ク リ ス マ ス ・ キ ャ ロ ル

a little Musical
クリスマス・キャロル
原作
Charles Dickens
脚本 大谷川 一聡
ジャンル ファンタジー
Thank you very much!
作品テーマ 素晴らしい生き方とは?
テーマ曲
1
ものがたり
ケチで冷酷、人間嫌いのスクルージはクリスマス・イブの夜、相棒だったマーレイの亡霊から地獄行きを宣告される。
信じようとしないスクルージだが翌日からマーレイの予言通りに三人の幽霊が現れ、スクルージ自身の過去、現在、未来を
見せつける。はたしてスクルージはそのまま地獄に落ちてしまうのか。
2
登場人物
エブニーザ・スクルージ
金貸し業スクルージ・マーレイ商会を営むケチで冷酷な守銭奴。五十~六十代。
Hァ
ジェイコブ・マーレイ
スクルージの相棒だった男の幽霊。自ら作り上げた地獄の鎖に苦しんでいる。五十~六十代。
Hァ
フレッド …スクルージの甥。妹の忘れ形見。三十~四十代。
フレッドの嫁
結婚式も含めて一切の付き合いを拒むスクルージを嫌っている。
Hァ
第一の幽霊
過去の幽霊。見た目は小さく肌も綺麗だが髪は白い。白い衣と光る腰布を巻き花々を身に纏う。
Hァ
第二の幽霊
現在の幽霊。見るからに恰幅の良い王様のようなサンタクロース。厳しさの奥に優しさがある。
Hァ
第三の幽霊
未来の幽霊。黒頭巾に黒マントを身に纏う。スクルージを無言で導き顔も見えない。
Hァ
クラチット …スクルージ・マーレイ商会の雇われ書記。気弱で人の良い男。三十代くらい。
クラチット夫人
スクルージを嫌っている。
Hァ
クラチット祖母
近所で評判のクラチット風ガチョウの詰め物を得意とするおばあちゃん。
Hァ
ティム
病弱なクラチットの子供。
Hァ
クラチットの子供達
貧乏だが愛がある子供達。
Hァ
寄付を募る女1
気のよさそうなご婦人。
Hァ
寄付を募る女2
これまた気のよさそうなご婦人。
Hァ
フェズウィグ …スクルージの親方で、気前のよい陽気な初老のおじさん。
フェズウィグ夫人
気の良い初老のおばさん。
Hァ
少年のスクルージ
暗い少年。
Hァ
青年のスクルージ
二十代の頃のスクルージ。真面目。
Hァ
ファン
病弱だが優しいスクルージの妹。少女。
Hァ
イザベル …過去の影に現れるスクルージの婚約者。芯が強くて優しい女性。二十代。
ジェンキンス
スクルージに多額の借金をしているおもちゃ屋さん。
Hァ
神父
クリスチャン。
Hァ
3
人扶( 名
墓守。
2)
Hァ
町の人々
十九世紀後半のイギリスの町の人々。パーティーに出たり、踊ったりとクリスマスは忙しい。
Hァ
子供達
お菓子をねだったり、パーティーに出たり、踊ったりとクリスマスは忙しい。
Hァ
もくじ
1.マーレイの葬儀
2.金貸しスクルージ・マーレイ商会
3.マーレイの亡霊
4.第一の幽霊(過去~忘れていた事~)
5.第二の幽霊(現在~見ようとしなかった他人~)
6.最後の幽霊(未来~残酷な結末~)
7.スクルージ
4
1.マーレイの葬儀
鐘の音。十字の墓標の前。神父と人扶二人、そしてスクルージの四人の寂しい葬儀。
神父 天にまします我らが神よ、願わくばジェイコブ・マーレイに永遠の安らぎを。アーメン。それでは
神父が合図すると、人工たちが墓に土を盛り始める。
神父 スクルージさん失礼ですがマーレイさんには本当に身内はいないのですか?
