タイヤメーカー大手各社の16/12期決算の注目点

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2017 年 3 月 3 日
タイヤメーカー大手各社の 16/12 期決算の注目点
タイヤメーカー大手各社の 16/12 期決算および 17/12 期業績予想を踏まえ、株式会社日本格付研究所
(JCR)の現況に関する認識と格付上の注目点を整理した。
1. 業界動向
日系 4 社が国内外で生産するタイヤは世界生産の 3 割近くを占め、グローバルでの各社のプレゼンスは高
い。海外売上高比率はブリヂストンの 8 割を筆頭に各社とも高い。新車用タイヤの需要は景気変動の影響を
受けやすいが、輸出も含めると市販用タイヤが販売の 7∼8 割を占める。
タイヤの世界需要は、市販用タイヤが需要を下支えする形で中期的に年 3%程度の成長が見込まれている。
ただ、国内市場は成熟しており、足元では海外の新車用タイヤ販売において北米、資源国などで不透明感が
残る。ブリヂストンの 16 年度決算説明会資料によると、新車用タイヤ需要(乗用車用)の主要市場の伸び
率(16 年度実績及び 17 年度予想)は日本が 0%と+4%、北米が+2%と▲4%、欧州が+5%と▲1%、アジ
ア(タイ・インドネシア・インド・中国)が+11%と▲6%となっている。補修用(乗用車用)は同様に日
本が 0%と▲2%、北米が+1%と 0%、欧州が+2%と▲2%、アジアが+11%と+10%となっている。各社
とも海外供給能力増強を積極的に進め、海外での販売ネットワークを拡充することで世界需要の伸びを上回
る成長を目指している。
タイヤは輸送コストがかさむため消費地生産が基本原則である。各社とも現地生産を拡大してきており、
ブリヂストンの海外生産比率は 7 割強である。タイヤの原価に占める原材料コストの割合は大きく、業績は
天然ゴムや原油の市況変化の影響を受けやすい。主要原材料である天然ゴム価格は 11 年秋に下落に転じ低
位安定で推移してきたが、16/12 期第 4 四半期には上昇がみられた。
近年、提携解消や新たな提携、M&A の動きが活発化してきている。住友ゴム工業は 99 年から続いてきた
米グッドイヤー社とのアライアンス契約及び合弁事業を 15 年 10 月に解消した一方で、17 年 2 月に英国大手
のタイヤ販売会社を買収した。横浜ゴムは 01 年から続いてきた独コンチネンタルとの業務提携を 16 年 3 月
に解消した一方で、農業機械用・産業機械用タイヤを主力とするインド拠点の Alliance Tire Group を 16 年 7
月に買収した。ブリヂストンは北米においてタイヤメーカーとしては最大級の自社店舗網を有するなど海外
での販売ネットワークの拡充に積極的であり、16 年には仏大手自動車整備業チェーンを買収した。提携解消
については、日米欧以外での需要増加、自社の海外生産基盤の拡充など経営を取り巻く環境が大きく変化す
る中で事業展開の自由度を求めた動きと言えよう。一方、新たな提携やM&Aはラインナップの拡充、海外
販売ネットワークの拡充を目指したものと考えられる。
2. 決算動向
4 社合計の営業利益は 09/12 期を底に 15/12 期まで 6 期増益が続いたが、16/12 期は前期比 13.6%の減益
となった。4 社とも減収、営業減益で、売上高は同 10.7%の減収となった。タイヤ販売は海外を中心に堅調
に推移し、原材料価格は低位安定で推移したものの、売値の低下に加え、期中の円高が重荷となった。売値
の低下により実質的な原材料安メリット(原材料安メリットと売値低下によるデメリットの差)が縮小した
と考えられる。営業増減益分析では主な増益要因が「原材料価格」1,441 億円、主な減益要因が「売値 MIX
数量他」1,178 億円、
「為替変動の影響」1,065 億円である。
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財務面については、海外供給能力増強を積極的に進める中、好調な業績を背景に財務指標は全般的に近年
改善傾向にあった。ブリヂストンの自己資本比率は 11/12 期末 42.2%から 16/12 期末 61.4%まで改善し、ネ
ットキャッシュポジションに転じた。一方で 16/12 期においては、非タイヤ事業での品質問題や大型 M&A
などによって財務指標が悪化したメーカーもある。東洋ゴム工業は免震ゴム問題(性能評価基準への不適
