相場展望レポート (2017 年 3 月) 2017.2.28 志摩 力男 氏 2017 年 3 月相場展望 ドル円 110.00 - 115.50 ユーロドル 1.0200 - 1.0800 ユーロ円 116.00 - 121.00 豪ドル円 84.50 - 88.50 トランプ政権誕生 1 ヶ月 1 月 20 ⽇の⼤統領就任式、その後⽮継ぎ早に出された⼤統領令、⽇⽶⾸脳会談と、本当にたくさんの材料を こなしてきました。 その間、ドル円相場はどう推移したかというと、トランプ政権の⽅向性がはっきりと⾒定められない中、や や調整気味に推移してきました。トランプ⼤統領は⽇本と中国の「為替操作」を非難しましたが、⽇⽶⾸脳 会談では為替は議題とならず、むしろトランプ⼤統領と安倍⾸相の親密さが⼤きくクローズアップされ、⽇ 本側としては「100 点満点の⾸脳会談」との評価もされました。特に、防衛問題に関しては、 「尖閣防衛」が 明言されたことで、⽇本政府は安堵したに違いありません。 しかし、 「為替問題」が議論に上らなかったからと言って、すぐ円安になっていく、というわけではないでし ょう。⾸脳会談後の為替相場は、イエレン議⻑がタカ派的発言をしたことで 115 円近辺まで突っかけました が、上値で叩かれ、重い印象が残っております。⽇⽶の間で何らかの為替に関する「密約」があるのではな いか、そうした観測も消えません。安倍⾸相がトランプ⼤統領と⼆⼈だけで回った追加の 9 ホールで何が話 し合われたのか?知っているのは当⼈たちだけです。麻生財務相がうっかり「120 円に達したわけではない」 と具体的なレートを口にしてしまいましたが、このことも⽇⽶為替「密約」の一つの根拠になっています。 わかれる相場観 トランプ⼤統領という、前代未聞の⼤統領を前に、市場の⾒⽅も分かれています。トランプ政権が⾏うであ ろう税制の⼤改革を前にすると、ただでさえ完全雇用に近づいてきたマーケットで、⼤規模な減税措置をと るわけですから、⽶⾦利は上がる可能性が⾼い。こうした⾯にスポットをあてて分析するエコノミストは概 して⽶ドルに対して強気です。一般的にこの分析をされる⽅々は、ドル円の⾼値を 120 円ぐらいに想定して います。 トランプ政権にはもう一つの側⾯があります。 「保護主義」です。ピーター・ナヴァロ氏とウイルパー・ロス 1 相場展望レポート (2017 年 3 月) 2017.2.28 氏が共同で出しているペーパー『Scoring the Trump Economic Plan』を読むと、どのような政策を今後取 りたいのかよくわかります。ペーパーによると、⽶国の経済成⻑が低下したのは、⾃由貿易の結果、貿易収 支が赤字になっているのと、他国にばかり投資するので⾃国への投資が少ないから、ということになってい ます。ナヴァロ氏は正統派経済学者とはみなされてないかもしれませんが、GDP の計算が消費+投資+政府 支出+貿易収支という計算式になっているわけですから、 「投資」が増え、 「貿易収支」の赤字が改善すれば、 ⽶国はもっと成⻑できるという主張には一定の説得⼒があります。ペーパーには、貿易収支を改善するため の⽅策がいろいろ書かれていますが、 「為替」についてもかなりのページを割いて説明されています。中国や ⽇本の為替政策への批判、ユーロドルがかなり割安なため、ドイツの貿易⿊字が巨額に上っていることも指 摘されています。 このペーパーに書かれている内容を基に為替レートの将来を分析すると、当然ドルの頭は重いということに なります。では、どのあたりが適正(予想)レートになるかというと、やはり 100 円割れぐらいのところで はないでしょうか。 購買⼒平価でみたドル円の訂正レートはいくらかというと、おそらく 95 円-100 円前後のところではない かと思われます。⽇⽶のインフレ率は一時期を除いて、構造的に⽶国の⽅が 2%程度⾼いわけですから、2- 3 年前のドル円適正レートが 100 円前後ということになれば、この 2-3 年のインフレ率格差を考えると現 状では 95 円ということになります。 実際、⽇本の外へ出ると、円がいかに弱い通貨かということがよくわかります。どの国に⾏っても物価が⾼ く感じられます。⽇本企業に勤め、⽶国へ赴任している⼈に聞くと、ただもう、物価が⾼すぎてやっていけ ないといいます。 経済政策を評価するのか、それとも保護主義的な⾯を重視するのか、120 円なのか 100 円なのか、どの⾯を 重視して予測するのかで、全く違ってきます。これは今後も続くのでしょう。私としては、保護主義的な側 ⾯が最終的にはより重要になる可能性が⾼い感じがしますが、状況次第でこれは簡単にひっくり返ります。 この点が、トランプ政権下でのトレーディングの難しさでしょうか。 混迷化してきた欧州情勢 フランス⼤統領選挙については、ルペン氏の支持率が候補者の中で最も⾼く、第 1 回目の投票ではトップに なる可能性が⾼いと思われます。ただし、決選投票では中道系の候補、フィヨン氏なりマクロム氏なり、誰 が来たとしても、ルペン氏には勝てると想定されております。すなわち、少し「ひやっと」しますが、ルペ ン氏に勝ち目はないので、最終結果に波乱はないだろうと考えておりました。しかし、これは甘かったよう です。 ユーロ円の 3 ヶ月 25 デルタ・リスクリバーサルが、かなりユーロプットプレミアムで取引されています。5% 近く割⾼ですが、ちょっとこれだけのスプレッド差は考え難い。そこまでプットサイドのプレミアムが⾼い と異様です。それでもユーロプットを欲しい⼈が多いようですが、このスプレッド差が維持可能なのでしょ うか?直観的には無理に⾒えますが、それでもユーロプットを買って安⼼したい投資家は多いのでしょう。 2 相場展望レポート (2017 年 3 月) 2017.2.28 冷静な情勢分析が常に正しいと思いつつも、市場がこのようにユーロの下サイドヘッジに動き出すと、無視 するわけにはいきません。