ユニクロ、しまむら、セブン-イレブン、ヤマダ 有力小売業の

世
界
で
2
番
目
に
易
し
い
決
算
分
析 入 門
2
ユニクロ、
しまむら、
セブン-イレブン、
ヤマダ
有力小売業のROAは軒並み10%を突破
「シャニム」編集長 前回は、決算分析を行なう上で
破したヤマダ電機は、ROAでも12.8%
まず、売上高トップのヤマダ電機
ROA(総資産利益率)が最も基本的
と表1内で唯一の二桁企業である。表
はROAでも断トツであるが、その大
かつ重要なことを解説した。ご理解
1では5社平均値も算出したが5社平均
きな要因は売上高経常利益率の高さ
いただけただろうか。本論に入る前
ROAは6.4%だ。ヤマダ電機はその倍
である。総資産回転率もトップでは
に、簡単におさらいをしておこう。
であり、他の4社はすべて平均値を下
あるが、5社平均値よりも0.5ポイン
①ROAとはその企業が事業に「ど
回っている。ヤマダ電機は売上高だ
トしか上回っていない。ところが売
れだけの投資(含借入)を行ない、
けでなく、ROAでも突出した存在で
上高経常利益率は5社平均値より1.7
その投資で購入した資産を使って、
あることが分かる。
ポイントも高い。この高い経常利益
どれだけの利益をあげたのか」を見
る指標である。
ROAは10%以上が優良企業の目安
とされ、特に株式市場で重要視され
率がヤマダ電機のROAを高めている
要因である。
②ROA=売上高経常利益率(経常
ている。表2は家電以外の小売業で、
ヤマダ電機に限らず高ROAの小売
利益÷売上高×100)×総資産回転率
評価の高い企業のROA一覧である。
業は現状、表2のように高い売上高経
どの企業もメジャーブランドであり、マ
常利益率の企業ばかりである。
(売上高÷総資産)
③ROA改善には、売上高経常利益
スコミ等で取り上げられる機会も多い。
ただし、一般論でいえば利益率を
率アップと、総資産回転率アップの
各社のROAは、ファーストリテイ
アップすることは、売価アップの可
二つ(あるいはその両方)がある。
リング(ユニクロ)が26.6%と突出
能性を意味する。ところが今やどん
④上記の二つのアップにはそれぞ
しており、他の4社も10%以上、また
な業界・業種でも厳しい価格競争下
れの方策があり、この方策が企業の
は10%に近いレベルである。これを
にあり、売価アップによる経常利益
次の戦略の手がかりになる。
見ても分かるように、企業の評価と
率アップは消費者支持を得ることが
ROAとは密接な関係にある。
難しい。
今回はこれらの基礎知識を踏まえ、
実際の決算報告書をもとにROA分析
では、なぜ株式市場でROAは、
この事態を避けながら、いかに経
10%が優良企業の目安といわれるの
常利益率を高めるかが小売各社の知
だろうか。簡単にいえば投資額に対し
恵の出しどころなのである。その具
て、その10%程度の利益が出せなけれ
体策として知られるのがローコスト
表1は家電量販店上位5社のROA比
ば、投資する意味がないからである。
経営だ。売価を上げずとも、販・管
較表だ。各社がこの春発表した04年
一般的な先進国であれば、銀行預
費(人件費、家賃、光熱費、販促費
度決算報告書をもとに作成した。こ
金の利率は3∼4%程度はある(日本
等の本業に必要な経費)を抑えるこ
の表ではROAを「04年度売上高経常
の現状は例外的な超低金利である
とで営業利益を稼ぐ戦略である。
利益率×04年度総資産(表内の資産
が)
。しかも銀行預金は株式投資より
また、仕入原価の引き下げも有効
合計)
」で導き出した。
リスクが小さい。しかしながらリス
だ。より有利な仕入先の開拓や、安
株式市場関係者などがROAを導き
クをとって株式へ投資する以上、銀
く仕入れられる商品を開発し、売上
出す場合、利益に「営業利益+減価償
行預金よりも高い利回りを見込むの
総利益(粗利益)を高めるのである。
却費」を用いたり、総資産に「
(当年
が当然、との理屈であり、その判断
実際、表2で取り上げた企業の大半
度総資産+前年度総資産)÷2」を用
目安がROA10%というわけである。
は価格の安さが売り物だ。にもかか
を行なってみたい。
ROA10%が優良企業の目安
いることが多い。だが、ここでは解
説をスムーズにするために、最もシ
ンプルな公式を用いた。
売上高が国内専門店初の1兆円を突
64
征矢野毅彦
SHANIMU #12
ポイントは経常利益率アップ
次に表1を使い、各社の収益力を
比較してみよう。
わらず現実には高い利益率をあげて
いる。そこには各社各様の経営努力
が潜んでおり、だからこそ、優良企
業との評価が高いのである。
ルに決算報告書へ現れてくるのは05
っていることである。
コジマとギガスケーズ
この解消には粗利益アップと販・
年度からのはず。つまり、04年度
一方、表1に目を転じると、経常利
管費ダウンの二つの方向があり、前
ROAは、過渡期的な低下の可能性が
益率の低い企業が目立つ。これを総
項で述べたローコスト経営や仕入原
極めて高いのである(実際、03年度
資産回転率で補いROAを稼いでいる
価の引き下げなどが有効ということ
のROAは8%強)
。
構図だ。その代表例が売上高2位のコ
になる。当然、同社でもこうした取
経営環境の厳しい昨今は、M&Aが
ジマであろう。
り組みが進んでいるものと思われ、
重要な戦略の一つだ。これにより、
その成果は今後のROAの推移に現れ
短期的には総資産が拡大してROAの
てくるはずである。
