2014.12.10 (株)イデアルスター太陽電池勉強会資料 「有機太陽電池の基礎」 山本恵彦 (イデアルスター特別技術顧問、産業技術総合研究所客員研究員、筑波大学名誉教授) 第3章:変換効率向上施策 3-3節 活性層 Morphology の最適化 3-3-2項 溶液プロセス 目次 第Ⅰ編.Morphology 制御の物理的・化学的考察 第Ⅱ編.Bulk-Heterojunction (BHJ) 溶液プロセスの課題 第Ⅰ編.Morphology 制御の物理的・化学的考察 1.はじめに 共役有機分子(高分子)とフラーレンとの BHJ(Bulk Heterojunction)を活性層とする構造 の太陽電池において光電変換効率向上のためには Morphology 制御が不可欠である。 Morphology 制御の目的は以下の通りである。 (1)Exciton 解離のために共役有機分子(高 分子)とフラーレンとの接触面積を最大化する(2)自由電荷生成を最大化するため Phase Separation を Exciton 拡散長(10nm オーダー)以下にする(3)電極への自由電荷(Free Polaron)の高速移動と再結合抑制のために Phase Separation によって通路(Percolation Path)を確保する。 これらの目的に沿って(1)共役有機分子(高分子)とフラーレンとの重量比最適化や(2) Annealing 条件最適化、などが図られている。しかしながら、これら最適化条件は純粋に 経験的であり背後にある物理的・化学的な意味については語られるのが少なかった。更な る高精度の最適化のためには Morphology 制御に関する物理的・化学的な考察が不可欠と思 われる。本資料では共役有機分子(高分子)とフラーレンとの重量比最適化、活性層作成 中の Annealing、即ち Solvent Annealing 最適化、及び活性層構成成分の膜厚方向の分布 Vertical Separation についての情報を提供する。Vertical Separation は逆構造太陽電池の 妥当性を裏付けることになる。 2.共役有機分子(高分子)と Fullerene との重量比最適化 P3HT:PCBM-BHJ では P3HT:PCBM (1:1)近傍が最適重量比とされている。一方、最近注 目されている PCPDBT:PC70BM や PCDTBT:PC70BM では 1:4 近傍の重量比が最適と報告 されている。また MDMO-PPV:PCBM や APFO Green5: PCBM についても 1:4 近傍の重 1 量比が有利とされている。 Meyer らは PCBM が Polymer の側鎖構造に Intercalation されるか否かが最適重量比を決 定 付 け る 要 因 と し て い る [1] 。 図 1 に 示 す よ う に 側 鎖 の 間 隔 が 十 分 あ り PCBM が Intercalation 可能な場合((a), (b), (d)など)と不可能な場合((c) (e))がある。ここで、(a) pTT (poly[terthiophene]), (b) PQT (poly[5,58-bis(3-alkyl-2-thienyl)-2,28-bithiophene], (c) P3HT, (d) MDMO-PPV, (e) BisOC10-PPV である。 X 線回折から Intercalation によって(a)及び(b)の場合に示すように側鎖間隔が大きくなる (図中赤線及び黒線は Intercalation 前後の回折ピークの移動を示す)。このような場合には PCBM と Polymer は Bimolecular Crystal を形成し一体化する(“Too intimate”)ため Exciton 解離は極めて効率の良いものとなる。しかし正負自由電荷(Free Polaron)の通路と なる Polymer 及び PCBM の純粋な相が無くなるため電荷移動度が低下して変換効率が低下 する。一方、P3HT などのように Intercalation が起こらない場合には相分離が効率的に実 現され高い電荷移動度が維持される。 図1 Polymer の側鎖構造への PCBM Intercalation [1] 短絡電流密度最大化のためにはバランスの良い正負自由電荷の電極への到達が必要であり、 このためには Polymer と PCBM の容積が同程度であるのが望ましいと考えられる。表1は このような条件を満足させる PCBM 重量%(3列目)と実験的に得られる最適重量%(4 列目)を示す。両者には良い一致が見られる。P3HT では 50% (1:1)であるが、その他は 70 % - 80%即ち凡そ1:4になることが分かる。 表1 等容積比になる Blend 中の PCBM 重量%と得られた最適重量%の比較 [1] 2 3.Solvent Annealing 最適化 P3HT の Thermal Annealing は変換効率向上のためには不可欠である。ここでは Blend 溶 液の自然乾燥 Annealing による Morphology 制御 (Solvent Annealing と呼ばれる)につい て述べる[2]。 Dichlorobenzene 溶媒に溶かした P3HT:PCBM(1:1)の溶液を室温にて回転速度 1000 rpm で 20 – 80 秒間 Spin Coating して作成した7個の試料について光吸収スペクトルを計測 した結果を図2に示す。なお、この間(20~ 80 秒)における膜厚変化は極めて小さいこ とが確かめられている。この図において t s (s ) は Spin Coating に要した時間(秒)を表わ す。一方、 t a (s) は Annealing 時間(秒)であり Spin Coating 後にはオレンジ色の液体で あったものが黒紫色の固体になるまでの時間を示す。