スクルージ ええ、彼は早くに両親を亡くし孤児院で育っていますから。
神父 ご親族は?
スクルージ 聞いたことがない。
神父 ご友人は?
スクルージ 私です。
神父 他には?
スクルージ 見ての通り。
神父
スクルージさんも寂しくなりますね。
Hァ
スクルージ そうでもありません。彼は私にこの世で一番素晴らしいものを残してくれました。
神父 ほう。
人扶 神父さん、終わったぜ。
神父 ご苦労様。で、その素晴らしい物とは?
スクルージ 野暮なことを。そんなの決まっているじゃないですか。
神父 あ~(少し考えてにこやかに)「思い出」ですか?
。
Hァ
5
スクルージ 金ですよ。
神父 (少し固まり、苦笑いして)今鳴り響いているこの鐘でしょうか?
スクルージ まさか、金ですよ、金。ゴールド。神父さんもお好きでしょう。(いやらしい笑い顔)
神父 オー・マイ・ゴット。
スクルージ (金貨を一枚取り出して嬉しそうに)イエス、オー・マイ・ゴールド。…仕方ない、葬儀代です。(残念そう
に神父に渡す)
神父 (お金は受け取るが憐れむ感じで)神のご加護を。アーメン。
立ち去る神父たち。墓の前に佇むスクルージ。
暗転
スクルージ 安らかに眠れマーレイ。何も心配する事はない、お前の遺産は私が頂いたのだから。くっくっくっ(笑)。
泣いているかのような不気味な笑いを続けるスクルージ
2.金貸しスクルージ・マーレイ商会
クリスマスの音楽。19世後半のイギリスのクリスマスイブ。クリスマスのごちそうの買い出しの人々とはしゃぐ子供達
で街は活気に溢れている。それとは打って変わって陰気なスクルージ・マーレイ商会。スクルージはケチなので暖炉の火は
とても小さい。事務机に向かい熱心に金勘定をするスクルージ。社員のクラチットは入口の台座に立って向かい帳簿を付け
ているが、何度も手を擦って寒さを堪えている。スクルージの甥の青年が入ってくる。
フレッド やあクラチット、今日もご苦労様。
6
薄ら笑いをするクラチット。スクルージは金勘定に集中しているので甥に気付いていない。
フレッド (元気よく)メリークリスマス!伯父さん!
スクルージ (突然現れた甥にビクッとするが直ぐに嫌な顔で)ばかばかしい。
フレッド クリスマスがばかばかしいだなんて伯父さん!まさか、本気で言っているんじゃないでしょうね。
スクルージ ああ、本気だともさ。何がクリスマスおめでとうだ!何の権利があってお前がめでたがるのかってことよ。貧
乏人のくせに。
フレッド (元気よく)機嫌を直してよ伯父さん!伯父さんが機嫌を悪くする分けがどこにあるんですか?伯父さんは金持
ちなんだから妬みも不足もないでしょう?
スクルージ (うまい返しができず)ふん、ばかばかしい!
フレッド 伯父さん!そうぷりぷりするもんじゃありませんよ。
スクルージ ぷりぷりせずにいられるか!貧乏人どもが私から借りた金を返しもせずに、クリスマスおめでとうだあ?そん
な寝言を並べる怠け者は、七面鳥の代わりにオーブンで燃やしてやりたいね。恥知らずが!
フレッド 伯父さん!
スクルージ フレッドよ!お前はお前の流儀でクリスマスを祝いなさい。俺は俺の流儀で祝う。
フレッド 祝うですって!伯父さんのは祝うってことじゃないじゃないですか?
