薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2017年1月)

質疑応答
2017年1月
薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2017年1月)
【医薬品一般】
Q:スタチン系薬に抗悪性腫瘍効果があるのか?(薬局)
A:スタチン系薬は、HMG-CoA還元酵素を阻害することにより血中コレステロール値を低下さ
せる。また同時に、メバロン酸代謝経路における中間代謝産物であるイソプレノイド(ファル
ネシルピロリン酸:FPP、ゲラニルゲラニルピロリン酸:GGPP)の産生も抑制する結果、
多面的効果(プレイオトロピック効果:pleiotropic effects)を発現することが推測され(図)、
冠動脈疾患、心不全、不整脈等の予防効果や、疫学研究等から抗悪性腫瘍効果が報告されてい
る。しかしその一方で、スタチン系薬の発がん性の報告もある。
低分子量GTP結合蛋白質であるRas、Rac、Rhoは、細胞の分化・増殖等に関与してい
る。Ras変異によるシグナル伝達の異常活性化は、様々な細胞のがん化に深く関係すること
が報告され、膵臓がん、乳がん、白血病等でRas変異が認められている。スタチン系薬の薬
理学的作用から、Ras変異によるシグナル伝達が活性化されている癌や症例で抗悪性腫瘍効
果を示すと考えられ、全ての癌に抗悪性腫瘍効果を示す可能性は低い。
Q:夜間頻尿にロキソプロフェンを使用することはあるか?(一般)
A:良性前立腺肥大症や過活動膀胱による夜間頻尿に、ロキソプロフェン60mgを就寝前に投与し、
1日の総尿量、排尿回数は変えずに、夜間排尿回数、夜間の1日総尿量が減少した報告がある
(保険適応外使用)。
ロキソプロフェンは半減期が短いため(未変化体、活性代謝物ともに約1時間15分)、就寝前
投与により睡眠中に効果が現われ、日中まで持続しない。ただし夜間頻尿は高齢者に多いため、
連用による胃腸障害、腎機能障害に注意が必要である。以下の作用機序が示唆されている。
① ロキソプロフェンのプロスタグランジン(PG)合成阻害作用により、腎血管が収縮して
腎血流量が低下し、尿量が減少する。
② PGE2 は膀胱排尿筋の収縮に関与しており、ロキソプロフェンのPGE2 産生抑制により、
膀胱排尿筋の収縮が抑制され、膀胱の緊張を緩和する。
③ 蓄尿時に膀胱上皮細胞からPGが産生され、そのPGが粘膜の下にある求心性神経を刺激
すると尿意が伝わる。ロキソプロフェンがこの経路を遮断する可能性が示唆されているが、
ヒトでは未解明である。
Q:本態性振戦の治療薬は何があるか?(薬局)
A:本態性振戦の病態は十分には明らかになっていない。根本的治療法がなく、薬剤の作用機序も
不明な点が多いが、薬物療法には以下の薬剤が使用される(アロチノロール以外は 保険適応外
使用)。海外での使用例を含めて検討しているため、本邦における通常使用量と比べて高用量
の薬剤もあり、実際の使用にあたっては低用量から開始するなどの注意が必要 である。
薬剤
アロチノロール:10~30mg/日
プロプラノロール:60~320mg/日
第
一
選
択
薬
β遮断薬
抗てんか
ん薬
第
二
選
択
薬
抗不安薬
抗てんか
ん薬
プリミドン:25~250mg/日
備考
実質的な第一選択薬は、アロチノロー
ル。
非選択性/ISA(-)β遮断薬において
抗振戦作用が強く認められ、その機序は
末梢の筋紡錘等に分布しているβ2 受容
体遮断作用により振戦を抑制すると考
えられている。
β遮断薬が合併症のため使用不可、もし
くは副作用発現のため中止の場合に使
用する。
第一選択薬が合併症のため使用不可、副
作用発現、あるいは効果が不十分な時や
無効の場合に使用する。
アルプラゾラム:0.125~3mg/日
クロナゼパム:0.5~6mg/日
ガバペンチン:1,200~1,800mg/日
ゾニサミド:100~200mg/日
トピラマート:~400mg/日
(日本神経治療学会
標準的神経治療:本態性振戦より)
Q:R-CHOP療法に使用されるプレドニゾロンの目的は?(薬局)
A:R-CHOP療法は、悪性リンパ腫に対する化学療法レジメンで、リツキシマブ(R:Rituximab)、
シクロホスファミド(C:Cyclophosphamide)、ドキソルビシン塩酸塩(H:Doxorubicin
Hydrochloride)、ビンクリスチン(O:OncovinTM )、プレドニゾロン(P:Prednisolone)
を組み合わせた治療法である。以下の用法・用量で21日間隔を1クールとし、6~8コース繰
り返す。シクロホスファミド、ドキソルビシン塩酸塩、ビンクリスチンは、1日目に投与する
こともある。
プレドニゾロンは、核内受容体を介して核内のendonuclease(ヌクレオチド鎖の途中を切断す
る酵素)を活性化し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導することにより殺細胞作用を示す。また、
食欲促進や吐気予防の効果もある。
薬剤
リツキシマブ
シクロホスファミド
ドキソルビシン塩酸塩
ビンクリスチン
プレドニゾロン
投与量
375mg/m2
750mg/m2
50mg/m2
1.4mg/m2
100mg/body/day
投与法
点滴静注
点滴静注
静注または点滴静注
静注
内服または静注
投与日
1日目
2日目
2日目
2日目
2日目~6日目
【安全性情報】
Q:アルコール、ヨードに禁忌の患者の手術野皮膚の消毒は?(病院薬局)
A:術前の手術部位の皮膚に適用のある消毒薬は多数あるが、米国における最近の研究では術前消
毒において、2%クロルヘキシジンアルコール液は、10%ポビドンヨード液に比べ手術部位感
染率が有意に減少したと報告されている。メタアナリシスによる解析でもクロルヘキシジン製
剤は、ポビドンヨード製剤に比べて手術部位感染が有意に低下すると評価されている。日本の
ガイドラインでは、10%ポビドンヨード製剤、クロルヘキシジン製剤、アルコール製剤(消毒
用エタノール、イソプロパノール)の使用が推奨されている。アルコール、ヨードに禁忌の場
合、クロルヘキシジン0.1~0.5%水溶液を使用する。
(吉田製薬 Y's Squareより)