TS幼女タツヤちゃん の魔法戦記 さすおに戦記 ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので す。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を 超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。 ︻あらすじ︼ これはさすおにこと、魔法科高校の劣等生のタツヤくん♂がタツヤちゃん♀となって 立ち塞がる下郎︵ロリコン︶共をバッタバッタと捩じ伏せる物語である。 魔法科高校の劣等生を読み、アニメの幼女戦記を見ていたら唐突に思い付いたネタで す。頑張りたいですね 注意、 主人公は、タツヤさんですが読み方が同じでも中身が完全に別物になってお ります 目 次 ちっちゃいお姉様 │││││││ よ う じ ょ、が っ こ う へ い く そ の 1 1 よ う じ ょ、が っ こ う へ い く そ の 2 7 一難去って、また一難 │││││ ようじょのゆううつ その1 ││ ようじょのゆううつ その2 ││ ようじょのゆううつ その3 ││ ようじょのゆううつ その4 ││ 45 40 34 29 24 よ う じ ょ、が っ こ う へ い く そ の 3 12 18 骨は拾ってやる 1 ││││││ だから潔く散りたまえ 2 │││ 51 58 │ 私を含めたそれを良しとしない者達への絶望の宣告だ。 ﹁はぁー、何故また学生をせねばならんのだ﹂ そして・・・ 子供や大人が心機一転、新たな環境に就く節目 命が芽吹き、花を咲かせる四季の始まり。 春、それは様々な意味合いを持つ。 ちっちゃいお姉様 1 ちっちゃいお姉様 2 時は21世紀末、世界には魔法とか呼ばれるオカルト文化が何故か技術体系化された 世界。 世間の酸いも甘いも経験して、あと1日で優雅なセカンドライフが待っていた私は突 然の発作で死に、前世の記憶を引き継いで生まれてきてしまった。しかし、どうやらこ の世界は私の知る世界ではないらしく、前述した通り、魔法なるモノが存在している。 事の起こりは20世紀の終わり、何処かの目立ちたがり屋のテロリストが事件を起こ して、それを阻止する為に一人の勇敢な男が超能力を使った事から始まった。少なくと も私の知る20世紀にそんな物はなかったのだから、これは一種のファンタジーと言っ ても良いだろう。それから世界は、魔法に新たな戦争への価値を見いだし、研究を進め た。 その間にも、地球の寒冷化やら、第三次世界大戦やらで世界の人口は最盛期の3分の 1まで減少し、世界地図はそれ以前と大きく様相を呈していた。そんな色々なすったも んだがあり、我が国も魔法を研究して大国から守ろうと、魔法を扱う軍隊や、一族達が 生まれた。 人々は彼等を十師族と呼び、裏社会、魔法界に大きな影響力を及ぼした。 3 さて、前置きはここぐらいにしておこう。 私の名前は、四葉 龍夜。今年から関東の第一魔法科高校に通う花の15歳、いや直 に誕生日が来るから16歳か。まぁ、どちらでもいい。 とにかく私は両親から一字ずつ貰い、タツヤと大層な名前を貰ったが、私は両親の頬 を殴りたい気分だった。男なら格好良くて、強そうだからいいと思うが、私は女だ。 くノ一と書いて女なのだよ。 両親に過去に一度、何故こんな名前にしたのかと、問い詰めた事があるがその時二人 は声を揃えてこう言ったのだ。 お陰で私は小学、中学と皆から ﹁﹁何となくそうしなくてはと使命感が働いた︵わ︶﹂﹂ 何の使命感だ お陰で中学までの私は荒ぶっていて、ついでにグレテい ! りやがって愛でたく懐妊。翌年の三月に出産したのだ。それによって双子じゃないけ そんな私にとって唯一の救いが妹の深雪だった。お盛んな両親は退院して直ぐにヤ た。所謂反抗期と言うやつだな。 なんて言われてきたんだそ ﹃女なのにタツヤ・・・プププ﹄ ! ちっちゃいお姉様 4 ど、学年は同じと言う奇跡が起きた。 そして深雪は私の癒しだった。祖父、叔母、両親にお手伝いと、とち狂った一族の中 深雪の膝の上は私の特等席だ で唯一安息できるのが妹の隣と膝の上だ。世間でシスコンと言われようが、知った事か ! に・・・。 ? あ、あぁ深雪か﹂ ﹁お姉様 ? ﹁どうなさいましたか もしや私はお姉様に不敬を・・・およよ﹂ 私は妹と一緒に行くのだが、毎回恒例の行事が起きると思うと溜め息が出る。 た様で、画面の向こうには芸を披露して笑いを取る大人が映っている。明日は入学式、 人で学校近くの一軒家に住んでいる。どうやらさっきまでバラエティー番組を見てい 身長差故に、私は妹の膝に座っても深雪の視線を阻害しない。今は実家から出て来て二 つい現実を逃避して自分の世界に入っていると、妹が私を呼び戻した。先程も言った ﹁ん ﹂ 学 生 の 妹 だ。だ か ら 私 は こ の 世 界 が 嫌 い だ。前 世 で は イ ケ イ ケ の 商 社 マ ン だ っ た の れ以降横一直線で進み、妹にはとうに越されている。外を歩けば、深雪が姉で、私は小 あ、因みに私は身長が低いことがコンプレックスです。八歳で成長が止まった私はそ ! ? 5 ﹁あー、違うんだ深雪。明日の入学式は楽しみだ。お前の新入生代表の挨拶も楽しみ にしているが、周りの視線がな・・・﹂ 自分のせいではないと分かると、落ち込んでいた深雪の顔に生気が戻った。そのまま 私の両脇を持って立ち上がると、私にアドバイスをしてくれる。 ﹂ ﹁大丈夫ですよ。お姉様の事は、私が一番分かっています。周りの視線が何ですか あんなのはその辺に転がっているゴミだと思えば良いんですよ ! 私は四葉 龍夜 ﹁はい。見ていて下さいね、お姉様﹂ ﹁そうか、なら私も頑張ってみよう﹂ を言わないとな。 う、うむ、少々過激な発言が目立つがこれも私を思っての事なのだろう。せめてお礼 ! ちっちゃいお姉様 6 正直、不安で一杯です 何故、慢心する ? 様ら揃って無能だ。 実に下らないと私は考える。高々入試の成績如きで自分は秀才だと、無能だと言う貴 科生をウィードと呼ぶ習慣が生まれてしまった。 等には優劣として見えてしまった様だ。さらに事は過激になり、一科生をブルーム、ニ はそれがない。元々は募集する生徒を増員する過程で起きた手違いなのだが、それが彼 服の仕様が異なる。一科生の胸元には八枚の花弁をあしらったエンブレムが、ニ科生に 第一高校では、成績の優秀な一科生と︵一概には言えないが︶成績の悪いニ科生で制 スが有ったり無かったりしたが、何よりも一番の違いは胸元の紋章だろう。 の制服に袖を通した。妹の制服と見比べるも別に無くても良いだろうと思われるレー 昨夜、揺れ動く心の決心を固めて朝を迎えた私は、満を持して送られてきた学校指定 ようじょ、がっこうへいく その1 7 ようじょ、がっこうへいく その1 8 何故、出来ないと決めつける まさか 他の家の陰謀でしょうか ? 想の激しい妹がいる。 ﹁何故です。何故、お姉様がニ科生なのですか お姉様をニ科生に落とす等、許すまじ七・・・﹂ ! ﹂ ﹁そ ん な 事 は 分 か っ て い ま す。で す が こ ん な 事 を 考 え る の は あ の 狸 以 外 に 居 ま せ ん いたら何を言われるか分かったモノではない。 ろっと溢した名前は四葉に取って代わらんと考えるある一族の名前だ。もし聞かれて そう、深雪と私は十師族の序列1位とされている四葉の人間。対して、今深雪がぽ 判なんてしたら後が面倒だ﹂ ﹁はい、ちょっと待んだ深雪。仮にも四葉の次期当主候補が他所様の家を名指しで批 !? と心の中で叫ぶだけ叫んだが、実は私の隣にもバカとまではいかないが、少々被害妄 それこそが貴様らの価値を土に、無に帰している事だと何故、理解できぬ。 ? 落ち着いてくれ﹂ ﹁深雪、私はお前にそこまで思われて幸せだ。