2017/2/27 福岡支店 住所:福岡市中央区舞鶴 2-4-15 電話:092-738-7779(情報部) URL: http://www.tdb.co.jp 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 賃金改善を見込む企業、過去最高の 52.4% ~企業の 7 割超、賃金改善の理由は「労働力の定着・確保」~ はじめに 2017 年の景気は、 「悪化」や「踊り場」局面になると考える企業が前年から減少したうえ、 「分 からない」が過去最高となるなど(「2017 年の景気見通しに対する九州企業の意識調査」、2016 年 12 月 27 日発表) 、先行きが一段と見通しにくくなっている。その一方で、政府は官民対話等を 通じて賃金の引き上げを要請している。そのため、雇用確保とともにベースアップや賞与(一時 金)引き上げなど、賃金改善の動向はアベノミクスの成否を決定づける要素として注目されてい る。 このようななか、帝国データバンクは、2017 年度の賃金動向に関する企業の意識について調査 を実施した。本調査は、TDB 景気動向調査 2017 年 1 月調査とともに行った。 ※ 調査期間は 2017 年 1 月 18 日~1 月 31 日、調査対象は九州・沖縄地区の 1,973 社で、有効回 答企業数は 731 社(回答率 37.1%) 。なお、賃金に関する調査は 2006 年 1 月以降、毎年 1 月 に実施し、今回で 12 回目。 ※ 賃金改善とは、ベースアップや賞与(一時金)の増加によって賃金が改善(上昇)すること で、定期昇給は含まない。 調査結果(要旨) 1. 2017 年度の賃金改善が「ある」と見込む企業の割合は 52.4%。前回調査(2016 年度見込み、 2016 年 1 月実施)を 8.3 ポイント上回った。調査開始以降で初めて 5 割を超え、過去最高を 更新 2. 賃金改善の具体的内容は、ベア 43.0%(前年度比 7.9 ポイント増) 、賞与(一時金)28.6% (同 2.9 ポイント増) 3. 賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が 78.6%と 3 年連続で増加し、過去最高を記 録。また「同業他社の賃金動向」の割合も過去最高を更新した。改善しない理由は、 「自社の 業績低迷」が 55.0%と前年調査より 4.8 ポイント減少。また、 「同業他社の賃金動向」は 2 年連続で 2 割を超え、他社の動向をうかがう企業が拡大 4. 2017 年度の総人件費は平均 2.68%増加する見込み ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 1 2017/02/27 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 1.調査開始以来初めて賃金改善を見込む企業が半数を超える 2017 年度の企業の賃金動向について尋 2017 年度の賃金改善見込みの有無 ねたところ、正社員の賃金改善(ベースア ~規模・業界・従業員・県別~ ップや賞与、一時金の引き上げ)が「ある」 と見込む企業の割合は 52.4%となり、前回 調査(2016 年 1 月)における 2016 年度見 込み(44.1%)を 8.3 ポイント上回った。 賃金改善見込みのある企業の割合は 2 年ぶ りに増加し、調査開始以来初めて 5 割を超 えた。 他方、 「ない」 と回答した企業は 21.9% と前回調査(25.7%)を 3.8 ポイント下回 った。また、 「分からない」は 4.5 ポイント 減少した。 「ある」が「ない」を 5 年連続で 上回ると同時に、その差も 30.5 ポイントと 調査開始以来最大を更新した。2017 年度の 賃金動向は改善傾向にある。 2016 年度実績では、賃金改善が「あった」 企業の割合は 3 年連続で 6 割を超え、景気 の先行き不透明感が増すなかで、多数の企 業が賃金改善を実施していた様子がうかが える。 2017 年度に賃金改善が「ある」と回答した企業の割合を業界別にみると、 『運輸・倉庫』が最 も高く、 『不動産』 、 『卸売』 、 『サービス』が続いた。 従業員数別では、 「21~50 人」 (60.4%) 、 「51~100 人」 (56.2%) 、 「6~20 人」 (55.4%)が 5 割を超えた。他方、 「5 人以下」 「101~300 人」は 4 割台に、 「301~1,000 人」では 2 割台にとど まっており、賃金改善を見込む企業の中心は中小企業であることが示唆される。 賃金改善状況の推移 あった/ある 2015年度見込み (2015年1月調査) なかった/ない 分からない 48.9% 2015年度実績 (2016年1月調査) 25.5% 62.8% 2016年度見込み (2016年1月調査) 32.6% 44.1% 2016年度実績 (2017年1月調査) 25.7% 65.3% 2017年度見込み (2017年1月調査) 20% 30.2% 21.9% 40% 60% 注:2015年1月調査の母数は有効回答企業792社、2016年1月調査は775社、2017年1月調査は731社 ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 4.5% 29.4% 52.4% 0% 25.6% 2 5.3% 25.7% 80% 100% 2017/02/27 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 2. 