– 79 – 広大原医研年報第 53 号,2012 放射線災害医療研究センター 幹細胞機能学研究分野 教 准 助 授 教 授 教 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 大 学 院 生 非常勤講師 瀧 安 大 原 唐 津 溝 平 川 鐵 古 佐 大 原 永 野 川 村 口 田 島 口 谷 伯 坪 義 宏 晋一郎 芳 典 圭 一 修 平 弥 来 洋 子 修 あ い 博 貴 拓 磨 慧 太 素 秋 当研究分野では放射線による急性及び晩発性障害による造血不全や白血病等の難治性血液疾患に対して再生 医学の観点から先端的な治療戦略を開発することを目指している。当研究室開設以来、助教を務めてくれて いた大坪素秋君が4月に別府大学に異動し教授に昇進したが、異動後も非常勤講師として引き続き研究室を 支援してくれている。そして、その後任として当研究室で学位を取得後に医歯薬学総合研究科(免疫学)に おいて助教を務めていた大野芳典君が当研究室に異動した。8 月には安永晋一郎 助教が准教授に昇進した。 本年度は、佐伯慧太君が修士課程の学生として新たに参画し、博士課程の大学院生 5 名及び修士課程の大学 院生 4 名と共に研究を進めた。本年度は、唐川修平君が学位を取得し博士課程を修了した。また年度末には、 川島あいさん、鐵口博貴君及び古谷拓磨君が修士課程を修了し、川島あいさんは広島大学に契約職員として、 鐵口博貴君と古谷拓磨君は共に(株)ジェイ・エム・エスに就職した。中島由恵さんと有谷信子さんにそれ ぞれ契約職員として実験補助と経理事務を担当して頂いた。 急性放射線障害や晩発性放射線障害の一つである難治性血液疾患に対応するためには造血幹細胞移植療法 が重要である。骨髄バンクからの造血幹細胞の供給にはコーディネイションに平均4ヶ月程度を必要とする ことを考えると、急性放射線障害や生着不全の場合のように緊急性を要するものに対しては、さい帯血の重 要性が浮かび上がってくる。平成 23 年度は全国のさい帯血バンクにとってまさに激動の年となった。設立以 来、教授 瀧原義宏が適応判定委員を務めてきた京阪さい帯血バンクは、稼働開始以来 10 年を経て、日本全 国で最も多くの供給数を誇る名実ともに日本一のさい帯血バンクに成長したが、平成 24 年 3 月末にその稼働 を終了した。全国に 11 カ所あったさい帯バンクの中で神奈川、中国四国及び宮城の各さい帯血バンクが他に – 80 – 統廃合され、北海道、関東甲信越、近畿そして九州の各さい帯血バンク4つが日本赤十字社の中で新たに稼 働を開始する。京阪さい帯血バンクは大阪市森ノ宮にあったが、同所に新たに発足する近畿さい帯血バンク は北大阪の丘陵地で箕面市から茨城市に股がる国際文化公園都市・彩都に2年間をかけて段階的に移転する 計画である。今後、臨床応用される細胞の規格が一段と厳しくなることが想定され、より厳格な精度を有す る細胞プロセッシングセンターとして稼働することが期待される。教授 瀧原義宏は、近畿さい帯血バンクに おいても引き続き適応判定委員として同バンクの運営に携わり、全国的な造血幹細胞の供給システムの稼働 に貢献する計画である。 研究室では造血幹細胞の活性を支持する 2 大内的因子であるポリコーム遺伝子群(PcG)複合体1と Hoxb4 が共に Geminin に対する E3 ユビキチンリガーゼとして働き、Geminin タンパク質を調節することによって幹 細胞活性を調節していることを明らかにしてきた。Geminin は細胞増殖と分化の両方を制御していることか ら、造血幹細胞の活性を制御する司令塔的分子として機能していることが期待される。そこで、Geminin に 焦点を絞り造血幹細胞の活性を制御する分子基盤を明らかにするとともに、造血幹細胞の増幅法の開発やが ん幹細胞の制御法の開発を目指す計画である。 今年度も引き続き原医研の血液・腫瘍内科、線量測定・評価研究分野及び広島大学医学部小児科との共同 研究も続行し、白血病・リンパ腫、先天性免疫不全症、好中球減少症、さらにβ酸化異常症について解析を 進め情報発信を行った。 当研究分野における本年度の研究課題とその成果は以下の通りである。 1. 研究題目:造血幹細胞の活性制御における PcG 複合体 1 の役割 参加研究者:安永晋一郎、大野芳典、川島あい、中島由恵、大坪素秋、瀧原義宏 研究室では PcG 複合体 1 が造血幹細胞の活性制御に必須な役割を果たしていることをはじめて明らかにした が、PcG 複合体 1 はヒストン H2A の 119 番目のリジンをモノユビキチン化することによって転写を抑制する とともに、細胞増殖と分化を同時に制御する Geminin タンパク質をポリユビキチン化し、ユビキチン-プロテ アソーム系を介してその安定性を調節していることが解った。そこで、本研究では PcG 複合体 1 が Geminin と結合するためのドメインを提供する PcG 複合体 1 の構成因子の一つである Scmh1 についてノックアウトマ ウスを作製して解析を進めた * 。