だから私に免じて、あの狸の事は忘れて 雪を宥めるために、彼女を短く小さな手で抱き締めた。 やれやれ、私の事を思って言ってくれるのは嬉しいが、何事にも限度がある。私は深 ! 9 まぁ、今回は狸は一切関係ないがな。あくまで私の魔法が学校の評価基準で審査でき ないのでギリギリニ科生なったと言うのが正解だ。しかし、そんな事を言った所で深雪 ﹂ は止まらない。だから敢えて話に乗って、鎮静化するのが手っ取り早い。 ﹁お姉様・・・そんな、想っているだなんて・・・キャッ るためだ。順当に行けば私が四葉を継ぐことになるのだが、生憎とこの容姿だ。そこで くなるのでそれはまた別の機会に取っておくとして、要は相手から舐められない様にす 人護衛が付けられる。私は深雪のガーディアンを勤めている。詳しい事情を話すと長 読んで字のごとく護衛である。四葉の当主やその関係者にはそれぞれ一人ないし二 ガーディアン それ以上に大きな任もあるがな。 で他の新入生よりも早く来ているのだが、私は深雪の付き添いで来ている。最も私には と、そうこうしている内に第一高校に着いてしまった。深雪は代表答辞のリハーサル のだ。そこはどうにかして矯正しなければなるまい。それが姉としての使命だ。 いや、別に深雪の美貌を疑う訳ではないのだ。ただ、下手したら相手をヤりかねない も出来ないな。 うにも妹は私に依存している節がある。このままでは嫁としての貰い手も、婿を取る事 効果覿面、顔を赤らめて年相応に騒いでいるがまぁ、良しとしよう。それよりも、ど ! ようじょ、がっこうへいく その1 10 深雪を当主にしようと言うのが私の考えであり、元々自らの足で動いていた性なのか、 当主と言うものに抵抗があった。 押し付けたと言えば聞こえは悪いが、それが最も適当だろう。それに私にはガーディ アン以外にも幾つか顔があるので、当主になってそちらを疎かにしたくないのだ。 すまないな深雪 私は心の中で謝ると、何故か深雪が此方を向いて笑顔を見せる。 ﹁大丈夫ですよお姉様。私も頑張りますから、お姉様も、頑張ってください。・・・・﹂ どうやら妹は姉の心を読むエスパーらしい。そもそも魔法を使う魔法師にエスパー もクソもないか。それに深雪はまだ何かを言いかけている。しっかり聞いてやらなけ ればな。 ﹁第一高校はロリコンが多いと聞いてますよ♪﹂ ﹁・・・なんと言うか、それは要らない情報だったよ。深雪﹂ 知らなかった。まさか自宅だけでなく学校も変態の巣窟とは、 ﹁それでは、私は行きますね﹂ ﹁あぁ、行ってらっしゃい﹂ 妹は姿が見えなくなるまで手を振っていた。何れは姉離れもしてほしいが当分は無 理だろうな。 11 ﹂ さて、入学式まであと一時間近くある。どうにかして時間を潰せないかと考えていた タツヤちゃんじゃない。妹さんの付き添いかしら 私だが・・・。そこへ見知った顔が姿を現す。 ﹁あら ? 狸ジジイの娘だった。 ﹁真由美さん、でしょ。入学おめでとう、タツヤちゃん﹂ ﹁七草・・・真由美﹂ ニコニコと笑顔を浮かべるその顔は、何処ぞの狸を思い出す。名前は確か、 ? ﹁誰がお姉ちゃんだ 私の姉妹は深雪ただ一人だ ﹂ ! ﹁て言うかあの娘、新入生 ﹂ ? ? ﹁飛び級でもしてきたんじゃないか ﹂ ﹁おい、会長が幼女を抱いているぞ﹂ を抱いている様にも見えるこのシチュエーションに、周囲からは稀有な目で見られる。 頬を膨らませる真由美は、逃げれないようにタツヤを抱き締める。まるでぬいぐるみ ! ﹁何も逃げなくても良いじゃない。お姉さん怒っちゃうぞ﹂ まってしまう。 継がれており、脱兎の如く逃げたそうとしたが、背が低い故に歩幅も狭く呆気なく捕 特に七草と四葉はそれが顕著に現れている。それは子供であるタツヤちゃんにも引き 師族の間では有名な話だ。元々他の師族達も他よりも先を行こうとし、仲が悪いのだが 声からして毛嫌いしている雰囲気醸し出すタツヤちゃん。七草と四葉の仲の悪さは ﹁七草・・・真由美﹂ ようじょ、がっこうへいく その2 ようじょ、がっこうへいく その2 12 13 ﹂ ! ﹁でもアイツ、ウィードだぜ﹂ ﹁可愛い子にブルームもウィードも無いわ ﹁ハァハァ・・・﹂ ﹁・・・・・﹂ブチッ 私は15歳だ あと最後の奴は誰だ ! 気持ち悪い ! 言いたい放題言っている外野に、タツヤの中で何かがキレた。 ﹁ふざけるなよ ﹂ ! ! る。 ﹁こら ﹁お前は私の親か、何かか いい加減下ろせ ﹂ ! 駄目でしょう、良い子にしないと﹂ なかったが、この世界ではそんなイベントも無かったので全ての感情がフル稼働してい 実は深雪以上に喧嘩早いタツヤ。別の世界では感情が失われているのでそんな事は ! そうタツヤは忌々しそうに一度睨み付けて、顔を逸らした。 この発言に浮かべるあの笑顔、間違いなく狸の血だ。 ﹁いやー久々に弄れて面白かったわ﹂ き締めてから数分後の事だった。 由美の前を笑顔のままスルーしていき、止める者は居ない。彼女が下ろされたのは、抱 ジタバタと暴れるタツヤの姿は癇癪を起こした幼子のそれでしかなかった。皆が真 ? ! ようじょ、がっこうへいく その2 14 とも考える一方で、自身の身体や心についても考えていた。 何度か見たことのある狸もあんな風に笑みを浮かべる事があった。母親の要素など、 顔ぐらいしか無いのでは に語る。 可愛い後輩の背中を見送った七草。その顔は狂気を孕んでいたと、目撃した生徒は後 ﹁あらあら、相変わらず可愛いわ。出来るなら本当に妹にしてみたいわね・・・フフ﹂ 女の足は、まるで回っていると錯覚するほど高速で動きあっという間に姿を眩ました。 タツヤは七草の前から猛スピードで逃げ出した。先程よりもギアを一段階上げた彼 ﹁逃げる︵また戦略的撤退とも言う︶﹂ それは・・・ 先は捕まってしまったが、今度は大丈夫。 対応になってしまっている。これは由々しき事態だと考えるが、先ずは現状の打破だ。 らを立てることはない。寧ろ静観にあしらうことも出来た。それが現実には、年相応の 先の癇癪がそうであったが、精神年齢は既に還暦を越えるタツヤがこの程度で目くじ 明らかに身体や年齢に思考が引っ張られている。 ? 15 ﹁全く、散々な目にあった。しかも最後に感じた殺気ではない悪寒は何だ ﹁何だ、案外見渡しが良いではないか﹂ ん。故にタツヤのとった行動は、 ﹂ いのだが、たかだか入学式の席如きで騒がせて妹の晴れ姿を見れないとなってはいか では余計な騒動となる。勿論、15歳の尻の青いガキ共を、相手に舌戦で負ける気は無 ここでタツヤは自分はどちらに座ろうか悩んだ。別段前に座っても良いのだが、それ 滑稽と言うべきか﹂ ﹁下らない、実に下らないな。まさか差別を受ける側が、最も差別意識を持つとは・・・ 半分から後ろに座るニ科生の姿だった。 ここに居ない者へと毒を吐くタツヤ。彼女の前に広がるのは、前列に座る一科生と、 いか﹂ ﹁こうも綺麗に分かれるとは、末期だな。この学校も・・・狸の娘め。全く無能ではな 時間も経ち、会場内は新入生や在校生で溢れている。中でも目を引くのは、 何とか逃走に成功したタツヤは、入学式の会場となる建物に来ていた。あれから大分 ? 最後列に座る事だった。更にここは会場全体を見渡せる位置にあり、この中で障害と ﹂ なり得る者を選定しようと考えたわけだ。 ﹁あの、隣座っても良いですか ? ようじょ、がっこうへいく その2 16 ﹁ん もしかして飛び級 ﹂ あぁ、問題ない。好きにするといい﹂ ﹁君、小さいね ? ﹂ ! り、溜め息をつくタツヤ。隣の二人はそれから彼女の愚痴を式が始まるまで聞かされる そう言って顔を上げるタツヤは、不意に仲睦まじく微笑む一組の夫婦の顔が頭を過 たと言ってなったんだ﹂ ﹁私だって好きでこんな名前になった訳ではない。とち狂った両親が何かの天啓を得 た。だが、タツヤが睨みを効かせたことで、何とか堪える。 タツヤは渋々名前を名乗ったが、名前を聞いたエリカは思わず吹き出しそうになっ ﹁タツ・・・ブッ ﹁司波・・・龍夜だ﹂ ﹁私は柴田 美月です﹂ ﹁へー、あんたも苦労しているのね。