自治体の合併効果を探る

Vol.202-2【平成 27 年 5 月 29 日発行】
テーマ2
自治体の合併効果を探る
【山梨総合研究所
専務理事
村田
俊也】
1.山梨県内自治体の合併の現状
山梨県では、
「平成の大合併」として、15 年 3 月 1 日に旧南部町と旧富沢町が合併したのを皮
切りに、多くの市町村で合併が実施されてきた。この結果、新南部町発足直前時点で 64 あった
市町村(7 市 37 町 20 村)は、現在、27 市町村(13 市 8 町 6 村)に集約された(図表1)。
今回は、多くの合併が行われた平成 17~18 年から約 10 年を迎えることから、合併の効果を
人口と産業、経済力の面から探ってみることにしたい。
図表1
合併の状況
「山梨県HP
県内の合併の動き(市町村合併地図)」
-1-
2.合併のメリット・デメリット
合併のメリット、デメリットは、一般的にはどのようなものだろうか。
自治体が合併すると、規模が拡大し、さまざまな面で効率が良くなることが最大のメリットで
あろう。たとえば、合併により人口が増えると、税収などが増加し財政規模が拡大することから、
大型事業の実施や新たなサービスの展開が可能となる。また、合併に伴う行政組織の重複部門の
集約や事務効率の向上により、行政職員一人当たりの生産効率が高まる。このため、同じ業務を
より少ない人員で遂行することができるようになり、専門職員の配置も可能となる。このほか、
住民人口当たりという側面から見ると、市長など特別職の給与負担が減少するなど、固定的な支
出が減少し、行政における裁量の範囲が広がる。
一方、デメリットとしては、行政施設の集約に伴い自治体内の地域間格差が広がっているとの
見方があることや、地元出身の議員がいなくなり行政との距離が遠くなったとの印象を持つ住民
がいることなどであろうか。
このように、行政運営の効率化という面では効果を挙げている自治体合併であるが、「活力」
、
「経済力」という面でメリットは出てきているのだろうか。
このため、今回は、統計資料を基に、人口(総人口、出生数、社会増減数)、産業(民間事業所
数)、経済力(地方税収入額)の面から、自治体毎に合併効果を探ってみた。
具体的には、27自治体の数値が合併前と合併後でどう変化しているか確認し、県平均との比
較において好転している自治体の割合が合併自治体と非合併自治体で差異が生じるかどうか調べ
るとともに、合併自治体のほうが非合併自治体と比べて高ければ合併効果ありと判断することと
した。
なお、富士川町は、合併後 5 年が経過したが、統計資料が十分でないため、今回の試算からは
除外した。
3.人口
(1) 総人口
図表2は、総人口の推移である。
総人口の場合、平成元年以降を、平成元年~9 年までの期間(A)、平成 10 年~17 年まで
の合併直前の期間(B)、平成 18 年~平成 26 年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間
の平均値について、合併前の増減率((B)/(A)
)の県平均との差異と、合併後の増減率((C)
/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:人口増加率
の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や人口減少率の推移が県平均の減少率の推移
より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
-2-
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っていた
が(甲府市△2.3%、県平均+1.8%)、合併後では県平均を上回り(同△2.6%、△2.7%)、県
平均と比べて人口の減少度合いが緩やかになったほか、市川三郷町、身延町でも県平均と比べ
て改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨市では、
合併直前の期間の増加率が県平均と比べて小さかったが(山梨市+0.2%、県平均+1.8%)、合
併後はいずれも減少(同△5.0%、△2.7%)に転じたなかで県平均との差異が拡大しトレンド
が県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の9自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは 3 自治
体、下方修正されたのは 10 自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
図表2
総人口の推移
総人口
平成元年 平成10年 平成18年
~平成9 ~平成17 ~平成26
年までの 年までの 年までの
平均人口 平均人口 平均人口
(A)
(B)
(C)
(B)/(A)
県平均と
の差異
山梨県(除く富士川町)
853,280
868,674
845,163
1.018
甲府市
204,047
197,217
192,038
0.967
-0.052
富士吉田市
56,224
54,930
52,056
0.977
-0.041
都留市
33,635
33,894
32,103
1.008
-0.010
山梨市
39,791
39,862
37,881
1.002
-0.016
大月市
34,918
32,557
28,612
0.932
-0.086