造血細胞では Scmh1 を欠損するとヒストン H2A のモノユビキチン化が低下 し、Hoxb4 や Hoxa9 の発現の上昇が引き起こされる。興味深いことに Hoxb4 や Hoxa9 の遺伝子産物は Roc1-Ddb1-Cul4a から成る ユビキチンリガーゼのコア複合体と結合し、Geminin に対する E3 ユビキチンリガ ーゼを構成する(研究題目3参照)。すなわち、Scmh1 の欠損によって低下した Geminin に対する E3 ユビキ チンリガーゼ活性が、Hox の発現上昇によって相補されるだけでなく、反ってその活性が過剰となり Geminin の発現が低下していることが解った。そして、造血幹細胞及び前駆細胞の活性は Hox の過剰発現によって促 進されていることが解った。さらに、Scmh1 欠損マウスでは造血ホメオスターシスが損なわれ、造血ストレ スに対して造血幹細胞及び前駆細胞が過剰反応を示すことを見いだしており、造血幹細胞の動態制御におい て興味深い。今後、詳しい解析を進める計画である。 * 本研究は大阪府立成人病センター研究所分子遺伝学部門(三好淳 部長)との共同研究である。 2. 研究題目:造血幹細胞制御における Geminin の役割 参加研究者:安永晋一郎、大野芳典、古谷拓哉、佐伯慧太、中島由恵、大坪素秋、瀧原義宏 造血幹細胞の活性を支持する細胞内因子である PcG 複合体 1 と Hoxb4/Hoxa9 がともに Geminin に対する E3 ユビキチンリガーゼとして機能し、Geminin の発現をタンパク質レベルで制御していることが解った。従っ て、造血幹細胞が自己複製するとともに、一方では活発な増殖能を有する造血前駆細胞へと分化し大量の成 – 81 – 熟血球を産生するに際して、Geminin が指令塔的役割を果たしていることが推測される。そこで、本研究で は Geminin を可視化することによって造血幹細胞における発現動態を詳細に追跡し、その解析結果を基に、 Geminin 発現量を操作することによって造血幹細胞の活性を制御することのできる実験系の開発を目指す。 まず、Geminin の発現レベルを生細胞中で追跡するために Geminin-EYFP ノックインマウスを作製した *1。同 マウスにおいて Geminin-EYFP 融合タンパク質の産生を確認するとともに、MEF 細胞や造血細胞において Geminin-EYFP の蛍光輝度が Geminin の発現レベルを良く反映していることを確かめた。さらにホモ接合型 Geminin-EYFP ノックインマウスの MEF 細胞から iPS を作製することに成功しており *2 、未分化細胞の増殖 と分化の制御における Geminin の役割について解析を進め、その解析成果を造血幹細胞制御における Geminin の役割の解析に応用する計画である。また、Geminin が E2F 活性を負に制御していることをすでに明らかに しているので、その分子機構についても解析を始めた。これらの実験系を駆使し、造血幹細胞の自己複製の 本態解明と造血幹細胞において自己複製と分化を掛け分ける際に Geminin がどのような役割を果たしている かを明らかにし、造血幹細胞を増幅するための新技術の開発を目指す計画である。 *1,2 これらの研究はそれぞれ大阪府立成人病センター研究所分子遺伝学部門(三好淳 部長)及び東京大学医 科学研究所(辻浩一郎 准教授及び小林俊寛 博士)との共同研究である。 3. 研究題目:Hox による造血幹細胞制御及び白血病発症の分子基盤の解析 参加研究者:大野芳典、安永晋一郎、鐵口博貴、佐伯慧太、中島由恵、三原圭一朗、Salima Janmohamed、 大 坪素秋、瀧原義宏 第 11 番染色体 q23 上に存在する Mll 遺伝子には、乳児白血病の 70%以上で転座が認められ、二次性白血病 においても高率に異常が認められる。若年者においても急性骨髄性白血病の 7%、そして急性リンパ性白血 病の 6%に Mll の転座が関わっている。Mll は Hox 遺伝子の発現維持の機能を担っており、Mll の転座が関与 する白血病細胞では Hoxa4, Hoxa5, Hoxa9 等の Hox 遺伝子群や Meis1 の発現が顕著に亢進している。Hoxa9 は急性白血病の予後不良因子の一つとしても知られている。また、t(7, 11)(Nup98-Hoxa9)の転座が急性骨髄 性白血病の約1%に認められる。しかし、どのような分子機構によって Hox 遺伝子群が造血制御や白血病発 症 に 関 わ っ て い る か に つ い て は 、 現 在 の と こ ろ 充 分 に は 理 解 が 進 ん で い な い 。 研 究 室 で は Hoxb4 は Roc1-Ddb1-Cul4a と RDCOXB4 複合体を形成し、Geminin に対する E3 ユビキチンリガーゼ活性を示すことによ っ て 造 血 幹 細 胞 の 活 性 を 誘 導 す る こ と を す で に 明 ら か に し て い る の で 、 本 研 究 で は Hoxa9、 Hoxc13 や Nup98-Hoxa9 を取り上げ、解析を進めた。