ファンドニュース

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不動産の新しい動向® アジア太平洋地域 2017
(Emerging Trends in Real Estate® )Asia Pacific 2017
2017 年2月
はじめに
プライスウォーターハウスクーパース(PwC)とアーバンランド・インスティテュート(ULI)は不動産市況動向調査報告書
である「不動産の新しい動向®」(Emerging Trends in Real Estate®)を、「アジア太平洋地域」、「アメリカ・カナダ」および
「ヨーロッパ」の3地域について、それぞれ毎年作成しています。この報告書では、不動産開発業者や不動産運用マネ
ジャーなどのプレイヤーへのインタビューや調査アンケートなどに基づき、各地域における不動産投資と開発のトレンド、
不動産金融・資本市場の状況、および不動産部門別・都市別の動向に関する見通しを示しています。
今回のニュースでは、日本が含まれるアジア太平洋地域について、内容を簡単にご紹介したいと思います。本報告書
は、不動産を取り巻く環境についての現状認識を踏まえ、それらが、今後どのように変化していくのか、またファンド、不
動産投資業界の戦略にどう影響していくのかを検討するのに役立つものと自負しておりますので、詳細については本報
告書をご覧いただければと思います。
本報告書は日本語でも作成されており、本報告書への Link は以下となります。
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Emerging Trends in Real Estate® Asia Pacific 不動産の新しい動向 アジア太平洋
概要
1.全体
本年の有望な投資先都市ランキングでは、昨年までとは異なる性質の都市が上位を占めているのは注目すべき点で
す。つまり、2017 年の投資見通しではインドやフィリピンの新興の4都市が上位にくるなど、昨年までは東京やシドニー、
メルボルンなどの先進国で、コアアセットが多い比較的安全とされる都市の投資見通しが数年間、上位を占めていたこと
とは様変わりしています。このようなより高い利回り、より高いリスクを取るという戦略への転換とみられる変化は、背景とな
る市場環境の変化を反映したものと考えられます。コアアセットの需要は投資家の間でますます高まっているのに対して、
投資実行可能な価格やそれ以上の価格でさえも投資可能なコアアセットの取得は困難になっています。また、アジア太
平洋地域全体でキャップレートが継続して低下傾向にあるため、より高いリターンをもたらす投資先を見つける必要性が
さらに高まっており、これらの新興国の都市がこのようなニーズを満たす高いリターンを見込むことができることによるもの
です。ただし、これらのランキングの結果が現在、投資ファンドが殺到していることを示すものではなく、それは投資不動
産の市場の規模による制限や各種の規制およびリスクを考慮する必要がありますが、それでも投資家の潜在的な興味を
引き付けています。
投資見通しの上位3位都市の過去3年間の推移
2015 年
2016 年
2017 年
1位
東京(日本)
東京(日本)
バンガロール(インド)
2位
ジャカルタ(インドネシア)
シドニー(オーストラリア)
ムンバイ(インド)
3位
大阪(日本)
メルボルン(オーストラリア)
マニラ(フィリピン)
(4位以降は、報告書をご参照ください。)
2.日本
東京および大阪は昨年の調査ではそれぞれ1位と4位を占めていましたが、今年は上記のように新興国の都市が上
位となり、それぞれ 12 位および 14 位と中位のランキングに下落しています。長期的な日本の経済展望については投資
家の見方は必ずしも楽観的ではありませんが、この結果は東京および大阪の不動産の本質的な価値が大きく変わって
いることを意味しているものではないと考えられます。つまり、これら都市の投資不動産の規模の大きさや流動性、大きな
イールドギャップによるキャッシュ・オン・キャッシュのリターンの高さは以前と変わらず、特にコアアセットを求める投資家
にとって魅力的な市場となっていますが、投資家にとって、投資機会がかなり限定されていることがランキングの低下に
影響していると考えられます。2016 年に日本銀行がマイナス金利政策やイールドカーブコントロール政策を導入したこと
により、ファイナンスコストが低下し、かつ不動産以外の資産の利回りが相対的に低下し、投資家は売却ではなくリファイ
ナンスや継続保有を選択することになりました。結果、市場で売却される不動産は減少し、2016 年中の取引ボリュームは