韮崎市
30,480
32,317
31,374
1.060
0.042
南アルプス市
65,927
71,285
72,716
1.081
0.063
北杜市
47,712
49,757
49,070
1.043
0.025
64,125
甲斐市
71,450
73,332
1.114
0.096
笛吹市
65,147
71,423
71,238
1.096
0.078
上野原市
28,932
29,342
26,631
1.014
-0.004
甲州市
38,218
37,821
35,295
0.990
-0.028
中央市
27,175
29,975
29,982
1.103
0.085
市川三郷町
20,755
19,265
17,596
0.928
-0.090
早川町
2,249
1,755
1,326
0.780
-0.238
身延町
20,420
17,925
14,995
0.878
-0.140
南部町
11,769
10,771
9,282
0.915
-0.103
富士川町
18,309
17,848
16,697
0.975
-0.043
昭和町
13,385
15,703
17,381
1.173
0.155
道志村
2,265
2,169
1,958
0.958
-0.060
西桂町
4,752
4,969
4,737
1.046
0.028
忍野村
8,229
8,508
8,947
1.034
0.016
山中湖村
5,587
5,896
5,870
1.055
0.037
鳴沢村
2,765
3,057
3,171
1.106
0.088
富士河口湖町
22,566
24,859
26,040
1.102
0.084
小菅村
1,167
1,058
831
0.906
-0.112
丹波山村
1,041
909
702
0.873
-0.145
茶色の色塗りは、合併自治体
水色の色塗りは、非合併自治体
富士川町は、合併後間もないため、集計から除外
平成元年から9年までの平均人口(9年間)(A)
平成10年から17年までの平均人口(8年間)(B)
平成18年から26年までの平均人口(9年間)(C)
(B)/(A)の増減率の県平均との差異と(C)/(B)の増減率の県平均との差異を比較し、
トレンドが上方修正されているか、下方修正されているか判断した。
-3-
(C)/(B)
0.973
0.974
0.948
0.947
0.950
0.879
0.971
1.020
0.986
1.026
0.997
0.908
0.933
1.000
0.913
0.756
0.837
0.862
0.935
1.107
0.902
0.953
1.052
0.996
1.037
1.047
0.786
0.772
(単位:人、%、ポイント)
差異の変
化の判定
県平均と
(上方修
差異の変化
の差異
正○、下
方修正
×)
0.001
-0.025
-0.026
-0.023
-0.094
-0.002
0.047
0.013
0.053
0.024
-0.065
-0.040
0.027
-0.060
-0.217
-0.136
-0.111
-0.037
0.134
-0.071
-0.020
0.079
0.023
0.064
0.075
-0.187
-0.201
0.052
0.016
-0.015
-0.006
-0.008
-0.044
-0.016
-0.012
-0.043
-0.054
-0.061
-0.011
-0.058
0.030
0.020
0.004
-0.008
0.006
-0.021
-0.010
-0.047
0.063
-0.015
-0.023
-0.009
-0.075
-0.056
○
○
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
○
○
○
×
○
×
×
×
○
×
×
×
×
×
(2) 出生数
図表3は、出生率の推移である。
出生率の場合、平成元年以降を、平成元年~9 年までの期間(A)、平成 10 年~17 年まで
の合併直前の期間(B)、平成 18 年~平成 24 年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間
の平均値について、合併前の増減率((B)/(A)
)の県平均との差異と、合併後の増減率((C)
/(B))の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:出生数の増
加率の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や出生数の減少率の推移が県平均の減少
率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
図表3
出生率の推移
(単位:人、%、ポイント)
出生数
平成元年
~平成9
年までの
平均出生
数(A)
平成10年
~平成1
7年まで
の平均出
生数(B)
差異の
平成18年
変化の
~平成24
県平均と
県平均と
判定(上
年までの (B)/(A)
(C)/(B)
差異の変化
の差異
の差異
方修正
平均出生
○、下方
数(C)
修正×)
6,606
0.899
0.844
0.925
0.081
0.109
○
1,594
0.871
-0.028
-0.134
0.790
-0.054
0.080
○
405
0.765
0.863
-0.036
0.761
