17 地域医療 急増するイネ科花粉 藤 崎 洋 子、藤 崎 茂 イネ科花粉は、時にはアレルギー性鼻炎、結膜 他の花粉と比べると長く、しかも、5月と8月~ 炎、花粉喘息などの花粉症を起こす原因とされて 9月に、それぞれピークを示す。即ち、前期は5 いる。 月をピークとする初夏型花粉(カモガヤ、オオア 1972年(昭和47年)から、新潟市中央区で行っ ワガエリなど)で、後期は8月、9月をピークと ている空中飛散花粉調査結果をみると、イネ科花 する秋型花粉(イネ、コムギ、オオムギなど)で 粉数は近年まで年次変動は大きくはなかった。し ある。この前期と後期の花粉の種類の違いが、臨 かし、ここ数年は急にその花粉数が増加しており、 床症状の差をもたらすのである。前期に属する花 その影響も少なくはないのではないかと考え、今 粉症の方が飛散数は多く抗原性も強いので、アレ 回はイネ科花粉数の動態について検討してみた。 ルギー症状を悪化させる傾向がみられる。これは イネ科の植物は世界的に広く生育し、約550属、 ヨーロッパや、シベリア原産の牧草として輸入さ 1万種も存在し、約2万種のキク科に次ぐ多種類 れ、各地に増殖していったためとされる。一方、 の植物とされている。日本では約80属、200 ~ 後期のイネ科は日本固有の植物として生育された 300種が知られており、被子植物の中では最大な ものが多く、抗原性も低い傾向がある。これらの 科とされ、草本類では風媒花として、最も良く進 観点から、最近5年間のイネ科花粉の前期、後期 歩した科とされる。人類の重要な食物である穀物 の 割 合 を 表 1 に 示 し た。 前 期 飛 散 量 は72 % ~ は、イネ科の種子であり、また、草食の哺乳類の 87%と多く、後期飛散量は13 ~ 28%と少なかっ 主要な食物でもある。 た。従って抗原性の高い前期のイネ科の方が、臨 イネ科植物は道路縁、空き地、山野、海辺など 床上、重要なのである。しかし、8月初発の喘息、 でよく見かける。例えば、スズメノカタビラ、ス アレルギー性鼻・結膜炎もみられるので、後期の ズメノテッポウ、エノクログサ(ネコジャラシ) 、 花粉も注意する必要がある。 ハマニンニク、カラスムギ、カモガヤ、オオアワ 以上、イネ科花粉飛散の実態と発症状況につい ガエリ、シバ、メヒシバ、オヒシバ、オオムギ、 て述べたが、その飛散が4月に始まり、抗原性も コムギ、イネ、トウモロコシ、ヨシ、アシ、スス 強いことなどから、スギ花粉症との関連性を見落 キなどである。これらの中には、明治初期に牧草 として移入され、各地に帰化したものも多いとさ れている。 イネ科の空中飛散数は、表1に示したように、 ここ数年、著明に増加している。因みにそれ以前 の40年 間 の 5 年 毎 の 平 均 飛 散 数 は、 本 会 報 No.755(平成25年4月)に示したように、年間 2 124 ~ 189個 /cm(平均165個 /cm2) であったのに、 こ こ 5 年 間 は、261 ~ 781個 /cm ( 平 均461個 / 2 cm2/ 年)と急増している。 イネ科花粉の飛散期間は4月から10月までと、 表1 イネ科花粉数の割合 花粉数 総数 前期 後期 (個 /cm2) (1月~6月) (7月~12月) 年 2012 261 188(72%) 73(28%) 2013 350 259(74%) 91(26%) 2014 403 317(79%) 86(21%) 2015 511 441(86%) 70(14%) 2016 781 677(87%)104(13%) 新潟県医師会報 H29.2 № 803 18 すわけにはいかず、実際にイネ科、スギの重複例 イネ科花粉はその飛散数が、スギ、ヒノキ花粉 は20%~ 25%にみられる。 に比べて少ないので、イネ科花粉症については、 近年、マスコミでスギ花粉予報が流されている 医師、患者とも気付かない場合が多い。5月を中 が、飛散終了頃になると、 「花粉飛散」は終了と 心として、4月から6月にかけて、症状の悪化が 報道される。しかし、これは単に「スギ」花粉だ みられるアレルギー性疾患に対して、イネ科花粉 けのことであって、他の花粉飛散が終ったのでは の関与を疑ってみることも大切かと思われる。 ないので、誤解を与えている恐れがある。実際に 何れにせよ、ここ数年急増しているイネ科花粉 は、4月はイネ科、カバノキ、ニレ、ブナ、クル 数の動きを注視してゆく必要があろう。 ミ、マツ、タデ科などの飛散開始の時期で、注意 (新潟市:藤崎医院) する必要がある。 会員 寄稿 “原 稿 募 集” 下記要領で原稿を募集いたしますので、ご投稿をお待ちしております。 ○字 数 ① 750字以内(本誌1/2頁) 、白秋夜話(9月号) *炉辺閑話(1月号)、緑陰随筆(5月号) ② 3,200字以内(本誌2頁以内) ○題 材 医療に関するエッセイ、趣味、旅行、体験談、県医師会関係者の著書に関する書評、詩歌、 医療関係者による行事・会合等の報告、など医師会活動の情報提供、会員の親睦、といった 県医師会報の目的に沿った内容を募集いたします。 ○締 切 募集は年間を通じて行います。 原稿数や紙面の都合等で掲載が遅れる場合がございますのでご了承ください。 ○掲載回数 同一会員の原稿掲載は、1期(4~7月号) 、2期(8~ 11月号) 、3期(12 ~3月号) の各期ごとに1編のみとさせていただきます。 ○そ の 他 掲戴の採否、時期等については広報委員会において決定いたします。 新潟県医師会報 H29.2 № 803
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