t s (s ) が 20 ~50 秒のスペクトルに大 きな差は無いがそれ以上になり Annealing 時間が短くなると急速にスペクトル強度が減少 し Blue Shift する。また長波長の微細構造も消滅する。Spin Coating 中での溶液の乾燥速 度は極めて速く t s (s ) 55 秒でほとんど固化する。即ち、スペクトルが Red Shift し微細構造 を形成するためには少なくとも 60 秒の Annealing 時間が必要であることを示す。この Annealing 時間中に Polymer の結晶化や規則化(長尺化)、そして相分離が行われると考え られる。 図2 Spin Coating 時間と光吸収スペクトルの関係 [2] ITO/PEDOT-PSS/P3HT:PCBM/Ca/Al の構成において標準模擬太陽光照射の下での計測 (AM1.5, 100mW / cm )による太陽電池電流・電圧特性(a)及び短絡電流、開放電圧、Fill 2 Factor (FF)、変換効率(b)を図3に示す。 t s (s ) 50 秒を境にして特性が大幅に変化すること が分かる。即ち、短絡電流は激減し同時に変換効率も減少する。一方、開放電圧は増加す るが FF には大きな変化はない。短絡電流の減少は吸収スペクトルからも明らかなように Photon Harvesting の減少によるものである。Annealing 時間が短くなると P3HT の結晶 化や規則化(長尺化)が進展せず Band Gap が減少しないため開放電圧が相対的に大きく 3 なる。 図3 Spin Coating 時間と太陽電池特性の関係 [2] 短絡電流の変化を裏付けるのが図4の Spin Coating 時間と外部量子効率の関係である。 t s (s) 50 秒を境にして外部量子効率(特に長波長)が激減することが分かる。 図4 Spin Coating 時間と外部量子効率の関係 [2] 4.Vertical Separation と逆構造(Inverted Structure)太陽電池 4 前掲の Solvent Annealing には UCLA の Y.Yang らのグループが中心になって取り組んで いる。 このグループは Solvent Annealing や Thermal Annealing における相分離は Lateral 方向のみならず Vertical 方向(膜厚方向)にも3次元的に進展することを明らかにした[3]。 図5は Dichlorobenzene 溶媒に P3HT:PCBM(1:1)の Blend を溶解した 2 wt%溶液を Spin Coating により Fast-Grown(3000 rpm, 60 s), Slow-Grown (800 rpm, 40 s with solvent annealing), Fast-Grown with annealing (Thermal Annealing at 110oC for 10 min.), Slow-Grown with thermal annealing (Thermal Annealing at 110oC for 10 min.)を行った 後の Top(真空側)と Bottom(基板側)の PCBM/P3HT 比(XPS 強度比)を示している。 なお、FPCBM は PCBM の Phenyl Ring に F を付加したものであり XPS 強度変化の S や O による誤差を小さくする目的で導入されている。また、基板にはガラス(a)と CsCO3(b) を用いている。特徴としては(1)PCBM/P3HT 比は基板側(Bottom)の方が大きい(2) Slow-Grown の方の比が大きくなる(3)ガラス基板よりも CsCO3 基板の方が Top(真空 側)と Bottom(基板側)の差が大きい(4)Thermal Annealing の効果は基板によって異な る。即ち、CsCO3 基板では Annealing によって PCBM/P3HT 比は増大するが、ガラス基板 ではほとんど変化しないか僅かに減少する。 図5 Top(真空側)と Bottom(基板側)の PCBM/P3HT 比 [3] ((a)ガラス基板、(b) CsCO3 基板) ガラスに塗布された P3HT:PCBM の Fast Grown 試料表面から PCBM を除去したものを AFM 観察した結果を図6に示す。左が Topography であり右が Phase Contrast である。 上段が Top 下段が Bottom である、Top に比べて Bottom では P3HT Network が粗い、即 5 ち密度が低いことが分かる。この理由として考えられるのが(1)表面エネルギーの違い により低表面エネルギーの P3HT が凝集しやすいために真空との界面に集まる(2)下地 との相互作用の強弱(PCBM と Cs との相互作用が強い)による。 図6 Top(上段)と Bottom(下段)での P3HT の Network 構造の差異 [3] (左:Topography 右:Phase Contrast) 以上の考察から図7に示す Blend の断面構造が想像される。PCBM Rich 層が Hole Blocking 層として働くため太陽電池構造は図8に示す逆構造が適していると考えられる。 図7 P3HT:PCBM BHJ の Vertical Phase Separation [3] 図8 標準構造と逆構造の太陽電池 [3] 6 図8に示す両構造の太陽電池を作成し標準模擬太陽光照射の下(AM1.5, 100mW / cm )で 2 計測した電流電圧特性を図9に、対応する外部量子効率を図 10 に示す。明らかに Cs3CO3 を基板とする逆構造の特性が優れていることが分かる。図9において Annealing 試料の特 性が良いのは Annealing が界面での電気抵抗を低減するのが理由と思われる。