-0.083
-0.047
×
238
-0.095
×
260
0.922
0.023
0.771
-0.073
-0.190
-0.009
×
141
0.718
-0.181
0.654
0.777
-0.067
-0.076
×
230
0.908
0.009
0.845
0.002
-0.096
×
582
0.997
0.098
○
266
0.801
-0.099
0.841
-0.002
0.096
1.110
0.211
0.911
0.067
-0.144
×
785
0.007
-0.142
×
619
1.049
0.150
0.851
144
0.773
-0.126
0.709
-0.135
-0.009
×
218
0.936
0.037
0.722
-0.122
-0.159
×
0.035
0.797
-0.046
-0.082
×
271
0.934
○
90
0.735
-0.165
0.811
-0.033
0.132
-0.229
0.620
-0.224
0.005
○
5
0.670
63
0.591
-0.308
0.762
-0.082
0.226
○
45
0.598
-0.301
0.785
-0.059
0.242
○
0.811
-0.032
0.063
○
110
0.804
-0.095
○
193
0.985
0.086
0.961
0.117
0.031
0.710
-0.190
0.762
-0.082
0.108
○
12
34
0.777
-0.122
0.702
-0.141
-0.019
×
105
0.902
0.003
0.944
0.100
0.097
○
43
0.777
-0.122
0.845
0.001
0.124
○
23
0.982
0.083
0.801
-0.043
-0.126
×
-0.038
×
233
0.961
0.062
0.868
0.024
-0.072
0.206
○
4
0.621
-0.278
0.772
0.544
-0.300
0.097
○
1
0.503
-0.397
山梨県(除く富士川町)
8,706
7,828
甲府市
1,978
1,723
富士吉田市
671
513
都留市
362
313
山梨市
365
337
大月市
301
216
韮崎市
326
296
南アルプス市
691
689
北杜市
395
317
甲斐市
776
862
笛吹市
694
728
203
上野原市
263
322
302
甲州市
中央市
364
340
市川三郷町
151
111
早川町
11
7
身延町
141
83
58
南部町
97
富士川町
169
136
昭和町
204
201
道志村
22
15
西桂町
62
48
忍野村
123
111
山中湖村
66
51
鳴沢村
29
28
富士河口湖町
279
268
小菅村
7
5
丹波山村
5
3
茶色の色塗りは、合併自治体
水色の色塗りは、非合併自治体
富士川町は、合併後間もないため、集計から除外
平成元年から9年までの平均出生数(9年間)(A)
平成10年から17年までの平均出生数(8年間)(B)
平成18年から24年までの平均出生数(7年間)(C)
(B)/(A)の増減率の県平均との差異と(C)/(B)の増減率の県平均との差異を比較し、
トレンドが上方修正されているか、下方修正されているか判断した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っていた
が(甲府市△12.9%、県平均△10.1%)、合併後では県平均を上回り(同△7.5%、△15.6%)、
県平均と比べて出生数の減少度合いが緩やかになったほか、北杜市、市川三郷町、身延町、南
-4-
部町でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。
一方、山梨市では、合併直前の期間の減少率が県平均と比べて小さかったが(山梨市△7.8%、
県平均△10.1%)、合併後も減少(同△22.9%、△15.6%)が続くなかで県平均との差異が拡
大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の 7 自治体も県平均を下回る動きと
なった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは 8 自治
体、下方修正されたのは 5 自治体となり、合併自治体と比べて上方修正した自治体の割合が高
くなった。
(3) 社会増減数
図表4は、人口の社会増減数の推移である。
図表4
社会増減数の推移
(単位:人、%、ポイント)
平成元年 平成10年 平成18年
~平成9 ~平成17 ~平成24
差異の変
年までの 年までの 年までの
化の判定
平均社会 平均社会 平均社会
県平均と
県平均と
(上方修
社会増減数
(B)-(A)
(C)-(B)
差異の変化
増減数の 増減数の 増減数の
の差異
正○、下
の差異
人口に対 人口に対 人口に対
方修正
する比率 する比率 する比率
×)
(A)
(B)
(C)
山梨県(除く富士川町)
2.224
-0.840
-2.072
-3.065
-1.232
甲府市
-4.683
-4.462
-1.167
0.221
3.285
3.295
4.527
1.241
○
富士吉田市
-5.988
-6.652
-5.777
-0.664
2.401
0.875
2.107
-0.294
×