その結果、Hoxa9 は Hoxb4 と同様に RDCOXA9 複合体を形成し、Geminin に対する E3 ユビキチンリガーゼ活性を誘導するが、Hoxc13 や Nup98-Hoxa9 は Roc1-Ddb1-Cul4a とは複合体 を形成せず、代わって別の機序で E2F の活性を強く誘導することが解った。従って、Hoxa9 は Geminin タン パク質の安定性を直接制御し、細胞増殖活性を付与するとともにゲノムの不安定性を誘導し、白血病発症を 誘導していることが推測された。以上の解析結果について情報発信を急ぐとともに、Geminin 制御の白血病 発症における役割についてさらに詳しい解析を進めるとともに、Geminin に注目して白血病幹細胞を根絶さ せるための新しい治療戦略の開発を目指して研究を続けている。 * 本研究はトロント大学オンタリオ癌研究所(ノーマン・イシコフ博士)との共同研究である。 4. 研究題目:悪性造血器疾患の抗がん剤耐性機構の解析と免疫療法 参加研究者: 三原圭一朗、Joyeeta Bhattacharyya、大坪素秋、安永晋一郎、瀧原義宏、星正治、木村昭郎 B細胞性悪性リンパ腫はリツキシマブの投与が可能となった現在でも、予後不良群が依然存在し、治療耐性 機序の解明と新たな治療戦略が必要である。これまでにポリコーム遺伝子群の 1 つ、BMI-1 が急性骨髄性白 血病、骨髄異形成症候群および慢性骨髄性白血病の独立した予後因子であることを明らかにしてきた。本研 究では悪性リンパ腫における BMI-1 の発現と抗がん剤に対する耐性との関連性を検討した。BMI-1 の高発 現リンパ腫では survivin の発現が増強されることが遺伝子・蛋白質レベルで明らかとなった。そこで、in vitro で調べたところ、etoposide や oxaliplatin に対し、BMI-1 を強発現しているB細胞性リンパ腫細胞では耐性 化が認められた。我々は、臨床応用を視野に抗 CD19 キメラ型レセプターを作成し、レトロウイルスベクタ – 82 – ーを用いてヒト末梢血T細胞に発現させる系を確立した。これらの細胞は、ヒトB細胞性悪性リンパ腫細胞 株、BMI-1 や survivin を強く発現しているB細胞性悪性リンパ腫患者由来検体において、BMI-1 や survivin の発現の程度にかかわらず、強い抗リンパ腫効果を示した。これらの結果は抗 CD19 キメラ型レセプターを 有するヒトT細胞を使った養子免疫療法の薬剤耐性B細胞性悪性リンパ腫への臨床応用に合理性を示すもの と考えられた。更に、抗 CD19 キメラ型レセプターのリンパ腫以外での応用を検討中である * 。以上の解析 成果を Leukemia、Cancer Sci.、 そして、新たに発刊したオンラインジャーナルである Blood Cancer J. に 発表した。 * 本研究は原医研 血液・腫瘍内科及び線量測定・評価研究分野と共同で研究を進めている。 5. 研究題目:MSMD (Mendelian Susceptibility to Mycobacterial Diseases) の分子生物学的解析 研究参加者:津村弥来、岡田 賢、溝口洋子、梶梅輝之、安永晋一郎、大坪素秋、瀧原義宏、小林正夫 MSMD は、抗酸菌やサルモネラ菌に代表される細胞内寄生菌に対して易感染性を示す稀な原発性免疫不全 症である。常染色体優性遺伝型 STAT1 部分欠損症は、MSMD の遺伝病因の 1 つとして知られている。 IFN-alpha/beta に対する STAT1-STAT2-IRF9 トリマーを介した細胞応答は正常であるが、IFN-gamma に 対する STAT1-STAT1 ホモダイマーを介した細胞応答が優性阻害を受けることがその病因と言われている。 これまでに、STAT1 のテールセグメントドメインと DNA 結合ドメインに変異が報告されている。今回、我々 は MSMD 患者2家系において STAT1 の SH2 ドメインにヘテロ接合性新規遺伝子変異を同定した。一つは STAT1 のリン酸化障害を認める機能低下型の変異で、他方はリン酸化と DNA 結合能の欠損を認める機能喪 失型の変異であった。また、両変異とも、IFN-gamma のシグナル伝達に対して優性阻害効果を示し、MSMD 発症をもたらす重要な変異と考えられた。MSMD の病態の理解を深めるために、さらに解析を進める計画で ある。STAT1 の SH2 ドメインにヘテロ接合性新規遺伝子変異を同定した2家系についての論文を Human Mutat.に発表した。 6.研究題目:先天性好中球減少症の病態解析 研究参加者:溝口洋子、岡田 賢、津村弥来、唐川修平、瀧原義宏、小林正夫 先天性好中球減少症(Severe Congenital Neutropenia: SCN) は、乳児期からの慢性好中球減少症、特に末梢 血好中球数が 200/μL 未満、骨髄像で前骨髄球、骨髄球での成熟障害、生後より反復する重症細菌感染症を 臨床的特徴とする疾患である。