あたしは千葉 エリカ﹂ 陰で同い年の妹と歩いていても、妹に間違われる﹂ ﹁これでも15歳だ。私自身、これは一種の発達障害ではないかと、考えたい程だ。お と対称的に活発そうな少女がいた。因みに失礼な事をのたまいたのは後者の方だ。 かけた大人しそうなホルスタイン︵いったい何を食えばそうなるのか・・・うらめしや︶ 暫く会場内を見渡していたタツヤは声を掛けられて視線を上げる。そこには眼鏡を ? ? 17 事になった。 ﹂ ? ︵死にません︶ 二人に変な目で見られる所だった。もしかして私は疲れているのか も深雪の姿を見るまでは死ねん いや、だとして だろう。確かに身になる話もあったが、殆どが別の機会に聞いた、或いは別段聞かなく それにしても・・・話が長いな。こんなに長いのは、会社の役員会議に出た時くらい ! ? う︶。 危ない、突然脳内に聞こえてきた声に反応したが不味かった︵時にそれを電波と言 ﹁何か言いました ﹁有るらしいがどうでもいい﹂ 美はその訳を知って特に追及はしなかった。そこにこそ、両家の確執の原因が・・・ 本名、四葉 龍夜及び四葉 深雪は姓を司波と偽って入学していた。七草である真由 ようじょ、がっこうへいく その3 ようじょ、がっこうへいく その3 18 19 ても仕事に支障のない内容だった。その時ばかりは私もうんざりだった。良く一人で あそこまで長く話せるのか、感心してしまう。もっと伝えたい事を簡潔明瞭に纏めれば 生徒達の中にも残る・・・かどうかは怪しいな。この年頃は本当に大人の言うことを聞 かない。過去の自分は・・・あの頃はもっと酷かったが、忘れよう。何事も掘り返して いいと言う訳ではないからな。 ﹃それでは、生徒会長より、お祝いの言葉を頂きます﹄ 司会のパッとしない男による進行で出てきたのは、雌狸だった。向こうは私を見つけ ﹂ ﹂ 背筋がゾクッてなったぞ。あの女、狸の皮を被った蛇か たみたいで此方を見ている。 私だけか ? て、お姉ちゃん妬いちゃうなぁ∼フフフフ﹂ ﹁・・・・・フフフ。何、あの二人・・・私のタツヤちゃんとあんなに仲良くしちゃっ 隣にいたエリカ達は私を心配してくれるが、冷たい視線があの女から漂ってきた。 ? ﹁・・ッ どうかしたの な、何だ今のは ﹁ん ? !? !? ﹁い、いや、少し悪寒を感じただけだ﹂ ? ようじょ、がっこうへいく その3 20 お姉さん殺される 私だけが聞こえるのか た、助けてくれ深雪 ! ? えた。しめた 向こうも私を見つけて歩みが速くなった。 私ははやる気持ちを抑えながらA組に向かうが、向こうから深雪が歩いてくるのが見 い。主席ならA組だろう。 ないで帰る手だてを考えねばなるまい。だが、それには先ずは深雪と合流せねばならな 被った蛇のせいだ。改めて感じた、私とアイツは相容れないと。どうにかして奴に会わ 私は今、ムスッとしているに違いない。顔が見えずとも分かる。全てはあの狸の皮を 十数分後・・・ 向かっていたのだ。 達から聞いた事で私自身は覚えていない。気付いたら私は、エリカに背負われて教室に それから私は、入学式が終わるまで放心していたらしい。らしいと言うのは、エリカ ! ﹁お待たせしました、お姉様﹂ ! ﹁いい主席挨拶だったよ、深雪﹂ ﹁ありがとうございます。お姉様﹂ 笑顔を浮かべる深雪を見て、私は何だが力が湧いてくる感じがした。フフフ、これな らあの狸の皮を被った蛇も怖くないが会いたくないので早く退散するとしよう。 なら早く行きましょうお姉様﹂ ﹁さぁ、早いところ帰ろうか。お前の淹れたコーヒーが飲みたいからな﹂ ﹁そうですか バ、バカな この声は・・・ ? 振り返りたくない。振り返りたくないが、ここで私だけ無視をすれば後々に要らぬ禍根 信じたくなかったが、深雪の言葉を聞いてより一層現実味が増してしまった。絶対に ﹁生徒会長、どうしたんですか ﹂ ﹁あら、深雪さん。丁度、良かったです﹂ よしよし、これで帰れるぞ。さらばだ、七草・・・ ! ! た。 ﹁うひゃあっ ﹂ !? しまったぁああああっ !! 仕方なく振り返るとそこには今、一番会いたくない女の顔がドアップで存在してい ︵大袈裟過ぎです︶を残す事になる。 21 ようじょ、がっこうへいく その3 22 思わず変な声が出てしまった。周りの生徒もクスクスと笑っている。くそ るなら入りたい。だが、先ずは目の前の障害を突破せねば、 ﹁はい、実はお話したいことが有ったんですけど・・・﹂ ﹂ 事前にアポを取っていれば話はまた変わりますがね・・・﹂ ﹁お姉様 か 穴があ ﹁申し訳ありません。実は私と深雪はこの後用事があるので後日にしてもらえません ! い﹂ ! ﹁寛大な配慮ありがとうございます七草会長。さあ深雪、行こうか﹂ ﹁ですが、会長 ﹂ ﹁そうですか・・・では、また後日にしましょう。今日は姉妹水入らず楽しんでくださ がいた。確か式の進行をしていた生徒会の副会長だったな。 眉が小刻みに動いているのが見える。彼女の後ろには、私が発言してから眉を歪める男 から離れねばいかんのだ。悪く思わないでくれ。対する奴は、笑みこそ絶やさないが、 今の私は、押しに徹していた。深雪は目をパチクリさせるが、今は何としてもこの女 ? ? 23 深雪さんを連れて帰るタツヤちゃんの小さい背中を、私は静かに見送った。出来るこ となら抱き締めたかったけど、まだ入学初日。チャンスは山の様にあります。それにし ! てもタツヤちゃんはどうにも七草を避ける傾向が有りますね。これも全てお父様のせ いですね。あのロリコンじじいが、タツヤちゃんを自由にしていいのは私だけなのよ 本 丸 ! 先ずは明日、深雪さんを生徒会役員に任命する事からですね。フフフ、外堀から少し また悪寒が・・・﹂ ﹂ ずつ埋めていけば何れはタツヤちゃんは墜ちます。待っていてね、タツヤちゃん ﹁うっ ﹁もしかして風邪でしょうか ? !? 言って継承権を破棄してガーディアンという位置に就き、常に共にいた。自分よりも小 それだけではない。昔から自分は姉から守られてきたのだ。自分では舐められると 夜という存在はなくてはならない存在なのだ。 る姉を見て、先程までの疲労感等吹っ飛んだように感じた。深雪にとって姉の四葉 龍 くの生徒が群がって来たのだ。まるで逃げる様に教室を出た深雪は、自身に向かってく 中では大変だった。主席と言う看板と自意識過剰かもしれないが自身のルックスに多 じである。家族と共にいる時間、それだけが彼女にとって安らぎの時間だった。学校の 長い一日だった、そう感じているのは何もタツヤだけでは無かった。彼女、深雪も同 ブルの反対側にあるソファーに座る。 きた深雪は眠る姉を見て、静かにカップを置くと、毛布を持ってきてかけて自分はテー たタツヤはいつの間にか寝息をたてて寝ていた。コーヒーを淹れてキッチンから出て が、暫くリビングのソファーで横になっていた。七草の長女のせいで倍も疲労が溜まっ あの謎の悪寒やプレッシャーから解放された事による気の緩みが原因で直ぐに治った 何とか狸の皮を被った蛇から逃げ出したタツヤは、自宅に着くと脱力感に襲われた。 一難去って、また一難 一難去って、また一難 24 25 さな手や身体を張って と言うべきか。 幾つもの危機を切り抜けてきた。時折、それが申し訳なく思っ ﹃何か精神的に疲れる事でも合ったのかい ? 深雪は今日一日に起きた事を順に、両親へと説明する。特に帰る直前の二人のやり取 ﹁実は・・・﹂ ﹄ り、母の尻に敷かれながらも仲睦まじくしている。 いや、この場合は普通に夫婦円満 の母親であり、実年齢は四・・ゲフンゲフン。その横に座るのが父親の司波 龍郎であ 画面に映るおよそ二十代後半から三十代前半に見える女性の名は四葉 深夜。二人 ﹃あら、二人揃って御祝いしようと思ったのだけれど、寝ているのじゃ仕方ないわね﹄ ﹁お母様、お姉様は疲れて今はぐっすり眠っておられます﹂ ﹃入学おめでとう、深雪さん。タツヤさんは・・・﹄ た。 