図 10 におけ る逆構造太陽電池の短波長での良好な外部量子効率は受光面近傍の高い PCBM 密度に由来 する。 図9 標準及び逆構造太陽電池の電流電圧特性 [3] 図 10 標準及び逆構造太陽電池の外部量子効率 [3] 5.Energy Level Alignment に関する考察 P3HT:PCBM-BHJ が表面エネルギーや下地との相互作用の強さの差異によって Vertical Separation しているのは既に述べたとおりである。これを Energy Level Alignment の観 点からも証明することが出来る。有機材料と導電性基板との界面における Energy Level Alignment を良く説明するのが Integer Charge Transfer (ICT) Model であり、内容につい ては既に議論した[4]。このモデルの妥当性を示すのが図 11 の基板の仕事関数と堆積した P3HT 及び PCBM の仕事関数の関係[5]である。P3HT 及び PCBM の仕事関数は様々な仕 事関数を有する基板上の仕事関数に依存する。依存性は堆積する薄膜が p 型か n 型かによ 7 り異なるが、正負の Polaron Energy(この図で Charge Transfer State(CT)は負の Polaron Energy に相当する)に一致する基板の仕事関数にて依存性が顕著に変化することが ICT モ デルの妥当性を示すものである。 図 11 基板の仕事関数と堆積した P3HT 及び PCBM の仕事関数の関係[5] 図 12 は仕事関数 5.0 eV の PEDOT-PSS 基板上の(a)P3HT 及び(b) PCBM 単層膜と (c)PCBM/P3HT Planar (Bilayer) HJ に お け る ICT Model に 基 づ く Energy Level Alignment を示す。下段は P3HT、PCBM 及び重量比の異なる PCBM:P3HT-BHJ の UPS スペクトルを示す [5]。 P3HT と基板との界面では基板の Fermi Energy と P3HT の正の Polaron レベル E P +が一 致して Fermi Level Pinning 状態となる。一方、PCBM との界面では Vacuum Level Alignment が成立する。PEDOT-PSS/PCBM/P3HT では PCBM と P3HT 界面で P+と CTが Alignment する。 界面での真空レベルオフセットは下段(左)に示すように P3HT と PCBM では 1.1 V の差 がある。また重量比 P3HT:PCBM = 5:1 及び 3:1 の BHJ は P3HT と変わらない真空レベル オフセットを示す。下段(右)によれば結合エネルギー(HOMO レベル)は重量比と共に 小さく(Shallow)になる(実効的仕事関数は増大)が、P3HT:の電子状態が支配的である。即ち BHJ 膜の表面は P3HT Rich であると考えられる。Energy Level Alignment に関しては重 量比 1:5 の BHJ 膜が真空レベルオフセット的には P3HT/PCBM–Bilayer HJ (Heterojunction)に相当する。図 13 は仕事関数の小さい Cs2CO3 基板での(a)P3HT、(b) PCBM、 (c)PCBM/P3HT の Energy Level Alignment を示す。Cs2CO3/P3HT 界面では Vacuum Level Alignment が成立するが、Cs2CO3/PCBM 界面では Fermi Level Pinning となる。図 12 の場合と同様に BHJ 膜の表面は P3HT Rich となる。このように Annealing によって Morphology が最適化された BHJ における Energy Level Alignment は Planar HJ 同様に 基板の仕事関数の影響を受けることになる。 8 図 12 PEDOT-PSS 基板での(a)P3HT、(b) PCBM、(c)PCBM/P3HT Planar HJ の Energy Level Alignment、下段は P3HT、PCBM 及び重量比の異なる PCBM:P3HT-BHJ の UPS スペクトル [5] 図 13 Cs2CO3 基板での(a)P3HT、(b) PCBM、(c)PCBM/P3HT Planar HJ の Energy Level Alignment、下段は P3HT、PCBM 及び重量比の異なる PCBM:P3HT BHJ の UPS スペク トル [5] 9 6.まとめ BHJ 太陽電池において Morphology 制御は高変換効率実現のために極めて重要なファクタ ーである。現在主流の BHJ 太陽電池の構成は Donor(D)となる共役高分子と Acceptor(A) となるフラーレン誘導体との BHJ である。Morphology 制御において最初の課題は D,A の 重量比の最適化である。従来から経験的に行われてきた最適化には根拠があることが明ら かになった。即ち、フラーレン誘導体の共役高分子側鎖への Intercalation が鍵を握ってい ることである。 Morphology 制御の次の一手は Annealing である。これには Thermal Annealing と最近特 に注目されている Solvent Annealing がある。Annealing によって共役高分子とフラーレ ン誘導体の Blend はミクロもしくはナノのレベルで相分離され最大の短絡電流を確保する ための最適な構造を実現する。相分離は Horizontal 方向(膜面内)のみならず Vertical 方 向(膜厚方向)にも行われていることが明らかになった。即ち3次元の相分離である。 従来から Planar HJ(2層膜の Heterojunction)と BHJ は全く別物として考えられていた が、最近の UPS を用いた研究によって3次元相分離した BHJ は Planar HJ と類似な電子 構造を示すことが明らかになった。 