大阪成蹊女子高等学校 第 69 回卒業証書授与式 校長式辞 本校の建学

大阪成蹊女子高等学校 第 69 回卒業証書授与式 校長式辞
本校の建学の精神を象徴する校庭のスモモの木も、つぼみが膨らみ始めま
した。季節を告げる花々は、確実に春の訪れを伝えています。
このような佳き日、大阪成蹊女子高等学校第 69 回卒業式を挙行いたしまし
たところ、日頃よりご支援を賜ります後援会、PTA、蹊友会の各ご代表、更に
はご多忙の中、大阪成蹊大学、びわこ成蹊スポーツ大学、大阪成蹊短期大学、
こみち幼稚園の学長様、園長様をはじめとする学園関係者の皆様、そして
PTA 役員の皆様方にご臨席を賜り、巣立ちゆく本校生の門出を祝福していた
だきましたこと、まず心よりお礼を申し上げます。
卒業生は、ただ今卒業証書を授与しましたとおり、キャリア進学コース 205 名、
幼児教育コース 169 名、美術・イラスト・アニメーションコース 72 名、スポーツコ
ース 32 名、キャリア特進コース 25 名、計 503 名でございます。
本校のこれまでの卒業生の総数は 34462 名を世に送り出したことになります。
卒業された多くの諸先輩は、本校で学び、身に付けられた力を社会で存分に
発揮され、活躍されている方も多数おられます。皆さんの卒業にあたって、改
めて本校 8 3 年の輝かしい伝統と歴史を感じるとともに、卒業される皆さんのこ
れからのご活躍を祈念する次第です。
ご多忙の中、ご参列いただきました保護者の皆様、本日はまことにありがと
うございます。お子様の卒業に際して、さぞかしお喜びのことと拝察し、心から
お祝い申し上げます。
本校は、大阪府内の最も人気のある私立女子校として、長らく入学者数第
一位を誇ってきました。大規模校でありながら一人ひとりを大切にし、人間力を
高めるという本校の教育方針は、建学の精神を踏まえたものであります。この
伝統ある女子教育に、時代の新たな要請にも応える教育を展開し、全教員が
生徒の成長を見守りながら、女性としての品格の形成に邁進(まいしん)してま
いりました。とりわけ、本校の教育の柱である「女子に特化したキャリア教育」
は、一昨年より「グローバルなキャリア教育」へと進化して、世界を視野に入れ、
将来の夢を実現できる力を育んでまいりました。
私たち教職員一同は常に生徒に寄り添い、生徒たちへの支援を通じて、高
校生活が充実したものになるよう精一杯努めてきたつもりです。時には厳しい
指導もありましたが、生徒への愛情を忘れず、全力を挙げて生徒たちを導いて
まいりました。そして今、生徒たちが、大阪成蹊女子高校の卒業生の名に恥じ
ないまでに成長を遂げ、自信を持って世に送り出すことができますことは、私た
ち教職員の大きな喜びでございます。その間、本校の学校運営に対して、PTA
の皆様をはじめとして、関係諸団体の方々の温かいご理解とご支援をいただき
ましたことに厚くお礼申し上げる次第です。ありがとうございました。
さて、卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。
皆さんは、この 3 年間の本校での学びの中で、数多くの体験を積み上げて来
られました。体育祭・文化祭の学校行事、幼児教育コースのミュージカル、ス
ポーツコースのスキー実習など各コースでの多様な活動を実施してきました。
フランスへの修学旅行は、残念ながらテロ事件により、行き先を変更せざるを
得なかったもののアメリカや台湾、そして沖縄や東京への修学旅行も貴重な
体験になったと思います。
本校は、グローバル化が進展する社会の要請に応えて、豊かな国際感覚を
育むために、皆さんの学年からALTの先生による「使える英語」の指導を導入
し、更に台湾の金陵女子高級中学と提携するなどの国際交流の機会を増やし
てきました。皆さんが、これから進学する大学や短大、専門学校などの行く
先々で、多かれ少なかれ英語と接する機会は更に増え、また 2020 年の東京オ
リンピック開催では多くの外国の方がわが国に来られるでしょう。これからの社
会で生き抜くために、わが国の文化や歴史だけを学ぶのではなく、世界の多様