る。コンソールを操作して、通話状態にすると画面ににこやかに微笑む夫婦の顔が映っ そんな時だった。家の端末がなり出して、大きなモニターには父、母と表示されてい 放って置くことにした。 て し ま う。だ か ら こ う い う 時 位 は、ゆ っ く り 休 ん で ほ し い。そ う 考 え て、起 き る ま で ? 一難去って、また一難 26 りに関しては他が霞むほど詳細に述べた。 ﹃もしかして、七草の長女にはそのケがあるのかしら ﹄ 二人とも、それは女性の会話にしては生々し過ぎるよ﹄ ﹁お母様、それはもしやレ・・・﹂ ﹃ちょっと待ったっ ? わね ﹄ ﹃コホン、もしかしたらタツヤさんの疲労には、その雌狸が関わっているかも知れない の光りを浴びることは無かった。 を交えた会話は深雪が肩を震わせる程の内容で、当然の事ながらその後阿呆は二度と日 深雪の両名だが、叔母で当主の四葉 真夜と母、それから二人の父で深雪達の祖父元造 向にある。以前、四葉の施設に潜入を試みた阿呆の処遇を話す所に居合わせたタツヤ、 間一髪、危ない発言を止めた龍郎。どうにも四葉の血を継ぐ者は話が生々しくなる傾 !? ﹂ ? ﹁すまなかったな、深雪。毛布をありがとう﹂ しまった様だ。 る。その度に頭のアホ毛が動く。どうやら三人の会話が思いの外弾んだことで起きて 真夜の疑問に答えるタツヤ。いつの間にか身体を起こしており、眠たそうに眼を擦 ﹁お姉様、起きていらしたんですか ﹁狸ではないですよ、母よ。あれは狸の皮を被った蛇です﹂ ? 27 ﹁良いんですよ。日頃からお姉様には守っていただいていますから・・・これくらいは 当然です﹂ ﹃さて、実は二人には凄い入学祝いがあるのよ﹄ 仲睦まじい姉妹愛を披露する二人であるがそれに割り込むように深夜は声をかけた。 その言葉からは察する事からそれが物なのか、権利なのかは分からないが母が笑みを絶 ﹄ やさない所を見るに余程のモノなのだろうとは想像できる。 ﹂ ﹂ ﹃深雪さん。貴女、お姉さんになるのよ﹄ ﹁はっ ﹁ほ、本当ですか ﹃本当よ、龍郎さんが毎日激しいんだから、キャッ ﹃いやいや、深夜さんの美貌が僕を動かすんだよ﹄ 見た目と違って以外に歳を行っているのだから身体を気遣ったらどうなのかと考え と、タツヤは内心で毒づいていた。 やりやがった 画面の向こうで相変わらずイチャついている二人に かの母による懐妊の報告、良く見れば母の腹部が少しふっくらしているのが分かった。 タツヤは困惑の表情を浮かべ、深雪は身体を前に乗り出して目を輝かせていた。まさ ! !? ? 一難去って、また一難 28 ていたが画面の向こうの母は両手で顔を隠してくねくねと身体を動かしている。 男の子ですか 女の子ですか ﹂ 前言撤回だった。あの夫婦は歳不相応に元気だった。 ﹁そ、それでお母様 ? ? お母様 ﹂ ﹃安心して深雪さん。男の子と女の子の双子よ ﹁流石です ば日を跨いでいたそうだ。 ﹄ タツヤは現実を放棄して毛布にくるまった。その後も妹と母の会話は白熱し、気づけ ! る。そんなこの場で、深夜は更なる油を注ぐ。 妹の深雪も早くも性別を聞く程テンションが上がって最早収拾がつかない状態であ ! ! ﹁ハハ、ハハハハ・・・もういいや。疲れた﹂ ! ﹁うおおおおおおっ ﹂ そしてこの寺の歓迎は少し手荒い。何故なら、 名︶。 職なのだ。ついでに現役の忍で、古式魔法である忍術を継承する似非坊主︵タツヤ命 来たのはお寺である。ここはタツヤが武術を学んだ場所であり、師匠である男は寺の住 から離されてしまう。それを補う速度で走っていても、彼女は汗一つ流さない。やって それ以上の速度で駆け抜けていた。タツヤはその身長故に普通に歩いても直ぐに深雪 たバスケットを片手にローラーブーツで、彼女は日々の鍛練の一環で妹と並走するか、 そんなタツヤだったが、心機一転切り替えて朝の町を疾走していた。妹は朝食の入っ 葉を覚えたのか聞きたかったが、妹の笑顔が怖くとても聞ける勇気は無かった。 記載できない放送禁止用語なんかも連発して頭が痛かった。そもそも何処であんな言 しまい、毛布にくるまっていたタツヤにも二人の会話は聞こえていた。それこそ文面に 司波 タツヤは寝不足だった。あれからヒートアップした母娘の会話は日を跨いで ようじょのゆううつ その1 29 !! ようじょのゆううつ その1 30 木製の門を開けた瞬間に、むさ苦しい漢共が群がってくるのだ。日々の鍛練で鍛え抜 うおおおおおおっ ﹄ かれた暑苦しい事この上ない肉体が迫る中、それ以上に彼等の視線が凄まじかった。 ﹃タ・ツ・ヤちゃーん !! 少しは気概を見せろ 気概をっ ﹂ !! もう一本を使って迫り来る木刀を捌いていく。 ﹁どうした、お前達の相手は学生だぞ ? ﹁僕もどうやったらあの身体で大の大人を吹き飛せるのか知りた・・・﹂ の声である。深雪もそれを聞くや否や、辺りに注意を配る。 深雪の言葉に被せるように聞こえてきた男の声。これはタツヤが似非坊主と呼ぶ男 ﹁うんうん、そうだよね﹂ ﹁やはり戦いに身を置くお姉様もまた美しいです﹂ 雪はうっとりと頬を染める。 木刀を持つ手を弾いて顎を打ち抜くタツヤ、まるで舞っているかの様な立ち回りに深 ! 同士討ちさせた。二本の棍を奪取すると、片方で乗っていた修行僧を地面に押し付け、 僧の身体は宙に浮き、その肩へと飛び乗ると両サイドから向かってくる棍を受け流して は、先ず前方から来る修行僧の懐に入って土手っ腹に拳を叩き込んだ。拳を受けた修行 を戦闘体勢に切り換えた。普段では先ず見ることのない鋭く冷たい瞳となったタツヤ 荒ぶる修行僧共の熱烈な声に、タツヤは表情を歪めるが同時にスイッチを入れて精神 ! 31 そして真後ろから腕を広げて迫る彼だったが、目の前を木刀が通った事で、足を止め た。直ぐに鼻の頭がムズムズしてきたので触ってみると、擦りむいており、出血してい 似非坊主﹂ た。彼、九重八雲が視線を右に向けると、片手に持つ木刀で修行僧をあしらいながら此 方を睨み付けるタツヤの姿があった。 ﹁それ以上、深雪に近づかないでくれますか ﹁ははは、口が悪いねタツヤちゃん﹂ に入るやも知れないと八雲は考えていた。 それだけ彼女の底が見えなかったのだ。 ・・ ﹁良かったら次は僕が相手になるよ。もう彼等では飽きただろう ? 分程続き、仰向けで横になるタツヤと、肩で息をしながら立っている八雲がいた。 そう言うや否や、爆発的な瞬発力で八雲との距離を詰めるタツヤ。二人の組手は10 ﹁分かりました。今日こそ勝たせてください・・・師匠﹂ ﹂ 達する者もいる。数万分の一と言う途方もない確率だが、もしかしたらタツヤもその中 強くはなれない。中には例外的に、その限界と言う壁を越えた超人と呼ばれる領域に到 界と呼べるモノがある。それがその人の最終到達点であり、それ以上はどう足掻いても た。前回来たときよりも速く、強くなっている。武術の世界において、人間には必ず限 笑いながらタツヤを見る八雲は、彼女の後ろに積み上げられていく修行僧の山を見 ? ﹁まだまだだね、タツヤちゃん﹂ ﹂ ﹁止めてください。気持ち悪い﹂ ﹁お姉様、大丈夫ですか ﹂ ? である。もう二度と、目覚めさせてはいけない。 それがなければ彼女は人ではない。彼女を人に留めておく存在こそが、傍らにいる少女 と位簡単に出来る。それをしないのは、戦いとは言え一定の節度を持っているからだ。 えていた。多少の痺れはあったが、それももう治った。今のタツヤなら人の骨を折るこ 彼女は優しかった。似非坊主とか言いながらもしっかり怪我をしない程度で力を抑 ﹁ようやく痺れが取れてきたね。全く・・・﹂ いたりした。 八雲は先に寺の本堂へ向かっていく二人の背中を眺めては、自分の手を握ったり、開 ﹁お姉様も師匠も、朝御飯にしませんか 雪は、自分とタツヤの服の汚れをCADで綺麗にし、バスケットを見せる。 組手が終わり近づいてきた深雪に起こされたタツヤは心底悔しそうにしていた。深 ? 