通りになります。
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・歌口の形状の違い
・低音部の音程安定化及び、ピッチの微調整を目的とした通気穴が側面に設けられていること
・リコーダーの低音部と同様の構造を持つことで、ド♯などの素早い演奏が可能な指穴の有無
・基本的なC, F調に加え、G, A, B♭, D調などのラインナップを
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えている点
およそ明確な差異は上記の通りになるかと思われますが、これらの違いによる利点や効果を実感
できるかどうかは演奏者の感性や、求める音楽性によって変わるものと思われます。以下、順に
上記の違いに関して記しますが、それらのことをご理解頂いた上でお読み頂けると幸いです。
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〈歌口の形状に関して〉
日本のオカリナに限らず、本場であるイタリア、台湾、アメリカ、ドイツなどの恐らくほぼ全て
のオカリナ(実際に全てを確認したわけではありません)は歌口部のウインド・エッジが半円な
いし完全な丸に近い形状、あるいは鋭角な切り込みを入れた形状をしています。何故こうした形状
の歌口にするのかという明確な理由については良く分かっておりません。そのためパパローロ氏
は、リコーダーやホイッスルと発音原理が同じという理由から、歌口の形状をこれらの楽器と同じ
構造にしています。(写真をご参照下さい)
(写真:歌口の形状)
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これは私見になりますが、この形を採用していることで音の立ち上がりの良さや音程の良さ、
高音部の音の出易さ、倍音豊かな音色の生成や音量の確保に貢献しているのではないかと考えて
います。
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〈通気穴について〉
吹いてみると分かりますが、オカリナという楽器は吹く息の強さによって音程が上下します。
息の強さに関しては製造されたオカリナの微妙な個体差、職人による違い、演奏者の個人差が大
きく影響します。そのため、オカリナに対して演奏者が合わせる様にアプローチするか、制作側
が「ソロ用」「アンサンブル用」といった形で必要な吹量に合わせて作り分けを行う必要があり
ます。一番良い解決策は職人に直接、演奏者に適したオカリナを作って頂くということですが、
敷居が高くなってしまいます。
また、オカリナはその構造上、指穴が塞がりきるかほとんど塞がっている状態になる最低音付
近での音程が非常にセンシティブです。低音部では弱目に吹くことを意識し、高音部では強めに
吹くことを意識することを求めるオカリナというのが実際に多くあり、スムーズな演奏の妨げにな
ります。
この点、パパローロ・オカリナは通気穴を設けることによって、最低音において完全な閉塞状
態を回避し、音程の安定化を計っています(日本の一部のオカリナにもこの通気穴は見られま
す)。これにより、低音部であっても高音部とほとんど変わらない吹量で演奏が可能です。加え
て、この通気穴はおよそ数Hz単位での音高の微調整機能としても作用します。パパローロ・オカ
リナは440Hzを基準に制作されていますが、吹量が強く音高が上がってしまっている場合でも、
通気穴をテープ等で少し塞ぐことでピッチの調整が可能になります。
(写真左:通気穴位置 写真右:テープで少し塞いだ状態)
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パパローロ・オカリナは、日本の一部プロ用と表されて売られているものや、ソロ用として扱わ
れているものとは異なり、必要な吹量は標準的なものであると思われます。そのため、女性や年
配の方が吹きにくいということはないかと思います。逆に、吹量の多い方であれば塞ぐ、そして季
節の温度変化に合わせて開け閉めするといったことが出来ますので、楽器として非常に優れたピッ
チ調整機構を有していると言えます。
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Paparoloオカリナの特徴に関して
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〈右手小指用の指穴が二つに分かれていること〉
こちらは上記にて、「リコーダーの低音部∼」で述べた内容です。以下この指穴の構造とガリシ
ア音楽との相性上の重要性を記します。
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まず、パパローロ氏が日本向けに売り出そうとしているオカリナは、日本のものと同様、最低音
がラ(C調の場合)から始まり、最高音ファまで演奏できます(主に12穴オカリナと呼ばれるも
のですが、低音調のオカリナ程指穴を増やすことが困難になるため、調によってはその限りでは
ありません。また、パパローロ氏も現在この指穴の調整中なため、今後仕様の変更等もあり得ま
す。)。
(写真:D調オカリナ、表と裏)
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指穴の位置関係やその運指に関しては、メーカーによって若干の差があります。以下ヤマハのサ
イトよりコピーした運指表1です。
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Paparoloオカリナの特徴に関して