低下を招くケースもある。これは正
同社の総資産回転率は2.3回とほぼ
5社平均値並みだが、経常利益率が
1.2%しかない。5社平均値比で1.5ポ
また、表1で注目できるのは、売上
イント低く、ヤマダ電機比では3.2ポ
高5位、ROA2位のギガスケーズデン
イントも低い。
キである。同社の場合、04年度は2社
のROA低下の可能性があり、本当の
実力を示したとはいえない。
その意味でROAは単年度でなく、
を連結子会社化したことがROAの低
複数年度(少なくとも3年度分)の分
営業損失(営業利益が赤字)にある
下要因と推測できる。総資産が03年度
析が重要だ。その増減には必ず原因
ことだ。そして営業損失の要因は売
比で2倍近くまで一気に拡大したのだ。
がある。この突き詰めが、より精緻
上高総利益よりも、販・管費が上回
一方で、連結子会社の収益力がフ
コジマの低経常利益率の要因は、
なROA分析につながる。
■表1)家電量販店上位5社の連結ROA比較
(単位:億円、%、回)
ヤマダ電機
(構成比)
コジマ
(構成比)
エディオン
(構成比)
ROA
(総資産経常利益率)
売上高経常利益率
12.8
4.4
-
2.6
1.2
-
4.8
2.5
-
総資産回転率
●損益計算書
(PL)
売上高
2.9
-
2.3
-
1.9
-
11,023.9
100.0
4,906.9
100.0
4,379.9
100.0
売上原価
売上総利益(粗利益)
8,706.8
2,317.1
79.0
21.0
4,100.5
806.5
83.6
16.4
3,422.4
957.5
78.1
21.9
販売費及び一般管理費(販・管費)
営業利益
営業外収益
2,025.6
291.6
196.9
18.4
2.6
1.8
844.9
▲ 38.4
109.5
17.2
▲ 0.8
2.2
907.4
50.1
72.8
20.7
1.1
1.7
6.6
481.9
0.1
4.4
14.4
56.7
0.3
1.2
11.3
111.6
0.3
2.5
3,765.4
1,940.6
100.0
51.5
2,151.6
1,119.6
100.0
52.0
2,314.1
870.8
100.0
37.6
1,824.9
0.0
48.5
0.0
1,032.0
0.0
48.0
0.0
1,441.0
2.3
62.3
0.1
3,765.4
1,990.3
23.0
100.0
52.9
0.6
2,151.6
1,487.0
0.0
100.0
69.1
0.0
2,314.1
1,247.9
10.2
100.0
53.9
0.4
1,752.2
46.5
664.6
30.9
1,056.0
45.6
営業外費用
経常利益
●貸借対照表
(BS)
☆資産合計
流動資産
固定資産
繰延税金資産
☆負債、少数株主持分及び資本合計
負債合計
少数株主持分
資本合計
ベスト電器
(構成比)
ギガスケーズデンキ
(構成比)
5社平均
(構成比)
ROA
(総資産経常利益率)
0.3
-
5.6
-
6.4
-
売上高経常利益率
総資産回転率
●損益計算書
(PL)
0.2
1.9
-
2.4
2.4
-
2.7
2.4
-
3,579.4
2,806.0
100.0
78.4
3,433.8
2,960.2
100.0
86.2
5,464.8
4,399.2
100.0
80.5
773.4
767.9
5.6
21.6
21.5
0.2
473.7
455.2
18.5
13.8
13.3
0.5
1,065.6
1,000.2
65.5
19.5
18.3
1.2
20.1
20.0
0.6
0.6
70.2
8.0
2.0
0.2
93.9
12.1
1.7
0.2
5.6
0.2
80.7
2.4
147.3
2.7
1,876.8
100.0
1,440.9
100.0
2,309.8
100.0
882.8
993.7
47.0
52.9
705.2
735.6
48.9
51.1
1,103.8
1,205.4
47.8
52.2
0.3
1,876.8
1,158.0
0.0
100.0
61.7
0.04
1,440.9
945.1
0.0
100.0
65.6
0.5
2,309.8
1,365.7
0.0
100.0
59.1
2.1
716.7
0.1
38.2
0.4
495.3
0.0
34.4
売上高
売上原価
売上総利益(粗利益)
販売費及び一般管理費(販・管費)
営業利益
営業外収益
営業外費用
経常利益
●貸借対照表
(BS)
☆資産合計
流動資産
固定資産
繰延税金資産
☆負債、少数株主持分及び資本合計
負債合計
少数株主持分
資本合計
7.1
0.3
937.0
40.6
※ベスト電器は05年2月決算、他の4社は05年3月決算。
■表2)有力小売業5社の連結ROA比較
(単位:%、回)
セブン-イレブン・ジャパン
ファーストリテイリング
しまむら
マツモトキヨシ
ドン・キホーテ
9.9
ROA(総資産経常利益率)
13.9
26.6
14.0
8.9
売上高経常利益率
35.5
18.9
7.4
5.3
6.5
0.4
1.4
1.9
1.7
1.5
総資産回転率
※マツモトキヨシは05年3月決算。セブン-イレブン・ジャパン、
しまむらは05年2月決算。ファーストリテイリングは04年8月決算。ドン・キホーテは04年6月決算。
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