⼈々は理由があって市場で売買するというより、値が動いてしまったので売買し なければならないという⼈の⽅が圧倒的に多いと思います。要は、ユーロの売りに付いていくというより、 積極的に売りでとっていかないといけない相場になる可能性が出てきました。 新興国通貨、資源国通貨が健闘 トランプ新政権下では新興国経済は打撃を受けるのではないかとの観測が強かったのですが、現在豪ドルは 好調です。⾦利引き下げ局⾯が終わり、鉄鉱⽯等の資源価格も上昇しています。基本的に中国経済が堅調だ ったことが⼤きいかもしれません。鉄鉱⽯等の資源価格も上昇してきています。 欧州、そして BREXIT 懸念の残る英国は、⼤きな資⾦を動かす中央銀⾏、ソブリンウェルスファンド、巨⼤ 投資信託等からは、今後避けられる傾向にありそうです。その意味では、欧州売りの新興国買い、資源国通 貨買いの傾向はしばらく続くかもしれません。 しかし、どうもこの豪ドル上昇について⾏って良いものか、少し疑問もあります。というのは、資源価格の 上昇も、豪経済の好調も、中国経済がよくなっていることの裏返しであります。しかし、その中国、⾒た目 の経済成⻑率は良いですが、⺠間貸し出しが異様なほど⾼い⽔準であり、この信用の伸びをどう正常化させ るつもりなのか、想像を絶するレベルに来ております。 今すぐにどうなるということではないかもしれませんが、5 年で倍増した⺠間貸し出しがどうなるのか、注 意しなければなりません。向こう数年の世界経済最⼤のリスクが中国にあるということは、まちがいないで しょう。 ドル円 保護主義 VS 成⻑戦略、このバランスがどうなるかでドル円の⽅向性が決まります。目先はトランプ経済対 策期待がありますが、その先は、すこしスケジュール的に保護主義的な動きが注目されやすいかもしれませ ん。3 月 15 ⽇期限の⽶債務上限期⽇がどうなるのか、4 月に中国が「為替操作国」として認定されるのか、 それも重要です。今月は 110 円-115 円レンジと想定します。 ユーロドル 欧州への不安が急速にクローズアップされており、いつ何時崩れるかわかりません。今月は 1.02-1.08 程 度のレンジを想定しますが、状況次第で更なるダウンサイドリスクがあるかもしれません。 ユーロ円 今年は、ユーロ円はあまり相場にならないのではないかと考えていましたが、欧州情勢懸念が強まっており、 3 相場展望レポート (2017 年 3 月) 2017.2.28 欧州売り+リスクオフとなれば、当然ユーロ円は売られます。116.00-121.00 豪ドル円 短期的に一部新興国通貨、資源国通貨はブームです。豪ドルへの資⾦流⼊、もうしばらく期待できそうな感 じです。しかし、トランプ政権の動き次第で、いつ何時、リスクオフ相場が席巻するかわからないリスクも あります。84.50 円-88.50 円レンジを想定します。 ■ 志摩 力男 氏 氏プロフィール 慶應義塾大学経済学部卒 1988 年~1995 年 ゴールドマン・サックス証券会社 2006 年~2008 年 ドイツ証券等 大手金融機関にてプロップトレーダー(自己勘定トレーダー)を歴任、 その後香港にてマクロヘッジファンドマネージャー。 世界各地のヘッジファンドや有力トレーダーと交流があり、現在も現役トレーダーとして活躍。 ■ ご留意いただきたい事項 マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証す るものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の 取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を 提供することはありません。 本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわす ものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されること がございます。 当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判 断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。 当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資に かかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。 本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・ 配布することはできません。 当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品 等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。ま た、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が 生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定 の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元 本)を上回る損失が生じるおそれがあります。 なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説 明」をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第 165 号 加入協会:日本証券業協会、一般社団法人 金融先物取引業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会 4
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