特集 地域活性化の推進−交流と連携による未来の地域づくりに向けて− 佐賀市下水浄化センターを「宝を生む施設」に はし もと つばさ 橋 本 翼* 佐賀市では、下水浄化センターを地域に歓迎される「宝を生む施設」に転換するため、下水処理水の海 苔養殖・農業への利用、下水汚泥の肥料化や消化ガス発電等の取組みを積極的に進めてきた。本稿では下 水道が有する水・資源・エネルギーのポテンシャルを「食」に活用することで、地域の方々との良好なつ ながりを築き上げてきた取組みについて紹介する。 1.はじめに 来開拓賞」を受賞するとともに、国土交通省と日本 昭和53年11月に供用を開始した佐賀市下水浄化 センターでは、迷惑施設と思われがちな下水処理施 設を地域活性化につながる歓迎施設「宝を生む施設」 下水道協会が主導するBISTRO下水道※ において先 進事例として取り上げていただいている。 本稿では、下水浄化センターで進めている取組み に転換するため、下水処理水の海苔養殖・農業への のうち、下水道が有する水・資源・エネルギーのポ 利用、下水汚泥の肥料化や消化ガス発電等の取組み テンシャルを「食」に活用することで地域の方々と を積極的に進めてきた(図-1) 。これらの取組み 良好なつながりを築き上げてきた取組みについて紹 については、平成24年9月に国土交通大臣賞「循 介する。 環のみち下水道賞」、平成25年7月に日本水大賞「未 図-1 佐賀市下水浄化センターにおける主な取組み *佐賀市 上下水道局 下水プロジェクト推進部長 0952-22-0181 月刊建設16−11 39 2.下水処理水の海苔養殖・農業への利用 ていき、今では5年連続生産した量の全量を「宝の 佐賀県産の海苔は販売枚数、販売金額ともに13 肥料」として有効活用してもらっている。肥料の小 年連続日本一であり、佐賀市にとって海苔養殖業は 口利用者数は、平成23年度は1,680人だったが平成 一大産業である。また、下水浄化センターからの放 27年度には約1.85倍の3,120人に増加した。さらに 流先は有明海北部に流れ込む本庄江川であり、河口 年数回開催している農業勉強会には毎回60〜80人 域は海苔養殖の漁場となっている。全国的に下水処 の農業者等に参加いただいている。このような地域 理施設の整備により公共用水域の水質は向上してき の方々とのつながりを持続するため、地域の方々に た一方で、海苔養殖等が盛んな水域では栄養塩類の 「宝の肥料」の良さを伝えることを目的にパンフレッ 不足による海苔の色落ち等が懸念されている。そこ トを作成してPRするなど「下水道由来の肥料は食の で佐賀市では、平成19年より海苔の養殖時期であ おいしさの源」とのキャッチコピーのもと、イメー る冬季に窒素やリンといった栄養を多く含む下水処 ジ戦略を進めている(図-2) 。 理水を放流し、夏季には可能な限り窒素やリンを除 去して放流する、いわゆる「季別運転」を実施する とともに定期的に海苔養殖者と勉強会を開催するな ど、より良い海苔養殖に寄与するための取組みの実 施・継続に努めている。その結果、「美味しい海苔 が採れた」という声もあり、海苔養殖業者とも良好 な関係を築いている。 さらに下水処理水は、海苔養殖業への利用のみな らず、農業用水としても栄養豊富な「宝の水」とし て液肥代わりまたは害虫防除等にも広く利用いただ いている。 3.下水汚泥の肥料化 下水汚泥の処分に用いていた焼却炉が寿命を迎え る時期に、下水汚泥を有効利用する方法について検 討した。その結果、他の処分方法より安価であると ともに、資源の地域循環、環境への貢献ということ 生産した農産物の評判も良く、市場で高い値段が を理由に、下水汚泥を肥料として農業が盛んな地域 つくなど流通の面でも効果が上がりつつある。