スクルージ 俺に構わないでくれ。クリスマスなんか役に立ったことはない。
フレッド 金儲けにならなくても役に立つことはたくさんありますよ。例えば僕はクリスマスが来ると、何かその親切な気
分になるんです。情深くなる楽しい時節ですよ。男も女もみんな隔てなく心を打ち明けあって、誰を見てもいつかは墓場に
行く旅の道連れだと思って、行先の違う赤の他人とは思わないなんて言うときは一年の暦の中でクリスマスの時だけだと思
いますよ。ですからね、伯父さん、僕はクリスマスで金貨や銀貨の一枚だって儲けたわけじゃありませんが、やっぱり僕に
とってはクリスマスは良いことをもたらしてくれていると思いますよ。これからも。だから僕は神様のお恵みがクリスマス
の上に絶えない様にと言いますよ!
7
拍手をするクラチット。スクルージに見られてハッと止める。
スクルージ (クラチットに)もう一遍その変な音を立ててみろ、失業クリスマスを祝わせてやる。(甥に向き直り)お前
はなかなか口が達者だ。議員にならないのが不思議なくらいだ。
フレッド 伯父さん、そんなに腹を立てないでください。どうか明日うちへ食事に来てくださいな。
スクルージ そんなところに行くなら、地獄へ行った方がましだ。
フレッド (残念そうに)なぜです?なぜなんです?
スクルージ お前は何で結婚したんだ。
フレッド 相手を好きになったからですよ。
スクルージ めでたいやつだ、感情だけで行動すると苦労するぞ。さようなら。
フレッド (優しく)いや、伯父さん、僕の結婚式以前だって食事に来てくれたことはないじゃありませんか。今更そのた
めに来られないってことはないじゃないですか。
スクルージ さようなら。
フレッド なんでそんなに頑固にするんだか、僕は心底悲しくなりますよ。今までに一度だって喧嘩をしたわけじゃないし。
僕はクリスマスを一緒にお祝いしたい一心でお招きしているんですよ。
スクルージ さようならだ!
フレッド ついでに新年おめでとう!
スクルージ さようならだ!
甥は一言の荒い言葉も返さずに、にこやかに出ていく。玄関先のクラチットに挨拶するとクラチットは「またいらっしゃ
ってください」と丁寧に挨拶をする。
8
スクルージ もう一人馬鹿者がいる。一週五十シリングで女房子供を養っている俺の書記が、なんでクリスマスがめでたい
んだか、精神病院にでも逃げ込みたくなるよ。
クラチットはスクルージの甥を送り出すと、入れ違いに二人の客を「いらっしゃいませ」と招き入れた。見るからに気持
ちのよさそうな女性たち。
クラチット ご用件は?
寄付を募る女1 (一礼し手に持った名簿を見ながら)スクルージ・マーレイ商会でございましたね?
怪訝に一瞥するスクルージ
寄付を募る女2 失礼ですが、スクルージさんでしょうか?マーレイさんでしょうか?
スクルージ マーレイが死んでから七年になりますよ。ちょうど七年前の今夜亡くなりました。
顔を見合わせる女たち、少し手慣れた感じでうなずく。
寄付を募る女2 マーレイさんのご親切なお気持ちは、後にお残りのスクルージさんにも引き継がれていると思います。
寄付を募る女1 (申込書を出しながら)一年のうちでこの祝いの季節に是非貧困者や身寄りのない者たちの生活を助ける
ためのご寄付をお願いいたします。
スクルージ 監獄はないんですかね?
寄付を募る女1 はい?え、ああ、ありますけど。
スクルージ それから、貧窮院は今でもやっていますか?
寄付を募る女1 やっています、今でも。
9
スクルージ じゃあ、貧窮院も監獄も立派に活用されているんですな?
寄付を募る女2 どちらも盛んに活用しています。
スクルージ おお!あなたのお話では、そんなものが全部駄目になったのかと思いましたよ、それで大安心しました。
寄付を募る女2 それだけでは大多数の人々にクリスマスの喜びを与えることはできないと考えますので、我々数人の有志
の者たちが計り、貧しい人々に肉や飲み物、燃料を贈る資金の募集で大わらわなんですの。で、ご寄付の方はいかほどいた
だけますでしょうか?