賃金改善の具体的内容、ベア実施企業が 43.0%、賞与(一時金)は 28.6% 2017 年度の正社員における賃金改善の 賃金改善の具体的内容 具体的内容は、 「ベースアップ」が 43.0% となり、 「賞与(一時金) 」は 28.6%となっ た。前回調査(2016 年度見込み)と比べる と、それぞれ 7.9 ポイント、2.9 ポイント 50 (%) ベースアップ 43.0% 38.6% 40 35.1% 増加した。「ベースアップ」は、2015 年度 見込み(2015 年 1 月調査、38.6%)を上回 28.6% 30 24.4% った。 特に「ベースアップ」は、全国と比較す 2 0 1 5 年 度 見 込 み 20 ると 2.7 ポイント高く、景況感を反映して、 賃金改善に取り組む企業の割合が高くなっ 賞与(一時金) 10 ている。 0 2 0 1 6 年 度 見 込 み 2 0 1 7 年 度 見 込 み 2 0 1 5 年 度 見 込 み 25.7% 2 0 1 6 年 度 見 込 み 2 0 1 7 年 度 見 込 み 注:2015年度見込みは2015年1月調査、2016年度見込みは2016年1月調査、2017 年度見込みは2017年1月調査、。母数は2015年度775社、2016年度731社、2017年 度731社 3. 賃金改善理由、 「労働力の定着・確保」が 7 割超で過去最高を更新 2017 年度の賃金改善が「ある」と回答した企業 383 社にその理由を尋ねたところ、最も多かっ たのは「労働力の定着・確保」の 78.6%(複数回答、以下同)となり過去最高を記録した。人手 不足が長引く一方、より良い人材の確保が必要とされるなか、2015 年度以降 3 年連続で前年を上 回っており、企業が賃金を引き上げることで労働力の定着・確保を図ろうとする姿勢が一段と強 まっている様子がうかがえる。さらに「自社の業績拡大」 (46.5%)が続いた。また、 「同業他社 の賃金動向」 (23.8%)は 4 年連続して過去最高を更新し、他社の賃金動向をより意識する傾向が 強まっている。 他方、2016 年度に過去最大の引き上げ幅となった「最低賃金の改定」をあげる企業が過去最高 となったが、 「物価動向」で賃金改善を行うとする企業は急速に減少している。 企業からは、 「公共土木において、技術者と作業員が不足しているし、求人を出しても応募がな い。 事業拡大や高齢化による退職に備えて人員を確保するには、 賃金を改善するしかない」 (建設、 大分県)や「現状の雇用環境では人材確保を目的に生活水準を勘案した賃上げを行わなければい けない」 (パルプ・紙・紙加工品製造、沖縄県)など、人材の確保が喫緊の課題で、課題克服のた めに賃上げを行うとする意見がみられた。しかし、 「上げるのは簡単だが、一時的な忙しさである 可能性はぬぐえないため、不安はある」 (鉄鋼・非鉄・鉱業、福岡県)といった賃金改善を行うも ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 3 2017/02/27 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 のの、先行きの不安感を訴えるコメントも見られた。 他方、賃金改善が「ない」企業 160 社にその理由を尋ねたところ、 「自社の業績低迷」が 55.0% (複数回答、以下同)と前回調査(59.8%)より 4.8 ポイント減少、業績低迷をあげる企業は減 少傾向にある。また、 「同業他社の賃金動向」をあげる企業は 2 年連続で 2 割を超えており、自社 の賃金決定に他社の動向をうかがう企業が徐々に増えてきた。 企業からは、 「売り上げが低迷する一方で必要な設備更新は行わねばならず、賃上げできる状況 ではない」 (放送業、長崎県)など、業績不振や事業継続に必要な設備投資があるために賃金改善 が実施できないとする意見がみられた。 賃金を改善する理由(複数回答) 0 20 40 (%) 60 68.2% 労働力の 定着・確保 80 75.4% 78.6% 48.3% 52.6% 46.5% 自社の 業績拡大 16.5% 20.5% 23.8% 同業他社の 賃金動向 2015年度 見込み 9.3% 10.5% 16.2% 最低賃金の 改定 物価動向 8.9% 2016年度 見込み 2017年度 見込み 19.6% 15.5% 注:2015年度見込みは2015年1月調査、2016年度見込みは2016年1月調査、2017年度見込みは2017年1月調査。母 数は賃金改善が「ある」と回答した企業、2015年度387社、2016年度342社、2017年度383社 賃金を改善しない理由(複数回答) 0 20 40 (%) 80 65.3% 59.8% 55.0% 自社の 業績低迷 同業他社の 賃金動向 18.3% 20.1% 22.5% 人的投資の 増強 19.3% 23.6% 18.8% 13.9% 19.1% 18.1% 内部留保の 増強 物価動向 60 7.0% 2015年度 見込み 2016年度 見込み 13.4% 2017年度 見込み 14.4% 注:2015年度見込みは2015年1月調査、2016年度見込みは2016年1月調査、2017年度見込みは2017 年1月調査。