IFRS解釈指針委員会での議題から却下された論点~ IAS第10号

PwC’s
View
特集 : 英国 EU 離脱(ブレグジット)
Vol.
7
March 2017
www.pwc.com/jp
会計/監査
IFRS ICによる却下通知(リジェクションノーティス)
~IFRS解釈指針委員会での議題から却下された論点~
IAS第10号「後発事象」
PwCあらた有限責任監査法人
アカウンティング・サポート部
はじめに
「IFRS IC リジェクション」
とは、一般に、IFRS解釈指針委
IAS第10号
「後発事象」
の却下通知
員会(以下、
「IFRS IC」
という。)が議題として取り上げないと
IAS第 10 号は、後発事象と呼ばれる報告期間の末日後に
判断した論点をいいます。IFRS ICは、関係者から寄せられ
発生する事象(かつ財務諸表の発行の承認日までに発生す
たさまざまな論点を検討します。論点が議題として追加され
る事象)について、どのような場合に、そしてどのような方法
ると、解釈指針の開発や狭い範囲の基準の修正(「年次改
で財務諸表に反映しなければならないかに関するガイダン
善」
としての修正を含む)
の検討が開始されます。一方で、多
スを提供しています。
くの論点は、議題として取り上げることが却下(リジェクショ
対象となる事象が報告期間の末日時点に存在した状況に
ン)
されています。IFRS ICは、却下した論点について、論点
ついての証拠を提供する場合には、財務諸表を修正するこ
の 概 要と、議 題にしないと判 断した理由を簡 潔にまとめ、
とになります。そうでない場合には、財務諸表を修正しませ
ウェブサイトなどで公表しています。
「却下通知(リジェクショ
んが、開示が求められる場合があります。修正を要する後
ン・ノーティス)」
と呼ばれるこの情報は、基準承認の権限を
発事象かどうかの決定は、判断に高く依拠することが多いと
有する国際会計基準審議会(以下、
「IASB」
という。)の審議
いえますが、この IAS第 10 号に関連して IFRS ICで議論され
を経ずに公表されるものですので基準書ではありませんが、
た論点は 1 件しかなく、この論点も検討の結果、議題として
有用な情報といえます。
は却下されました。
これまでどのような論点が IFRS IC に提出され、どのよう
な却下通知が公表されたのか、今回は IAS第 10号「後発事
象」
を取り上げて解説します。
論点
一部の法域では、有価証券の公募などの類似取引に関連
して、財務諸表を再発行することを証券取引法および規制
慣行が要求または容認する場合があります。また、規制当
局が、財務諸表の再発行(二重日付)を容認または要求する
場合もあります。
また、一部の証券取引法や規制慣行では、財務諸表の最
初の発行承認時と再発行時との間に発生した事象または取
引を、国の法令により修正が要求される場合を除き、再発
行した財務諸表に認識することを要求しない場合や容認し
ない場合があります。
しかしながら、IAS第10 号では、財務諸表の発行承認日ま
でに発生した全ての後発事象(修正を要するものも修正を要
しないものも全て)を考慮することを要求しています。
2013 年 5 月、IFRS ICは、財務諸表が再発行された場合
に、IAS第 10 号が複数の発行承認日を認めるのか、そして、
当初承認日と再発行日の間に発生した事象を更新する必要
があるのか、更新する必要がある場合にはその範囲を明確
にするよう要請を受けました。
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PwC’s View — Vol. 07. March 2017
会計/監査
IFRS ICの検討
例えば、財務諸表が比較目的でより新しい財務諸表として
IFRS ICは、IAS第 10 号は、報告期間後に発生する事象の
同一文書の中で再発行され、かつ、比較情報の変更につい
会計処理と開示に関連する事項を扱う基準であるということ
ての IFRSの特定の要求事項に従って修正されるケースがあ
に留意しました。本基準の目的は、どのような場合に後発事
ります。
象の影響を報告日に財務諸表に反映するよう修正すべきか
(およびどのような場合に財務諸表を修正しないが開示が求
められるか)について財務諸表作成者の理解を助けることで
す。
IFRS ICは、IAS第 10 号で定義されている財務諸表の承認
日は一つだけであることを明確に表明しました。また、当初
発行した財務諸表を取り下げずに再発行した場合の、再発
行の財務諸表の表示は、IAS第 10 号の範囲には含まれない
とIFRS ICは明言しました。各法域で再発行に関する要求事
項は異なるため、IFRS ICはこの論点を議題に加えないこと
を決定しました。
可能性のある取り扱い
IFRS IC はこの論点を議題とすることを却下しましたが、
実務でこの論点をどのように扱うべきでしょうか。各国の要
求事項は、通常、当初の承認日と再発行日の間に発生する
事象に関して、何を更新すべきか、または何を更新すること
ができるかを規定しています。
PwCは、誤謬の訂正以外のケースで、財務諸表を再発行
する場合にこの論点に対応する方法として次の 2つがあると
考えます。
●
再発行する財務諸表に新たな承認日がある場合:
新たな承認日までに発生した、修正を要する後発事象およ
び修正を要しない後発事象に関して、IAS第 10号の要求事
項に従う。
●
再発行する財務諸表に新たな承認日がない場合:
当初の承認日後の後発事象を反映するような修正を行わな
い。
再発行する財務諸表に新たな承認日がないケースには、
表1:IAS第10号に関するIFRS IC却下通知の要旨
トピック
公募文書に関連して再発行
され た 財 務 諸 表 に関 する
IAS第 10号の適用(2013年
5月)
結論の要旨
IAS第10号は複数の発行承認日を認めているか?
認めている場合には、当初承認日と再発行日の間に発生した事象を更新する必要があるのか、更新する必
要がある場合にはその範囲は?
IFRS ICは、IAS第 10号が当初発行した財務諸表を取り下げずに再発行した財務諸表の表示を扱っていない
こと、また、各国には財務諸表の再発行に関する固有の法規制があることを理由に、この論点を議題として
取り上げないことを決定した。
PwC’s View — Vol. 07. March 2017
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