三年前、 ﹃悪魔﹄と呼ばれ、家族に仇なした存在を一人残らず塵へと変えた存在だけは 彼女 " が出てきたら、現行の魔法師は太刀打ち出来ないからね﹂ 絶対に・・・。 ﹁ " ようじょのゆううつ その1 32 33 ﹁おい、似非坊主。深雪の作った朝食は要らないのか ﹁おいおい、僕の分も残しておいてくれよ﹂ ﹂ いつの間にかバケットの中身を広げて先に食べている少女が八雲を呼んだ。 ? ﹁あ タツヤちゃんおっはようー ﹂ ! ﹁お前達の頭がこうなるからな・・・ムシャリ、うんうん、中々に旨いな。今度また送っ リンゴは無惨に握り潰され、 グシャリ 一拍開けて周囲の視線を集めるタツヤ。その手にはリンゴが握られており、次の瞬間 ﹁お前達に一つだけ言っておく。もしも私の背の事で笑う奴がいたら・・・﹂ 事があった。それは、 手を振るエリカのせいで要らぬ注目を集めたタツヤ。何かを言われる前に言うべき ! エリカ、柴田 美月の両名の姿があった。 学校に着いて別れた二人はそれぞれの教室に向かう。一年E組に入ると、既に千葉 相まってかなり目立っていた。 前日と同じ様に二人で登校する彼女達、歳不相応な身長のタツヤや、深雪のルックスが 似非坊主八雲の元を後にしたタツヤと深雪は一度家にタツヤの制服を取りに戻った。 ようじょのゆううつ その2 ようじょのゆううつ その2 34 35 てもらおう﹂ 果汁は下に配置された紙コップに注がれ、果肉は食される。食べ物の恨みは怖い。先 人の教えを守るタツヤは単にコンプレックスを弄るなよと警告を発したが、言葉にわり に食べ物を大切にするギャップがあり、あまり怖がる者は居なかったが、それでもあの 体格でリンゴを軽く潰せる事を頭に入れるE組のメンバー達だった。 何とも言えない空気になってしまった事に少しは責任を感じるタツヤは、そのまま コップの中のリンゴの果汁を飲む。席に着くとタツヤは受ける授業の選択をタイピン タツヤちゃん、入力速いね﹂ グで行う。それを見ていたエリカ達は素直に感心の声を上げる。 ﹁うわっ ﹁龍夜・・・か。なぁ、タッちゃんって呼んでいいか ﹂ ﹁そうか、私は司波 龍夜。女らしくない名前ですまない﹂ ﹁俺は西城 レオンハルト、気軽にレオって呼んでくれ﹂ ものだった。 三人の会話に突如介入する男子の声、その主はちょうどタツヤの前の席に座る生徒の ﹁そうそう、俺なんて全然無理だぜ﹂ ﹁いえ、それは誰でも出来る速度ではないと思いますよ﹂ ﹁慣れれば、そうでもないさ﹂ ! ? ようじょのゆううつ その2 36 かなりフレンドリーに接してくるレオンハルトに、タツヤ手の動きが僅かに止まっ た。だが直ぐに持ち直すと入力を終えてまじまじと相手を見た。スラッとした長身と 言うのが第一印象だが、服の下には適度に鍛えられた肉体が隠されている事をタツヤは 分析して導きだした。 ﹂ ﹁随分鍛えているんだな。それも肉弾戦向けにな。さしずめ得意魔法はそれを補助す るモノ、例えば硬化魔法とか 少し濁して説明すると、何とかドロウと言う技術を持つある警備会社経営の子息の森 やって来て一足先に終えていたタツヤが引き下がる事になった。 はタツヤの姿を見つけた深雪が一緒にどうかと聞いてきたがそこに一科生の集団が ただ、そこで四人を待っていたのは、一科生とのつまらぬ小競り合いの連続、お昼に ていた内容を全て胸の内に仕舞い込み、エリカ達と上級生の授業見学に向かった。 犬。特に宜しくするつもりもないが、いざと言う時に役に立つと考えたタツヤは思考し 彼女だが、タツヤだけはその正体を知っていた。自分と同じ似非坊主の弟子で、公安の 来上がった所で、教室に一人の女性が入ってきた。小野 遥、カウンセラーと名乗った それから将来の事に関して盛り上がり、後々まで長い付き合いとなる集団の基盤が出 ﹁あぁ、実技は苦手だが分析や解析は得意だ。将来は魔工技師を目指している﹂ ﹁へぇー、パッと見ただけでそこまで分かるのかよ﹂ ? 37 なんとか君が事ある毎に騒ぎ立てていたのだ。お陰で深雪の森なんとか君に対する怒 りのボルテージが右肩上がりで上昇しており、これまた何処かの名門のお嬢様もハンカ チを噛み締めたり、ぶつぶつと呪詛を呟いていたそうだ。 事が動いたのは、同日の放課後の事だった。 タツヤと一緒に帰りたい深雪氏をストーキングする何とか駿君基、一科生仲良し組の ﹂ 面々。両者の主張は平行線であり、正直話を聞いていたタツヤはくだらないと一蹴しよ うかとも思っていた。 ﹁どうして姉妹の仲を裂こうとするんですか ﹂ ﹂ ﹁全く、これだから血の気の多い餓鬼は・・・﹂ 本人が苛立って集中力が乱れていた為、加減を間違えてしまった。 してしまう。いかに彼が優れていると言えど、口論の末の突発的な魔法の行使、加えて とうとう森氏はやってしまった。懐から特化型のCADを取り出して魔法式を発動 ﹁そんなに知りたければ、今すぐ教えてやる 言うんですか ﹁そもそも私達は入学したばかりです。今の時点でどれだけ一科生が優れているって を突き動かした。 美月の当たりハズレの微妙な一言にピクリと眉を動かす森氏、続けて出た言葉が森氏 ? ! ? ようじょのゆううつ その2 38 ﹁お姉様 ﹂ ﹂ ﹁おい、お前 ﹁はっ 今すぐにCADを離せ ! ﹂ 壊する気だ。そこでタツヤは咄嗟に叫んだ。 前にタツヤはやや遠方からの魔法の行使を確認した。照準は森氏のCAD。確実に破 ちょうど深雪やクラスメイトと森氏を結んだ直線上に立って迫ろうとした。だが、その ぶ つ ぶ つ と 文 句 を 垂 れ な が ら も、森 氏 の 魔 法 の 行 使 を 止 め さ せ よ う と 動 く タ ツ ヤ。 !? !! !! 痛みから膝を着いて叫び声を上げた。 お、俺の手がぁああああ !! ﹂ ? は、タツヤが毛嫌いする七草 真由美。笑みを絶やさないその表情から、森氏への明確 タツヤが睨む先、沈んでいく夕陽をバックに二人の生徒が立っていた。その内の一人 ﹁貴女はいったい、何をしているんですか・・・七草会長 れよりもCADを破壊する魔法を行使した魔法師を睨み付けた。 まるでドラマの様にボタボタと流れる血に、一部の生徒が目を背けるが、タツヤはそ ﹁いぎゃあああああっ ﹂ 一筋の光が森氏のCADを貫き、破壊した。その際の爆発で森氏は手から血を流し、 ボンッ 自分に向けられたタツヤの叫び。訳がわからない森氏は、ワンテンポ行動が遅れた。 ? ! 39 な敵意を感じ取ったタツヤ。対して彼女の言い分はこうだった。 ﹁うふふふ、何って・・・貴女を守ったのよ、タツヤちゃん。魔法師としての節度を破 る者を罰するのは、生徒会、ひいては十師族の責務ですから。それに知人が魔法のター ゲットにされているのだもの、助けるのが当然じゃない﹂ そして、痛みに耐える森何とかの命運はいかに・・・。 ただの喧騒から、一気に修羅場へと変わる校門。果たしてこの場を、タツヤはどう やって切り抜けるのか ﹁貴様は黙ってろっ ﹂ ﹁タツヤちゃんを害したのだから勿論、極刑に決まっているじゃない﹂ ? ! ﹂ ? る ヤの事を呆然と眺めていたが、ふと二人にしか見えない程の小さな光が発生し、急に痛 て森崎氏に近づき、懐からハンカチを取り出して止血の処置を施した。森崎氏は、タツ き起こしたとも考えている。先ずは相手の止血が先と考えたタツヤは、真由美を無視し は予てより知っていた。それに対処せずにのらりくらり避けてきた事が今回の事を引 も重要なのだ。しかし、それをタツヤは看過できなかった。彼女の自分への異常な執着 傷しようが、知ったことではない。彼女の中で、タツヤを手に入れる事はどんな事より 守 躇せず森崎氏のCADを魔法で撃ち抜いた。 例えCADが爆発して森崎氏が手を負 入学式の笑顔とは打って代わりに鬼も逃げ出すどす黒いオーラを纏った真由美は、躊 ﹁私のタツヤちゃんにぃいいいい、何をしているのかぁあああしら がタツヤに対して攻撃性のある魔法を行使して見えた︵実際そうではある︶。 