前年からかなり減少しました。このような流れが今後も継続する場合、投資機会はかなり限定されると考えられます。
3.注目のアセットクラス - 物流
日本では倉庫・物流施設をポートフォリオとした J リートの上場や私募ファンドのローンチが、昨今増加しています。こ
のような流れは日本だけではなく、アジア太平洋地域全体でみた場合でも、一般的にアジアでは近代的な物流施設が
構造的に不足し、エンドユーザーの需要が高まり続けていることから、全アセットクラスの中でも物流施設が最も人気が
高いとされています。これまでの従来型の倉庫がローテクであり供給不足となっているというだけではなく、アジア全域、
特に中国において e コマースが急速な成長を遂げていることが背景にあります。e コマースに対応するには従来型の店
舗営業と比較して3倍の物流スペースが必要となるとも言われています。このように物流インフラに対する総需要が非常
に大きいため、特にアジアでは物流施設の人気が高くなっています。
4.シェアリングエコノミー
日本では 2020 年の東京オリンピックに向けての準備、観光立国への行動計画、旺盛なインバウンド需要のさまざまな
理由に伴うホテルの開発が近年活発に行われていますが、それでも不足すると考えられる宿泊施設について、いわゆる
民泊による住宅の活用が計画されています。民泊はシェアリングエコノミーの一つですが、そのような考え方はオフィスス
ペースにも広がりを見せています。むしろ、アジアにおいてシェアリングエコノミーはオフィスにより大きく影響しており、わ
ずか1年前にでも見られることがなかったコワーキングスペース(共有オフィス環境)というコンセプトが急速に受容されつ
つあります。コワーキングスペースは今のところ、会員制でコミュニティー志向のオフィス施設であり、仕切りのないオープ
ンプランのレイアウト、無料の飲み物、高速 WiFi のような共用アメニティーを備えています。現在のところ多くのコワーキ
ングの専門業者はユーザーから会費を徴収するという標準的なビジネスモデルを展開していますが、ビルオーナーに
とって確立されたレベニューモデルはまだありません。
5.キャピタルフロー
世界の不動産市場に流れるアジア発の資金の増加は 2016 年も加速しており、2010 年に比べて 10 倍の規模となって
います。特に昨年は中国の保険会社からのアウトバウンド投資が多く見られました。このようなアウトバウンド資金はアメリ
カやヨーロッパの不動産を取得しており、昨年は特にアメリカへの投資が多く、上期では過半がアメリカへの投資となって
います。また、それ以外でもロンドンを中心とした欧州の一番手都市が投資対象として選択されています。このような資金
フローの背景は、アジア各国の経済成長に伴う資本蓄積による資金プールが拡大しているのに対して、このような資金
が投資先を探す場合に、アジア域内には投資適格な不動産が限られており、価格もすでに低い利回りとなっていること
が要因の一つとなっています。また、中国はアウトバウンド投資による人民元の安定性の外貨準備が脅かされることを懸
念しており資本流出にかかる制限が今後も強化されることは考えられますが、中国の保険会社が現在1%程度である不
動産に対するアセットアロケーションを国際的な水準に引き上げようと取り組むことにより、例えば米国のように 15%まで
高めるのであれば、今後もかなりの水準の投資が行われることが予想されます。日本の公的資金による不動産投資も発
表されており、迅速に行われるかどうかは不明ですが、その場合には、今後、不動産への投資資金の増加が予定されま
す。
おわりに
今年の調査において、投資見通しが上位の都市についてはこれまで数年間続いてきた日本、オーストラリアの都市で
はなく、新興国の都市がランキングの上位にくるなど大きな変化がありました。また、政策的にも英国および米国におい
て大きな政治判断がなされ、金融環境や経済環境に大きな影響を及ぼしています。このような変化の中で、グローバル
での不動産ビジネスの動きを理解することについて、本報告書がその一助となれば幸いです。
なお、内容にご質問などございましたら、以下のお問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。
文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。
PwCあらた有限責任監査法人
第3金融部(資産運用)
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