好中球エラスターゼ(Neutrophil elastase: NE)をコードする ELANE 遺伝子の ヘテロ接合型変異が 70 %の周期性好中球減少症の患者で同定されているが、その分子病態については明らか になっていない。我々は 5 種類の変異 ELANE 遺伝子をレトロウィルスベクターを用いて HL60 細胞に導入した。 そして、これらの細胞を用いて、NE タンパク質のプロセッシング、糖鎖付加、局在及び小胞体ストレスにつ いて検討を行った。野生型では 25kD 及び 30-32kD の分子量の NE の発現が認められたが、変異型では野生型 と比較して 30-32kD の分子量の NE が優位であった。そこで、糖鎖付加阻害剤である Tunicamycin 処理を行っ て調べたところ、野生型及び変異型 NE 共に 30-32kD のバンドが消失し、25kD のバンドの増加が見られた。 従って、30-32kD のバンドは糖鎖が付加されたものと考えられた。興味深いことに変異型 NE では糖鎖修飾を 受けたタンパク質の消失に時間を要することから、その代謝速度の遅延が想定された。さらに、免疫染色法 によって調べると野生型及び変異型ともにライソゾームに一致した局在を示すことが解った。そして、変異 型では小胞体ストレスマーカーである BipmRNA の発現の上昇が認められた。従って、変異型 NE は小胞体スト レスを引き起こしている可能性が考えられた。そこで、今後は小胞体ストレスに注目して、変異型 NE がど のように SCN の病態に関わっているかについて詳細な解析を進めて行く予定である。 7.研究題目:周期性好中球減少症のモザイク症例の解析 研究参加者:平田 修、津村弥来、唐川修平、溝口洋子、大野芳典、安永晋一郎、瀧原義宏、小林正夫 周期性好中球減少症(CyN:Cyclic Neutoropenia)は、約 21 日の周期で好中球減少を認める疾患で、90%以 – 83 – 上の症例で好中球エラスターゼをコードする ELANE 遺伝子のヘテロ接合性変異が同定されている。本研究で 我々は、ELANE ヘテロ接合性新規遺伝子変異 IVS4+5 G>T を同定した CyN 患者の家系分析で、好中球減少を認 めていない患者の母親が変異を持った細胞と正常細胞の混在していることを見つけた。そこで、好中球(CD16 陽性細胞)・単球(D14 陽性細胞)・T リンパ球(CD3 陽性細胞)・頬粘膜から採取した体細胞それぞれの変異を 確認したところ、CD3 陽性細胞・CD14 陽性細胞・頬粘膜では約 30%、CD16 陽性細胞では 4%前後の割合で変 異が検出された。従って、本症例は体細胞分裂時に変異の入ったモザイク症例ではないかと考えられた。今 後は、モザイクのさらなる証明としてレーザーマイクロダイセクション法を用いて single cell の回収を行 い、single cell PCR での正常細胞・変異を持つ細胞の同定を検討していく予定である。 8. 研究題目:外胚葉形成不全免疫不全症候群の分子病態解析 研究参加者:唐川修平、岡田 賢、津村弥来、溝口洋子、大野令央義、安永晋一郎、大坪素秋、瀧原義宏、小 林正夫 本 研 究 で は 、 外 胚 葉 形 成 不 全 免 疫 不 全 症 候 群 ( EDA-ID ) の 患 者 に お い て 、 NF-κB の 活 性 化 に 重 要 な IKK-gamma/NEMO を コ ー ド し て い る 遺 伝 子 IKBKG exon7 の ス プ ラ イ ス ド ナ ー サ イ ト の 新 規 遺 伝 子 変 異 (IVS6-1G>C)を同定した。この変異がスプライシングにおよぼす影響を検討したところ、cDNA クローン 24 個中 7 個で正常なスプライシングパターンを、17 個で種々の異常なスプライシングパターンを認めた。これ らの異常クローンではアミノ酸の挿入や欠失が生じる結果、タンパク構造が著しく変化することが推測され た。フローサイトメトリーによる解析でも、患者のリンパ球、単球において NEMO タンパク質の発現が低下し ていることを確認した。患者末梢血 CD3 陽性細胞は IL-12 刺激に対する IFN-gamam 産生能が低下しており、 CD14 陽性細胞は INF-gamma 刺激に対する TNF-alpha 産生能が低下していた。また患者は、麻疹に対する特異 抗体産生がその感染の既往にもかかわらず低下していたが、風疹に対する特異抗体産生能は保たれており NEMO の欠損との関連が興味深い。CFSE(carboxyfluorescein diacetate succinimigyl ester)法で解析する と、患者 CD4 陽性細胞は麻疹ウイルス刺激に対し十分な細胞増殖ができなかったが、風疹ウイルス刺激に対 しては十分な細胞増殖を示し、麻疹に対する反応性が特異的に低下していることが解った。以上の解析結果 を J. Clin. Immunol. に論文を発表した。 9. 