女のタツヤに対する歪んだ愛情︵LIKEではなくLOVEの方︶は彼女には、森崎氏 憎と目の前に居るのは真由美ではなく狸の皮を被った蛇ことMAYUMIさんだ。彼 違反、いや犯罪となる。元の世界の良識ある真由美ならそこで終わっていたのだが、生 七草 真由美は怒っていた。基本的に自衛目的以外での魔法による対人攻撃は校則 ようじょのゆううつ その3 ようじょのゆううつ その3 40 みが引いていく事に戸惑いを覚えた。タツヤは冷や汗をかきながら彼の耳元で囁く。 ﹁処置はしておいた。その布で血でも拭いておけ﹂ ﹂ 森崎氏から離れたタツヤは、怒気を孕ませた声で真由美に尋ねる。 ﹁貴女はいったい、何をしているんですか・・・七草会長 ? に行っておけ﹂ はすまなかったな明らかにこのバカがやり過ぎた。此方で手配をしておくから医務室 ﹁そこまでしておけ、真由美。ここからは風紀委員会の領分だ。先ずはそこの一科生 真利が止めに入る。 で無言の戦いを繰り広げようとしたが、それを真由美の後ろにいた風紀委員長の渡辺 ぶっ壊れている変態特有の反応だった。睨むタツヤと嗤う真由美は二人だけの世界 ︵はぁー、睨んでくるタツヤちゃんも可愛いわ。お姉さん感じちゃった︶ ではなく、単に・・・ タツヤに睨まれた瞬間、真由美は身体がビクッと反応した。これは彼女に対する恐怖 ゲットにされているのだもの、助けるのが当然じゃない﹂ 者を罰するのは、生徒会、ひいては十師族の責務ですから。それに知人が魔法のター ﹁うふふふ、何って・・・貴女を守ったのよ、タツヤちゃん。魔法師としての節度を破る 41 ﹁い、いえ、俺が早まりすぎたのは事実です﹂ 先程までとは違う、大人しくなった森崎に真利はそうかと頷く。 ﹁いいか、さっきこいつが言ったが、自衛目的以外での魔法による対人攻撃は犯罪だ。 ﹂ 私 も 後 輩 の 中 か ら 犯 罪 者 を 出 し た く な い。今 回 は、厳 重 注 意 と 反 省 文 で 終 わ ら せ る が・・・次は無いぞ。ほら、行くぞバカ ﹁ふざけないでください ﹂ お姉様は貴女の様な変態には渡しませんっ さっさとそのおバカを連れ帰ってください 毎年恒例の重要な話があるんだ﹂ 渡辺委員長、 ﹁分かりました。ですので早くそのバカをお姉様の視界から消してくださいっ ﹂ ﹁お、おう。そう言えば、司波 深雪くん。明日のお昼に生徒会室に来てくれないか !! 様に深雪が遠い目をしながら前に出てきた。 摩利に制服の襟を掴まれた真由美は何とかしてタツヤに迫ろうとしたが、それを遮る ﹁あぁん、待って・・・せめて、せめてタツヤちゃんを抱き締めさせて﹂ ! ほのかが深雪に聞いた。 ﹂ 残った一科生、二科生の間に微妙な空気が漂った。彼女達を代表して、一科生の光井 こうして、深雪のお陰もあってタツヤの一番の問題である真由美は居なくなったが、 !! ? !! ! ﹁司波さん達って、七草会長と知り合いなの ? ようじょのゆううつ その3 42 43 ﹁いえ、知り合いと言いますか、向こうが勝手に言い寄ってくるんです﹂ 実際には十師族と言う凄い関係なのだが、それを話すわけにはいかず、適当に誤魔化 した深雪だったが、それでも拭えぬ事実が一同には見えていた。 ︵︵︵︵︵︵︵七草会長って、ロリコンだったんだ︶︶︶︶︶︶︶ 実際にはここにレズビアンも加わり、かなりブラックなお方なのだが、そこまで想像 できなかった一同だった。結局、最終的に残ったのはタツヤと同じE組の三人に、深雪 と彼女のクラスメイトのほのかに、彼女の親友の北山 雫と騒動の中心である森崎氏 だった。そんな中でタツヤは、肩の荷を降ろし、深雪を見た。 ﹁さて、帰るとしよう深雪﹂ ﹂ ﹂ ﹁そうですね、お姉様。色々と聞きたいことも有りますし・・・皆さんも途中までどう ですか ﹁お、おい深雪。何を勝手に・・・どうした にタツヤは何食わぬ顔で答える。 森崎は気になっていた。何故二科生と、ウィードと蔑む自分を助けるのか。そんな彼 ﹁何故だ、何故俺を助ける様な真似を・・・﹂ 氏を見て首を傾げた。 深雪の発言に苦言を言おうとしたタツヤは何かを言いたそうにして自分を見る森崎 ? ? ようじょのゆううつ その3 44 それとも君は私が見てみぬ それならそうと言ってくれれば私も吝かでは ﹁怪我をした人がいれば助けるのは当たり前の事だろう 振りをする外道になって欲しかったか ない﹂ ﹁いや、そんな事は・・・﹂ ? ﹁司波・・・タツヤさんか﹂ た。 僅かに赤みを帯びており、それが夕陽によるモノなのか否かを知るのは本人だけだっ 陽に照らされた背に時折跳ねるアホ毛。自分の手と握られたハンカチを持つ彼の顔は 森崎氏は、クラスメイト達と帰るタツヤの後ろ姿を見届ける事しか出来なかった。夕 え﹂ めしない。ちょっかいを出さなければ大丈夫だと思うが、念のために覚えておきたま ﹁それとこれは忠告だ。生徒会長様は私にご執心の様だからあまり近づくことはお薦 る。 タツヤの言っている事は至極当たり前の事だった。続けて彼女は森崎氏に忠告をす ? あぁ、そ、そうだな﹂ ? ﹁・・・ズゥー﹂ あ ﹁さて、話して貰えますか ﹁・・ッ ? あくまで四葉の名前を隠しながらの説明になる。最も本人は其どころではないらしく、 にバレない様にやりきる。深雪は黒い笑みを浮かべて全てを話せと、言ってきているが 事について尋ねてきた。妹の不意打ちに吹き出しそうになったタツヤだが、何とか周り それぞれに頼んだ品が行き渡り、タツヤがコーヒーを一口飲んだ所で唐突に学校での 一同はそれぞれスイーツを注文し、深雪が話を切り出すのを待っていた。 は目の前にいる。七草を退けたはいいが、手を引かれるまま学校近くの喫茶店に入った 女子の中に一人だけ男というのも苦行を元男ととして察したタツヤだった。が、今の敵 となった。レオは、 ﹁女子会を楽しんでこいよ﹂と言って逃げ帰った。確かに座席の数や 席の真ん中に彼女が座り、その左右にエリカと美月。対面に深雪とほのかと雫が座る形 タツヤは妹とクラスメイト、妹のクラスメイトに囲まれていた。六人掛けの喫茶店の !? お姉様﹂ ようじょのゆううつ その4 45 ボロが出ないか心配である。 ﹁七草会長とは、昨年の九校戦を見に行った事で知り合ったもとい目をつけられたの だ。誠に不本意かつ迂闊だったと思う﹂ 九校戦とは、日本にある九つの魔法科高校による学校毎の魔法の技能を競う運動会の ﹂ 様なものだ。そこに反応したのは、無表情で口数の少ない北山 雫が反応した。 ﹁去年の九校戦は凄かったね んでいたが、実際は・・・ ? あの娘の目は、姉妹を大切に思う目と ﹁深雪は何故こうも悪い方向にしか考えを巡らせられないのか﹂ には凍るほど温度が下がる。 いた。これは深雪の感情の変化による干渉力が及ぼす現象で、急激に冷されていき、時 取り繕うにも来店時よりも黒いオーラが強くなっていて周囲の温度が下がり始めて ﹁へぇー、私の知らない所であの女とそんな事を ﹂ を横に振らざるを得ない。そして、まとな状態の妹ならこの説明で理解してくれると踏 ヤの持つ別の側面として行っていたので四葉、又は司波 タツヤとしてと言われると首 織り混ぜて説明をしていた。実際に九校戦の会場に行った事は事実だった。ただ、タツ どうやら毎年九校戦を見ている様でそこに食い付いたようだ。タツヤは嘘と真実を !! ﹁タツヤちゃんが関わっているからじゃない ? ようじょのゆううつ その4 46 47 生徒会長と似た目をしていたわ﹂ エリカの言葉はタツヤにとって信じられない事だった。深雪が、妹があの狂乱者と同 じなわけがないと、否定したいタツヤだった。が、確かに第三者から、自分達姉妹と七 草を客観的に見れる者達にはそう見えていたのだろう。一人の少女を賭けて行動する 二人は同類に見えていた様だ。しなし悠長な事は言っていられません。タツヤは深雪 ﹂ が頼んだコーヒーが凍るのを見て、流石に不味いと無い身長の代わりに身を乗り出して お姉様の気のせいでは 周囲の温度が下がっている。