Expressed Emotion, EE - 大阪府立大学

 Title
カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, E
E)評価の信頼性に関する研究
Author(s)
三野, 善央; 下寺, 信次; 米倉, 裕希子; 何, 玲
Citation
社會問題研究. 2009, 58, p.19-28
Issue Date
URL
2009-03-20
http://hdl.handle.net/10466/11209
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
【論 説】
カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)
評価の信頼性に関する研究
三野 善央 大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科 精神保健学
下寺 信次 上村直人 高知大学医学部神経精神科学教室 米倉裕希子 近畿医療福祉大学 何 玲 大阪府立大学大学院人間社会学研究科 要 旨
家族の感情表出(Expressed emotion, EE)研究は,現在広くその効果が認められている家族心理教
育の基礎となっている.初期の研究では,EE評価の信頼性をどのように確保するかが重視されたが,
最近では研究が少ない.そこで,統合失調症,気分障害,認知症での家族のEE評価に関して,評価者
間信頼性の検討を行った.これまで世界的に信頼性の指標として主に使用されてきた相関係数,スピ
アマンの順位相関係数での評価では,評価者間信頼性は十分に満足すべきものであった.しかしなが
ら気分障害や認知症では,批判的コメント(CC)の分布が0にかたより,分布も小さいことから,カ
ッパ値での検討が重要であると指摘した.カッパ値での検討では,統合失調症,気分障害において満
足すべき評価者間信頼性を示すことができたが,認知症では問題が残った.分布が小さい場合には,
ごく少数の誤分類がカッパ値に大きな影響を与える可能性を示唆した.今後重要になると思われる認
知症でのEE評価において,評価者間信頼性の評価方法に関してさらなる研究が必要であることを指摘
した.
はじめに
家族感情表出(Expressed Emotion,EE)研究は数十年の研究の展開を経て,大きな発展を遂げてきた,
1960年代の家族のEEと統合失調症の経過の関連の示唆以来,まず統合失調症においてEE研究は世界的に広が
った(Leff and Vaughn, 1985).その後,気分障害,認知症,神経症性障害,PTSDなどの精神疾患に関して検
証が続けられた.さらには過敏性大腸炎,糖尿病,喫煙などの身体疾患や生活習慣にまで広がった.結果は,
ほとんどの疾患においてその経過に家族のEEが影響を与えるというものであった.このEE研究は,疾患の理
解という意味でも大きな影響を与えた,すなわち,ほとんどの疾患において,その経過は生物学的に規定され
るのみでなく,心理社会的影響を受けることが明確にされ,その重要性が強く認識されるようになったからで
ある.
その後,EE研究をもとにして家族への介入,心理教育によって,疾患の経過の改善をはかる試みがなされた.
当初は,統合失調症での無作為化臨床試験(RCT)によってその効果の検証がなされた.そして欧米での多く
の研究で,その後にはわが国で家族心理教育の再発予防効果が明確にされた(Shimodera et al, 2000; 三野,
2001; Pharoah et al, 2006,).さらにはうつ病などの気分障害,摂食障害などで家族心理教育の効果が明らかに
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社会問題研究・第58巻(2009年3月)
カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野)
され,その他の多くの疾患で効果検証の試みが続いている.
こうした研究の基礎としてEE評価があるが,その評価の信頼性に関しては,研究の開始当初にはその重要性
が広く認識され,その検証論文が多く出版されたが(Brown and Rutter, 1966; Rutter M and Brown, 1966;
Vaughn CE and Leff, 1976; Mino et al, 1995)その後,評価の信頼性に関する検証論文はほとんどない.その背
景としては,EE評価は国際的な評価訓練を通してその認定をうけた研究者が行っておりその信頼性は確立して
いるとの考えが広がっていること,その信頼性の検証は研究の一部としては当然のことであり,あえて論文と
して公表する価値のあるものではないとの認識が広がったこと,などがあった.
しかしながらその信頼性の検討は重要であることは間違いなく,日本でのこの間の評価者間の信頼性の検討
を行いたい.