スクルージ 私の名前は記帳しなくて結構です。
寄付を募る女1 匿名をご希望でいらっしゃいますか?
スクルージ いや、帰ってください。私は放っておいてくれと言っているのです。私は、クリスマスは祝わない。怠け者が
浮かれ騒ぐためにビタ一文出しはしない。私はすでに監獄や貧窮院のために相当の税金を支払っています。暮らせない奴は
そこへ行けばいいんですよ。
寄付を募る女2 そうはおっしゃいますが、入りたがっているものを全部収容しきれませんし、第一入りたがらない人が多
いのです。そんなところに入るなら死んだ方がましだという人も大勢いるのですよ。
スクルージ 死にたい奴は死ね。そうして余計な人口を減らすんだな。それに失礼だが、どうも私にはあなた達の行動が分
からない。
寄付を募る女1 分かっていただけても良いと思うのですが。
スクルージ 私に関係したことじゃない。それに私は自分の仕事で年中手いっぱいです。はい、さようなら。
寄付を募る女1 まあ、なんて人。
スクルージ そんな人。さようなら。
無駄だと悟って引き上げる女性たち。申し訳なさそうに見送るクラチット。
スクルージ (得意げに)すっきりだ。
10
仕事に戻ると、今度は玄関先に子供たちが現れ、お菓子をねだって歌を歌い始めた。
子供たち ((讃美歌)クリスマス・キャロル)神の恵みは豊かなれ愉快な紳士よ、何の不幸もあなたには来ぬように!
スクルージ この野郎。
スクルージが恐ろしい剣幕で物差しを振り上げて向かってきたので、逃げ出す子供達。そこに軽快にジングルベルを歌う
道行くサンタクロース。目が合う。歌を止め、すごすごとやり過ごそうとするジェンキンス。
スクルージ 待て。貴様、おもちゃ屋だな。
ジェンキンス ・・・すいませんスクルージさん、今日は勘弁してください。
スクルージ 貴様、店に行っても留守だったぞ。
ジェンキンス おもちゃを配達しているんです。かきいれどきなんです、勘弁してください。
スクルージ ジェンキンス、5ポンド99シリングの返済期限は昨日だったはずだがどういうつもりだ。
ジェンキンス すいませんクリスマスが終わったら返済しますので。
スクルージ 延滞金は一日1シリングだ。
ジェンキンス そんな、クリスマスが終わったら返しますから。延滞 Hァ
。
スクルージ 6ポンドだ。それとも今払うか?
ジェンキンス いえ、明日の晩に Hァ
。
スクルージ サインだ。
しぶしぶスクルージの出した手帳にサインするジェンキンス。意気消沈して去っていく。スクルージが店に戻り着座する
と終業(19時)の鐘が鳴る。スクルージは一息ため息をつくと、顎で書記のクラチットに合図した。すると書記はたちま
11
ち、ろうそくを消し、身支度を整え帽子をかぶった。
スクルージ クラチット、明日は一日休みたいのか?
クラチット ご都合が宜しければ。
スクルージ ご都合はよくないよ。(間)まったく、割の悪い話さ、もし私が君の休暇で半クラウンも給与を引こうものな
ら君は酷い目にあったと大騒ぎするだろうからな。きっと。
クラチットは弱弱しく微笑んだ。
スクルージ そのくせ、俺の方じゃ君が仕事もしないのに一日分の給料を払うんだ。君は、俺が酷い目に合っているとは考
えないんだろう。
クラチット 一年にたった一度の事なので。
スクルージ どうせ明日は休まないと気が済まないんだろうよ。ほら、給料だ。その代り、明後日の朝はその分早く出てく
るんだぞ。
クラチット 分かりました。
スクルージ (クラチットの手に金を数えながら渡す。)気前が良すぎるのが俺の欠点だ。
クラチットは一礼すると、あっという間にカムデンタウンの我が家に飛んで帰っていった。
スクルージ 何がクリスマスだ。
3.マーレイの亡霊
12
再び金勘定を始めると、闇から湧き出たように「スクルージ」と声がする。驚いで当たりをみまわすスクルージだが誰も
いない。するとコツコツとノックの音がする。
スクルージ 今日はもう閉店だよ。
スクルージの言葉を無視してまたコツコツコツとノックの音がする。スクルージはドアを覗くが誰もいない。
スクルージ ノッキングダッシュか?腹立たしい。
ん、んん?
