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(続)
松川聖彦
I n t e r v i e w
w i t h
M a s a h i k o
M a t s u k a w a
Interview & photo :84
CREAM UNITEDの松川聖彦。宮城県石巻市で、彼のロングインタビューをとった
のは、
震災の復興が急ピッチで進んでいた2013年の6月でした。あれから3年と8 ヶ月。
彼の近況が気になって再び石巻へ足を運びましたよっと。今回は奥さんの秋恵さんも
ご一緒です。松川さん、お久しぶりです! 相変わらずマイペースにやっていますか〜?
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れをNOって言うことによって生活がなぁ…」って。
そこも常に理解しているけど、結局、人とぶつかる。
けっこう迷惑かけていることもあるよな(笑)? ー秋恵 本当だよね。この前も新しく業者を探さな
くちゃいけなくなったのよ(笑)。取引先の担当者と
メールでやり取りしていたら、「不快です」なんて言
われて取引を断られちゃって。
ー松川 アハハ∼! ひでえ話だよな(笑)。人と
ぶつかることもあったり、大手の仕事が嫌だったり、
つくづく組織に合わない人間だな∼って(笑)。「あ
えて、貧乏している」って言ったらおかしいけど…。
ー秋恵 違う。自由を取った結果、貧乏なんだよ!
選んでいるのは自由だけなのよ。
全員 アハハハ (笑)!
ー松川 だけどね、他人のことをうらやましいと思
うことは一切ないよ。「金を持っている」とか「家を
建てた」とか「こういう会社に就職した」とか聞いて
も、「へえー」って。「あの野郎、ダメだな∼」っ
て、他人への文句を言うこともあるけど、他人に対す
る妬みはない。「いい時計をしてるな∼」とか「いい
バイクに乗ってるな∼」とか、何にもない。
ー84 それって、きっと自分に自信があるからですね。
ー 松川 ていうか、自分だけしか見てねーんだな
(笑)。アハハ∼! お金の価値観とかも全部ズレて
る。こりゃあヒドいなって思うよ。
ー84 松川さんにとって、お金ってなんですか?
ー84 松川さんとお話するのは2年半ぶりですね。
CREAM ROLL(グッズ販売店舗)がアトリエに引っ
まずは松川さんの近況を教えてもらえないでしょうか?
越してきた。グッズ販売の規模は縮小してて、今はシ
ルクスクリーンプリントがメインになっているね 。
ー松川 癖の強いプリント屋になった方がいい。世
間一般に言われることが理解できないわけじゃない
けど、全部理解した上で、あえて癖がある方を取る
(笑)。あと20年も仕事できるかどうかわからねー
ー 松川聖彦(以下、松川) CREAM UNITEDの
アパレルブランドのTシャツをプリントしたり、メー
アトリエの裏に置いていたマニラランプは、敷地が使
カーと一緒に商品を作ったりもしているよ。
けど、俺は自分のスタンスでここまでやってきた。今
材を使って、こアトリエの入り口にミニランプを作っ
ー 84 あいかわらず楽しんで日々お過ごしのよう
のためにやるのかな?」って(笑)。ただ、家族を守
たよ。ふれあい商店街が去年の10月に閉じたので、
で、安心しました。スタンスも変わりませんね(笑)。
えなくなって、去年の2月に解体した。この前、その廃
SHOGAIMAG
更、自分のやり方を変えたとしても、「それは一体誰
らなきゃいけないってことは常に考えているね。「こ
ー松川 お金か、考えたこともなかったよ。ちょっ
と待って…。生活する上で必要だけど、なくてもいい
ものなのかな…。当たり前にあるものだから、あんま
り考えたことはなかった。お金は俺らの前をどんどん
流れていくけど(笑)。
ー秋恵 深く考えたことないね。まわりに迷惑をか
けない程度に最低限あればいいかなって思うよ。
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ー松川 お金に対する執着心がない。物欲もないっ
ー秋恵 ただね、田舎の人たちの価値観は「家を建
て言ったら嘘になるけど、そこまでないよ。誰でも欲
てて、子どもを産んでなんぼ」みたいなところがある
しいものあるよね。まあ、お金は縁だね。回り物って
じゃない? 私たちはどちらもないから、ここじゃ、
いうかさ。最近、物を買う時もしっかり背景を見て
クズだよね(笑)。「復興で補助金も降りる。今、家
さ、それが自分にとって本当に必要なものなのかどうか
を建てないと貧乏だよね」っていうのが普通の価値
を考えてる。
観。私たちは今も仮設住宅に住んでいるよ。だけど、
私は松川さんがいればどこでもいいの。「絶対こうし
ー 秋恵 一回、全部無くなっているから余計にそ
たい」っていうのがない。この人の好きなようにして
う思うんだよね。「なくても大丈夫」って。それこそ
あげたいなって思う。中途半端なお金があっても、
昔はね、倉庫に物が山のようにたくさんあったのよ。
しょうがいないのよね。この人はやりたいことがデカ
けど、それが全部津波で流されちゃったらさ、「もう
すぎるからさ(笑)。もし叶うなら、パークを作って
いっか!」ってなるじゃない? そういう人が多いかも
あげたいと思ったりもするけど、それと引き換えに今
しれない。
の生活を変えるのは難しいよね。
ー 松川 俺らは貧乏を楽しんでる。物を買う時は
ー84 錯覚していたかも。僕の中では、「松川さん
「必要なもの」、「必要じゃないもの」を常に考えて
やCREAM UNITEDが石巻」って印象になっているけ
買うようになるよね(笑)。アハハ∼!