EEの評価方法
カンバウェル家族面接
1)面接方法
当初のカンバウェル家族面接(Camberwell Family Interview, CFI)は詳細にわたる面接を基にして開発され,
統合失調症の経過研究に適用された.これによるEE評価がいわゆるEE研究の基本的な評価方法である.この
CFIオリジナル版は施行に4−6時間かかるものであった.そこでVaughnとLeffはその短縮版を作製し,短縮
版でも必要な情報を十分得ることができることを確かめ,それ以後はこの短縮版が広く使用されることとなっ
た(Leff and Vaughn, 1985).
通常,EE評価は次のような手順で行われる.統合失調症患者の入院2週間以内に,訓練された面接者が家族
に対してCFI(短縮版)を行う.CFIは半構造化された面接であり,患者の入院前3カ月間に焦点を当て,「精
神科病歴」,「直接接触時間と一日の生活」,「イライラや口論」,「臨床症状」,「家事と経済問題」,「患者との
関係」,「薬物療法」などに関して質問するものである.家族の反応に合わせて,質問の順番を変えたり,質問
の仕方を工夫したりすることが許されており,柔軟な面接者の対応が重要である.家族が自然な形で感情を表
出できることに重視すべきであり,家族の感情を絞り出すような形での面接は厳に慎まなければならない.家
族の感情を問う質問としては,ほとんど感情の表出のない家族に対して,「それについて,どう感じられまし
たか?」という質問が1面接中に数回認められているだけである.
2)EE評価の方法(Vaughn CE and Leff 1976;Leff and Vaughn, 1985; 三野,1991)
評価の下位尺度と測定方法,およびその根拠を表に示した.EE評価の方法は大きく2つに分けられる.1つ
は頻度の測定であり,もう1つは全般的評価である.頻度の測定を行う下位尺度は,「批判的コメント(critical
comment, CC)」と「肯定的言辞(positive remarks, PR)」であり,全般的評価を行う項目は,「敵意(hostility,
H)」,「情緒的巻き込まれ過ぎ(emotional overinvolvement, EOI),「暖かみ(warmth, W)」である.以下,
EE評価に用いられるCC, H, EOIについて具体的に解説して行こう.
① 批判的コメント(CC)
CCは,「患者の行動や性格に対して,好ましくないとコメントする陳述とそうした表現の仕方である」と
定義されている.そして,それはコメントの,1)内容,および2)話すときの声の調子から評価される.
批判的内容とは,家族が患者の行動やその他の特性を,嫌い,認めようとせず,恨んでいるという明確で一
貫した陳述で,「怒った」,「腹がたった」などの表現がなければならない.また,拒否的な陳述が認められ
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カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野他)
た場合もCCと見なされる.こうした内容がある場合には,その評価に批判的調子がなくてもCCと評価できる.
声の調子は,その声の大きさ,早さ,ピッチなどから評価するが,わたしたちは個人的なやり方で表現する
ので,すべての人に当てはまるような特定の声の調子というものはない.そこで,面接の最初から声の調子
の変化に注意を払い,声の調子とコメント内容との関係を見るようにするのである.神経質な笑いや奇妙な
抑揚といった特有の表現法を用いる家族もいるので注意が必要である.内容と声の調子がともに批判的な場
合には,判断は容易である.
しばしば,発言のどこからどこまでを1つのCCとするかということが問題になるが,面接者の新たな質問,
もしくは話題の明らかな転換によって,新たなコメントが始まるとされる.
② 敵意(H)
Hは4段階の全般評価により測定され,0点=Hなし,1点=批判の全般化(generalization)のみ存在,
2点=拒否(rejection)のみ存在,3点=全般化と拒否の両者が存在,で評価される.
批判の全般化とは,1つ特定のことに対する批判が患者全体に対する批判に広がる場合であり,患者の人
格,性格に対する批判となっている場合である.例えば,「本当に朝起きるのが遅くて(批判的調子で),も
ともと怠け者なんだよね.あいつは」と発言するような場合である.稀な例であるが,批判的コメントが存
在しないのに批判の全般化が認められる場合がある.しかし,その場合には全体的な批判的態度が認められ
なければならない.拒否は批判の全般化よりもより直接的な形態であり,率直な嫌悪の発言もこの中に含ま
れる.典型的には,患者が家から出て行くことを望み,離婚を考えているような場合である.
