Economic Indicators 定例経済指標レポート

EU Trends
まだ波乱がありそうなフランス大統領選
発表日:2017年2月21日(火)
~フィヨン候補の再逆転、左派候補の一本化は?~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ 不正報酬疑惑が響く共和党のフィヨン候補の支持率低下に歯止めが掛かっており、浮動票支持が多い
独立系のマクロン候補を再逆転する可能性が浮上してきた。他方、左翼党のメランション候補と社会
党のアモン候補が共闘の可能性を模索しており、左派候補が一本化すれば決選投票進出の芽も残る。
決選投票で対峙する相手が、マクロン候補ではなく、フィヨン候補やアモン(メランション)候補と
なれば、国民戦線のルペン候補がまさかの逆転劇を起こす可能性が高まる。
共和党の予備選を制したフィヨン候補の不正報酬疑惑が浮上した後、世論調査でトップを走っていた同
氏の支持率が下降線を辿り、2月に入ってから多くの調査で国民戦線のルペン候補、独立系のマクロン候
補に逆転を許してきた(図表1)。こうしたなか、共和党内ではフィヨン候補降ろしの動きが散発的に浮
上しているが、何れも大きな動きに発展することはなく、同氏も大統領選への出馬を辞退することを否定
している。立候補に必要な推薦人名簿や資産報告書の最終提出期限は現地時間の3月17日午後6時とまだ
多少の猶予があるが、4月23日の初回投票まで2ヶ月余りとなり、共和党が新たな候補を擁立するにして
も時間切れが迫りつつある。最近の世論調査の多くは、このまま選挙戦に突入すれば、ルペン候補とマク
ロン候補が決選投票に進出し、マクロン大統領が誕生することを示唆する(図表2)。だが、選挙戦本番
までにはまだ一波乱も二波乱もありそうな気配だ。
まず、不正報酬疑惑が響くフィヨン候補の支持率が最近の世論調査で下げ止まってきており、マクロン
候補を再逆転することも十分に射程圏内にある。フィヨン候補が共和党の強固な支持基盤を抱えているの
に対し、独立系のマクロン候補は多くの浮動票に支えられている。最新の世論調査で両者の支持率はほぼ
並んでいる。マクロン旋風が一巡したことに加え、次期大統領の最有力候補となったことで、マクロン潰
しの逆風が吹き始めたことも影響している。マクロン陣営は最近、選挙妨害を目的にロシアが虚偽情報を
拡散していると発表した。また、マクロン候補はオランド政権での経済閣僚としての実績こそあるが、今
回の大統領選でフランス国民の大きな関心事であるテロ対策や安全保障分野での手腕は未知数だ。先日も
フランスの旧植民地であるアルジェリアを訪問し、同国でのかつての植民地政策が非人道的であったとす
る発言が国内で物議を醸した。
もう1つの不確定要素は、他党の候補者一本化の動きだ。世論調査で5%程度の支持を獲得する中道派
のバイルー候補はまだ出馬の意向を表明していない。同氏が出馬を見送った場合、バイルー支持票の多く
が中道寄りの政策を掲げるマクロン候補に流れるとの見方がこれまで一般的だった。だが、最近の世論調
査を見る限り、バイルー支持票はマクロン候補だけでなく、フィヨン候補や社会党のアモン候補に分散す
ることが示唆される。さらに、左派候補の一本化の行方も選挙戦に大きな影響を与えそうだ。主要候補の
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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中で最左翼に位置するメランション候補は世論調査で11%前後、社会党の予備選を制した党内最左翼のア
モン候補は14%前後の支持を獲得することが示唆される。非主流派の左派候補に一部の票が流れることが
予想され、一本化後のどちらかの候補が両者の合計の支持率を獲得することは難しいが、仮に20%前後の
支持を獲得すれば、マクロン候補やフィヨン候補を差し置いて決選投票に進出する芽も出てくる。そのメ
ランション候補とアモン候補は17日に会合を持ったが、共闘での話し合いは物別れに終わった。両候補の
政策面での隔たりは大きいが(例えばメランション候補は反EUの立場を採る)、今週中にも再び話し合
いの場を持つと伝えられている。
このままマクロン候補が第2の切符の座を勝ち取り、決選投票でルペン候補と対峙する場合、マクロン
候補が勝利する可能性が高い。だが、ここにきて決選投票での両者の世論調査の差が縮まってきている。
今回の大統領選では、共和党・社会党予備選を何れもダークホースが制した。テレビ討論会の結果次第で
世論調査が大きく変動し、現時点の世論調査は余り当てにならない可能性がある。
フィヨン候補が再逆転でルペン候補と決選投票で対峙する場合も、世論調査はフィヨン候補の勝利を示
唆する。だが、不正報酬疑惑の発覚後、両者の決選投票の世論調査でのフィヨン候補のリードは縮小傾向
にある。おまけに疑惑への対応に追われ、フィヨン候補は本選に向けた準備が遅れている。フランスの大
統領選では、初回投票に向けて党内の支持を固めた後は、決選投票に向けて政策を中道寄りにシフトし、
より幅広い有権者層にアピールするのが一般的だ。だが、フィヨン候補は共和党予備選で掲げたリベラル
色の強い政策を堅持している。他方、ルペン候補は決選投票への進出がほぼ確実となったことで、既に決
選投票を睨んで政策を穏健化路線にややシフトしている。初回投票で左派を支持した有権者が極右阻止で
団結し、フィヨン候補を支持するかは予断を許さない。
左派が候補を一本化して決選投票でルペン候補と対峙した場合、ルペン候補が勝利する確率がさらに高
まる。メランション候補・アモン候補のどちらになっても左派色が強く、初回投票でフィヨン候補やマク
ロン候補を支持した右派・中道層は行き場を失うことになる。投票を棄権するか、しぶしぶルペン候補の
支持に回る可能性がある。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
(図表1)フランス大統領選の世論調査(初回投票)
【バイルー候補出馬】
30
25
ルペン(国民戦線)
20
フィヨン(共和党)
15
マクロン(アン・マルシュ)
10
メランション(左翼党)
5
バイルー(民主運動)
0
2016/12/3
2017/1/4
2017/1/6
2017/1/8
2017/1/27
2017/1/31
2017/2/1
2017/2/2
2017/2/6
2017/2/8
2017/2/8
2017/2/8
2017/2/12
2017/2/13
2017/2/16
2017/2/17
アモン(社会党)
【バイルー候補不出馬】
30
25
20
ルペン(国民戦線)
15
フィヨン(共和党)
10
マクロン(アン・マルシュ)
2017/2/20
2017/2/17
2017/2/16
2017/2/13
2017/2/12
2017/2/8
2017/2/8
2017/2/5
2017/2/2
2017/1/31
2017/1/27
アモン(社会党)
2017/1/20
0
2017/1/4
メランション(左翼党)
2017/1/15
5
出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成
(図表2)フランス大統領選の世論調査(決選投票)
マクロン(アン・マルシュ)
(%)
80
40
40
30
30
20
20
2016/4/14
2016/5/16
2016/6/17
2016/11/25
2016/11/28
2016/12/3
2017/1/6
2017/1/20
2017/1/31
2017/2/2
2017/2/7
2017/2/15
2017/2/20
2017/2/17
50
2017/2/13
50
2017/2/8
60
2017/2/6
60
ルペン(国民戦線)
2017/2/2
70
2016/1/15
70
2017/1/31
ルペン(国民戦線)
2017/1/20
フィヨン(共和党)
2016/12/3
(%)
80
出所:各種世論調査より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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