ど、石巻のなかでもかなりマイノリティなのですね。
ー84 自分が所有するものを常に厳選していくわけ
ー秋恵 新しい家や新しい店舗を建てて、「死ぬま
ですよね。それって、すごくいいことですね。どんど
で働かなきゃいけないわ∼アハハ∼」っていう感じの
ん物を増やしていったら、「必要なもの」と「不必要
人が大多数よ(笑)。表立っては言われないけど、
なもの」の区別がつかなくなっちゃう。
「あいつらは何をやってるんだ?!」って思われてい
るかもね。あんまり働いてないし、慌てている様子も
ー松川 そうそう。「整理しているようで整理して
ないし。「そっとしておこう…」っていう感じだと思
いない」ってなるじゃない? 自分の手に負える範囲
う(笑)。
にしておいた方が一番いい。自分のキャパを知らない
といけない。その中で考えられることをやった方がい
ー松川 多分、俺らは石巻でも特殊。突き抜けすぎ
い。高望みはあまりしない。もちろんあまりにもひど
てると思う。今、アパレルが売れない時代でしょ。だ
い生活は送りたくないから、それなりにやろうと思っ
けど、自分はアパレルのことしかできない。95年か
ているよ。人に会えることは楽しいこと。84ともこう
らアパレルをずっとやってきて、最後は大きな借金を
やって再会して、楽しく話せている。かけがえないも
したのに大ゴケ。返済は震災の後まで続いていたね。
のだよ。
だから今はさ、儲かるとかじゃなくて、「やりたい」
と思ったことだけをやる。借金があると、どうしても
ー84 一度、津波で財産を全部流されちゃってるか
「仕事しなきゃ∼」ってなってしまう。今は無理をし
ら、説得力があるなあ。「そりゃあ、そうだよな∼」
ないで、一定の気持ちで仕事と向き合えるバランスが
と思ってしまいます。
一番いいかな。わかりやすく言うと、現金商売。ギリギ
リすり抜けている。すり抜けられていないかもしれな
ー秋恵 84さんもそうなるかもよ? 子どもの頃か
いけどね(笑)。「日が暮れたら家にいる」って生活
ら持ってた物や写真、何から何まで全部だよ。一切合
が普通になっちゃった。もしその日、仕事が暇なら暇
切無くなっちゃうと、「ま、いっか」ってなる。ひと
ですぐ帰る。暇なら、それを逆に楽しもうって思って
つ突き抜けるというか。
る。今は切り替えが早いよ。そして、ほとんど毎日お酒
を飲んでいる。この前、食費より酒代の方が高くなっ
ー松川 「自分でそれをやれ」って言われてもでき
ちゃってね(笑)。楽しいから飲んじゃうんだよな
ないかもしれないな。
∼。アハハ∼!
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ー秋恵 いろいろ大変なこともあるけど、私たちは、
その日あったことは「乾杯!」ってしたらもうお終い
(笑)。「まぁ、いいか」って。だって、終わったこ
とを考えてもしょうがないものね。
ー松川 最近だと、ハロウィンやクリスマスだった
り、そういう世間のイベントに乗っかるのはやめた。
周りに踊られるのはやめようって。そもそも周りと違
うことをやってるんだから、周りに合わせてお金を使
うのをやめようって。もっと俺らにしかできない有意
ー84 おヒゲもだいぶ伸びましたね∼。絵に描いた
ようなヒゲ(笑)。
ー松川 2年ぐらい前から生やし始めたよ。ちょく
ちょく切ってるけど、これだけ見た目にインパクト出
てくると、悪いことできねーよな。すぐ「あの店の
人だ!」ってなる。もう普通のおじさんじゃ通用しな
くってるよ(笑)。そろそろ自分のヒゲをモチーフに
何か作らなきゃね∼。
義な使い方をした方がいいんでね?って。
ー84 なんか以前お話をうかがった時よりも、尖って
きている印象を受けますね(笑)。普通丸くなっていく
んだと思うのですが…。
2017年2月某日 石巻CREAM UNITEDにて
ー松川 すんげーとんがってるよ。さっきも言った
けど、ここまで来たら引き返せないよ(笑)。人生、
何が突然起こるかわからないよね。だから、目的地ま
で行くルートが「絶対、これ」ってルートじゃなくても
いいと思う。「ルートが突然曲がってもいいんじゃな
いの?」ってな。今は物事を難しく考えないようにして
いる。パッと決めて、パッと動く。
松川 聖彦 まつかわ まさひこ
宮城県石巻市出身。
CREAM UNITED代表。
1980年代後半にスケートボードと出
会う。
1994年から、
ブランドディレクターとして活躍。現在は、石巻市内で
シルクスクリーンプリント業を営む。
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