高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムを軸とした観光振興施策の

高齢化社会における
ユニバーサルツーリズムを軸とした
観光振興施策の検討調査
報
告
書
平 成27年 3月
公 益 財 団 法人
ち ゅ うご く 産 業 創造 セ ン タ ー
巻頭言
巻
頭
言
平成 19(2007)年に観光立国推進基本法が初めて施行されました。しかし、「おも
てなし」に時間と手間をかけて努力しても付加価値として転化できない状態のままで、
観光産業の労働生産性は低いままです。我が国では「おもてなし」という精神的ホス
ピタリティが暗黙知化されすぎているような気がします。観光産業は労働集約的産業
で、生産性が上がらないのは、これまで観光産業が非科学的であったためかも知れま
せん。地域振興に観光産業が意味を持つためには、精神的な「おもてなし」に留まら
ず、その付加価値をどれくらい収益に転嫁でき、リピート率を維持し、安定した雇用
を生み出せるかがカギだと思います。つまり、科学的とは投入資源に対しどれくらい
の付加価値を得ることができるかということだと思います。
観光にはその目的や効果から、たくさんのツーリズムの分類があります。そのなか
でもユニバーサルツーリズムやバリアフリーツーリズムは、ハード、ソフト両面から
ホスピタリティの究極にあるといえます。例えばバリアフリー化や国際化として、畳
の部屋の窓際に椅子を配置するだけが国際観光旅館といえるでしょうか?
今回、公益財団法人ちゅうごく産業創造センターが、地域振興の視点から「高齢化
社会におけるユニバーサルツーリズムを軸とした観光振興施策の検討調査」を実施し
たことは、期を得た重要な方向性を示したものと考えています。
少子高齢社会にあって、高齢者や障がい者が、身体的制約があっても安心して旅行
に出かけることができる仕組みづくりを「ユニバーサルツーリズム」として国が促進
する現在、中国地域においてはこの分野の観光関連産業の取り組み意欲に温度差があ
り、いくつかの課題を残しています。
本調査は、ユニバーサルツーリズムをビジネスチャンスとして捉え、拡大するであ
ろう市場ニーズを把握し、市場規模を推計するとともに、ユニバーサルツーリズムに
対するプレーヤーの取り組み状況や課題を整理し、ユニバーサルツーリズムを推進す
る方策を検討する目的で実施しました。
ユニバーサルツーリズムの効用について、「趣味や楽しみ」や「息抜き」で、旅行
先での「癒し」のニーズが高いと想定しています。旅行経験では、日常生活において
健康や体調管理への意欲や意識そして移動、外出に対する自信など「心の変化」や経
験に基づく身体的変化(向上)を実感しており、具体的には「単独での歩行距離の延
長」や「要介護レベルの低下」などがあり、「心の変化」「行動の変化」「身体の変化」
など健康増進効果を実感しています。
ユニバーサルツーリズムにより、このような個人的効用に加えて地域振興への波及
効果が期待されています。
ユニバーサルツーリズムを推進するにあたって、関連するプレーヤー、すなわち観
光施設、宿泊施設、旅客運送、支援組織、行政等関係者のネットワークが重要になり
ます。
ユニバーサルツーリズムは、プレーヤー間の連携により、地域の社会共通資本の創
出に寄与し、地域における労働市場に変化を与え、地域創生における重要な産業にな
る可能性を包含していると思います。その推進のために、本報告書では、現状の様々
な課題を整理し、具体的な方策を提言に纏めました。
この報告書を、ユニバーサルツーリズムのプレーヤー各位に活用していだき、ユニ
バーサルツーリズムの観光立国日本として、2020 年の東京オリンピック、パラリンピ
ック閉幕後に残る遺産(レガシー)を、単に建造物のみならず、オリンピックで醸成
されたスポーツ文化やホスピタリティ精神ともに「無形の遺産」として根付かせ発展・
継承させることにつながっていくことを願っています。
最後に、本調査において、委員会にご参加いただきました委員の方々、調査に協力
された皆様をはじめ、シンクタンクの株式会社山陰経済経営研究所、事務局の公益財
団法人ちゅうごく産業創造センター等、関係各位に心よりお礼を申し上げます。
平成 27 年3月
「高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムを軸とした
観光振興施策の検討調査」委員会
委員長
吉長
成恭
委員会名簿
「高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムを軸とした観光振興施策の検討調査」
委
区
員
会
名
名
所
簿
属・役
(敬称略:所属別・50音順)
分
氏
職
委員長
吉長
成恭
広島国際大学
大学院
副委員長
狩谷
明美
県立広島大学
保健福祉学部
副委員長
平森
良典
(一社) バリアフリー旅行ネットワーク理事長
等
心理科学研究科
教授
准教授
(株)昭和観光社代表取締役
委
員
松下
敦史
一畑電気鉄道(株)
経営推進部
経営企画課
委
員
中井
良司
(株)山陰合同銀行
地域振興部
地域振興グループ 副調査役
委
員
金垣
克己
(株)日立製作所中国支社企画部 社会イノベーション事業推進グループ 部長代理
委
員
井坂
晋
広島銀行
委
員
藤原
学
富士通(株)
委
員
安部
順郎
(株)フロンティアあかぎ
委
員
元岡
敬史
中国経済連合会
委
員
安岡
和政
一般財団法人
委
員
森分
幸雄
経済産業省 中国経済産業局 産業部 流通・サービス産業課長
委
員
藤原
薫
広島県
健康福祉局
高齢者支援課
委
員
徳永
晃平
山口県
商工労働部
観光振興課
委
員
田村
直也
広島市経済観光局
事務局
佐原
一弘
(公財)ちゅうごく産業創造センター
〃
楫野
肇
〃
調査部
〃
木村
宜克
〃
調査部長
〃
岸本
真明
〃
調査部
部長
〃
宮崎
哲彦
〃
調査部
部長
泉
洋一
〃
角南
英郎
〃
主任調査役
〃
福田
倫子
〃
研究員
シンクタンク
法人営業部
金融サービス室
課長
シニアマネージャー
西日本営業本部中国ビジネスイノベーションセンター
代表取締役・駅長
部長
山口経済研究所
観光政策部
(株)山陰経済経営研究所
調査研究員
参事
観光企画班
主事
観光企画担当課長
専務理事
地域振興部長
統括部長
要約版
調査目的と報告書の構成
人口減少が進む中、総人口に占める高齢者人口の比率は増加傾向にあり、高齢者の国内旅行市場
における存在感は益々大きくなると考えられる。しかし、高齢者の中には、身体・健康状態に不安
があり旅行に行きたいという意欲があっても諦めてしまう層がある。今後、旅行を諦めている層の
需要喚起を含め、高齢者の旅行を成長産業と位置付け、取組んでいく必要性は高まるとみられる。
国においては、高齢者や障がい者のように身体等に制約があっても気兼ねなく参加できる旅行=
「ユニバーサルツーリズム」の促進事業が進められている。
中国地域においては、ユニバーサルツーリズムに対する観光関連産業の取組み意欲には温度差が
みられ、取組み段階も一様ではない。このため、ユニバーサルツーリズムに取組むプレーヤーの裾
野を広げ、地域で総合的にユニバーサルツーリズム関連のサービスを提供できる環境を構築してい
く必要があると考えられる。
本調査は、中国地域の取組みの問題点を整理し、推進に向けた課題を抽出するとともに、ユニバ
ーサルツーリズムの対象者のニーズを把握した上で、中国地域でユニバーサルツーリズムを推進し
ていくために必要な方策を検討し、提言することを目的とする。
本調査のポイント
今後拡大が見込める高齢者への対応を重点に、ユニバーサルツーリズムに関わ
るプレーヤー(観光関連産業、支援組織、行政等)の取組みを活発化させ、ユ
ニバーサルツーリズムを推進するための方策について検討する
報告書の構成と調査フロー
1.ユニバーサルツーリズムの概要(報告書 P5~P21 参照)
2.中国地域におけるユニバーサルツーリズムの取組みの現状と問題点(報告書 P22~P82 参照)
3.ユニバーサルツーリズムに関する他地域事例調査(報告書 P83~P88 参照)
4.ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ把握(報告書 P89~P96 参照)
5.
中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策の検討 (報告書 P97~P113 参照)
本調査におけるユニバーサルツーリズムの対象者
*本調査では、
「高齢者」
、
「一時観光困難者」
、
「中軽度の観光困難者」をユニバーサルツーリズムの対象
者として設定
「高
齢
者」…全ての高齢者を対象として捉えることは必ずしも適切ではないが、一般的に高齢になる
に伴い、身体機能が低下し対象者となる可能性があるため対象としている
「一 時 観 光 困 難 者」…日常生活では配慮は必要ないが、日常と異なる観光においては移動・宿泊等に配慮を
必要とする層
「中軽度の観光困難者」…観光に出かける際に移動・宿泊等に介助等が必要な層
- i -
1.ユニバーサルツーリズムの概要 (報告書 P5~P21 参照)
拡大が見込まれるユニバーサルツーリズム市場
試みとしてユニバーサルツーリズム市場(65
歳以上のユニバーサルツーリズムの対象者と同
伴者の宿泊観光旅行の消費額)を推計した。
国内旅行市場(宿泊観光旅行)が人口減少の
図表 1 国内宿泊観光旅行市場および
ユニバーサルツーリズム市場の推計
(百億円)
市場の推計
1,000
816.7 844.8
894.0 883.8 866.3
860.6 875.7 884.5 888.6
842.3 814.1
782.7
800
影響により縮小傾向にある中、ユニバーサルツ
600
ーリズム市場は増加傾向にある。特に潜在需要
(旅行を諦めている 65 歳以上のユニバーサルツ
ーリズムの対象者)を含めた市場は、平成 22 年
400
200
の 3 兆 3 百億円から 10 年後の平成 32 年には 3
兆 93 百億円となり国内市場の 4 割以上を占める
172.3
256.9
302.6
435.7 447.4
392.6 417.5
139.8
107.5 119.2 126.8 132.3 135.9
94.3 114.5
64.4 78.0 91.9
28.6 34.8 42.4 52.3
0
S55
S60
H2
H7
H12
H17
H22
H27
H32
H37
H42
H47
潜在需要を含むユニバーサルツーリズム市場
ユニバーサルツーリズム市場
国内旅行市場
と推計される(図表 1)
。
ユニバーサルツーリズムは拡大が見込める市場である
212.2
354.1
資料:総務省統計局「人口推計」
、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人
口」
、厚生労働省「国民生活基礎調査」
、内閣府「高齢者の経済生活に関する意
識調査」
、公益社団法人日本観光振興協会「観光の実態と志向」を基に推計
2.中国地域におけるユニバーサルツーリズムへの取組みの現状と問題点 (報告書 P22~P82 参照)
(1)観光関連産業(アンケート調査結果概要)
回答数:中国 5 県に立地する観光施設 254 件、中国 5 県に本社を置く宿泊施設 98 件、旅客運送業 71 件、旅行業者 30 件
①ユニバーサルツーリズムの対象者の受入は増加
・ユニバーサルツーリズム対象の顧客は 5 年前と比べ、観光施設、宿泊施設の約 3 割、旅客運送の
約 4 割で増加しており、減少した事業所は僅かである。ただし、各業種ともにユニバーサルツー
リズムの対象者は顧客全体の 5%未満がほとんどである。
②ユニバーサルツーリズムをビジネスチャンスと捉えていない
・ユニバーサルツーリズムの対象者は今後増加すると認識しているものの、自社の利益向上につな
がると回答している先はいずれの業種も 2~3 割にとどまっている。
③バリアフリー情報の公開が進んでいない
・車いす使用者用のトイレの設置や入口といったハード整備の実施率は観光施設では 6~7 割、宿
泊施設では 4~5 割である。しかし、バリアフリー情報の公開の実施は、観光施設、宿泊施設と
もに 1 割程度にとどまっている。
④ハード整備、人材・ノウハウ不足が取組みの障壁
・今後必要な取組みとしては、バリアフリー化や車両の購入等、設備面・ハード面と従業員育成等
ソフト面の充実を求める意見が多い。
<
>
問
題
点
・ユニバーサルツーリズムを利益獲得の市場とみなしていない
・ハード整備をユニバーサルツーリズムに取組む上での障壁と認識している
・ユニバーサルツーリズムに関わる人材・ノウハウが不足していると認識している
・施設のバリアフリー情報の公開が進んでいない。
- ii -
(2)支援組織(ヒアリング調査結果概要)
ヒアリング先:NPO 法人トラベルフレンズ・とっとり(鳥取県鳥取市)
、NPO 法人プロジェクトゆうあい(島根県松江市)
、NPO
法人まちづくり推進機構おかやま(岡山県岡山市)
、バリアフリー公共交通調査会(山口県山口市)
・支援組織は、地域の受入体制の整備対応として、普及・啓発活動、バリアフリー情報の収集・発信
を行い、ユニバーサルツーリズムの対象者への直接的な支援対応として、旅行相談や旅行中の介助
人材のコーディネート等、多岐に渡る活動を行っている。
図表 2 支援組織の取組み内容
取組み内容 ( )内は実施している支援組織の所在地
普及・啓発
情報収集・発信
人材教育
民間企業や地域住民に対するユニバーサルデザインの普及・啓発活動(岡山)
公共交通のバリアフリー情報の収集・発信(島根、岡山、山口)
観光施設、宿泊施設のバリアフリー情報の収集・発信(鳥取、島根、岡山)
ユニバーサルツーリズム関連の接遇研修の開催(島根、岡山、広島)
モニターツアー モニターツアーの実施(鳥取、島根)
拠点整備
ユニバーサルデザイン推進の窓口の設置(岡山)
ユニバーサルツーリズムの相談窓口の設置(鳥取、島根、広島)
旅行に係る直接 旅行相談への対応(鳥取、島根、広島)
支援・サービス 介助人材のコーディネート(鳥取、島根)
<
>
問
題
点
・ユニバーサルツーリズムに関わる活動をしている組織が限られている
・ユニバーサルツーリズム関連事業の収入確保が難しい
・支援組織の人材が不足している
・情報収集範囲が委託先(出し手)により制限される
・バリアフリー情報の提供が不十分な地域がある
(3)観光施策(ヒアリング調査結果概要)
・中国 5 県の観光セクションにヒアリングを実施した結果をまとめると下表のようになる。
<
>
問
題
点
・観光関連施策においてユニバーサルツーリズムの優先順位が低い
・他セクションで行われてきた高齢者・障がい者対策の情報を観光に活用する
動きがみられない
3.ユニバーサルツーリズムに関する他地域事例調査 (報告書 P83~P88 参照)
他地域の事例より、中国地域でユニバーサルツーリズムを推進する上で参考とすべき知見は以下の
8 点である(訪問先は、愛知県、三重県、熊本県、佐賀県、沖縄県に所在する観光関連産業、支援組
織、行政等)
。
知見①ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在している
高齢者・障がい者の旅行市場が拡大することを見込み、ユニバーサルツーリズム市場
の獲得に向け地域の受入体制を整え推進している。
知見②顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせている
顧客(ユニバーサルツーリズムの対象者)のやりたいことができるよう、受入先となる地
域の宿泊施設等の情報収集および観光メニューを開発し、マッチングさせている。
- iii -
知見③ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
地域全体でユニバーサルツーリズムに取組むことが、ユニバーサルツーリズムの市場獲得
につながる。
知見④ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
ユニバーサルツーリズムの対象者をセグメント化し、市場の中のどの層を狙うか絞り込み
を行い、ターゲットへの PR、サービスの質の向上を図り顧客獲得につなげている。
知見⑤「できること」からユニバーサルツーリズムの取組みをはじめる
ユニバーサルツーリズムの取組みは、必ずしも大がかりにする必要はなく、
「できるこ
とから」始めることでも十分に集客増に結び付けることができる。
知見⑥ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の経験・見方を活用している
ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の当事者としての経験・見方を、ユ
ニバーサルツーリズムの取組みに活用している。
知見⑦継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
支援組織はユニバーサルツーリズム事業の継続性を確保するため、収益を望める新規事業
の開拓、行政との連携強化といった対応策の検討・実施を行っている。
知見⑧ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
地域の観光施設、宿泊施設等のバリアフリー情報や顧客(ユニバーサルツーリズムの対象
者)情報は、ユニバーサルツーリズムの取組み促進、効率化に役立つものであることから、
地域で積極的に共有していくことが大切である。
4.ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ (報告書 P89~P96 参照)
ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズは、旅行段階別に下表のように整理できる。
図表 3 ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
旅行を諦めてい
るユニバーサル
ツーリズムの
対象者
・諦めの原因を解消で
きる対応が欲しい
・ユニバーサルツーリ
ズムの情報が欲しい
旅行に出かける
ユニバーサルツ
ーリズムの
対象者
旅
行
前
・困った時の手助けが
欲しい
・観光地のバリアフリ
ー情報が欲しい
・体験できる観光
メニューが欲しい
旅
行
中
旅
行
後
旅行を目標に
ユニバーサル
ツーリズムの
リピーター
掲げ、健康維持
再度、旅行に出
や社会参加に
かけたくなる
前向きに取組
む
- iv -
5.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策の検討 (報告書 P97~P111 参照)
中国地域のユニバーサルツーリズムの取組みの問題点を基にユニバーサルツーリズムを推進する
上での課題を抽出した(図表 4)
。この課題とユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ、他地域事例
の知見を踏まえ、今後中国地域でユニバーサルツーリズムを推進するために取組むべき分野として、
「意識改革」
、
「潜在需要の顕在化」
、
「仕組みづくり」
、
「能力向上・人材確保」の 4 点を設定した。こ
の 4 分野に係る具体的な方策を検討・提案する(方策の詳細は次頁)
。
図表 4 取組むべき分野の検討過程
取組む意義 ・ユニバールツーリズムの市場の拡大が見込める
中国地域のユニバーサルツーリズムの取組みの問題点の把握
観光関連産業
支援組織
観光施策
・ユニバーサルツーリズムを利益獲得
の市場とみなしていない
・ハード整備をユニバーサルツーリズ
ムに取組む上での障壁と認識してい
る
・ユニバーサルツーリズムに関わる人
材・ノウハウが不足していると認識
している
・バリアフリー情報の公開が進んでい
ない
・ユニバーサルツーリズムに係る活動
をしている組織が限られている
・ユニバーサルツーリズム関連事業の
収入確保が難しい
・人材が不足している
・情報収集範囲が委託先(出し手)に
より制限される
・バリアフリー情報の収集・発信が不
十分な地域がある
・観光関連施策においてユニバーサ
ルツーリズムの優先順位が低い
・他セクションで行われてきた高齢
者・障がい者対策の情報を観光に
活用する動きがみられない
中国地域の課題
①観光関連産業に対しユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる
②地域のユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を進める
③支援組織の設立の促進および既存支援組織に対する支援を検討する
④観光関連産業がユニバーサルツーリズムの対象者の受入れを積極的に進めることができるよう、障壁を取り除く
⑤観光関連産業の人材育成とユニバーサルツーリズム事業に係る人材の確保を行う
⑥観光施策の中にユニバーサルツーリズム推進を取上げ、支援のあり方を検討する
ユニバーサルツーリズムの
対象者のニーズ
・旅行に行きたくても諦めている人への、諦
めの原因を解消できる対応が欲しい
・ユニバーサルツーリズム情報が欲しい
・困ったときの手助けが欲しい
・ユニバーサルツーリズムの対象者でも体験
できる観光メニューが欲しい
他地域事例の知見
①ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在している
②顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせている
③ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
④ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
⑤「できること」からユニバーサルツーリズムの取組みをはじめる
⑥ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の経験・見
方を活用している
⑦継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
⑧ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
潜在需要の顕在化
《取組むべき分野》
意
識
改
革
仕組みづくり
能力向上・人材確保
- v -
中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進方策
「意識改革」に係る方策
【方策①】地域一体となった推進機運の醸成
〈想定される実施主体〉行政(または商工会議所、観光協会等の経済、観光団体に委任)
・観光関連産業、地域住民にユニバーサルツーリズムを推進することの意義・必要性を周知
・ユニバーサルツーリズムの担当部局の設置および同部局とユニバーサルツーリズムに関連する他部局間
の連携
【方策②】観光関連事業者の取組み意欲の向上
〈想定される実施主体〉行政、観光関連団体(観光連盟、観光協会、ホテル・旅館組合等)
・観光関連事業者向けに、ユニバーサルツーリズムに先進的に取組み利益拡大に結び付けている他地域の
事業者等を講師とする事例紹介セミナーの実施
「潜在需要の顕在化」に係る方策
【方策③】利用者目線で調査したバリアフリー情報の公開
〈想定される実施主体〉行政(支援組織へ業務委託)
・観光施設、宿泊施設、交通機関等のバリアフリー情報や旅行業者の旅行商品情報等の調査・公開
【方策④】利用者の負担軽減のための利用者情報の共有
〈想定される実施主体〉観光関連産業、支援組織等
・利用者の了解を得た上で、利用者情報(身体状態等)をカルテ化し、発地側、受入地側双方で情報を共
有
【方策⑤】地域の旅行業者によるユニバーサルツーリズム市場の積極的な開拓
〈想定される実施主体〉地域旅行業者
・利用者の身体状況に合わせたきめ細やかな旅行商品の開発
「仕組みづくり」に係る方策
【方策⑥】継続的な取組みに向けた支援組織の充実
〈想定される実施主体〉行政
・観光施設、宿泊施設、旅行業者と支援組織間のネットワークづくりの橋渡し
・地域内の観光施設、宿泊施設等のバリアフリー状況調査・バリアフリー情報発信事業等の業務委託の実
施
【方策⑦】宿泊施設等に対するハード整備の推進
〈想定される実施主体〉行政、
(支援組織)
・小規模事業者でも取組みやすいよう、一部改修でも助成対象となるバリアフリー化改修事業の推進
「能力向上・人材確保」に係る方策
【方策⑧】観光関連産業従事者の能力向上・人材の育成
〈想定される実施主体〉行政、観光関連団体、支援組織
・観光関連産業従事者を対象とした能力向上・人材育成のための研修会の実施
【方策⑨】介助ノウハウ、スキルを持つ旅行サポーター等の人材確保
〈想定される実施主体〉支援組織
・車いす介助等を行う旅行サポーターの募集(家族介助経験者や介護福祉施設従事経験者を想定)
・入浴介助サポーターとして介護福祉施設従事(経験)者等を紹介する仕組みづくり
- vi -
目
【目次】
次
はじめに(調査の目的) .................................................................................... 1
1.ユニバーサルツーリズムの概要 .................................................................. 5
1.1.ユニバーサルツーリズムの対象者の動向 .................................................. 5
1.1.1.わが国における高齢化の進展 ......................................... 5
1.1.2.ユニバーサルツーリズムを必要とする高齢者の増加 ..................... 6
1.1.3.高齢者の経済状況 .................................................. 7
1.1.4.高齢者の旅行 ...................................................... 8
1.1.5.ユニバーサルツーリズムの市場推計 .................................. 11
1.1.6.ユニバーサルツーリズムの効用 ...................................... 15
1.2.国内におけるユニバーサルツーリズムの現状 ......................................... 16
1.2.1.国におけるユニバーサルツーリズムの推進 ............................ 16
1.2.2.国内におけるユニバーサルツーリズムの普及状況 ...................... 17
1.2.3.ユニバーサルツーリズムのプレーヤー(供給側)と関連業界の取組み .... 18
1.3.小括 ...................................................................................................... 21
1.3.1.高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムの必要性 .................. 21
1.3.2.国内におけるユニバーサルツーリズム推進の動き ...................... 21
2.中国地域におけるユニバーサルツーリズムへの取組みの現状と問題点 ... 22
2.1.観光関連産業の取組みの現状 ................................................................. 22
2.1.1.アンケート調査の目的と実施要領 .................................... 22
2.1.2.観光関連産業の景況とユニバーサルツーリズム対象の顧客の動向 ........ 23
2.1.3.ユニバーサルツーリズムの対象者の受入れの現状 ...................... 25
2.1.4.ユニバーサルツーリズムの対象者への対応 ............................ 27
2.1.5.ユニバーサルツーリズムに対する考え方 .............................. 32
2.1.6.今後の受入れ意向 ................................................. 34
2.1.7.自施設・自社で受入れを促進していくために必要な取組み .............. 37
2.1.8.自施設・自社で取組みを促進していくために必要な行政等の支援策 ...... 42
2.1.9.アンケート結果のまとめ............................................ 47
2.1.10.中国地域における取組み事例 ........................................ 48
2.2.支援組織、各県観光施策の取組みの現状 ................................................ 56
2.2.1.支援組織へのヒアリング調査 ........................................ 56
2.2.2.支援組織ヒアリング調査結果 ........................................ 57
2.2.3.支援組織の取組みの現状と問題点 .................................... 67
2.2.4.中国 5 県の観光施策におけるユニバーサルツーリズムの取組みの現状 .... 69
2.3.ユニバーサルツーリズムの取組み事例 ................................................... 71
2.3.1.一般社団法人バリアフリー旅行ネットワーク .......................... 71
2.3.2.倉敷美観地区の取組み.............................................. 74
2.3.3.まち歩きバリアフリー情報誌「てくてく日和」 ........................ 76
2.4.小括 ...................................................................................................... 80
2.4.1.中国地域の観光関連産業の現状と問題点 .............................. 80
2.4.2.支援組織と各県観光施策の現状と問題点 .............................. 80
2.4.3.ユニバーサルツーリズムを推進するために活用すべき資源(人材) ...... 81
3.ユニバーサルツーリズムに関する他地域事例調査 ................................... 83
3.1.実施概要................................................................................................ 83
3.1.1.ヒアリング調査の目的.............................................. 83
3.1.2.地域別
訪問先・日程.............................................. 83
3.2.他地域事例から得た知見 ........................................................................ 84
4.ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ .............................................. 89
4.1.アンケート調査からみるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ ....... 89
4.1.1.回答者の身体状態 ................................................. 90
4.1.2.観光地で観光する際に必要なこと .................................... 91
4.2.中国地域を訪れるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ ................. 92
4.2.1.中国地域を訪れるユニバーサルツーリズムの対象者の事例 .............. 92
4.2.2.事例から伺えるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ .............. 93
4.3.ユニバーサルツーリズム体験者の事例 ................................................... 95
4.4.小括 ...................................................................................................... 96
5.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策の検討 ...... 97
5.1.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進の課題 ........................... 97
5.1.1.課題①
ユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる ................ 97
5.1.2.課題②
ユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を進める ............ 98
5.1.3.課題③
支援組織の設立促進および既存組織への支援を検討する ........ 98
5.1.4.課題④
観光関連産業の障壁を取り除く .............................. 99
5.1.5.課題⑤
ユニバーサルツーリズムに係る人材を育成・確保する .......... 99
5.1.6.課題⑥
行政による支援のあり方を検討する ......................... 100
5.2.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策検討 ........ 101
5.2.1.「意識改革」に係る方策........................................... 101
5.2.2.「潜在需要の顕在化」に係る方策 ................................... 104
5.2.3.「仕組みづくり」に係る方策 ....................................... 108
5.2.4.「能力向上・人材確保」に係る方策 ................................. 110
おわりに ........................................................................................................... 112
〈 資料編 〉
他地域事例調査
1.東海地域 .................................................................................................... 115
株式会社チックトラベルセンター............................................... 115
愛知県産業労働部観光コンベンション課国内誘客グループ ......................... 117
伊勢志摩地域の取組み ........................................................ 118
2.九州地域 .................................................................................................... 125
旅のよろこび株式会社 ........................................................ 126
特定非営利活動法人 UD くまもと................................................ 127
佐賀県統括本部ユニバーサルデザイン推進グループ ............................... 129
嬉野市企画部市民協働推進課 .................................................. 130
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター........................................... 131
3.沖縄地域 .................................................................................................... 132
一般社団法人那覇市観光協会 .................................................. 132
一般社団法人 Kukuru .......................................................... 133
特定非営利活動法人バリアフリーネットワーク会議 ............................... 134
沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課........................................... 136
はじめに(調査の目的)
人口減少が進む中、総人口に占める高齢者人口の比率は増加傾向にあり、国内にお
ける高齢者市場の需要拡大が見込まれる。国内旅行においても、人口のボリュームゾ
ーンでかつ消費が活況であるといわれる団塊の世代が 65 歳以上の高齢者に達し始め
た現状下、高齢者の国内旅行市場における存在感も益々大きくなると考えられる。し
かし、高齢者の中には、加齢により身体・健康状態に不安があり旅行に行きたいとい
う意欲があっても諦めてしまう層がある。今後、さらに高齢化が進展する中、こうし
た身体・健康状態により旅行を諦めている層の需要喚起を含め、高齢者の旅行を成長
市場と位置付け、取組んでいく必要性は高まるとみられる。
国においては、高齢者や障がい者のように身体等に制約があっても気兼ねなく参加
できる旅行=「ユニバーサルツーリズム」の促進事業が進められている。また、観光
地の中にも、ユニバーサルツーリズムをビジネスチャンスと捉え、高齢者や障がい者
の旅行の相談窓口を担う支援組織が設立されたり、地域の観光施設等のバリアフリー
情報を公開する等、ユニバーサルツーリズムを推進する動きがみられる。
中国地域においては、ユニバーサルツーリズムに対する観光関連産業の取組み意
欲には温度差がみられ、取組み段階も一様ではない。このため、ユニバーサルツー
リズムに取組むプレーヤーの裾野を広げ、地域で総合的にユニバーサルツーリズム
関連のサービス(観光施設、宿泊施設、交通手段、旅行サポーター等)を提供でき
る環境を構築していく必要があると考えられる。
本調査は、中国地域の取組みの問題点を整理し、推進に向けた課題を抽出するとと
もに、ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズを把握した上で、中国地域でユニバ
ーサルツーリズムを推進していくために必要な方策を検討し、提言することを目的と
する。
《本調査のポイント》
今後拡大が見込める高齢者への対応を重点に、ユニバーサルツーリズムに関わる各種
プレーヤー(観光関連産業、ユニバーサルツーリズムの支援組織、行政等)の取組みを
活発化させ、ユニバーサルツーリズムを推進するための方策について検討する。
- 1 -
《本報告書の構成と調査フロー》
1.ユニバーサルツーリズムの概要
統計データよりユニバーサルツーリズムの対象者の動向を整理する。また、国内における
ユニバーサルツーリズムの取組み状況を概観する
2.中国地域におけるユニバーサルツーリズムの取組みの現状と問題点
アンケート調査、ヒアリング調査等より、中国地域の観光関連産業、支援組織、観光施策
の問題点を把握する
3.ユニバーサルツーリズムに関する他地域事例調査
他地域でユニバーサルツーリズムに取組んでいる先を訪問し、ユニ
バーサルツーリズムに取組む上で参考とすべき点を把握する
4.ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ把握
既存のアンケート調査や中国地域の支援組織へのヒアリング調査、
他地域事例調査よりユニバーサルツーリズムの対象者のニーズを整
理する
5.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策の検討
中国地域においてユニバーサルツーリズムを推進する上での課題を抽出した上で、これま
での調査結果を踏まえ、中国地域においてユニバーサルツーリズムを推進するための具体
的な方策を検討・提案する
- 2 -
《本調査におけるユニバーサルツーリズムの位置づけ》
観光庁では、高齢者や障がい者等が気兼ねなく旅行に参加できることを目指し「ユ
ニバーサルツーリズム」という用語を用いて促進事業を行っている。本調査において
も観光庁が示すユニバーサルツーリズムの意味を踏襲し、ユニバーサルツーリズムと
いう用語を使用する。
図表 1 ユニバーサルツーリズムとは
ユニバーサルツーリズムとは、すべての人が楽しめるよう創られた旅行であり、高齢
や障がい等の有無にかかわらず、誰もが気兼ねなく参加できる旅行
資料:観光庁 HP
図表 2 観光庁「ユニバーサルツーリズム促進に向けた地域活動実態調査」におけるユニバーサルツーリ
ズムの位置づけ
障がい者・高齢者等、移動や宿泊等において支援を必要とする観光困難者に対して、
必要とする支援を組織的かつ包括的に行うことにより、今まで踏み出せなかった観光に
出かけていただく、もしくは旅先で困難を伴っていた人々の困難を取り除くことによっ
て、観光を楽しんでいただく仕組み
資料:観光庁「ユニバーサルツーリズム促進に向けた地域活動実態調査」平成 25 年 3 月
《本調査におけるユニバーサルツーリズムの対象者》
観光庁が示しているユニバーサルツーリズムの対象者は、図表 3 のように高齢者、
障がい者、妊婦、子ども、外国人等、多岐に渡っているが、それぞれにより制約とな
る事象が異なるため、方策を一様に検討することは難しい。そこで、本調査において
は、今後増加することが予想される高齢者やその高齢者が大半を占める一時観光困難
者、中軽度の観光困難者への対応を中心に考察を進める。
図表 3 本調査におけるユニバーサルツーリズムの対象者
「①高齢者」
、
「②一時観光困難者」
、「③中軽度の観光困難者」
②一時観光困難者
④その他*1
①高齢者
重度の観光困難者、妊婦、子供、外国人等)
者
③中軽度の
観光困難者
重度の観光困難者*2
- 3 -
①高齢者
すべての高齢者を観光困難者と位置付けることは必ずしも適切ではないが、高齢になるに
伴い、身体機能の低下等も予想されるため、行程に余裕を持った旅行等、あらたな旅行提案
を求められることも考えられる。一般的に、高齢になるほど、観光困難者になる可能性が高
まること等も踏まえ、広義で捉えた場合の対象として示している。
②一時観光困難者
日常生活では配慮を必要としないものの、観光に出かける等、日常とは異なる観光におい
ては、移動、宿泊等に対する配慮を必要とする層を想定している。例えば、日常生活では車
いすを必要としないものの、観光等で歩行距離が長くなる、もしくは同伴者と歩調を合わせ
るために、車いすを使用する場合等がある。
③中軽度の観光困難者
観光に出かける際に、重度の観光困難者ほどではないが、移動、宿泊等に対する介助や支
援が必要な層と位置付け、介護保険における要介護 1~2や要支援、身体障害者手帳 3 級以下
の方、療育手帳の交付を受けた方を想定できる。
*1「
*2
④その他」は上記①~③以外の重度の観光困難者や、妊婦、子供、外国人等を指す。
重度の観光困難者は、観光に出かける際に、移動、宿泊等に対する福祉・医療的な介助や支援が必要不可欠な層。介
護保険における要介護 3~5、身体障害者手帳 1~2 級の方、療育手帳の交付を受けた方等を想定できる。
資料:観光庁「ユニバーサルツーリズム促進に向けた地域活動実態調査」平成 25 年 3 月を参考に作成
《本調査における「ユニバーサルツーリズム」の表記について》
「ユニバーサルツーリズム」の他に、
「バリアフリーツーリズム」
、
「バリアフリー旅
行」、
「バリアフリー観光」等様々な表記がみられるが、
「ユニバーサルツーリズム」と
ほぼ同義で使用されており、本調査では「ユニバーサルツーリズム」を統一表記とし
て用いる。
なお、なお固有名称で使用されている「バリアフリー」や「バリアフリー観光」等
の表記はこのまま使用する。
- 4 -
1.ユニバーサルツーリズムの概要
本章では、高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムの市場性について、統計デ
ータを基に分析する。また、国内におけるユニバーサルツーリズムの取組み状況を把
握するため、観光関連産業、ユニバーサルツーリズムの支援組織、行政の取組み状況
について、文献資料等から整理する。
1.1.ユニバーサルツーリズムの対象者の動向
1.1.1.わが国における高齢化の進展
