11 研究紹介 頭頸部扁平上皮癌における PLOD2の機能解析 植木雄志1)、2)、斎藤 憲2)、堀井 新1)、近藤英作2) 1)新潟大学大学院医歯学総合研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 2)新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子細胞病理学分野 はじめに lysine, 2 - oxoglutarate, 5 - dioxygenase2 (PLOD2) 頭頸部癌は世界で6番目に発生率の高い悪性腫 が口腔癌細胞株に特異的に高発現していた (図1) 。 瘍であり、拡大切除または放射線・化学療法を主 また、ヒト頭頸部・口腔腫瘍組織標本においても 体とした集学的治療が行われるが、治療に伴い嚥 免疫組織化学染色により PLOD2の発現を確認し 下・ 発 声・ 呼 吸 な ど の 機 能 低 下 を 招 き 患 者 の た(図2) 。さらに、炎症性サイトカインである QOL 悪化に繋がる問題を生じさせる 。さらに、 インターロイキン6(IL-6)刺激により、PLOD2 リンパ節転移が高頻度であることや治療抵抗性と の発現は増幅されることも明らかにした(図3) 。 なる症例も少なくないことから予後不良の疾患で PLOD2は コ ラ ー ゲ ン の 前 駆 体 で あ る プ ロ コ ある。現在、頭頸部癌における薬物療法としては ラーゲンの末端部分に存在するテロペプチドのリ シスプラチンやセツキシマブが標準治療とされ一 ジ ン 残 基 を 水 酸 化 す る Lysyl hydroxylase 2を 定の成績を上げているものの、皮膚・粘膜障害や コードする遺伝子で、コラーゲンの生合成に関与 間質性肺炎などの副作用が認められることから、 することが知られている。悪性腫瘍においては肝 新たな視点での生体低侵襲性治療を開発し、患者 癌や乳癌、肉腫などで高発現を認め、予後不良因 の QOL 向上に貢献することが求められる。 子とする報告が少数見られる3)、4)が、その詳細な 悪性腫瘍では今日、炎症性サイトカインや低酸 メカニズムについては不明である。PLOD2が頭 素、腫瘍間質などのがん微小環境が血管新生や浸 頸部扁平上皮癌の増殖や浸潤・転移において果た 潤・転移を誘起し、腫瘍の進展・再発及び治療抵 す機能を解明することで、PLOD2を治療標的と 抗性の獲得に働くと考えられている 。頭頸部扁 した頭頸部癌における新しい治療法の開発が期待 平上皮癌においても、治療抵抗性かつ予後不良例 できる。 が多く、これら微小環境が密接に関与すると推察 果たすことが注目されているが、いまだ不明な点 が多い。我々は今回、これらの水酸化酵素分子群 に着目し、頭頸部扁平上皮癌との関わりを分子病 理学的に検討した。 M (kDa) 130 HSC3 酵素群が近年、がんの増殖・進展に重要な役割を HSC2 される。一方、低酸素応答制御分子である水酸化 HaCaT 2) Ca9-22 1) 100 PLOD2 75 48 研究内容 ヒト由来口腔扁平上皮癌細胞3株(HSC2、 HSC3、Ca9-22)および不死化正常表皮細胞1株 (HaCaT)を用いて、代表的な水酸化酵素14種 類の発現レベルを比較解析したところProcollagen - Actin 図1 口腔癌細胞および正常細胞における PLOD2の 図 発現(ウェスタンブロット法) : 口 腔 癌 細 胞 お よ び 正 常 細 胞 正常細胞(HaCaT)と比較して口腔癌細胞(HSC2, HSC3, Ca9-22)において 3/2' の 発 現 (PLOD2が高発現している。 ウ ェ ス タ ン ブ ロ ッ ト 新潟県医師会報 H29.2 № 803 正 常 細 胞 ( +D&D7 ) と 比 較 し て 口 腔 12 IL-6 (ng/ml) 1 10 HSC3 0.5 PLOD2 Ca9-22 0 PLOD2 Actin Actin 図3 炎症性サイトカイン IL-6による PLOD2の増 図幅(RT-PCR : 炎 法) 症 性 サ イ ト カ イ ン Ń 口腔癌細胞への IL-6刺激により、PLOD2の mRNA 図2 ヒト頭頸部扁平上皮癌組織における PLOD2の 図 : ヒ ト 頭 頸 部 扁 平 上 皮 レベルでの増幅を認める。 癌 組 織 に お け る 増 幅 ( 573&5 法 ) 発現(免疫組織化学) 口腔癌・咽頭癌において、非腫瘍組織(下段)に比較し 3/2' の 発では 現PLOD2の発現が増強している。 ( 免 疫 組 織 化 学 て、 腫瘍組織(上段) 口 腔 癌 おわりに ・ 咽 頭 癌 に お い て これまでの研究結果からは、PLOD2が炎症性 ) 口 腔 癌 細 胞 へ の ,/ 刺 激 レ ベ 認 ) め 、 文献 非 腫 ル瘍 で組 の織増(幅 下を 段 る に 。 1)Hunter KD, Parkinson EK, Harrison PR : サイトカインなどの微小環境の影響を受けつつ、 early head の and発neck cancer. に 比 較 し て 、 腫 瘍 組 織 ( 上 段 Profiling ) で は 3/2' 頭頸部扁平上皮癌の増殖や浸潤・転移に密接に関 Nature Reviews Cancer 2005 ; 5 : 127-135. 与現 し てがい る 唆 さいれ た。 増可 能 強性 が し 示て る 今。後さ ら に 2)Hanahan D, Coussens LM : Accessories to PLOD2の詳細な機能解析を進めるとともに、頭 the Crime : Functions of Cells Recruited to 頸部癌の新規治療開発へ向けて取り組んでいきた いと考えている。 the Tumor Microenvironment. Cancer Cell 2013 ; 21 : 309-322. 3)Gilkes D, Bajpai S,Wong CC, et al : 謝辞 Procollagen Lysyl hydoroxylase 2 is 本研究に対して平成28年度新潟県医師会学術研 essential for hypoxia – induced breast 究助成金を賜り、この場をお借りして感謝申し上 cancer metastasis. Molecular Cancer げます。 Reseach 2013 ; 11 : 456-466. 4)Eisinger – Mathason K, Zhang M, Qiu Q, et al : Hypoxia – dependent modification of collagen networks promotes sarcoma metastasis. Cancer Discovery 2013 ; 3 : 1190-1205. 新潟県医師会報 H29.2 № 803 ,/ よ り に 、
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