都留市
1.110
-4.658
-3.725
-5.768
-2.703
0.933
2.165
4.868
○
山梨市
1.502
-1.602
-1.948
-3.105
-0.040
-0.346
0.886
0.926
○
大月市
-3.647
-8.566
-10.090
-4.919
-1.854
-1.524
-0.293
1.561
○
韮崎市
9.431
0.387
-3.258
-9.044
-5.979
-3.645
-2.413
3.566
○
南アルプス市
9.323
5.559
0.582
-3.765
-0.700
-4.976
-3.745
-3.045
×
北杜市
7.718
8.408
3.662
0.691
3.755
-4.747
-3.515
-7.271
×
10.682
2.675
甲斐市
-2.662
-8.007
-4.943
-5.337
-4.105
0.838
○
笛吹市
11.980
4.298
-0.784
-7.681
-4.617
-5.082
-3.850
0.766
○
上野原市
8.334
-4.690
-7.539
-13.024
-9.959
-2.849
-1.617
8.342
○
甲州市
0.640
-1.203
-4.572
-1.843
1.222
-3.369
-2.137
-3.359
×
中央市
10.872
-2.193
-1.971
-13.065
-10.000
0.223
1.454
11.455
○
市川三郷町
-6.108
-4.432
-3.047
1.677
4.741
1.384
2.616
-2.125
×
早川町
-17.541
-10.185
-15.325
7.356
10.421
-5.140
-3.908
-14.329
×
身延町
-9.033
-8.047
-9.432
0.985
4.050
-1.385
-0.153
-4.203
×
南部町
-6.779
-7.103
-10.416
-0.324
2.741
-3.314
-2.082
-4.823
×
富士川町
-3.168
-0.721
-4.034
2.447
×
5.511
-3.313
-2.081
-7.592
昭和町
12.825
7.244
8.311
-5.581
-2.516
1.067
2.299
4.815
○
道志村
-4.268
-3.861
-8.840
0.408
3.473
-4.979
-3.748
-7.220
×
西桂町
7.764
-1.434
-5.973
-9.198
-6.133
-4.539
-3.308
2.825
○
忍野村
-0.905
-3.115
1.714
-2.210
0.855
4.829
6.060
5.206
○
山中湖村
-0.557
5.385
-3.147
5.942
9.007
-8.532
-7.300
-16.307
×
鳴沢村
10.006
12.513
6.439
2.507
5.572
-6.074
-4.842
-10.414
×
富士河口湖町
6.771
5.491
2.123
-1.279
1.785
-3.368
-2.137
-3.922
×
小菅村
-6.853
-5.907
-22.086
0.946
4.011
-16.178
-14.947
-18.957
×
丹波山村
-6.403
-9.212
-22.968
-2.809
0.255
-13.756
-12.524
-12.780
×
茶色の色塗りは、合併自治体
水色の色塗りは、非合併自治体
富士川町は、合併後間もないため、集計から除外
合併自治体の内部重複の除外が困難なため、今回の試算において社会増減数は、次の式により算出
社会増減数=年末人口-(前年末人口+出生数-死亡者数)
平成元年から9年までの平均社会増減数の人口に対する比率(千人当たり移動率)(9年間)(A)
平成10年から17年までの平均社会増減数の人口に対する比率(千人あたり移動率)(8年間)(B)
平成18年から24年までの平均社会増減数の人口に対する比率(千人当たり移動率)(7年間)(C)
(B)-(A)の増減差の県平均との差異と(C)-(B)の増減差の県平均との差異を比較し、
トレンドが上方修正されているか、下方修正されているか判断した。
-5-
社会増減数の場合、平成元年以降を、平成元年~9 年までの期間(A)、平成 10 年~17 年
までの合併直前の期間(B)、平成 18 年~平成 24 年までの合併後の期間(C)に区分し、各
期間に該当する人口千人あたりの社会増減数(期間平均値、以下、移動率という)について、
合併前の増減差((B)-(A))の県平均との差異と、合併後の増減差((C)-(B))の県平
均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:移動率の増加幅が県平均の
増加幅より拡大した場合や移動率の低下幅が県平均の低下幅より縮小した場合などが該当)自
治体の割合を確認した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の移動率の差異を上回っ
ていたが(甲府市+0.221 人/千人、県平均△3.065 人/千人)、合併後でも県平均を上回り
(同 3.295 人/千人、△1.232 人/千人)、県平均と比べて社会増加傾向が高まったほか、山
梨市、甲斐市、笛吹市、上野原市、中央市でも県平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均