有機太陽電池の開放電圧を決定するのは主として HOMO(D)-LUMO(A) Gap である。この 算出には従来から Donor-Acceptor 間での Vacuum Level Alignment が暗黙の内に仮定され ていた。最近の研究によれば電極を含めた Planar HJ での Energy Level Alignment では この仮定が正しくないことが判明した。また、最適化された BHJ においても同様であるこ とが分かってきた。 BHJ 太陽電池における Morphology 制御は Exciton 解離や Free Polaron の電極への移動な どを容易にして短絡電流を増大させるのみならず、Energy Level Alignment も制御して開 放電圧に影響を与えることが明白になった。 これら新事実は高変換効率の BHJ 有機太陽電池開発に新たな指針を与えるものと思われる。 参考文献 [1] Bimolecular Crystal of Fullerene in Conjugated Polymers and the Implication of Molecular Mixing for Solar Cells: A.C.Meyer et al., Adv.Func.Mater. 19 (2009) 1173. [2] “Solvent Annealig” Effect in Polymer Solar Cells Based on Poly(3-hexylthiophene) and Methanofullerenes: G.Li et al., Adv.Func.Mater. 17 (2007) 1636. [3] Vertical Phase Separation in Poly(3-hexylthiophene):Fullerene Derivative Blends and its Advantage for Inverted Structure Solar Cells.: Z.Xu et al., Adv.Func.Mater. 19 (2009) 1227. [4] 電極及び積層薄膜間の Energy Level Alignment: 第2章 第2節 第3項. Integer Charge Transfer (ICT) Model と Polaron Level. [5] Energy level alignment of poly(3-hexylthiophene): [6.6]-phenyl C61 butyric acid 10 methyl ester bulk heterojunction: Z.Xu et al., Appl.Phys.Lett. 95 (2009) 013301. 第Ⅱ編.Bulk-Heterojunction (BHJ) 溶液プロセスの課題 1. はじめに 有機太陽電池の作成には主として溶液プロセスが用いられる。活性層である Bulk Heterojunction (BHJ) Morphology の最適化には活性層溶液 Solvent の選択、Thermal Annealing や Solvent Annealing の適正化、Solvent Additives 選択等が考えられる。Polymer:PCBM BHJ においては Solvent の重要な役割は BHJ 中の PCBM の拡散を容易にして Polymer との相分離を可能にすることである。第2章では Solvent の選択や Thermal Annealing [1][2][3][4][5]、Solvent Annealing [第Ⅰ編で報告済み]、Solvent Additives [6][7][8]等によ る活性層 Morphology 最適化及び熱処理不要を目指す Solvent Additives への新たな取り組 みについて述べる。素子内に残存する Solvent は BHJ Morphology 制御にバラツキを生み 出し太陽電池初期特性の不安定性要因となる。第3章では残存 Solvent の影響について述べ る。 2. 活性層の最適 Morphology 形成 図1 P3HT:PCBM (1:1 wt%)BHJ の光吸収特性の溶液濃度依存性 [2] 活性層の Morphology 最適化には様々な方法が報告されている。図1は溶液濃度と光吸収特 性との関係を示す一例である[2]。ここで対象としている試料は P3HT:PCBM (1:1 wt%) BHJ であり、o-xylene 溶媒を用いて基板(ITO/PEDOT-PSS)に Spin Coating されている。 (a)は 0.003 wt%の希薄溶液を、(b)は 1.0 wt% 溶液を室温にて2時間放置後に Spin Coating したもの、(c)は(b)に 150oC/10 min の Thermal Annealing を施した試料に関する結果であ る。BHJ 内の種々の共役結合に由来する複数の吸収バンドが観察される。300nm 付近の吸 収は PCBM 由来である。希薄溶液の場合(a)では Polymer が孤立分子として存在するに過 ぎないため吸収バンドの数は少なく吸収は主に短波長側にある。一方、濃厚溶液(b)では P3HT の凝集に伴う長距離の整列(Ordering)が可能になるため小さい Band Gap に由来す る吸収バンド成分が出現すると共にスペクトルの大幅な Red Shift も観測される。また長波 長領域には P3HT 規則化・結晶化によると思われる微細構造も観察される。溶液処理によ る凝集化や規則化による Red Shift や微細構造出現は熱処理によって更に顕著となる(c)。 11 2-1 Solvent の選択と Thermal Annealing Dang らは沸点の異なる6種類の Solvent を用い、同一仕様で作成した P3HT:PCBM BHJ の光吸収特性、表面 Morphology 及び太陽電池の諸特性を評価した[3]。