研究題目:β酸化異常症の分子生物学的解析 研究題目;中鎖アシル CoA デヒドロゲナーゼ欠損症の分子生物学的解析 参加研究者:原 圭一、岡田 賢、津村弥来、但馬 剛、瀧原義宏、小林正夫 現在までに 30 人以上の日本人中鎖アシル CoA デヒドロゲナーゼ欠損症(Medium chain acyl-coenzyme A dehydrogenase deficiency: MCADD)の患者が同定されている。近年、MCAD をコードする遺伝子 ACADM の c.449-452delCTGA が日本人患者の 60%に見つかったと報告されている。しかし、その他の変異はほとんど private mutation であり、その特性は不明のままである。11 例の日本人患者に見つかった 11 種類の変異型 MCAD (うち 5 例が代謝不全で発症してからの診断例、6 例は新生児マススクリーニングによる発症前診断) および欧米で頻度の高い変異型 MCAD について培養細胞中に過剰発現させ、細胞破砕液中の酵素活性を測定し、 野生型 MCAD の活性値に対する比活性を評価した。各変異酵素タンパク質の比活性は 6 つの変異が 10%未満の 活性を示したが、残り 5 つの変異は 50%以上の残存活性を認めた。比較的残存活性の高い 5 つの変異につい て反応温度を上げて検討したところ、マススクリーニング陽性例に見つかった 1 つの変異型 MCAD に著明な活 性低下を認めた。新生児マススクリーニング陽性例には感染症などのストレス負荷時に急性発症する危険性 のあるものがある。一方、残存活性が保因者以上に保たれると考えられるものも存在する。本邦患者に見つ かる MCAD 変異タンパク質の分子遺伝学的解析は、新生児マススクリーニングをより有益なものとしていくた めの一助となると考えられ、情報発信を急ぐとともに、さらに解析を進めている。 – 84 – A. 原著 1. Karakawa, S., Okada, S., Tsumura, M., Mizoguchi, Y., Ohno, N., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Kawai, T., Nishikomori, R., Sakaguchi, T., Takihara, Y., Kobayshi, M. (2011) Decreased expression in nuclear factor-kappaB essential modulator due to a novel splice-site mutation caused X-linked ectodermal dysplasia with immunodeficiency. J. Clin. Immunol. 31, 762-772. (G), (I) 2. Mihara, K., Bhattacharyya, J., Kitanaka, A., Yanagihara, K., Kubo, T., Takei, Y., Sakai, A., Asaoku, H., Takihara, Y., Kimura, A. (2012) T-cell immunotherapy with a chimeric receptor against CD38 is effective in eliminating myeloma cells. Leukemia 26, 365-367. (G), (I) 3. Bhattacharyya, J., Mihara, K., Takihara, Y., Kimura, A. (2012) Successful treatment of IgM-monoclonal gammopathy of undetermined significance associated with cryoglobulinemia and cold agglutinin disease with immunochemotherapy with rituximab, fludarabine, and cyclophosphamide. Ann. Hematol. 91, 797-799. (G), (I) 4. Bhattacharyya, J., Mihara, K., Ohtusbo, M., Yasunaga, S., Hoshi, M., Takihara, Y., Kimura, A. (2012) Overexpression of BMI-1 correlates with drug resistance in B-cell lymphomas through the stabilization of survivin expression. Cancer Sci. 103, 34-41. (G), (I) 5. Bhattacharyya, J., Mihara, K., Morimoto, K., Takihara, Y., Kimura, A., Hide, M. (2012) Elevated interleukin-18 secretion from monoclonal IgM+ B cells in a patient with Schnitzler syndrome. J. Am. Acad. Dermatol. in press. (G), (I) 6. Tsumura, M., Okada, S., Sakai, H., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Murata, T., Obata, H., Yasumi, T., Kong, X., Abhyankar, A., Heike, T., Nakahata, T., Nishikomori, R., Al-Muhsen, S., Boisson-Dupuis, S., Casanova, J.