と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、南アルプス市では、合併直前の期間の移動率の
差異が県平均と比べて低かったが(南アルプス市△3.765 人/千人、県平均△3.065 人/千
人)、合併後も低い状況(同△4.976 人/千人、△1.232 人/千人)が続くなかで県平均との
差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、他の 6 自治体も県平均を下回
る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減幅が上方修正されたのは 6 自治
体、下方修正されたのは 7 自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
4.産業(民間事業所数)(雇用機会)
次に、地域の雇用を生み出す産業面について、合併の影響を確認する。
図表5は、民間事業所数の推移である。産業動向については、さまざまな指標があるが、景気
動向など外的な要因に左右されず、地域のポテンシャルを反映すると想定される事業所立地に関
する指標として、今回は民間事業所数を採用した。
具体的には、平成 11 年(A)、平成 18 年(B)、平成 24 年(C)の数値について、合併前
の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))の県平均との差
異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:事業所数の増加率の推移が県平均の増
加率の推移より拡大した場合や事業所数の減少率の推移が県平均の減少率の推移より縮小した場
合などが該当)自治体の割合を確認した。
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間で県平均の増減率を下回っており(甲
府市△13.3%、県平均△8.7%)、合併後も県平均を下回った(同△6.7%、△5.7%)が、県平均
との差異は縮小し減少スピードが鈍化したほか、南アルプス市、甲斐市、笛吹市、甲州市でも県
-6-
平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨
市では、合併直前の期間で減少し(山梨市△10.6%、県平均△8.7%)、合併後も減少(同△11.2%、
△5.7%)するなかで県平均との差異が拡大しトレンドが県平均と比べて下方へシフトしたほか、
他の 7 自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは 5 自治体、
下方修正されたのは 8 自治体となり、合併自治体とまったく同じ結果となった。
図表5
民間事業所数の推移
(単位:人、%、ポイント)
民間事業所数
平成11年 平成18年 平成24年
(A)
(B)
(C)
(B)/(A)
県平均と
の差異
(C)/(B)
0.913
0.943
山梨県(除く富士川町) 50,391
45,986
43,361
0.867
0.933
甲府市
14,376
12,471
11,631
-0.045
富士吉田市
4,306
3,763
3,533
0.874
-0.039
0.939
都留市
2,406
1.003
0.091
0.877
2,414
2,118
山梨市
1,772
1,584
1,406
0.894
-0.019
0.888
大月市
1,733
0.929
0.016
0.848
1,610
1,365
0.893
-0.019
1.028
韮崎市
1,520
1,358
1,396
南アルプス市
2,823
2,702
2,784
0.957
0.045
1.030
北杜市
2,833
2,624
2,504
0.926
0.014
0.954
甲斐市
2,993
2,815
2,831
0.941
0.028
1.006
笛吹市
-0.028
3,494
3,091
2,928
0.885
0.947
上野原市
1,593
1,429
1,258
0.897
-0.016
0.880
甲州市
1,749
1,610
1,548
0.921
0.008
0.961
中央市
1,265
1.068
0.155
1.026
1,351
1,386
市川三郷町
1,061
890
773
0.839
-0.074
0.869
早川町
112
103
77
0.920
0.007
0.748
身延町
1,241
1,033
0.832
-0.080
0.823
850
南部町
602
541
458
0.899
-0.014
0.847
富士川町
947
804
723
0.849
-0.064
0.899
1.170
0.257
1.125
昭和町
1,091
1,276
1,435
道志村
-0.108
200
161
144
0.805
0.894
西桂町
283
307
225
1.085
0.172
0.733
忍野村
409
423
380
0.122
1.034
0.898
山中湖村
421
0.907
-0.005
382
470
1.230
鳴沢村
167
182
152
1.090
0.177
0.835
富士河口湖町
1,757
1,722
1,587
0.980
0.067
0.922
小菅村
103