また に還元する堆肥化を選択し、平成21年10月に下水 福岡県のイオンモール筑紫野で「BISTRO下水道in 処理工程で発生する脱水汚泥を全量肥料化して販売 佐賀」と銘打って下水汚泥肥料を利用して生産した する事業を始めた。 農産物を販売した際には、 連日盛況でほぼ完売だった。 下水汚泥由来の肥料を使っていただくためには、 まずは下水汚泥を用いた肥料の安全性について農家 の不安を払拭する必要がある。そのため、1年間の 40 図-2 「宝の肥料」パンフレット(表の面) 4.バイオマス産業都市さが 前述のような下水浄化センターでの取組みのほか、 無料配布や試験圃場の設置、NPO法人循環型環境・ ごみ処理施設の清掃工場等でこれまで実施していた 農業の会と協力した農業勉強会の定期開催、市報や 数々の取組みを有機的に結びつけ、一つの構想とし 新聞・ラジオ等のメディアを利用した宣伝等を実施 てまとめたのが「佐賀市バイオマス産業都市構想」 してきた。下水汚泥肥料の効果を広くPRした結果、 であり、平成26年11月にバイオマス産業都市※※と 口コミ等で農業者や家庭菜園愛好者に評判が広まっ して選定された(図-3)。 月刊建設16−11 図−3 バイオマス産業都市さが 佐賀市のバイオマス産業都市構想は、人の暮らし 採択を受け、株式会社東芝・株式会社ユーグレナ・ から始まり、暮らしからのごみや排水などこれまで 日環特殊株式会社・株式会社日水コン・日本下水道 廃棄されていたものを有効利用して資源・エネル 事業団・佐賀市共同研究体で「バイオガス中のCO2 ギーを創出し、それを産業振興や雇用創出につなげ 分離・回収と微細藻類培養への利用技術実証研究」 ることとしている。省エネかつ創エネを実現し、人 を実証中である。 と環境にやさしい取組み「昔に帰る未来型」の「佐 賀」創生を目指している。 「宝の水」や「宝の肥料」を農家の方々が下水浄 化センターまで足を運んで取りに来てくださるなど、 地域の方々との良好なつながりが根付いてきたこと 5.おわりに は大変喜ばしいことであり、佐賀市の活力である。 佐賀市では平成26年2月から株式会社ユーグレ 今後も新たな価値の創造に関する取組み、人と環境 ナと、同年6月からは味の素株式会社と、新たな資 にやさしい取組みを推進することで、あたりまえの 源・エネルギーの創出に向けた共同研究を進めてい 暮らしが地域の力になる循環型社会構築の一翼を下 る。また、下水処理と藻類培養を両立する仕組みに 水浄化センターが担っていきたいと考えている。 ついて、国土交通省のB-DASHプロジェクト ※※※ の 【用語解説】 ※ BISTRO 下水道……水・資源・熱が集まる下水道は「食」に貢献できる大きなポテンシャルを有している。平成 25 年8月、 国土交通省と日本下水道協会の主導により、下水道資源の有効利用に取り組んでいる地方公共団体等の ネットワークとなる「BISTRO 下水道推進戦略チーム」が結成され、 食と下水道の連携「BISTRO 下水道」 の活動がスタート(国土交通省 HP:http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_ sewerage_tk_000449.html) 。 ※※バイオマス産業都市……経済性が確保された一貫システムを構築し、地域の特色を活かしたバイオマス産業を軸とした環境 にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域であり、関係7府省(内閣府、総務省、文部 科学省、農林水産省、国土交通省、環境省)が共同で選定。 ※※※ B-DASH プロジェクト……国土交通省が新技術の研究開発及び実用化を加速することを目的に実施している下水道革新 的技術実証事業。国土交通省国土技術政策総合研究所の委託研究。 月刊建設16−11 41
© Copyright 2024 ExpyDoc