わが国は人口減少を迎えているが、65 歳以上の高齢者人口は増加傾向にある。団
塊の世代は平成 24 年~26 年の間に順次 65 歳に達し、平成 27 年の高齢者人口(65 才
以上)は 34.0 百万人(
「65~74 歳:17.5 百万人」と「75 歳以上:16.5 百万人」の計)
にのぼると推計され、高齢化率は 26.8%となる。
さらに、平成 32 年より高齢者人口は「75 才以上」人口が「65~74 歳」人口を逆転
し増加すると推計され、平成 34 年~36 年の間に団塊の世代が順次 75 才に到達し、
平成 37 年の高齢人口は、36.6 百万人(「65~74 歳:14.8 百万人」と「75 歳以上:21.8
百万人」の計)に達し、高齢化率は 30.3%まで上昇する。
図表 1.1 わが国の年代別人口推移ならびに推計
(百万人)
実績値
(%)
推計値
40.0
36.1
150.0
33.4
125.0
75.0
31.6
116.6 112.1
24.1 22.9 21.8
107.3
28.6 26.0
103.7
20.1 18.5 17.0
32.5
98.3
15.6
35.0
29.1
14.7
35.8
35.2
26.8
33.9
23.0
36.0
20.2
111.9
100.0
117.0
125.4 126.7 127.3 128.1 126.6 124.1 30.3
121.0 123.3
120.7
17.4
12.1
25.0
0.0
9.1
10.3
78.7
30.0
0~19歳
25.0
20.0
20~64歳
65~74歳
75歳以上
15.0
14.6
50.0
35.0
77.5
75.6
59.1 53.9
70.9 67.8 65.6 62.8
高齢化率(65歳
以上人口割合)
10.0
14.8 14.1 15.0 16.4
17.5 17.3
78.6
7.9
75.9
5.0
7.1
14.1 15.3
6.3 62.5 67.9 70.6 73.5
56.1
11.1 13.0
22.8
22.5
22.2
21.8
8.9
7.8
16.5 18.8
5.1 6.0 7.0
9.0 11.6 14.2
4.3
1.9 2.2 2.8 3.7 4.7 6.0 7.2
0.0
S40 S45 S50 S55 S60 H2 H7 H12 H17 H22 H27 H32 H37 H42 H47 H52 (年)
資料:総務省「国勢調査」
、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集(2014)
」、
「日本の将来推計人口(平
成 24 年 1 月推計)」
- 5 -
1.1.2.ユニバーサルツーリズムを必要とする高齢者の増加
厚生労働省「国民生活基礎調査」より、健康上の問題で日常生活に影響のある*1 人
の割合*2 を年齢階級別にみると、加齢が進むにつれて、日常生活に影響のある人の率
は増加する傾向にあり、
「75~79 歳」の約 3 割は影響がある。また、図表 1.3 の通り、
健康寿命*3 は増加傾向にあるものの、平成 22 年時点で男性の健康寿命は 70.4 歳、女
性の健康寿命は 73.6 歳で、平均寿命*4 に比べ 10 年程度の差異があることから、日常
生活に制限のある「不健康な期間」があることが確認できる。
このように、加齢により健康状態は変化する一方、図表 1.1 の通り、高齢者の中で
も 75 歳以上の数・割合が増加していくことから、移動に制約のある、すなわち、ユ
ニバーサルツーリズムの対象者になる高齢者が増加することが見込まれる。
図表 1.2 健康上の問題で日常生活に影響のある人の割合
(%)
60.0
47.8
50.0
36.9
40.0
27.1
30.0
20.2
20.0
15.2
10.0
0.0
65~69
70~74
75~79
80~84
85歳以上
資料:厚生労働省「国民生活基礎調査」平成 25 年
*1
日常生活に影響のある事柄として、日常生活動作、外出、仕事・家事・学業、運動、その他が挙げられている。
*2
日常生活への影響がある人には入院者は含まないが、分母となる世帯人員数には、入院者を含む。
図表 1.3 平均寿命と健康寿命の推移
【男性】
(歳)
95
(歳)
90
90
85
80
【女性】
95
78.1
78.6
79.2
84.9
85.6
86.0
86.4
72.7
72.7
73.4
73.6
H13
H16
H19
H22 (年)
85
79.6
80
75
69.4
69.5
70.3
75
70.4
70
70
65
H13
H16
健康寿命(年)
H19
65
H22 (年)
平均寿命(年)
健康寿命(年)
資料:厚生労働省調べ
*3
健康寿命とは、日常生活に制限のない期間を指す
*4
平均寿命とは、0 才の平均余命
- 6 -
平均寿命(年)
1.1.3.高齢者の経済状況
高齢者の普段の生活の中での経済的なゆとりについてみると、経済的なゆとりが
「ある」と回答した人の割合は、60~69 歳が 25.1%、70 歳以上が 34.5%であった。
特に 70 歳以上は他の年代に比べて「ある」と回答した割合が高くなっている。他の
世代と比べて高齢者は経済的なゆとりがあり、旅行に行く余裕もあると考えられる。
図表 1.4 年代別
0%
20%
経済的なゆとり
40%
60%
80%
100%
(歳)
20~29
30~39
40~49
25.9
16.4
38.2
35.8
49.5
14.2
34.1
47.1
38.7
あ る
どちらともいえない
50~59
19.3
43.3
37.4
な い
60~69
70~
25.1
34.5
41.5
33.5
37.1
資料:内閣府「少子化対策と家族・地域の絆に関する意識調査」平成 19 年
- 7 -
28.4
1.1.4.高齢者の旅行
a.高齢者の旅行に対する意欲
内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」によると、
「60 歳以上」が今後優先
的にお金を使いたいもの*1 は、
「健康維持や医療介護のための支出」が 42.8%で最も
多く、次に「旅行」が 38.2%と続いている。
「旅行」は他の項目と比べて優先順位が
高いことが分かる。
一方、
「要介護認定者*2」の「旅行」は 12.4%*3 と「認定を申請していない」人の
40.5%と比べ大きな差があることから、身体の状況が悪化すると、旅行意欲が下がる、
または旅行を諦めざるを得ないと判断する人が多いと考えられる。
図表 1.5 高齢者の旅行に対する意欲
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0 (%)
42.8
41.6
健康維持や医療介護のための支出
55.2
38.2
40.5
旅行
12.4
33.4
34.2
子どもや孫のための支出
19.7
27.3
住宅の新築・増改築・修繕
30.6
9.5
16.6
15.9
17.9
冠婚葬祭費
13.0
12.7
10.9
友人等との交際費
60歳以上
認定を申請していない
要介護認定者
資料:内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」平成 23 年度
*1
本設問の選択肢は 13 あり、3 つまで選択する。本図表では「60 歳以上」の回答割合上位 6 項目を掲載した
*2
「要介護認定者」
、「介護認定を申請していない」は 55 歳以上を対象としている
*3
「要介護認定者」は、要支援 1~2 および要介護 1~5 の回答者の割合を各回答総数で割戻し合算して算出した
- 8 -
b.高齢者の宿泊観光旅行の実態
公益社団法人日本観光振興協会「観光の実態と志向」より、高齢者の旅行の実態を
把握する。
まず高齢者の 1 年間の宿泊観光旅行の宿泊旅行の参加率は「60~69 歳」が 56.5%、
「70 歳以上」は 60.3%となっている。また、宿泊観光旅行の回数は、「60~69 歳」
は 2.99 回、
「70 歳以上」は 2.90 回と、総数(平均)2.61 回を上回っており、他の年
代と比べて旅行回数が多いことが分かる。
同行人数(本人を含む)は、
「60~69 歳」が 3.70 人、「70 歳以上」が 4.89 人とな
っている。
宿泊観光 1 回の 1 人当たりの総費用(宿泊費、交通費、土産代、行動費の計)は、
「60~69 歳」が約 53,000 円、
「70 歳以上」が約 50,000 円で、ともに総数(平均)の
約 49,000 円を上回っている。特に「60~69 歳」の総費用は最も大きい。
このように、高齢者は他の年齢階級と比べ宿泊観光旅行の回数が多く、同伴者(同
行人数)
、総費用も高いことから、国内旅行市場をけん引しているといえる。
図表 1.6 高齢者の宿泊観光旅行の実態
<参加率(%)>
<宿泊観光旅行の回数(%、回)>
宿泊観光旅行
をした割合
(%)
総数
15~17歳
18~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
54.9
44.2
41.5
55.0
55.8
54.9
59.8
51.9
50.8
56.5
60.3
総数
15~17歳
18~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
1回
2回
3回
43.9
58.1
65.0
49.1
47.7
53.4
49.8
50.2
46.3
34.0
34.3
22.8
21.0
18.6
19.1
21.3
23.5
23.4
20.6
22.9
24.8
24.1
13.8
8.4
7.1
13.4
12.8
12.3
11.9
11.9
11.3
16.4
17.9
4回
5回
6回以上
6.5
5.4
1.4
5.3
6.2
4.4
5.7
5.9
6.5
8.2
7.6
4.4
1.8
1.4
5.7
3.7
1.5
2.1
3.8
5.1
5.4
6.1
不明
平 均
(人)
<同行人数(%、人)(本人を含む)>
1人
総数
15~17歳
18~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
12.5
11.8
14.9
17.5
14.7
17.1
11.6
12.3
14.6
11.2
10.3
2~3人
4~5人
6~10人
56.8
28.0
43.5
49.0
63.9
53.4
52.8
54.4
61.8
62.8
55.3
17.2
36.0
22.9
16.8
14.9
19.1
25.5
23.3
13.2
12.1
15.5
8.1
13.9
9.5
8.2
4.5
7.3
7.2
5.8
5.8
9.1
10.8
- 9 -
11人以上
4.9
8.0
5.3
7.4
1.7
2.9
2.9
3.8
4.4
4.3
7.9
0.4
2.4
3.8
1.1
0.3
0.2
0.1
0.5
0.3
0.4
0.2
4.03
7.83
5.49
4.98
3.00
3.30
3.56
3.73
3.44
3.70
4.89
8.5
5.4
6.4
7.4
8.3
4.9
7.1
7.5
7.9
11.3
10.1
平均
(回)
2.61
2.05
1.99
2.45
2.45
2.20
2.26
2.47
2.61
2.99
2.90
<総費用(年齢別)
(%、円)>
総数
15~17歳
18~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
1万円
未満
2万円
未満
3万円
未満
4万円
未満
5万円
未満
7万円
未満
10万円
未満
10万円
以上
5.4
13.6
11.5
12.7
9.1
8.8
8.2
4.2
3.5
3.5
3.6
16.1
18.6
14.5
19.9
19.8
17.1
17.7
18.5
12.8
13.6
16.1
19.1
13.9
20.6
24.0
16.0
15.5
18.0
17.9
19.7
19.3
20.8
15.4
24.2
16.0
14.3
15.0
14.6
14.7
13.4
16.1
16.4
15.4
8.2
5.3
7.3
7.0
8.7
8.9
6.6
8.0
8.9
8.8
8.4
16.0
10.6
15.3
13.8
17.1
15.8
14.2
16.0
17.4
16.0
16.6
7.9
4.7
6.1
3.9
6.3
8.5
8.8
9.0
8.6
8.5
7.6
11.8
9.1
8.8
4.4
7.9
10.8
11.9
12.9
13.0
13.8
11.6
資料:公益社団法人日本観光振興協会「平成 25 年度版
平 均
(円)
48,728.6
39,062.3
38,609.8
32,304.3
39,153.5
44,787.8
47,693.9
51,724.6
52,476.2
52,995.1
49,625.6
観光の実態と志向」
c.宿泊観光旅行をしなかった理由
一方で、宿泊観光旅行をしなかった理由を年齢別にみると、70 歳以上では「健康
上での理由」が 29.2%で最も多かった。つまり、旅行の意欲が高くても、健康上の
理由から旅行に行けない潜在需要があることが分かる。
図表 1.7 宿泊観光旅行をしなかった理由(年齢別)
(%)
出張等で
観光レク
もした
総数
15~17歳
18~19歳
20~24歳
25~29歳
30~34歳
35~39歳
40~49歳
50~59歳
60~69歳
70歳以上
8.1
4.7
6.1
6.0
7.3
9.3
8.9
6.4
9.8
7.9
9.9
経済的余
裕がない
41.7
44.5
55.8
54.7
51.4
50.1
49.6
50.3
42.0
31.8
23.8
時間的余
裕がない
37.6
52.1
56.3
49.6
42.8
42.4
44.0
45.6
44.2
26.7
16.3
家を離れ
られない
事情があ
った
16.0
5.2
5.6
6.0
6.0
11.6
9.6
14.0
21.1
25.0
20.4
健康上の
理由で
計画を立
てるのが
面倒
10.1
0.5
3.0
2.6
4.2
8.1
5.9
4.6
5.7
11.9
29.2
一緒に行
く人がい
ない
4.7
10.4
8.6
10.8
6.5
6.9
6.4
4.1
3.1
3.7
1.7
資料:公益社団法人日本観光振興協会「平成 25 年度版
9.0
10.0
10.2
14.2
12.5
10.7
7.8
8.0
9.3
9.0
6.2
行きたい
所がない
6.9
14.2
8.1
8.6
8.4
10.4
4.7
6.1
6.4
6.7
5.0
観光の実態と志向」
- 10 -
他にやり
たいこと
がある
6.2
7.1
10.2
6.9
7.8
7.2
5.2
5.2
5.3
5.7
6.9
何となく
旅行しな
いまま過
ぎた
18.6
21.8
17.3
20.3
17.5
15.5
15.3
16.4
17.8
21.3
21.6
海外旅行
をしたい
4.0
1.9
2.0
5.6
2.6
4.5
3.5
4.4
4.0
6.2
2.6
旅行は嫌
い
3.6
7.1
4.1
4.3
7.3
4.2
3.5
4.5
1.9
2.8
2.0
その他
3.5
2.8
1.5
1.3
3.1
4.2
3.1
2.9
3.3
3.6
5.5
1.1.5.ユニバーサルツーリズムの市場推計
ユニバーサルツーリズム市場の規模感を掴むための試みとして、観光消費額を推計
する。旅行回数や1人あたりの観光消費額等、観光に関連するデータは、9~10 頁で
も参照した公益社団法人日本観光振興協会「観光の実態と志向」1の数値を使用する。
推計の対象は、65 歳以上のユニバーサルツーリズムの対象者と同伴者と設定した。
既存統計データの制約上、宿泊観光旅行に限定した消費額を算出している。算出の詳
細は次頁を参照されたい。
《本調査で推計したユニバーサルツーリズム市場》
・ユニバーサルツーリズム市場(消費額)
⇒65 歳以上のユニバーサルツーリズムの対象者と同伴者の宿泊観光旅行
・潜在需要を含むユニバーサルツーリズム市場(消費額)
⇒65 歳以上の潜在需要(旅行を諦めている人)を含めたユニバーサルツーリズムの対象
者と同伴者の宿泊観光旅行
a.ユニバーサルツーリズム市場の規模
まず、本調査の推計方法で算出した国内旅行市場(宿泊観光旅行)をみると、人口
減少の影響により、平成 22 年の 8 兆 94 百億円をピークに減少に転じ、10 年後の平
成 32 年には 8 兆 66 百億円になる。2
これに対し、ユニバーサルツーリズム市場は高齢化の進展により、平成 22 年から
平成 32 年の間に約 1.2 倍増加すると推計される。具体的な市場規模をみると、平成
22 年の 92 百億円から平成 32 年には 1 兆 19 百億円になると推計され、潜在需要を含
めると、平成 22 年の 3 兆 3 百億円から平成 32 年には 3 兆 93 百億円となり、国内旅
行市場の 4 割以上を占めると推計される。
1
2
観光庁においても、アンケート調査等を実施し「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」で旅行者数、観光消
費額等を公表しているが、合計値のみで、1 人あたりの数値は掲載されていない。そこで、年齢区分別に 1 人あたり
の観光実態が詳細に掲載されている「観光の実態と志向」の数値を使用することとした。
観光庁「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究(2010 年版)」では、平成 22 年の国内における観光消費を 23.8
兆円としており、このうち、本調査と同じ国内の宿泊観光旅行消費額は 9 兆 28 百億円と推計している。
- 11 -
図表 1.8 国内旅行市場およびユニバーサルツーリズム市場の推計
(百億円)
1000
816.7
844.8
860.6
875.7
884.5
888.6
894.0
883.8
866.3
842.3
814.1
800
782.7
600
392.6
400
417.5
435.7
447.4
354.1
302.6
256.9
212.2
200
94.3
114.5
139.8
172.3
34.8
42.4
64.4
28.6
52.3
78.0
S55
(1980)
S60
(1985)
H2
(1990)
H7
(1995)
H12
(2000)
H17
(2005)
91.9
H22
(2010)
107.5
126.8
119.2
132.3
135.9
0
潜在需要を含むユニバーサルツーリズム市場
H27
(2015)
H32
(2020)
H37
(2025)
ユニバーサルツーリズム市場
H42
(2030)
H47
(2035)
国内旅行市場
資料:総務省統計局「人口推計」
、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、厚生労働省「国民生活基礎
調査」、内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」、公益社団法人日本観光振興協会「観光の実態と志向」を
基に株式会社山陰経済経営研究所で推計
b.推計の前提
ユニバーサルツーリズムの市場規模を考える際、一義的にはユニバーサルツーリズ
ムの対象者による旅行消費額を市場として捉えることができる。しかし、高齢者は他
の世代に比べて同伴者数が多く、また第 4 章の他地域事例で明らかになるが、高齢者
を交えた家族旅行や障がい児が在籍する修学旅行では、高齢者や障がい者が抱える制
約条件をクリアできることが旅行実施の条件となる。したがって、高齢者や障がい者
に対応できないと、本人だけではなく同伴者を含めたグループ全体を逃してしまう。
このため、ユニバーサルツーリズムの市場を考える場合、単に対象者のみの市場では
なく、同伴者の消費額を含めたグループ全体の市場としてみることが重要であると考
える。このため本調査では、ユニバーサルツーリズム市場として 65 歳以上のユニバ
ーサルツーリズムの対象者と同伴者を含めた市場(消費額)を算出した。
なお、ユニバーサルツーリズムの旅行者 1 人に付く同伴者は全てユニバーサルツー
- 12 -
リズムの対象に該当しないと仮定している。
また、7 頁図表 1.4 のように、身体の状態が悪化すると旅行意欲が下がる、または
旅行を諦めざるを得ない人が相当数あると考えられるが、ユニバーサルツーリズムの
取組みが進むことで、旅行を諦めている人も健康な高齢者と同じように旅行に行ける
環境が整備されることが期待される。そこで、この旅行を諦めている人の需要(=「潜
在需要」
)を含んだ消費額もあわせて推計した。
c.算出方法
(a.)ユニバーサルツーリズム市場
ユニバーサルツーリズム市場(宿泊観光旅行消費額)は、
(1.1 式)の通り算出した。
(1.1 式)
ユニバーサルツーリズム市場(宿泊観光旅行消費額)
=65 歳以上のユニバーサルツーリズムの対象者本人の旅行消費額(1.2 式)+同伴者の旅
行消費額(1.3 式)
ユニバーサルツーリズムの対象者本人の宿泊旅行消費額の算出方法は下式の通り
である。
(1.2 式)
ユニバーサルツーリズムの対象者本人の旅行消費額(宿泊観光旅行)
=ユニバーサルツーリズムの対象者数*×参加率×宿泊旅行回数×1 回あたりの旅行費用
*
ユニバーサルツーリズムの対象者数
=65 歳以上人口×健康上の問題で日常生活に影響のある人の割合×旅行を諦めていない割合
まず、5 頁図表 1.1 の「国勢調査」
、
「日本の将来推計人口」にある 5 歳区切りの人
口および 6 頁図表 1.2 の「国民生活基礎調査」を用い、「65 歳以上人口×健康上の問
題で日常生活に影響のある人の割合」で 65 歳以上の移動等に制約のある人数を算出
した。これに旅行を諦めていない割合を乗じて、65 歳以上のユニバーサルツーリズ
ムの対象者数を推計した。
旅行を諦めていない割合については、身体に制約がある人と制約のない人の間には、
旅行に対する「意欲」の違いがあり、身体状況が悪化すると旅行に対する「意欲」が
落ち込むことから、身体に制約のない人の「意欲」に対する身体に制約のある人の「意
欲」の比率が、この値になると考えた。そこで、8 頁図表 1.5 の「旅行」に優先的に
お金を使いたい割合を、この「意欲」を表す代替値として用いることとし、旅行に優
先的にお金を使いたいとする要介護認定者の割合 12.4%を介護認定を申請していな
い層の割合 40.5%で除した「30.6%」が旅行を諦めていない割合であると仮定した。
このユニバーサルツーリズムの対象者数に、9 頁図表 1.6 にある参加率、宿泊旅行
- 13 -
回数、1 回あたりの旅行費用を乗じ、(1.2 式)の通り、ユニバーサルツーリズムの
対象者本人の旅行消費額を算出した。
また、同伴者の旅行消費額の算出方法は下式の通りである。
(1.3 式)
同伴者の旅行消費額(宿泊観光旅行)
=ユニバーサルツーリズムの対象者の旅行回数*×同伴者数×1 回あたりの旅行費用
*
ユニバーサルツーリズムの対象者の旅行回数
=ユニバーサルツーリズムの対象者数×参加率×宿泊旅行回数
ユニバーサルツーリズムの対象者の旅行回数は、上記(1.2 式)の「ユニバーサル
ツーリズムの対象者数×参加率×宿泊旅行回数」で算出される値である。これに図表
1.6 にある同伴者数(ただし、本人を除いた値)および 1 回あたりの宿泊観光旅行費
用を乗じ、同伴者の宿泊観光旅行費用を算出する。
こうして(1.2 式)
、
(1.3 式)で算出されたそれぞれの旅行消費額を(1.1 式)の
通り合算し、65 歳以上のユニバーサルツーリズムの市場(宿泊観光旅行消費額)を
算出した。
(b.)潜在需要を含んだユニバーサルツーリズム市場(宿泊観光旅行旅行消費額)
潜在需要を含んだ市場規模は、上記(1.2 式)、(1.3 式)にある「旅行を諦めてい
ない割合」の項を取り除いた式で算出した。
(c.)国内旅行全体の市場(旅行消費額)
比較の対象として、国内旅行全体の市場も推計した。推計式は下の(1.4 式)の通
りで、4 頁図表 1.1 および 7 頁図表 1.5 にある数値を用いて算出した。
(1.4 式)
国内旅行の旅行消費額
=国内人口×参加率×宿泊旅行回数×1 回あたりの旅行費用
- 14 -
1.1.6.ユニバーサルツーリズムの効用
観光庁は、平成 25 年度に実施したユニバーサルツーリズムの対象者を対象とした
モニターツアーの結果を基に、旅行によって発現することが期待される効用を下表の
ように整理している。
観光庁によると、旅行による効用は「旅行中に短期的に発現する効果と、旅行後の
中長期的に発現する効果に分類され、旅行者の「心」
「行動」
「身体」の 3 つの変化を
促すと考えられる」とされている。
旅行先での満足感、幸福感が、次回の旅行への期待につながり、外出頻度の増加、
リハビリ回数の増加等、「行動」の変化を促す。さらに、長期的な変化として身体機
能の維持、回復、健康増進等、
「身体」の変化に繋がること等も指摘されている。
図表 1.9 ユニバーサルツーリズムの対象者の旅行の効用
一時・短期的効用
(旅行前・旅行中・旅行直後)
心の
変化
行動
の
変化
身体
の
変化
中・長期的効用(旅行後一定期間経過)
【旅行前】
○旅行への期待
→旅行の主な目的は、「1位:趣味・楽しみ」、「2
位:息抜き」、「3位:初めて訪れる場所の文化
や地元の人々との触れ合い」
(※旅行経験者アンケート結果)
【旅行中】
○旅行先での満足感、幸福感
→観光地や初めて訪れる場所への訪問、訪問先
での体験、サポーターや同行者との出会いに
満足感を感じている
(※モニターツアーアンケート結果)
○日常生活への意欲
→旅行経験者の約 70%が体調管理への意識・意欲が増加したと回答
→人生を楽しむ気持ちが増し、健康を目指す意欲がわいた
(※旅行経験者・自由意見)
○外出への自信
→旅行経験者の約 72%が移動や外出への自信が増加したと回答(特に、初めての
旅行後は約 81%が増加したと回答)
○次回旅行への期待
→モニターツアー参加者10名中7名が「また旅行に行きたい」と回答
○心の豊かさ・楽しみ
→人見知りが減少し、自分に自信が持てるようになった
→人生を楽しむという気持ちの面が向上した、もっと元気になりたい
(※旅行経験者・自由意見)
【旅行前】
○外出頻度・旅行回数の増加
○リハビリ回数の調整、体調管理
→初めての旅行後に外出機会が増えたと約 50%の旅行経験者が回答
→事前の体調管理や準備を「約 1 カ月前」から始 ○リハビリの回数の増加
める方が最も多い
→旅行を目的として継続的にリハビリに取組む方が多い(※横浜市リハビリテーシ
(※旅行経験者アンケート結果)
ョン事業団へのヒアリング結果)
→旅行前の準備として睡眠時間の調整や食事の ○社会参加・集団行動への参加
管理を実施する方が多い
→旅行を通じて仲間ができ、電話やメールで連絡をかわしている
(※モニターツアーアンケート結果)
(※旅行経験者・自由意見)
【旅行中】
→同じ障がいのある方と触れ合い、悩みや困りごとを相談できた
○外出機会の創出
(※旅行経験者・自由意見)
○旅行先での歩行
○通院回数の減少
→旅行先だと自然と身体が動き、いつもより長い
→旅行経験者の約 5%が旅行を経験することで通院回数が減少したと回答
距離を歩いている
(※モニターツアー参加者へのヒアリング結果)
○ストレス状態の緩和、身体機能の活性化
○身体機能の維持、回復
→景色を見たり、人と触れ合うことが良い刺激と
→旅行経験者の約 37%が身体機能の変化(向上)を実感
なり、気持ちが明るくなる
→自宅以外のトイレが利用できるようになった
(※モニターツアーアンケート結果)
(※旅行経験者・自由意見)
→唾液アミラーゼ活性の測定値が低下(モニター ○歩行レベルの維持、回復(高齢者、肢体不自由)
ツアー参加者6名全員が入浴後に数値が低下)
→歩行距離が延びた、杖を使用して歩ける距離が延びた
→POMS による気分プロフィール結果より「活気」
(※旅行経験者・自由意見)
の数値が上昇(積極性や前向きな気持ちが上 ○介護レベルの低下(介護予防効果)
昇)
→要介護のレベルが要介護 5 から、要介護 2 になった
(※旅行経験 者・自由意見)
○コミュニケーション能力の向上
→旅行後2~3日は言葉がスムーズに出て、言語障害が良くなったように感じる
(※旅行経験者・自由意見)
○健康増進
→旅行経験者の約 81%が、旅行による健康増進効果が期待できると回答
資料:観光庁「ユニバーサルツーリズムの普及・促進に関する調査」平成 26 年 3 月
- 15 -
1.2.国内におけるユニバーサルツーリズムの現状
1.2.1.国におけるユニバーサルツーリズムの推進
a.観光立国推進基本法での位置づけ
平成 19 年より施行されている「観光立国推進基本法」には、観光は国の重点的な
柱と位置付けられており、高齢者や障がい者等への対応についても、政府が総合的か
つ計画的に講ずべき施策の一つとして挙げられている。
図表 1.10 ユニバーサルツーリズムの対象者への対応:政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
(観光旅行者の利便の増進)
第二十一条
国は、観光旅行者の利便の増進を図るため、高齢者、障害者、外国人その他特
に配慮を要する観光旅行者が円滑に利用できる旅行関連施設及び公共施設の整
備及びこれらの利便性の向上、情報通信技術を活用した観光に関する情報の提
供等に必要な施策を講ずるものとする。
資料:観光庁「観光立国推進基本法」より抜粋
b.観光庁によるユニバーサルツーリズムの促進事業
現在、観光庁を主体にユニバーサルツーリズムの促進事業が始まっている。国のユ
ニバーサルデザイン政策大綱を基に、平成 18 年度にユニバーサルデザインの考え方
に基づく観光促進検討会が発足し、平成 23 年度より、旅行の発地側と受入側双方の
視点から検討が進められている。
直近の平成 25 年度には、受入側の取組みとして今後ユニバーサルツーリズムに対
応した観光地づくりを目指す地域向けに受入拠点整備のためのマニュアルが作成さ
れ、発地側の取組みとして旅行業界、旅行業者が今後取組むべき方向性がとりまとめ
られ、さらに旅行の効用の検証(15 頁参照)が行われた。
今後の課題として、旅行商品の供給促進については、旅行業界を挙げての実践的な
取組み(業界全体の取組みとして、高齢者や障がい者への対応方法を実践的に学ぶた
めの研修の実施等を行う、個々の旅行業者のユニバーサルツーリズムに対する認識と
重要性の理解を深める等)が望まれるとしている。また、地域の受入体制については、
ユニバーサルツーリズムの対象者や旅行業者からの問合せや相談に対応できる拠点
が重要であるとし、ユニバーサルツーリズムに対応する観光地づくりを促進させてい
く必要があるとしている。
- 16 -
1.2.2.国内におけるユニバーサルツーリズムの普及状況
観光庁によると、現状のユニバーサルツーリズムの取組みは、一部の旅行業者が専
門ツアー等を実施したり、一部の地域で支援組織が積極的に活動している段階で、萌
芽期から拡大期への転換期にあると位置付けている。
今後ユニバーサルツーリズムの取組みを拡大していくには、発地側(旅行業者)、
受入側(観光施設、宿泊施設等サービスを提供する側)、支援組織、それぞれの取組
みの発展や普及が望まれるとされている。
図表 1.11 ユニバーサルツーリズムの普及の概念図
質の拡大
(多様化)
量の拡大
萌芽期
将来
現在
資料:観光庁「ユニバーサルツーリズム促進に向けた地域活動実態調査」平成 25 年 3 月を基に作成
- 17 -
1.2.3.ユニバーサルツーリズムのプレーヤー(供給側)と関連業界の取組み
a.ユニバーサルツーリズムを供給するプレーヤーの確認
まず、ユニバーサルツーリズムに必要なプレーヤー(供給側)を確認しておく。
プレーヤーは、一般の旅行と同じように、発地側は、ユニバーサルツーリズム専門ツ
アーやユニバーサルツーリズムに対応した手配旅行等によりユニバーサルツーリズ
ムの対象者を送り出す旅行業者、および受地側となる観光施設、宿泊施設、旅客運送
等が必要となる。
これらに加え、ユニバーサルツーリズムの対象者向けに地域のユニバーサルツーリ
ズム情報(観光施設、宿泊施設のバリアフリー情報、旅行サポーター等のサービス情
報、旅行商品等)を提供したり、要望に合った宿泊施設を紹介する等、ユニバーサル
ツーリズムの相談窓口を設置している地域もある。相談窓口の運営は地元の営利法人、
NPO 法人、任意組織等が行っており、相談窓口のほかにも地域のユニバーサルツーリ
ズム推進のために様々な取組みを行っている(取組みの詳細は第 2 章 2.2.1、資料編・
他地域事例を参照)。本調査では、こうした法人・組織等を「支援組織」と称するこ
とにする。
また、ユニバーサルツーリズムの推進のためには上記に挙げた観光関連産業や支援
組織の取組みを支援する行政の役割も重要となっている。
図表 1.12 ユニバーサルツーリズムのプレーヤー
①一般ツアーでユニバーサルツーリズムに対応
②ユニバーサルツーリズム専門ツアー実施
旅行業者
③ユニバーサルツーリズムに対応した手配旅行実施
本人
(ユニバーサル
ツーリズムの
対象者)
観光施設
支援組織
宿泊施設
①まちづくりを中心に活動する NPO 等の組織
②障がい者等の旅行支援を中心に活動する NPO 等の組織
③その他の NPO 等の組織
旅客運送
その他
支援
行政
- 18 -
b.観光関連業界による取組み内容
観光庁の取組みと並行し、観光関連業界では、業界全体でユニバーサルツーリズム
推進を図るため、研修会の実施やサービスの基準設定、情報発信等を行い、業界全体
への啓発、個々の企業への側面支援に取組んでいる。
例えば、旅行業界では JATA が世界旅行博で「バリアフリー旅行情報センター」ブ
ースを設置する等周知・PR に取組み、宿泊業界では、全旅連が高齢者が利用しやす
い宿泊施設を認定登録する「シルバースター登録制度」を設置し、宿泊施設の取組み
促進を図っている。また、ユニバーサルツーリズムに取組む民間企業等で構成される
「バリアフリー旅行ネットワーク」では、ユニバーサルツーリズム事業の情報交換や
研修会等を行っている(71~73 頁参照)
。
図表 1.13 旅行業界の取組み
団
体
名
事 業 内 容
JATA(社団法人日本旅行業協会)社会貢献委員会バリアフリー部会
・障がい者に募集型企画旅行に参加していただくための実践経験を基にした
会員向けの「学ぶ会」の開催
・JATA 世界旅行博にて「バリアフリー旅行情報センター」を出展。バリアフ
リー旅行を扱っている JATA 会員会社の窓口一覧を期間中にブースで配布。
・旅行者向け情報誌「バリアフリー旅行ハンドブック」の作成
資料:社団法人日本旅行業協会 HP 等参照
図表 1.14 宿泊業界の取組み
団
体
名
事 業 内 容
全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)シルバースター部会
・高齢化社会を迎えるにあたり、高齢者が利用しやすい宿泊施設の整備を図
る必要から、
「シルバースター登録制度」を設置。厚生労働省並びに関係機
関の協力を得て、設備・サービス・料理面で一定の基準を充足する旅館・
ホテルを認定登録している
・シルバースター部会に登録された宿は「人に優しい宿サイト」で公開
資料:全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会 HP 等参照
図表 1.15 バリアフリー旅行ネットワークの取組み
団
体
名
事 業 内 容
一般社団法人バリアフリー旅行ネットワーク
・ユニバーサルツーリズム事業の普及、拡大に関する事業
・ユニバーサルツーリズム事業に係る情報の収集及び提供等に関する事
業
・ユニバーサルツーリズム事業に係る国内外の機関・団体・企業との情報交
換・連携
・高齢者・障がい者に係る健康増進事業
・その他、前各号に掲げる事業に付帯または関連する事業
資料:一般社団法人バリアフリー旅行ネットワーク HP
- 19 -
c.支援組織の全国的なネットワーク
近年、全国各地に点在する支援組織では組織化の動きがみられ、ユニバーサルツー
リズムの情報発信、支援組織同士での情報交換等、ネットワークを広げ連携して地域
のユニバーサルツーリズム推進に取組んでいる。主な全国規模の組織は下表の通りで
ある。
図表 1.16 日本バリアフリー観光推進機構の概要
組
織
名
設
立
年
事務局所在地
代
表
加
盟
事 業 内 容
特定非営利活動法人日本バリアフリー観光推進機構
平成 22 年
東京都新宿区四谷 2-14-8
中村元(特定非営利活動法人 伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長)
全国 18 の組織(主に NPO 法人)
・
「全国バリアフリー旅行情報」のポータルサイトならびに「旅のカルテ」お
よび SNS のシステムの運用と維持管理
・本機構のバリアフリー観光システムに参加する、各地バリアフリー旅行相
談センターのネットワークの維持拡大
・パーソナルバリアフリー基準の普及と基準の改善
・観光のノーマライゼーション化と、バリアフリーマーケット拡大に関わる
全ての事業
資料:特定非営利活動法人日本バリアフリー観光推進機構 HP
図表 1.17 日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワークの概要
組
織
名
設
立
年
事務局所在地
日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク
平成 23 年
兵庫県神戸市中央区波止場町 5 番 4 号
代
表
加
盟
事 業 内 容
鞍本長利(神戸ユニバーサルツーリズムセンター代表)
旭川・新潟・東京・横浜・神戸・高知・熊本・沖縄等の NPO 法人
・障がい者・高齢者の観光サポート
・障がい者の自立と社会参加への取組み
・「ユニバーサルなおもてなし」に関する各種研修会の実施
資料:日本ユニバーサルツーリズム推進ネットワーク HP
- 20 -
1.3.小括
1.3.1.高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムの必要性
人口減少が進む一方、高齢者人口は増加傾向にあり、団塊の世代が 75 歳以上に到
達し終えた平成 37 年には 36.6 百万人、高齢化率は 30.3%となる。高齢者は旅行意
欲が高く、旅行回数や旅行費用も他の世代と比べて多いことから国内旅行市場のけん
引役として期待できる。また、加齢が進み 75 歳を過ぎる頃から健康上の理由で日常
生活に影響がある高齢者(=ユニバーサルツーリズムの対象者)は増加し、中には健
康を理由に旅行を諦める人もいる。このため、今後は身体に制約がある人でも旅行を
楽しむことができるユニバーサルツーリズムを推進し、諦めている人も旅行に出かけ
られる環境づくりが必要となる。
このようにユニバーサルツーリズムは高齢者の旅行市場を狙う上で注目すべきも
のであり、今後の市場も期待できる。ユニバーサルツーリズム市場の推計値(消費額)
をみると、
平成 22 年の 92 百億円から平成 32 年には 1 兆 19 百億円になると推計され、
さらに潜在需要をを含めると平成 22 年には 3 兆 3 百億円、平成 32 年には 3 兆 93 百
億円になると推計される。国内旅行市場が縮小傾向にある中、ユニバーサルツーリズ
ム市場は拡大が見込める注目すべき市場であり、ユニバーサルツーリズムの対象者の
潜在需要の開拓、集客増につなげていくことが望まれる。
1.3.2.国内におけるユニバーサルツーリズム推進の動き
観光庁においては、ユニバーサルツーリズム促進事業として、受入拠点の強化、旅
行商品の供給促進に向けた検討等が行われている。また、観光関連産業の業界団体で
も、ユニバーサルツーリズムの普及に向けた啓発活動等が行われているほか、ユニバ
ーサルツーリズムの対象者の旅行相談窓口機能をもつ支援組織の設立およびネット
ワーク化が各地でみられるようになった。ユニバーサルツーリズムの対象者の誘客に
向け、ユニバーサルツーリズムを推進する動きは活発化している。
- 21 -
2.中国地域におけるユニバーサルツーリズムへの取組みの現状と問題点
第1章では、高齢化が進展するわが国におけるユニバーサルツーリズムの市場性や
現在の取組み状況について概観した。これを受け、本章ではアンケート調査ならびに
ヒアリング調査を実施し、中国地域の観光関連産業や支援組織、行政(各県観光施策)
の取組みの現状および問題点を抽出した。
2.1.観光関連産業の取組みの現状
2.1.1.アンケート調査の目的と実施要領
中国地域の観光関連産業を対象にアンケート調査を実施し、ユニバーサルツーリズ
ムの対象者の受入れ状況や取組み内容等の現状を把握し問題点を抽出した。
図表 2.1 観光関連産業へのアンケート実施要領
調 査 名 称
ユニバーサルツーリズムに関するアンケート調査
調 査 目 的
中国地域に立地する観光関連産業(観光施設、宿泊施設、旅客運送、旅行業
者)のユニバーサルツーリズムに対する取組みの現状把握と問題点の抽出
調 査 対 象
観光施設:観光情報サイト「るるぶ.com」(株式会社 JTB パブリッシング)
に掲載されている中国 5 県に立地する観光施設を抽出:709 施設
宿泊施設:株式会社帝国データバンク企業概要データベースより中国 5 県に
本社を置く旅館・ホテルを抽出:595 社
旅客運送:株式会社帝国データバンク企業概要データベースより中国 5 県に
本社を置く旅客自動車運送を抽出:361 社
旅行業者:株式会社帝国データバンク企業概要データベースより中国 5 県に
本社を置く旅行業を抽出:121 社
実 施 時 期
平成 26 年 7 月 25 日(金)~8 月 11 日(月)
調 査 方 法
郵送によるアンケート
主な調査項目
・概要(設立年、資本金、従業員数、業況等)
・ユニバーサルツーリズムの対象者の利用状況・受入れの現状
・ユニバーサルツーリズムの対象者への対応状況
・ユニバーサルツーリズムに対する考え方
・自施設・自社で受入れを促進していくために必要な取組み・必要な支援策
回
収
率
配布枚数
回収数
回収率(%)
観光施設
709
254
35.8
宿泊施設
595
98
16.5
旅客運送
361
71
19.7
旅行業者
121
30
24.8
1,786
453
25.4
計
- 22 -
2.1.2.観光関連産業の景況とユニバーサルツーリズム対象の顧客の動向
a.観光関連産業の景況
中国地域における観光関連産業の景況をみるため、観光施設、宿泊施設には客数に
ついて、旅客運送、旅行業者には業況について、それぞれ 5 年前と比較した現在の景
況と、5 年後の客数・業況の予測について尋ねた。
現在の景況は、図表 2.2 の通り、いずれの業種でも「増加した(良い)」、
「やや増
加した(やや良い)
」の肯定的な意見の合計よりも「減少した(悪い)」、
「やや減少し
た(やや悪い)」の否定的な意見の合計が多くなっており、総じて厳しい経営環境に
あることが確認できる。
5 年後の客数・業況の予測については、図表 2.3 の通り、いずれの業種も「変わら
ない」が最も多くなっているものの、肯定的な意見の合計と否定的な意見の合計を比
べると、観光施設以外では、否定的な意見が多く、将来的にも経営環境は改善の見込
みが少ないとの認識が強い。
図表 2.2
0%
10%
観光施設(n=247)
20%
15.8%
30%
13.8%
5 年前と比べた現在の客数・業況
40%
50%
19.8%
60%
70%
80%
23.1%
90%
100%
27.5%
増加した(良い)
宿泊施設(n=97)
24.7%
18.6%
11.3%
18.6%
やや増加した(やや良い)
26.8%
変わらない
やや減少した(やや悪い)
旅客運送(n=69) 4.3%
旅行業者(n=28)
18.8%
11.6%
14.3%
24.6%
10.7%
40.6%
35.7%
減少した(悪い)
35.7%
3.6%
図表 2.3
0%
観光施設(n=246)
20%
10.9%
5 年後の客数・業況の予測
40%
19.4%
60%
80%
40.9%
15.8%
100%
12.6%
増加する(良くなる)
宿泊施設(n=91)
6.2%
22.7%
24.7%
20.6%
19.6%
やや増加する(やや良くなる)
変わらない
やや減少する(やや悪くなる)
旅客運送(n=64)
7.2%
旅行業者(n=28)
7.1%
23.2%
23.2%
39.3%
17.4%
25.0%
3.6%
- 23 -
21.7%
25.0%
減少する(悪くなる)
b.ユニバーサルツーリズム対象の顧客の動向
ユニバーサルツーリズム対象の顧客について 5 年前と比べた増減を聞いたところ、
いずれの業種でも「変わらない」が最も多かったものの、観光施設、宿泊施設の約 3
割、旅客運送の約 4 割、旅行業者の約 2 割が「増えている」あるいは「やや増えてい
る」と回答しており、逆に「減っている」、
「やや減っている」との回答は僅かであっ
た。先に見た通り、事業所全体の景況では否定的な意見が多かったが、ユニバーサル
ツーリズムの対象者に限定すると増加傾向にあることが分かる。
ただし、ユニバーサルツーリズムの対象者とその同伴者が占める割合について聞い
たところ、図表 2.5 の通り、いずれの業種でも「5%未満」が大半を占めており、顧
客としての存在感は小さいものであると推測される。
図表 2.4
0%
5 年前と比べたユニバーサルツーリズム対象の顧客の増減
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
2.4% 2.4%
観光施設(n=250)
10.0%
20.8%
36.4%
28.0%
増えている
やや増えている
宿泊施設(n=98)
7.1%
22.4%
43.9%
25.5%
1.0%
旅客運送(n=26)
15.4%
23.1%
変わらない
やや減っている
42.3%
0.0%
19.2%
減っている
わからない
旅行業者(n=29)
6.9%
13.8%
62.1%
0.0%
17.2%
※旅客運送についてはこの 1 年間でユニバーサルツーリズムの対象者の利用があった事業所のみが回答
図表 2.5 ユニバーサルツーリズムの対象者とその同伴者が占める割合
0%
20%
40%
60%
80%
100%
0.8%
観光施設(n=253)
70.0%
12.8% 4.0%
13.6%
1.0%
宿泊施設(n=98)
83.7%
8.2%
7.1%
5%未満
5%~10%未満
10%~30%未満
旅客運送(n=25)
旅行業者(n=29)
30%以上
84.6%