81
74
0.786
-0.126
0.914
丹波山村
81
63
48
0.778
-0.135
0.762
茶色の色塗りは、合併自治体
水色の色塗りは、非合併自治体
富士川町は、合併後間もないため、集計から除外
平成11年の事業所数(A)
平成18年の事業所数(B)
平成24年の事業所数(C)
(B)/(A)の増減率の県平均との差異と(C)/(B)の増減率の県平均との差異を比較し、
トレンドが上方修正されているか、下方修正されているか判断した。
-7-
県平均と
の差異
-0.010
-0.004
-0.066
-0.055
-0.095
0.085
0.087
0.011
0.063
0.004
-0.063
0.019
0.083
-0.074
-0.195
-0.120
-0.096
-0.044
0.182
-0.049
-0.210
-0.045
0.287
-0.108
-0.021
-0.029
-0.181
差異の
変化の
判定(上
差異の変化
方修正
○、下方
修正×)
0.035
0.035
-0.156
-0.037
-0.112
0.104
0.043
-0.002
0.035
0.032
-0.047
0.011
-0.072
-0.001
-0.202
-0.040
-0.082
0.020
-0.075
0.059
-0.382
-0.166
0.293
-0.285
-0.089
0.097
-0.046
○
○
×
×
×
○
○
×
○
○
×
○
×
×
×
×
×
○
×
○
×
×
○
×
×
○
×
5.経済力(地方税収入額)
次に、経済力への影響を確認する。
図表6は、地方税収入額の推移である。地域の経済力の指標としては、市町村内総生産額や所
得額が適切と考えられるが、5 年毎の調査であり平成 22 年次が最新の数値であることや、単年
度では景気の影響を排除できないため合併効果の判定には難しいと想定されたことから、今回は
地方税収入額を採用した。
具体的には、平成元年以降を、平成元年~9 年までの期間(A)、平成 10 年~17 年までの合
併直前の期間(B)、平成 18 年~平成 24 年までの合併後の期間(C)に区分し、各期間の平均
値について、合併前の増減率((B)/(A))の県平均との差異と、合併後の増減率((C)/(B))
の県平均との差異を比較し、この差異がプラスとなった(上方修正、例:地方税収入額の増加率
の推移が県平均の増加率の推移より拡大した場合や地方税収入額の減少率の推移が県平均の減少
率の推移より縮小した場合などが該当)自治体の割合を確認した。
図表6
地方税収入額の推移
(単位:人、%、ポイント)
地方税収入額
平成元年~ 平成10年~
平成9年まで 平成17年ま
の平均地方 での平均地
税額(A)
方税額(B)
平成18年~
平成24年ま
での平均地
方税額(C)
差異の
変化の
県平均と
県平均と 差異の 判定(上
(B)/(A)
(C)/(B)
変化
方修正
の差異
の差異
○、下方
修正×)
1.098
106,223,436 116,644,948 121,169,364
0.944 -0.154
33,359,698
31,489,643
29,489,610
6,247,231
1.033 -0.065
6,113,732
6,317,948
3,857,619
1.075 -0.023
3,261,568
3,505,658
3,893,463
3,980,216
1.098 -0.000
3,546,092
5,321,811
1.677
0.579
3,445,107
5,777,582
5,282,634
1.201
0.103
3,578,775
4,297,500
8,591,849
1.189
0.090
6,192,298
7,359,616
6,683,698
7,066,771
1.179
0.081
5,667,327
6,224,554
7,449,822
8,574,050
1.197
0.099
8,346,919
8,898,615
1.157
0.058
7,217,323
3,399,812
1.141
0.043
2,933,004
3,346,723
4,567,547
1.325
0.227
3,404,589
4,512,666
4,646,431
1.255
0.157
3,478,072
4,365,617
1,610,118
1,703,286
1,838,523
1.058 -0.040
305,791
0.900 -0.198
411,251
370,276
1.005 -0.093
1,578,738
1,586,018
1,522,025
1,007,181
977,831
995,702
0.971 -0.127
1.051 -0.047
富士川町
1,539,024
1,617,032
1,668,948
昭和町
3,545,732
4,081,624
4,287,633
1.151
0.053
216,532
1.206
0.108
道志村
173,106
208,775
西桂町
390,991
430,144
442,230
1.100
0.002
忍野村
2,225,147
2,673,584
3,245,325
1.202
0.103
0.974 -0.125
山中湖村
2,680,815
2,609,796
3,377,152
鳴沢村
825,766
879,095
830,084
1.065 -0.034