太陽電池の構成は ITO/PEDOT-PSS/P3HT:PCBM/Al である。Solvent は図2に示すように沸点の順に並べる と Chloroform (CF), Toluene (T), Chlorobenzene (CB), Ortho-dichloro-benzene (ODCB), Tetrahydronaphthalene (THN), Trichlorobenzene (TCB) の6種類である。 図2評価した Solvent の沸点[3] 図3熱処理前後の UV-vis 領域での光吸収特性 [3] これら Solvent を用いて Spin-Coating で作成した膜厚(75nm+/-5nm)の活性層(P3HT: PCBM(1:1))熱処理前後の UV-vis 領域での光吸収特性を図3に示す。図中、Tamb は熱処理 前、T175 は(175oC/5min)熱処理後の結果である。沸点の高い Solvent を用いた場合では光 吸収特性は既に Red Shift しており熱処理の効果が少ないことが分かる。これは沸点の高い Solvent が活性層の中に長時間残存するため相分離が起こりやすいためである。一方、沸点 の低い Solvent の場合では不十分な相分離が熱処理によって加速される。 図4CB (a,c),THN (b,d)活性層表面の T175 前後の AFM (Phase Image)像 [3] 12 図4は低沸点の CB(a)と高沸点の THN(c)を用いて作成した活性層表面の AFM (Phase Image)像を示す。熱処理後の像をそれぞれ(b)及び(d)に示す。これらの像からも高沸点の THN では熱処理による変化が少ないことが分かる。 (a) Solvent 種と電流電圧特性 太陽電池構成 ITO/PEDPT-PSS/P3HT:PCBM(1:1)/Al にて計測した太陽電池の電流電圧特 性を図5に示す。a は熱処理前、b は T175 熱処理後の結果である。熱処理前では高沸点 Solvent 使用の特性が優れているが、熱処理によって特性が均一化される。ここでも低沸点 Solvent を用いた場合には熱処理が有効であることが分かる。 図5太陽電池の電流電圧特性 [3] 図6太陽電池特性の詳細[3] 太陽電池特性の詳細を図6に示す。熱処理前(□)では沸点の高い Solvent 使用の太陽電池 13 特性が優れている。なお開放電圧については CB 使用が最も大きくなるが、これは漏洩電流 が小さいのが原因と思われる。一方、沸点の高い Solvent 使用では活性層の表面粗さが大き く、残存する Solvent 由来の欠陥のため漏洩電流が増大する。熱処理によって太陽電池特性 は Solvent に依存せずほぼ同程度となる(■)。また CF 使用の特性が他に比べてやや劣る ことが図から分かる。 (b) P3HT:PCBM BHJ の Morphology 制御に関する考察 図7に Thermal Annealing や後述の Solvent Annealing 等によって誘起される P3HT: PCBM BHJ の Morphology 変化を模式的に示す[4]。この図は熱処理効果について描かれて いるが溶媒種選択や Solvent Annealing による Morphology 変化にも同じ議論が適用できる と考えられる。熱処理前の活性層構造は図7の上図にあるように無秩序無定形であり、線 状の P3HT 分子と点状の PCBM 分子が不規則に分散され、PCBM 分子の一部は凝集して いる。加熱を行うと下図に示すように P3HT と PCBM が相分離して P3HT は凝集して結 晶化する。この際主鎖は基板に平行に、側鎖は垂直に配向することが X 線回折から明らか になっている[7]。一方、PCBM は凝集して更に大きなクラスターを形成する。 図7Annealing による P3HT:PCBM-BHJ の Morphology 変化想像図 [4] これらの様子は ODCB を Solvent として Spin Coating した P3HT:PCBM (1:1) BHJ の透 過電子顕微鏡観察(及び模式図)図8及び図9からも確認できる[5]。 図8 P3HT:PCBM(1:1) BHJ の熱処理前の Morphology (b:拡大像、c:模式図) [5] 14 図9 P3HT:PCBM(1:1) BHJ の熱処理 120C /60min.の Morphology [5] 熱処理によって P3HT:PCBM BHJ の相分離を最適化することにより Photon-Harvesting 効率や P3HT と PCBM 内部をそれぞれ移動する正負電荷担体の移動度が向上すると共に再 結合率が低減する。これらの結果太陽電池特性が向上する。 2-2 Solvent Additives Solvent Additives には Alkandithiol、Diiodoalkane、1-dichloro-naphthene (CN)、1,8diiodooctane (DIO), Nitrobenzene (NB)等があり対象とする BHJ 活性層材料に応じて適 宜選択される。 本節では Small Band-Gap Co-Polymer である PCPDTBT:PC70BM [6][7] (a) や PBTTPD:PC70BM BHJ [8] (b)、更には P3HT:PCBM BHJ [9] (c)の Morphology 制御に ついて述べる。 (a) PCPDTBT: PC70BM BHJ の相分離 この系では PCPDTBT の側鎖に Intercalation する PC70BM が”Too Intimate Contact”であ る。