7.7% 3.8%
86.2%
10.3%
3.4%
- 24 -
わからない
2.1.3.ユニバーサルツーリズムの対象者の受入れの現状
a.受入れ状況(意欲)
観光施設、宿泊施設に対し、現状でのユニバーサルツーリズムの対象者の受入れ状
況(意欲)について、対象者を 4 つに区分して聞いたところ、図表 2.6 の通りとなっ
た。いずれの業種においても、積極的に受け入れている割合は「杖を使用されている
方」が最も高く、以下「車いす」
、
「その他障がい*1」、「重度*2」の順となっている。
また、両業種で比較すると、すべての対象者区分で、観光施設の方が「積極的に受
入れている」とする回答割合が高くなっている。
図表 2.6 ユニバーサルツーリズムの対象者の受入れ状況
【観光施設】
0%
10%
20%
杖を使用されている方(n=245)
30%
40%
50%
60%
70%
54.7%
車いすを使用されている方(n=254)
80%
90% 100%
42.9%
44.7%
2.0%
0.4%
41.8%
1.2%
重度の方(n=241)
23.2%
その他障がいがある方(n=254)
45.6%
32.1%
26.1%
49.4%
積極的に受入れている
要望があれば受入れる
12.3%
5.0%
受入れたいが受入れられない
できれば受入れたくない
16.5% 2.1%
【宿泊施設】
0%
10%
杖を使用されている方(n=94)
20%
30%
40%
50%
39.4%
60%
70%
80%
90% 100%
54.3%
5.3%
1.1%
車いすを使用されている方(n=94)
25.5%
51.1%
18.1%
5.3%
積極的に受入れている
要望があれば受入れる
受入れたいが受入れられない
重度の方(n=92)
その他障がいがある方(n=91)
*1「
*2「
9.8%
12.1%
39.1%
33.7%
50.5%
17.4%
25.3%
できれば受入れたくない
12.1%
その他障がい」がある方…聴覚障がい、視覚障がい、精神障がい、知的障がい等の方
重度」の方…入浴、食事、排せつ、移動時等に同伴者や添乗員の介助を必要とする方
- 25 -
b.受入れの課題・障壁
上記の受入れ状況と合わせ、「積極的に受入れている」、「要望があれば受入れる」
と回答した先には、現在“課題”*となっていることを、
「受入れたいが受入れられな
い」、
「できれば受入れたくない」と回答した先には受入れていない理由や“障壁”と
なっていることを聞いた。このうち、車いすを使用されている方の“課題”“障壁”
をみると、図表 2.7 の通り、観光施設、宿泊施設のいずれにおいても「建物・施設の
性格上整備しづらい」
、
「施設整備や維持に費用がかかる」といったハードに関する項
目が課題・障壁として上位にあがった。ただし、
“課題”と“障壁”で比べると、
“障
壁”の方がより高くなっている傾向がある。すなわち、ハードが理由で受入れが難し
い(あるいはハードを理由に受入れをしていない)実態が読み取れる。
また、ハード面以外をみると、「自施設だけでは対応できない」は“障壁”の方が
高く、逆に「接遇ノウハウが不足している」は“課題”の方が高くなっている。
図表 2.7 車いす使用者受入れの課題、障壁
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
施
設
設
備
や
維
持
に
費
用
が
か
か
る
建
物
・
施
設
の
性
格
上
整
備
し
づ
ら
い
相
手
が
い
な
い
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
相
談
で
き
な
い
観光施設の課題(n=73)
自
施
設
の
組
織
体
制
や
人
材
だ
け
で
は
対
応
る
接
遇
ノ
ウ
ハ
ウ
が
不
足
し
て
い
る
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
対
す
一
般
の
顧
客
に
比
べ
て
リ
ス
ク
が
高
い
ズ
を
把
握
し
に
く
い
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
の
ニ
ー
宿泊施設の課題(n=26)
受
入
れ
体
制
を
整
な備
いし
て
も
利
用
者
が
少
た
宣
伝
・
広
告
の
手
段
が
不
十
分
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
向
け
旅
行
業
者
等
へ
の
営
業
活
動
が
不
十
分
観光施設の障壁(n=21)
*
体
的
に
検
討
す
る
に
は
至
っ
て
い
な
い
視
野
に
は
入
れ
て
い
る
が
、
今
の
と
こ
ろ
具
者
を
タ
ー
ゲ
ッ
ト
と
し
て
と
ら
え
て
い
な
い
そ
も
そ
も
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
特
に
課
題
は
な
い
そ
の
他
宿泊施設の障壁(n=17)
“課題”は「積極的に受入れている」
、
「要望があれば受入れる」と回答した先が、現在課題となっている
と考えている事柄、
“障壁”は「受入れたいが受入れられない」
、
「できれば受入れたくない」と回答した
先が受入れていない理由や障壁となっていると考えている事柄
- 26 -
2.1.4.ユニバーサルツーリズムの対象者への対応
a.施設のハード・ソフト面におけるバリアフリー対応
観光施設、宿泊施設に対し、自施設でのハード・ソフトのバリアフリー対応の実施
状況について聞いたところ、図表 2.8 の通りとなった。
観光施設、宿泊施設ともに、車いす使用者用トイレの設置や出入口の段差の解消と
いったバリアフリー化の実施率は高く、観光施設では 3 分の 2 を超えている。他方、
施設のバリアフリー情報の公開は、どちらも実施率 10%台にとどまっており、バリ
アフリー化ができているにもかかわらず、積極的に情報公開している施設は少ないこ
とが読み取れる。
観光施設と宿泊施設の共通項目について両者の実施率を比較すると、図表 2.9 の通
り、ハード面では観光施設の実施率が高くなっている。
図表 2.8 各施設におけるバリアフリー対応
【観光施設】
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
車いす使用者用トイレを設けている(n=251)
73.7%
出入口に段差が無い、又は解消できる傾斜路エレベーター
その他の昇降機を併設している(n=248)
0.8%
66.9%
車いすの貸出し(n=250)
1.2%
62.4%
高齢者や障がい者の方は割引料金で入場できる(n=234)
59.4%
0.8%
0.9%
25.5%
31.9%
36.8%
39.7%
車いす使用者専用駐車区画を確保している(n=242)
54.5%
1.2%
44.2%
介助犬の受入ができる(n=241)
53.9%
4.1%
41.9%
車いす使用者に適したタクシー等の手配ができる(n=243)
老眼鏡の設置・貸出し(n=250)
施設のバリアフリー情報をHP上で公開している(n=247)
筆談ボードの設置・貸出し(n=248)
触知図を設置している(n=250)
30.0%
2.1%
22.8% 2.0%
15.0% 6.9%
12.1%
10.0%
0.8%
今後実施する予定
- 27 -
75.2%
78.1%
84.7%
3.2%
89.2%
要望に合わせた食事を提供している(n-229) 4.8%
0.4%
実施済
67.9%
94.8%
実施していない
【宿泊施設】
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
出入口に段差が無い、又は解消できる傾斜路エレベーター
その他の昇降機を併設している(n=97)
47.4%
車いす使用者に適したタクシー等の手配ができる(n=97)
45.4%
4.1%
48.5%
5.2%
49.5%
介助犬の受入ができる(n=98)
42.9%
3.1%
54.1%
車いす使用者用トイレを設けている(n=97)
41.2%
5.2%
53.6%
要望に合わせた食事を提供している(n=96)
39.6%
6.3%
54.2%
車いす使用者専用駐車区画を確保している(n=95)
29.5%
施設のバリアフリー情報をHP上で公開している(n=95)
11.6% 6.3%
3.2%
67.4%
82.1%
触知図を設置している(n=97) 7.2%
3.1%
89.7%
入浴介助の手配ができる(n=96) 3.1%
4.2%
実施済
92.7%
今後実施する予定
実施していない
図表 2.9 各施設におけるバリアフリー対応実施率の比較
80%
60%
40%
20%
0%
出
入
口
の
段
差
の
解
消
車
い
す
用
ト
イ
レ
の
設
置
区
画
の
確
保
車
い
す
使
用
者
専
用
駐
車
触
知
図
の
設
置
上
で
の
公
開
観光施設
バ
リ
ア
フ
リ
ー
情
報
の
H
P
シ
ー
等
の
手
配
車
い
す
使
用
者
用
タ
ク
宿泊施設
*
数値は「実施済み」と「今後、実施する予定」の合計
- 28 -
要
望
に
合
提わ
供せ
た
食
事
の
介
助
犬
の
受
入
b.宿泊施設での車いす使用者用客室
(a.)車いす使用者用客室の設置状況等
宿泊施設に対し、車いす使用者用客室について尋ねた。まず、車いす使用者客室の
有無については、全体の約 3 割が設置していた。宿泊施設の種類別にみると、回答数
の多いビジネスホテル、旅館、温泉旅館は、概ね 2~3 割程度が設置していた。
車いす使用者用客室を設置した理由は、「バリアフリー環境の向上に対する社会的
対応」が最も多く 7 割以上の回答があった。また、「既存客の高齢化に対する対応」
も約 5 割の回答があった。他方、「ユニバーサルツーリズム市場の開拓・新規顧客の
獲得」は 15%程度しかない。設置の理由としては、全体としては“守り”が多くな
っている。
こうした理由もあるため、車いす使用者用客室の設置が自社の売上・利益にもたら
した影響(効果)としては、「特に変わりない」が 68.8%で最も多く、「売上・利益
の向上につながっている」は 18.8%にとどまっている。
図表 2.10 車いす使用者用客室の設置状況と設置理由
【設置状況】
0%
全体(n=98)
20%
【設置理由】
40%
30.6%
60%
80%
100%
23.7%
76.3%
旅館(n=23)
21.7%
78.3%
66.7%
シティホテル(n=9)
33.3%
66.7%
バリアフリー法への対応
80.0%
57.1%
ある
60%
20.0%
42.9%
バリアフリー化を付加することに
よる客室単価の維持・向上
ユニバーサルツーリズム市場の
開拓・新規顧客の獲得
その他
ない
80%
75.0%
46.9%
自社のイメージアップ
33.3%
その他(n=7)
40%
既存顧客の高齢化に対する対応
温泉旅館(n=15)
リゾートホテル(n=5)
20%
バリアフリー環境の向上に対する
社会的要請への対応
69.4%
ビジネスホテル(n=38)
0%
34.4%
21.9%
18.8%
15.6%
12.5%
(n=32)
図表 2.11 車いす使用者専用客室設置の効果
0.0%
12.5%
売上・利益向上につな
がっている
18.8%
特に変わらない
売上・利益を圧迫してい
る
68.8%
わからない
(n=32)
- 29 -
(b.)受入れ状況からみた、車いす使用者用客室の効果
こうした車いす使用者用客室の効果を、2.1.3 でみた「積極的に受入れている」先
と「要望があれば受入れる」先の 2 つに分けると以下のような違いが分かる。
まず、設置の有無については、図表 2.12 の通り、積極的に受入れている先の方が
20 ポイント以上高くなっており、設置理由についても、図表 2.13 の通り、「市場の
開拓・新規顧客の獲得」
、
「客室単価の維持・向上」といった自社の利益に結び付く項
目をあげる割合が高い。この結果、図表 2.14 の通り、売上・利益の向上につながっ
ている割合も 6 倍以上となっている。
このように、受入れ状況により、同じ車いす客室の設置でも、効果に大きな差が出
ていることがアンケートから分かる。この点をさらに詳しく検討するため、本調査で
は、車いす使用者用客室の設置により売上・利益が向上した宿泊施設にヒアリング調
査を実施した(詳細は 51~55 頁を参照)
。
図表 2.12 受入れ状況別の車いす使用者用客室の設置状況
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
積極的に受入れている(n=24)
54.2%
要望があれば受入れる(n=48)
45.8%
31.3%
68.8%
ある
ない
図表 2.13 受入れ状況別の車いす使用者用客室の設置理由
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
対
す
る
社
会
的
要
請
へ
の
対
応
バ
リ
ア
フ
リ
ー
環
境
の
向
上
に
バ
リ
ア
フ
リ
ー
法
へ
の
対
応
既
存
顧
客
の
高
齢
化
に
対
応
積極的に受入れている(n=13)
の
開
拓
・
新
規
顧
客
の
獲
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
市
場
単
価
の
維
持
・
向
上
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
に
よ
る
客
室
自
社
の
イ
メ
ー
ジ
ア
ッ
プ
要望があれば受入れる(n=16)
- 30 -
そ
の
他
図表 2.14 受入れ状況別の車いす使用者用客室設置の効果
0%
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
積極的に受入れている(n=13)
38.5%
要望があれば受入れる(n=17) 5.9%
61.5%
70.6%
売上・利益向上につながっている
特に変わらない
売上・利益を圧迫している
わからない
23.5%
c.従業員教育(研修)の実施状況
ユニバーサルツーリズムに対応した従業員教育に関し、介護接遇研修、救命研修、
手話の研修の実施状況を聞いたところ、図表 2.15 の通りとなった。介助接遇研修に
ついては、旅客運送の約 3 割で「実施済み」または「実施する予定」となっているも
のの、観光施設、宿泊施設では 1 割程度にとどまっている。救命研修は、比較的実施
割合が高く、AED の設置が推奨されている観光施設、宿泊施設では 5 割以上で「実施
済み」または「実施する予定」となっている。手話の研修は、いずれの業種でも実施
割合が低く、実施予定を合わせても 1 割以下であった。
ハード整備については、観光施設の 7 割以上が出入口の段差の解消をする等、比較
的進んでいるが、ユニバーサルツーリズムに直接関わる介護接遇研修等の人材教育に
ついては、まだ実施の割合が低い状況となっている。
図表 2.15 ユニバーサルツーリズムの対象者対応のための従業員教育の実施状況
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
介助接遇研修
観光施設
*
AEDの使用方法等、
救命研修
宿泊施設
旅客運送
手話の研修
旅行業者
数値は「実施済み」と「今後、実施する予定」の合計
- 31 -
2.1.5.ユニバーサルツーリズムに対する考え方
観光関連事業所のユニバーサルツーリズムに対する考え方について把握するため、
全業種に対し、
・ユニバーサルツーリズムの対象者は今後増加する(以下、対象者は今後増加する)
・ユニバーサルツーリズムの対象者の受入れ強化は、自社の売上・利益アップにつ
ながる(以下、売上・利益アップにつながる)
・施設のバリアフリー化や対象者向けのサービスは、社会的責任である」(以下、
社会的責任である)
・施設のバリアフリー化や対象者向けのサービスは対象者以外の顧客への PR にな
る」
(以下、対象者以外の顧客への PR になる)
の 4 点について、
「そう思う」
、
「やや思う」、「どちらともいえない」、「あまり思わな
い」、
「まったく思わない」の中から自社の考えに近いものを選んでもらった。結果は
図表 2.16 の通りで、傾向を掴むため、指数化すると、図表 2.17 のようになる。
図表 2.16 ユニバーサルツーリズムに対する考え方
(上段は度数、下段は構成比)
業種
設問
対象者は今後増加する
観
光
施
設
自社の売上・利益アップにつながる
社会的責任である
対象者以外の顧客への PR になる
対象者は今後増加する
宿
泊
施
設
自社の売上・利益アップにつながる
社会的責任である
対象者以外の顧客への PR になる
対象者は今後増加する
旅
客
運
送
自社の売上・利益アップにつながる
社会的責任である
対象者以外の顧客への PR になる
対象者は今後増加する
旅
行
業
者
自社の売上・利益アップにつながる
社会的責任である
対象者以外の顧客への PR になる
そう思う
やや思う
83
33.2%
21
8.5%
123
49.6%
56
22.6%
26
27.7%
10
10.6%
33
35.1%
13
13.8%
22
33.3%
9
13.6%
26
39.4%
14
21.2%
12
40.0%
4
14.3%
14
48.3%
10
34.5%
62
24.8%
54
21.9%
84
33.9%
91
36.7%
29
30.9%
11
11.7%
30
31.9%
27
28.7%
20
30.3%
12
18.2%
23
34.8%
22
33.3%
7
23.3%
4
14.3%
8
27.6%
7
24.1%
- 32 -
どちらとも
あまり
いえない 思わない
77
30.8%
108
43.7%
28
11.3%
79
31.9%
26
27.7%
49
52.1%
22
23.4%
34
36.2%
12
18.2%
28
42.4%
12
18.2%
20
30.3%
9
30.0%
15
53.6%
7
24.1%
12
41.4%
24
9.6%
49
19.8%
13
5.2%
21
8.5%
9
9.6%
17
18.1%
5
5.3%
14
14.9%
11
16.7%
15
22.7%
5
7.6%
10
15.2%
2
6.7%
5
17.9%
0
0.0%
0
0.0%
まったく
思わない
4
1.6%
15
6.1%
0
0.0%
1
0.4%
4
4.3%
7
7.4%
4
4.3%
6
6.4%
1
1.5%
2
3.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
計
250
100%
247
100%
248
100%
248
100%
94
100%
94
100%
94
100%
94
100%
66
100%
66
100%
66
100%
66
100%
30
100%
28
100%
29
100%
29
100%
図表 2.17 ユニバーサルツーリズムに対する“考え方指数”
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
-10%
今
後
増
加
す
る
ア
ッ
プ
に
つ
な
が
る
対
象
者
は
観光施設
自
社
の
売
上
・
利
益
の
社
会
的
責
任
で
あ
る
宿泊施設
旅客運送
顧
客
へ
の
P
R
に
な
る
対
象
者
以
外
の
旅行業者
考え方指数=(「そう思う」割合+「やや思う」割合)-(「あまり思わない」割合+「まったく思わない」割合)
まず、「対象者は今後増加する」については、全業種で「そう思う」、「やや思う」
の合計が過半数を超えており、ユニバーサルツーリズムの対象者の増加を見込んでい
ることが分かる。しかし、その一方で、「自社の売上・利益アップにつながる」につ
いては、いずれの業種においても「そう思う」、
「やや思う」の合計が 2~3 割にとど
まっており、対象者の増加を見込んでいる割には低い結果となった。
また、
「社会的責任である」
、
「対象者以外の顧客への PR になる」は、いずれの業種
でも過半数を超えており、特に「社会的責任である」については、観光施設で 8 割以
上になる等、全業種でその意識が強い。
- 33 -
2.1.6.今後の受入れ意向
a.業種別の受入れ意向
業種別にユニバーサルツーリズムの対象者ごとの今後の受入れ意向を聞いたとこ
ろ、図表 2.18 の通りとなった。いずれの業種でも「杖」、
「車いす」、
「その他障がい」、
「重度」の順で受入れ意向が高くなっている。
図表 2.18 今後のユニバーサルツーリズムの各対象者の受入れ意向
【観光施設】
0%
10%
20%
杖を使用されている方(n=245)
30%
40%
50%
60%
70%
54.3%
車いすを使用されている方(n=246)
0.8%
2.4%
1.2%
0.8%
9.3%
1.2%
43.1%
25.4%
その他障がいがある方(n=245)
90% 100%
41.2%
45.5%
重度の方(n=244)
80%
42.2%
36.3%
24.2%
43.7%
5.7%
積極的に受入れたい
要望があれば受入れる
受入れたいが受入れられない
できれば受入れたくない
2.5%
わからない
15.5% 2.4%
2.0%
【宿泊施設】
0%
10%
杖を使用されている方(n=95)
30%
40%
50%
29.5%
60%
70%
80%
90% 100%
3.2%
3.2%
60.0%
4.2%
積極的に受入れたい
要望があれば受入れる
車いすを使用されている方(n=95)
重度の方(n=93)
20%
18.9%
56.8%
7.5%
12.6% 8.4%
40.9%
26.9%
16.1%
3.2%
8.6%
受入れたいが受入れられない
できれば受入れたくない
わからない
その他障がいがある方(n=92)
9.8%
48.9%
19.6%
12.0% 9.8%
【旅客運送】
0%
10%
杖を使用されている方(n=66)
30%
40%
50%
60%
40.9%
70%
80%
90% 100%
51.5%
7.6%
積極的に受入れていきたい
車いすを使用されている方(n=67)
重度の方(n=61)
20%
35.8%
9.8%
その他障がいがある方(n=61)
50.7%
26.2%
13.4%
できれば受入れたくない
63.9%
13.1%
49.2%
受入れてもよい
37.7%
【旅行業者】
0%
杖を使用されている方(n=29)
10%
20%
30%
4.2%
40%
50%
60%
21.1%
70%
80%
90% 100%
0.0% 5.3%
積極的に取組みたい
車いすを使用されている方(n=29)
3.2%
20.0%
2.1%
5.3%
要望があれば取組みたい
できれば取り組みたくない
重度の方(n=29) 1.1%
その他障がいがある方(n=29)
2.2%
12.9%
14.1%
6.5%
5.4%
- 34 -
10.8%
9.8%
わからない
b.指数化による比較
今後の受入れ意向について、業種間の傾向を比較するため、「積極的に受入れたい
(取組みたい)」という肯定的な意見から「受入れたいが受入れられない」、「できれ
ば受入れたくない(取組みたくない)」といった否定的な意見を引いて指数化すると、
図表 2.19 の通りとなる。
指数をみると、観光施設は、いずれの対象者に対しても受入れ意向が高くなってい
る。また、旅行業者は、対象者の種別に関わらず、概ねゼロ付近にある。宿泊施設、
旅客運送は、
「重度」
、
「その他障がい」が大きくマイナスとなっており、
「杖」との差
が大きくなっている。
図表 2.19 今後のユニバーサルツーリズムの各対象者の“受入れ意向指数”
60
40
20
0
-20
-40
-60
杖
観光施設
重
度
車
い
す
宿泊施設
旅客運送
そ
の
他
障
が
い
旅行業者
受入れ意向指数=「積極的に受入れたい(取組みたい)」割合-(「受入れたいが受入れられない」割合+「で
きれば受入れたくない(取組みたくない)」割合)
- 35 -
c.今後の受入れに消極的な理由・障壁
上記の今後の受入れ意向の質問で「受入れたいが受入れられない」
、
「できれば受入
れたくない」を選んだ先に、受入れられない理由や受入れの障壁となっていることに
ついて、自由意見で聞いたところ、主な意見は図表 2.20 の通りとなった。回答では、
施設、整備、車両等ハード面の整備が完備していないことを挙げる先が多く、特に、
歴史的・文化的な日本家屋の建物のバリアフリー化の困難さが挙げられている。
また、対応ノウハウの不足や、限られる従業員数、従業員の高齢化といった事情か
ら、従業員の業務負担の増加を懸念する意見も多くみられた。
図表 2.20 今後の受入れに消極的な理由・受入の障壁(自由意見から抜粋)
課題の分類
業種
観光施設
施設、設備
等ハード面
の整備
宿泊施設
旅客運送
対応ノウハウの不足
観光施設
宿泊施設
旅客運送
従業員の
負担増加の
懸念
観光施設
旅客運送
旅客運送
旅行業者
宿泊施設
リスク
旅行業者
旅客運送
ターゲットの違い
宿泊施設
費用対効果
旅行業者
今後の受入れに消極的な理由・受入れの障壁となっていること
・施設の整備上の問題
・当館は、オープンから 21 年経ち、バリアフリー対応が一切なく、浴室も 2
階にある。また施設自体は古くなっているが、整備、改造等は困難
・施設の都合上、受入れが困難
・現在入場制限はしていないが、施設全体が純和風建築の重要文化財である
ことから畳の上で車イスや杖を使用されると所有者としては心が痛みます
・歴史的な文化財の建造物であるため施設の改修には限界がある
・建物がバス乗り場の 2 階にあり、エレベーター、駐車場もない障がい者用
のトイレも 1 つしかない為、積極的に受け入れることは無理と考えます
・バリアフリー化が完備されていない。対応できる人材がいない
・展示室は 2 階にあるが、階段しかないので車いすによる入館は困難
・建物の構造上無理
・設備の問題
・旅館が古く、階段ばかりの上狭い。しかも今後建替えできない立地なので
対応する施設にできない
・私共の車輌は一般乗用で、現在杖の方、車いすをトランクに積んで乗車さ
れる方は利用頂いている。車いすごと車に乗れる介護車輌はありません
・車両の対応が困難である
・対応できる職員がいない
・重度の方の対応についてノウハウがない
・ノウハウが無い
・介助できる運転手等がいないため
・職員が不足
・乗務員が高齢化している
・必ず同伴者か介護の方がいれば大丈夫かもしれませんが、ドライバーやガ
イドの負担が増えると人員不足の為難しいです
・添乗員の数が不足、人材に余裕があればよいのだが・・・
・重度の方だけの為に対応できる人員を配置できない。当館の不備で何か事
故でも起きたらと思うと消極的になってしまう。
・怪我等事故があった際のリスク
・リスクが高い
・対象とする客層でないため
・当旅館は元気な労働者が主な顧客であるから
・費用対効果が期待できない
- 36 -
2.1.7.自施設・自社で受入れを促進していくために必要な取組み
全業種に対し、今後、自施設・自社がユニバーサルツーリズムの対象者の受入れを
促進していくにはどのような取組を行う必要があると思うかについて聞いた。各業種
によって選択肢が異なるため、まずは業種ごとの結果について整理し、最後に観光施
設と宿泊施設の比較を行う。
a.観光施設
観光施設では、自施設の受入れを促進していくために必要な取組みとして、「施設
全体のバリアフリー化」が 43.4%で最も多く、次いで「ユニバーサルツーリズムの
対象者に対応できる従業員の育成」(39.0%)、「ユニバーサルツーリズムの対象者向
けの備品の設置」
(30.3%)と続いた。
これを現在の受入れ状況別にみると、積極的に受入れている先では、ハードよりも
人材教育が高くなっており、要望があれば受入れる先、受入れたいが受入れられない
先では施設のバリアフリー化といったハード面が高くなっている。また、各種媒体に
よる“情報提供”で両者の差が大きくなっている点も注目すべきである。
図表 2.21 観光施設が自施設で受入れを促進していくために必要な取組み(3 つまで)
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
施
設
全
体
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
ト
イ
レ
の
設
置
、
改
修
バ
リ
ア
フ
リ
ー
対
応
の
対
象
者
向
け
の
備
品
の
設
置
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
必
要
な
知
識
の
取
得
館
内
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
に
対
応
で
き
る
従
業
員
の
育
成
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
相
談
相
手
の
獲
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
を
補
う
た
め
の
他
業
種
と
の
連
携
自
施
設
に
な
い
設
備
・
備
品
や
介
助
人
材
S
N
S
、
マ
ス
媒
体
で
の
情
報
提
供
案
内
パ
ン
フ
レ
ッ
ト
、
自
社
H
P
、
旅
行
会
社
へ
の
営
業
活
動
営
業
活
動
介
護
施
設
、
障
害
福
祉
施
設
へ
の
そ
の
他
全体(n=228)
積極的に受入れている(n=91)
要望があれば受入れる(n=79)
受入れたいが受入れられない(n=26)
*
特
に
な
し
サンプル数が少ないため「できれば受入れたくない」は除いた。また、受入れ状況に「無回答」がある。
このため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異がある。
- 37 -
b.宿泊施設
宿泊施設では、自施設の受入れを促進していくために必要な取組みとして、「施設
全体のバリアフリー化」が 50.6%で最も多く、次いで「車いす使用者用客室の設置、
改修」(43.7%)、「ユニバーサルツーリズムの対象者に対応できる従業員の育成」
(42.5%)と続いた。
これを現在の受入れ状況別にみると、積極的に受入れている先では、観光施設同様、
ハードよりも人材教育が高くなっており、要望があれば受入れる先、受入れたいが受
入れられない先ではハード面が高くなっている。また、他業種との連携、介護施設等
への営業活動で両者の差が大きくなっている。
図表 2.22 宿泊施設が自施設で受入れを促進していくために必要な取組み(3 つまで)
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
施
設
全
体
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
設
置
、
改
修
車
い
す
使
用
者
用
客
室
の
対
象
者
向
け
の
備
品
の
設
置
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
必
要
な
知
識
の
取
得
館
内
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
に
対
応
で
き
る
従
業
員
の
育
成
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
相
談
相
手
の
獲
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
を
補
う
た
め
の
他
業
種
と
の
連
携
自
施
設
に
な
い
設
備
・
備
品
や
介
助
人
材
S
N
S
、
マ
ス
媒
体
で
の
情
報
提
供
案
内
パ
ン
フ
レ
ッ
ト
、
自
社
H
P
、
旅
行
会
社
へ
の
営
業
活
動
営
業
活
動
介
護
施
設
、
障
害
福
祉
施
設
へ
の
そ
の
他
全体(n=87)
積極的に受入れている(n=24)
要望があれば受入れる(n=42)
受入れたいが受入れられない(n=13)
*
特
に
な
し
サンプル数が少ないため「できれば受入れたくない」は除いた。また、受入れ状況に「無回答」がある。
このため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異がある。
- 38 -
c.旅客運送
旅客運送では、自社の受入れを促進していくために必要な取組みとして、「ユニバ
ーサルツーリズムの対象者に対応できる従業員の育成」、
「ユニバーサルツーリズムに
対応できる車両の購入」がともに 7 割を超え、他を圧倒している。
現在の受入れ状況別にみても、ほぼ同様の傾向を示しているが、各種媒体による情
報提供、介護施設等への営業活動の 2 項目については、積極的に受入れている先と、
要望があれば受入れる先、受入れたいが受入れられない先との差が大きくなっている。
図表 2.23 旅客運送が自社で受入れを促進していくために必要な取組み(3 つまで)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
対
応
で
き
る
車
両
の
購
入
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
従
業
員
の
育
成
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
相
談
相
手
の
獲
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
補
う
た
め
の
他
業
種
と
の
連
携
自
社
に
な
い
備
品
や
介
助
人
材
を
S
N
S
、
マ
ス
媒
体
で
の
情
報
提
供
案
内
パ
ン
フ
レ
ッ
ト
、
自
社
H
P
、
旅
行
会
社
へ
の
営
業
活
動
営
業
活
動
介
護
施
設
、
障
害
福
祉
施
設
へ
の
そ
の
他
全体(n=64)
積極的に受入れていきたい(n=23)
受入れてもよい(n=31)
できれば受入れたくない(n=8)
*
特
に
な
し
受入れ状況に「無回答」があるため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異があ
る。
- 39 -
d.旅行業者
旅行業者では、自社の受入れを促進していくために必要な取組みとして、
「観光地・
宿泊施設・交通機関のバリアフリー対応に関する情報収集」が 60.7%で最も多く、
以下、
「ユニバーサルツーリズムに積極的な観光施設・宿泊施設・交通機関との連携」
(50.0%)
、「ユニバーサルツーリズムの旅行企画に必要な知識の取得」(46.4%)と
続く。
サンプル数が少ないため、参考程度だが、取組みに積極的な先ほど、観光事業所と
の連携、添乗員の育成が高くなっている。
図表 2.24 旅行業者が自社で受入れを促進していくために必要な取組み(3 つまで)
100%
80%
60%
40%
20%
0%
対
応
で
き
る
添
乗
員
の
育
成
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
に
必
要
な
知
識
の
取
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
旅
行
企
画
に
バ
リ
ア
フ
リ
ー
対
応
に
関
す
る
情
報
収
集
観
光
地
・
宿
泊
施
設
・
交
通
機
関
の
相
談
相
手
の
獲
得
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
観
光
施
設
・
宿
泊
連施
携設
・
交
通
機
関
と
の
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
積
極
的
な
観
光
業
以
外
の
他
業
種
と
の
連
携
S
N
S
、
マ
ス
媒
体
で
の
情
報
提
供
案
内
パ
ン
フ
レ
ッ
ト
、
自
社
の
H
P
、
営
業
活
動
介
護
施
設
、
障
害
福
祉
施
設
へ
の
全体(n=28)
積極的に受入れていきたい(n=2)
受入れてもよい(n=14)
できれば受入れたくない(n=11)
*
そ
の
他
受入れ状況に「無回答」があるため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異があ
る。
- 40 -
e.観光施設と宿泊施設の比較
観光施設と宿泊施設に聞いた受入れを促進していくために必要な取組みのうち、同
じ選択肢のみを取り出し比較した結果、図表 2.25 の通りとなった。両業種とも、傾
向はほぼ同じであり、「バリアフリー化」、「従業員の育成」が多くなっている。この
うちバリアフリー化については、図表 2.9 でみたように、施設整備が進んでいる観光
施設の方が低い割合となっている。
観光施設、宿泊施設の回答を合算し受入れ状況別にみると、受入れに消極的なほど
「バリアフリー化」が高くなっており、逆に、積極的なほど「従業員の育成」が高く
なっている。
図表 2.25 観光施設、宿泊施設における必要な取組み
【両施設の比較】
60%
観光施設(n=228)
宿泊施設(n=87)
50%
40%
30%
20%
10%
0%
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑩
そ
の
他
⑪
特
に
な
し
【受入れ状況による比較】
80%
積極的に受入れている(n=115)
70%
要望があれば受入れる(n=121)
60%
受入れたいが受入れられない+できれば受入れたくない(n=45)
50%
40%
30%
20%
10%
0%
①
施
設
全
体
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
対
象
者
向
け
の
備
品
の
設
置
②
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
知
識
の
取
得
③
館
内
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
に
必
要
な
に
対
応
で
き
る
従
業
員
の
育
成
④
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
相
談
相
手
の
獲
得
⑤
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
他
業
種
と
の
連
携
介
助
人
材
を
補
う
た
め
の
⑥
自
施
設
に
な
い
設
備
・
備
品
や
S
N
S
、
マ
ス
媒
体
で
の
情
報
提
供
- 41 -
⑦
案
内
パ
ン
フ
レ
ッ
ト
、
自
社
H
P
、
⑧
旅
行
会
社
へ
の
営
業
活
動
営
業
活
動
⑨
介
護
施
設
、
障
害
福
祉
施
設
へ
の
2.1.8.自施設・自社で取組みを促進していくために必要な行政等の支援策
全業種に対し、今後、行政等によるどのような支援策や取組みがあれば自施設・自
社のユニバーサルツーリズムの対象者の受入れが促進すると思うかについて聞いた。
各業種によって選択肢が異なるため、各業種ごとの結果について整理する。
a.観光施設
観光施設では、自施設の受入れを促進していくために必要な行政等の支援策として、
「施設のバリアフリー化への補助金等の支援」が 52.7%で最も多く、次いで「ユニ
バーサルツーリズムに対応できる従業員教育に対する支援」(35.0%)、「旅行介助で
きる有償・無償ボランティアの育成、活用」(24.9%)と続いた。
現在の受入れ状況別にみると、受け入れられない先でハード整備への支援策を求め
る意見が多いものの、積極的な先も受動的な先もほぼ同様の傾向を示しており、必要
な支援策の認識は概ね一致している。
図表 2.26 観光施設が受入れを促進していくために必要な行政等の支援策(3 つまで)
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
補
助
金
等
の
支
援
施
設
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
へ
の
ア
ド
バ
イ
ス
が
で
き
る
専
門
家
の
派
遣
施
設
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
の
設
計
、
従
業
員
教
育
に
対
す
る
支
援
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
観
光
案
内
窓
口
の
設
置
ユ
ニ
バ
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サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
対
象
と
し
た
推
進
し
て
い
る
旅
行
会
社
の
紹
介
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
紹ー
介リ
ズ
ム
関
連
商
品
の
介
護
施
設
や
障
害
福
祉
施
設
で
の
情
報
の
提
供
設
・
交
通
機
関
に
つ
い
て
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
地
域
の
一
元
的
な
観
光
施
設
・
宿
泊
施
ボ
ラ
ン
テ
ィ
ア
の
育
成
、
活
用
旅
行
介
助
で
き
る
有
償
・
無
償
情
報
交
換
の
場
構の
築提
供
・
推
進
体
制
の
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
地
域
住
民
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
普
及
・
啓
蒙
活
動
地
域
の
観
光
関
連
事
業
者
へ
の
そ
の
家
族
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
全体(n=237)
積極的に受入れている(n=95)
要望があれば受入れる(n=81)
受入れたいが受入れられない(n=26)
*
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
や
そ
の
他
特
に
な
し
サンプル数が少ないため「できれば受入れたくない」は除いた。また、受入れ状況に「無回答」がある。
このため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異がある。
- 42 -
b.宿泊施設
宿泊施設では、自施設の受入れを促進していくために必要な行政等の支援策として、
「施設全体や客室のバリアフリー化への補助金等の支援」が 73.9%で最も多く、次
いで「ユニバーサルツーリズムに対応できる従業員教育に対する支援」
(40.9%)、
「旅
行介助できる有償・無償ボランティアの育成、活用」(30.7%)と続いている。この
上位 3 つは先の観光施設と同じである。
現在の受入れ状況別にみると、積極的な先も受動的な先もほぼ同様の傾向を示して
いるが、「ユニバーサルツーリズムを対象とした観光案内窓口の設置」、「ユニバーサ
ルツーリズムを推進している旅行会社の紹介」については、積極的な先が全体の 2 倍
以上の割合となっており、差が大きくなっている。
図表 2.27 宿泊施設が受入れを促進していくために必要な行政等の支援策(3 つまで)
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
の
補
助
金
等
の
支
援
施
設
全
体
や
客
室
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
へ
専
門
家
の
派
遣
設
計
、
ア
ド
バ
イ
ス
が
で
き
る
施
設
全
体
や
客
室
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
の
従
業
員
教
育
に
対
す
る
支
援
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
観
光
案
内
窓
口
の
設
置
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
対
象
と
し
た
推
進
し
て
い
る
旅
行
会
社
の
紹
介
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
紹ー
介リ
ズ
ム
関
連
商
品
の
介
護
施
設
や
障
害
福
祉
施
設
で
の
情
報
の
提
供
設
・
交
通
機
関
に
つ
い
て
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
地
域
の
一
元
的
な
観
光
施
設
・
宿
泊
施
旅
行
介
助
で
き
る
有
償
・
無
償
ボ
ラ
ン
テ
ィ
ア
の
育
成
、
活
用
情
報
交
換
の
場
構の
築提
供
・
推
進
体
制
の
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
地
域
住
民
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
普
及
・
啓
蒙
活
動
地
域
の
観
光
関
連
事
業
者
へ
の
そ
の
家
族
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
全体(n=88)
積極的に受入れている(n=24)
要望があれば受入れる(n=41)
受入れたいが受入れられない(n=14)
*
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
や
そ
の
他
特
に
な
し
サンプル数が少ないため「できれば受入れたくない」は除いた。また、受入れ状況に「無回答」がある.
