審議会意見書 基本的な方向性(PDF:322.7KB)

Ⅱ
1
大津市における消費者教育の推進の基本的な方向性
大津市民の意識改革に向けて
現代社会においては、市民は自らを消費行動の「主体」として認識し、消費者と事業者との間に
は常に情報量や交渉力において格差が存在することを知った上で、それに起因する様々な消費者ト
ラブルに遭遇しないために、自らの努力でその利益擁護に向け、自主的、合理的な行動をとらなけ
ればなりません。また、市民は、自身の判断や行動が常に社会や経済、地球環境などに大きな影響
を与えるものであることを認識し、日常の消費行動においてもマナーやモラルを守ることを求めら
れているということも知っておかなければなりません。
さらに、急速に進展する高度情報化社会においては、商品やサービスの生産から流通、代金決済
に至るまでが大きく変化していることを認識し、消費者はそうした複雑多様化した商取引にも柔軟
に対応していくよう努力しなければなりません。その意味で、市民が金融リテラシーの向上を意識
することは、自立した消費者となるためにはたいへん重要であり、それによって消費者は、家計管
理や長期的な生活設計を立てるための知識や能力、健全な消費生活における習慣を身に付けること
ができるのです。
「消費者教育の推進に関する法律」は、こうしたことを踏まえて、消費者市民社会を『消費者が
個々の特性や消費生活の多様性を相互に尊重しつつ、自らの消費生活に関する行動が、現在及び将
来の世代にわたって内外の社会経済情勢及び地球環境に影響を及ぼし得るものであることを自覚し、
公正で持続可能な社会の実現に向けて積極的に参画する社会』と定義付けています。消費者の社会
的役割とそのための消費者教育推進の必要性がここに示されています。
しかし、残念なことに未だ多くの市民は、消費者問題を社会的・構造的な問題と捉える機会を与
えられておらず、特殊詐欺や悪質商法などの一部の犯罪事例とするだけに留まっているように思わ
れます。これでは国をあげて目指す「消費者市民社会」の実現は夢物語となってしまいます。消費
者がよりよい経済社会を形成する原動力としてその役割を果たすためには、積極的に消費者問題と
関わり、その意識と行動を改めていく必要があるのです。
したがって、市においては、消費者の意識改革、経済活動の主体としての意識醸成に向け、合理
的に意思決定のできる消費者、自立した消費者の育成に向けた消費者教育を推進する施策を構築し、
実施することが求められています。
2
大津市の消費者行政の見直し
消費者教育の推進と一言で言ってもその領域はかなり広く、市が行う消費者教育だけではそれを
すべてカバーすることは不可能です。それは、国が作成した消費者教育推進の重点領域を示したイ
メージマップを見ても明らかです。ここでは、まずはその領域と消費者教育の目標をあらためて整
理して示しておきます。
(1) 生活の管理と契約に関する領域
○ 消費者は、適切な情報収集とそれに基づく正しい選択、将来を見通した意思決定を行い、自
らの生活の管理と健全な家計運営が行える力を養う。
○ 消費者は、
契約における権利と義務を明確に理解し、違法・不公正な取引や勧誘に対しては、
- 6 -
自らの力でそれを見極め、トラブルを回避し、それらの事業者に対して毅然とした態度で行
動がとれる力を養う。
(2) 商品やサービスの安全に関する領域
○ 消費者は、常に商品やサービスに係る情報に関心を持ってそれに接し、内在する危険を予見
し、安全に関する表示等を確認して、その危険を回避する力を養う。
○ 消費者は、
商品やサービスに事故が発生した場合、速やかに事業者に対し保障や賠償、改善、
再発防止策を求めて行動を起こすことができる力を養う。
(3) 情報とメディアに関する領域
○ 消費者は、高度情報化社会における情報や通信技術の重要性をしっかりと認識し、それらを
適切に管理し、活用することによって自らの消費生活に役立てる力を養う。
○ 消費者は、情報やメディアを常に批判的な視点で見られるように訓練を積む必要があり、
様々な情報の裏側に潜む真実を読み解く力を養う。
(4) 消費者市民社会の構築に関する領域
○ 消費者は、自身の消費行動が社会や経済、環境、文化等の様々な分野において影響を与える
ものであることを理解し、適切な商品やサービスを選択できる力を養う。
○ 消費者は、持続可能な社会の構築の必要があることを意識しながら、その実現に向けて協力
して取り組むことができる力を養う。
○ 消費者は、個々の消費者の特性や消費生活の多様性を相互に尊重し合い、主体的に社会参画
することの重要性を学び、
他者と協力して消費生活に関する諸問題の解決に向けて行動する
力を養う。
