GISによるSTPマーケティングで 差異化につながる店舗コンセプトを策定

シリーズ 商圏分析と立地診断[第33回]
GISによるSTPマーケティングで
差異化につながる店舗コンセプトを策定
ホームセンター(HC)やドラッグストア(Dg.S)はこ
の略で、「我が社は誰に対して、どのような価値を提供
れまで、全国展開をする企業があまり多くなかった。しか
するのか」を明確にするための手法だ。この手法に基づ
し大手チェーンが商勢圏を広げる過程で、これまで競合
いて、自店の商圏特性と競合店のそれを比較し、競合店
したことのなかった別の大手チェーンとの競合も増え始め
を意識した店舗コンセプトを策定しているチェーンもある
ている。このような状況の中で重要なのは、競合他社と
という。
いかに差異化するかということだ。
そこで今月は、弊社の名鑑データとGIS(地図情報シ
そのための代表的なマーケティング手法に、フィリップ・
コトラー氏が提唱した STPというものがある。これは「セ
ステム)を活用して、HCとDg.Sそれぞれに企業別の比
較分析をした。(田中)
グメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」
資料提供:技研商事インターナショナル(株)
「MarketAnalyzer™」
まず既存店の商圏特性を解析
STP ではまず S(セグメンテーシ
図1
ョン)により市場を細分化して、ど
のような市場が存在するのかを洗い
出す。次に T(ターゲティング)に
よって、洗い出されたどの市場にタ
ーゲットを絞るのかを選択する。そ
して最後に P(ポジショニング)に
よって、自社の強みや独自性が発揮
できるポジションを明確にする。
そのためにまず、HCとDg.S の各
業態から複数の企業をピックアップし
た。HC については、家具+ HC で
特 徴を出しているナフコと、日用 品
やホーム・インプルーブメント(HI)
商品に強いコーナン商事を選んだ。
Dg.S については、各カテゴリーをバ
ランス良く取り扱うウエルシア薬 局
と、 調 剤が 強いスギ 薬 局、 食 品が
強いコスモス薬品の 3 社を選んだ。
ピックアップした各社を業態別に
地図上にプロットしたのが図 1 と図
2 の地図。Dg.S では関東を中心にウ
エルシア薬局が、東海地方と関西地
方を中心にスギ薬局が、中国、四国、
九州地方にコスモス薬品があること
が分かる。
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図2
シリーズ 商圏分析と立地診断[第 33 回]
図3
ウエルシア薬局とスギ薬局はほぼ
3つの人口で商圏比較
世帯年収で特性を比較
各店の半径 500m の商圏データか
同じ構成比だが、スギ薬局が出店し
を設定。それぞれの店における夜間
ら、年収階級を比較したのが図 4 の
ている商圏の方が年収 300 万円未満
人口(=ベッドタウン性)
、昼間人
表とグラフ。
世帯はやや多く、また年収 1,000 万
これらの全店に半径 500m の商圏
口(ビジネス性)
、商業人口(繁華街
各階級の構成比を比べると、コス
円以上世帯もやや多い。スギ薬局は
性)を集計したうえで、企業ごとに
モス薬品が出店している商圏の年
都市部の立地が多いので、世帯年収
その平均値を算出したのが図 3 の表
収が低いことが分かる。年収 300 万
の低い借家の若年層と、世帯年収の
とグラフ。
円未満の世帯構成比は唯一 40%を
高い持ち家の富裕層がともに多いと
まずスギ薬局は、他の 2 社に比べ
超えていることに加え、年収 500 ~
いうことなのかも知れない。
て足元商圏の人口が圧倒的に多いこ
1,000 万 円 未 満 の 世 帯 や 年 収 1,000
とが分かる。それに加え、夜間人口
万円以上の世帯構成比が他の 2 社よ
よりも昼間人口の人数が多いことか
りも低い。
ら、ビジネス街や繁華街に出店して
図4
いる傾向があることが分かる。
これに対してウエルシア薬局とコ
スモス薬品は、人口の絶対数が少な
いうえに昼間人口よりも夜間人口の
方が多いことから、比較的ベッドタ
ウン性の高い地域に出店している傾
向があることが分かる。また、特に
コスモス薬品は足元商圏の人口がと
ても少ないため、他の 2 社よりも商
圏範囲を広く設定している可能性が
ある。
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消費支出と売上高構成比を
マッチング
図5
同様に各店の商圏データから消費
支出を集計したのが図 5 の表とグラ
フ。
Dg.S で取り扱いのある商品カテ
ゴリーを一部ピックアップして集計
したが、構成比については各社で大
きな違いがなかったため、グラフは
割愛した。ウエルシア関東の商圏
はすべての項目に関して、3 社の中
で中間の数値だった。コスモス薬品
の商圏は家庭用消耗品と医薬品が高
く、ヘルスケアと化粧品が低い。ス
ギの商圏は、ヘルスケアと化粧品が
高い反面、家庭用消耗品と医薬品が
低い商圏だ。
消費額の積み上げグラフを見る
と、絶対額ではスギ薬局のある商圏
が圧倒的に多いことがよく分かる。
参考までに各社の過去 5 年間の部
門別売上高構成比が図 6 の各グラフ
だ。
ウエルシア薬局で継続して見られ
る傾向は、医薬品の縮小傾向と調剤
薬の拡大傾向だ。これに対してスギ
薬局は、他の全部門の構成比を下げ
てでも調剤薬を拡大させてきたこと
が分かる。コスモス薬品は、元々高
い食品の構成比をさらに少しずつ上
げながら、医薬品と化粧品の構成比
をこれも少しずつ下げている。
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図6
シリーズ 商圏分析と立地診断[第 33 回]
HC2社はDIY拡大傾向
図7
HC では、全店の半径 1km の商圏
データを GIS で集計した。
図 7 は各社商圏の平均的な世帯構
成を示したもの。コーナン商事が出
店している商圏はナフコに比べ、単
身層の比率が高い。一方でナフコが
出店している商圏はコーナン商事に
比べ、ファミリー層の比率が高い。
図 8 は各社商圏の消費支出を集計
したもの。絶対額は圧倒的にコーナ
ン商事の商圏の方が高い。構成比に
大きな違いはないが、あえて言うな
図8
らコーナン商事の商圏は家事雑貨消
費の構成比が高く、ナフコの商圏は
リフォーム消費の構成比が高い。
2 社の部門別売上高構成比(図 9)
で継続して見られる傾向は、両社と
もに DIY 用品を拡大させている点
だ。他の部門で拡大傾向にあるもの
はない。ナフコは家具・ホームフ
ァッション用品が構成比の 30%弱
を占めるのが特徴的な HC ではある
が、この部門も拡大傾向にはないよ
うだ。
図9
今月は既存店の商圏データを基
に、STP のうちの「セグメンテーシ
ョン」と「ターゲティング」を設定
するための集計を作成した。これら
の資料を基に「ポジショニング」を
設定する方法もあれば、逆に予め設
定してある「ポジショニング」にふ
さわしい「セグメンテーション」と
「ターゲティング」を設定する方法
もある。
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