LDL-C管理がうまくいかない患者さんや、 早発性の冠動脈疾患(CAD)患者さんは、 家族性高コレステロール血症(FH) かもしれません FH 診断マニュアル 監修 国立循環器病研究センター研究所 病態代謝部・部長 斯波 真理子 先生 家族性高コレステロール血症(FH) ステートメント 1 家族性高コレステロール血症は、頻度の高い常染色体優性遺伝性疾患で あり、冠動脈疾患のリスクが高く、早期診断、厳格な治療が推奨される。 [推奨レベルⅠ、エビデンスB] 2 ヘテロ接合体の治療は、スタチンを中心とした厳格な脂質管理を行うこと が推奨される。 [推奨レベルⅠ、エビデンスB] 3 ホモ接合体および薬物療法抵抗性の重症ヘテロ接合体に対して、LDL アフェレシス治療を施行することが推奨される。 [推奨レベルⅠ、エビデンスB] 日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 2017年3月作成 FHの病態と臨床像 エグゼクティブサマリ 家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia : FH)は、単独で極めて冠動脈疾患(CAD) 発症リスクの高い病態であり、早期診断および厳格な治療が推奨されています。 日本全体で約30万人の患者がいると推定されており、実地診療において遭遇する頻度の最も高い遺伝性疾患の 1つです。 FHの3主徴1) ❶ 高LDL-コレステロール (LDL-C) 血症 ヘテロ接合体: LDL-C 150 ~ 420 mg/dL ホモ接合体: LDL-C 500 ~ 900 mg/dL ❷ 早発性冠動脈疾患 未治療の男性で30 ~ 50歳、女性で50 ~ 70歳の間に心筋梗塞、 狭心症などのCADの発症が多い2) 。 ❸ 腱・皮膚黄色腫 手背、膝、肘、眼瞼、手首などに、コレステロール沈着による黄色っぽい隆起した斑点、あるいはアキレス腱の肥厚が 認められる。 FHの疫学1) ●LDL受容体またはその関連 遺伝子の異常によって 発症する常染色体優性遺伝性疾患である。 ●日本のヘテロ接合体患者は、500人に1人以上、ホモ 接 合 体患者は100万人に1人以 上の頻 度で、総 数 約 30万人と推定される。 FHとCAD ●FHヘテロ接 合 体患者のLDL-C値は平均242 mg/dL で、 22.9%に皮膚黄色腫、 平均アキレス腱厚は12.6 mm であり、 43.1%にCADの家族歴が認められた3)。 ●男性は30歳代から、女性は50歳代からCADの発症が 増加した。 ■ FHヘテロ接合体患者の臨床像3) ■ FHヘテロ接合体患者のCAD累積発症率4) n=109 年齢 (歳) 男性, n(%) アキレス腱厚(mm) 角膜輪, n(%) TC (mg/dL) TG (mg/dL) HDL-C (mg/dL) LDL-C (mg/dL) 喫煙歴 (過去あるいは現在) , n(%) 高血圧, n(%) 糖尿病, n(%) CADの家族歴, n(%) 41.9 ± 16.2 43 (39.4%) 12.6 ± 5.4 25 (22.9%) 45(41.3%) 321 ± 68 139 ± 82 51 ± 15 242 ± 70 男性 30 累積発症率 皮膚黄色腫, n(%) (%) 40 20 女性 10 42 (38.5%) 19 (17.4%) 9 (8.2%) 47 (43.1%) 0 0 25 50 年齢 75 100 (歳) 対象:FHヘテロ接合体患者641例 方法:厚労省による高脂血症における遺伝子変異の全国調査データベース (1996 ~ 1998年) を用いて、 臨床的特徴やCAD発症頻度との関連を 検討した。 1)日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 2)Mabuchi H, et al.: Circulation 79(2): 225-232, 1989 3)Sugisawa T, et al.: J Atheroscler Thromb 19(4): 369-375, 2012 4)Bujo H, et al.: J Atheroscler Thromb 11(3): 146-151, 2004 2 FHの診断 FHヘテロ接合体の診断基準1) ■ 成人(15歳以上)FHヘテロ接合体 未治療時 180 ❶高LDL-C血症(未治療時の LDL-C値 180mg/dL以上) mg/dL ●続発性高脂血症を除外した上で診断する。 ●2項目が当てはまる場合、 FHと診断する。FH疑いの 際には遺伝子検査による診断を行うことが望ましい。 ●皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。 ●アキレス腱肥厚はX線低電圧撮影により9 mm以上 にて診断する。 FHを強く疑う。 ●LDL-Cが250 mg/dL以上の場合、 ❷腱黄色腫(手背、肘、膝などの 腱黄色腫あるいはアキレス 腱 肥厚)あるいは皮膚結 節 性黄色腫 ●すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった 脂質値を参考とする。 ●早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、 女性65歳未満 と定義する。 ●FHと診断した場合、家族についても調べることが望ま しい。 ❸FHあるいは早発 性冠動脈 疾患の家族歴 (2親等以内の 血族) ■小児ヘテロ接合体 未治療時 140 mg/dL ❶高LDL-C血症:未治療時の LDL-C≧140 mg/dL(総 コ レ ス テ ロ ー ル≧220 mg /dLの場合はLDL-C値を測定 する) ●小児の場合、腱黄色腫などの臨床症状に乏しいため、 診断には家族歴を考慮の上FHの診断をすることが 重要である。 ●成長期にはLDL-Cが変動することがあるため、注意 深い経過観察が必要である。 ●早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、 女性65歳未満 と定義する。 ❷FHあるいは早発 性冠動脈 疾患の家族歴 (2親等以内の 血族) FHホモ接合体の診断1) ●以下の項目から臨床診断が可能。 ・総コレステロール600 mg/dL以上 ・小児期から認められる黄色腫と動脈硬化性疾患 ●ただし、 総コレステロール値600 mg/dL未満であっても、 FHホモ接合体が疑われる場合は、専門医による診断、 治療方針の決定が必須。 ・両親がFHヘテロ接合体 1)日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 3 FHの診断 LDL-C値1) エグゼクティブサマリ 成人 (15歳以上)では未治療時LDL-C値180 mg/dL以上、 小児では未治療時LDL-C値140 mg/dL以上がFH ヘテロ接合体の診断基準の1つとされています。 ●成人FHヘテロ接合体の診断基準であるLDL-Cカット オフ値は、FH患者419例と非FH患者937例を対象と した未治療時LDL-C値の解析から決定された2)。 診断基準の大項目のうち2つ以上を満たすことを条件 にした場合、カットオフ値を180 mg/dLとすると感度 94.3%、特異度99.1%、カットオフ値を190 mg/dLと すると感 度92.1%、特異度99.1%になり、特異度が 同様で感度の高い180 mg/dLが基準値とされた。 ●小児では、健常児を対象とした全国調査において、95%の LDL-Cが140 mg/dL以下であった結果に基づいて決定 された3)。 ●鑑別が必要な疾患は、 続発性高脂血症をきたす疾患 (糖尿病、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群など) と家族性複合型高脂血症 (FCHL) である。 ■ FHとFCHLとの鑑別点4) FHヘテロ接合体 FCHL LDL受容体、 PCSK9、USF-1、LPLなどが候補と して考えられているが、原因 アポB-100など 遺伝子未確定、多遺伝子異常 単一遺伝子異常 原因遺伝子 頻度 400~500人に1人 多くはⅡa、 ときにⅡb 脂質プロファイル アキレス腱肥厚、皮膚黄色腫 若年性角膜輪 Small dense LDLの存在 インスリン抵抗性合併 約100人に1人 家族、 本人とも 経過中Ⅱa⇔Ⅱb⇔Ⅳの 3つの表現型を取りうる あり なし あり なし 少ない 多い 少ない 多い PCSK9: proprotein convertase subtilisin/kexin type 9; USF-1: upstream transcription factor 1; LPL: lipoprotein lipase FHにみられる身体症状1) 黄色腫 ●黄色腫は、脂質を貪食した組織球である泡沫細胞が 皮膚や粘膜に集簇し、 肉眼的に黄色調を呈した病変と される5)。 ●臨床像から、結節性黄色腫 (肘および膝などの四肢伸 側や手足の関節部)、腱黄色腫 (アキレス腱や手足、 膝 の腱)、扁平黄色腫 (掌紋)、眼瞼黄色腫 (上眼瞼の内眼 角部)、発 疹 性 黄 色 腫(殿 部、肩、四 肢 伸 側)に分 類 され、 いずれも脂質代謝異常に伴って認められること が多い。 皮膚結節性黄色腫像 腱黄色腫像(アキレス腱肥厚) 眼瞼黄色腫像 角膜輪像 角膜輪 ●50歳未満の角膜輪はFHに比較的多くみられ、 6時もし くは12時の方向に認めやすく、若年で明瞭な角膜輪の 存在はFHの身体所見の1つである。 (写真提供:国立循環器病研究センター 斯波 真理子 先生) 1)日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 2)Harada-Shiba M, et al.: J Atheroscler Thromb 19(11): 1019-1026, 2012 3)Okada T, et al.: Pediatr Int 44(6): 596-601, 2002 4)荒井 秀典: 医のあゆみ 245(13): 1347-1352, 2013 5)清水 宏: あたらしい皮膚科学 第2版, 中山書店, 2011 4 アキレス腱肥厚1) エグゼクティブサマリ アキレス腱肥厚の評価はX線低電圧撮影で行い、 最大径9 mm以上を肥厚ありと診断します。 ●アキレス腱肥厚は、 視診や触診が可能であるが、 診断の評価にはX線低電圧撮影を用いる (測定の詳細はp6,7参照) 。 ●CAD既往歴のないFHヘテロ接合体患者を対象にCAD発症リスクを検討した研究では、 アキレス腱厚 (ATT) 最大径 9 mm未満に対して、14.5 mm未満で1.42倍、14.5 mm以上では7.82倍とリスクが増大することが示された。 ■ アキレス腱肥厚の例 正常のアキレス腱 FHにより肥厚したアキレス腱 (写真提供:国立循環器病研究センター 斯波 真理子 先生) ■ アキレス腱厚3分位別CAD発症オッズ比2) 例数 オッズ比 95%CI p値 アキレス腱厚<9 36 1.0 (リファレンス) ― ― 9≦アキレス腱厚<14.5 37 1.42 0.18-11.14 0.740 アキレス腱厚≧14.5 36 7.82 1.28-47.7 0.001 アキレス腱厚 (mm) 多変量ロジスティック回帰モデルは、年齢・性・高血圧症・糖尿病・喫煙歴・CADの家族歴・低HDL-C血症(<40 mg/dL)にて調整した。 対象:CAD既往歴のないFHヘテロ接合体患者109例 方法:治療前に脂質検査値とアキレス腱厚(ATT) を測定してCADイベント初発または追跡期間終了時(2010年12月) まで追跡し、LDL-C値お よびATTとCAD発症リスクの相関について多変量ロジスティック回帰を用いて解析した。 1) 日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 2)Sugisawa T, et al.: J Atheroscler Thromb 19(4): 369-375, 2012 5 FHの診断 アキレス腱のX線撮影マニュアル ■ 撮影の準備 ●ズボン、靴下やストッキングなど撮影の障害になるものを取り除く。 ●四切(254×305 mm)のカセットで片足ずつ撮影する。 原則として、1枚のカセットに両足を撮影せずに、片足に1枚ずつ のカセットを使用する。 ●X線管球とカセットの間の距離を120 cmに調整する。 ■ 撮影条件 アキレス腱のX線撮影は低電圧で行い、 側面から腓骨外果もしくは脛骨内果中心に入射する。 撮影条件は50 kV, 5.0 mAs(たとえば、 100 mA×0.05秒、 50 mA×0.1秒)とする。 ■ 撮影体位 X線の照射方向は腓脛方向と脛腓方向の2方向が選択できる。 下図は座位および臥位での右足の撮影ポジション例である。 左右の足を同じ体位で撮影する。 腓脛方向撮影 90° 座位 X線の照射方向から 足部前方から 下腿後方から 足底から 下腿後方から 足部前方から 下腿後方から 足底から 下腿後方から 90° 臥位 X線の照射方向から 脛腓方向撮影 座位 90° X線の照射方向から 臥位 90° X線の照射方向から 写真提供:医療法人 川崎病院 診療部 予防医学部 善積 透 先生 6 ■ 撮影時ポジショニングの注意事項 ●検側の下腿は、 カセットの長軸に 対して平行にし、 足底に対して 90度となるように準備する。 ●検側足部の外側または内側を カセットにできる限り近づける。 アキレス腱 撮影のポイント 90° ●腓 脛 方向臥位での 撮 影を除き、 足部中心線とカセットができる限り 平行になるようにポジショニング する。 ●腓脛方向臥位で撮影の場合、足部 内側部をカセットにできる限り密着 させる。 ■ 適切ではない撮影体位 (例) 適切ではない体位では、 アキレス腱厚を正確に計測することはできない。 下図は適切ではない右足の撮影ポジション例 である。 脛腓方向撮影(臥位) 汎用撮影体位 足部底屈位 足部内転位 足部外転位 足底から 下腿後方から X線像 アキレス腱の肥厚像(FH症例と健康成人との比較) FH症例(A) 左足像 FH症例(B) 健康成人 左図はFH症例と健康成人のアキ レス腱像を示す。 FH症 例(A)で は 左 右 と も 約18 mm、 FH症 例(B)で は 左 右とも 約 13 mmの肥厚が認められる。 両例 とも健康成人と比べ、 明らかなアキ レス腱肥厚が認められる。 右足像 写真提供:医療法人 川崎病院 診療部 予防医学部 善積 透 先生 7 FHの診断 家族歴1) エグゼクティブサマリ 2親等以内の血族に、 FHあるいは早期性CAD既往者がいるかどうかを確かめることは、 患者本人の診断に必須で あるだけでなく、患者家族におけるCADの発症予防にもつながります。 ●FHあるいは早期CAD(男性55歳未満、女性65歳未満)の家族歴は、FHヘテロ接合体の成人および小児、FHホモ 接合体のいずれにおいても診断に重要な項目とされる。 ●FHヘテロ接合体では、 腱黄色腫が青年期まではっきりしないことも多く、壮年期でも出現しない例がある。くわえ、 FHと診断されていない家族が存在する可能性を常に FH診断例の約4割にCADの家族歴が認められる2)ことから、 念頭に置き、丁寧な家族歴を聴取することが必要になる。 ●家族に対する積極的な調査によって、家族のFHが明らかになれば、治療介入によって、家族のCAD発症をも適切 に予防することが期待できる。 ■ ヘテロ接合体とホモ接合体の家系図 どちらかが 家族性コレステロール血症の 遺伝子を持つ 両親とも 家族性コレステロール血症の 遺伝子を持つ ヘテロ接合体 ホモ接合体 1) 日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版, 杏林舎, 2012 2)Sugisawa T, et al.: J Atheroscler Thromb 19(4): 369-375, 2012 8 FHの治療 FHヘテロ接合体のLDL-Cの管理目標値1) エグゼクティブサマリ 管理目標値として、 LDL-C値100 mg/dL未満が望ましいとされています。 達成困難な場合は、治療前値の50%未満を目指します。 ●30歳以上のFHには、 この管理目標値を適応し、 原則として 専門医の指導のもとで治療することが望ましく、 15歳以上 30歳未満のFHの場合は必ず専門医の指導のもとに治療 する。 ●FHヘテロ接合体では、未治療の男性で30~50歳、女性で 50~70歳の間に心筋梗塞、狭心症などのCADの発症が 多く2)、CAD発症リスクが極めて高いため、二次予防の 対象に相当すると考えられている。 ●FHの治療では、 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 年版のリスクチャートによる評価は適用できない。 達成困難な場合 100 mg/dL未満 治療前値の 50 %未満 成人FHの治療1) エグゼクティブサマリ 生活習慣の改善を実践するとともに、 スタチンを第一選択薬とした薬物療法を実施します。 ●FHでは動脈硬化性疾患のリスクが高いため、生活習慣の改善を実施する前に、労作性狭心症の有無の問診、運動負荷 心電図、心エコー検査によって、動脈硬化性疾患の評価を行う。 ●薬物療法では、スタチンが第一選択薬となる。効果不十分な場合には、エゼチミブや胆汁酸吸着レジン、プロブ コール、フィブラート系製剤、 ニコチン酸誘導体などを併用する。 ●FHヘテロ接合体患者連続329例を対象としたCAD初発年齢に対するスタチン服用の臨床的影響を後向きに解析した スタチン服用者は非服用者よりもCAD初発年齢が有意に高く (p<0.001) 、 イベント発症時の総コレステ 研究3)では、 ロール値およびLDL-C値は有意に低値であった (各p<0.001) 。 