このため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異がある。
- 43 -
c.旅客運送
旅客運送では、自社の受入れを促進していくために必要な行政等の支援策として、
「福祉車両購入に対する補助金等の支援」が 72.1%で最も多く、次いで「ユニバー
サルツーリズムに対応できる従業員教育に対する支援」(52.5%)が続く。特に、こ
の 2 点は積極的に受入れている先で約 7 割あり、他の項目との差も大きいことから、
旅客運送から強く求められている支援策であることが分かる。
図表 2.28 旅客運送が受入れを促進していくために必要な行政等の支援策(3 つまで)
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
補
助
金
等
の
支
援
福
祉
車
両
購
入
に
対
す
る
専
門
家
の
派
遣
立
ち
上
げ
の
ア
ド
バ
イ
ス
が
で
き
る
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
事
業
従
業
員
教
育
に
対
す
る
支
援
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
観
光
案
内
窓
口
の
設
置
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
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ム
を
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象
と
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た
ユ
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交
地
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ニ
域
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の
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ー
施
関
一
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設
に
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ル
ル
的
ツや つ
ツ
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ー
会
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リ
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介
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ズ
の
ム
ム
祉
施
紹
リ
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を
設
介
連設 フ
推
・
宿
商で リ
進
泊
し
品の ー
施
て
の
…
い
旅
行
介
助
で
き
る
有
償
・
無
償
ボ
ラ
ン
テ
ィ
ア
の
育
成
、
活
用
情
報
交
換
の
場
構の
築提
供
・
推
進
体
制
の
ユ
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バ
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サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
地
域
住
民
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
普
及
・
啓
蒙
活
動
地
域
の
観
光
関
連
事
業
者
へ
の
全体(n=61)
積極的に受入れていきたい(n=23)
受入れてもよい(n=29)
できれば受入れたくない(n=8)
*
そ
の
家
族
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
や
そ
の
他
特
に
な
し
受入れ状況に「無回答」があるため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異があ
る。
- 44 -
d.旅行業者
旅行業者では、自施設の受入れを促進していくために必要な行政等の支援策として、
「地域の一元的な観光施設・宿泊施設・交通機関についてのバリアフリー情報の提供」
が 50.0%で最も多く、次いで「旅行介助できる有償・無償ボランティアの育成、活
用」
(46.2%)
、
「ユニバーサルツーリズムに対応できる従業員教育に対する育成支援」
(42.3%)と続いている。
図表 2.29 旅行業者が受入れを促進していくために必要な行政等の支援策(3 つまで)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
専
門
家
の
派
遣
企
画
・
販
売
の
ア
ド
バ
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ス
が
で
き
る
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
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ム
の
従
業
員
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育
に
対
す
る
育
成
支
援
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
観
光
案
内
窓
口
の
設
置
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
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ム
を
対
象
と
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た
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
紹ー
介リ
ズ
ム
関
連
商
品
の
介
護
施
設
や
障
害
福
祉
施
設
で
の
情
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の
提
供
設
・
交
通
機
関
に
つ
い
て
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
地
域
の
一
元
的
な
観
光
施
設
・
宿
泊
施
ボ
ラ
ン
テ
ィ
ア
の
育
成
、
活
用
旅
行
介
助
で
き
る
有
償
・
無
償
情
報
交
換
の
場
構の
築提
供
・
推
進
体
制
の
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
地
域
住
民
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
普
及
・
啓
蒙
活
動
地
域
の
観
光
関
連
事
業
者
へ
の
そ
の
家
族
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
全体(n=26)
積極的に受入れていきたい(n=2)
受入れてもよい(n=14)
できれば受入れたくない(n=10)
*
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
や
そ
の
他
特
に
な
し
受入れ状況に「無回答」があるため、各受入れ状況のサンプル数の合計と全体のサンプル数には差異があ
る。
- 45 -
e.観光施設と宿泊施設の比較
観光施設と宿泊施設に聞いた受入れを促進していくために必要な行政の支援策の
うち、同じ選択肢のみを取り出し比較した結果、図表 2.30 の通りとなった。両業種
とも、傾向はほぼ同じであり、
「バリアフリー化への支援」
、
「従業員の育成への支援」
、
「ボランティアの育成、活用」が多くなっており、いずれも宿泊施設の方が高い割合
となっている。
観光施設、宿泊施設の回答を合算し受入れ状況別にみると、受入れに積極的なほど
「観光案内窓口の設置」
、
「情報の提供」が高くなっていることから、ユニバーサルツ
ーリズムにおける情報の重要性が確認できる。
図表 2.30 観光施設、宿泊施設が受入れを促進していくために必要な行政等の支援策
【両施設の比較】
80%
観光施設(n=237)
70%
宿泊施設(n-88)
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
⑬
そ
の
他
⑭
特
に
な
し
【受入れ状況による比較】
70%
積極的に受入れている(n=119)
60%
要望があれば受入れる(n=122)
50%
受入れたいが受入れられない+できれば受入れたくない(n=47)
40%
30%
20%
10%
0%
①
施
設
の
バ
リ
ア
フ
支リ
援ー
化
へ
の
補
助
金
等
の
イ
ス
が
で
き
る
専
門
家
の
派
遣
②
施
設
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
の
設
計
、
ア
ド
バ
従
業
員
教
育
に
対
す
る
支
援
③
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
対
応
で
き
る
観
光
案
内
窓
口
の
設
置
④
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
対
象
と
し
た
旅
行
会
社
の
紹
介
⑤
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
を
推
進
し
て
い
る
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
関
連
商
品
の
紹
介
⑥
介
護
施
設
や
障
害
福
祉
施
設
で
の
ユ
ニ
バ
ー
交
通
機
関
に
つ
い
て
提の
供バ
リ
ア
フ
リ
ー
情
報
の
⑦
地
域
の
一
元
的
な
観
光
施
設
・
宿
泊
施
設
・
ア
の
育
成
、
活
用
⑧
旅
行
介
助
で
き
る
有
償
・
無
償
ボ
ラ
ン
テ
ィ
- 46 -
交
換
の
場
の
提
供
・
推
進
体
制
の
構
築
⑨
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
に
関
す
る
情
報
⑩
地
域
住
民
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
⑪
地
域
の
観
光
関
連
活事
動業
者
へ
の
普
及
・
啓
蒙
家
族
へ
の
普
及
・
啓
蒙
活
動
⑫
ユ
ニ
バ
ー
サ
ル
ツ
ー
リ
ズ
ム
の
対
象
者
や
そ
の
2.1.9.アンケート結果のまとめ
アンケート結果を整理すると、中国地域における観光関連産業の現状ならびに問題
点は、下表の通りとなる。
図表 2.31 アンケート結果からみる観光関連産業の現状と問題点
現
観光関連産業の
景況とユニバー
サルツーリズム
の対象者の動向
ユニバーサル
ツーリズムに
対する認識
取組み状況
今後の
受入れ意向
状
・現在の景況を 5 年前と比較すると、悪化している割合が改善している割合
を上回っており、5 年後の先行きでも改善見通しは少ない。
・こうした中、ユニバーサルツーリズム対象の顧客は 5 年前と比べ観光施設、
宿泊施設の約 3 割、旅客運送の約 4 割で増加しており、減少した事業所は
僅かである。
・ただし、各業種ともにユニバーサルツーリズムの対象者の受入は顧客全体
の 5%未満がほとんどである。
・車いす使用者を積極的に受入れている施設は、観光施設の 44.7%、宿泊施
設の 25.5%にとどまっている。
・ユニバーサルツーリズムの対象者は今後増加すると認識しているもの、自
社の利益向上につながると回答している先はいずれの業種も 2~3 割にとど
まっている。
・施設における、車いす使用者用のトイレの設置や入口といったハード整備
の実施率は観光施設では 6~7 割、宿泊施設では 4~5 割程度である。
・ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズとして挙げられていたバリアフ
リー情報の公開の実施は、観光施設、宿泊施設ともに 1 割程度にとどまっ
ている。
・宿泊施設において、全体の約 3 割が車いす使用者用客室を設置している。
このうち設置により売上・利益が向上した宿泊施設は設置している施設全
体の約 2 割にとどまっている。ただし、積極的に受入れている先に限定す
ると、約 4 割が売上・利益の向上に結び付いている。
・今後必要な取組みとしては、バリアフリー化や車両の購入等、設備面・ハ
ード面と従業員育成をあげる意見が多い。特に、受入れに消極的なほどハ
ードを求める意見が多く、受入れに積極的なほど、従業員育成等ソフト面
の充実を求める意見が多い。
・観光施設や旅客運送では積極的に受け入れたいとする回答が多いが、宿泊
施設、旅行業者は積極的な回答をした先が少ない。
問題点
・ユニバーサルツーリズムを利益獲得の市場とみなしていない
・ハード整備をユニバーサルツーリズムに取組む上での障壁と認識している
・ユニバーサルツーリズムに関わる人材・ノウハウが不足していると認識している
・施設のバリアフリー情報の公開が進んでいない
- 47 -
2.1.10.中国地域における取組み事例
アンケートの回答先の中で、積極的にユニバーサルツーリズムの対象者を受入れ、
自社の売上・利益向上に結び付けている先がみられた。そこで、こうした成果を挙げ
ている事業所 3 社にヒアリング調査を行い、取組む上でのポイントをまとめた。
a.昭和観光社(広島県東広島市)
〈ポイント〉
・顧客の身体状態を把握し、旅行中にきめ細かいケア・気配りを行っている
・ユニバーサルツーリズムに意欲がある人材を旅行サポーターとして活用している
代
表
者
代表取締役
創
業
年
昭和 46 年 6 月
数
4 名(パート含む)
従
業
員
平森良典
ユニバーサル
・バリアフリーツアー「心の翼」の催行
ツーリズムに
・福祉団体の手配旅行
関連した取組み
・講演・研修会講師(ユニバーサルツーリズム関係者向け)
・研修会講師(ケアマネージャー・地域包括支援センター向け)
【取組みを始めた経緯】
・平森氏は長年福祉団体等の添乗員を務めてきた。平成 2 年に障がい者の個人旅行に添乗した時、
旅を楽しむ障がい者の最高の笑顔を見ることができた。これを機に高齢者や障がい者が笑顔に
なれる旅行を提供したいと思い、平成 5 年にバリアフリーツアー「心の翼」部門を設立した。
【提供している旅行商品等】
・
「心の翼」部門では杖歩行者と車いす使用者に分けた旅行商品を 21 年に渡り販売している。顧
客は、杖、車いす使用者、身体障がい者(肢体)がほとんどで要支援・要介護認定者が多い。
・主なターゲットは高齢により足腰や膝に傷みを感じる方、脳卒中、股関節等脊椎損傷、頚椎損
傷、小児麻痺、ALD 等比較的重度な要介護認定者が中心である。年代は 60~70 歳代が中心で中
には 80 代の方もおられる。
・同部門の最大のポイントは、旅行を諦めていた顧客が旅行中に笑顔になり、これからの人生を
もう一度頑張ろうと意欲をもって下さる等、単なる旅行体験以上の喜びや感動を味わって頂け
ることにある。旅行後の健康状態や生活にも良い効果が出ていると考えられる。
・福祉団体部門は「心の翼」部門のノウハウを活用したきめ細やかな旅行の提案、事前準備、当
日のケア・気配りに定評があり、車いす使用者や重度障がい者の施設からの手配旅行の依頼が
多い。
・旅行を提供するほか、ユニバーサルツーリズム関連の研修も行っている。
①観光関連産業、商店街、市民等向けに、杖歩行の人、歩行できるが車いすも利用する人、車
いす使用者等各ターゲットへのおもてなし、情報の見せ方等実例報告に基づく研修会を行っ
ている。
②行政・各種団体向けにユニバーサルツーリズムまちづくり推進サポート、観光資源調査、
- 48 -
モニターツアー等を行っている。
③福祉・介護・医療(ケアマネージャー、地域包括支援センター)向けに、ユニバーサルツー
リズムは当事者の「心」
、「身体、
」「人生の生きがい目標」に変化をもたらし、意欲的にリハ
ビリ等ができることを伝え、利用者と向き合うモニターツアー、リハビリプランの作成やリ
ピートにつながる実務体験研修を行っている。
④学生(観光・福祉医療)向けに、利用者と向き合うモニターツアー、リハビリプランの作成、
リピートにつなげる実務体験研修を行っている。
福祉団体部門ツアー
旅行サポーター養成講座実践ツアー
【収益性】
・利益率は「心の翼」部門が高く、
「心の翼」と福祉団体手配で売上全体の 8 割を占めている。
【顧客の集客方法】
・同社の会員に小冊子「心の翼」を年に 3 回送付している。
・各種福祉団体、介護老人施設、リハビリ病院等に営業活動をしている。
【高齢者や障がい者を受入れる上で工夫していること】
・
「心の翼」部門の添乗は、旅行介助歴 21 年の平森代表が行い、催行人数を 12 名までに抑え(催
行可能人数は 6 名以上)
、顧客に対してきめ細かいケアができるようにしている。
・希望者には、旅行中に介助を行う旅行サポーターサービスを設けている(詳細は次項目を参照)
。
サービス内容は、顧客の身体状況に応じて 2 段階に分けている。
①介助(車いす介助、見守り等、要支援 1、2、要介護1の方を想定)
②介護(排泄、食事、衣服の着脱等の介助と車いすの介助等、要介護 3~5 の方を想定)
・全国の介護事業所と提携し、温泉地に行く場合は入浴ヘルパーを顧客に紹介している。契約の
準備は弊社で代行し、正式契約と支払は顧客が直接行っている。
【旅行サポーターの概要】
・自社で旅行サポーターを育成し(「心の翼 トラベルヘルパー養成講座実習ツアー」)、旅行
サポーターを伴うツアーを実施している。
・旅行サポーターは現在 40 名が登録している。40~60 代を中心に現役が 7 割、退職者が 3 割で、
医療・介護事業所での就業経験やボランティア活動の経験者が多い。サービス介助士、ガイド
ヘルパーやヘルパー2 級、看護師等の資格保持者もある。広島県を中心に岡山県・山口県にも
登録者がいる。中国地域の登録者を増やすため、インターネットで登録できるようにしている。
・旅行のサポートは顧客が笑顔になる瞬間を見ることができるやりがいのある仕事である。旅行
サポータは、意欲が高くそれぞれが持つスキルを活かしながら旅行介助に取組んでいる。
・旅行サポーターへの日当は基本的に 1~3 万円台で、サポート内容、日数等により異なる。要
- 49 -
介護 4~5、深夜のケア等には加算する仕組みになっている。旅行サポーターには旅費の 2 割
を自己負担(8 割は顧客が負担)して貰っているが、旅費を差引してもプラスになる。
・年に 2 回程度実施している「心の翼トラベルヘルパー養成講座実践ツアー」は、旅行サポータ
ーが実務を学ぶ講習であり、顧客は旅行サポーターの旅費を負担しなくてもよいが、介助の謝
礼金程度を負担する。そのため通常より割安なバリアフリー介助付旅行を提供できる。
【同社の課題】
・同社の取組みは地元のマスコミで何度も取り上げられているが、それでもバリアフリー旅行は
浸透していない。
・同社のターゲットと密な関係にあるケアマネージャーやデイサービス、リハビリ施設に営業活
動を行っている。旅行には効果があるということ(日常生活の意欲向上、外出への自信、健康
増進、介護予防等)は理解してもらえるが、旅行は介護保険外でありリスクを伴うことから利
用者を紹介して貰うことはできず、新規顧客の開拓に結び付かない。高齢者や障がい者で旅行
に行きたい人、情報が欲しい人にどのような方法で旅行商品を PR するかが課題となっている。
【旅行業からみる受入れ側の問題点】
・宿泊施設では刻み食やミキサー食といった配慮が必要な食事、入浴時の入浴専用車いすの使用
や入浴ヘルパーの利用を断られるケースがある。また、高齢者や障がい者が必要とするきめ細
かいバリアフリー情報がホームページ(HP)等で十分に公開されていない。
・観光施設で刻み食、ミキサー食、トロミ食等を作れる施設が少ない。また施設のバリアフリー
情報の公開が不十分である。
・旅客運送の福祉タクシーでは、賠償責任保険の有無、ヘルパー2 級取得者の有無、設備(車い
すを固定できるか、座席の図面、介助者用または折りたたみ椅子、乗降時のステップ、手すり
の有無や高さ等の写真)等の情報が十分に提供されていない。
【行政への要望】
・ユニバーサルツーリズムは、健康増進や介護予防につながり、医療費や介護保険料の削減が見
込めると考えられる。また地域住民にとっても安心して外出できる場所が増えることから高齢
者や障がい者に優しいまちづくりの促進にもつながる。このように観光だけではなく、医療・
福祉、交通等様々な分野への波及効果があると考えられる。このため縦割りではなく各部局を
横断する総合的な政策として取組んでほしい。
・中国地域において、ユニバーサルツーリズムに取組んでいる受入先はまだ少ない状況であり、
観光関連産業全般の意欲を引き上げる啓発活動に支援してほしい。
【今後の展望】
・旅行地毎に旅行サポーターが揃い個人旅行やツアーで利用できれば、サービスの向上につなが
る。同社が実施している「心の翼トラベルヘルパー養成講座実践ツアー」の取組みを中国地域
で行い、県毎に旅行サポーターを育成、活用できるようにしたい。
・ユニバーサルツーリズムの市場性や介護予防、旅行の良さを広く知ってもらうための講演や研
修会の講師としても活動していきたい。
・ユニバーサルツーリズムの促進には、観光、医療、福祉、介護、外出支援分野の取組みの発展、
学生、旅行サポーターの育成が重要である。同社はこれまでの事業で蓄積してきたユニバーサ
ルツーリズムの対象者や家族の視点を大切にした実践ノウハウを活かし、上記の分野や人材に
対してユニバーサルツーリズム事業のコーディネート、育成事業を行う意向がある。
- 50 -
b.季譜の里(岡山県美作市)
〈ポイント〉
・ターゲット、宿のコンセプトを明確に打ち出している。
・既存建築物の改修という制約の中で、顧客満足につながる工夫を行っている。
・個々の顧客の健康状態等配慮すべき点を従業員同士が共有し対応している。
代
表
者
代表取締役社長
設
立
年
昭和 47 年 12 月
数
48 人
従
業
員
佐々木慎太郎
ユニバーサル
・改築によるバリアフリー化
ツーリズムに
・車いす使用者対応の客室を設置
関連した取組み
・館内での車いすの貸出し
・刻み食、ミキサー食等食事の提供
季譜の里 全景
玄関を上がると全面畳張りのフロアが広がる
【取組みを始めた経緯】
・昭和 47 年に湯郷温泉で湯郷プラザホテルを開業し、平成 14 年に全館畳敷きのバリアフリーの
旅館にリニューアルし、
「季譜の里」と名称を改めた。
・当時、不況による価格競争の激化、メインターゲットと位置付けていた団体客の減少が課題で
あったことから、これを克服するため、個人客をターゲットに定め「お客様に癒しと感動を提
供する宿」を目指しリニューアルに踏み切った。平成 21 年には高齢の顧客に対応するため、
車いす使用者でも利用できるスイートルーム、セミスイートルームを設置した。リニューアル
後は、個人客が中心となり、高齢者、子供連れ、女性グループ等様々な顧客がある。単なるバ
リアフリー化ではなく、居心地のよい空間づくりをコンセプトに、畳時敷きのフロアにあるラ
ウンジに地元家具職人が手掛けたくつろげる椅子を設置したり、館内 76 カ所に生け花を展示
する等しており、館内の総合的な居心地の良さが集客増に結びついている。
- 51 -
【車いす専用の客室の稼働状況・利用者の属性】
・現在車いすを使用する顧客は月に 15 人程度ある。
・車いすを使用する顧客が利用できる客室は、スイートルーム、セミスイートルーム、露天風呂
付きの客室(平成 14 年に改修)の計 3 室ある。いずれも同館の中でも最も高級で、客室単価
も高めに設定しているが、いずれの客室も高齢者の利用が多く稼働率は順調で、他の客室より
わずかに高い。なお、一般の客室でも足腰が弱ってきた高齢者が宿泊している。
・同館よりも良い温泉をもつ宿泊施設があっても、あえて同館を選ぶ顧客が確実にいる。要はそ
の人にとって宿泊する際に何を重視しているかがポイントである。足が不自由になり、なかな
か宿泊旅行ができなかった顧客も、同館のサービスと設備によって、安心して泊まることがで
きる。このため、同館への宿泊を楽しみに何度も泊まりに来る顧客が増えた。中には数か月に
1 度の割合で訪れる顧客もある。
・全館貸切で介護福祉施設の団体旅行 100 名を受入れにも対応できた。
バリアフリーのスイートルーム
露天風呂付きの客室
【高齢者や障がい者を受入れる上で工夫していること】
・館内で車いすの貸出しを行っている。予約を受ける際車いすの利用を確認し、利用される場合
は担当する従業員が把握できるよう指示書に記載し、来館時には駐車場まで出迎えるようにし
ている。基本的には同館が用意する車いすに乗り換えて頂いているが、要望がある場合には顧
客の車いすの車輪を拭いて館内でも利用できるようにする等、臨機応変に対応している。
・高齢者や障がい者に限らず全ての宿泊客の意見・要望を取り入れ、館内の使い勝手、サービス
の質を高めるようにしている。
・純和風旅館としての風情を感じられるよう、宴会場から階段、手すりの細部に至るまでデザイ
ンにはこだわりをもっている。一方、顧客の要望に応え、より快適に旅館で過ごしてもらえる
よう、改修だけではない工夫もしている。例えば、廊下と部屋の入口の段差を解消するため、
旅館の雰囲気に合う木製のスロープを特注した。また、エレベーターには、足腰が弱い顧客が
座れる木製のミニチェアを設置した。どちらの工夫も、館内の和風旅館としてのイメージを妨
げずにできるさりげないおもてなしである。こうしたおもてなしが、宿泊客に本旅館を満足し
てもらうための大切なサービスであると認識している。
- 52 -
廊下と宴会場の間の段差を解消するスロープ
エレベータの角に設置した腰掛
・顧客の健康状態や刻み食や車いす等の要望を把握し、指示書を作成している。毎日行う朝のミ
ーティングで担当する従業員が必ずチェックするようにしている。
・同館はリピーター客が多いので、顧客情報を徹底管理し、次の問合せがあった時に迅速な対応
ができるようにしている。
【人材育成】
・過去に介助の研修会に従業員を参加させたこともあったが、現在は研修への参加は実施してい
ない。同館は高齢者や障がい者の利用が頻繁にあるので、OJT*で実務能力を高めている。
【取組み時に受けた支援等】
・改修工事にかかる費用は全て同館によるものであるが、改修時にユニバーサルデザインの観点
からのアドバイスを NPO 法人まちづくり機構(61~62 頁参照)より受けた。
*
OJT (On the Job Training)…仕事中、仕事遂行を通して訓練をすること、職場内教育
- 53 -
c.倉敷アイビースクエア(岡山県倉敷市)
〈ポイント〉
・自施設で対応可能な「おもてなし」を明示している
・個々の顧客の健康状態等配慮すべき点を従業員同士が共有し対応している
・観光地一体で取組んでいる推進事業を従業員教育等に活用している
代
表
者
代表取締役社長
設
立
年
昭和 48 年 5 月
資
本
金
2 億 5 千万円
小林清彦
従
業
員
数
139 名
事
業
内
容
〈ホテル業〉・宿泊・宴会・ブライダル ・レストラン ・駐車場
〈その他文化施設の運営〉
・倉紡記念館・アイビー学館・愛美工房・オルゴー
ルミュゼ・ゴルフ練習場
ユニバーサル
・施設の部分的な改修
ツーリズムに
・料理内容の個別対応
関連した取組み
・「おもてなしマイスター」認定スタッフの育成
・ユニバーサルツーリズム関連のサービスを明示した看板(「おもてなし処」)
の設置
・車イスの無料貸出し(
「くらしきシティ車いす」登録ステーション)
【取組みを始めた経緯】
・同館は、明治期に創業した倉敷紡績(クラボウ)工場跡を再開発して、昭和 49 年 5 月に開業
したホテルであり、倉敷美観地区に位置する。敷地が約 3 万㎡あり、宿泊施設だけではなく、
多目的ホール、学館、記念館、美術館、工房、店舗、史跡、神社等多くの施設があり、観光地
のシンボルとなっている。
・同館はもともと修学旅行の受入れが多かった
が、90 年代後半頃より修学旅行地の多様化が
進み、受入数が次第に減少していった。そこ
で、新しい顧客として特別支援学校等の団体
や近隣在住で地域の福祉・介護施設を利用し
ている人の需要を見込み、障がい者が利用し
やすい施設整備として大浴場や玄関等のバリ
アフリー化を行った。
・また、近年美観地区でも地域をあげてバリア
フリー化に取組み、様々な観光客を受入れて
いこうという機運が高まっている。これまで
フロント(右側)と客室(左側)の段差を解消
するためにスロープを設置している(手前)
に行政、民間企業等が連携しバリアフリー推進協議会を立ち上げ、まち全体のバリアフリー
)
化、ソフト面でのおもてなしの充実を進めてきた。例えば観光施設や店が軒先にベンチを出
したり、どのようなサービスができるか一目で分かる「おもてなし処」
(73 頁参照)の看板を
フロント(右側)と客室(左側)の段差を解消
出す等、地域ぐるみで高齢者、障がい者を含め、観光客の満足度を高める取組みが始まって
おり、同館でもこの取組みに積極的に関わっている。
- 54 -
するためにスロープを設置している(手前
【現在の受入れ状況】
・バリアフリー化を進めた結果、山陰、山陽方面の特別支援学校からの利用が増え、地元の重度
の障がい者からも身近に旅行気分を味わえる施設としてよく利用されている。障がい者の団体
は、特に重度の場合ほとんどが日帰りで、館内のレストランで食事をしたり陶芸体験等をして
過ごしている。軽度の障がい者の団体では宿泊利用もある。
・障がい者 1 人に対して介助者や教師、看護師等 3 名程度が同行している。
・特別支援学校の教員同士で修学旅行やイベントで利用する宿泊施設の情報交換をしており、同
館の利用も教員の口コミ効果が大きい。
・近年は高齢者の利用が増加傾向にあり、20 年にわたり障がい者の顧客を積極的に受入れてき
たノウハウが高齢の顧客への対応に活かされている。今後、体が不自由になった老親を旅行に
連れて行ってやりたいというニーズはさらに増えると考えられることから、近くて安心して利
用できる施設として隣県からの利用客が増えることが期待できる。
【高齢者や障がい者を受入れる上で工夫していること】
・当館が対応できるおもてなしが一目で分かる
「おもてなし処」の認証マークを設置してい
る。できることをリスト化し顧客に明示する
ことで、顧客は同館の対応状況を把握でき、
お互いのコミュニケーションもとりやすい。
・大浴場の使用時間は、一般の顧客と障がい者
の団体客と分けている。
・朝のミーティングにおいて、個々の顧客の状
況と配慮すべきこと(車いす、食事等)につ
いて、従業員同士で確認を行っている。一般
美観地区で行っている「おもてなし処」の看板。
同館が実施しているサービスが一目で分かる
客に比べれば配慮することが多く手間もかか
るが、障がいをもつ顧客への接遇には 20 年に
わたり蓄積してきたノウハウがあり、配慮すべきことや気配りは決して特別なことではなく 1
人の顧客を前にした当たり前のこととして行っている。
・美観地区で進めている人材育成研修「おもてなしマイスター」制度(73 頁参照)を従業員は
必ず受講するようにしている。同館を実践研修の場として活用することもあり、従業員のスキ
ルアップにつながっている。
・同館内だけではなく倉敷の街を散策してもらえるよう、車いすの無料貸出しを行っている。こ
れは JR 倉敷駅、美観地区周辺の範囲で行われている事業「くらしきシティ車椅子」
(倉敷商工
会議所主催)を活用したもので、同館を含む 10 施設が無料貸出しステーションとして登録さ
れている。利用者は各ステーションであればどこでも自由に返却することができる。
・1 事業所で顧客を囲い込むという発想から、高齢者や外国人等「街ぐるみで市場を広げる」と
いう発想に転換させ、まずは倉敷に行きたいと思う旅行者を増やすための取組みを地域で考え
実行することが大切である。
・インターネットを利用して宿泊予約をしたり、事前に情報収集する旅行者は増えているが、現
在の同館の HP は高齢者や障がい者へのサービスやバリアフリー情報の PR が弱い。最近、同館
は魅力向上につながる取組みや情報発信を強化するために、組織改正し企画部を立ち上げた。
今後は企画部で、同館が高齢者や障がい者が安心して楽しめる施設であることを HP で PR して
いく必要があると考えている。
- 55 -
2.2.支援組織、各県観光施策の取組みの現状
2.2.1.支援組織へのヒアリング調査
中国地域でユニバーサルツーリズムの支援、またはユニバーサルデザイン*やバリ
アフリー化の支援に取組んでいる「支援組織」の取組みの現状を把握するため、ヒア
リング調査を実施した。詳細は下表の通りである。
図表 2.32 ヒアリング実施要領
調査の目的
ユニバーサルツーリズムを支援している中国地域の事業所の現状(事業内容、
実績)と問題点を抽出する。
対
象
中国地域を拠点にユニバーサルツーリズムの支援、または地域のユニバーサ
ルデザインやバリアフリー化の支援に取組んでいる事業所
調 査 事 項
・法人概要
・・ユニバーサルツーリズムまたはユニバーサルデザインやバリアフリー化支
・
援のための取組み内容
・取組みを進める上での課題
・今後の展望
・地域でユニバーサルツーリズムを支援するために取組むべきこと
調 査 時 期
平成 26 年 7 月~8 月
図表 2.33 ヒアリング先一覧
事業所・組織名
所在地
特定非営利活動法人トラベルフレンズ・とっとり
(松江/山陰バリアフリーツアーセンター)
特定非営利活動法人プロジェクトゆうあい
島根県松江市
(松江/山陰バリアフリーツアーセンター)
岡山県岡山市
特定非営利活動法人まちづくり推進機構岡山
特定非営利活動法人呉サポートセンターくれシェンド
(呉バリアフリーツアーセンター)
広島県呉市
山口県山口市
バリアフリー公共交通研究調査会
*
鳥取県鳥取市
ユニバーサルデザイン(Universal Design、UD)…できるだけすべての人が利用可能であるように製品、
建物、空間をデザインするという考え方
- 56 -
2.2.2.支援組織ヒアリング調査結果
a. 特定非営利活動法人トラベルフレンズ・とっとり
(鳥取県鳥取市、「松江/山陰バリアフリーツアーセンター」
)
代
表
者
理事長
設
立
年
平成 20 年
職
員
数
17 名
容
・有償ボランティア組織による旅のサポート
事
業
内
竹内功
・障がい者や高齢者の旅行相談の窓口の設置
・観光事業所やサポーター会員を対象とした教育研修・接遇研修の実施
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・平成 18 年 10 月に当時の鳥取県観光プロデューサーの発案により、鳥取県観光連盟を事務局
に障がい者や高齢者の旅を介助する「とっとり・トラベルボランティア・ネットワーク」が
設立された。平成 20 年 5 月には NPO 法人化した。平成 23 年に団体名を現在の「トラベルフ
レンズ・とっとり」に改めた。
【ユニバーサルツーリズム関連の主な取組み】
①旅のサポート(介助者の派遣)
・同法人は旅をサポートする有償ボランティア「サポート会員」を組織している。現在会員数
は 15 人程度となっている。意欲ある人を求めており特別な資格は必要ない。介護福祉士、ホ
ームヘルパー2 級を取得している会員もある。サポート会員には、障がい者・高齢者への接遇
技術の取得のため、同法人が主催する「観光バリアフリー障がい者等の接遇サポート研修」
を必ず受講してもらうようにしている。
〈利用料〉
・1 日介助(5~8 時間)
:5,000 円/人
・車いす使用者の鳥取砂丘体験:10,000 円/回(4 人程度のサポート会員がサポート)
・「宿泊先出前サポート(入浴・食事介助)」
:各 1,000 円/1 時間
〈利用頻度・利用者の属性〉
・視覚障がい者の個人客が多い。近年は高齢者の顧客も増加している。年間取扱件数は多くて 6
~7 件/年、平均して 4 件/年程度の利用がある。
②旅行相談(ユニバーサルツーリズム情報の提供)
・鳥取県内のバリアフリーの宿泊施設や個々の健康・身体状態に合った旅行プランについて等
ユニバーサルツーリズム全般の様々な相談に対応している。
③教育研修・接遇研修
・自主事業として、サポート会員及び観光事業所を対象に「観光バリアフリー障がい者等の接
遇サポート研修」を行っている。
④その他
・平成 21 年にプロジェクトゆうあいと連携して「松江/山陰バリアフリーツアーセンター」を
設立した。これにより、山陰地域全体の情報発信、旅行相談対応、旅行介助サービスができ
- 57 -
るようになった。また、プロジェクトゆうあいと共同で行政等からの委託事業を受け、鳥取
県内のバリアフリー調査や接遇研修を実施することができた。
【助成・委託実績】
・島根県・鳥取県:鳥取・島根広域連携協働事業(平成 21 年度)
(接遇研修事業、県内観光施設、宿泊施設のバリアフリー調査)
・全国観光 BF 地域 ICT 推進事業(平成 22 年度)
(空港、フェリー乗船場、JR 駅、旅館、ホテルの調査、モニタリングツアーの実施)
【取組みを進める上での課題】
・相談者に旅のサービスが有償であることを説明すると、比較的安価にサポート料を設定して
いても断られることがあり、依頼件数は少ない。また、利用料の 9 割は旅のサポーターに報
酬として支払うため、同法人が得られる収入はわずかなものである。
・接遇研修は会員からの会費を元に自主開催しているが、交通費や講師への寸志等の費用負担
が大きく、コンスタントに毎年実施することが難しい。
・鳥取砂丘での車いす使用者へのサポートは、足元が砂地であるため力のある男性の手が必要
であるが、男性サポーターは他に仕事を持っているため、スケジュールを合わせることが難
しい。
【今後の事業展開】
・高齢者の増加に伴い、旅のサポート需要は増加することが予想される。同事業を対外的に PR
する等、利用件数を増やす工夫をしていきたい。
・地域全体でおもてなしするには、物的バリアよりも心的バリアの解消が大切である。そのた
め、接遇研修は観光事業者だけではなく、商店街や飲食店まで広げ、地域を挙げて受入れる
環境を整えていくことが大切である。同法人主催で開催するには費用面の負担が大きいので、
今後は行政と連携を図っていくことも重要になると考えられる。
【地域でユニバーサルツーリズムを推進するために取組むべきこと】
・介助犬に対する理解不足から介助犬の入店を拒否する飲食店がある。同法人では拒否した飲
食店に対し、介助犬の意義や介助犬の体が清潔に保ってあること等を説明しているにも関わ
らず、なかなか受入れが進まない。一方、受入れ経験を重ねた宿泊施設では、問題なく介助
犬を受入れている。まずは、介助犬に対する啓発活動や介助犬を伴った団体旅行等を活発に
させ、地域住民や事業所に実際に見て、理解してもらう機会を増やしていくことが大切であ
る。
- 58 -
b.特定非営利活動法人プロジェクトゆうあい
(島根県松江市、
「松江/山陰バリアフリーツアーセンター」
)
代
表
者
理事長
設
立
年
平成 16 年
職
員
数
68 名(うち 25 名は障害者就労継続支援 B 型事業の対象)
容
・障がい者の社会参画支援に関わる事業
事
業
内
三輪利春
・情報化の推進にまちづくり
・地域づくりに関わる事業関わる事業
ユニバーサル
・町のバリアフリー情報の提供と啓発活動
ツ ー リ ズ ム
(まちのバリアフリーマップ「てくてくマップ」シリーズの制作、バリア
関
フリーに関連する各種研修への障がいのある講師の派遣等)
連
事
業
・観光バリアフリーの取組み
(バリアフリーツアーの企画・運営、観光に関連した施設、交通に関する
バリアフリー調査の実施と情報発信、観光バリアフリー接遇研修の実施、
障がいのある旅行者の人的サポート)
【ユニバーサルツーリズムに関連する事業を始めた経緯】
・同法人は設立時より視覚障がい者や車いす利用者等の情報弱者向けに、松江市の道路の段差
等の状態、公共施設の車いす用トイレの情報等を提供するバリアフリーマップ「松江てくて
くマップ」、
「てくてくウェブ松江」を制作・運用してきた。
・この取組みをきっかけに、地域住民だけではなく、県外からの旅行者が安心して島根県を訪
れてもらえる情報を提供していくことも必要であると、その方法を模索するようになった。
・こうした中、先進的に取組んでいる伊勢志摩バリアフリーツアーセンターを視察し、旅行地
のバリアフリー情報の発信のほか、受入環境の整備(観光ガイド、バリアフリー研修)やコ
ーディネート(旅行者への情報提供等)は、今後の観光地づくりに必要であると感じた。
・同時期に松江市で「ひとにやさしいまちづくり条例」が制定されたことが追い風となり、平
成 21 年 8 月に松江市の「観光バリアフリー事業費」を基に、同法人の 1 部門として「松江バ
リアフリーツアーセンター」を設立した。同年 12 月には山陰全域でバリアフリー観光を推進
するため、呼称を「松江/山陰バリアフリーツアーセンター」に改め、トラベルフレンズ・と
っとりと共同で取組んでいる。
【事業内容】
①バリアフリー観光の相談窓口
・旅行に関する問合せは年間 70 件程度ある。同法人は視覚障がい者外出支援連絡会(JBOS)の
島根県の事務局を担っていることから、視覚障がい者からの問合せが多い。
・問合せ内容としては、宿泊施設や観光施設のバリアフリー情報、旅行プランの作成依頼、入
浴介助や視聴覚障がい者の方のための手引きの手配依頼等様々ある。顧客は 1 人でやって来
る旅慣れた人から、旅行経験がほとんどない人まで様々である。
・旅行プランの作成は、公共交通機関を利用した行程、介助者のコーディネート等多岐に渡り、
かなりの労力がかかるが、顧客の「行ってみたい、やってみたい」という要望を叶えるため、
できる限りのことをやっている。
- 59 -
②バリアフリー情報の調査
・松江市から「松江市バリアフリー情報提供事業補助金」を得ており、市内の観光施設等のバ
リアフリー情報を随時更新している。
③介助サービスのコーディネート
・旅行者のニーズに沿い、入浴介助は地元の介護福祉施設、手引きは島根ライトハウスに依頼
する等、基本的に依頼されたことには応えるようにしている。トラベルフレンズとっとりの
旅行サポーターを活用したり、同法人担当者が介助・付き添いをすることもある。
④バリアフリー情報の公開
・宿泊、飲食、鉄道駅、空港の状況や車いす対応のトイレの設置場所等をまとめ、HP「てくて
く山陰」で公開している。
・視覚障がい者向けに歩行移動を支援する機能をもつスマートフォン対応のアプリを開発した。
・「平成 22 年度年賀寄付金助成事業」で中国 5 県のバリアフリー旅行誌「山陰・山陽バリアフ
リー観光ガイドブック」を作成し中国 5 県の書店で販売している。(現在は終了)
・県内のバリアフリー観光情報を提供するフリーペーパー誌「てくてく日和」を発刊している
(詳細は 76 頁~79 頁参照)
。
⑤接遇研修の開催
・主に行政からの委託事業として、公共交通機関や宿泊施設の職員、観光ガイド等を対象とし
たバリアフリー接遇研修を実施した。
⑥その他
・平成 20 年に伊勢志摩バリアフリーツアーセンターと協同で応募した総務省の交付金事業「地