評価の場合には,まずCCを探し,そのうえでそれが批判の全般化や拒否に当たるかどうかを考えれば良い.
しかし,Hの評価は全般評価によるということを念頭におき,疑いがあるというだけでHありと評価しては
ならない.そして,家族の発言の「真」の意味を解釈しようとしてはならない.いわゆる深読みをしてはな
らないのである.これは他のEE評価にも当てはまる.著者らの経験では,拒否(例えば,離婚)が話題にな
るような時に,推測や深読みをしたくなるものである.
③ 情緒的巻き込まれ過ぎ(EOI)
EOIは,6段階の全般的評価尺度で測定される.0点=なし,1点=ほんの少し,2点=いくらか,3点
=中等度に高い,4点=高い,5点=著明,である.一般的に巻き込まれ過ぎスコアの高い家族とは,患者
に対して心配し過ぎ,そのために揺れ動き,かえって患者を不安定にしてしまうような家族である.EOIは,
応答者によって報告された行動と面接中の応答者の行動の2つを基に評価される.報告された行動は「大げ
さな情緒的反応」,「自己犠牲と献身的行動」,「極端な過保護行動」の3つによって評価される.
「大げさな情緒的反応」とは患者に関する直接的な不安,患者に対する過剰な同一視の反映でもある.例
えば,「いつもいつも,あの子のことを考えて泣いていたわ」とか「あの子が悪くなると私まで調子悪くな
って,胃が痛いのよ」などと発言する場合である.「自己犠牲と献身的行動」とは,浪費することが分かっ
ているのに患者にお金を与えたり,患者のために自分自身の生活を犠牲にしたりするような行動である.患
者のニーズを過大視することはよい例であると言われている.極端な場合には,患者と家族は共生的に生活
しているかのように見える.「極端な過保護行動」とは,患者の年齢に不相応な対応の仕方であり,大人で
ある患者を心理的にも,身体的にもコントロールしようとする試みの表れである.この過保護行動は巻き込
まれ過ぎのより高い得点(4点もしくは5点)をつける場合に重要な根拠となる.わが国での評価の経験で
は,極端に侵入的(intrusive)なケースは少ない.
面接中の行動は,「態度表明」,「情緒表出」,「ドラマ化」によって評価される.「態度表明」とは患者の
病気による衝撃,患者が依存的になったことへの家族の態度,患者への没頭,患者とその病気に対する客観
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カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野)
性の欠如などによって評価される.「情緒表出」は,家族が患者について話すときの,明らかな苦痛の表現,
涙ぐんだり,泣いたりすることなどをさす.「ドラマ化」は,些細な出来事や問題の,さも目の前で展開し
たかのような詳細な表現,あるいは大げさとも言える表現である.
上記の項目にしたがってEOIの点数評価を行うが,患者の自立を願い,促進しようとする発言があった場
合にはそれも考慮しなければならない.点数化に当たっては,テキストとされている本の点数ごとの13症例
を基準としている(日本語版 p71-85).しかしながら,欧米の症例ではEOI4点,もしくは5点と評価される
ような家族は必ずと言って良いほど,侵入的とも言える極端な過保護行動を示している.わが国ではこうし
た行動が少ないことから,4点あるいは5点との評価は極めて稀となっている.わが国独自の評価基準が求
められる由縁である.
1面接中に,CCが6個以上認められた場合,あるいはH(批判の全般化もしくは拒否,あるいは両者)が
認められた場合,あるいはEOIスコア3点以上の場合に,その家族は高EEと判定される.一方,これら以外
の下位尺度に関して,暖かみはEEの高低の判定には,現在のところ活用されていないが,家族の陽性の側面
を表現するものとして注目されている.したがって,訓練の際にも満足すべき信頼性を獲得するよう期待さ
れる.