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前記の運指表は、最低音と一つ手前のラとシの運指以外はおおよそ全てのオカリナに共通する
ものであり、パパローロ・オカリナも例外ではありません。しかし、低音部のド♯の運指を見て
頂けると分かるのですが、日本のオカリナの(恐らく)全ては指穴が一つ開いているだけであり、
ド♯を演奏するには、指穴を調整しつつ半分押さえるか、右手中指奥に設けられた指穴を、中指
を前方にスライドして押さえる他ありません。対してパパローロ・オカリナには右手小指の指穴が
二つに分かれています(一部イタリアのオカリナにはこの機構があります)。
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(写真:パパローロオカリナの右手小指用指穴の例)
ガリシアの伝統音楽を演奏する場合、この指穴の有無は非常に重要になります。
例えばC調のオカリナを用い、調をDに転調して演奏した場合(オカリナはクロマチック演奏が
容易にできる楽器なので、C調の場合、D調、F調、G調への転調は簡単にできます。)、右手小指
でド♯を演奏することになります。この動作はGaita ガイタ(ガリシアン・バグパイプ)の運指と
同じになります。加えて、ガイタの音域はD調の場合、最低音ド♯からおよそ一オクターブ上のソ
までになります。ガリシアの音楽も大抵が最低音ド♯(D調の場合)から一オクターブ上のレない
しミまでの曲が大半(ダンス曲や歌曲の場合この範囲にほぼ確実に収まります)です。そのため、
パパローロ・オカリナの音域はこれを満たしていることになります。また、ガリシア音楽の特徴
として、アイルランドやブルターニュの曲と違い、半音進行の曲が多くあります(特に Muiñeira
ムイニェイラと呼ばれる8分の6拍子のダンス曲はそれにあたります)。無論、通常のオカリナ
でも演奏は可能ですが、転調した場合(しない場合も含め)、中指のスライドや小指での微妙な
調整で半音をつくることは、速い曲においてはほぼ不可能になります。そのため、パパローロ・
オカリナはガリシア音楽との相性がいいということになります。
加え、以下の内容は〈調のラインナップが多い〉こととも共通しますが、C調を使い一音転調す
ればD管のチャンターを使ったバグパイプと合奏ができ、B♭調を使えばC管と、F調を使えばG管
といった具合に、パパローロ・オカリナであれば容易にガリシア音楽に馴染み、強いては、ケル
ト音楽全般の演奏に使えるポテンシャルを有しているわけです。
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Paparoloオカリナの特徴に関して
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(ムイニェイラの一例2)
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Paparoloオカリナの特徴に関して
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【パパローロ・オカリナとカルロス・ヌニェス、そしてガリシア音楽】
ガリシアにおいて、現在パパローロ・オカリナを最も愛用している筆頭音楽家は Carlos Núñez
カルロス・ヌニェス氏です。ヌニェス氏はガリシアを代表する世界的なガイタ奏者(バグパイパー)
ですが、ガイタの他にバロック・リコーダーやティン・ホイッスル、そしてオカリナも演奏する音
楽家として知られています。氏はパパローロ・オカリナを30個程所有されているとのことで、初
めてこのオカリナを手にされた際に「これこそ人生で求めていたオカリナだ!」とおっしゃった
そうです。実際に、ヌニェス氏の最初のCDアルバムから最新のアルバムに渡り、そのオカリナの
演奏を聴くことができます。
ヌニェス氏とオカリナに関して非常に印象深い逸話があります。宮崎吾朗監督が手がけられた
スタジオ・ジブリの映画に『ゲド戦記』がありますが、この映画の音楽は作曲家の寺嶋民哉氏が
制作されています。劇中に主人公・アレンのメイン・テーマがあるのですが、当初、この曲に関し
て監督とプロデューサーは「雰囲気が中東的過ぎる」と指摘し、難色を示されていたそうです。
何故なら、『ゲド戦記』の世界観はアイルランドをはじめとするケルト系諸地域をイメージし、作
られていたからです。そんな時、たまたま来日中のヌニェス氏が急遽テスト録音をすることになり
ます。その際に氏はパパローロ・オカリナでその曲を演奏し、プロデューサー、監督共々そのケ
ルト的な哀愁のある演奏に魅了され、新たに曲を作り直すことなく採用されることとなったので
す。
このように、ガリシア音楽とオカリナの音色、或はケルト音楽とオカリナというのはどこか通
じるものがあるようです。
(文、写真:米村 俊)
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(写真:パパローロ氏とオカリナ製作)
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Paparoloオカリナの特徴に関して
1
運指表、http://www.gakki.com/shopping/ocarina_yamaha.html より引用
2
https://asociacionamigosdelagaitagallegaextremadura.wordpress.com/2012/10/14/
partitura-muineira-de-pontesampaio/ を参照
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