域 ICT 利活用広域連携事業」に採択された。これを機に全国規模でバリアフリーツアーセン
ターの普及させ各地で連携をはかれるよう「日本バリアフリー観光推進機構」を設立した(事
務局:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター理事長)。年に 1 度全国大会を開催しているほか、
ネットワークを活用し、各地のバリアフリーツアーセンタが相互で旅行者の送出・受入を行
っている。
【助成・委託実績】
島根県:県民との協働による島根づくり事業(平成 21 年度)
島根県・鳥取県:鳥取・島根広域連携協働事業(平成 21 年度)
松江市:松江市バリアフリーモニターツアー事業(平成 21 年度)受入窓口の開設事業(平成 21
年度~)
国土交通省中国運輸局:公共交通活性化総合プログラム(平成 20 年度)
独立行政法人福祉医療機構:高齢者・障がい者助成区分事業(平成 22 年度)
【取組みを進める上での課題と方向性】
・バリアフリーツアーセンターへの相談や旅行のコーディネートは無料で行っており、同事業
に対する直接的な収入はない。同法人の他部門の収益事業から補てんすることで、バリアフ
リーツアーセンターを運営している。
・現在、バリアフリーツアーセンターは担当者 1 名が他業務と兼務で行っている状況であり、
限られた人員の中、事業内容はある程度限定せざるをえない。
〈今後の取組み〉
・収益事業として松江市内でも観光地や宿泊施設で、乗り捨て自由の車いすの貸出しサービス
- 60 -
ができないか、検討している。
・日本バリアフリー観光推進機構と連携し、山陰地域を旅行する障がい者に防災情報をスムー
ズに提供できる仕組みづくりに取組みたいと考えている。
・バリアフリーツアーセンターの取組みはバリアフリー観光の促進につながり地域経済にもメ
リットがあると考えられるが、その時の状況により、地域・行政の熱にも温度差がある。行
政をはじめ地域全体で常にバリアフリー観光に対する意識を高く持つよう、バリアフリーツ
アーセンターの存在意義を繰り返し情報発信していく必要がある。
【ユニバーサルツーリズムを推進するために地域で行うべきこと】
・ユニバーサルツーリズムの取組みは県・地域全体で取組むべきであり、県単位の応援も必要
であると考える。例えば、バリアフリー情報調査は松江市からの委託で行っており、県内他
地域の情報調査や更新を行うことは難しい。バリアフリー情報も全県を網羅することでより
よいものとなる。
・当事者の意見を反映させたまちづくりを行うことが大切であり、意見の集約・発表ができる
場の提供が必要である。また、障がい者、高齢者が安心できるまちは自分たちの将来の安心
につながる。学校教育の現場で特別支援学校の子供たちと接するような機会をつくり、若い
世代から広い見識をもった人材教育・啓発活動を行っていくことが大切である。
・旅行者は旅行地を選択するとき、
「バリアフリーだから」ではなく、
「行ってみたいから」選
択する。そのため地域の観光に魅力があることが大前提である。
・今後高齢者が増加し配慮すべき人が増加するなか、人的対応が市民レベルでできるように啓
発活動を行っていくことも肝要である。
- 61 -
c.特定非営利活動法人まちづくり推進機構岡山
(岡山県岡山市)
代
表
者
代表理事 新谷雅之
設
立
年
平成 17 年 4 月
職
員
数
常勤 1 名ほかパート
容
・情報発信・交流・相談事業
事
業
内
・まちづくりモデル事業
・調査研究・開発事業
・人材育成事業
・ユニバーサルデザイン普及啓発事業
・その他、この法人の目的を達成するために必要な事業
ユニバーサル
ツ ー リ ズ ム
関
連
事
業
・ユニバーサルデザイン協働のパートナー事業
(地域住民、企業向けの UD ウェルカム講座の開催、UD セミナーの開催)
・宿泊施設 UD 調査事業
・ワークショップ等による UD まちづくり人材育成事業
(UD 体験ワークショップ、おかやま UD コンテスト、UD 啓発ワゴンサービス
事業、UD ほっとステーションおかやまの運営、まちかど UD 協働推進事業)
【ユニバーサルツーリズムに関連する事業を始めた経緯】
・平成 17 年に開催された岡山国体をきっかけに岡山県ユニバーサルデザイン(以下 UD)推進本
部が設置され、県で UD に取組む機運が高まった。同法人では、国体に参加する障がい者の選
手等のために車いすでも利用可能な飲食店マップを作成、配布を始めたほか、全面改築され
た JR 岡山駅のバリアフリー情報の調査を行った。
・これをきっかけに岡山県から委託を受け、UD 講習会の開催、県内各地を巡回する「UD 啓発ワ
ゴンサービス事業」での UD グッズ展示や啓発講座、高齢者疑似体験等を実施するようになっ
た。
・平成 19 年には県内における UD の考え方を県民に普及・啓発するための拠点として、全国初
のまちなか UD 啓発拠点「UD ほっとステーション」を開設した。
【事業内容】
・UD の啓発講座・講習を県からの委託事業として様々な形で約 10 年間行っている。現在は「UD
ウェルカム講座」として、年に 25 回、小学校、民間企業等幅広い対象から依頼を受けて実施
している。
・10 年前は民間企業の UD に対する関心度は低かったが、現在はスーパー、ドラッグストア等の
小売店やホテル、タクシー業等、様々な業種から講座・講習の依頼がある。顧客としての高
齢者の存在感が高まっているとみられる。
・これまで行ってきた UD の啓発講座・研修の参加者は計 4 万 5 千人にのぼり、岡山県の人口の
2.5%を占めるまでになっている。
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講座で利用する高齢者体験用グッズ
UD ウェルカム講座の様子(まちづくり推進機構岡山 HP)
【主な助成・委託実績】
岡山県:まちかど UD 協働推進事業(平成 19 年度)
岡山県:UD 啓発ワゴンサービス(平成 21 年度)
岡山県:宿泊施設 UD 調査事業(平成 22 年度)
【取組みを進める上での課題と今後の方向性】
〈運営面での課題〉
・UD の講座・講習を受ける企業は限られており、同法人単独の収益事業とすることは難しく、
継続性という観点からみれば、行政からの委託事業であることが望ましい。
・県からの UD 関連の補助金は数年前と比べ削減されている。UD 啓発講座は継続した事業となっ
ているが、平成 22 年度に実施した宿泊施設の UD 調査と HP の作成運営は、継続事業とならな
かったため更新できない状態にある。
〈今後の方向性〉
・現在は、協働パートナーとして岡山大学を迎え、大学生がまちなかで実践知を身につけるた
めの地域と学生のコミュニケーションの場をつくっている。若い人材が UD を含めたまちづく
り全体について考え、実践できる機会を設けていきたい。
・高齢者人口の増加が進む中、UD の考え方をサービスに応用していく必要性を感じている民間
企業は多い。こうした民間企業に対して、同法人のノウハウを活かしたアドバイスができる
のではないかと考えられる。
【ユニバーサルツーリズムを推進するために地域で行うべきこと】
・地域の民間企業、住民に UD とは何か、まずは知ってもらう機会を増やし、広めていくことが
大切である。特に若い世代が高齢者に関心をもちどのように接すればよいか対応を学ぶこと
が大切である。
・中国 5 県で同じように UD 関連に取組んでいる組織・団体と、緩やかな連携をとることが地域
で推進するための第一歩になる。どのようなことで連携できるか、情報交換できる場が設け
られるとよいのではないか。
- 63 -
d.特定非営利活動法人サポートセンターくれシェンド
(広島県呉市、「呉バリアフリーツアーセンター」)
代
表
者
理事長
設
立
年
平成 14 年 4 月
職
員
数
10 名
容
・NPO 中間支援センター運営
事
業
内
香川裕子
・呉市周辺のまちづくり活動への参加
ユニバーサル
・呉市を中心とした広島県内の観光バリアフリー情報の調査・発信
ツ ー リ ズ ム
・呉市内の観光施設等へのバリアフリー研修
関
・呉市内の観光バリアフリーに関する相談対応
連
事
業
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・同法人は呉市内及び近郊に活動の本拠を置く民間非営利活動団体、ボランティア、市民活動
団体の運営または活動に関する連絡、助言または援助の活動を行い、呉のまちの活性化を目
指している。
・平成 22 年に日本バリアフリー観光推進機構が設立された折、障がい者や高齢者の旅をサポー
トするバリアフリーツアーセンターの取組みを伺う機会があった。呉は「ものづくりの街」
としてのイメージが強く、観光地としての知名度は低い。そこで、呉のまちを PR し地域の活
性化につなげようと、同法人の一事業として「呉バリアフリーツアーセンター」を開設する
ことにした。
【ユニバーサルツーリズム関連の主な取組み】
①観光バリアフリー情報の調査・発信
・同法人では、呉バリアフリーツアーセンターを開設する前から、呉市内の小学校教育や交通
局との共同事業として、市内のバリアフリー調査を行ってきた。
・呉バリアフリーツアーセンター開設と前後して呉市の補助金を活用し、
「みんなに優しいトイ
レマップ」を作成・配布している。トイレマップは外出時の心配ごとの一つである「トイレ
がどこにあるか」を分かりやすく表示したもので、観光情報も掲載しており、地域住民から
旅行者まで利用できる便利な冊子となった。
・バリアフリー情報の収集は、同法人スタッフのほか、地元の高等専門学校の生徒や地元在住
の障がい者がボランティアで行っている。
・国土交通省中国運輸局「中国地方におけるユニバーサルツーリズム創出・連携推進事業」
(平
成 21 年度)より呉市の観光バリアフリー情報サイトを作成・運営している。
②教育研修・接遇研修
・バリアフリー、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた接遇研修を行っている。研修を
専門に行う車いす使用者のスタッフが 1 名いる。
・対象地域は、呉市・広島市で、民間企業や行政向けに行っている。
③観光バリアフリーに関する相談対応
・相談対応は無料で行っている。対応するスタッフは 3 名程度おり、車いすを使用しているス
タッフが主に対応している。
・問合せ件数は平成 25 年度に 10 件程度あった。特に、50~60 代から 70~80 代の親と旅行をし
- 64 -
たい、という問合せが多い。
・具体的な問合せ内容は、広島・宮島方面に関するものが多く、公共交通機関を利用した行程
の組み方、バリアフリー対応の宿泊施設、おすすめの飲食店等多岐にわたる。
【主な助成・委託実績】
・呉市:くれ協働事業提案制度(平成 22 年度、平成 23 年度)
【取組みを進める上での課題】
・同法人の活動範囲は呉市・広島市を中心としているが、最近では広島県全体のバリアフリー
情報はないか、といった要望も寄せられるようになってきた。また、既存のバリアフリー情
報の更新も必要となっている。しかし、スタッフは他事業と兼務し人員数が限られ、バリア
フリー調査にかかる交通費等にコストもかかることから、調査範囲の拡大や情報更新を単独
事業で行うことは難しい。
・バリアフリーツアーセンターの相談対応は無料で行う自主事業であり収益がない。
【今後の方向性】
・地元のマスコミに呉バリアフリーツアーセンターの活動が取り上げられると、問合せ件数が
一時的には増加する。呉バリアフリーツアーセンターの取組みをマスコミを通じでもっと PR
し、バリアフリー観光の意義を周知していきたい。
・これまでは相談者を紹介してきた宿泊施設からフィードバックを受けていなかった。宿泊施
設側の受入れ時の感想や要望は貴重な情報となるので、今後は宿泊施設と連携し情報交換を
進めていくことが大切である。
【地域でユニバーサルツーリズムを推進するために取組むべきこと】
・企業や地域社会に対して、バリアフリー観光が地域活性化につながるということを啓発して
いく必要がある。
・高齢者や車いす使用者等の障がい者、子ども連れの対応には手間がかかると敬遠している観
光施設、宿泊施設もあるが、大きな投資をしなくてもユニバーサルデザインの考え方や接遇
研修、受入の積み重ねでマーケットが広がる可能性があることを、民間企業に PR していくこ
とが大切である。
- 65 -
e.バリアフリー公共交通研究調査会
(山口県山口市)
代
表
者
代表
設
立
年
平成 14 年 4 月
会
員
数
20 名
容
・公共交通機関のバリアフリー調査
事
業
内
吉田倫太郎
・公共交通機関のバリアフリー情報レポートの発行、HP での情報公開
・交通事業所、行政機関等への働きかけ
【ユニバーサルツーリズムに関連する事業を始めた経緯】
・吉田代表は常時車いすを使用しており、外出時には家族又は介助者のサポートを必ず必要と
している。日常生活で利用する公共交通機関は行動範囲を広げることができる重要な移動手
段であるが、生活圏内を運行するコミュニティバスの車両が車いす対応でない等不便を感じ
ることが多々あった。
・そこで、同じように公共交通のバリアフリー情報を知りたい障がい者へ情報提供し、また地
域の公共交通のバリアフリー化促進に寄与したいという思いで、平成 14 年に 4 月に任意団体
「バリアフリー公共交通研究調査会」を組織し、公共交通機関のバリアフリー調査を始めた。
【ユニバーサルツーリズム関連の主な取組み】
・現在は山口市市民活動支援センター「さぽらんて」を窓口に活動している。
・山口市、宇部市(一部)
、防府市の県央部エリアを中心に、JR 山陽本線、宇部線、山口線の各
駅施設のバリアフリー情報や、防長バス、JR バスの路線バス及びコミュニティバスについて
吉田代表と介助者が調査を行った。
・平成 17 年 3 月に調査結果をまとめた「バリアフリー公共交通機関レポート」を発行した。山
口市、防府市ほか 5 町の福祉課、社会福祉協議会、山口市、防府市、宇部市の市民活動支援
センター、障がい者生活支援センター等で配布している。
・バリアフリー情報をまとめた HP を作成し情報を公開している。情報は随時更新している。
・これまでの取組みが評価され、平成 22 年に山口県より「やまぐちユニバーサルデザイン大賞」
を受賞した。
【助成・委託実績】
・山口市:山口市市民活動交流事業(平成 15 年度)
・(公財)きらめき財団(山口県)
:県民活動スタートアップ助成事業(平成 16 年度)
【地域のバリアフリー化の状況と今後について】
・山口市内の低床バスの設置はこの 10 年で整備が進み、また新山口駅もバリアフリー化され、
設立当初に思い描いた、地域の公共交通におけるバリアフリー化は進んできている。引き続
き JR のバリアフリー情報の更新を続けていく。
【ユニバーサルツーリズムを推進するために地域で行うべきこと】
・地域の公共交通や多目的トイレの情報を携帯端末で確認できるようなアプリの開発・提供が
進めば、高齢者、障がい者の旅行は便利になり、旅行の促進につながると考える。
- 66 -
2.2.3.支援組織の取組みの現状と問題点
a.支援組織の取組み
中国地域の支援組織は、地域の受入体制の整備対応として、普及・啓発活動、バリ
アフリー情報の収集・発信を行い、ユニバーサルツーリズムの対象者への直接的な支
援対応として、旅行相談や旅行中の介助人材のコーディネート等、多岐に渡る活動を
行っている。
図表 2.34 ヒアリング先の取組み内容一覧
取組み内容 ( )内は実施している支援組織の所在地
普及・啓発
情報収集・発信
人材教育
民間企業や地域住民に対するユニバーサルデザインの普及・啓発活動(岡山)
公共交通のバリアフリー情報の収集・発信(島根、岡山、山口)
観光施設、宿泊施設のバリアフリー情報の収集・発信(鳥取、島根、岡山)
ユニバーサルツーリズム関連の接遇研修の開催(島根、岡山、広島)
モニターツアー モニターツアーの実施(鳥取、島根)
拠点整備
ユニバーサルデザイン推進の窓口の設置(岡山)
ユニバーサルツーリズムの相談窓口の設置(鳥取、島根、広島)
旅行に係る直接 旅行相談への対応(鳥取、島根、広島)
支援・サービス 介助人材のコーディネート(鳥取、島根)
b.支援組織の取組みに係る問題点
支援組織の活動において、以下のような問題点が挙げられた。
(a.)ユニバーサルツーリズムに関わる活動をしている組織が限られている
ユニバーサルツーリズムの支援組織は、地域の観光施設、宿泊施設、交通等包括的
なバリアフリー情報の収集・発信、ユニバーサルツーリズムの対象者への旅の相談窓
口の設置、観光関連産業への研修、アドバイス等、地域のユニバーサルツーリズム推
進をけん引する重要な役割を担っているといえる。
しかし、現状では、こうした活動を行う組織は地域の中でも限られていることから、
中国地域の中でも、ユニバーサルツーリズムへの取組み意欲や、ユニバーサルツーリ
ズム推進の進行状況に差が生じている。
(b.)ユニバーサルツーリズム関連事業の収入確保が難しい
ユニバーサルツーリズム関連事業は、行政からの委託事業または自主事業として行
われている。行政委託の場合、単年度事業であることから取組みの継続性が見込めな
い。また、自主事業で行う場合は採算性に合わず、他部門の収益で補う等収入を確保
することが厳しい状況にある。
- 67 -
(c.)支援組織の人材が不足している
支援組織が行っているユニバーサルツーリズム関連事業は、バリアフリー情報の収
集・発信、旅の相談、研修業務と広範囲に渡っているが、これらの事業の核となる人
材は 1~2 名程度にとどまり、かつ他事業と兼務していることから、人材に余裕がな
い状況にある。今後さらに事業を拡大するには、人材を増やすことが必要となる。
また、情報収集を行う人材や旅行サポート人材も不足しているため、事業を十分に
行うことができず、顧客等の要望に応えられないこともある。
(d.)情報収集範囲が委託先(出し手)により制限される
旅行は観光地、宿泊施設、飲食店と様々な場所へ移動することから、バリアフリー
情報も地域の様々な観光施設、宿泊施設、交通等の情報が揃うことが望ましい。しか
し、現在、情報の収集と発信は、行政委託により行われていることから、委託先が県
であれば県単位の情報を収集できるが、市町単独になると情報収集範囲が狭まること
になる。
(e.)バリアフリー情報の提供が不十分な地域がある
現在、各地域の包括的な観光関連のバリアフリー情報は支援組織により発信されて
いるが、支援組織の活動範囲外であるために、情報の収集・発信が行われていない地
域がある。
- 68 -
2.2.4.中国 5 県の観光施策におけるユニバーサルツーリズムの取組みの現状
a.ヒアリング調査実施要領
中国 5 県の観光施策におけるユニバーサルツーリズムの取組み状況を把握するた
め、各県の観光セクションにヒアリング調査を実施した。詳細は図表 2.36 の通りで
ある。
図表 2.35 ヒアリング実施要領
調査の目的
各県の観光施策におけるユニバーサルツーリズムの取組みの現状を把握する
対
鳥取県文化観光スポーツ局
象
島根県商工労働部観光推進課誘客推進グループ
岡山県産業労働部観光課国内誘客班
広島県商工労働局観光課
山口県商工労働部観光振興課観光企画班
調 査 事 項
・近年の観光動向
・ユニバーサルツーリズムへの取組み状況
補助金等の支援策、情報提供、特定非営利活動法人や企業との連携、誘致
活動、観光施設等の整備状況
等
・ユニバーサルツーリズムを進める上での課題
・今後の展望
調 査 時 期
平成 26 年 9 月~10 月
b.各県の取組み状況
各県の観光セクションでは、観光振興計画の基、誘客のためにキャンペーン等の
PR 活動等を重点的に行っているが、ユニバーサルツーリズムを推進するための事業
は、どの県でも優先順位が低く、ほとんど行われていない状況にある。
僅かにあるユニバーサルツーリズムの関連事業としては、図表 2.36 の通り、鳥取
県の「第 14 回全国障がい者芸術・文化祭とっとり大会」に合わせて実施された障が
い者に対応するための事業所向けの研修、島根県の観光促進のための補助金制度を活
用した公共施設のトイレの改修、山口県の県内の主要観光施設のバリアフリー情報を
掲載したハンドブックの作成等がある。
また、これまで介護・福祉・住宅・道路交通等のセクションにおいて、ユニバーサ
ルツーリズムの対象者である高齢者・障がい者への生活環境の整備や自立支援等が行
われているが、ユニバーサルツーリズム推進のために観光セクションと連携するとい
う動きはみられなかった。
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図表 2.36 ユニバーサルツーリズムに関連した取組み
・鳥取県では平成 26 年 7 月~11 月に「第 14 回全国障がい者芸術・文化祭とっとり大会」が
開催されている。これに合わせ、社会福祉協議会を事務局として「あいサポート研修」を
実施。旅館やタクシー会社、観光施設、観光ボランティアガイド等 50 人が接遇研修を受け
た。
・芸術祭に合わせ県外から来訪する障がい者の方向けに、観光ルートと旅の相談・介助がで
きるトラベルフレンズ・とっとりの情報を掲載したパンフレットを作成し配布した。
・島根県では平成 25 年度「島根県おもてなし観光地魅力向上事業費補助金」
、平成 26 年度「島
根県観光基盤整備補助金」より、平成 25 年度、平成 26 年度に公衆トイレを多目的トイレ
化に改修する申請が 1 件ずつあった。
・平成 26 年度に県内各地の観光地等のバリアフリー情報を紹介する季刊誌「てくてく日和」
(プロジェクトゆうあい発刊)の全県分の情報をまとめた冊子の作成事業をプロジェクト
ゆうあいに委託した。
・山口県では平成 24 年度に県内の主要観光施設のバリアフリー情報を掲載したハンドブック
を作成し市町村や福祉施設等に配布した。
c.ユニバーサルツーリズムを推進する上での各県の観光施策の問題点
前述の繰り返しになるが、今後中国地域でユニバーサルツーリズムを推進する上で
の各県の観光施策の問題点は以下の 2 点にまとめられる。
まず1つ目は、観光施策において、ユニバーサルツーリズムの優先順位が低いこと
であり、2 つ目が、これまで他セクションで行われてきた高齢者・障がい者向け対策
の情報を観光セクションで共有化する動きがみられないことである。
- 70 -
2.3.ユニバーサルツーリズムの取組み事例
アンケート・ヒアリング調査では、中国地域においてユニバーサルツーリズムの取
組みは総じて進んでいないことがわかった。一方で、民間企業を主体としたネットワ
ークづくりや、観光地レベルでのユニバーサルツーリズムの推進、ユニバーサルツー
リズムの情報発信といった先進的な事例もみられる。
ここでは、中国地域の動きとして参考になる事例の取組み内容を把握する。
2.3.1.一般社団法人バリアフリー旅行ネットワーク
〈取組み内容〉
・観光関連事業所と外出支援(福祉・介護・医療・教育等)の連携によるユニバーサ
ルツーリズムの取組みを推進
・民間企業同士の全国規模の連携推進
・全国旅行業協会、全旅連と協力して人材育成のための研修を実施
・ユニバーサルツーリズムの対象者の困りごとを集約し、課題解決のための提案・意
見交換を観光施設、国土交通省等と実施
a.取組みの概要
バリアフリー旅行ネットワーク(19 頁参照)は、バリアフリー旅行に関わる旅行
業者、観光施設、宿泊施設、運輸業、観光専門学校、外出支援事業所(トラベルナー
ス・ツアードクターの派遣)や NPO 法人(旅行サポーターの派遣)等から組織され、
会員がビジネスベースでユニバーサルツーリズムに取組めるよう、研修会や意見交換
会等を開催し、ノウハウの共有化や人材育成を進めている。
同団体を設立してからの 11 年間で研修会・意見交換会を 73 回実施し、参加者人数
は延べ 1,265 名にのぼる。中国地域でも旅館・ホテル等で研修会、意見交換会を実施
し 100 名程度の受講者がある。なお、同法人の事務局所在地は東京であるが、同法人
の代表理事であり研修会のコーディネート兼講師を株式会社昭和観光社(広島県)代
表取締役(48~50 頁参照)が担っていることから、中国地域の事例とした。
b.研修会の内容
研修会では、会員企業がユニバーサルツーリズムに取組む上で必要となる「当事者
の視点と本質」を大切にし、当事者の困り事を軸に、「私たちのできる(手の届く)
こと」として、ソフト面のおもてなしや、ハード整備、少額備品等による解決等の事
例報告による実践につながりやすい研修会を開催している。さらに、参加者同士の商
品企画や新事業の模索(ビジネス交流)のきっかけづくりを推進するための情報交換
会も行っている。
- 71 -
具体的な内容は図表 2.37 のように、対象者(杖歩行・歩ける車いす・歩けない車
いす・他)の困ることの本質とバリアフリー情報やサービス内容の公開の仕方、入浴
の介助方法、食事ケア(刻み食やミキサー食等の特別食)等、送り手(旅行業者))
や受入側が注意すべきポイントを多岐に渡って教えている。受講者自身の手の届くこ
とから実践し、自社でできることの範囲を広げ、場合によっては他業種等と連携し、
安心・快適なサービスを提供し付加価値を上げるビジネスモデルを提供している。
また宿泊施設で OJT 研修を行っており、当事者や家族等の介助者の困りごとの視点
と当事者や旅行業者がユニバーサルツーリズムを企画する上で欲しい情報「優しいお
もてなし情報」を公開するポイントを的確に伝えている。会員企業による事例発表も
行い参加者同士で意見交換等を行い、課題克服の一助につながるようにしている。
図表 2.37 研修会の内容例
バリアフリー旅行ネットワーク中国四国
ブロックセミナー
高齢者疑似体験
c.地域でユニバーサルツーリズムを推進する上での主な課題
(a.)バリアフリー旅行に関わる事業所が少ない
現在、送り手の旅行業者の中で、高齢者や障がい者に優しいツアーや手配を取り扱
う事業所が少ない。そのため取扱い人員も少ないため、受け手の観光施設では、食事
のケア(刻み食、ミキサー、とろみ食等の提供)や大浴場での車いす使用者の受入れ
等、ユニバーサルツーリズムに積極的に取組む宿泊施設が少ない。さらに、高齢者や
障がい者が必要とするきめ細やかなバリアフリー情報の公開も進んでいない。
このため各都道府県にバリアフリー旅行に関わる送り手、受け手双方の事業所を一
社でも多く増やし、ビジネス面のネットワークを構築する必要がある。
- 72 -
(b.)バリアフリー旅行を積極的に進める人材の不足
上記(a.)の発展段階として、バリアフリー旅行の推進を積極的に進める人材を増や
していく必要がある。バリアフリー旅行推進の理念を共有し、積極的にスキルアップ
に取組む人材、また同法人のように地域、業種、事業規模が異なる会員のコーディネ
ートに率先してエネルギーをかけられる人材が必要である。
d.今後の展望
(a.)研修会のバリエーション化
全国の行政の観光セクション(県・市)、全国旅行業協会(ANTA)
・全旅連(シルバ
ースター部会)、観光関係各種団体等の総会や各ブロック等の研修会での講師派遣に
向け、現在の研修会の内容を充実・細分化させる。具体的には、初級編(経営者等の
意識改革)
・入門編(担当者向け OJT 事例研修)
・実務編(当事者のケア実践コーディ
ネート研修)をつくる。
(b.)他組織等との連携による介助人材の確保
外出支援に関連する業種(旅行サポート、福祉機器・介護用品の販売、医療、他)
と柔軟な連携をとったり、日本ケアフィット共育機構と連携し、介助できる旅行サポ
ーターを現地で手配できるようにする。また、全国各地の介護事業所と連携し、温泉
地で入浴ヘルパーを手配できる環境を整備する。
(c.)相談窓口の設置と旅行相談会の開催
観光関連産業等やユニバーサルツーリズムの対象者の家族向けの相談窓口を設け、
相談対応をしたり相談会を開催する。
(d.)国内・海外のユニバーサルツーリズムの対象者の受入れ支援
会員向けにユニバーサルツーリズムの対象者を受け入れる実務(国内旅行・海外旅
行・訪日旅行)のコーディネートを行う。
(e.)モニターツアーの推進
民間企業、観光関連団体、福祉関連団体、スポーツ団体、国内行政、海外の政府観
光局や航空会社等と連携し、モニターツアー実施の推進を図る。
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2.3.2.倉敷美観地区の取組み
〈取組み内容〉
・観光地の実情に沿ったユニバーサルツーリズムの取組みを推進
・高齢者・障がい者等、手助けを必要としている人に対して、接遇や介助がで
きる人材を育成するための仕組みづくり(おもてなしマイスター)
・高齢者・障がい者等の美観地区を来訪した人が困っていることに対して事業
所が対応可能なサービス内容を見える化(おもてなし処)
倉敷美観地区の取組みの概要
倉敷美観地区は岡山県内屈指の観光地で年間 300 万人以上の観光客が訪れている。
この地区は重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に指定されており、文化財保護
の観点からハード面のバリアフリー化が困難な観光地である。そこで、美観地区にお
けるバリアフリー整備のあり方を検討するために平成 20 年 3 月に「倉敷市美観地区
バリアフリー整備計画」を策定し、その計画を推進するために、平成 22 年度より倉
敷市と美観地区の住民、事業所等による「美観地区バリアフリー推進会議」を設置し、
下記のような取組みを始めた。
取組みの 1 つ目が、
「おもてなしマイスター制度」である。これは伝統的な建物を
保存するため、段差の解消ができないことから、残った段差を「人の手」で解消しよ
うという考えに基づくものである。このために、美観地区や周辺で働いている人、ボ
ランティア、地域住民を対象に、おもてなしの心と技術を習得する講習を開催し、手
助けを必要とする旅行者等に接遇や介助ができる人材を育成する仕組みをつくった。
研修会の受講者は「おもてなしマイスター」として倉敷市長から認定書と認定バッジ
が貸与される。
2 つ目は、「おもてなし処」である。これは「おもてなしマイスター」の事業所版
で、美観地区を訪れる高齢者や障がい者等で困っていることがあれば対応可能な事業
所・店舗を「おもてなし処」と認定する。認定された事業所等には、どのようなサー
ビスができるか一目で分かる「おもてなし処」の看板が市から貸与され、これを店舗
に掲示している(図表 2.39)。これは、対応可能なサービスが何であるのか(例:障
がい者対応のトイレの開放、施設内を車いすで移動可能)を掲示するものである。
(倉
敷アイビースクエアの事例 54 頁~55 頁参照)。
平成 26 年 3 月末時点で「おもてなしマイスター」に 401 名、「おもてなし処」に
32 カ所が認定されている。
おもてなしマイスターの受講者からは、講習を受ける前は困っている人がいても声
掛けできなかったが、講習を受けたことで意識が変わり、積極的に声がかけられるよ
うになった、という声があり、観光地のソフトサービスの向上につながった。また美
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観地区の事業所では、「おもてなし処」に認定されるために授乳室を設置する等、事
業所の意欲を引き出す効果があった。
これらの取組みは 5 年目を迎えており、取組むマイスターや事業所のモチベーショ
ンを維持させることが課題となっている。この対策として市はおもてなしマイスター
を取得した人の紹介等をする「おもてなしマイスター通信」を年に 2 回発行している。
また、市では、今後も同取組みの継続を進めるため、「おもてなしマイスター制度」
の評価・総括を行い、今後どのように進めていくべきか検討する意向である。
図表 2.38 「おもてなしマイスター」
、
「おもてなし処」の概要
資料:倉敷市建設局都市計画部交通政策課
図表 2.39「おもてなし処」の看板
資料:倉敷市建設局都市計画部交通政策課
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2.3.3.まち歩きバリアフリー情報誌「てくてく日和」
〈取組み内容〉
・ユニバーサルツーリズムの魅力を伝える情報誌を発刊
a.「てくてく日和」の概要
「てくてく日和」は、車いすでの旅の楽しみ方を紹介する情報誌で、プロジェクト
ゆうあい(59 頁~61 頁参照)が発行している。紙面には、島根県内の観光地、宿泊、
グルメ、交通、バリアフリー情報が満載されている。
本事業は、松江市の補助事業として平成 24 年度に開始し、平成 25 年度より広告収
入や一般からの応援寄付による自主事業に切り替えた。島根県内を取材対象とし、3
カ月に一度フリーペーパーとして発行し、全国のバリアフリーツアーセンターや県内
の観光施設、病院、リハビリ施設に配布している。発行部数は約 8,000 部で、冊子内
容は同法人の HP でも公開している。
取材には必ず同法人の障がいのあるスタッフまたは現地の障がい者が参加し、当事
者目線から旅行を楽しむための情報を収集している。このため、情報が充実しており、
人気を集めている。
図表 2.40 「てくてく日和」で特集したバリアフリー観光情報
発刊号・時期
創刊号
2013 冬号
第2号
2013 春号
第3号
2013 夏号
第4号
2013 秋号
第5号
2013冬号
第6号
2014 春号
第7号
2014 夏号
第8号
2014 秋号
特集名
主な地域
特集1 松江城下を行く「堀川遊覧船と松江城」
「京
店・カラコロエリア」
特集2 冬のあったか温泉・足湯スポット
特集1 一足のばした松江めぐり「美保関の街並
みをめぐる」
「八重垣神社で縁結びお参り」
特集2 松江の花めぐり
特集1 いざ、神々の国出雲へ「出雲大社~神門
通り~古代出雲歴史博物館~日御碕」
特集2 自然とふれあう大社・多岐のアウトドア
特集1 世界遺産石見銀山を行く
「石見銀山~温泉津・仁摩」
特集2 大自然島根で秋の紅葉を楽しむ
特集1 なつかしの国石見を歩く
「津和野~浜田」
特集2 玉造温泉縁結びめぐり
特集1 鉄の道安来~奥出雲街道を行く
「安来~奥出雲」
特集2 宍道湖中海ぐる~っと8の字ドライブ
特集1 しまねの宝島隠岐世界ジオパークをめぐる
「島前~島後」
特集2 宍道湖中海ぐる~っと8の字ドライブ Pa.rt2
特集1 自然とふれあう邑智郡
「川本町~美郷町~邑南町」
特集2 レトロバス D.E.まつえの商店街散策
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松江市
松江市
出雲市
大田市
江津市
浜田市
津和野町
安来市
奥出雲町
西ノ島町
海士町
隠岐の島町
川本町
美郷町
邑南町
主な観光スポット
・堀川遊覧船
・松江城
・カラコロ工房
・美保神社
・青石畳通り
・八重垣神社
・出雲大社
・神門通り
・日御碕
・龍源寺間歩
・薬師湯
・仁摩サンドミュージアム
・安野光雅美術館
・しまねお魚センター
・しまね海洋館アクアス
・足立美術館
・玉峰山荘
・道の駅奥出雲おろちループ
・摩天崖
・海士人シーカヤック体験
・海中展望船あまんぼう
・ラボカフェ明るい農村
・カヌーの里おおち
・香木の森
b.ケーススタディの実施
ユニバーサルツーリズムの魅力を PR する取組みのケーススタディとして、
「てくて
く日和」作成のための取材に同行することとした。
図表 2.41 ケーススタディ実施要領
実施の目的
実 施 内 容
日程等詳細
ユニバーサルツーリズム対象者への需要喚起を狙うために必要となる、情収
集や情報の見せ方等で留意すべきポイントを探り、本調査の参考とする。
プロジェクトゆうあいが行う「てくてく日和」2014 夏号で特集する島根県隠
岐への取材に同行する。
〔1 回目〕
取 材 日:平成 26 年 5 月 22 日~23 日
取材地域:西ノ島町、海士町
取 材 者:プロジェクトゆうあいスタッフ 3 名(うち 1 名は車いすを使用)、
車いす介助者 1 名
〔2 回目〕
取 材 日:平成 26 年 5 月 29 日~30 日
取材地域:隠岐の島町
取 材 者:プロジェクトゆうあいスタッフ 3 名、隠岐の島町役場職員 1 名(車
いすを使用)
(a.)情報収集の際に留意すべきポイント
取材は車いすを使用するプロジェクトゆうあいのスタッフまたは地元の車いす使
用者の方をモデルに、観光地を巡るというものであった。
詳細なバリアフリー情報を収集するため、施設の入口の幅や、観光地や交通の要所
に設置されたトイレの整備状況等を必ずチェックし、各施設のバリアフリー対応につ
いて、従業員等からヒアリングを行っていた。また、観光地にバリアがあることを前
提に、いかに旅行が楽しめるのか読者に伝えられるよう、必ず体験し当事者目線の楽
しみ方を確認している。
- 77 -
図表 2.42 留意すべきポイント
・施設の入口の幅、階段の数、手すりの有無、駐車場(身障者用の有無)
、車いす用トイレの
有無等きめ細かいバリアフリー情報を取材している。
入口の幅は必ず計測(海士町・あまんぼうの船内
入口)
階段の数や高低を確認
詳細なバリアフリー情報をその場
で記録
旅行中に立ち寄る場所のトイレは必ずチェック
・車いす利用が可能な観光地を取材するのではなく、観光地にバリアがあることを前提に、
車いすを使用してどのように楽しく観光地を巡ったり、体験できるのか、当事者目線に立
った取材を行っている。
断崖絶壁で地面がでこぼこしていても介助があ
れば十分に楽しめることが分かった(摩天崖)
遊覧船の乗降の際、従業員の方に介助を手伝
ってもらえることが確認できた
景勝地・摩天崖でも介助があれば十分に楽し
・観光地の魅力を様々な角度から紹介するため、自然、食、歴史・文化、体験等多岐に渡る
める
観光スポットを取材対象としている。
幻の黒毛和牛「隠岐牛」のランチ
樹齢 800 年のパワースポット・乳房杉
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(b.)情報発信(誌面構成)のポイント
誌面は写真を多く用いて観光地としての魅力とこれを車いすで楽しく体験する方
法と、詳細なバリアフリー情報コーナーを分けて掲載し、旅行意欲をかき立てるイメ
ージと行動する際に必要となる情報を複合的に提供している。
図表 2.43 「てくてく日和」の抜粋誌面
読者を「ここに行ってみたい」と思わせる、
観光地やグルメ情報の写真を満載。
取材時に収集した
バリアフリーの詳
細情報を掲載。
車いすを使用して、どの
ように楽しく観光地を巡
ったり、体験できるのか、
当事者の体験談を盛り込
んで紹介。
- 79 -
2.4.小括
2.4.1.中国地域の観光関連産業の現状と問題点
現在、中国地域の観光関連産業の景況は 5 年前と比べて悪いと回答した先が多く、
また 5 年後の業況の予測も観光施設以外では否定的な意見が多い。こうした状況下、
第 1 章で挙げたようにユニバーサルツーリズム市場は増加することが見込まれ、期待
できる市場であることから、今後の中国地域の観光関連産業の活性化のためには、ユ
ニバーサルツーリズムを視野に入れた取組みが必要となる。
ところが、観光関連産業におけるユニバーサルツーリズムの対象者の受入れは総じ
て進んでいない。この背景として、1 つ目に大半の事業所が高齢化の進展によりユニ
バーサルツーリズムの市場は拡大すると認識しているものの、社会的責任の範囲内で
の対応にとどめ、自社の利益獲得手段とはみなしていないということが挙げられる。
そして 2 つ目に、施設の改修・修繕費用、人材の育成等にかかる投資が大きいことを
懸念していることが挙げられる。
一方、既存顧客の減少を補うための新しい市場としてユニバーサルツーリズムに積
極的に取組み、集客増に結び付けた宿泊施設もあった。完璧なバリアフリー化を進め
るよりも、自施設の魅力やコンセプトを重視し、施設を訪れたい高齢者や障がい者が
安心して訪れることができるよう、日々の業務の中で少しずつ改善を重ね、ノウハウ
を蓄積し、顧客満足につなげるようにしている。
中国地域においては、まずはユニバーサルツーリズムに取組む事業所を増やす必要
がある。このため、事業所のユニバーサルツーリズムに対する費用負担に対する懸念
を払しょくさせ、上記に挙げた積極的な事業所の事例のように利益向上につながる取
組みであることを認識させていくことが重要であると考えられる。
2.4.2.支援組織と各県観光施策の現状と問題点
a. 支援組織の現状と問題点
中国地域の支援組織は、ユニバーサルツーリズムの対象者への直接的な支援として、
きめ細やかなバリアフリー情報の発信、旅行相談、旅行中の介助人材の紹介を行って
いる。また間接的な支援として、民間事業所への研修、観光・宿泊・飲食施設や公共
交通機関等のバリアフリー情報の収集、地域住民への普及・啓発活動を行っている。
こうした取組みはユニバーサルツーリズムの対象者に対する誘客促進、観光関連事業
所や地域住民の意識改革に役立っている。
しかし、事業運営にあたっては、主事業である旅行の相談を無料で行っているので
採算が合わず他部門の収益で補っていたり、バリアフリー情報の収集・発信や研修等
の事業のほとんどが行政からの単年度の委託事業であることから、取組みの継続性を
どのように担保するかが課題となっている。
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b.各県観光施策の現状と問題点
現状では、各県の観光施策において、ユニバーサルツーリズムへの優先順位が低い
こと、また、これまで他セクションで行われてきた高齢者・障がい者向け対策の情報
を観光セクションで共有化する動きがみられないことが問題点である。
ユニバーサルツーリズムを推進するには、地域の観光関連事業所への啓発およびユ
ニバーサルツーリズムの対象者に PR する必要があり、県の広報力を活用する意義は
大きいと考えられる。
このため、観光関連事業所向けの講演会や研修内容にユニバーサルツーリズムに関
連した項目を取り入れたり、PR 活動においてユニバーサルツーリズムに関する情報
を盛り込んでいく等、行政の事業にユニバーサルツーリズムの推進活動が取り入れら
れていくことが必要であると考える。
2.4.3.ユニバーサルツーリズムを推進するために活用すべき資源(人材)
中国地域においてユニバーサルツーリズムを推進していくには、観光関連産業やユ
ニバーサルツーリズムの対象者の動きを活発化させることが大切である。そこで、本
章の調査の中から把握できた資源(主に人材)と活用方法について整理しておく。
a.観光関連事業所を支援する人材
支援組織や積極的にユニバーサルツーリズムに取組んでいる旅行業者の中には専
門的な知識を有するスタッフがおり、各地域で施設の改修アドバイスや接遇研修で実
績を挙げている。
中国地域においては、ユニバーサルツーリズムに取組む事業所が少ないことから、
こうした人材を活用し、観光関連事業所が意欲的にユニバーサルツーリズムに取組め
るようなきっかけづくり(研修会の実施、個別相談等)を進めることが望まれる。
b.地域全体でユニバーサルツーリズムを推進させる人材
支援組織の中には、自組織の人材が講師となり、学校等地域住民に対し普及・啓発
活動を行い、高齢者や障がい者が住みやすいまちづくりを進められるよう、定期的に
研修会を開いている例がある。こうした専門性を有する人材の活用は必要であると考
えられる。
また、地域の宿泊施設等のバリアフリー情報を収集する時に、支援組織内の車いす
使用スタッフのほか、地域の学生が参加している例もある。地域の障がい者や学生と
いった、地域を熟知している人材の活用も有効であると考えられる。
c.旅行中におけるユニバーサルツーリズムの対象者を介助する人材
旅行業者の中には自社で旅行中の介助を行う旅行サポーターを養成・活用したり、
- 81 -
支援組織が、地元の福祉・施設を通して相談者に人材を紹介する例がみられた。
また、事例でみた人材は意欲が高く、真心と確かな介助技能を持ち合わせており、
顧客の満足度も相当に高いことがわかった。
こうした介助できる人材の確保・活用は、ユニバーサルツーリズムの対象者に安心
感を与え、旅行を促すきっかけの一つになると考えられる。
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3.ユニバーサルツーリズムに関する他地域事例調査