3)EE評価の訓練
このような基準を基にして,各家族のEEを評価していくわけであるが,当然のことながら,正確に評価を行
うための訓練が必要になってくる.経験的に言えば,各評価尺度の意味するものを概念的に把握することは評
価に関する文献を読めば十分であるが,実際の家族の面接やその評価に当たっては訓練を経ることなしには満
足すべき信頼性を獲得することはできない.すなわち,理解した批判的コメントの判定を実際のケースの発言
に適用するために訓練が必要であり,高い評価者間信頼性を獲得することが要求される.
EE評価の正式認定を受けるためにはロンドン精神医学研究所社会精神医学部門のEE評価指導者の訓練コー
スを受講し,一定以上の評価の信頼性を獲得する必要がある.一方,そうした認定者が各国で評価訓練を行っ
ている.Orhagenとd’Elia(1991)はスウェーデン語版CFIを用いて,訓練を受けた評価者との間の評価者間信
頼性の検討を行い,頻度尺度であるCCとPRの評価者間信頼性は高かったが,全般評価を行うH, EOI, Wの評価
者間信頼性は低かったと報告している.わが国での評価訓練について述べると,新たに訓練される評価者は,
テキストブックおよびその日本語版を熟読し,さらに英文および邦文でのCFI面接のテープ,テープ起こし原稿,
それぞれ5例文を用いて評価の練習を個人的に行った.その結果,EEの高低の判断,その根拠となるCC, H,
EOIの相関係数,およびカッパ値は満足すべきものであった(Mino et al, 1995).したがって,WとPRに若干の
問題は残るが,EEの判定とCC, H, EOIについてはわが国での新たな訓練が有用であると考えられた.これらの
結果は,EE評価を異なる文化圏,異なる言語圏へと広げることが可能であることを示している.
EE評価の信頼性の検討
ここでの信頼性の検討は統合失調症,気分障害,認知症に関して行った.すべてのEE評価はCFI面接を用い
て行った.ここでは2名が評価を行い,評価者間信頼性の検討を行った.評価者1は,EE評価セミナーに参加
し,満足すべき結果を残し,正式に評価者として認定された者である.その後,20年にわたってEE評価を継続
してきた.評価者2は,評価者1が日本語での訓練を行い,その後評価者1との間に満足すべき信頼性を獲得
した者である.
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統合失調症における検討
ここでは初期のEE研究(Tanaka et al, 1995; Mino et al, 1997; Mino et al, 1998,),その後の家族心理教育
(Shimodera et al, 2000)の参加者としてエントリーした家族73名の家族のCFIによるEE評価を検討した.
まずCC6個以上,あるいはH1点以上,あるいはEOI3点以上の者を高EEとしての評価結果を図1に示した.
2x2表での不一致は1例のみで,一致度は99%で合った.相関係数は0.971(p<0.001),スピアマンの順位相
関係数は0.971(p<0.001),カッパ値は0.971(p<0.001)であった.
表1 EE高低の評価
評価者2
高EE
27
0
27
100.0%
.0%
100.0%
1
45
46
2.2%
97.8%
100.0%
28
45
73
38.4%
61.6%
100.0%
評価者1 高EE 度数
EE高低 の %
低EE 度数
EE高低 の %
合 計 度数
EE高低 の %
合 計
低EE
CCに関しては,分布は0から30であり,評価者間の信頼性については相関係数0.997(p<0.001),スピアマ
ンの順位相関係数0.994(p<0.001)であった.
Hについては,評価者間の評価はすべて一致していた.
EOIに関しては,相関係数0.966(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.958(p<0.001),カッパ値0.904(p<0.001)
であった.
Wに関しては,相関係数0.958(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.950(p<0.001),カッパ値0.902(p<0.001)
であった.
PRについては,相関係数0.981(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.955(p<0.001)であった.
このように,EE評価の構成要素をなすすべての下位尺度で相関係数,スピアマンの順位相関係数は0.9を越
えるものであり,十分な評価者間の信頼性を得ることができた.また,EE高低の判定に関してもカッパ値は0,9
を越え十分な信頼性を示していた.
