特集 地域活性化の推進−交流と連携による未来の地域づくりに向けて− 和歌山市の目指すコンパクトシティについて まき の かず ゆき 牧 野 和 之* 和歌山市も人口減少に備えたコンパクトなまちづくりに取り組み始めた自治体の一つである。この取組 みは、地域の中核都市として圏域の活力を維持するためには、人口流出に歯止めをかけ、若年層の定着を 図る必要があることから、まちなか3大学構想を核としたコンパクトシティの形成に取り組んでいる。 1.はじめに 和歌山市は、和歌山県の北端に位置する中核市で イミングでの東京や大阪への流出に歯止めをかける ことが急務である。 あり、関西国際空港に最も近い県庁所在地である。 また多くの都市と同様、まちなかの人口減少は著 昨年度は県南に向けて紀勢自動車道が開通、平成 しく、将来は人口密度が40人/haを下回ると見込ま 28年度には第二阪和国道と京奈和自動車道が本市 れる。かつては賑わった中心市街地の商業地区は、 まで開通する等、高速交通体系の整備が急速に進展 高速交通体系の整備や大規模商業施設の郊外立地、 している。 購買行動の変化等により空き店舗や空き地・駐車場 一方、鉄道は市内にJR和歌山駅と南海和歌山市 駅の2つの離れたターミナルを持ち、JR阪和線・ 和歌山線・紀勢線、和歌山電鐡貴志川線、南海本線・ か (人) だ 加太線が各方面へ放射状に鉄道網を形成している。 しかし、乗降客数は年々減少傾向にある。路線バス 若い世代の流出が多い についても、郊外部の廃止路線が増えている。 2.本市のまちづくりを取り巻く課題 本市は紀州藩の時代より、和歌山県の県都として 図-1 5歳階級別転入増加(平成 24 年〜 27 年)累計 発展した歴史を持ち、鉄鋼や化学等の産業にも支え 400 られ一時は40万人を超える人口を擁したが、産業 300 の縮小や構造変化等の影響を受け昭和60年から減 少を続け、平成27年時点では約36万人となり平成 47年では30万人を割ると予測されている。 分析によると、少子高齢化による自然動態も一因 であるが、和歌山県の県外進学者率が全国1位とい うこともあり、若者層の市外への転出が人口減少に 拍車を掛けている状況が分かった。少子化により生 産年齢人口が増えない中で、まずは進学・就職のタ *和歌山市 産業まちづくり局 都市計画部 都市計画課 企画員 073-435-1228 16 月刊建設16−11 350 250 80 70 60 50 40 30 20 10 0 約6万9千人 約3万3千人 S35 S45 S55 和歌山市人口 H2 H12 H22 H26 まちなかエリア居住人口 *まちなかエリアにおける人口推計は、本町・城北・広瀬・雄湊・大新・ 新南・宮北地区の人口をもって代替しています。 図-2 まちなか居住の推移 農地に対する考え方等多くの意見をいただいたが、 市街化調整区域においてもコンパクトで便利なまち づくりを進めることの必要性を地道に説明し理解を 求めてきたところである。 また市街化区域内では、立地適正化計画(都市機 能誘導区域)を年内に策定する予定であり、鉄道駅 等周辺に都市機能誘導区域を設定、生活利便を高め ることで公共交通利用圏に居住人口を誘引したいと 考えている。 これら日常生活に着目した取組みに加え、産業政 図-3 まちなかの空き家・空き地状況 策も都市計画上の課題となっている。阪和自動車道 和歌山IC・和歌山北ICに続き、3つ目の和歌山南ス マートICが平成30年度に供用予定である。いずれ のICも市街化調整区域に存在し、市街化区域への 編入ができる状況ではない。一方、市街化区域内に 十分な産業用地が確保できないことから、地区計画 写真-1 市街化調整区域の拡散的開発 が多く、歩く人の姿もまばらとなった。 を活用した産業ゾーンの形成を図るべく今年度中に 都市計画マスタープラン等の改定を計画している。 ⑵ 和歌山市が取り組むまちなか再生 一方、非線引きの周辺市町村への人口流出を防ぐ 人口減少と商業的低迷が続いた都心部では、遊休 目的で平成13年、平成17年に開発許可基準の緩和 不動産が増加し賑わいの阻害に拍車をかけている。 を行った結果、市街化調整区域の人口は増加したも また県都として高次都市機能が集積してきた一方で のの拡散的開発が進展し、市街地や旧集落の人口減 老朽化も進んでおり、時代にあった都市機能の合理 少の歯止めとはならなかった。 化・再整備を検討してきた。 3.本市のまちづくりの取組みについて 平成26年度には南海和歌山市駅ビルから高島屋 が撤退、かつて市内に4つあった百貨店はJR和歌 このような課題を踏まえ、本市では、人口減少時 山駅前の近鉄百貨店を残すのみとなった。そこで南 代を乗り切るためのコンパクトなまちづくりに加え、 海電鉄株式会社の施行により和歌山市駅ビルを再開 人口や活力を維持・回復する取組みを進めている。 