ユニバーサルツーリズムに取組んでいる他地域の事例として、東海地域、九州地域、
沖縄地域を訪問し、ヒアリングを実施した。
3.1.実施概要
3.1.1.ヒアリング調査の目的
ユニバーサルツーリズムの取組み経緯、事業の特徴、展開プロセス等をうかがい、
中国地域でユニバーサルツーリズム推進のための方策を検討する参考とする。
3.1.2.地域別 訪問先・日程
平成 26 年 9 月~12 月に、以下の日程で東海、九州、沖縄地域を訪問した。
図表 3.1 東海地域の訪問先一覧
所在地
訪問・実地研修先
日時
愛知県名古屋市
株式会社チックトラベルセンター
9 月 1 日(月)13:30~
愛知県名古屋市
愛知県産業労働部観光コンベンション課
9 月 1 日(月)15:00~
三重県鳥羽市
特定非営利活動法人伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンター
9 月 2 日(火)9:30~
三重県鳥羽市
扇芳閣(旅館)
9 月 2 日(火)11:30~
三重県伊勢市
車いす実地研修(伊勢神宮内宮)
9 月 2 日(火)14:30~
三重県伊勢市
伊勢市産業観光部観光企画課
9 月 3 日(水)10:00~
図表 3.2 九州地域の訪問先一覧
所在地
訪問・実地研修先
日時
熊本県熊本市
旅のよろこび株式会社
9 月 29 日(月)13:00~
熊本県熊本市
特定非営利活動法人 UD くまもと
9 月 30 日(火)10:00~
佐賀県佐賀市
佐賀県統括本部ユニバーサルデザイン推進グ
ループ
11 月 20 日(木)14:00~
佐賀県嬉野市
嬉野市企画部市民協働推進課
11 月 21 日(金)9:30~
佐賀県嬉野市
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
11 月 21 日(金)11:00~
図表 3.3 沖縄地域の訪問先一覧
所在地
訪問・実地研修先
日時
沖縄県那覇市
一般社団法人那覇市観光協会
12 月 3 日(水)14:00~
沖縄県那覇市
一般社団法人 Kukuru
12 月 4 日(木)14:00~
沖縄県沖縄市
特定非営利活動法人バリアフリーネットワー
ク会議
12 月 5 日(金)10:00~
沖縄県那覇市
沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課
12 月 5 日(金)14:00~
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3.2.他地域事例から得た知見
他地域事例より、今後中国地域でユニバーサルツーリズムを推進する上で参考とす
べき知見を以下の 8 点に集約した。なお、各事例の取組み内容は資料編を参照された
い。
図表 3.4 参考にすべき知見
①ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在している
②顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせている
③ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
④ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
⑤「できること」からユニバーサルツーリズムの取組みをはじめる
⑥ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の経験・見方を活用している
⑦継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
⑧ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
知見①ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在している
高齢者・障がい者の旅行市場が拡大することを見込み、ユニバーサルツーリズム市
場の獲得に向け地域の受入体制を整え推進している。
・佐賀県は、平成 17 年にユニバーサルデザイン(以下、UD)推進グループを発足さ
せ、平成 22 年には UD 全国大会を開催した。平成 26 年 4 月には各部により浸透さ
せるため企画部門である統括本部に UD 推進グループを置いている。企画部門が担
当することで UD を総合的に推進する体制を整えることができた。
・伊勢志摩地域には、今後増加が見込まれる高齢者の観光市場の開拓を目指し、地域
の観光施設、宿泊施設のバリアフリー情報を調査、公開し、高齢者・障がい者のた
めの観光案内所の運営を行う伊勢志摩バリアフリーツアーセンター(鳥羽市)が開
設されている。このバリアフリーツアーセンターが地域のバリアフリー観光推進の
けん引役となり、観光関連産業や行政と連携し、他地域に先んじてユニバーサルツ
ーリズムの市場獲得に向け、受入体制の整備を進めている。
知見②顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせている
顧客(ユニバーサルツーリズムの対象者)のやりたいことができるよう、受入先と
なる地域の宿泊施設等の情報収集および観光メニューを開発し、マッチングさせてい
る。
・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターでは、障がい者の数だけバリアの種類があ
り、その延長線上に障がい者の数だけバリアフリーな旅行があると発想を転換し、
バリアフリーの基準をそれぞれの障がい者(旅行者)の都合によって変化させるこ
- 84 -
とにした(これを「パーソナルバリアフリー基準」と名付けている)。この考えを
基に、旅の相談窓口では障がい者や高齢者に行ける所を紹介するのではなく、相談
者が「行きたい所」、
「やりたいこと」、どのような障がいをもっているかを尋ね、
観光地のバリアフリーでない情報もありのままに伝え、その上で旅行者の状態と希
望に合わせてどうすればその旅が可能になるか案内している。
・伊勢神宮の敷地内は玉砂利が敷かれ、本殿に参るには階段を上る必要があることか
ら、車いすの使用者が単独で参拝することは困難である。伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンターでは、車いす使用者が参拝できるよう、行政と連携しボランティアを
募集し車いすで伊勢神宮を参拝するイベントを開催している。
・佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター(嬉野市)やバリアフリーネットワーク会議
(沖縄市)等では、車いすやベビーカー等の貸出しを行っている。
・Kukuru(那覇市)では、旅行先でやりたいことができるかどうか不安を抱えている
顧客(ユニバーサルツーリズムの対象者)に対し事前に要望を聞き、やりたいこと
が可能になるよう顧客と共に考えている。例えば、沖縄ならではのマリンスポーツ
ができるよう水陸両用の車いすの貸出しサービスを行っている。
・沖縄バリアフリーネットワーク会議(沖縄市)では、ホテル・レストラン向けに沖
縄の伝統料理の介護食メニューや導入マニュアルを提案している。
知見③ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
地域全体でユニバーサルツーリズムに取組むことが、ユニバーサルツーリズムの
市場獲得につながる。
・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターによると、ユニバーサルツーリズムの対象者
の数だけバリアの種類はあることから、1 事業所だけがユニバーサルツーリズムの
対象者の受入を行っても、対応できない事例が必ず出てくる。また、どこに行く
かの選択肢が多い方が顧客の満足につながる。このため、「行けるところに行く」
のではなく、旅行者の選択肢=「行きたいところへ行ける」を増やす、つまり、ユ
ニバーサルツーリズムに取組む事業所を増やすことが必須である。このため、伊勢
志摩地域では、地域全体でユニバーサルツーリズムを推進し、ユニバーサルツー
リズムに取組む事業所の支援を行っている。
知見④ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
ユニバーサルツーリズムの対象者をセグメント化し、市場の中のどの層を狙うか絞
り込みを行い、ターゲットへの PR、サービスの質の向上を図り顧客獲得につなげて
いる。
・チックトラベルセンター(名古屋市)は、主な顧客である脳疾患障がい者の自立促
進支援を行っている NPO 法人の事業に協力し、代わりに同社の旅行商品を PR する
- 85 -
機会を得ている。
・旅のよろこび(熊本市)は、これまで旅行を諦めていた高齢者・障がい者向けに、
専門知識を有した添乗員が同行し安全できめ細やかなサービスを付帯した旅行ツ
アーを実施し、顧客獲得に結び付けている。
知見⑤「できること」からユニバーサルツーリズムの取組みをはじめる
ユニバーサルツーリズムの取組みは、必ずしも大がかりにする必要はなく、「でき
ることから」始めることでも十分集客増に結び付けることができる。
・伊勢市で宿泊施設のバリアフリー化を進めるにあたり、旅館は昔ながらの小規模な
ものが多く、県の UD 条例やバリアフリー法の基準に合わせると大規模な改築をせざ
るを得ないため、費用負担も大きく旅館の特徴も失われる懸念があった。そこで、
伊勢市は専門家のアドバイスを基に少額投資でも集客増を狙えるハード整備事業
(「伊勢市バリアフリー観光向上事業」)を実施した。宿泊施設に専門家(伊勢志摩
バリアフリーツアーセンタースタッフ)を派遣し、ユニバーサルツーリズムの対象
者のどの層をターゲットにするのか明確に定め、ユニットバスの手すり 1 つの設置
でも効果があると判定されれば、補助金対象とした。これにより、これまで改修を
ためらっていた旅館施設も自施設で実行可能なバリアフリー化を進めることができ、
受入可能な客層幅の拡大、集客増に結び付けることができた。
知見⑥ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の経験・見方を活用している
ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の当事者としての経験・見方
を、ユニバーサルツーリズムの取組みに活用している。
・愛知県や伊勢志摩バリアフリーツアーセンターが実施しているバリアフリー情報の
収集調査では、地元の車いす使用者や杖歩行者を観光施設等に派遣し、調査場所の
撮影、計測、ヒアリング等を行っている。調査結果を公開している HP には施設の
整備状況や経路、段差の数やトイレの寸法等、当事者ならではのバリアフリー情報
が載されており、ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズに応える情報発信がで
きている。
・チックトラベルセンターは、旅行サポーター付のツアー商品を企画している。この
旅行サポーターの中には、以前に同社の旅行に参加したユニバーサルツーリズムの
対象者の同伴者(家族)もある。家族を介護した経験を有し、かつユニバーサルツ
ーリズムの対象者が旅行に出かける意義を理解しており、旅行サポーターにふさわ
しい人材である。
- 86 -
知見⑦継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
支援組織はユニバーサルツーリズム事業の継続性を確保するため、収益を望める新
規事業の開拓、行政との連携強化といった対応策の検討・実施を行っている。
・バリアフリーネットワーク会議では、「なは空港しょうがい者・こうれい者観光案
内所」で車いす・ベビーカーの有料貸出サービスを行っており、貸出し件数は順調
で、案内所の運営費の確保が十分にできている状況である。
・佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターは平成 19 年の設立から 5 年間は佐賀県及び
嬉野市からの運営補助金があり、平成 25 年度より嬉野市から運営補助金を得てい
る。今後は運営の自立に向け、旅行業の登録や株式会社化を目指している。
・UD くまもとが行っている地域のバリアフリー情報の収集・発信事業は、施設情報
の更新にかかる委託事業がないため、スタッフの手弁当により最新情報を更新して
いる状況である。しかし、無償ボランティアによって支えられた活動では継続性が
保てない。このため、バリアフリー情報の更新事業を行政から委託されることが望
まれる。
知見⑧ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
地域の観光施設、宿泊施設等のバリアフリー情報や顧客(ユニバーサルツーリズム
の利用者)情報は、ユニバーサルツーリズムの取組み促進、効率化に役立つものであ
ることから、地域で積極的に共有していくことが大切である。
・伊勢志摩バリアフリーツアーセンターは、「バリアフリー情報」を調査・発信する
意義について以下のように述べている。障がい者、高齢者の旅行は、個人の身体
状況や同伴者の人数等により、旅行のバリア(障がい)の種類が異なる。例えば 1
センチの段差がバリアになる人もいれば、そうでない人もいる。このため、バリ
アフリーの基準を誰もが満足できるものに設定すると、それは病院や公共の施設
に限られたものになり、旅行を楽しめない(旅行の醍醐味は観光地にあるバリアを
超えること)。このため、ユニバーサルツーリズムには、顧客が自身で判断できる
観光・宿泊・飲食施設等のバリアフリー情報が必要である。
・ユニバーサルツーリズム情報については、愛知県では、「おもてなし愛知観光バリ
アフリー情報」
、佐賀県では、
「さが UD マップ」として HP で紹介しているほか、各
バリアフリーツアーセンター(伊勢、佐賀嬉野、沖縄)でも法人の HP で紹介して
いる。また、バリアフリーネットワーク会議はバリアフリー情報誌も発刊している。
・旅のよろこびは、ユニバーサルツーリズムの商品を企画する上で、旅行先のバリア
フリー情報の入手に苦労している。
・日本バリアフリー観光推進機構では、顧客(ユニバーサルツーリズムの利用者)の
了解を得た上で、受入れ対応のために必要な顧客情報(身体の状態や配慮すべきこ
と等)を登録し全国の加盟団体で共有している(「旅のカルテ」)。これにより、顧
- 87 -
客は別の地を旅行する際に再度自分の身体の状態等を説明する手間を省くことが
でき、受入先は顧客への対応準備等が円滑にできる。
図表 3.5 知見一覧
知見
該当する事例
ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在する
佐賀県
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせる
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
Kukuru
バリアフリーネットワーク会議
ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
伊勢志摩地域(伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンター)
ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
チックトラベルセンター
旅のよろこび
「出来ること」からユニバーサルツーリズムの取組みをは
伊勢市
じめる
ユニバーサルツーリズム対象者や介助者(家族等)の経
験・見方を活用している
愛知県
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
チックトラベルセンター
継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
バリアフリーネットワーク会議
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
UDくまもと
ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
- 88 -
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
愛知県
佐賀県
バリアフリーネットワーク会議
旅のよろこび
日本バリアフリー観光推進機構(伊勢志
4.ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
これまでの実態調査では、観光関連産業、支援組織、行政(観光施策)といったい
わゆるユニバーサルツーリズムに取組む供給側の問題点を整理するとともに、他地域
事例調査から今後の取組みに参考となる知見を得た。本章では、需要側の視点をユニ
バーサルツーリズム推進のための方策に活用するため、既存のアンケート調査や本調
査の実態調査で供給側から聞き取ったユニバーサルツーリズムの対象者の受入事例
等を基にユニバーサルツーリズムの対象者の特徴・ニーズを抽出する。
4.1.アンケート調査からみるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
伊勢市は、高齢化が急速に進行する中、高齢者・障がい者のマーケットをにらみ、
今後の観光施策の裏付けとして活用するため、旅行者側となる高齢者等と受入側の観
光関連施設を対象に「伊勢市バリアフリー観光旅行調査(平成 25 年度)
」を実施した。
この中から、ユニバーサルツーリズムの対象者へのアンケート調査を基に、観光時
のニーズを確認する。なお、同調査はスクリーニング調査を行っており、65 歳以上
で「観光旅行をする際に、移動等で身体に不安を抱えている個人」のみを対象とした
調査結果となっている。
図表 4.1 調査要領
調査方法
インターネット調査
調査対象
関東、東海(伊勢市を除く)、関西に
居住する65歳以上の男女個人にスク
リーニング調査を実施。スクリーニン
グ調査結果から観光旅行をする際に、
移動などで身体に不安を抱える個人。
「とても不安がある」、「不安がある
「やや不安がある」の回答が均等にな
るように割り付けを行っている。
調査時期
依頼数
回収数
回収率
平成25年7月26日~30日
620件
511件
82.4%
図表 4.2 回答者属性
回答者の年齢 65歳-74歳 79.1%
(n=511)
75歳以上 20.9%
関東 61.3%
居住地(n=511) 東海 12.5%
関西 26.2%
- 89 -
4.1.1.回答者の身体状態
ユニバーサルツーリズムの対象者の身体の状態を年齢別にみると、
「65~74 歳以上」、
「75 歳以上」ともに「足腰が弱くて、移動に不安がある」が最も多かった。
特に「75 歳以上」になると、
「杖を利用する(ことがある)
」割合、
「手押し車を利
用する」割合が「65~74 歳以上」に比べて高いことから、年を重ねると移動に対す
る負担感が増すことが分かる。
図表 4.3 身体の状態
(%)
65~74歳
75歳以上
70.0
59.8
60.0
50.0
48.3
40.0
30.8
30.0
21.0
20.0
18.8
17.8
12.1
7.5
10.0
4.2
6.2
0.0
足
腰
が
弱
く
て
、
移
動
に
不
安
が
あ
る
杖
を
利
用
す
る
(
こ
と
が
あ
る
)
食
事
しに
た制
り約
、が
細
かあ
くる
き(
料
ざ理
むを
な柔
どら
)か
く
2.8
自
分
で
操
作
(
こし
とて
が車
あい
るす
)を
利
用
す
る
4.2
2.8
介
助
者
に
(
こ車
とい
がす
あを
る押
)し
て
も
ら
う
2.5
1.9
手
押
し
車
を
利
用
す
る
(
こ
と
が
あ
る
)
オ
ス
ト
メ
とイ
しト
て(
ト人
イ工
レ肛
の門
配、
慮人
が工
い膀
る胱
保
有
者
)
0.5
資料:伊勢市「伊勢市バリアフリー観光旅行調査」(平成 25 年 10 月)
- 90 -
そ
の
他
4.1.2.観光地で観光する際に必要なこと
観光地で観光する際に必要なことを、「介助者が必要」、「介助者は必要ない」の 2
つの層に分け*クロス集計を行った。その結果、「介助者が必要」とする層は、「介助
者は必要ない」層に比べ、
「その他」以外の全ての項目の必要性が強いことが分かる。
特にバリアフリー化された宿泊施設、同行する家族等の介助者にとって負担がないこ
とを気にかける傾向が強い。
また、「介助者が必要」
、
「介助者は必要ない」のいずれの層も「困ったときに手助
けが得られる」
、
「観光地のバリアフリー情報」と回答した割合が高かった。
図表 4.4 観光地で観光する際に必要なこと
(%)
70.0
57.9
60.0
50.0
46.5
45.6
43.9
介助者が必要
40.3
介助者は必要ない
40.0
27.2
30.0
20.9
21.9
20.2
20.0
11.6
10.0
3.8
4.0
3.5
5.3
2.5
11.1
7.9
2.3
2.0
7.9
0.0
観
光
地
の
バ
リ
ア
フ
リ
ー
情
報
介
護
タ
ク
シ
ー
な
手ど
段観
光
地
内
の
移
動
車
い
す
の
貸
出
し
車
い
す
で
使
え
る
ト
イ
レ
オ
ス
ト
メ
イ
ト
用
の
設
備
付
き
ト
イ
レ
き
ざ
み
食
な
ど
の
食
事
バ
リ
ア
フ
リ
ー
化
さ
れ
た
宿
泊
施
設
介
助
者
に
と
っ
て
負
担
が
少
な
い
困
っ
た
と
き
に
手
助
け
が
得
ら
れ
る
そ
の
他
資料:伊勢市「伊勢市バリアフリー観光旅行調査」(平成 25 年 10 月)
*
同調査には、観光旅行をする際の介助者の必要の有無を「介助者が必ず必要である」
、
「場合によっては介助者が必要で
ある」
、「介助者は必要ない」の 3 択で問う設問がある。この問いの回答者を「介助者が必要(
「介助者が必ず必要であ
る」と「場合によっては介助者が必要である」と回答した計)と「介助者は必要ない」に分け、本項の回答とクロス集
計をした。
- 91 -
4.2.中国地域を訪れるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
4.2.1.中国地域を訪れるユニバーサルツーリズムの対象者の事例
中国地域でユニバーサルツーリズムの対象者の旅行相談窓口をもつ支援組織に対
し、これまでに対応してきたユニバーサルツーリズムの対象者の特徴や相談内容等に
ついて聞き取りを行った。事例詳細は図表 4.5 の通りである。なお、支援組織が行っ
ている旅行相談は、本調査が特に注目している高齢者に限らないが、ユニバーサルツ
ーリズムの対象者の視点として有用であると考えられることから、取り入れるべき事
例として挙げている。
図表 4.5 事例一覧
<トラベルフレンズ・とっとり>
①
同法人では視覚障がい者からの個人旅行の相談が多く、中でも首都圏、関東地域が多い。
最近は、事前にインターネットから情報を取得し、旅行先で何をしたいか、どのような宿
泊施設に泊まりたいか等を事前に調べ、詳細を相談してくるケースが多い。
②
高齢者を連れた家族旅行の場合のサポート依頼も多くなっている。
③
具体的な相談や旅行サポートの依頼として、以下のような事例があった。
a.交通事故の後遺症が残る 75 才女性の入浴サポート(夫からの依頼)
b.介護施設に入所している男性(車いす使用者)が孫の結婚式に出席するための車椅
子の介助サポート
c.高齢者(女性)の玉造温泉宿泊(家族 3 世代旅行)時の車いすサポート
④
車いす使用者向けの砂地でも進めるサンドバギーを使用したサポーター(有償ボランテ
ィア)による鳥取砂丘を散策できるサービスは好評を得ている。
⑤
視覚障がい者には水木しげるロードに人気がある。水木しげるロードには小振りの妖怪
ブロンズ像が設置されており、これを手で触り妖怪の形を想像できるため面白いようであ
る。また、浦富海岸でのするめづくり体験や乗馬等体験できる観光メニューは人気が高い。
⑥
顧客の中には、旅行で来たことが自信につながり、
「来年また来るよ」を合言葉に何度も
当地を訪れる人もいる。
- 92 -
<プロジェクトゆうあい>
⑦
具体的な相談や旅行サポートの依頼として、以下のような事例があった。
a.視覚障がい者の備中松山城散策サポート
b.寝たきり状態の男性の葬儀会場までの移動サポート(島根県益田市から鳥取県鳥取市
まで、母親も同伴)
c.松江市在住の男性(車いす使用)の鹿児島、長崎、福岡旅行の介助手配(70 代母親も
同伴)
⑧
b.の場合は、1~2 時間置きに男性の身体を休ませるために寝転がることのできる休憩場
所が必要だったが、早朝出発のため、1 回目の休憩時には、道の駅等休憩施設が開いておら
ず、またそうしたスペースがあるかどうかの有無を事前に確認することが大変だった。
⑨
c.の場合は、同伴の母親が高齢のため 1 人で男性の介助をすることが難しいことから、
各県の社会福祉協議会に介助を依頼した。
<くれシェンド>
⑩
相談内容は公共交通機関を利用した行程の組み方、バリアフリー対応の宿泊施設、おす
すめの飲食店等多岐にわたる。
⑪
50~60 代で老親を旅行に連れて行ってあげたい、という相談する人が多い。家庭や仕事
で日常生活が忙しく、旅行予定日のぎりぎりになって同法人に問い合わせる人もいる。個
人で交通機関、宿泊施設、飲食店のバリアフリー情報を集めることは大変手間がかかる。
こうした家族(介助者)の負担を減らして、旅行を楽しめる環境づくりをすることは大切。
4.2.2.事例から伺えるユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
上記事例を基にユニバーサルツーリズムの対象者のニーズを 3 点にまとめた。
a.ユニバーサルツーリズム情報が欲しい
図表 4.5 事例①にあるように、ユニバーサルツーリズムの対象者は、事前にインタ
ーネットで観光地の情報を収集した上で、さらに詳細なユニバーサルツーリズムの情
報を求めたり、相談をしている。また、事例⑩、⑪にあるように知りたい情報は多岐
に渡り大変な手間をかけて収集している。
こうした事例から、観光地の詳細なユニバーサルツーリズム情報を一括して収集で
きるものが必要とされていると考えられる。
b.旅行中に人的サポートが欲しい
事例③、事例⑦で挙げたように、ユニバーサルツーリズムの対象者の依頼内容は個
人のやりたいことにより様々ではあるが、いずれにしろ、こうしたやりたいことを叶
えるために、人の手による介助が必要な場合があることが分かる。
したがって、旅行の様々な場面においてユニバーサルツーリズムの対象者をサポー
- 93 -
トする人材が必要とされている。
c.ユニバーサルツーリズムの対象者が楽しめる観光メニューが欲しい
事例④、⑤に挙げた鳥取砂丘、水木しげるロード、浦富海岸はいずれも鳥取県を代
表する観光地であり、こうした観光地でユニバーサルツーリズムの対象者も体験でき
る観光メニューは人気がある。
ユニバーサルツーリズムの対象者も楽しむために旅行に出かけるのであり、一般の
観光客と同じように観光地の魅力を十分に味わえるメニューが求められていると考
えられる。
- 94 -
4.3.ユニバーサルツーリズム体験者の事例
第 3 章の他地域事例調査先の一つであるチックトラベルセンターの顧客で、現在は
同社の旅行サポートボランティアを担う糸井以久子氏に、ツアーに参加した経緯や効
果等についてお話頂いた。詳細と注目すべきポイントは図表 4.6 の通りである。
図表 4.6 ユニバールツーリズム体験者の事例
(参加した経緯)
・糸井氏の夫は平成 7 年に脳梗塞で倒れ、車いす生活を余儀なくされた。家でふさぎ込む毎
日で外出もほとんどしなくなり、糸井氏は何とか夫が再び外出するきっかけがないかと探
していた。平成 9 年のある日、たまたま新聞記事で同社の障がい者・高齢者の専門ツアー
を見つけ、
「これだ!」と思い、夫に相談した。夫はもともと旅行好きだったことから、二
人で台湾旅行に参加することにした。
(旅行の効果)
・台湾旅行中でも夫は車いすを使用していた。ところが、道中、眺めのよい 2 階建てバスの 2
階に上ることになり、車いす使用者は当然上れないので、おんぶして貰うことになった。
すると、夫が車いすを降り、自分の足でバスの階段を上りきった。これは夫妻にとって嬉
しい驚きとなった。この旅行が励みとなり、夫の日常生活は良い方向に変化していった。
主治医に「旅は最大のリハビリ」と言われ、
「また旅行に行きたい!」と次の旅行を目標に、
日々のリハビリにも積極的になり、近くの公園、マンションの庭等を歩くようになった。
多い時では年に 3 回程度同社のツアーに参加した。
(リピーターになった理由)
・夫は常々、
「旅行に行くなら松本さん(同部門担当者)のツアーだ」と言う程、担当者への
信頼が厚かった。担当者が万一のことを考え、金属製の重い簡易スロープをいつも携帯し
たり、トイレ休憩の取り方等に細かい配慮をし、いつも一生懸命取組んでいる姿にひかれ
たようだった。
・同社の旅行商品は多様で、サイパンでのパラセイリング、タイでの象乗り等、安全性を考
慮した上で、障がい者でもアクティブに楽しめることができた。
・障がい者やその家族にとっては、同じ境遇の方たちと語り合うことは日々の生活の励みに
なる大切なことである。台湾旅行では、現地の障がい者の方との交流会が開かれたり、ツ
アーの参加者同士が「お互い様」という意識が強く、旅行中はオムツを貸し借りしたり、
旅行後は食事会を開く等、どのツアーに参加しても絆が深まったことも、旅の魅力であっ
た。
ポイント
①旅は最大のリハビリであり、日常生活にもプラスの効果が表れる。
②旅行者の障がいに合わせたきめ細かいサービスが満足度につながる。
③観光地の特性を活かした観光メニューの充実が満足度につながる。
- 95 -
4.4.小括
上記より、ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズは、旅行段階別に図表 4.7 の
ようにまとめることができる。
まず、旅行前の段階では、ユニバーサルツーリズムの対象者は、旅行先の詳細なハ
ード情報(入口の広さ、手すりの位置、トイレの設備内容、浴室の段差の高さ等)や
サービス情報(車いすの入浴介助、観光地での旅行サポート等)を収集し、自分にと
って今回の旅行のバリアが何であり、それを解決できる手段があるかどうか検討する
必要がある。このため、通常の観光情報にプラスαした、より詳細な施設のハード整
備情報や人のサポート情報=「ユニバーサルツーリズム情報」を必要としている。
次に、旅行中であるが、ここでは実際に困った時の手助けが欲しいというソフト面
での対応が重視されている。例えば、観光施設、宿泊施設等での従業員の対応や、移
動中の付き添い、入浴介助等のサポートが求められている。また、ユニバーサルツー
リズムの対象者が観光地で不安なく楽しむために、観光地のユニバーサルツーリズム
情報や観光地ならではの魅力を味わえるサービスも必要とされている。
また、そもそも旅行を諦めている人もいる(第1章 1.1.4)ことから、こうした諦め
の原因を解消できる対応、すなわち上記の旅行前・旅行中のニーズに対応し、ユニバ
ーサルツーリズムの対象者が安心して旅行に行ける環境づくりを進めることが必要
であると考えられる。
図表 4.7 ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズ
旅行を諦めてい
るユニバーサル
ツーリズムの
対象者
・諦めの原因を解消で
きる対応が欲しい
・ユニバーサルツーリ
ズムの情報が欲しい
旅行に出かける
ユニバーサルツ
ーリズムの
対象者
旅
行
前
・困った時の手助けが
欲しい
・観光地のバリアフリ
ー情報が欲しい
・体験できる観光
メニューが欲しい
旅
行
中
旅
行
後
旅行を目標に
ユニバーサル
ツーリズムの
リピーター
掲げ、健康維持
再度、旅行に出
や社会参加に
かけたくなる
前向きに取組
む
- 96 -
5.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策の検討
第 1 章では主にユニバーサルツーリズムの市場性を確認するとともに、観光庁や観
光関連業界の動向を把握した。第 2 章では中国地域のユニバーサルツーリズムの取組
みの実態について、観光関連産業、支援組織、各県の観光施策に分けて、現状と問題
点を整理した。さらに第 3 章では他地域事例から学ぶべき知見を整理し、第 4 章では
ユニバーサルツーリズムの対象者のニーズを確認した。
本章では、まずは、第 2 章の実態調査を基に中国地域でユニバーサルツーリズムを
推進するための課題を抽出する。この課題を基にユニバーサルツーリズムの対象者の
ニーズや他地域事例を踏まえ、今後、中国地域でユニバーサルツーリズムを推進する
ために取組むべき方策を検討・提案する。
5.1.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進の課題
まずは、実態調査より抽出した中国地域の観光関連産業、支援組織、各県の観光施
策の問題点を基に、中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進の課題を整理する。
5.1.1.課題① ユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる
アンケート調査によると、ユニバーサルツーリズムの対象者の顧客は 5 年前と比べ
て、観光施設、宿泊施設の約 3 割が増加していると回答し、さらに過半数が今後増加
すると認識している。しかし、ユニバーサルツーリズムの対象者の受入れが自社の利
益向上につながると回答している先は 2~3 割程度にとどまっている。
他方、中国地域の実態調査や先進事例調査でみてきたように、ユニバーサルツーリ
ズムに積極的に取組んでいる先は、ユニバーサルツーリズムを貴重なマーケットとし
て認識し、新規顧客の獲得につなげている。
したがって、中国地域においても観光関連産業のユニバーサルツーリズムへの取組
み意欲が向上するよう、ユニバーサルツーリズム市場にはビジネスチャンスがあると
いうことを認知させることが課題である。
<中国地域の問題点>
・観光関連産業において、ユニバーサルツーリズムが自社の利益向上につながると回答した先
が少ない(32~33 頁)
<中国地域の課題>
観光関連産業に対しユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる
- 97 -
5.1.2.課題② ユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を進める
アンケート調査によると、中国地域の観光施設、宿泊施設でバリアフリー情報を公
開している先は全体の 1 割にとどまっている。また、ヒアリング調査から支援組織が
行う観光施設、宿泊施設等のバリアフリー情報やサービス内容等のユニバーサルツー
リズム情報の収集・発信は、行政の委託事業で行われており、出し手により収集範囲
が限定されたり、更新事業がなく新しい情報が更新されていない事例があることが分
かった。
ユニバーサルツーリズムの対象者にとって、観光施設、宿泊施設にどのような設
備・備品があるのか、どのような対応・サービスが用意されているのかといった情報
は、旅行に不可欠なものである。
したがって、ユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を継続的に進めていくこと
が課題である。
<中国地域の問題点>
・観光施設、宿泊施設でバリアフリー情報の公開を実施している先は 1 割しかない(27~28 頁)
・ユニバーサルツーリズム情報の収集範囲が限定されたり、更新ができない事例がある(67~
68 頁)
<中国地域の課題>
地域のユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を進める
5.1.3.課題③ 支援組織の設立促進および既存組織への支援を検討する
支援組織は、旅行相談、ユニバーサルツーリズム情報の発信、研修の実施等を行っ
ており、地域をけん引する大切な役割を果たしているといえる。
しかし、ヒアリング調査より、支援組織が行う旅行の相談は無料で行い収益がない
こと、また、ユニバーサルツーリズム情報の収集・発信や観光関連産業等への接遇研
修の大半は行政の委託事業で行っており、事業終了後に当該事業の資金確保に苦慮し、
継続することが難しい状況にあることが確認できた。
このため、支援組織が行うユニバーサルツーリズム事業の必要性を吟味し、場合に
よっては支援を検討すること、および支援組織がない地域においてユニバーサルツー
リズムの事業を行う支援組織の設立を促すことが課題である。
<中国地域の問題点>
・支援組織がユニバーサルツーリズム関連事業を継続して行うことが難しい(67~68 頁)
<地域の課題>
支援組織の設立の促進および既存支援組織に対する支援を検討する
- 98 -
5.1.4.課題④ 観光関連産業の障壁を取り除く
アンケート調査より、観光関連産業がユニバーサルツーリズムに取組む障壁・課題
としては、施設整備や維持に費用がかかることや建物・施設の性格上整備しづらいと
いったハード面を回答する先が多かった。また、自施設の組織や人材ではユニバーサ
ルツーリズムに対応できない、ユニバーサルツーリズムの対象者に対応する接遇ノウ
ハウがないといったソフト面の回答もあった。
したがって、観光関連産業がユニバーサルツーリズムの対象者の受入れを積極的に
進めることができるよう、これらの先が抱えるハード・ソフト両面の障壁を取り除く
ことが重要な課題となっている。
<中国地域の問題点>
・観光関連産業がユニバーサルツーリズムに取組む上で、ハード面、ソフト面の両方に障壁が
ある(26 頁)
<地域の課題>
観光関連産業がユニバーサルツーリズムの対象者の受入れを積極的に進めることができるよ
う、障壁を取り除く
5.1.5.課題⑤ ユニバーサルツーリズムに係る人材を育成・確保する
課題④で触れたように、観光関連産業は自施設で対応できる従業員がいないことや
ユニバーサルツーリズムの対象者への接遇ノウハウがないことが問題点として挙げ
られる。また、旅行サポーター(旅行時の支援)等、支援組織が行うユニバーサルツ
ーリズム事業に係る人材が不足していることから、事業を円滑に進めることは容易で
はない。
このため、観光関連産業でユニバーサルツーリズムに対応できる人材を育成したり、
地域のユニバーサルツーリズム事業に対応できる人材を探し、確保していくことが重
要である。
<中国地域の問題点>
・観光関連産業ではユニバーサルツーリズムに対応できる人材が不足している(26 頁)
・支援組織のユニバーサルツーリズム事業に対応できる人材が不足している(67~68 頁)
<地域の課題>
観光関連産業の人材育成とユニバーサルツーリズム事業に係る人材の確保を行う
- 99 -
5.1.6.課題⑥ 行政による支援のあり方を検討する
ヒアリング調査より、各県の観光施策ではユニバーサルツーリズムの優先順位が低
いことが分かった。また、これまで他セクションで行われてきた高齢者・障がい者対
策によって蓄積してきた情報等を観光に活用するという動きもみられない。
しかしながら、ユニバーサルツーリズムは今後拡大することが見込まれ、地域の観
光振興にとって有望な市場であると考えられる。既に地域を挙げてユニバーサルツー
リズムに取組んでいる他地域の事例を確認すると、伊勢志摩地域では、伊勢市が地元
の小規模な宿泊施設でも取組みやすいハード整備事業を展開し、各事業所のユニバー
サルツーリズムの対象者の顧客増につなげることができた。また、佐賀県では県の施
策にユニバーサルデザインの考え方を取り入れており、観光施策にもユニバーサルデ
ザインに基づく事業プランが挙げられ、嬉野地域でのハード・ソフト両面のバリアフ
リー化が推進されている。このように、行政が積極的にユニバーサルツーリズムに関
わることにより、ユニバーサルツーリズムを軸とした観光地としての魅力(例:高齢
者、障がい者にやさしい観光地)が高まり、ユニバーサルツーリズム市場を開拓でき
ることから、地域の観光関連産業の活性化につながっている。
したがって、中国地域の行政においても、ユニバーサルツーリズムは今後拡大が見
込める有望な市場であり、観光関連産業の活性化に必要なツーリズムであるという認
識を庁内で共有し、ユニバーサルツーリズムの推進に向け、観光施策の中にユニバー
サルツーリズムを取上げ、支援のあり方を検討することが課題である。
<中国地域の問題点>
・観光関連施策においてユニバーサルツーリズムの優先順位が低い(69~70 頁)
・他セクションで行われてきた高齢者・障がい者対策の情報を観光に活用する動きがみられな
い(69~70 頁)
<地域の課題>
観光施策の中にユニバーサルツーリズム推進を取上げ、支援のあり方を検討する
- 100 -
5.2.中国地域におけるユニバーサルツーリズム推進のための方策検討
これまでの調査を基に、中国地域のユニバーサルツーリズムを推進するために取組
むべき分野として「意識改革」
、
「潜在需要の顕在化」、
「仕組みづくり」、
「能力向上・
人材確保」の 4 点を設定し、それぞれに取組むべき具体的な方策を検討した。
各分野と方策の詳細は 5.2.1 より述べる。
図表 5.1 取組むべき分野の検討過程
取組む意義
・ユニバールツーリズムの市場の拡大が見込める(11~12 頁)
中国地域のユニバーサルツーリズムの取組みの問題点の把握
観光関連産業(47 頁)
支援組織(67~68 頁)
・ユニバーサルツーリズムを利益獲
得の市場とみなしていない
・ハード整備をユニバーサルツーリ
ズムに取組む上での障壁と認識し
ている
・ユニバーサルツーリズムに関わる
人材・ノウハウが不足していると
認識している
・バリアフリー情報の公開が進んで
いない
・ユニバーサルツーリズムに係る活
動をしている組織が限られている
・ユニバーサルツーリズム関連事業
の収入確保が難しい
・人材が不足している
・情報収集範囲が委託先(出し手)
により制限される
・バリアフリー情報の収集・発信が
不十分な地域がある
観光施策(70 頁)
・観光関連施策においてユニバーサ
ルツーリズムの優先順位が低い
・他セクションで行われてきた高齢
者・障がい者対策の情報を観光に
活用する動きがみられない
中国地域の課題(97~100 頁)
①観光関連産業に対しユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる
②地域のユニバーサルツーリズム情報の共有・発信を進める
③支援組織の設立の促進および既存支援組織に対する支援を検討する
④観光関連産業がユニバーサルツーリズムの対象者の受入れを積極的に進めることができるよう、障壁を取り除く
⑤観光関連産業の人材育成とユニバーサルツーリズム事業に係る人材の確保を行う
⑥観光施策の中にユニバーサルツーリズム推進を取上げ、支援のあり方を検討する
ユニバーサルツーリズムの
対象者のニーズ(96 頁)
・旅行に行きたくても諦めている人への、
諦めの原因を解消できる対応が欲しい
・ユニバーサルツーリズム情報が欲しい
・困ったときの手助けが欲しい
・ユニバーサルツーリズムの対象者でも体
験できる観光メニューが欲しい
他地域事例の知見(84~88 頁)
①ユニバーサルツーリズムを推進する旗振り役が存在している
②顧客の希望と受入先・観光メニューをマッチングさせている
③ユニバーサルツーリズムに取組む主体は多い方がよい
④ユニバーサルツーリズム市場の中でのターゲットを絞る
⑤「できること」からユニバーサルツーリズムの取組みをはじめる
⑥ユニバーサルツーリズムの対象者や介助者(家族等)の経験・
見方を活用している
⑦継続的な取組みにするための仕組みをつくっている
⑧ユニバーサルツーリズム情報の共有化が重要である
潜在需要の顕在化
《取組むべき分野》
(102 頁~120 頁)
意
識
改
革
仕組みづくり
能力向上・人材確保
- 101 -
5.2.1.