過去の国際的なEE評価の認定証を得るためには相関係数0.8以上が採用されており,今回の結果はそれを上
回るものであった.また,これまでの日本語でのEE評価に関する報告ではWとPRの評価で問題が残っていたが,
今回の検討ではそうした問題も解決していた.また過去の検討でのCC, H, EOIの相関係数よりも,今回の結果
はより強い相関を示していた.この理由としては,本研究開始前に,両評価者は多くのEE評価の一致のための
検討を行っており,そうした訓練によってより信頼性が高まったと考えられる.
気分障害でのEE評価
統合失調症での評価者間信頼性の検討はかつて精力的に行われたが,その後の気分障害などでは学術論文の
成果としてはほとんど公表されていない(Mino et al, 2000).この背景としては,統合失調症で培った評価方
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カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野)
法,訓練を行えば,EE評価の信頼性は確保されるとの前提があると思われる.しかしながら,あらためて気分
障害のEE評価においても評価者間の信頼性を検討する必要があると考えた.
分析の対象は,気分障害のコホート研究(Mino et al, 2001)の対象家族48名であった.
まず,各下位尺度の検討を行うと,CCについては,相関係数0.971(p<0.001),スピアマンの順位相関係数
0.910(p<0.001)であった.
次にHについては,41名が0点,6名が1点であり,評価はすべて一致していた.
EOIに関しては,相関係数0.955(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.933(p<0.001),カッパ値0.897(p<0.001)
であった.
Wについては,相関係数0.918(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.895(p<0.001),カッパ値0.832(p<0.001)
であった.
PRに関しては,32名が0,3名が1であり,評価は2者で完全に一致していた.
このように従来の相関係数を中心とした検討を行うと,気分障害においても,十分な評価者間の信頼性が認
められたことになる.しかしながら,これまでの検討から,気分障害においては,特にEEの高低の評価に重要
なCC, H, EOIの分布が小さく,0に傾いていることが指摘されてきた.
たとえば,気分障害でのCCの分布を示すと以下の図1のようになる.
度 30
数
20
10
0
.00
1.00
2.00
3.00
批判的コメント数
4.00
7.00
図1 気分障害でのCCの分布
このような場合には従来の相関係数,あるいは順位相関係数が高いからといって十分な評価者間の信頼性を
示しているか否かは問題が残る.
そこで,これまでのコホート研究から再発予測妥当性が高くなるCC2/3,H0/1,EOI2/3をカットオフポイン
トとし,2x2表を作成し,カッパ値を算出した(表2).
表2 気分障害でのEE評価
度数
評価者2
合 計
低 高 .00 低
評価者1
高
37
1
38
1
8
9
合 計
38
9
47
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この場合,47名中45名の評価は一致し(一致度96%),カッパ値は,0.863(p<0.001)であった.これは十分
な評価者間の信頼性が認められたことを示すものである.
これまでの研究において統合失調症以外の疾患では,EEの下位尺度の分布は,特にアジア圏においては欧米
に比較して分布が小さく,それも0に大きく偏っていることが明らかにされている.したがって,こうした場
合に,相関係数を用いると,0から少し離れた部分の評価が一致していれば(上記の気分障害のCCの分布では,
3,4,7)相関係数は高いものになる.また,順位相関係数でも同順位のものが多数でてしまい,問題が残
る.したがって,統合失調症以外の疾患では,これまでに用いた相関係数の検討に加えて,適切なカットオフ
ポイントを用いてのカッパ値の算出が重要となると考えられる.
認知症でのEE評価
次に認知症家族のEE評価における評価者間信頼性の検討を行う.評価対象となった家族は19名であった(Nomura
et al, 2005).
CCに関しては,その分布は0から5であり,相関係数0.930(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.945(p<0.001)
で合った.
Hについては,その評価はすべて0であり,19名全員について評価が一致していた.
EOIに関しては,相関係数0.816(p<0.001),スピアマンの順位相関係数0.786(p<0.001)であった.