この際 Geminate Pair の基底状態への遷移確率が大きく自由電荷への解離が大幅に妨 げられるため[8]、Intimate Contact を緩和し相分離を促進させる添加剤が必要となる。 図 13 添加剤による PCPDTBT と PC70BM 相分離の仕組み [7] 図 13 は添加剤による PCPDTBT と PC70BM 相分離の仕組みを模式化したものである[7]。 Intercalation している PCBM に添加剤(Additive)分子が選択的に結合することにより相分 離が可能になる。一方、以下に述べるように添加剤を必要としない PCPDTBT:PC60BM 15 (1:3)BHJ Morphology 改善方法も報告されている[10]。Poly[2,6-(4,4-bis-(2-ethylhexyl) dithieno[3,2-b:2’,3’-d]silole)-2.6-diyl-alt-(4,7-bis(2-thyenil)-2,1,3-benzothiadiazole)-5,5’ diyl] (略して PSBTBT) は図 14 に化学構造を示すように PCPDT-BT 主鎖の Corner 炭素原 子(X 印の部分)を珪素原子に置き換えた Polysilole と呼ばれる Copolymer である[10]。 図 14 PSBTBT の化学構造 [10] 図 15 PSBTBT (b)と PCPDT-BT (a)の幾何学構造比較 [10] PSBTBTBT では炭素―珪素間の結合が炭素―炭素間結合より長くなり Flexible になるた め図 15 (b)に示すように PCPDTBT(図 15(a))とは少し異なる幾何構造となる。この結果、 主鎖間分離と積層が容易になり、図 16 に示すように結晶性が向上すると共に化学構造安定 性も向上する。 図 16 PSBTBT と PCPDT-BT の結晶構造比較 [10] (b) PBTTPD:[70]PCBM BHJ の相分離 PBTTPD: Poly{bi(dodecyl)thiophene-thieno[3,4-c]pyrrole-4,dione}と PC70BM との Bulk Heterojunction (1:1.5 w/w)において Solvent Additive 0.5 vol%添加によって大幅な変換効 率の向上(5%→7.5%)が報告されている[8]。ここでは CF(Chloroform)溶液(15mg/ml)に加え 16 られた添加剤が PBTTPD の結晶性を改善し、PC70BM の凝集粗大化を阻止する働きを担っ ている。図 17 は PBTTPD, PC70BM 及び評価した3種の添加剤(DIB, DIH,DIO)の化学構 造を示す。なお、DIB, DIH, DIO はそれぞれ 1,4-diiodobutane, 1,6-diiodohexane, 1,8-diiodeoctane の略称である。 図 17 PBTTPD, PC70BM 及び添加剤(DIB, DIH,DIO)の化学構造 [8] 図 18 は Solvent Additive の効果を示す ITO/PEDOT-PSS/BHJ 構成での光吸収特性である。 同図には PBTTPD 及び PC70BM 単独の特性も示されている。PBTTPD 単独に比べ BHJ の吸収スペクトルはやや Blue Shift しているが、これは短波長の PC70BM スペクトルの影 響によると思われる。添加剤はスペクトルを Red Shift させ長波長での微細構造を明確にす る効果がある。最も効果が大きいのは DIH 添加である。 図 18 PBTTPD: PC70BM BHJ の光吸収特性 [8] 太陽電池特性 図 19 は太陽電池構成 ITO/PEDOT-PSS/ PBTTPD: PC70BM /Al にて模擬標準太陽光下で得 られた太陽電池の電流電圧特性である。ここでも光吸収特性を反映して DIH 添加が最も高 い短絡電流密度、FF 及び変換効率を示す。この高い短絡電流密度は図 20 に示す外部量子 効率を反映している。図 20 中のカッコ内の電流密度は外部量子効率と太陽光スペクトルと をカップリングさせて計算したものであり図 19 の結果を再現している。 17 図 19 PBTTPD:PC70BM BHJ 太陽電池の電流電圧特性 [8] 図 20 PBTTPD:PC70BM BHJ 太陽電池の外部量子効率 [8] Morphology 図 21 は Cu Mesh 上での PBTTPD:PC70BM BHJ の Morphology を示す TEM 像である。 写真のコントラストは電子散乱密度を反映しており、密度の低い( 1.1g / cm )Polymer が明 3 るく、密度の高い( 1.5 g / cm )PCBM が暗く画像化される。添加剤無しの場合には PCBM 3 凝集径(~150nm)が大きいが DIH 添加によって凝集径(~30nm)が小さく抑制される様子が 分かる。 図 21 TEM Cu Mesh/PBTTPD:PC70BM BHJ の TEM 像 [8] PCBM 粒径や PBTTPD の結晶性は In-Plane, Out-of-Plane 共に低角入射 X 線回折で評価 18 される。得られた結果のみを表1に示す。ここでは凝集寸法[第1列], Out-of-Plane 回折 から得られる Edge on Lamellae の相対的な結晶成分%[第2列]及びサイズ[第3列]や In-Plane 回折から得られる Face on Lamellae に関する情報[第4、5列]が報告されてい る。 表1 PCBM 粒径や PBTTPD の結晶性 [8] 図 22 は以上述べた考察から想像される BHJ の3次元 Morphology である。図 23 は図の記 号説明である。 DIH 添加により凝集が阻止され PCBM 凝集径は小さくなると共に PBTTPD の結晶性が向上する。相乗効果として短絡電流密度が向上し変換効率が押し上げられる。 