な文化や歴史を学び、他の国の価値観を学ぶことが重要になってきます。
世界の歴史を振り返ると、今から 600 年以上も前の 15 世紀ごろから 17 世紀
にかけて、ある意味で世界のグローバル化的な動きが進んだ時代がありまし
た。それは、イギリスやスペインなどヨーロッパ人による植民地主義が全世界
に広がった時代です。海を支配したヨーロッパの特定の国、その国の文化が世
界各地に強い影響を与え、ヨーロッパの宗教や言語が世界に広がり、その結
果として世界中で民族固有の文化が多数消滅した歴史があります。15 世紀か
ら 17 世紀は、世界の画一化が進んだ時代だったのです。
しかし、21 世紀の私たちが迎えるグローバル化とは、その当時の世界とは
全く異なっています。私たちは、それぞれが持つ個性を塗りつぶして、すべての
人が同じような生活や文化めざすべきではなく、人々が宗教、性別、言語など
の違いを互いの多様性として尊重し合い、地域や国を越えて協働する社会の
実現をめざす時代へと進化しています。
本校がめざしているグローバル化とは、まさに他者との違い認め、他者を敬
う態度の育成であり、多文化共生の世をめざすものです。これは、本校の建学
の精神であり、行動指針となっている「忠恕」の精神、そのものでもあります。
80 年以上も前に、本校の指針として設けられた「忠恕」の精神が、現在のグロ
ーバル時代に通じる普遍性をもっていることに、改めて誇りに感じます。
国連難民高等弁務官や国連人権委員会の日本代表を務められた緒方貞子
さんは、国際政治学者として世界に知られた日本人女性です。緒方さんは、ア
フリカや中東の難民を救済し、世界中の戦争や貧困にあえぐ子どもたちの命を
救ってきた人で、世界で最も活躍した日本人女性の一人と言えるでしょう。
この緒方貞子さんは、このような名言を話されています。
We need people in Japan who can comprehend various values and respond
diversely.
この言葉の意味は、「多様な価値が理解でき、多様な対応ができる人が日
本に必要だ。」というものです。緒方さんは、英語が好きで、テレビやネットで海
外に憧れを抱く人は少なくないが、そんな私たちに、「英語や外国への憧れ以
上に、世界中の多様な価値観を理解することが、より大切だ。」と述べられてい
るのです。
画一的な教育を受けていると、学生や生徒は画一的にものを考えてしまい
ます。残念ながらこの画一的な教育は、わが国では多数を占めています。しか
し、本校ではコースごとに多様なカリキュラムを設け、本校だけの独自科目で
ある「キャリアデザイン」など複数科目を開講して、皆さん一人ひとりの個性と
能力を引き出すようカリキュラムを組み、多様な価値観が理解できる人材育成
をめざしました。そして他者を敬い、他者と共に生きる多文化共生が本校のキ
ャリア教育の目標であり、3 年間皆さんが学んだ財産になると期待しています。
これから先、一人ひとりの進む道は別であっても、本校を卒業されたすべて
の成蹊生が本校の「忠恕」の精神を忘れず、これからのグローバル時代にそ
の精神を大いに生かし、光り輝いてもらいたいと思います。
いよいよ、お別れの時がきました。
本学園を卒業される皆さんは、本校 83 年の歴史のうち僅か 3 年を過ごした
にすぎません。しかし、その期間は短くても、明らかに一人ひとりがこの大阪成
蹊女子高校の歴史の中で学び、成長しました。本分である学業はもとより、他
者を敬うと共に、自分自身にプライドを持つこと、そして他者と自分との関係性
を高めることの大切さなど、人間として必要な力を十分に育んでこられました。
皆さんが卒業された後も、大阪成蹊女子高等学校の伝統は絶えることなく、更
に輝き続けることでしょう。本学園が未来にわたって輝き続けるということは、
卒業される皆さん自身が、高尚な価値観とすばらしい人間力をもち、すばらし
い人として光り輝くことなのです。
改めて、ご卒業おめでとう。そして、皆さんさようなら。
旅立たれる卒業生のご多幸を心からお祈りして、お別れの式辞とします。
平成 29 年 2 月 23 日 大阪成蹊女子高等学校長 紺野昇