発し、そこへ耐震性に問題を抱える市民図書館を移 ⑴ コンパクトなまちづくり 転・整備することとした。併せて行う駅前広場の再整 昨年度、市街化調整区域内での無秩序な拡散的開 備や、日常利便性の高い既存の商業施設と相まって 発を抑制し、開発を集落の拠点に誘導するため、立 都心居住や都心通勤の魅力を向上させ、居住人口や 地適正化計画の策定に先行して開発許可基準の見直 公共交通利用を下支えする、まちなか再生・コンパク しを行った。 トなまちづくりのシンボルプロジェクトとしている。 ①既 存集落区域(50戸連たん)を廃止し、将来 の生活拠点区域(特定集落)に誘導。 また都心の人口減少に対応し併せて教育環境の向 上を図るため、都心の3小学校と1中学校を再編し、 ②鉄道駅周辺の開発緩和区域を縮小。 9年制の義務教育学校の整備を進めている。廃校と ③IC周辺・主要幹線道路沿道等について、大規 なる小中学校跡は、人口流出に歯止めをかけ生産年 模店舗等を許可用途から除外。 これらの見直しについては、市外への人口流出や 齢人口と賑わいを取り戻すため、専門性の高い大学 ふっ こ の誘致を進めている。伏虎中学校跡には新設される 月刊建設16−11 17 市民図書館 ○○大学 南海和歌山市駅 市民図書館の移転・市駅前の再開発(H31年度完成予定) 駅前広場等の再整備 ぶらくり丁 友田町再開発 (H31年度完成予定) 地域交流センター まちおこし センター 医大薬学部 市民会館跡地活用の検討 学生・若者のまちにふさわしい 活用方法を民間に公募 民間マンション建設 (H29年度完成予定) (H33年度開校予定) JR 和歌山駅 北汀丁再開発 (H30年度完成予定) JR和歌山駅 ↓ 商業・ 案内所等 東京医療保健大学 市民会館(仮称)市民文化交流センター 和歌山城 (H30年度開校予定) 和歌山城を中心とした歴史と文化の薫るまちづくりを進める 徒歩10分圏内の目安 図-4 まちなか3大学構想 おの 県立医科大学薬学部(平成33年度開校予定)、雄 スとして再生・活用する事例も出始めている。この 湊 小学校跡には東京医療保健大学(仮称)和歌山 流れをさらに加速させるため、今年度は、今後のリ 看護学部(平成30年度開校予定)の立地が計画さ ノベーションまちづくりの方向性を定める「わかや れているほか、本町小学校跡にも誘致を進めている。 まリノベーションまちづくり構想」を市民参加型で みなと ほんまち 大学誘致は卒業後の定住を考慮し、本市で不足す 策定しているところである。 る人材領域にターゲットを設定して進めてきたが、 在学中にも需要・供給の両面で効果がある。現在の まちなかは学生の姿がないばかりか、アルバイトも 集まらないとの声もある程である。そこに3つの大 学が立地することで風景は一変する。3大学の中心 ゲストハウス の伏虎中学校跡には市民会館(仮称)市民文化交流 センターが合理化の上で移転・整備される。学生も 旧来型の商業施設や産業の立地が難しくなる中で、 含めた市民が集い、新たな産業・活力やまちづくり こういった取組みを通じて、1つずつ、まちに雇用 の舞台となることを期待している。 と産業を生み出しエリアの魅力を高めることを目指 ⑶ 民間主体の取組み している。 まちなかでは、南海和歌山市駅の再開発に加え、 並行して2件の民間施行の市街地再開発事業が進行 中である。いずれも良質な住宅を供給するとともに、 4.おわりに 人口減少が避けられない時代になり、本市も生活 都心居住の魅力を高める日常利便性の高い商業施設 利便を維持するためのコンパクトシティ化に取り組 や託児所・医療等の都市機能の導入を計画している。 み始めたばかりである。 また都心再生の動きと相まって、純民間の開発も進 まちなか3大学構想は、学生数の分だけ人口減少 行しており、JR和歌山駅前で大規模分譲マンション の補填が直接的に期待できる。一方で、今後の本市 の建設が始まっている。 の趨勢は、当該学生の定着や波及効果による人口増 商業店舗等については、まちなかの利活用可能な と活動にかかっている。このチャンスを活かすには、 遊 休 不 動 産 を 対 象 に 平 成25年 度 か ら リ ノ ベ ー 学生を含む若年層がまちなか・市内に居住し、起業 ションスクールを開催、民間の力によるまちづくり やスキルアップができるまちづくりが必要である。 を促進している。農園レストランや日本酒バーと これから大きく変わろうとしている和歌山市に、 いった店舗のほか、ゲストハウスやSOHOスペー 18 農園レストラン 写真-2 リノベーションスクールにより再生した物件 月刊建設16−11 ぜひお越しください。
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