Wについては,相関係数0 . 8 7 7 (p<0 . 0 0 1 ),スピアマンの順位相関係数0 . 8 5 5 (p<0 . 0 0 1 ),カッパ値
0.812(p<0.001)であった.
PRに関しては,両評価者ともすべて0と評価し,評価は完全に一致していた.
この場合も,統合失調症と比較すると分布が小さく,0に偏っている傾向があったため,EEの高低による2
x2表を作成し,表3に示した.この場合も,カットオフポイントはCC2/3,H0/1,EOI2/3であった.
表3 認知症でのEE評価
評価者2
合 計
EE低
高 EE低
評価者1
高
15
1
16
1
2
3
合 計
16
3
19
この場合,19例中17名のEE評価は一致していたが(一致度0.88),カッパ値は0.604(p=0.008)であり,問
題が残った.
この場合の不一致は,評価者1がCC4と判定したケースを評価者2がCC2と判定したこと,もう1ケース
では評価者1がCC2と判定したが,それを評価者2がCC3と判定したことであった.
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カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野)
度 10
数
8
6
4
2
0
0
1
2
4
5
批判的コメント数
図2 認知症でのCCの分布
この場合19例中CCなしが10例,その他の9例がCC1-5に分布していた(図2).このように,多くがCCなし
で,かつその以外の分布も小さい場合には,CC1個の誤分類がカッパ値に大きな影響を与えてしまう.とりわ
け,CCが存在しない場合にはその評価は比較的容易であり,その評価者間の不一致は少ない.問題は,批判的
コメントが存在した場合の不一致である.この場合には88%の一致度であったにもかかわらず,2例の不一致
がカットオフポイントに重なったためにカッパ値を下げることにつながったと考えられる.このようにCCの分
布が0に傾き,かつその分布が小さい場合には,CCの分布が大きい場合と比較して,一定の確率で誤分類が発
生したと仮定すると,誤分類のそのカッパ値への影響が大きくなると考えられる.
今後,認知症におけるEE評価に関しては,さらなる検討を加えていく必要があるが,同時にその評価者間信
頼性の評価方法も発展させる必要がある.
ま と め
統合失調症,気分障害,認知症での家族のEE評価に関して,評価者間信頼性の検討を行った.
これまで世界的に信頼性の指標として主に使用されてきた相関係数,スピアマンの順位相関係数での評価で
は,評価者間信頼性は十分に満足すべきものであった.しかしながら気分障害や認知症ではたとえばCCの分布
が0にかたより,分布も小さいことから,カッパ値での検討が重要であると指摘した.カッパ値での検討では,
統合失調症,気分障害において満足すべき評価者間信頼性を示すことができたが,認知症では問題が残った.
分布が小さい場合には,ごく少数の誤分類がカッパ値に大きな影響を与える可能性を示唆し,認知症での評
価者間信頼性の評価方法に関して,今後検討が必要であることを指摘した.
文 献
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社会問題研究・第58巻(2009年3月)
カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野他)
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社会問題研究・第58巻(2009年3月)
カンバウェル家族面接による家族感情表出(Expressed Emotion, EE)評価の信頼性に関する研究(三野)
A study on inter-rater reliability of expressed emotion of families
using camberwell family inter view
Yoshio Mino, Shinji Shimodera, Naoto Kamimura,
Ling He, Yukiko Yonekura
Abstract
Expressed emotion (EE) study has been conducted all over the world, and family psychoeducation
that is effective of relapse prevention in mental disorders has been based on this study. Initially, studies
on reliability of EE rating using Camberwell Family Interview were thought to be important, but recently
studies in this field have been few. The authors evaluated inter-rater reliability of EE rating among
schizophrenia, mood disorders, and dementia. The results were as follows: Inter-rater reliability was
satisfactory when we used correlation coefficient and Spearman’s rank correlation coefficient values.
However, in mood disorders and dementia, Kappa value was important, because numbers of critical
comments were small and its range was narrow in the diseases. In these cases, small proportions of
misclassification effected on the Kappa value largely. Particularly, in the EE evaluation in dementia, that would
be crucial in future. Further studies are required in this field.
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