合)などの影響で 16/12 期に約 678 億円の特別損失を計上し、最終赤字 123 億円となった。財務構成も悪化
し自己資本比率は 15/12 期末 32.9%から 16/12 期末 28.8%に低下した。横浜ゴムは Alliance Tire Group の買
収(取得価額 1,339 億円)により自己資本比率は 15/12 期末 47.7%から 16/12 期末 38.6%に低下した。
3. 決算における格付上の注目点
17/12 期は 4 社合計で前期比 9.1%の増収、同 3.1%の営業減益の見通しである。ブリヂストンと横浜ゴム
の 2 社が営業増益計画であるが増益幅は小さい。17/12 期は原材料価格上昇のマイナス影響を製品価格の引
き上げや数量増、製品構成の改善でどこまでカバーできるかが業績に大きく影響すると考えられる。16 年末
から天然ゴムなど原材料価格が上昇しており、各社とも 17/12 期は「原材料価格」が減益要因に転じると想
定している。新車用タイヤについては原材料コスト連動方式により、数年間という期間でみれば損益への影
響は限定的であるが、6 ケ月程度のタイムラグがある。市販用タイヤについては欧米市場を中心に値上げの
動きも出始めているが、効果が本格的に出始めるには 2∼3 ケ月かかるとみられる。
営業増減益分析(4 社)では主な減益要因が「原材料価格」2,302 億円、主な増益要因が「売値 MIX 数量
他」2,370 億円である。「為替変動の影響」については、各社の対ドル想定レートは 110 円に集中しており
(前期比 1 円の円安)
、業績への影響は小さい想定となっている。
「原材料価格」のマイナス影響を、販売数
量も含めた「売値 MIX 数量他」ではどうにかカバーできる計画であるが(
「図表 2」⑥)
、値上げだけでみる
とカバーできず大きな減益要因となる見通しである(「図表 2」⑦)
。
各社の値上げによる原材料価格上昇のカバー率は 4 割強から 7 割までばらつきがあり、値上げ効果の業績
予想への織り込み方に差がある(住友ゴム工業は決算説明会資料の増減益要因で「売値」を開示、横浜ゴム
は「売値 MIX」を開示。他社については決算説明会でのコメントなどから JCR で推定。一部メーカーは値上
げ以外に MIX も含む。
)。市販用タイヤの値上げについては、国・エリアによって値上げのしやすさに差があ
るためグローバルに一律の値上げとはならず、国・エリア毎の競合状況を見極めながら判断していくとみら
れる。単純な値上げに加え、戦略商品、高付加価値製品に注力する中で吸収していくことが重要となろう。
トランプ政権の通商政策の影響については、日系各社は米国での能力増強を続けてきており、米国での現
地生産比率は高まりつつある。全般的にメキシコや日本からの輸出は大きくなく、業績への影響は限定的と
みられるが、メーカーによっては、国境税などが導入された場合、販売減少やコスト増加の可能性もあろう。
個社では、東洋ゴム工業については免震ゴム問題関連の追加的な引当ての状況、横浜ゴムについては
Alliance Tire Group とのシナジー効果発現と財務改善の進捗が注目される。
(担当)窪田
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幹也・上村
暁生
(図表 1)営業利益、売上高営業利益率の推移
(出所:各社決算資料より JCR 作成)
※住友ゴム工業の 16 年度実績は日本基準、17 年度予想は IFRS ベース。
(図表 2)営業利益増減要因
(出所:各社決算資料より JCR 作成)
※「売値」は「売値 MIX 数量他」の内数。住友ゴム工業は決算説明会資料の増減益要因で「売値」を開示、横浜ゴム
は「売値 MIX」を開示。他社については決算説明会でのコメントなどから JCR で推定。一部メーカーは値上げ以外に MIX
も含む。
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【参考】
発行体:株式会社ブリヂストン
長期発行体格付 :AA+
見通し:安定的
発行体:住友ゴム工業株式会社
長期発行体格付 :AA-
見通し:安定的
発行体:横浜ゴム株式会社
長期発行体格付 :A+
見通し:ネガティブ
発行体:東洋ゴム工業株式会社
長期発行体格付 :BBB+
見通し:安定的
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