現場からのオピニオン - 全国老人保健施設協会

現場からのオピニオン
∼介護現場はいま∼
現場からのオピニオン
∼介護現場はいま∼
有料人材派遣・紹介業者経由の
医療・介護従事者に関する実態把握を
全老健神奈川県支部代議員、介護老人保健施設ソフィア横浜理事長
たま
き
よし かず
玉城嘉和
施設現況調査には反映されない
派遣・紹介業者からの人材調達
老健施設では、医師、看護師、介護職、理
学療法士等は法的な施設人員基準が定められ、
診療報酬・介護報酬に反映されるので、基準
を満たすために必死の努力を必要とする。
人員基準を下回ると莫大な介護報酬の減算
が生じるためである。欠員を予想して普段か
ら基準より多めの人員を確保しつつ、同時に
医療機関・介護事業所が独自にさまざまな手
段で求人広告を出して、新たな人員確保に努
めている。しかし、ハローワークや新聞折り
込みなどの求人広告では、応募がほとんどな
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いのが現状である。
厚生労働省が年1回行う施設現況調査(介
護サービス施設・事業所調査)では、看護師
も介護職もほぼ人員基準を満たしており、人
員不足はないとの報告が毎年公表される。し
かし、それは人員基準を下回れば介護報酬の
減算が生じ経営を大きく圧迫するため、施設
側が利益を犠牲にして有料人材派遣・紹介業
者から人員を調達しているからである。
現在の施設現況調査には、実際の人材不足
および人材確保困難の状況が反映されていな
い。人員基準を満たすために、施設側から有
料人材派遣・紹介業者に、どれだけのお金が
流れているのか実態把握もできていない。
人材確保に年 5 0 0 万円
紹介料を吊り上げる業者も
欠員が生じると、どうしても人材派遣・紹介
業者を利用せざるを得ない。平成26年1月6日
の朝日新聞によると、全日本病院 協会( 加盟
2,500病院)の調査では、年間約250億円を紹
介業者に支払っている。私どもの所属する横浜
市介護 老人保 健施設経 営者会(加盟19施設)
の調査でも、平成25年から27年の3年間で約
2億5,000万円を紹介業者に支払っている。求
人広告費用等も算定すると、1年間で約1億円
が人材確保に流れている。1施設平均で年500
万円強が紹介業者と求人広告に使われている
勘定だ。職員が一斉に辞めてしまった施設で
は、1年間に約2,000万円を支払った例もある。
こうした費用が、本来の質の高い医療・介
護のために使えないのは残念だ。国が消費税
を上げて社会保障費を増やしても、このよう
に医療や介護とは直接関係のない業界にお金
が流れているのである。現状を放置すれば将
来の日本の医療・介護の世界は忌々しき事態
になり、医療・介護崩壊につながりかねない。
さらに横浜市介護老人保健施設経営者会の
調査によると、派 遣職員の75%、紹介雇用職
員の40% が6か月未満で退職に至るため、新
たな採用にかかる費用とともに、その都度人材
育成に時間や経費等がかかり、大きな負担とな
っている。また派 遣業者は、入職時に祝い金
を給付したり、施設側の足元をみた高額な派
遣賃金を要求したりして、常連の派遣職員を会
員のように確保している場合がある。紹介料も
数年前までは年俸の20%前後であったものが、
一挙に30 ~40%を要求し、切羽詰った施設状
況をみてさらに吊り上げる業者もいる。
一方、派遣・紹介職員の質の低さが健全な
常勤職員の就労環境を乱したり、新たなトラ
ブルの原因になったりしている。誠実で有能
な人材はごく稀である。人物評価や能力評価
もなく、ただ人数合わせのために派遣・紹介
が行われている現状がある。派遣職員のなか
には、本来の職務も十分果たさないまま最短
契約期間終了と同時に辞めてしまう人がいる。
最後まで施設になじまず孤立している人もい
る。愛社精神が育ついとまさえない。
派遣・紹介業者と人材の
適切な評価を
将来、日本の総人口の減少に伴い、労働人
口も減少する。すべての職種で人手不足が発
生し、平均給与の低い介護職の人材確保はま
すます困難になることが予想される。派遣・
紹介業者および人材の適切な評価を行うシス
テムや制度が望まれる。
厚生労働省は平成26年の新聞報道以来、対
策に乗り出すと述べているが、まだ具体的な対
応がない。ぜひ各都道府県行政において、有料
人材派遣・紹介業者経由による医療・介護従
事者の実態を把握するための報告制度を創設し
ていただきたい。厚生労働省の施設現況調査に
も新たな項目を追加していただきたい。
派遣・紹介雇用職員の人数、時給、給与、
紹介料、就業期間、総支払額、派遣会社名等
の項目を新設し、情報を集積することでエビ
デンスが明確になる。それによって、将来、
人員基準に定められている職種が派遣・紹介
業の対象職種から外されたり、紹介手数料や
派遣賃金の上限設定がなされたりと、健全化
のための規制措置が期待できる。
ちなみに横浜市においては、横浜市介護老
人保健施設経営者会の要望に応えて、平成28
年度の高齢者実態調査に派遣・紹介業者経由
による職員数と総支払額の項目が新設された。
こういった例を全国に広めてほしい。
現在、都道府県の看護協会に委託されてい
るナースセンター事業の機能充実・拡大とと
もに、介護職センターなど類似事業の新設を
望む。医療・介護人材に特化した公正中立な
派遣・紹介業者があってもよいと思う。健全
な人材派遣のための新たな法整備が望まれる。
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