フランス大統領選は「混戦」に、依然リスクはルペン

リサーチ TODAY
2017 年 2 月 22 日
フランス大統領選は「混戦」に、依然リスクはルペン候補
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
フランスの社会党は大統領選挙の候補者選定に向けた予備選挙を実施した。今年1月29日の決選投票
では、党内左派のアモン前教育相がバルス首相を破り、同党の大統領候補となった。その結果、大統領選
の本選は、国民戦線のルペン党首、無所属のマクロン前経済相、共和党のフィヨン元首相を中心とした混
戦になるだろう。先述の社会党の左派候補の当選とフィヨン氏の妻の不正給与受領疑惑で中道のマクロン
氏の存在感が急速に浮上した。みずほ総合研究所は、フランス大統領選に関するリポートを発表している1。
初回投票の支持率第2位のマクロン氏は、決選投票にさえ進めば勝利できるとの調査結果もある。国民戦
線のルペン氏の支持率は最も高いものの、決選投票では勝利が難しいというのがコンセンサスだ。ただし、
既存2大政党が苦戦のなか情勢は流動的だ。下記の図表はフランスの大統領選における初回投票と決選
投票における支持率調査を示す。今年4月23日の初回投票ではルペン党首が首位となり、決選投票でマ
クロン前経済相またはフィヨン元首相と相対する見込みだ。支持率でルペン氏はトップだが、決選投票では
いずれのケースでもルペン氏が勝利できないという見方が強い。これは、極右大統領誕生への懸念から、
決選投票では有権者の「反ルペン票」が集まるとみられるからだ。ただし、こうしたコンセンサスが通用する
かが問題であり、今年の欧州最大のリスクはフランス大統領選にある。
■図表:大統領選の支持率調査(初回投票)
大統領選の支持率調査(決選投票)
①ルペン党首v.s.フィヨン元首相
メランション党首(左翼党)
ルペン氏
フィヨン氏
アモン前教育相(社会党)
②ルペン党首v.s.マクロン前経済相
マクロン氏
ルペン氏
フィヨン元首相
③フィヨン元首相v.s.マクロン前経済相
マクロン前経済相(独立)
フィヨン氏
マクロン氏
ルペン党首(国民戦線)
(%)
(%)
0
5
10
15
20
25
30
0
50
100
(注)調査期間は、2017 年 1 月 31 日~2 月 3 日。
(注)調査期間は、2017 年 1 月 26 日~27 日。
(資料)ifop よりみずほ総合研究所作成
(資料)Kanter Sofres/LeFigaro よりみずほ総合研究所作成
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2017 年 2 月 22 日
先述のように「決選投票ではルペン氏敗北」がコンセンサスシナリオだ。ただし、国民戦線がこのところ急
な復活を遂げた点を認識する必要がある。復活の第1の理由は外部環境の変化による追い風と、党の主
体的な戦略変更だ。外部環境の変化として、景気後退による失業の増加と移民増加による社会不安の高
まりがある。下記の図表は国民戦線の支持地域と地域別の失業率を示すが、各地域圏の失業率と2015年
の議会選挙(初回投票)で国民戦線がトップ当選を果たした地域圏との相関が強く、フランスの景気低迷と
移民問題への関心が国民戦線への追い風となる可能性がある。
■図表:国民戦線の支持地域と地域別失業率
オー=ド=フランス
国民戦線
第一党
オクシタニー
プロバンス=アルプス=コート・ダジュール
コルス(コルシカ島)
ノルマンディー
国民戦線
第一党
グラン・エスト
サントル=ヴァル・ド・ロワール
ヌーベル=アキテーヌ
ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ
ペイ・ド・ラ・ロワール
ブルターニュ
オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ
(%)
イル=ド=フランス(パリ)
0
5
10
15
(注)失業率は 2015 年 10~12 月期。色つきの地域は 2015 年 12 月の地域圏議会選挙(初回投票)で、
国民戦線が第一党となった地域。
(資料)INSEE、内務省よりみずほ総合研究所作成
第2の理由は国民戦線のイメージ戦略の転換で、下記の図表にあるようにソフト化路線に沿って女性の
支持率が上昇しており、党のイメージ向上に向けた緻密な対応が功を奏する状況にある。現時点で、ルペ
ン氏の大統領当選は「とんでも予想」に過ぎないが、今年の欧州の動向のカギを握るのはフランス、なかで
もルペン氏の動向と言えるだろう。
■図表:国民戦線の男女別支持率推移
25
(%)
男性
女性
ルペン党首就任
20
15
10
5
0
1988
1995
2002
2007
2012
(大統領選挙年)
(資料)Mayer(2013)よりみずほ総合研究所作成
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吉田健一郎 「フランス大統領選は『三つ巴』に」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2017 年 2 月 1 日)
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