図 22 BHJ の3次元 Morphology 模式図 [8] 図 23 記号(図 22 内)の説明 [8] (c) P3HT: PC60BM BHJ の相分離 ODCB 溶媒に 0.7 vol%の添加剤(Alkanediol)を加えた P3HT:PCBM BHJ 溶液を用いること により Blend 塗布後の Thermal Annealing なし(60min.真空乾燥のみ)で大幅な太陽電池特 性改善が可能になる[9]。図 24 は P3HT, PCBM, 及び Alkanediol の化学構造を示す。表2 に示すように Alkanediol (n-DO)は ODCB に比べ高沸点であり PCBM を選択的に溶媒に閉 じ込める働きがあると考えられる。 19 図 24 P3HT, PCBM, Alkanediol (n-DO)の化学構造 [9] 表2 Alkanediol の沸点 [9] 太陽電池特性 ITO/PEDOT-PSS(40nm)/P3HT:PCBM(1:0.6)(130nm)/BaF2/Ba/Al 構成の面積 4mm2 の封 止された太陽電池における電流電圧特性(a)と外部量子効率(b)を図 25 に示す。両者共に 3-DO(1,3-propanediol)添加の特性(変換効率 5.3%)が最も優れており(Reference)添加剤 無しの場合の特性(3.5%)を 52%も上回ることが分かる。 図 25 電流電圧特性(a)と外部量子効率(b) [9] 表3の太陽電池特性の詳細から分かるように低い直列抵抗と高い外部量子効率による高い 短絡電流密度が 3-DO 添加試料の変換効率を向上させている。ホール移動度の1桁以上の向 上 (3.80 x 10-2cm2/Vs (Ref.) →7.53 x 10-1cm2/Vs)も変換効率に貢献している[9]。表3には 外部量子効率から計算される短絡電流密度も示されており実験値を再現している。 20 表3 太陽電池特性の詳細 [9] 光吸収特性 図 26 は PEDOT-PSS に塗布された P3HT 及び P3HT:PCBM (1:0.6)(130nm)の光吸収特性 を示す。3-DO 等の良好な光吸収特性が外部量子効率を押し上げていることが分かる。 図 26 P3HT:n-DO(a)と P3HT:PCBM:n-DO(b)の光吸収特性 [9] Morphology 図 27 P3HT:PCBM BHJ の X 線回折強度 [9] 21 P3HT:PCBM BHJ の X 線回折強度を図 27 に示す。2θ=4.9O のピークは P3HT(100)に対 応している。P3HT 結晶寸法 L は下記の Scherrer’s Equation に基づいて計算され表4に示 されている。 L K / B cos ここで K = Scherrer’s Constant (0.9), B = FWHM of the (100) Peak, λ=0.154 nm(X 線の 波長)である。図 27 と表4から 3-DO 添加の場合の結晶寸法が大きく最も結晶性が高くなる ことが分かる。 表4 P3HT の結晶寸法 [9] 表面エネルギー 表5は Contact Angle Meter で計測された P3HT と PCBM の表面エネルギーを示す。 3-DO 添加の場合には P3HT と PCBM との表面エネルギー差が小さいため均一でよく混合された Blend が期待される。 表5P3HT と PCBM の表面エネルギー [9] 3. Trace Solvent が BHJ Morphology に及ぼす影響 3-1 PCBM 拡散の光学顕微鏡観察 CB 及び ODCB 溶媒を用いた P3HT:PCBM BHJ 内部での PCBM の拡散を光学顕微鏡によ って観察した結果を図 28 に示す[11]。ここで用いた試料構成は Glass/ITO(140nm)/ P3HT: PCBM(200nm)であり、N2 充填 Glove Box 中にて Thermal Annealing @ 150oC を行った ものである。写真中に見られる黒い部分が PCBM であり、熱処理時間と共に黒点が増加す るとともに凝集が進展する。 これは特に沸点の高い ODCB 溶媒を用いた場合に顕著である。 また、黒点周辺部分では PCBM の密度が逆に局所的に低下していることも分かる。 22 図 28 熱処理に伴う Morphology 変化の光学顕微鏡観察 [11] ODCB 溶媒を用いた P3HT:PCBM BHJ の異なる環境の下での PCBM 拡散の光学顕微鏡観 察結果を図 29 に示す。(c)は溶媒の飽和蒸気圧の下で 150oC/30min の熱処理を行ったもの であり、(d)は Glove Box 中の充填 N2 を強制循環させた結果である。 Annealing 中の PCBM の拡散や凝集が外部環境に大きく依存することが分かる。 図 29 異なる環境下での ODCB 溶媒を用いた P3HT:PCBM BHJ 内部での PCBM の拡散[11] 3-2 GCMS (Gas Chromatography Mass Spectroscopy)計測 図 30 は光学顕微鏡観察の結果を裏付ける GCMS (Gas Chromatography Mass Spectroscopy)計測の結果である。(a) は Glove Box 中、 (b)は空気を強制循環させた状態(図 29(d)) での熱処理に伴う Trace Solvent 残存量を示す。Glove Box 中での熱処理(150OC)(図 29(b)) 23 では溶媒が残存することが分かる。 図 30 GCMS 計測: (a) Glove Box. (b) Forced Air Flow [11] 異なる環境下での溶媒の残存プロセスを図にしたのが図 31 である。溶媒が残存する N2 充 填 Glove Box 中では熱処理で一旦は除去された溶媒が常温になると膜中に再度戻ってくる 様子が分かる。 