止めるんだ﹂ 彼女の手を取る。 ﹁深雪 ﹁何を言っているんですか ? になるとそれで魔法が暴走したら目も当てられない状況にもなりえる。とりあえず席 女は深読みから有らぬ事を想像する傾向にある。人はそれを妄想と言うが、深雪クラス 少ししょんぼりするが今の彼女を擁護しようとはタツヤは思わなかった。そもそも彼 徒会長とのやりとりの時よりも低い声に深雪の肩が動いた。ようやく我に返った様で、 タツヤの一喝は、他の四人にも普通に聞こえている。学校とは、それこそ校門での生 ルしろ。深雪﹂・・・お姉様﹂ ﹁アハハハ、そんなわけ﹁わけが有るから言っているんだ。いいか、感情をコントロー ﹁深雪、私は本気で怒るぞ﹂ ? ! ようじょのゆううつ その4 48 に座り直したタツヤは、冷めたコーヒーを飲んで話の続きを行う。 ﹁話はずれたが、その九校戦でたまたま会った私は、七草会長のオモチャにされてな、 すっかり気に入られたのだ。どうにも以前より兆候があったらしいのだが、約一年に渡 これからどうするの あの反応を見る限り、必ず接触してくるわ﹂ る別れがあの人を暴走させた。と、私は考えている︵この作品内では元から歪んでいま す︶﹂ ﹁で ? ﹂ !? ﹁もう いったいお姉様は何を考えているのですか 何か考えがあるのか、勿体ぶるタツヤ。彼女の口から出た言葉とは・・・。 も絶対に怯まない。だから・・・﹂ ﹁だろうな。あの人の諦めの悪さは、噛み付いてきたスッポン並みだ。雷を聞かせて ? たのだ。そこで再度尋ねた所、姉の口から出たのは、 ざった声だった。実は彼女のあの後ほぼ放心状態でタツヤの話が耳に入っていなかっ 夜、自宅に帰って来て最初に出てきたのはやっと正常に戻った妹の驚きと呆れの混 ! 49 ﹁明日の生徒会の絡み、私も行くぞ。ここ数日、あの人に振り回されてきたが、正直う んざりしているからな。ハッキリと言うつもりだ﹂ 深雪と共に七草会長の元に出向くと言う旨だった。そんな事をすれば向こうは要ら ぬ勘違いをするだろう。だが、ここまで付きまとわれてうんざりしていたタツヤはどう にかして彼女に諦めてもらう他なかった。確かに、個人的には元男であるので、美女に 寄られることは嬉しくも思う。が、あれはそれを抜きにしてもヤバイ部類に入る人間 だ。 ﹁ですがそれはお母様や叔母様を通して内々に事を進めれば・・・﹂ でしたら深雪も喜んでお手伝い致します ﹂ ﹁いや、これは私が直接言う必要がある。向こうにスッパリ諦めて貰うには、私自身の 殺るんですか ! 手で引導を渡すしかないんだよ﹂ ﹁ヤるんですか ? ﹁いたッ ﹂ ﹁あくまで言葉のあやだ。勘違いするな﹂ 冷静に宥めた。 再びスイッチの入った深雪はハイライトの消えた目でタツヤを見るが、それを彼女は ? ためにキッチンへと消えた。一人リビングでソファーに横になるタツヤは天井を見て ポコンと比較的弱い力で頭を叩く。一先ず翌日の方針を確認した深雪は、夕食を作る !? ようじょのゆううつ その4 50 溜め息をつく。 ﹁なんか疲れたな。普通の人と話がしたい﹂ 切実すぎるタツヤの呟きはそのまま虚空へと消え去った。果たして、彼女が休まる日 が来るのか ? 生徒がおり、両手を繋がれて塞がれていた。一人は勿論、妹の深雪だ。もう一人は、 朝、淀んだ表情を浮かべるタツヤがいた。両サイドには満面の笑顔で歩く二人の女子 うなってしまったのか、それを説明するには朝まで遡らなければならない。 その渦中の一人であるタツヤは、現実逃避をしようとその場から離れる。どうしてこ ﹁あー、もう私は知らん。勝手にやってろ﹂ らは殺気が滲み出ていた。 にかこの場の空気を変えれないかと模索していたが見つからず、相対する二人の生徒か 血を流して倒れる男子生徒に、怯える小柄な女子生徒。その隣にいた女子生徒はどう その場にいる者の前に広がるのは惨状だった。 放課後、第一高校の訓練場 骨は拾ってやる 1 51 骨は拾ってやる 1 52 ﹁うふふふ、やっぱりタツヤちゃんの小さな手は柔らかくていいわ♪﹂ 七草 真由美だった。学校に向かう最中にまるで図ったかの様に現れた彼女、初めは どうにかして撒こうと考えたが周りには大勢の生徒や一般人が居て視線が集まってい た。その後の事も考えて仕方がなく一緒に登校する事になったがそこで真由美が手を 繋ぎだし、それに深雪が負けじと手を繋いできて今に至るのだ。 心なしか二人の笑顔は時に般若の様に歪み、相手を睨んでいる。女二人の殺気に挟ま れ る と 言 う 貴 重 な 経 験 を し た タ ツ ヤ は そ の ま ま 注 目 の 的 に な り な が ら 学 校 に 着 い た。 その後、教室に着いたタツヤは、クラスメイト達から根掘り葉掘り聞かれて意気消沈し ていたそうだ。 皆大好き昼休み、タツヤは深雪と合流して魔境を目指した。ただならぬ雰囲気を醸し 出す魔境こと生徒会室。その扉を開けようとした時、突然扉が開いたのだ。しかし、後 ﹂ ろには深雪がいて避けれないタツヤの顔面にドアノブが・・・ ﹁グギャッ 以外にも小柄な少女だった。 めり込んで吹き飛ばされた。タツヤの意識を一瞬で刈り取ったドアを開けた人物は、 !? 53 ﹁あわわわ、ごごご、ごめんなさい ﹂ ! 大丈夫ですか ﹂ 涙目になって頭を下げる彼女だったが、深雪はそんな事よりも先ずは倒れた姉の元に 駆け寄る。 ﹁お姉様っ ? ﹂ ? あー、死ぬかと思った﹂ !? ゴキッ 振る奴は別だ。手を出されたので手を差し出して立ち上がろうとすると、 涙目で自分を見る少女に、タツヤは怒ろうにも怒れなかった。無論、その後ろで手を ﹁あ、ああ、なんとかな﹂ ﹁だだ、大丈夫ですか ﹁ムググググ・・・ぷはっ り、顔の真ん中に丸く赤みを帯びた痕が残った。 ものの見事にドアノブの形で変形したタツヤの顔だったが、脇を押し込むと元に戻 !? ﹂ いた。彼女のコンプレックスは生まれ持った剛力だった。ほっそりとした体つきに反 まるでチンパンジーやオラウータンの様な剛力の少女。中条 あずさはほぼ泣いて ヤ。握っただけ、たったそれだけで手の骨が折れた。 タツヤの手からなってはイケナイ音が鳴る。涙を浮かべて、直ぐ様治療を行うタツ ﹁ヒウッ !? ! 骨は拾ってやる 1 54 してその握力は計測器を振り切る程ある。その為、良く物を壊してしまい、彼女の使用 するCADや生徒会実のドアノブは彼女が握っても壊れない位頑丈である。それを知 らなかったタツヤは、彼女の餌食となったのだ。 何とか生徒会実に入ってきたタツヤと深雪。それを待っていたのは謂わずもがな会 長である真由美とその他生徒会役員と思われる女子生徒と風紀委員長の渡辺 摩利だ。 涙目のあずさを宥めるのは、会計の市原 鈴音である。タツヤは二人から視線を外して ﹂ ニコニコと微笑んでいる魔境の主である真由美を見た。 ﹁先程から何か用ですか ? ﹁そうだ。毎年一年の総代には生徒会に所属してもらう事になっている。その事を言 した事はない︶﹂ ﹁そ、そうですか。もしかして深雪が呼ばれたのは ︵二科生であることをこれ程感謝 でなかったら是が非でも生徒会に入れたいと豪語していたんだよ﹂ ﹁昨日といい、このバカがすまないな。君の事をかなり気に入っていてね、君が二科生 る。 清々しい程に歪んでいる真由美。彼女の隣にいる摩利は、苦笑しながら親友の頭を殴 お姉さんは嬉しいのよ﹂ ﹁いいえ、タツヤちゃんを眺めることが私の生き甲斐だからね、こうしていれるだけで ? 55 おうと思って呼んだんだ﹂ ﹂ ﹁その件については断る理由はありませんが、なら何故お姉様がこの場に呼ばれたの ですか ね ﹂ ? ﹂ ? そんなの当たり前よ。何たってお姉様は、最強なのよ。 ? それを分からないバカが二科生にして、劣等生のレッテルを貼られてしまった。それを ﹁お姉様が正当に評価される 一言、二言言おうとしたが、ただならぬオーラを感じて横を見た。 