Hァ
スクルージが背を向けるとコツコツノックの音がする。すぐさまドアを開ける。
スクルージ この糞ガキ
スクルージはあたりを見回すが誰もいない。同時に部屋の中に死んだマーレイの顔が大きく浮かび上がる。振り返ってマ
ーレイの顔に気付くスクルージ。
スクルージ (間)あーっ!
腰を抜かしへたり込むスクルージ。マーレイの顔が消える。目を擦り、恐る恐る顔が映った場所を確かめるが、誰もいな
い。
スクルージ ばかばかしい!
13
スクルージは椅子に座る。落ち着かない様子。すると壁の呼び鈴が、かすかにカランとなった。そして徐々に高くなり出
し、最後には家中の呼び鈴が一斉に鳴りだした。スクルージの後ろではマーレイの顔が浮かんでいる。
スクルージ なんだ!なにがおこっている?止めろ、止めろ!
ピタッと、鈴の音が消え、マーレイの顔も消える。恐る恐る当たりを見渡すスクルージ。すると、どこからともなく、何
か金物を引きずるような音が聞こえ「スクルージ」という呼び声が聞こえてくる。しばらくすると真っ白い顔をし、体中に
鎖をまかれ、財布やら金庫やら証券やら鍵を引きずりながらジェイコブ・マーレイの幽霊が現れる。
マーレイ スクルージ。
スクルージ ばかばかしい!信じるものか!
マーレイ スクルージ。
スクルージ 信じるか!俺は信じないぞ!信じないぞ!
マーレイはスクルージの前まで来ると、首をゆらしながら無言でスクルージを見つめる。
スクルージ どうしたって言うんだ、私に何の用がるんだ?
マーレイ 大ありだよ。
スクルージ お前は誰だ?
マーレイ 誰だったと聞くんだよ。
スクルージ じゃあ、誰だったんだ?
マーレイ 娑婆にいたときはお前の仲間だったジェイコブ・マーレイ。
スクルージ お前は、お前は、 座
Hァれるかね。
14
マーレイ かけられるよ。
スクルージ じゃあ、座りなさい。
沈黙、マーレイはゆらゆらしている。
スクルージ 何かしゃべれマーレイ。
マーレイ 鎖 Hァ
。
スクルージ 鎖?
マーレイ 鎖が重いんだ。
スクルージ ああ、降ろせばいいだろう。
マーレイ あーっ!(叫びながら、鎖をゆする。轟音。)
スクルージ ひい!なんだ、なんだっていうんだマーレイ、お前は何しに出てきた、お前は七年前に死んでいるんだぞ。
マーレイ この鎖は降ろせない。外れない。この鎖が私を天国へ行かせはしない。
スクルージ それは難儀だな、しかし私には関係ないだろう。
マーレイ あーっ!(叫びながら、鎖をゆする。轟音。)
スクルージ ひい!
マーレイ この鎖は生きているうちに自分で作った私の業。
スクルージ 業?
マーレイ そうだ、金への執着、他者を顧みない冷徹な「私の心」が作りだした地獄の鎖。
スクルージ マーレイ。お前は私をどうしたいんだ?
マーレイ スクルージ、私はお前を助けに来た。
スクルージ 俺を助けに?