図 31 異なる環境下での溶媒残存プロセスモデル図 [11] 3-3 LBIC (Laser Beam Induced Current)計測 図 32 熱処理 150oC/2h 後の光学顕微像(Ca 除去後)と LBIC 像 [11] 24 PCBM の凝集が光電変換に及ぼす影響を明らかにするために LBIC (Laser Beam Induced Current)計測を行った。照射する小口径の光は波長 405nm Diode Laser であり、表面を走 査して得られる光電流分布を画像化する。試料構成は ITO/P3HT:PCBM(150nm)/Ca であ り、ODCB 溶媒にて作成した活性層を用い、素子には熱処理 150oC/2h を行った。図 32(a) は Ca 電極除去後の表面の光学顕微像、(b)は Ca 電極付きで計測した LBIC 像である。 PCBM が凝集した領域での LBIC が減衰していることが分かる。 4. まとめ 活性層構成分子の相分離を促し BHJ Morphology 最適化のためには活性層の溶液 Solvent 選択、Thermal Annealing や Solvent Annealing の適正化、Solvent Additives 選択などが 必要となる。Solvent の重要な役割は BHJ 中の PCBM の拡散を可能にして活性層内での相 分離を容易にすることである。大規模パネルでは BHJ Morphology 最適化には Solvent Annealing が有効であるが完全に Thermal Annealing Free にするには Solvent Additive の活用が不可欠となる。素子内の残存 Solvent は最適範囲を越える PCBM 拡散を引き起こ し太陽電池の初期特性にバラツキを与え製造プロセスを不安定化させるのみならず寿命 (信頼性)にも悪影響を与える。大規模パネルでは熱処理による Trace Solvent の完全除去 は困難であり Solvent を残留させない活性層製造プロセス(例えば真空乾燥処理)が必要と なる。 代替方法として添加剤による PCBM 拡散の抑制方法に関する一例を付録に記載する。 付録:添加剤による PCBM 拡散の抑制 CB 溶媒の添加剤として 4%NB, 4%DIO, 4%CN を用い N2 Glove Box において 150oC/ 30min の熱処理を行い PCBM 凝集の比較を行った。付図1に示すように 4%NB を添加し た CB 溶剤を用いた場合(b)が最も PCBM 凝集が少ないことが分かる。PCBM の相分離速 度は 4%CN/CB > 4%DIO/CB > CB > 4%NB/CB となる。NB は P3HT と PCBM 両者に対 して Poor Solvent であり P3HT が凝集して規則性の高い構造を形成する。この P3HT 凝 集構造が PCBM の拡散を抑制すると考えられる。 付図1150oC/30min の熱処理の PCBM 凝集比較(添加剤効果)[11] 25 P3HT の結晶性評価 P3HT の結晶性を評価するために UV-vis.での光吸収特性における Vibronic Peak @ 610nm に注目する。このピークは Inter chain-delocalization excitation の指標となる。付図2(a) は無添加 CB 溶媒での光吸収特性に及ぼす Annealing 温度(30min)の影響を、(b)は 4%NB/ CB 溶媒での特性を示す。熱処理温度低減と共に Vibronic Peak @ 610nm が増大すること が分かる。(c)は規格化された Vibronic Peak @ 610nm 強度の Annealing 温度(30min)依存 性を示す。この図から CB 溶媒では 50oC 以下で、 4%NB/CB 溶媒では 70oC 以下でそれぞ れ P3HT の Ordering が構築されることが分かる。 付図2 光吸収特性に及ぼす Annealing 温度(30min)の影響 [11] 化学構造変化計測 付図3に示す Heat Flow 計測(示差走査熱量計:Differential Scanning Calorimeter (DSC)) [12]によって吸熱・発熱反応の開始温度から活性層の化学構造変化を推定することができる。 図中に矢印で示したように CB 溶媒では 50oC 近傍、4%NB/CB 溶媒では 150oC 近傍での吸 熱反応から P3HT Side Chain Melting が起きていることが分かる。同様に、P3HT 主鎖の Melting が溶媒に係わらず 208oC で起きる。一方、PCBM Melting は両者異なる温度で起 きる。 付図3 Heat Flow 計測 [11] 26 太陽電池特性 溶媒添加有無による太陽電池特性の比較について付図4に示す。試料構成は ITO/PEDOTPSS/P3HT:PCBM/Ca/Ag である。ここでは CB と 4%NB/CB 溶媒の場合が比較されてい る。光照射条件は AM1.5, 1.5 SUN であり 150oC での熱処理時間依存性が示されている。 CB 溶媒使用は 4%NB/CB 溶媒の場合と比較して熱処理時間と共に FF と短絡電流密度の減 衰が大きいため変換効率の低下が大きくなる。これは PCBM の凝集率が大きいことによる と考えられる。 付図4 NB 添加・未添加溶媒 CB を用いた太陽電池特性比較 [11] 参考文献 [1] 活性層 Morphology の最適化:第3章 第3節 第1項 総論。 [2] The role of conformational transitions on the performance of poly(3-hexylthiophne)/ Fullerene solar cells: W.Y.Huang et al., Solar Eneg. 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