-L., AlSherhri, M., ElGhazali, G., Takihara, Y., Kobayashi, M. (2012) Dominant-negative STAT1 mutations in the SH2 domain predispose to mycobacterial diseases. Hum. Mutat., in press. (G), (I) 7. Bhattacharyya, J., Mihara, K., Kitanaka, A. , Yanagihara, K. , Kubo, T. , Takei, Y. , Kuroda, T., Kimura, A., Takihara, Y. (2012) T-cell immunotherapy with a chimeric receptor against CD38 is effective in eradicating refractory B-lymphoma cells overexpressing survivin induced by BMI-1. Blood Cancer J., in press (G), (I) 8. 瀧原義宏(2011)造血幹細胞の守護神 Geminin 原医研ニュース 2、6−7. 9. 瀧原義宏、安永晋一郎、大野芳典、大坪素秋(2012)幹細胞における細胞周期制御 研究の新たな展開 血液フロンティア(医薬ジャーナル社) 22、33-43. B. 特集:がん幹細胞 学会発表等 1. Ohno, Y., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Tetsuguchi, H., Furutani, T., Kawashima, A., Nakashima, Y., Takihara, Y. HOXA9 acts as an E3 ubiquitin ligase for Geminin to provide hematopoietic cells with cellular proliferation potential. The 9th Stem Cell Research Symposium. May 13-14, 2011, Tokyo 2. 瀧原義宏 造血幹細胞制御における Geminin の役割 成 23 年 5 月 31 日-6 月 2 日(軽井沢) 2011 新学術領域研究「細胞運命制御」班会議 平 3. 安永晋一郎 Geminin の発現調節による造血前駆細胞および造血幹細胞の活性操作〜Accell siRNA を用 いた未分化造血細胞における Geminin の発現抑制〜サーモフィッシャー ライフサイエンスセミナー 第3回 RNAi 研究の最前線 平成 23 年 7 月 22 日(東京) 4. 瀧原義宏 被ばくと放射線障害、そして再生治療 日(大阪) 大阪市南医師会・医事懇話会例会 平成 23 年 7 月 28 5. 安永晋一郎 Geminin の発現制御による白血病幹細胞の活性制御機構 新学術領域「癌幹細胞を標的とす る腫瘍根絶技術の新構築」第3回総括班会議 平成 23 年 9 月 10 日(福岡) 6. 白井 学、瀧原義宏、森崎隆幸 ポリコーム遺伝子群の心臓形態形成に対する発現・機能解析 発生研究会 平成 23 年 10 月 6-7 日(郡山) 心臓血管 – 85 – 7. 安永晋一郎 造血幹細胞を ex vivo で増幅させるための新たなストラテジー 平成 23 年 10 月 9 日(福岡) 8. 安永晋一郎 放射線障害と造血幹細胞移植〜福島派遣を経験して〜 10 月 29 日(福岡) 第 109 回原医研セミナー 第 15 回ワイル集談会 平成 23 年 9. Yasunaga, S., Ohno, Y., Ohtsubo, M., Furutani, T., Kawashima, A., Tetsuguchi, H., Saeki, K., Nakashima, Y., Takihara, Y. A new strategy for manipulating HSC activity through the modulation of Geminin expression.