マーレイ スクルージ、七年前の時点でもお前は既に今の私と同じくらいの鎖ができている。
15
スクルージ なんだって?(体を摩る)
マーレイ スクルージ、七年前のクリスマスイブからも、お前さんは引き続きせっせと鎖を太くしている。今では途方もな
く大きな鎖だ。
スクルージ 信じない。信じない。信じないぞ俺は。
マーレイ あーっ!(叫びながら、鎖をゆする。轟音。)
スクルージ ああ、ああ、止めてくれ!マーレイ!お願いだ、お願いだから私の慰めになる話しをしておくれ!
マーレイ スクルージ、慰めなんてものは俺たちと違った人間のところに違った使いが持っていくんだ。それにな、私は話
したいと思うことを話すのを禁じられている。私にはもうほんのわずかな時間しか残されていない。スクルージお前は気付
いているはずだ、貧しかった俺たちは金を欲した。しかし、金を稼げば稼ぐほど私たちの周りから人が去って行った。冷酷
にルールを守り、期限を延ばしてほしいと懇願する弱者からも、明日の食い物に困るものからも、私たちは容赦なく利息を
追加し、金を巻き上げた。
スクルージ だが、マーレイ、お前さんは商売上手だったじゃないか。
マーレイ あーっ!(叫びながら、鎖をゆする。轟音。)
スクルージ 止めろ。止めてくれ。頭が割れそうだ。
マーレイ いつからこうなってしまったのか?いつからそうしてしまったのか?慈善、憐れみ、寛大、慈悲、これが本来の
私の商売だったはずだ。いつから他人を軽蔑し蔑み、見下し、無慈悲に生きる糧をむしり取るただの守銭奴になってしまっ
たのか?めぐりゆく一年の中で、今のこの季節に私は一番苦しむのだ。なぜ私は気の毒な人たちを構わずに通り過ぎたのだ
ろう?なぜ救うべき弱者に優しくしてあげられなかったのだろう?なぜ助けられる人を助けなかったのだろう?きっと救
えた命も、ささやかな幸せも、志ひとつで守れただろうに!
スクルージは、幽霊がこの調子でとめどなく話し続けるのを聞いて非常に驚き、がたがた震えだす。
マーレイ スクルージ!私の言うことを聞きなさい!私はもうじき戻らねばならない。
16
スクルージ 聞きます。聞きますから。だから、どうか私をいじめないでくれ。あんまり大げさな言い方をしないでくれ。
マーレイ 私が今夜ここへ来たのは、お前さんには、まだ私のような運命から逃れるチャンスと希望があるということを知
らせるためなのだ。私の力で自由になるチャンスと希望だよ、エブニーザ。
スクルージ お前はいつでも私には親切な友人だった。ありがとう。
マーレイ これからお前さんのところに三人の幽霊が来ることになっている。
スクルージ な、なんだって?三人も幽霊が!
マーレイ そうだ。
スクルージ 私は、私はご免こうむりたい。
マーレイ 三人に来てもらわなければ、お前さんもまた私と同じ道を行かねばならない。明日午前一時、その鐘を合図に、
第一の幽霊が来るものと思ってなさい。
スクルージ まとめて一回で済ませてはもらえないのかい?
マーレイ 第二の幽霊は第二の夜の同じ時刻、そして第三の幽霊はその次の晩の同じ時刻に現れる。私とお前さんとはこれ
が最後だ。
それに伴いあたりには他の亡霊たちの悲鳴やら叫び声が聞こえマーレイは「スクルージ、スクルージ」と口にしながら去
っていく。マーレイが完全に居なくなると悲鳴や叫び声も消える。と思いきやマーレイが戻ってくる。
スクルージ なんで戻って来るんだ。お前さんはもう行かねばならんのだろう。
マーレイ 私のこの鎖どこに繋がっていると思う。
スクルージ どこって Hァ
。
マーレイ ここだよ。死んでからもずっとお前の隣に座っていたんだよエブニーザ。
「エブニーザ」「助けてくれ」「スクルージ」「重い」「苦しい」というマーレイの声がこだまする。
17