「意識改革」に係る方策
課題①で掲げた「ユニバーサルツーリズムの市場性を認知させる」ことに対応して、
中国地域のユニバーサルツーリズムへの取組み意欲が向上するよう地域全体として
「意識改革」をしていく必要がある。
このための方策として、以下の 2 つを提言する。
取組むべき分野:
「意識改革」
方策① 地域一体となった推進機運の醸成
方策② 観光関連事業者の取組み意欲の向上
a.方策① 地域一体となった推進機運の醸成
知見①および課題①から、地域一体となってユニバーサルツーリズムを推進してい
くための“旗振り役”の存在が非常に重要となる。“旗振り役”のリーダーシップに
より、ハード面では各観光地・宿泊施設等のバリアフリー化の進展、ソフト面ではユ
ニバーサルツーリズム関連の全国大会開催やバリアフリー情報の発信等により、地域
一体となったユニバーサルツーリズム推進機運が醸成される。“旗振り役”は、行政
が担い、ユニバーサルツーリズム推進宣言を実施する等、その地域が一体となった取
組み姿勢を明らかにし、その意義や必要性を広く認知させていくことが重要である。
図表 5.2 方策①「地域一体となった推進機運の醸成」の概要
項 目
内
容
・行政または商工会議所、観光協会等が地域を挙げてユニバーサルツーリズ
ムを推進することの意義や必要性を理解し、地域の各主体に広く認知させ
る。
・ユニバーサルツーリズムを担当する部局を定め、ハード(バリアフリー設
備改修等)
・ソフト(利用者介助等)両面で関連の高い福祉・観光・建設等
の各部局と連携した取組みを実施する。
具体的方策
(例) 佐賀県の取組み
・ユニバーサルデザイン(介護福祉、ツーリズム等を包含)は、一
部の人のための特別な配慮ではなく、あらゆる施策の前提であり、
“三世代みんなが安心して暮らせるまち”が目指す姿である。
・まちづくり・ものづくり・ソフトづくり・意識づくりの 4 つの観
点から総合的にユニバーサルデザインを推進する。
・ユニバーサルデザイン推進本部を設置し、関連部局が連携し推進
する体制を構築している。
想 定 さ れる
・行政(または商工会議所、観光協会等の経済、観光関連団体に委任)
実 施 主 体
対
象
参考となる事例
・観光関連産業従事者、地域住民
・三重県知事による「日本一のバリアフリー観光県推進宣言」
(平成 25 年、三重県)
- 102 -
b.方策② 観光関連事業者の取組み意欲の向上
知見③および課題①から、中国地域観光関連事業者に対し、他地域に後れを取らな
いよう、ユニバーサルツーリズムの今後の市場性拡大を理解し、ビジネスチャンスで
あることを認知させる必要がある。具体的施策として、観光関連事業者を対象とした
事例紹介等のセミナーを実施し、ユニバーサルツーリズムに積極的に取組み、観光客
数・収益増加等の成果を挙げている事例(成功体験等)を紹介する。そうした事例の
“生の声”を当事者から直接聞くことで、ユニバーサルツーリズムに対する認識を改
めるとともに心理的障壁等を取り除き、取組み意欲を向上させる機会とする。
図表 5.3 方策②「観光関連事業者の取組み意欲の向上」の概要
項 目
内
容
・行政(県、市町村)
、観光協会等の観光関連団体の主催により、ユニバーサ
ルツーリズムに先進的に取組み、利益拡大に結び付けている他地域の事業
具体的方策
者等を講師とする事例紹介セミナーを実施する。
・セミナーに出席した観光関連産業従事者(発地の旅行業者、受入地の観光
施設、宿泊施設、旅客運送業等)をはじめ、地域の支援組織や行政等との
交流を図るための地域ネットワークづくり等も検討する。
想定さ れる
・行政、観光関連団体(観光連盟、観光協会、ホテル・旅館組合等)
実 施 主 体
対
象
・観光関連事業者
〈一般社団法人バリアフリー旅行ネットワークによる研修会〉
・全国の観光関連産業従事者を対象に、ユニバーサルツーリズム事例紹介セ
ミナー、介護実務研修会の開催等を行っている。
参考となる事例
研修会の内容例
- 103 -
5.2.2.「潜在需要の顕在化」に係る方策
ユニバーサルツーリズム市場は、図表 1.8 の潜在需要を含めた推計では、10 年後
の平成 37 年度には国内旅行市場の約 50%となり、その後も増加が期待される魅力あ
る市場である。この潜在需要を顕在化させるためには、課題②「ユニバーサルツーリ
ズム情報の共有・発信を進める」ことと、課題④「観光関連産業の障壁を取り除く」
ことが重要となる。諦めているユニバーサルツーリズムの対象者が旅行に前向きにな
り、受入地側として中国地域を選んで貰えるよう「潜在需要の顕在化」を実現する方
策として以下の 3 つを提言する。
取組むべき分野「潜在需要の顕在化」
方策③ 利用者目線で調査したバリアフリー情報の公開
方策④ 利用者の負担軽減のための利用者情報の共有
方策⑤ 地域の旅行業者によるユニバーサルツーリズム市場の積極的な開拓
a.方策③ 利用者目線で調査したバリアフリー情報の公開
課題②で挙げたように、中国地域の観光施設、宿泊施設関係のバリアフリー情報の
公開は、全体の 1 割にとどまっている。また、せっかく調査されたバリアフリー情報
が限定された範囲内の提供(支援組織同一グループ内や情報整備を委託した行政エリ
ア内のみ)にとどまっていたり、最新状況にメンテナンスされておらず活用できない
事例が明らかになっている。ユニバーサルツーリズム利用者の目線で本人にとって必
要とされるきめ細かな情報の公開を実現する。それにあたっては、利用者の旅行エリ
アに則した広域的な視点も必要となる。(知見⑧)
図表 5.4 方策③「利用者目線で調査したバリアフリー情報の公開」の概要
内
項 目
容
・バリアフリー情報は広範囲に及ぶこと、毎年の状況変化に応じてメンテナ
ンスする必要があることから地域住民で調査するには限界がある。バリア
フリー情報は公共として共有すべき情報と位置付け、行政が担当すること
が望ましい。
・行政より業務委託を受けた支援組織が主となって、観光施設、宿泊施設、
具体的方策
交通機関等のバリアフリー情報や旅行業者が提供する関連情報等を調査す
る。
・高齢者や障がい者等の利用者目線に立ったバリアフリー情報とするため、
車いす使用者や杖歩行者、介護経験者が調査に同行しチェックした上で記
載する。
・1 つの観光地だけではなく広域の情報があれば、ユニバーサルツーリズムの
対象者の旅行選択範囲も広がることから、調査範囲は、県単位まで拡大さ
- 104 -
れることが望ましい(例:観光地と温泉地を周遊)
。
・収集した情報は、行政の観光 HP や支援組織の HP で公開するほか、冊子と
して取りまとめ、医療・福祉・介護施設等を含め、広く配布する。
【情報収集方法(例)
】
観光施設
宿泊施設
旅行業者
交 通
その他
情報収集
支援組織
業務委託
行政
想定される
・行政(支援組織へ業務委託)
実施主体
〈伊勢志摩バリアフリーツアーセンター〉
・伊勢志摩地域のバリアフリー状況調査は、同法人スタッフと同法人に協力
する専門員(地元の障がい者等)が行っている。これらの情報を基に同法
人 HP による情報発信をするとともにスタッフ常駐による相談窓口を開設し
ている。
参考となる事例
資料:「バリアフリー情報の公開例」伊勢志摩バリアフリーツアーセンターHP
- 105 -
b.方策④ 利用者の負担軽減のための利用者情報の共有
知見⑧および課題④から、観光関連産業や支援組織が、バリアフリー情報を基に利
用者の身体状態を考慮したユニバーサルツーリズムを企画する際には、障がいの程度
やバリアの許容範囲等、利用者に関する情報が必要となる。このために利用者への事
前ヒアリング等を実施し情報を入手するが、利用者にとって観光地や旅行業者が変わ
るたびに自分の身体状況を相手に説明するのは、時間的にも心理的にも負担であると
想定される。これを解消するため、観光関連産業や支援組織間で情報を共有化できる
よう利用者の情報をカルテ化する。
図表 5.5 方策④「利用者の負担軽減のための利用者情報の共有」の概要
内
項 目
容
・ユニバーサルツーリズム発地側の観光関連産業や支援組織が、利用者の了
解を得た上で、身体状態に関わる情報を入手する。
・発地側で入手した情報が、受入地側の観光関連産業や支援組織でも確認で
きるよう利用者情報をカルテ化する。
具体的方策
・受入地側の観光関連産業や支援組織従事者は、旅行中に気が付いた、利用
者のよりきめ細かな情報を付記する。
・こうして蓄積された情報は、発地側にもフィードバックされ、きめ細かな
情報が双方で共有される。
・利用者の身体情報は重大な個人情報であることから、情報管理手段を明確
にした上でご本人に説明し、了解を得る。
想定される
・観光関連産業、支援組織等
実施主体
〈日本バリアフリー観光推進機構「旅のカルテ」システム〉
参考となる事例
資料:特定非営利活動法人日本バリアフリー観光推進機構「旅バリ」
- 106 -
c.方策⑤ 地域の旅行業者によるユニバーサルツーリズム市場の積極的な開拓
知見②および課題②から、中国地域の旅行業者がユニバーサルツーリズムの利用者
のニーズに沿った旅行メニューを提供し、ユニバーサルツーリズム市場の積極的な開
拓を実施していくことが潜在需要の顕在化のために重要である。
図表 5.6 方策⑤「地域の旅行業者によるユニバーサルツーリズム市場の積極的な開拓」の概要
内
項 目
容
・大手旅行業者の従来のようなマスマーケットを対象とした営業方法ではな
く、利用者個人の身体状況に合わせたきめ細かな旅行メニューを開発する。
(実施にあたっては、利用者の顔のわかる地域の小規模事業者がふさわし
い。
)
具体的方策
・地域旅行業者が、事例紹介セミナーや介護実務研修会(方策①)に参加し、
ユニバーサルツーリズムに関わる情報や介護ノウハウ等を獲得する。
・ユニバーサルツーリズムモニターツアーを企画し、ユニバーサルツーリズ
ムについて実務ノウハウの吸収、リピーター客の拡大を実現する。
・地域の特色を活かしたユニバーサルツーリズム観光メニューを開拓する。
(例、温泉地での入浴介助メニュー)
想定される
・地域旅行業者
実施主体
〈チックトラベルセンターの取組み〉
参考となる事例
・同社がターゲットとして定めている脳卒中障がい者の生きがいづくりを行
っている NPO 法人とネットワークを結び、脳卒中障がい者とその家族に対
し、旅行商品を案内している。
- 107 -
5.2.3.
「仕組みづくり」に係る方策
課題③「支援組織の必要性」
、課題④「観光関連産業の障壁を取り除く」、課題⑥「行
政による支援のあり方を検討する」に対し、中国地域においてユニバーサルツーリズ
ムを推進していく上で重要となる「仕組みづくり」に係る方策として、以下の 2 つを
提言する。
取組むべき分野「仕組みづくり」
方策⑥ 継続的な取組みに向けた支援組織の充実
方策⑦ 宿泊施設に対するハード整備の推進
a.方策⑥ 継続的な取組みに向けた支援組織の充実
知見②⑦および課題③⑥から、ユニバーサルツーリズム推進のためには、支援組織
を充実させていくことが重要である。支援組織の意義は、利用者目線でのバリアフリ
ー施設状況評価や利用者(身体)情報に基づいて、利用者が安心して旅行を楽しめる
よう宿泊施設等をサポートできることである。現在、支援組織の大半は、志のある
NPO 法人が担っているが、経営的には非常に厳しい。バリアフリー施設状況調査の受
託等で単年度補助を受けている事例はあるが、継続できる経営基盤となっていないの
が実態である。
NPO 法人による利用者支援業務が経営的に成り立つようにする仕組み、
すなわち、活動資金が確保できる仕組みを作る必要がある。
例えば、方策③で掲げた利用者目線でのバリアフリー情報の公開のためには、実際
に現地に出向いてバリアフリー設備内容を調査する必要があるが、利用者にその費用
の負担を求めることは難しい。従って、行政から利用者目線にたった調査ができる支
援組織に調査を委託すること等が求められる。長期的には、高齢者、障がい者のユニ
バーサルツーリズムへの理解が進み、利用者としてこれらの情報に価値があることを
認識し、対価を支払うようになることが期待される。
図表 5.7 方策⑥「継続的な取組みに向けた支援組織の充実」の概要
項 目
内
容
・行政が、観光施設、宿泊施設、旅行業者と支援組織間のネットワークづく
りの橋渡し的な役割を担う(地域ユニバーサル協議会の開催等)
。
具体的方策
・支援組織に対して、行政より地域内バリアフリー施設状況調査・情報発信
事業等の業務委託を実施する。
・他地域に対して、支援組織による地域ユニバーサルツーリズム推進状況等
を情報発信する。
想定される
・行政
実施主体
対
象
・支援組織
- 108 -
c.方策⑦ 宿泊施設等に対するハード整備の推進
知見⑤および課題④⑥から、ユニバーサルツーリズムを推進していくためには、地
域を挙げて取組む契機となる施策を実施することが重要である。旅館等の小規模な観
光関連事業者は、経営的基盤も弱く設備改修に躊躇する所も少なくないため、比較的
小規模な事業者を対象に地域内宿泊施設のバリアフリー化改修に際して、行政より補
助金を拠出するハード整備事業の推進を提言する。
図表 5.8 方策⑦「宿泊施設等に対するハード整備の推進」の概要
項 目
内
容
・ハード整備事業の実施に際して、バリアフリー化全面改修だけを対象とす
るのではなく、一部改修も対象として小規模事業者でも取組みやすいよう
配慮する。
具体的方策
(一部屋、手すり等の一部改修を含め補助金対象とする等)
・利用者目線にたった改修とするため、改修前に支援組織による現場での改
修アドバイスを受けることが大変効果的である。
・改修後、行政、支援組織は、地域宿泊施設のバリアフリー設備について紹
介記事等、広く情報発信し、集客増につなげる。
想定される
・行政、
(支援組織)
実施主体
対
象
・宿泊施設
〈伊勢市「伊勢志摩バリアフリー観光向上事業」
〉
【事業の流れ】
参考となる事例
資料:特定非営利活動法人日本バリアフリー観光推進機構「旅バリ」
・小規模改修を対象に 1 件につき上限 400 万円で、改修費の 2 分の 1 を補助。
・支援組織スタッフ(伊勢志摩バリアフリーツアーセンター)を派遣し、改
修に際してのアドバイスを実施している。
・事業に参加した事業所を HP で紹介したり、マスコミに周知するほか、旅行
業者によるモニターツアーを実施した。
・本事業を活用してバリアフリー改修を行った宿泊施設の集客促進と「バリ
アフリーに力を入れる伊勢」として PR するためにバリアフリー宿泊モニタ
ーキャンペーンを実施した。
- 109 -
5.2.4.
「能力向上・人材確保」に係る方策
課題⑤で掲げた「ユニバーサルツーリズムに係る人材を育成・確保する」を実現す
るために「能力向上・人材確保」に係る2つの方策を提言する。
取組むべき分野「能力向上・人材確保」
方策⑧ 観光関連産業従事者の能力向上・人材の育成
方策⑨ 介助ノウハウ・スキルを持つ旅行サポーター等の人材確保
a.方策⑧ 観光関連産業従事者の能力向上・人材の育成
課題⑤から、ユニバーサルツーリズム推進に際して、観光関連産業従事者の能力向
上・人材育成に向けた方策を実施し、地域全体の対応レベルを維持・向上させる必要
がある。
図表 5.9 方策⑧「観光関連産業従事者の能力向上・人材の育成」の概要
項 目
内
容
・観光関連産業従事者を対象とした能力向上・人材育成のための研修会を開
催する。開催主体は行政、観光関連団体等が想定される。
・研修会のカリキュラムは、ユニバーサルツーリズム全般の理解を深めると
ともに介助現場のニーズを取り入れた車いす介助体験実習等の実務スキル
具体的方策
講習も含む内容とする。
・講師は、地域の支援組織や、地域外のユニバーサルツーリズム専門家等を
招聘する。
・地域全体のユニバーサルツーリズム対応レベルの維持・向上のため、定期
的に実施する。
想定される
・行政、観光関連団体、支援組織
実施主体
対
象
・観光関連産業従事者
〈倉敷市「おもてなしマイスター制度」講習会〉
・文化財保護の観点から改修が難しい倉敷美観地区においては、ユニバーサ
ルツーリズム推進にあたり、ハード改修ができない歴史的建造物の段差等
のバリアを人の手によるサポートで解消する取組みを実施している。
・倉敷市の文化を理解し、高齢者・障がい者等に車いす介助等の支援ができ
参考となる事例
る実務スキルを持った人を育てていくことを目的に「おもてなしマイスタ
ー制度」を実施している。本制度は、事務局が開催する「おもてなしマイ
スター制度講習会」を受講し、市長より認定を受ける形で「おもてなしマ
イスター」の資格を授与している。
・
「おもてなしマイスター制度講習会」は倉敷市の HP
(http://www.city.kurashiki.okayama.jp/9129.htm)を参照。
- 110 -
b.方策⑨ 介助ノウハウ・スキルを持つ旅行サポーター等の人材確保
知見⑥および課題⑤から、ユニバーサルツーリズムに理解があり、介助ノウハウや
スキルを持つ家族介助経験者や介護福祉施設従事(経験)者等を旅行サポーターや入
浴サポーターとして募集・紹介する取組みを地域単位で推進する。
図表 5.13 方策⑨「介助ノウハウ・スキルを持つ旅行サポーター等の人材確保」の概要
項 目
内
容
・ユニバーサルツーリズム国内外ツアーに同行し、車いす等の介助ができる
旅行サポーターとして、家族介助経験者や介護福祉施設従事経験者を募集
具体的方策
する。
・入浴を希望するユニバーサルツーリズム利用者に対して、入浴介助サービ
スを提供する。入浴介助サポーターとして、介護福祉施設従事(経験)者
等を紹介する仕組みを作る。
想定される
・支援組織
実施主体
対
象
・地域住民
〈入浴介助サービスメニューの開発〉
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
は、平成 25 年に「佐賀県地域支え合い体
制づくり事業」により入浴介助サービスモ
ニター事業を受託。介護福祉施設従事(経
験)者から入浴介助サポーターを募集・紹
介し、利用者の様々な身体状況に応じた入
浴介助ノウハウを蓄積した。これにより、
参考となる事例
平成 26 年より自主事業として、本事業の
ノウハウを基に嬉野温泉で入浴介助サー
ビスを実施し好評を得ている。
入浴介助サポーターとして、非番の時間
帯に介護福祉施設従事(経験)者へ協力依
頼している。
資料:「入浴介助サービス PR のチラシ」
(佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター)
- 111 -
おわりに
本調査では、拡大するユニバーサルツーリズム市場の獲得に向け、中国地域におい
てユニバーサルツーリズムを推進するための課題を示し、観光関連産業、支援組織、
行政が取組むべき方策を検討した。
実態調査で判明したように、観光関連産業ではハード・ソフト両面に障壁があるこ
とから、ユニバーサルツーリズムに取組むハードルが高いと懸念されているが、地域
の観光関連産業、支援組織、行政がそれぞれとの関わりを強め、ユニバーサルツーリ
ズムに取組みやすい環境づくりを進めることにより、ユニバーサルツーリズムが地域
を活性化させるビジネスとして発展する可能性は大いにある。
本調査のおわりに、今後中国地域でユニバーサルツーリズムが推進されることによ
り、どのような地域になる可能性があるのか、以下の 3 点を提示したい。
1.ユニバーサルツーリズムを通じ新しいビジネスが創出される地域
本調査で提案した方策の実行を通じて、今後地域でユニバーサルツーリズムを推進
する機運が醸成され、観光関連産業のハード整備やユニバーサルツーリズムメニュー
等の開発が積極的に行われることにより、ユニバーサルツーリズムの対象者の満足度
の向上、集客増に結び付いていくことが期待される。
さらに、ユニバーサルツーリズムを推進することは観光関連産業のみならず、他分
野の産業を含めたビジネスチャンスにつながる可能性がある。これまでの事例調査よ
り、ユニバーサルツーリズムの受入整備を進めるには、「観光」という観点だけでは
なく、他分野の知識・ノウハウを活用することが重要であることが分かった。例えば
ハード整備事業では、ユニバーサルデザインの考え方を理解している建設業が必要で
ある。また、ユニバーサルツーリズムに関わる人材の育成には「介助する」という視
点が必要なことから、介護・福祉分野の知識や技術を活用することが望まれる。この
ほかに、ユニバーサルツーリズム情報の発信についても、情報発信の媒体として、ホ
ームページの作成ほか近年利用が進んでいるスマートフォン用のアプリ作成等、情報
通信産業の技術が必要である。
このように、ユニバーサルツーリズムの推進により、観光関連産業のみならず他分
野の産業の進出が促され、観光関連産業とネットワークを結び新しい事業展開につな
がることが期待される。
2.地域人材の活躍の場が増える地域
高齢化が進展する中、身体や健康に不安があるユニバーサルツーリズムの対象者に
対して、旅行中になんらかのサポートを提供する必要性は益々高まると考えられる。
ユニバーサルツーリズムの対象者への旅行中のおもてなし(介助)は、ユニバーサ
ルツーリズムの対象者の笑顔、満足につながり、旅行サポーター自身もユニバーサル
- 112 -
ツーリズムの対象者が「旅行をしてよかった」と思える瞬間に立ち会うことができる。
このように、旅行サポーターは、ユニバーサルツーリズムの対象者の役に立つ、やり
がいのある仕事であるといえる。
中国地域においても、介護・福祉施設での従事経験者や退職したシニア層、その他
ユニバーサルツーリズムに興味をもつ地域の様々な住民に、ユニバーサルツーリズム
の対象者の旅行をサポートするというやりがいのある働きの場があることを周知し、
地域の人材がイキイキと活躍する地域になることが期待される。
3.安心して旅行を楽しむことができる地域
ユニバーサルツーリズムの対象者に安心して旅行を楽しんで貰うには、地域のユニ
バーサルツーリズム情報を整備し、積極的に受け入れていることを発信し、個々の身
体状況と要望に沿った対応ができる宿泊施設や観光メニューを提供することが求め
られる。
このようなユニバーサルツーリズムの対象者の視点に立った取組みは、地元住民に
とっての住みよい地域づくりにもつながると考えられる。ユニバーサルツーリズムを
推進し、ユニバーサルツーリズムを当たり前に受け入れられるようになった時、その
地域が有するユニバーサルツーリズム情報、バリアフリー化された施設・設備、ユニ
バーサルツーリズムを担う人材は、高齢化を迎えた地域の社会基盤を支える貴重な財
産になっていると考えられる。この基盤が地元のユニバーサルツーリズムの対象者の
外出機会の促進や健康増進につながる等、地域社会の発展に寄与することが期待され
る。
- 113 -
資 料 編
他地域事例調査
1.東海地域 .................................................................................................... 115
株式会社チックトラベルセンター............................................... 115
愛知県産業労働部観光コンベンション課国内誘客グループ ......................... 117
伊勢志摩地域の取組み ........................................................ 118
2.九州地域 .................................................................................................... 125
旅のよろこび株式会社 ........................................................ 126
特定非営利活動法人 UD くまもと................................................ 127
佐賀県統括本部ユニバーサルデザイン推進グループ ............................... 129
嬉野市企画部市民協働推進課 .................................................. 130
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター........................................... 131
3.沖縄地域 .................................................................................................... 132
一般社団法人那覇市観光協会 .................................................. 132
一般社団法人 Kukuru .......................................................... 133
特定非営利活動法人バリアフリーネットワーク会議 ............................... 134
沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課........................................... 136
- 114 -
他地域事例調査
1.東海地域
株式会社チックトラベルセンター
企
業
名
株式会社チックトラベルセンター
所
在
地
愛知県名古屋市中区錦1丁目 20 番 19 号
代
表
者
代表取締役
立
昭和 52 年 4 月 8 日
金
5,400 万円
設
資
本
主な事業内容
名神ビル6F
山口寿史
一般の旅行の他、海外航空券卸販売及び障がい者・高齢者を対象とした国
内外の旅行商品企画、実施、添乗
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・チックトラベルセンターは、平成 9 年に入社した松本氏の発案で障がい者や高齢者を対象
とした旅行部門「ハート TO ハート」を設立した。松本氏は他業種に従事していたが、重度
障がい者の旅行介助ボランティアの経験から、障害により旅行を諦めている人に旅行を届
けたいという強い思いを持つようになり、同社へ転職し同部門を立ち上げた。
【事業内容】
・同部門は障がい者・高齢者を対象とした国内外の旅行商品を企画し専門添乗員が同行して
いる。
・顧客の約 6 割は脳梗塞等脳疾患の方で、歩行困難者が全体の 5 割程度となっている。年
間取扱件数は約 1,300 人(うち海外約 100 人、国内約 1,200 人<日帰り旅行含む>)
。
・専門的なサービスが受けられる部門として、リピーターからの信頼は高く、同部門設立依
頼、18 年に渡り旅行に参加する顧客もある。現在、リピーターは高齢化し旅行頻度は落ち
ているが、自発的に同部門を友人、知人に宣伝してくれる。この口コミによる新規顧客の
獲得効果は大きい。同じ立場・境遇にある人の旅行の体験談には信用性があり、旅行会社
よりも説得力がある。
・同部門は、福祉、障がい者の団体組織の事業に積極的に協力し、同時に、同部門の旅行を
直接ターゲットに宣伝する機会を得ている。いわゆる「win-win」の関係を長い年月をかけ
て構築し、顧客獲得に結びつけている。
・例えば、脳卒中障がい者の生きがいづくりの
支援を行っている「NPO 法人ドリーム」の情
報誌に、有料で旅行の広告記事を掲載し、そ
の代りに、同部門の旅行商品の案内を掲示し
ている。また、NPO 法人ドリームが運営する
脳卒中障がい者の就業支援喫茶店「ドリー
ム」で、旅行の説明会を開いている。こじん
まりとして和やかな雰囲気の中で旅行の話
が聞けると、顧客からは好評を得ている。ま
た、コーヒー等注文するため、店の売上に貢
脳卒中障がい者の就業支援カフェ「ドリーム」
。
バリアフリーツアーセンターの事務所を併設
する予定
- 115 -
献している。
・地域の観光イベントを体験できるモニターツアーを積極的に実施している。地元の観光地
の活性につながり、また受入側の地元住民にユニバーサルツーリズムを知ってもらえる機
会になる。平成 26 年には、愛知県津島市の「NPO 法人まちづくり津島」より、秋祭りで実
演する地域伝統「からくり屋台」を名古屋の車いす利用者に PR したいという依頼があり、
モニターツアーを企画した。
・旅行サポーター付のツアー商品も企画しており、旅行サポーターは自社で組織している。
旅行サポーターは無償ボランティアで、この中には障害がある夫と同社の旅行に参加した
経験のある人もいる。介護経験を有し、かつ旅行に出かけることの楽しさ、素晴らしさを
を理解しており、旅行サポーターにふさわしい人材である。
・同部門は、日本バリアフリー観光推進機構に加盟しており、平成 27 年には、愛知県のバリ
アフリー観光の相談窓口としてバリアフリーツアーセンターを開設する。同機構で旅行業
の登録を受けている組織は少ないので、他県の組織に代わり、相談者が必要とする乗車券
等の発券や宿泊予約等を行う意向がある。
【取組みを進める上での課題】
・集客のために、介護施設へ営業に行っているが、芳しい結果は得られない。介護施設には
所得水準が高く旅行に意欲のある利用者もいると思われるが、介護職員に旅行に対する価
値観が根付いていないため、団体旅行等の実施につながらない。今後、介護・福祉施設に
対して、高齢者や障がい者の中で旅行ニーズがあることや旅行が参加者にもたらす心身の
効能等について周知を行うことが必要である。
- 116 -
愛知県産業労働部観光コンベンション課国内誘客グループ
行
政
名
愛知県産業労働部観光コンベンション課国内誘客グループ
所
在
地
愛知県名古屋市中区三の丸 3 丁目 1 番 2 号
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・高齢化によるユニバーサルツーリズムの需要が高まることを見込み、平成 21 年度より地域
の民間企業、NPO 法人と協働で、ユニバーサルツーリズム推進のための事業を始めた。
【事業内容】
・平成 21~25 年度に、観光施設のバリアフリー調査と情報ツールの作成、介助人材の育成、
地域啓発活動等を行った。平成 21~23 年度に、高齢者、要介護者の旅をサポートする「旅
サポーター」を養成し、このサポーターが同行するバスツアーを年に 5~6 回実施した。ま
た、平成 24 年度に、国の「新しい公共支援事業」を活用し、地域の NPO 法人や旅行業者と
協働で、観光地のバリアフリー情報の調査と、当調査結果の情報を掲載するポータルサイ
トを作成した。平成 25 年度には、当ポータル
サイトの情報の更新事業を行ったほか、県内の
観光事業所、関係団体、地域住民、自治体が参
画する「おもてなし愛知県民会議」の中でバリ
アフリー観光について意見交換会を行った。
・観光施設のバリアフリー情報のポータルサイト
の作成にあたっては、地元の車いす使用者や杖
歩行者が調査に加わったことで、トイレの入口
の幅やドアの鍵の形状等、当事者が必要とする
詳細なバリアフリー情報を収集・発信すること
ができた。
「おもてなし愛知観光バリアフリー情報」ポータルサイト
【取組みを進める上での課題】
・介護施設へモニターツアーのチラシ配布を行い対象者への周知は進められたが、ボリュー
ム層と考えられる、在宅で体に不自由を抱えた高齢者に直接 PR することが難しかった。
・ち密なバリアフリー情報を調査・公開しても時が経てば情報は古くなってしまうので、定
期的な更新作業が必要であるが、予算的に厳しい。
・本来であれば、各施設がバリアフリー化や改修の情報を自施設の HP に掲載することが望ま
しいが、情報の公開は施設の任意であるため、全施設に画一的な情報を掲載してもらうこ
とは難しい。
・宿泊施設の情報提供を要望する声も挙がっているが、県が運営する HP で民間施設の情報を
掲載すると偏りが出る。旅行業者、その他民間組織が運営し観光関連のバリアフリー情報
を一括で掲載できないか、検討課題となっている。
- 117 -
伊勢志摩地域の取組み
伊勢志摩地域では支援組織である伊勢志摩バリアフリーツアーセンターを中心に
地域ぐるみでユニバーサルツーリズムを推進し、集客に結び付けている。そこで伊勢
志摩バリアフリーツアーセンターの取組みを紹介するとともに、地域ぐるみでユニバ
ーサルツーリズムに取組んだ事例として、伊勢志摩バリアフリーツアーセンターから
バリアフリールーム改築のアドバイスを受けた旅館、行政と伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンターが支援を行った宿泊施設へのバリアフリー化推進事業を取り上げる。
a.伊勢志摩バリアフリーツアーセンター(三重県鳥羽市)
企
業
名
特定非営利活動法人
所
在
地
三重県鳥羽市鳥羽1丁目 2383−13
代
表
者
理事長
立
平成 14 年 4 月
設
主な事業内容
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
中村元
バリアフリー情報の収集・発信、宿泊施設のバリアフリー調査・評価、観
光地のバリアフリー化(バリアフリー施設の改修にかかるアドバイス等)、
イベント・アクティビティへの支援
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・平成 13 年度に、三重県が、伊勢志摩地域の観光を再生させるため、
「伊勢志摩再生プロジ
ェクト」を発足させた。このプロジェクトのメンバ-であった同法人の理事長中村元氏の
発案により、今後増加が見込める高齢者や障がい者をターゲットに、バリアフリー観光を
推進することになり、地域の拠点としてバリアフリーツアーセンターを設立した。
バリアフリーツアーセンターの仕組み
- 118 -
・最近は公共交通等が整備され、障がい者が外出できる環境も整い、障がい者が外出する機
会も増えている。また、高齢化により、高齢者の旅行は増加するとみられる。このため、
ユニバーサルツーリズム市場は拡大が見込める。
・障がい児が在籍する修学旅行、身体に不自由がある高齢者を伴う家族旅行では、障がい者、
高齢者に対応できない宿泊施設は選ばれない。つまりユニバーサルツーリズムに対応しな
ければ、本人だけでなく、同伴者を含むグループ全体を逃すことになる。
【事業内容】
・同法人の HP 上で、観光、宿泊、交通、飲食、
アクティビティに関するバリアフリー情報を
掲載している。バリアフリー情報は同法人の
常駐スタッフが、同法人に協力する専門員と
共に調査している。専門員は、県内各地に居
住する視覚障がい者や車いす使用者、介助ボ
ランティア等で、当事者目線から県内のバリ
アフリー情報を収集し、HP で発信している。
・近鉄鳥羽駅に直結した観光複合施設に、旅の
伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
相談ができる窓口「伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンター」を設置し、常駐スタッフ 4 名で対応している。収集した観光施設、宿泊施
設の情報を基に、旅の相談を無料で行っている。年間の相談件数は約 1,000 件ある。
・宿泊施設に対して、常勤スタッフが施設のバリアフリー化をアドバイスしている。伊勢市
では、平成 23~24 年度に伊勢市内の宿泊施設に対して、鳥羽市では、平成 25 年度から鳥
羽市内の宿泊施設や観光施設・その他観光に関わるすべての事業者を対象としたアドバイ
スを同法人への委託事業として行っており、これらの事業としてのアドバイス料について
は、事業所の金銭的負担はない。伊勢志摩地域の宿泊施設のバリアフリールームは、年々
増加し、同法人発足当時の 9 施設 10 部屋から、20 施設 30 部屋に増加した(平成 26 年 7 月
現在)