第 73 回日本血液学会学術集会 平成 23 年 10 月 14−16 日(名古屋) 10.Ohno, Y., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Tetsuguchi, H., Furutani, T., Kawashima, A., Saeki, K., Nakashima, Y., Takihara, Y. HOXA9 provides hematopoietic cells with proliferation potential through the degradation of Geminin. 第 73 回日本血液学会学術集会 平成 23 年 10 月 14−16 日(名古 屋) 11.Mihara, K., Bhattacharyya, J., Takihara, Y., Hoshi, M., Kimura, A. Effect of T cells with an anti-CD38 receptor on B-lymphomas refractory to chemotherapy. 第 73 回日本血液学会学術集会 平成 23 年 10 月 14−16 日(名古屋) 12.Tsumura, M., Okada, S., Sakai, H., Nishikomori, R., Yasunaga, S., Ohtsubo, M., Heike, T., Nakahata, T., Takihara, Y., Kobayashi, M. Identification of a novel type of AD-STAT1 deficiency with mutations in the SH2 domain. 第 73 回日本血液学会学術集会 平成 23 年 10 月 14−16 日(名古屋) 13.Mihara, K., Bhattacharyya, J., Kitanaka, A., Ihara, A., Sakai, A., Kuroda, Y., Asaoku, H., Takihara, Y., Kimura, A. T-cell immunotherapy with a chimeric receptor against CD38 is effective in eliminating myeloma cells. 53 rd Annual Meeting of American Society of Hematology, December 10-13, 2011, SanDiego. 14.Mizoguchi,Y., Nakamura,K., Karakawa,S., Okada, S., Kawaguchi, H., Kobayashi, M. Clinical and genetic characteristics of patients with severe congenital neutropenia in Japan. 53 rd Annual Meeting of American Society of Hematology, December 10-13, 2011, SanDiego. 15.Shirai, M., Takihara, Y., Morisaki, T. Distribution of Polycomb-group proteins in the developing heart. 第 34 回日本分子生物学会年会 平成 23 年 12 月 13−16 日(横浜) 16.Furutani, T., Yasunaga, S., Ohno, Y., Kawashima, A., Tetsuguchi, H., Saeki, K., Nakashima, Y., Ohtsubo, M., Takihara, Y. Visualization and modulation of Geminin expression for inducing the hematopoietic stem cell activity. 第 34 回日本分子生物学会年会 平成 23 年 12 月 13−16 日(横浜) 17.Tetsuguchi, H., Ohno, Y., Yasunaga, S., Furutani, T., Kawashima, A., Saeki, K., Nakashima, Y., Ohtsubo, M., Takihara, Y. HOXA9 directly regulates Geminin by composing the E3 ubiquitin ligase, that may plays an important role in HOXA9-mediaed induction of hematopoiesis and leukemogenesis. 第 34 回日本分子生物学会年会 平成 23 年 12 月 13−16 日(横浜) 18.Kawashima, A., Yasunaga, S., Ohno, Y., Furutani, T., Tetsuguchi, H., Saeki, K., Nakashima, Y., Ohtsubo, M., Takihara, Y. Molecular roles for Scmh1, a substoichiometric component of Polycomb-group complex 1. 