CAD初発年齢に寄与する因子を多変量解析したと ころ、 スタチンのみが独立因子として抽出された。 LDLアフェレシス治療を考慮する。 ●総コレステロール値が250 mg/dL以下に下がらない場合、 ■ スタチンの服用有無別CAD初発の年齢分布3) 男性 20 ■スタチン (-) ■スタチン (+) 15 ■スタチン (-) ■スタチン (+) 10 例数 例数 10 8 6 4 5 0 女性 12 2 20-29 30-39 40-49 50-59 年齢(歳) 60-69 70-79 0 20-29 30-39 40-49 50-59 年齢(歳) 60-69 70-79 対象:FHヘテロ接合体患者329例 方法:CAD初発年齢に対するスタチン服用の臨床的影響を後向きに解析した。 1)日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 2) Mabuchi H, et al.: Circulation 79(2): 225-232, 1989 3)Harada-Shiba M, et al.: J Atheroscler Thromb 17(7): 667-674, 2010 9 FHの治療 小児FHの治療1) エグゼクティブサマリ 患児および保護者に対して生活習慣の改善を指導します。 若年期からの適切なLDL-C管理が推奨され、 胆汁酸吸着レジンが第一選択薬とされています。 ●薬物療法の開始年齢に関するエビデンスは、日本ではまだ確立されていないが、若年期より冠動脈の粥状動脈 硬化性変化が認められるため、 若年期からの適切なLDL-C管理が推奨される。 ●成長や発育等を考慮して、 消化管から吸収されない胆汁酸吸着レジンが主に用いられてきた。 ●薬物療法は、専門医の指導のもとに行う。 妊娠・出産期の薬物治療の留意点 ! 注 意 妊娠・出産期の薬物療法について、重要な注意事項があります。 ●妊娠希望の際は、 受精の3ヵ月前にはスタチンを中止する必要があります。 そのため、 出産を希望する方は、 必ず主治医とよく相談し、 計画妊娠を心掛けるようにしてください。 ●万一、 薬物治療中妊娠が判明した場合は、 主治医に速やかに相談してください。 ●原則、 妊娠・出産期の脂質管理には、胆汁酸吸着レジンという薬剤を用います。 ●妊娠期間中にはLDL-Cや中性脂肪が上昇することが多くなります。食生活に気をつけましょう。 ●授乳婦のスタチン服用も、 乳児に悪影響があるため、 望ましくありません。 LDLアフェレシス1) エグゼクティブサマリ ホモ接合体は強力なLDL-C低下治療を要しますが、 薬剤反応性が悪く、 1 ~ 2週間に1回のLDLアフェレシス治療が 必要になります。 ヘテロ接合体において、生活習慣の改善や厳格な薬物療法をしても総コレステロール値が250 mg/dL以下に 下がらない場合、LDLアフェレシス治療を考慮します。 ●LDLアフェレシスとは、 血液を体外循環させる装置を用いて、 血漿中のLDLを吸着または濾過により血液からLDLを 除去する方法。 ●週1回を上限に、 スタチンと併用することにより、 厳密なLDL-C管理が可能になる。 ■ LDLアフェレシスの仕組み (模式図) ❶血液を血漿と血球 成分に分離する ■ 体外循環装置の例 ❷血漿中のLDLを 吸着・除去する 血漿 吸着器 LDL 除去後の 血漿 血漿分離器 血球 ❸LDLを除去した血漿を血球と混合して、 体内に戻す 血球 : 赤血球、白血球、血小板などの有形成分 血漿 : 血液から血球を除いた液体成分 (写真提供:国立循環器病研究センター 斯波 真理子 先生) 1)日本動脈硬化学会 編 : 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版, 杏林舎, 2012 10 家 族性高コレステロール血症の 紹介可能な施設 等 一覧 ◦札幌医科大学附属病院 ◦岩手医科大学付属病院 ◦山形市立病院済生館 ◦済生会山形済生病院 ◦福島県立医科大学 会津医療センター ◦福島県立医科大学附属病院 ◦大原綜合病院 ◦大原綜合病院附属大原医療センター ◦新潟大学医歯学総合病院 ◦筑波大学附属病院 ◦自治医科大学附属病院 ◦上尾中央総合病院 ◦東京大学医学部附属病院 ◦東京医科歯科大学医学部附属病院 ◦東京女子医科大学病院 ◦虎の門病院 ◦帝京大学病院 ◦寺本内科・歯科クリニック ◦日本大学医学部板橋病院 ◦日本医科大学付属病院 ◦東海大学医学部付属東京病院 ◦昭和大学病院 ◦東京有明医療大学附属クリニック ◦横浜市立大学附属 市民総合医療センター ◦帝京大学医学部附属溝口病院 ◦横浜栄共済病院 ◦横浜保土ヶ谷中央病院 ◦千葉大学医学部附属病院 ◦東京慈恵会医科大学附属柏病院 ◦創造会メディカルプラザ平和台病院 ◦国立国際医療研究センター 国府台病院 ◦恵仁会セントマーガレット病院 ◦日本医科大学千葉北総病院 ◦岐阜県総合医療センター ◦名古屋市立大学病院 ◦名古屋大学医学部附属病院 ◦国立長寿医療研究センター ◦三重大学医学部附属病院 ◦社会医療法人愛仁会 千船病院 ◦大阪市立大学医学部附属病院 ◦国立循環器病研究センター研究所 ◦大阪大学医学部附属病院 ◦住友病院 ◦りんくう総合医療センター ◦医療法人さかいクリニック ◦京都大学医学部附属病院 ◦国立病院機構京都医療センター ◦奈良県立医科大学 ◦金沢大学附属病院 ◦金沢医科大学病院 ◦福井大学医学部附属病院 ◦神戸大学医学部附属病院 ◦医療法人 川崎病院 ◦加古川市民病院機構 加古川東市民病院 ◦兵庫医科大学病院 ◦岡山大学病院 ◦江草玄士クリニック ◦たかた内科クリニック ◦因島医師会病院 ◦山口大学医学部附属病院 ◦徳島大学病院 ◦福岡赤十字病院 ◦九州大学病院 ◦福岡大学病院 ◦福岡山王病院 ◦さわやま内科・総合診療クリニック ◦北九州市八幡病院 ◦佐賀大学医学部附属病院 ◦熊本大学医学部附属病院 ◦医療法人社団陣内会陣内病院 ◦鹿児島大学病院 ◦Tsukasa Health Care Hospital ◦出水総合医療センター ◦琉球大学医学部附属病院 詳細な情報に関しては 日本動脈硬化学会ホームページ 専門医/家族性高コレステロール血症の紹介可能な施設等一覧をご参照 ください。 http://www.j-athero.org/specialist/index.html 11 若年性心筋梗塞発症に潜む FH患者を見逃さない 40歳未満で心筋梗塞を発症した患者には、FHを積極的に疑う必要があります。 そもそも日本より虚血性心疾患発症のリスクが高い欧米でも40歳代前半までの心筋梗塞発症は 年間1000人あたり男性3.8人、女性0.52人と少なく1,2)、日本でも滋賀県の地域住民を対象とした 研究によれば40歳未満の発症は極めて少なく、同様の傾向が認められます1,3)。ところが、心筋 梗塞患者に占めるFH患者の割合は、 65歳未満の12%に対して、40歳未満に限ると37%と高い 4) ことが明らかになっています 。 一方、 FHは見逃されやすい疾患とされ、 FH患者のうち、 診断が確定しているのは全体の15 ~ 20%程度 で、しかも適切な治療を受けているのは10%に過ぎません5,6)。 つまり、40歳未満の心筋梗塞発症者にはFH患者が潜んでいる可能性が高く、積極的にFHを疑い 診断することが重要です。FHであることが診断されれば、より適切な治療へとつながり、さらなる CADの発症を予防することが期待できます。 心筋梗塞発症に占めるFH患者の割合4) 100 (%) 80 患者割合 60 40 20 0 FH 37% <40 12% <65 年齢(歳) 野原 淳 ほか : 日本動脈硬化学会総会プログラム2011, 142, 2011 Mabuchi H, et al.: Circulation 79(2): 225-232, 1989 より作図 1)虚血性心疾患の一次予防ガイドライン (2012年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_shimamoto_h.pdf 2015年10月閲覧 2)Kannel WB, et al.: N Engl J Med 31(118): 1144-1147, 1984 3)Yoshida M, et al.: Circ J 69(4): 404-408, 2005 4)家族性高コレステロール血症について http://fh-gene-labo.w3.kanazawa-u.ac.jp/faq/naze/naze.html 2015年10月閲覧 5)Leren TP: Clin Genet 66(6): 483-487, 2004 6)Datta BN, et al.: Curr Opin Lipidol 21(4): 366-371, 2010 SAJP.ALI.17.03.0531
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