。アドバイスを実施した宿泊施設の宿泊客の増加を後押しするため、宿泊施設の情報
を同法人の HP で紹介している。
・伊勢勢志摩でアクティブな観光ができること
を PR するため、車いす de 神宮参拝プロジェ
クトやマラソン大会、セイリング(ヨット)
等、地域で障がい者も参加できるイベントや
祭りに対する支援を行っている。
・平成 22 年にバリアフリー旅行を一定の水準で
全国的にサービスできる基盤をつくるため、
NPO 法人日本バリアフリー観光推進機構を設
立し、ネットワークは現在 16 都道府県(17 の
「車いす de 伊勢神宮参拝プロジェクト in 外宮」
の様子(伊勢志摩バリアフリーツアーセンター)
法人・団体)まで広げている。
・日本バリアフリー観光推進機構では、受入側が顧客に対応する際に必要となる身体の状態
や配慮すべきこと等を記録した「旅のカルテ」を、顧客の要望があれば全国のバリアフリ
ーツアーセンターで共有できるようにしている。これにより、顧客は旅行に出かける際、
バリアフリーツアーセンターがある地域であれば、身体の状態や配慮して欲しいこと等の
- 119 -
詳細を一から説明する手間を省くことができる。
・バリアフリー調査を手伝う「専門員」は、三重県内に在住する車いす使用者や杖歩行者、
介助ボランティア等 60 名に協力して貰っている。
【参考となるポイント】
・障がい者や高齢者が安心して「行きたい所に行けて」、
「やりたいことができ」
、旅行を楽し
んで貰えるよう、
「パーソナルバリアフリー基準」という相談システムを開発した。障がい
者、高齢者の旅行は、個人の身体状況や同伴者の年齢、人数等により、バリアの程度や種
類が異なる。また、観光地は山や海、神社仏閣等、バリアがあることが当然であり、これ
が旅の醍醐味ともいえる。障がい者や高齢者はこうした旅の醍醐味を味わいたいのであり、
決してバリアが無いところに行きたいわけではない。そこで、観光、宿泊、飲食施設、交
通機関にどのようなバリアがあるかを調査し、そのバリアを乗り越える方法を各相談者と
相談しながら、それぞれの実情に合わせた旅行の提案をするようにしている。
【取組みを進める上での課題】
・バリアフリーツアーセンターの設立から 4 年は三重県の補助金で運営していた。これ以降
は自立し、伊勢市、鳥羽市、三重県、国土交通省等からの事業を受け、成果を挙げている。
今の所、資金面は安定しているが、バリアフリーツアーセンターの運営には、毎年約1千
万円かかるので、継続的な取組みにしてくために、新しい事業を始める等、常にチャレン
ジしていく必要がある。
- 120 -
b.客室のバリアフリー化の事例
企
業
名
扇芳閣
所
在
地
三重県鳥羽市鳥羽2丁目 12-4
代
表
代表取締役
設
立
昭和 31 年 1 月
数
85 室(和室、和洋室等)
総
客
室
谷口仙二
【事業内容】
・扇芳閣は、鳥羽市にある老舗の大型旅館であり、鳥羽水族館やミキモト真珠島といった観
光地に近く、お伊勢参りの拠点としても利用されている。
・平成 14 年に障がい者の意見を取り入れた宿泊部屋をつくるため、伊勢志摩バリアフリーツ
アーセンターとユニバーサルルーム建築プロジェクトを立ち上げ、バリアフリーツアーセ
ンターのメンバーや、設計士、建設会社と検討会を重ね、平成 15 年にバリアフリー対応の
ツインルームを1部屋完成させた。さらに、平成 18 年には定員 5 名の和洋室を 2 室完成さ
せた。客室のバリアフリー化を行うために、アドバイスを伊勢志摩バリアフリーツアーセ
ンターに依頼した。伊勢志摩バリアフリーツアーセンターからは車いす利用のスタッフが
参加し、当事者としての細やかなアドバイスを基に部屋の設計を行った。
ユニバーサル対応の客室の間取り(扇芳閣 HP)
小柄な高齢者でも床に足が届くよう、便座は低く設置
露天風呂まで座って移動できるよう、ベンチ(写
真右側)を設置
壁にデザイン性のある目立たない手すりを設置
- 121 -
c.宿泊施設へのバリアフリー化推進事業
行
政
名
伊勢市産業観光部観光企画課
所
在
地
三重県伊勢市岩淵 1-7-29
【事業内容】
・伊勢は、20 年に一度の伊勢神宮の遷宮前後に参拝・観光客が大きく増加する。このため遷
宮に合わせて、宿泊施設や飲食店等の受入体制を強化する取組みを行ってきた。今回の取
組みにあたり、遷宮をピークに参拝・観光客の減少を食い止めることが課題として挙がっ
たことから、遷宮を念頭に置き、かつ遷宮後の誘客効果も見込める観光振興策を講じるこ
とにした。そこで、高齢者人口の増加を背景に今後は身体に不自由を抱える高齢者の旅行
が増加すると見込めることから、障がい者や高齢者の受入促進を図るために「伊勢市バリ
アフリー観光向上事業」を実施した(平成 23~26 年度)
。
・平成 23 年度・24 年度は、伊勢市内の宿泊施設を対象に、バリアフリー化による宿泊者数ア
ップを目指し、改修工事費用の補助を行い、2 カ年で計 17 件の改修につながった。
・伊勢市は小規模旅館が多く、県の UD 条例に沿った「誰でも」泊まれること前提にすると、
大改築をする必要があり、旅館の良さが失われ、費用負担も大きくなると考えられた。そ
こで、ターゲットを絞り「その宿に呼びたいお客様が心地よく使える」ことをコンセプト
に、少額投資によるハード整備で受け入れられる顧客層を広げることを目指すことにした。
・このため、100%バリアフリー化をしなくても、自社のできることからはじめることができ
た。例えば浴室に手すり 1 つ付けることでも受入が促進されるのであれば、補助金交付の
対象とする等、市としても柔軟に判定した。なお、補助金交付の判定委員会を設置し、市
の建築住宅課で法のルールが守られているか確認するとともに安全上の問題を確かめた上
で補助金交付を行っている。
・事業に参加する宿泊施設は、市が事業委託した伊勢志摩バリアフリーツアーセンターによ
るヒアリングとバリアフリーアドバイスを受けて改修することを条件とした。宿泊施設は、
集客したいターゲットを絞り、そのターゲットが利用しやすい施設にするために、宿泊施
設、バリアフリーツアーセンタースタッフ、建築業者の 3 者による協議を何回も行い、通
常のバリアフリー化事業の 2 倍位の時間をかけた。改修終了時には、宿泊施設もバリアフ
リー観光の知識が相当身に付き、接客等のサービス面も向上した。
・少額投資で取組みやすいことから、これまで改修をためらっていた事業所が改修するきっ
かけになった。
・平成 25 年度には、伊勢志摩バリアフリーツアーセンタ
ーに事業委託し「お伊勢まいり・だんないキャンペーン」
を実施。先の事業を活用してバリアフリー改修を行った
宿泊施設を利用するモニターキャンペーンを実施した。
《事業概要》
無料相談
改修補助
P
R
バリアフリー観光導入を宿泊施設の利用客
数アップにつなげるための相談や、建物改修
に対する提案
バリアフリー工事に関する費用の 2 分の1の
補助(補助金交付上限 400 万円)
マスコミへの情報提供や、HP 等での PR
キャンペーンのポスター
- 122 -
《伊勢市バリアフリー観光向上事業に参加した宿泊施設の事例》
資料:伊勢市「伊勢市バリアフリー観光向上事業 平成 23 年度事業例内覧会」
- 123 -
d.個別施設からみた効果
伊勢・志摩地域でバリアフリーツアーセンターが設立され 10 年が経った。この間
地域ぐるみでユニバーサルツーリズムが推進され個別施設においても、ユニバーサル
ツーリズムの対象者の市場の開拓につながるケースもみられるようになっている。
【伊勢神宮内宮(伊勢市)
】
伊勢神宮内宮の参拝者総数と車いす利用者数の推移をみると、平成 12 年に参拝者
総数は約 413 万人、うち車いす利用者は約 1,400 人であった。これが遷宮の年にあた
る平成 25 年には参拝者総数が約 885 万人、うち車いす利用者が約 17,300 人と、参拝
者総数が 2 倍に、車いす利用者は約 12 倍となった。
伊勢神宮では手動車いすの貸出しを以前より行っており、平成 12 年からは、電動
車いすを揃える等徐々に数を増やしてきた。現在は内宮で 20 台(手動、電動の計)
、
外宮で 13 台(手動、電動の計)を用意している。
伊勢神宮内宮
( 万人)
参拝者総数および車いす利用者数の推移
参拝者総数(左軸)
車いす利用者(右軸)
1000
( 百人)
200
900
180
800
160
700
140
600
120
500
100
400
80
300
60
200
40
100
20
0
0
H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 ( 年)
資料:神宮司庁
*車いす利用者は、貸出と持参の計。
【伊勢市バリアフリー観光向上事業(伊勢市)】
伊勢市が伊勢市内の宿泊施設を対象に、施設のバリアフリー化を支援した「伊勢市
バリアフリー観光向上事業」(平成 23~24 年度)では、改修工事を行ったことにより
少なくとも 5,776 人の新規顧客*の開拓に結び付いたという結果が出た。
*
「伊勢市バリアフリー観光向上事業」に参加したホテル・旅館業のべ 17 軒(平成 23 年度7軒、平成 24
年度 10 軒)の計。改修後から平成 25 年 2~3 月までに訪れた宿泊客数を尋ねている。なお、改修時期は
個々の旅館により異なっていることから、調査対象期間も各施設により異なる。伊勢神宮遷宮の効果は
除いている。
- 124 -
e.車いす実地研修
伊勢志摩 BFTC のスタッフの方を講師に迎え、伊勢神宮内宮において、本調査委員
会メンバーによる車いすを使った実施研修を実施した
内宮の参道は玉砂利が敷き詰められ、御正殿前には三十数段の階段があり、車いす
を押す介助者の体力的な負担が懸念された。しかし講師から力をかけずに車いすを操
作するコツを学び、負担を軽減することができた。
研修を通し、車いす使用者への理解や車いすの安心・安全な操作技能を取得した人
材を確保しておくことは、受入れる観光地として取組む必要性が高いと感じられた。
〈研修ルート〉
内宮宇治橋→手水舎→第一鳥居→五十鈴川御手洗場→第二鳥居→御正殿
(片道約 800m)
内宮宇治橋前で車いすのセッティング
直線 300mの玉砂利の道
御正殿前で、階段の上り方のレクチャーを受けた
手ぬぐいを両脇に括り車いすの前輪を浮かせると力
をかけずに前へ進めることが分かった
- 125 -
2.九州地域
旅のよろこび株式会社
企
業
名
旅のよろこび株式会社
所
在
地
熊本市北区飛田 3-1-28
代
表
者
代表取締役
立
平成 18 年 11 月 27 日
数
5 名(正社員 3 名、パート 2 名)
設
従
業
員
主な事業内容
宮川和夫
資
本
金 980 万円
高齢者・障がい者を対象とした国内外の旅行商品企画、実施
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・宮川代表が、高齢や、障がいにより、旅を諦めている人が多いと聞き、障がい者 15 名、介
助者、家族ら 15 名のハワイツアーを企画・実施したところ、大変喜ばれた体験から、会社
を設立した。
【事業内容・要望等】
・高齢者、障がい者に対して、本人の身体状況に応じたきめ細かく安全なツアーを提供して
いる。一例をあげれば、一般のツアーでは、バス1台お客様は 45 名だが、このツアーでは、
お客様 15 名に、旅行介助ボランティアスタッフが 10 名同行。海外旅行では事前に本人自
宅を訪問し、身体状況を直接確認する等、十分な準備・対応を実施している。旅行代金は、
一般の旅行に比べると 3 倍程度高い。その理由は、バス1台を一般のツアーの 3 分の1の
人数で利用する事や、車いすを使用する方が乗降しやすいリフト付バスの借り上げ代が一
般のバスより高い事、一般のツアーより事前の準備や打ち合わせに時間を要する事、旅行
介助ボランティアスタッフの経費が加算されるためである。
(旅行介助ボランティアスタッ
フの交通費・宿泊代は同社負担、食事は個人負担)
・参加者は、地元の人が多く、旅行介助ボランティアスタッフが同行するので、高齢者、障
がい者本人からの申し込みによる1人参加も多い。
・対象内訳は、ユニバーサルツーリズム:70%、一般のツアー:30%の割合である。
・高齢者、障がい者のツアーだからといって平日催行に限ってはいない。観光地が賑わいを
見せる休日に旅行を実施する意味もあると考えている。
・こうしたツアーでは、旅行に参加した人からの口コミが、PR 効果として一番高い。
・旅行介助ボランティアスタッフの募集は、HP 等で実施している。
・新規問い合わせは月 1~2 件程度だが、今後は高齢化の進展により増加するとみている。
・超高齢社会の今、宿泊施設には、畳中心の客室構成ではなく、ベッド、椅子の客室の増加
を、交通機関には、リフト・スロープの設置を、飲食施設には、刻み食、ミキサー食対応
の配慮を期待したい。
・ユニバーサルツーリズムの旅行商品を企画する上で、旅行先のバリアフリー情報入手に苦
労している。
- 126 -
特定非営利活動法人 UD くまもと
事
業
所
名
特定非営利活動法人 UD くまもと
所
在
地
熊本市中央区西子飼町 3-22-105
代
表
者
代表理事
立
平成 16 年
数
4名
設
職
員
主な事業内容
矢ヶ部孝志
観光に関する福祉コーディネート事業、居住環境に関する福祉コーディネ
ート事業、ユニバーサルデザインに関する事業、情報交換・ネットワーク
づくり事業
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・高齢者、障がい者向けになるべく価格を抑えた観光旅行を提供したいと考え、平成 8 年よ
り活動を開始し、平成 16 年に NPO 法人化した。
【事業内容・要望等】
・平成 26 年 9 月は、4 組のバリアフリーツアーのコーディネートと受入れのサポートを行っ
た。個人での申込みが多い。
・発地側(熊本から他地域に旅行に送り出す)旅行業者は、ビジネスとして成立するが、受
入れ側(他地域から熊本へ来てもらう)として行う事業は、同法人が、旅行業に登録して
いないため、介助者のコーディネートをしたり宿泊先を紹介しても料金を得ることができ
ず、赤字状態となっている。
・障がい者の旅行では、受入れ側のエリアの施設の最新のバリアフリー状況の情報が求めら
れる。施設のバリアフリー情報は、行政側からの業務委託を受けて、ある年度で調査・報
告しても、各施設状況は毎年変わっていくのにこの情報更新の業務委託は出されていない。
従って、最新の施設状況は、同法人が手弁当で調査・発信している。このように受入れの
ための取組みの 99%は、地域のボランティアの善意の支援で成り立っており、手弁当のま
までは事業の永続性からみて不健全である。
・ボランティアについて、発地側は行ったことのない場所に行けるので、海外旅行で半額自
己負担でも喜んで参加してもらえるが、受入れ側のボランティアの希望は少ない。
・旅行中にヘルパーを紹介するため、地元の障がい者用のヘルパーステーションに依頼して
も登録ヘルパーには介助している固有の障がい者がいるので、空きが出ない。
(神戸ユニバ
ーサルツーリズムセンターのように自所でヘルパーステーションを運営し、ヘルパーを確
保している事例もある。
)
・障がい者の身体状況は本人の承諾を得てカルテ化しているが、発地側と受入側の双方が連
携すれば、本人が申告してない事項を含めてネットワークの利点として情報共有できる。
・障がい者の旅行(金銭に余裕がある人)は大人数になるし、支援スタッフの対応がよく、
満足できる場合、その地域ばかりを何度も訪れるケースが多いのに
受入れ地域側支援組
織へ見合うべき対価が支払われていない状況。バリアフリー情報の定期的更新等行政が
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支援組織に業務委託して実施し、支援頂きたい。これにより受け入れ地側にも安定雇用に
つながる収入が確保され、地域でのユニバーサルツーリズム活動が定着できる素地となる。
・熊本市からユニバーサルツーリズム関連で委託を受けているが、対象観光地が熊本市内に
限定される為、需要の多い阿蘇・天草方面の広域調査まで手掛けられないのがネック。
・ユニバーサルツーリズム対応を継続して進めることで、その地域に観光客が増え、街が潤
いお金が廻る。支援組織への行政からの定期的業務委託による支援は、必須である。また
行政からの支援は県内の観光地全体に対応したものでなければならない。前述の熊本市の
例で、市内にある熊本城はいいけど市外の阿蘇地区は対象外ということが起こらないよう、
各市町村だけではなく、県からも広域な業務委託等の支援を行うのが望ましい。
・障がい者の旅行は、介助者、家族を含めて大人数になるのに熊本地域には1室に数名入れ
るバリアフリールームが少なく、機会逸失をしている。宿泊施設の方もビジネスチャンス
と捉え、設置拡大してほしいと思っている。
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佐賀県統括本部ユニバーサルデザイン推進グループ
行
政
名
佐賀県統括本部ユニバーサルデザイン推進グループ
所
在
地
佐賀市城内 1-1-59
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・前知事が平成 15 年に就任後、県を挙げてユニバーサルデザイン(以下 UD)を「県のあらゆ
る施策の前提」として取組むことになった。
・平成 26 年 4 月より企画部門である統括本部に UD 推進グループを設置し、UD を総合的に推
進する体制を整備している。
【取組み内容】
・平成 17 年度に県の UD の基本方針となる「佐賀ユニバーサルデザイン推進指針」を策定し、
平成 22 年度には UD 全国大会を開催した。
・推進指針では、「三世代みんなが安心して暮らせるまち」を基本目標として掲げ、「まち
づくり」「ものづくり」「ソフトづくり」「意識・こころづくり」の 4 つの分野で UD の推
進に取り組んでいる。
・観光にも係る具体的施策としては、
「UD マップ」の作成、
「みんなのトイレ」の整備、
「Wi-Fi
環境の整備」を実施している。
・その他にも平成 18 年度に開始した障がい者や高齢者等向けの「パーキングパーミット制度
(身障者駐車場利用証交付)」は、全国初の制度導入であり、現在、31 の府県で導入され
ている。
・高齢者の観光客向けではないが、訪日外国人向けに平成 26 年9月より、県より観光連盟に
補助金を出し、「多言語コールセンター」のテスト運用(平成 27 年 1 月に本格運用)を開
始している。(言語:英語、中国語、韓国語、タイ語)
・また、今年度は、県内宿泊施設の支配人向けに UD 化の必要性についての講習会を開催する
とともに現場スタッフ向けに高齢者や障がい者への接遇実践研修会を開催する予定であ
る。
・地域別取組みでは、佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターがある嬉野市が観光に関しては
一番進んでおり、佐賀県のユニバーサルデザイン推進地区にも位置付けられている。
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嬉野市企画部市民協働推進課
行
政
名
嬉野市企画部市民協働推進課
所
在
地
佐賀県嬉野市塩田町大字馬場下甲 1769
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・平成 18 年に「嬉野市人にやさしいまちづくり協議会」を発足させた。人にやさしいまちづ
くりプランの検討の中で、伊勢志摩バリアフリーセンターの取組みを参考にしながら「日
本一のバリアフリーのまち
うれしの」を目標に、平成 19 年、佐賀嬉野バリアフリーツア
ーセンターを立ち上げる等、高齢者、障がい者、外国人へのユニバーサルツーリズム推進
環境整備を主導してきた。
【取組み内容】
・ハード整備だけでなく、障がいをもつ旅行者が訪れる施設に段差等がある場合は、事前予
約により、介助者を確保しておく等ソフト面でも障がい者にやさしいまちを目指している。
・聴覚障がい者や外国人向けに「指さし会話板」を市内施設に配置したり、市内の飲食店の
紹介用に 4 か国語で表示した「ランチ&カフェマップ」等を配布してきた。
・この結果、10 年前には、佐賀県全体で 2,000 人に過ぎなかった外国人旅行者数が、昨年は、
嬉野市だけでも 2 万人に達している。国内観光客は、福岡、長崎等近隣が多く、国内外
観光客数は、一時、160 万人/年まで減少したが、現在 200 万人台に回復してきている。
・佐賀嬉野バリアフリーツアーセンターでは、嬉野温泉においてユニバーサルツーリズム観
光の目玉となる入浴介助サービスを平成 26 年度より実施している。介助者 2 名が付いて1
回 5,000 円と低額に設定され大変好評であり、嬉野温泉への集客増につながると期待。
このサービスは、平成 25 年度に県が補助し、無料のモニター体験事業を実施し、入浴介助
ノウハウを蓄積させ、次年度事業化することができたものであり、これ以外に市でも関係
業務委託により同センターを継続してバックアップしている。
・今後、嬉野市は、佐賀県をはじめとする関係各機関や佐賀嬉野バリアフリーツアーセンタ
ー等の関係団体と、更に連携を深め、ともにユニバーサルツーリズムを推進していく。
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佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
事
業
所
名
佐賀嬉野バリアフリーツアーセンター
所
在
地
佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙 2202-55
代
表
者
会長
立
平成 19 年 5 月
数
4名
設
職
員
主な事業内容
小原健史
バリア調査、バリアフリー情報の提供、車いす等福祉器具貸出し、介
助者派遣等
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・利用者に「満足でなく、感動を」してもらうこと、特に高齢者、障がい者の人に「温泉旅
行を楽しんでもらう」のをモットーとして活動している。
【事業内容】
・同センターでは、高齢者・障がい者、特に車椅子ユーザーに温泉に入ってもらって満足頂
けることを主眼とする取組みをしている。これを「UT 嬉野モデル」と呼んでいる。
・「バリア調査」、
「情報提供」、
「器具の貸出」、
「人的介助」の 4 ステップで活動をしている。
・各観光施設のバリアフリー情報を伝えるのではなく、各個人の身体状況を把握した上で、
その人にとってどこまでがバリアとなるかというきめ細かな情報を提供している。
・嬉野温泉入浴時のサポートとして、車椅子・ベビーカー等の移動補助具や浴室用車椅子・
リフト等の入浴補助器具を無償で貸出し、ベッドやポータブルトイレ等同センターが保有
していない器具は、市内福祉用具店からレンタルし、有償で貸出している。
・平成 26 年度より事業化した入浴介助は、2 名の介助者を手配し、希望宿泊施設に派遣して
いる。このサービスがあるので希望する宿泊施設に泊まれることができるようになり、嬉
野に来る人が増加している。
・一例を挙げれば、歩けなくなった祖父の最後の旅行だと思い、子・孫 3 世代 10 名で来られ
たが、入浴介助のおかげで久しぶりに入浴できたと本人・同伴家族から大変感謝された。
・入浴介助費用は安価に留めており、ヘルパー2 名を派遣し 1 回あたり 5,000 円である。ヘル
パーは市内の福祉施設に勤務している人に勤務終了後にアルバイトとして一人 2,000 円で
お願いしている。(同センターは手配等の報酬として 5,000 円の内 1,000 円頂いている。
)
・入浴介助件数は、有償化後の 15 か月で約 30 件だが、好評であり、今後嬉野への集客をさ
らに増やしていきたい。「他地域に行くつもりだったが入浴介助があるということで嬉野
温泉に来た。高齢の両親が大変喜んでおり是非また来たい。」という感謝の声等が多く、
温泉地の特徴を活かした入浴介助サービスは、リピーター獲得につながり、観光業界や介
助スタッフの収入拡大ひいては、嬉野温泉の活性化につながると思っている。
・行政からの支援として、佐賀県、嬉野市から各種業務委託を頂いており、同センター活動
のベースロードとなっているが、将来的には自立を目指している。
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3.沖縄地域
一般社団法人那覇市観光協会
法
人
名
一般社団法人那覇市観光協会
所
在
地
沖縄県那覇市牧志 2-1-4
【事業内容】
・那覇市への観光客は、平成 24 年に 574 万人、平成 25 年に 685 万人と増加しており、平成
26 年度は 700 万人を超える見込みである。オフシーズンである 12 月も修学旅行客が殺到
し団体用バスが足りないほどである。加えて円安の影響で平成 25 年より海外観光客が急増
している。(平成 24 年度:38 万人、平成 25 年度:62 万人)
・これまでに高齢者や障がい者向けへの対応を強化するため、観光関連事業所向けに、高齢
者や障がい者対応のおもてなし講座やサービス介助セミナーを実施してきた。
・平成 26 年度に障がいのある観光客への対応として、市内の観光案内所に車椅子利用者が
利用できるカウンターを整備した。
・引き続き、那覇市経済観光部観光課と連携して、急増する観光客への対応に注力したい。
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一般社団法人 Kukuru
事
業
所
名
一般社団法人 Kukuru
所
在
地
沖縄県那覇市金城 4-1-1
代
表
者
代表理事
立
平成 22 年
数
常勤 5 名(非常勤 12 名、登録スタッフ 30 名)
設
職
員
主な事業内容
鈴木恵
バリアフリー旅行支援事業(出張型レスパイトサービス、同行看護・介護
サービス、入浴介助サービス、医療機器貸出サービス、観光案内サービス)、
小児在宅支援事業、平和学習事業
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・代表理事が看護師として病院に勤務していた際、障がい児の親が子供を旅行に連れて行き
たくても、病院側の患者家族の思いに対する理解不足から止められるケースがあった。代
表理事は障がい児の母親でもあり、子どもに元気・目標を与えるために旅行をさせたいと
いう当事者の気持ちが十分にわかった。こうした経験から、行政の支援にはない溝の部分
を埋め、障がい者や介護する親が本当にやりたいことができる支援がしたいと思い、障が
い児とその家族(介助者)を支える旅行支援事業をはじめることにした。
【事業内容】
・ハンディのある子どもと介護をしている親の両方が旅を楽しみリフレッシュしてもらうた
めに、レスパイト(見守り)サービス、同行介護サービス、入浴介助サービスを行ってい
る。
・滞在中の一定の時間に障がいのある子どもに同行して介護サービスしている。旅行中に親
や他の子どもだけの時間をとることも、介助者が日常生活から離れてリフレッシュする上
で大切。
・対応する顧客は重度の障がい者がほとんどで、月に 3~4 組(各組家族含め数名)ある。医
療介護要の方が 8 割を占める。
・常勤看護師 2 名のほか、非常勤の医師、看護師、登録スタッフの看護師、ヘルパーにより、
専門的な知識・ノウハウのもと、旅行支援を行っている。
・旅行中、電話で 24 時間看護師サポート対応をする等家族の不安をなくすよう努めている。
旅行中、高熱を出された時、医師に診せると即入院を勧められ帰れなくなる事例でも、自
分の看護師の経験から環境が変わったため熱が出たと判断し、点滴器をもってホテルにか
けつけ、結果、無事熱が引いて帰宅されたこと等、家族の立場からのサポートをしている。
・国内だけでなく、海外からの障がい者にも対応している。
・公的及び民間から助成金を得て、肢体不自由者用に海水浴ができる水陸両用車いす(フラ
ンス製、1台 80 万円)を同法人の会員に無料で貸出している。会員年会費は個人で 3,000
円。
・国からの一括交付金を活用し、障がい者モニターツアー等を実施した。例えば、平成 24 年
度は、医療的管理が必要な観光客を対象としたモニターツアーを実施した。
・助成金だけでなくバリアフリー施設状況調査の継続的な委託を受ける等、事業の多角化に
努めていく方針。
・人材面としては旅行業、福祉、医療各サイドから介護に理解のある多様なメンバーを集め、
運営していきたい。
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特定非営利活動法人バリアフリーネットワーク会議
事
業
所
名
特定非営利活動法人バリアフリーネットワーク会議
所
在
地
沖縄県沖縄市照屋 1-14-14
代
表
者
代表
立
平成 14 年 12 月
数
24 名(正社員 13 名、パート・アルバイト 11 名)
設
職
員
主な事業内容
親川修
「しょうがい者・こうれい者観光案内所(那覇空港、沖縄国際通り)」の
運営、車いす、ベビーカー、医療機器等の貸出しサービス、県内施設のバ
リアフリー調査およびバリアフリー情報誌の発行等
【ユニバーサルツーリズム関連事業を始めた経緯】
・平成 15 年に人工透析患者の観光サポート事業を始めたことがきっかけで障がい者、高齢者
の旅のサポート事業を展開することになった。徐々に県や市の障がい者対策事業の委託を
受け、活動分野を拡げ、バリアフリー観光事業のほか、児童デイサービス、居宅介護事業
所の運営等を行っている。現在、バリアフリー観光事業は 8 名で担当している。
【事業内容】
・平成 19 年に障がい者や高齢者等の観光客の旅行をサポートする「しょうがい者・こうれい
者観光案内所(沖縄バリアフリーツアーセンター)」を那覇空港に設置した。運営は同法
人の自主運営で行っている。平成 25 年には観光客が多く訪れる国際通りにも設置した。
・観光案内所では、バリアフリー観光相談(無料)、福祉機器等の貸出し、旅行サポーター
の派遣、預かり保育(国際通りのみ)、荷物一時預かり(国際通りのみ)を行っている。
・沖縄観光の玄関である那覇空港に案内所があることから、顧客はワンストップでバリアフ
リー観光のサービスを受けることができる。相談件数は年間 1 万件以上にのぼる。
・福祉機器等の貸出しは有償で行っており、車いすが年間 570 件、述べ日数 1839 日で、3.48
泊。ベビーカーが年間 749 回、延べ日数 2598 日で、3.46 泊の貸出しがある。この貸出しサ
ービスにより運営費の確保は十分にできている。
・県の委託を受けて県内施設のバリアフリー調査を行い、HP に公開している。継続事業では
ないため、HP の管理運営を無償で行っている。施設情報の更新も同法人が手弁当で行って
いる。
・年に 1 回バリアフリー観光情報誌「そらくる」を発刊し、県内の介護・福祉施設や団体に
送付している。印刷費用は広告収入から捻出し、送付に係る費用は県が一部負担している。
情報は HP でも公開しているが、高齢者には冊子の方が利便性があり好評を得ている。
・沖縄県はダイビングの人気スポットであり、車いすの使用者のニーズもあることから、ダ
イビングショップ向けに、年に 1 度バリアフリー講座を実施し、受入れの体制支援を行っ
ている。講座では障がい者のウエットスーツの着方等を教えている。
・県福祉保健部の委託事業で沖縄の伝統料理の介護食のレシピづくりを行った(うちなー介
護食基礎マニュアル)。県民向けのメニューが主だが、高齢者・障がい者の旅行者に対応で
きるよう、ホテル・レストラン向けの介護食メニューや介護導入マニュアルを提案し、専
門的な講座を実践している。
・平成 32 年(2020 年)に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向け、パラリンピ
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ックの沖縄会場誘致や事前キャンプ地立候補を県に働きかけている。パラリンピックだけ
なら他県との競争も少なく取組みやすい。その上、パラリンピックの選手だけでも数千人
規模の宿泊があるので、観光業への効果は極めて大きいと考えられる。
しょうがい者・こうれい者・観光案内所(那覇空港)
しょうがい者・こうれい者・観光案内所(国際通り)。
預かり保育(右側)も行っている
バリアフリー観光情報誌「そらくる」
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沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課
行
政
名
沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課
所
在
地
沖縄県那覇市泉崎 1-2-2
【事業内容】
・沖縄県はこれまで観光のバリアフリー化に取組んでおり、平成 19 年には全国初の「観光バ
リアフリー宣言」を行った。しかし、県内の受入体制はいまだ十分ではないことから、平
成 24 年度から 3 年間、
「誰にでもやさしい観光地づくり形成事業」
(一括交付金事業)に取
組んでいる。
・県としては、修学旅行、卒業旅行、家族旅行等、人のライフサイクルを通し何回も沖縄を
訪れて頂きたいという思いがある。最近では、高齢者の子・孫を連れた 3 世代旅行も想定
しており、高齢者が訪れやすい観光地づくりの対策は必要である。
・平成 24~25 年度は県内の福祉関連事業者等を対象に、観光バリアフリーに関する事業を公
募・支援した。
(事業例)
・観光バリアフリーサポーター育成事業
・観光バリアフリー推進モデル事業(発達障害児童を対象とした沖縄キャンプ、医
療的管理が必要な観光客を対象としたモニターツアーの実施、県内スポーツ施設
のバリアフリー調査等)
・平成 26 年度は、沖縄で安心して旅行が楽しめることを PR するプロモーション媒体として、
沖縄観光バリアフリーガイドブックの作製を企画しており、県外の高齢者、障がい者の各
種団体に 5 千部配布する予定である。
・また、観光事業者等を対象に、障がい者等の接遇セミナーを開催する(セミナー実施主体
は公募選定)。
・沖縄県はスポーツツーリズムを推進しており、国内外から多くのプロスポーツチームがキ
ャンプ等で利用している。来る平成 32 年(2020 年)の東京オリンピック・パラリンピック
を見据えた取組みも始まっている。海外からの外国人対応を含めユニバーサルツーリズム
に今後取組むべきであり、パラリンピックのキャンプ誘致に向けて、専門知識・ノウハウ
を持つバリアフリーツアーセンター等の組織と連携したい意向がある。
・観光バリアフリー宣言を実施しているが、県民への周知すらできていない状況にある。今
後は観光バリアフリーの取組みを積極的に県内外に周知していく必要がある。
・平成 28 年 4 月に施行される「障害者差別解消法」に先んじて平成 26 年 4 月に「沖縄県障
害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくり条例」が施行されており、観光関連事
業者の障がい者の受入れについて配慮が求められている。現在、県の子ども生活福祉部障
害福祉課と連携しながら障がい者受入の戦略づくりや、観光関連事業者向けのセミナーを
実施する等対策を進めている。
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高齢化社会におけるユニバーサルツーリズムを軸とした
観光振興施策の検討調査
報 告 書
平成 27 年 3 月 31 日
編集・発行
1版1刷
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