まさかそんなふざけた理由で自分の能力が暴露されるとは流石にタツヤも真由美に されるのよ深雪さん﹂ ヤちゃんは二科生だからとあれやこれやと言われる事が無くなるわ。そう、正当に評価 ﹁でもでも、タツヤちゃんの力は必ず学校の風紀の為に役に立つわ。そうすれば、タツ ﹁七草会長、少々モラルが欠けてないですか タツヤは、真由美を睨むが向こうは笑っているだけだった。 まさか真由美の口から自分の持つスキルに関する事が出回るとは考えていなかった ﹁っ ﹂ ﹁実は真由美から君を風紀委員会にどうかと言われてな。魔法の解析が得意だそうだ 深雪の質問、それに答えたのは呼び出した真由美ではなく摩利だった。 ? !? 骨は拾ってやる 1 56 取り除くのは寧ろ当然の成り行きよ。だいたい、お姉様との二人きりと言う至福の時間 を割いてここに来ているのに、何かしらあの態度。ヘラヘラと笑って無駄な肉が付いて チビ はっ ? 好きに言ってなさい ! 今のお姉様のお姿こそが至高な いるだけのメスじゃない。お姉様のパーフェクトなボディーの前には全てが無価値な ﹂ のよ。ロリコン のよ ? ! とただならぬ殺気を漂わせていた。 ﹂ お姉さんのチカラを見 ! ! る。二人の舌戦が止まったのは、業を煮やした風紀委員長の鉄拳が真由美の顎を打ち抜 そっぽを向いて、お茶を飲みながら妹の作った弁当を堪能していた。止める気ゼロであ 似 た 者 同 士、虚 し い 言 い 合 い を 続 け る 二 人。今 の 二 人 に 関 わ り た く な い タ ツ ヤ は、 見ていてくださいね、 ヤってやりますとも ﹁流石の私もカチンッと来たわ。表に出なさい 殺ってやりますよ ! ! せてあげるわ ﹂ ﹁望むところです お姉様 ! ! 司波 深雪 引きつっており、生徒会長に至っては100年前の漫画の主人公の様に、ゴゴゴゴゴッ の一つ一つに冷気が込められて部屋の温度が下がっていた。それに生徒会役員の顔も 問題発言を連発している深雪の顔は怖かった。ぶつぶつと呪怨の様に放たれる言葉 ! ︵アーキコエナイ、ナニモキコエナイヨー︶ ! 57 いた時であり、タツヤは我関せずと言った感じで他の役員二人と離れてお茶を堪能して いた。 何処まで行っても渦中にあり続けるタツヤは疲れ果てていた。果たして、彼女に平穏 は訪れるのか。 や足が垂れていた。 ? ﹂ ? 立場が逆転する。やはり持つべきは戦友なのだと改めて感じさせられた一時だった。 最高じゃないかと、内心頷く彼女がいた。本来は逆の立場の筈なのにこの時ばかりは まう。生徒会で御幸に、風紀委員会で摩利に守られる。 利自身はタツヤの味方だ。それならば別に風紀委員会への所属も悪くないと思えてし 見えてしまうタツヤだった。確かに元々があのバカの企てだとしても、それに乗った摩 どうやら彼女は常識人の様だ。あんな醜い争いを見た後だからこそ、彼女が天使にも い。頼めるか 守る位はしてやれる。だから、君には悪事を働く阿呆共を捕まえる手伝いをして欲し う。見た所、かなり苦労しているみたいだ。風紀委員長として、一生徒をバカの手から ﹁安心しろ、死にはしないさ。それにタツヤちゃん、私はあのバカから君を守ろうと思 ﹁ま、摩利さん。会長は ﹂ 吹き飛んだ真由美は生徒会室の壁にめり込みピクピクと僅かに動いた後にだらりと腕 タツヤを賭けたた深雪と真由美の舌戦を征したのは、摩利の拳だった。回転しながら だから潔く散りたまえ 2 だから潔く散りたまえ 2 58 59 結局、お昼を食べ終えても真由美は復活する事はなく、一先ずはお開きとなった。ま た放課後にここに来るように言われ、今度は自分から了承したタツヤ。その顔は戦いに 勝利した者の顔である。 午後の授業はこれまでにないくらい好調で、いつも以上に魔法の発動が遅かった。 実はタツヤちゃん、本家本元と違い感情を殺さなくとも魔法が使えるのだ。それ以外 の特異な力も寸分違わずに使え、かなり状態が良かった。ただ、やはりデリットが存在 それは感情の起伏や種類によって魔法の していた。完全無欠な人間など存在しない。もし居たとしたらその者は既に人ではな く、人の皮を被った存在Aだろう。 ではタツヤの抱えるデメリットとは何か まりは殺意が自分を強くする。これも似非坊主の言った 悪魔 の存在が関与してい " ない。座学、筆記ともなれば有り余る記憶能力でトップを維持できる。彼女成績もあく 故に昼休みの高揚が続いている今のタツヤでは、合格ラインギリギリの成績しか出せ し、それがある切っ掛けを機に起きてしまったのだ。 る。本来は存在しない筈のイレギュラーから生じた歪みがタツヤ自身に影を産み落と " とも歪んだ力だと、謎を解明した時のタツヤは思っていた。。己の持つ怒りや憎しみ、つ 発動を最も阻害する要素であり、怒りや憎しみは逆に彼女の魔法の行使を助長する。何 威力や発動効率がシビアに変化すると言うものだ。その中でも喜びとは、彼女の魔法の ? だから潔く散りたまえ 2 60 までも学校が定めた基準であり、その枠組み内での彼女はあまりにも矮小だった。 ﹂ ﹁やはり、本能が喜んでいるせいで発動が遅いな﹂ ﹁タツヤちゃんは今終わった所 を浮かべて笑う。 さあて、どうしようか﹂ いた経歴を持つタツヤ、今から彼等をどう弄ってやろうかと考えて楽しそうに黒い笑み いっそのこと自分で育成するのも良いのかもしれない。前世では部下を百人程率いて レ オ と 美 月 は 要 相 談 だ。二 人 は 化 け る か も し れ な い が そ れ は 今 後 の 彼 女 等 次 第 だ。 と踏んでいる。 達とは長い付き合いになると考えている。特にエリカは千葉家の娘だ、その実力は高い おり、待っていたのか、と嘆息する彼女がいる。なんだかんだ言ってこの場にいる彼女 授業内での測定が完了し、検査室から出てくるタツヤ。その前にはレオやエリカ等が ? 凄い怖いんですけど・・・﹂ ﹁クックックックッ ﹁何あれ ! が、タツヤという存在に警鐘を鳴らしていたのだ。しかしそこは人間、本能ではなく感 タツヤの笑みを、三人は冷や汗を流しながら見ていた。この時、既に彼等の生存本能 ﹁果てしなく嫌な予感しかないです﹂ ﹁同感だな﹂ ? 61 情で動く生物だ。たれも彼女の持つ個性的な一面なのだろうと良い方向へと解釈し、静 観することに決めた。 ﹁司波さんようこそ生徒会へ、それと何故君のような雑草がここに居る﹂ 放課後、昼休みの話にあった通り生徒会室に再びやって来たタツヤと深雪はそこにい た一人の男子生徒に、対称的な出迎えを受けた。既に真由美以外の生徒会役員は揃って おり、自分を雑草と呼ぶ男子生徒の発言にタツヤの高揚していた感情は一気に日本海溝 程の深さまで下がった。同じく彼の発言に、深雪も不快感を露にしているが、男子生徒 がそれを知る由もない。幸い、今この場に真由美の姿はない。タツヤLOVEな彼女が 居れば間違いなく修羅場になっていた事は、昼休みのやり取りを見ていた摩利を含めた 三人には容易に想像できた。しかし、彼女達の安堵も束の間、生徒会室の扉が開かれて、 鼻の頭に絆創膏を貼り付けた真由美が入ってきたのだ。因みに摩利が殴り飛ばして真 はんぞーくん、どうしたの ﹂ ﹂は、はい ﹂ ! 確か生徒会に関す 由美が空けた穴は、昔ながらの布を画鋲で張り付けて隠す事にした。 ﹁あら ? ﹁あぁ、会長。何故彼女の様な雑草をここへ呼んでいるんですか る説明・・・﹁はんぞーくん ? ? ? だから潔く散りたまえ 2 62 ﹂ ﹂と情けない声を出 はんぞーくんの言葉を遮って、真由美は彼の名前を呼ぶ。心なしかどす黒いオーラが 彼女の全身から発せられ、タツヤと深雪を除いた全員が﹁ひぃっ す。フフフ、と乾いた笑い声を出す真由美は彼の肩を掴むと力一杯握る。 ﹁誰が雑草なのか私に教えてくれないかしら。ねぇ、服部刑部少丞範蔵君 かつて、誰かが言った。 無知は罪なり・・・と。 ? !?
© Copyright 2024 ExpyDoc