運動中の心血管系事故を防ぐ

特集
呼吸リハビリテーション:サイエンスからみた将来展望
運動中の心血管系事故を防ぐ
Prevention of cardiovascular events during respiratory rehabilitation
国立循環器病研究センター心臓血管内科/循環器病リハビリテーション部・部長 後藤 葉一 Yoichi Goto
運動療法(exercise training)
,安全性(safety),リスク層別化(risk stratification),
運動処方(exercise prescription)
,心肺運動負荷試験[cardiopulmonary exercise test(CPX)
]
Summary
呼吸リハビリテーションに参加する患者は喫煙歴のあ
③スクリーニング,④運動療法開始前の亜最大負荷エン
る高齢者が多く,心疾患,特に虚血性心疾患合併率が一
トリーテスト,⑤心肺運動負荷試験に基づく最適運動
般人口より高いので,運動中の心血管系事故を防止する
処方,⑥運動中および経過中のモニタリング,⑦緊急対
方策が必要である。運動中の心血管系有害事象として,
処の準備と訓練が挙げられる。リスク層別化の基準や運
心筋虚血
(狭心症発作・不安定狭心症)と不整脈
(心房細
動処方の決定方法として,心臓リハビリテーション分野
動・心室頻拍)が多くみられる。具体的な事故防止策と
で公表されているガイドラインやステートメントが参考
して,①運動療法の禁忌事項の厳守,②リスク層別化,
となる。
はじめに
などが挙げられている。米国における
告されている5)。
国民健康栄養調査
(National Health and
一方,COPD に対する運動療法の有
Nutrition Examination Survey;NHANES)
効性のエビデンスは確立されており,
ン
(呼吸リハ)において心血管系事故が
では,45歳以上の COPD 患者における
また虚血性心疾患に対する心臓リハ /
問題となるか」について考える。呼吸
虚血性心疾患および心不全の合併率は
運動療法の有効性のエビデンスも確立
リハの対象となる慢性閉塞性肺疾患
そ れ ぞ れ12.7%,12.1% で,COPD 非
6)
されている(表1)
。したがって,心
(chronic obstructive pulmonary disease;
合併者の6.1%,3.9%に比べ有意に高
疾患,特に虚血性心疾患を合併した
COPD)患者の多くは喫煙経験のある
い 。しかも,高齢化や COPD の認知
COPD 患者は,二重の意味でリハ / 運
高齢者であり,COPD には虚血性心疾
度・診断技術の向上に伴い虚血性心疾
動療法実施の必要性が高いといえる。
患の合併が多いことが知られている 。
患合併 COPD 患者の頻度は経年的に増
ところが両疾患が併存していることか
まず,「なぜ呼吸リハビリテーショ
1)2)
COPD と虚血性心疾患に共通する病態
機序として,喫煙・慢性炎症・血管内
皮機能障害・血小板凝集能・動脈硬化
2)
加している 。さらに呼吸リハ / 運動
ら,運動療法に伴う事故発生リスクが
24~36%が心疾患を保有していたと報
患者では,狭心症による胸痛が COPD
3)
4)
療法に紹介される COPD 患者のうち,
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SAMPLE
高くなる可能性がある。さらに COPD
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