第 34 回日本分子生物学会年会 平成 23 年 12 月 13−16 日(横浜) 19.安永晋一郎 東日本大震災被災地への支援 –霞地区教職員の取り組み– 警戒区域住民の一時帰宅事業 広島大学 第 3 回医歯薬 FD 平成 24 年 1 月 30 日(広島) 20.Takihara, Y. Current hematopoietic stem cell transplantation therapy and the perspective. Symposium Session. The 1st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 21.Guo, Y., Miyazaki, M., Miyazaki, K., Takihara, Y., Kanno, M. Poster Session. The biological significance of p19Arf suppression during the DN-DP transition. The 1 st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 22.Mizoguchi, Y., Nakamura, K., Karakawa, S., Okada, S., Kawaguchi, H., Takihara, Y., Kobayashi, M. Clinical and genetic characteristics of severe congenital neutropenia: a Japanese multi-institutional study. The 1st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) – 86 – for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 23.Tetsuguchi, H., Ohno, Y., Yasunaga, S., Furutani, T., Kawashima, A., Saeki, K., Nakashima, Y., Ohtusob, M., Takihara, Y. HOXA9 transduction induced hematopoietic stem cell and progenitor activities through the direct regulation of Geminin. Poster Session. The 1st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 24.Furutani, T., Yasunaga, S., Ohno, Y., Tetsuguchi, H., Kawashima A., Saeki, K., Nakashima, Y., Ohtusob, M., Takihara, Y. Knock-down of Geminin induces the hematopoietic stem and progenitor activities. Poster Session. The 1st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 25.Ohtusob, M., Yasunaga, S., Ohno, Y., Kawashima A., Furutani, T., Tetsuguchi, H., Nakashima, Y., Takihara, Y. Role for an Scmh1-mediated molecular network governing Geminin expression in hematopoiesis. Poster Session. The 1 st International symposium on Phoenix leader education program (Hiroshima initiative) for renaissance from radiation disaster, February 21st, 2012, Hiroshima. 26.三原圭一朗、坂井 晃、瀧原義宏、木村昭郎 B 細胞性リンパ腫の骨髄浸潤の評価〜CD19 gating フロー サイトメトリー法の有用性〜 第 51 回日本血液学会 中国四国地方会平成 24 年 3 月 3 日(広島) 27.瀧原義宏 造血幹細胞の活性を支持する分子基盤の解析と造血幹細胞移植療法 第 85 回広島幹細胞研究 会 平成 24 年 3 月 28 日(広島)
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