4,046,092
1.126
0.028
富士河口湖町
3,215,996
3,621,632
小菅村
75,413
87,710
78,506
1.163
0.065
丹波山村
61,046
68,325
59,574
1.119
0.021
茶色の色塗りは、合併自治体
水色の色塗りは、非合併自治体
富士川町は、合併後間もないため、集計から除外
平成元年から9年までの平均地方税額(9年間)(A)
平成10年から17年までの平均地方税額(8年間)(B)
平成18年から24年までの平均地方税額(7年間)(C)
(B)/(A)の増減率の県平均との差異と(C)/(B)の増減率の県平均との差異を比較し、
トレンドが上方修正されているか、下方修正されているか判断した。
山梨県(除く富士川町)
甲府市
富士吉田市
都留市
山梨市
大月市
韮崎市
南アルプス市
北杜市
甲斐市
笛吹市
上野原市
甲州市
中央市
市川三郷町
早川町
身延町
南部町
-8-
1.039
0.936
0.989
1.100
1.022
0.921
1.229
1.167
1.057
1.151
1.066
1.016
1.012
1.064
1.079
0.826
0.960
1.018
1.032
1.050
1.037
1.028
1.214
1.294
0.944
1.117
0.895
0.872
-0.102
-0.050
0.062
-0.017
-0.118
0.190
0.129
0.019
0.112
0.027
-0.023
-0.027
0.026
0.041
-0.213
-0.079
-0.021
-0.007
0.012
-0.002
-0.011
0.175
0.255
-0.095
0.078
-0.144
-0.167
0.052
0.015
0.085
-0.016
-0.697
0.088
0.038
-0.063
0.013
-0.031
-0.066
-0.254
-0.132
0.081
-0.015
0.014
0.107
0.041
-0.041
-0.110
-0.013
0.072
0.380
-0.061
0.050
-0.209
-0.188
○
○
○
×
×
○
○
×
○
×
×
×
×
○
×
○
○
○
×
×
×
○
○
×
○
×
×
これによると、合併自治体では、甲府市で合併直前の期間は県平均の増減率を下回り(甲府市
△5.6%、県平均+9.8%)、合併後でも県平均を下回ったが(同△6.4%、+3.9%)
、県平均との
差異は縮小したほか、南アルプス市、甲斐市、市川三郷町、身延町、南部町、富士河口湖町でも県
平均と比べて改善の傾向が見られた(県平均と比べてトレンドが上方へシフトした)。一方、山梨
市では、合併直前の期間の増加率が県平均と同じであったが(山梨市+9.8%、県平均+9.8%)
、
合併後は増加傾向を維持するも県平均との差異が拡大し(同+2.2%、+3.9%)、トレンドが県平
均と比べて下方へシフトしたほか、他の 5 自治体も県平均を下回る動きとなった。
これに対して、非合併自治体を見ると、県平均と比べて増減率が上方修正されたのは 5 自治体、
下方修正されたのは 8 自治体となり、合併自治体のほうが上方修正した自治体の割合が高い結果
となった。
6.まとめ
以上、人口(総人口、出生数、社会増減数)、産業(民間事業所数)、経済力(地方税収入額)の
面から、合併後のトレンドの上方修正の有無について確認してきたが、これをまとめたものが図
表7である。
図表7
県平均との差異の変化(トレンドの上方修正の有無)
(単位:自治体数)
項目
総人口
合併自治体
非合併自治体
3
3
10
10
上方修正
5
8
上方修正以外
8
5
上方修正
6
6
上方修正以外
7
7
上方修正
5
5
上方修正以外
8
8
上方修正
7
5
上方修正以外
6
8
上方修正
上方修正以外
出生数
社会増減数
民間事業所数
地方税収入額
(注)上方修正 合併後に県平均と比べて数値の改善が見られたケース(増加幅が県平均
と比べて拡大、または、減少幅が県平均と比べて縮小)
-9-
これをみると、地方税収入額では上方修正した割合が合併自治体のほうが高いが、総人口、社
会増減数、民間事業所数では、合併自治体と非合併自治体で上方修正した自治体の割合がまった
く同じとなり、出生数では非合併自治体のほうが高いという結果となった。
今回の状況を見る限りでは、合併による規模の拡大は、地方税収入額に代表される地域経済力
の向上には効果があったと言えるかもしれないが、企業立地等を誘引する地域としての産業面の
魅力向上、人口を生み出す・人口を吸引する魅力向上については効果がみられない、もしくは、
潜在的なポテンシャルについての発信が十分ではないといえよう。
合併効果の検証を統計資料から行う場合、景気動向をはじめとするさまざまな外部要因の排除
が難しく、合併効果の有無を厳密に探ることは難しい。今回の分析は、かなり乱暴な手法である
かもしれないが、効果を判断する一つの見方として参考にしていただければ幸いである。
発行:平成 27 年 5 月 29 日
編集:公益財団法人山梨総合研究所
TEL:055-221-1020(代表)FAX:055-221-1050
URL:http://www.yafo.or.jp
発行人:村田俊也/編集責任者:末木 淳
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甲府市丸の内 1-8-11