市は、こうした領域のそれぞれの重点目標の達成のため、消費者教育のあり方をもう一度見直す
必要があります。その際には、消費者教育の領域や目標を縦軸に、どのタイミングで、誰が、どこ
で行うかを横軸に包括的な政策の立案が必要となります。
また、消費者教育を効果的に進めていくためには消費者の特性にも注目すべきで、年齢や性別、
障害の有無、消費生活に関する知識量、就労状況、居住環境、情報通信機器等の利用状況などの特
性や経済的自立の程度によっても消費者問題との関わり方が大きく異なることを知っておかなけれ
ばなりません。
さらに、消費者教育の推進と学習機会の拡充に市が取り組むにあたっては、総合的で包括的な計
画やアクションプランを体系的に明文化しておく必要があります。このため、今後、市独自の消費
者教育推進計画のようなものを策定することが検討すべき重要な課題となります。
また、その際には必ず「客観的な指標(ベンチマーク)」の設定を行う必要があり、市は、常にこ
の指標に照らして事業を評価し、その効果を測定しなければなりません。そして、その評価や効果
測定の結果は次の施策展開や事業展開に反映されなければなりません。
なお、この客観的指標の設定にあたっては、達成水準を量的に表現する「定量目標」と質的に表
現する「定性目標」がありますが、いずれの表現によるかはその目標の内容や行政が果す役割に応
じて適切に選択しなければなりません。この場合に最も重要なことは、いずれの表現であっても目
標の達成度合を客観的に判定できるものでなくていけないということで、後から計測できる表現に
しておかなければなりません。
- 7 -
加えて、今後の消費者行政のさらなる進展のためには、その拠点となる消費生活センターの体制
の強化が何よりも必要とされており、現体制のままではこれだけの事業をこなしていくことはかな
り難しいと考えます。
また、多様な関係機関との連携や学校現場における消費者教育の推進には、専門家のコーディネ
ーター等の人材確保も必要となり、大津市消費生活センターが入居する建物には教育、子育て支援、
社会福祉、高齢者支援などの機関が集まっていることもあり、これらの分野との人的交流などを積
極的に行っていくべきです。
3
さまざまな主体との連携推進
市は、消費者教育の推進にあたって、それを単独で進めるのではなく、その担い手となる多様な
主体との連携によってそれを実践することを前提としなければなりません。そうした連携こそが広
く消費者に学習機会を提供することにつながるからです。そのために連携を図るべき主体としては、
次に掲げるものが考えられますが、その連携のあり方とともに担い手となる人材の育成についても
特に配慮が必要となります。
(1) 家庭との連携
家庭における消費者教育は、特に子供がいる家庭においては親がその担い手となって実践す
ることが望まれます。そこでは、子供に対して物やお金を大切にすることの習慣付けやバラン
スのよい金銭感覚を養うための訓練、生活の中に潜む様々な危険やリスクを子供自身が察知し、
それを回避するための知識や判断力を身に付けるよう指導することが重要です。市は、そうし
た親のサポートを行うような政策を作り、実施すべきです。
(2) 地域との連携
高齢化や核家族化が急速に進む中、高齢者世帯や独居老人が急増する現状にあっては、地域
でそうした高齢者を支援する「見守り」の体制整備がますます重要となります。しかし、現実
には地域コミュニティの崩壊が進み、住民自治の担い手も高齢化する中で、新しい地域人材の
育成が喫緊の課題となっており、市は、まずこうした人材の発掘を行い、その育成や活用を進
めていくよう政策を実施することが必要です。
(3) 学校との連携
子供に対する消費者教育は、家庭との連携において行われる以外に、学校教育においても発
達や成長の段階に応じて体系的に実施される必要があります。これについては、すでに学習指
導要領の改訂も進み、その方針や方向性は明らかにされています。
しかし、その一方で、学校における消費者教育の担い手となる教職員については、未だ十分
な専門的な知識や技術が備わっているとは言えない状況にあり、、充実した授業を行うための
教育教材や教具等も整備が遅れています。
これについて、市は、まず学校現場の担い手である教職員に対して専門的な知識や技術を習
得する機会を提供し、その担い手の育成を行うように、その具体的な施策を検討すべきです。
また、教職員との連携の中で、共同して教育教材・教具等の開発やモデル的な指導計画の策定
なども進めていく必要があります。
- 8 -
(4) 職域との連携
人は、学校を卒業して社会に出れば自立した社会生活を送るようになります。そして、その