母数は賃金改善が「ない」と回答した企業、2015年度202社、2016年度199社、2017年度 160社 ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 4 2017/02/27 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 4. 2017 年度の総人件費は、2.68%増の見通し 2017 年度の自社の 2017 年度の総人件費見通し 総人件費は、2016 年度 と比較し てどの程度 変わらない 増加 変動すると見込んでい 減少 分からない 総人件費 9.0% 11.5% 平均 2.53 %増 るか尋ねたところ、 「増 加」と回答した企業の 2016年度 61.5% (2016年1月調査) 17.9% 割合が 67.9%にのぼっ た。他方、「減少」は 7.8%にとどまってお り、総じて企業は人件 費が増加すると見込ん でいる。また、全国と 2017年度 高く、 「減少」企業で 0.4 ポイント低い結 果となり、増加を見込 む企業の割合が高い。 14.9% 7.8% 9.4% 平均 2.68 %増 注1:2016年1月調査の母数は有効回答企業775社、2017年1月調査は731社 注2:「増加」は「1%以上3%未満増加」「3%以上5%未満増加」 「5%以上10%未満増加」「10%以上増加」の合計。 注3:「減少」は「1%以上3%未満減少」「3%以上5%未満減少」 「5%以上10%未満減少」「10%以上減少」の合計。 比較すると、「増加」 企業で 1.5 ポイント 67.9% (2017年1月調査) 2017 年度の総人件費の増加見通し ~業界別~ 100 3.18 3.00 80 60 81.8 72.0 2.94 2.11 3.73 71.1 2.51 67.6 68.0 69.2 3.12 2017 年度の総人件 費は前年度比で平均 0 4.0 3.0 1.94 2.0 65.9 40 20 単位:% 1.0 40.0 -0.94 0.0 -1.0 18.2 運輸・倉庫 2.68%増加すると見 不動産 小売 製造 サービス 「増加」計(左目盛り) 卸売 建設 農・林・水産 -2.0 金融 平均増加率(右目盛り) 込まれる。また、前回 調査(2016 年 1 月)と比較すると「増加」が 6.4 ポイント増、 「減少」が 1.2 ポイント減となり、 総じて 2017 年度の人件費は前年度より増大すると予想される。 業界別にみると、 『運輸・倉庫』で「増加」すると回答した企業の割合が最も高く、総人件費の 増加見通しは平均 3.18%にのぼった。また、総人件費は販売スタッフの人員確保に苦慮している 『小売』で平均 3.73%増と業界別で最高だったほか、職人不足が深刻な『建設』 (3.12%増)も 含めた 3 業種が 3%を超えている。 企業からは「デフレ状況の中で、最低賃金が上がり、周りの間接経費も上がり、商品は安売り しなければならない環境で、どうやって利益を出すのかわからない」 (飲食料品小売、熊本県)や 「最低賃金のアップに伴い、非正社員は上げなければいけないものの、正社員もそれに伴って上 げなければならない。 しかし価格競争が厳しいため、 製品価格には反映できない」 (電気機械製造、 佐賀県)など、賃上げに必要な原資の確保に苦慮する声がみられた。 ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 5 2017/02/27 特別企画:2017 年度の賃金動向に関する九州企業の意識調査 まとめ 2017 年の国内景気は、個人消費の動向がカギを握るとみられており、雇用・所得の増加が重要 となる。政府が民間企業に賃上げを促す「官製春闘」も 4 年目を迎えたなか、賃金動向がアベノ ミクスの評価を左右する大きな要素となっている。 2016 年度には 65.3%の九州・沖縄企業が賃上げを実施したうえ、2017 年度は過去最高となる 52.4%の企業が賃金改善を実施する見通しとなった。さらに、賃金改善の「ある」企業の割合が 「ない」企業の割合を 30.5 ポイント上回っており、2017 年度の賃金動向は概ね改善傾向にある。 また、改善内容についても「ベースアップ」を考えている企業が過去最高(43.0%)となった。 その結果、企業の総人件費は平均 2.68%上昇すると見込まれる。 しかしながら、賃金改善の理由として「自社の業績拡大」をあげる企業は 4 年連続で減少して いる。 「労働力の定着・確保」をあげる企業が 78.6%と過去最高を記録するなど、人手不足が長 期化するなかで労働力の定着・確保を喫緊の課題として、賃金改善を実施する傾向が一段と強ま っている。 業績改善を背景としない賃上げは限界に近付いている。経済の先行きに不透明感が漂うなか、 企業が賃上げを継続的に実施するためにも、政府に対しては特に中小企業の業績改善を促すため の政策が求められる。 【内容に関する問い合わせ先】 株式会社帝国データバンク福岡支店情報部 担当:昌木 裕司 TEL 092-738-7779 FAX 092-738-8687 当レポートの著作権は株式会社帝国データバンクに帰属します。 当レポートはプレスリリース用資料として作成しております。報道目的以外の利用につきましては、著作権法 の範囲内でご利用いただき、私的利用を超えた複製および転載を固く禁じます。 ©TEIKOKU DATABANK, LTD. 6
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