際には消費者として合理的な判断や行動を行うことが求められますが、学校で学んだ知識だけ
では刻々と変化する社会においては知識や情報が不足し、そこに継続的に学び続ける必要があ
るのです。
事業者は、そうした社会人となった消費者に対して情報や知識の習得機会を社内研修などを
通じて提供する責任があり、従業員は、与えられた機会を有効に活用して日常生活に必要な知
識を習得するよう努めなければなりません。
そして、市には、こうした事業者の行う消費者教育を積極的に推進するための支援を行うこ
とが求められています。
(5) 消費者団体等の各種団体との連携
市が認定する4つの消費者団体をはじめとして市内には様々な活動団体が存在します。それ
ぞれの団体は、その設立目的も活動範囲も取り組む事業内容も少なからず差異があり、市は、
そうしたすべての団体と良好な関係を維持しながら連携が図れるよう、それぞれの特性に応じ
た連携のあり方を見つけていく必要があります。
ただ、いずれの団体に対しても共通して期待するところは、消費者個人の力ではなかなか解
決のできない問題を、個人の問題から社会の問題へと活動団体が関わることで共有化し、社会
全体でその問題解決に向けて取り組むということであります。
この観点からすると、市は、様々な団体と積極的に対話し連携を図るよう努め、相互協力の
関係を構築するための支援をしなければなりません。
また、消費者団体以外の環境団体や各種事業者団体などであっても、その活動目的や社会的
活動の内容が消費者教育推進につながると判断される場合には、積極的にそれらの団体とも連
携を図ることが必要となります。
(6) 事業者との連携
企業の活動目的は、市場における取り引きから最大の余剰資源(利益)を生み出すことです。
買い手があるかないかは、売り手にとっては非常に重要な関心事であり、買い手が安心して提
供される商品やサービスを選択・購入することは、その市場の安定的な発展にもつながってい
きます。企業はこうした安定した市場の存続を願っているはずです。
こうしたことから、市は積極的に事業者に対して市場経済の安定と持続的発展のために消費
者保護や消費者支援に協力するよう求め、消費者志向型の経営を行うよう働きかける必要があ
ります。市の消費者教育においても、事業者自らがその担い手となって活動するよう新たな政
策を提案していくべきです。
(7) 各種行政機関との連携
平成26年6月に改正された「消費者安全法」において、高齢者や障害者、認知症等でその
判断力が不十分となった人の消費者被害を防ぐため、地方公共団体や地域関係者が連携して「消
費者安全確保地域協議会」を構築することが可能とされました。この法改正において国は、そ
のガイドラインの中で同協議会の運営イメージとして協議会の構成員を次のとおりとしていま
す。
・地方公共団体の機関(消費生活センター等)
- 9 -
・医療・福祉関係(病院、地域包括支援センター、介護サービス事業者、保健所、民生委員・
児童委員等)
・司法関係(警察、法テラス、弁護士、司法書士等)
・教育関係(教育委員会等)
・事業者関係(商店街、コンビニ、生協、農協、宅配事業者、金融機関等)
・消費者団体、町内会等の地縁団体、ボランティア
これを見ても消費者行政の推進には、各種行政機関の連携が必要不可欠であることが見て取
れます。これは消費者教育の推進においても同様であり、今後、消費者教育を積極的に進めて
いくためには、特に教育委員会や福祉部局、産業・経済部局などとの庁内連携が重要になって
くると考えられます。その連携強化に向けては、関係部局間の連絡調整や協力支援体制の整備
はもとより、市職員の意識改革や消費者教育への理解度を深めるための研修や学習機会の確保
などが必要で、円滑な事業推進のための教職員や介護業務従事者の消費生活センターへの出向
などによる人的交流を検討することも価値のある施策となります。
市が連携すべき様々な主体は以上のようなところが考えられますが、中でも特に重要なことは、
各連携において消費者教育を担う「人材」が育成されなければならないということです。
また、そうした連携の拠点となってくるのが消費生活センターでありますが、その位置付けや役
割、必要な体制整備などは今後の重要な課題です。消費生活センターにおいては、これまでもっぱ
ら相談や苦情の受け皿としての機能が重視されてきましたが、今後はそれに加えて消費者教育推進
の中心的機関としての機能が重要な位置を占めることになります。消費生活センターには、その企
画や計画立案することはもとより、消費者団体との連絡調整やさまざまな場所で地域人材を発掘し、
育成すること、消費者情報の収集や発信についても高いレベルでの活動が求められます。
- 10 -