第215号

共創・共育・共感
尾鷲市教育長だより
2017.2.17.(金)
第215号
「平常心」とルーティン
面 接 や 試 験 、 試 合 の と き 、「 平 常 心 」 で 臨 み な さ い と よ く い わ れ ま す 。「 普
段勉強や練習しているときの心や気持ちを思い出しなさい。何ごとにも心を
動揺させることなく、臨みなさい」などとアドバイスされます。
確かに面接や試験、試合などの場面で、普段どおりの心や気持ちで臨み、
当たり前のことを当たり前にやりとおすことができれば、素晴らしい結果が
得られる可能性も高くなるように思います。しかしながら、多くの人はいざ
という大事な場面で、いつものような気持ちや落ち着いた状態ではなかなか
いられないものです。意識すれば意識するほど、緊張してしまうものです。
緊張して当たり前の状態なのに、無理やり「平常心」でいようとしたり、
落ち着こうとしたりすると、かえって心が揺らぎ、焦ってしまったりします。
そのようなときはむしろ緊張している今の自分の心や不安な状況が、今の自
分の姿なんだと素直にありのままを受け入れてみることです。
緊張や不安な心を排除することをやめて、ありのままの自分を受け入れる
のです。そうすることで、緊張や不安にかられている自分を排除しようとす
る不自然な心の揺らぎがなくなり、
「平常心」を取り戻すことができるのです。
当たり前のことを当たり前に受け入れて大切にすること。緊張して当たり
前、不安があって当たり前、こうした日々の自然な気持ちが「平常心」とい
うことではないでしょうか。
日々、当たり前のことを当たり前に受け入れて大切にしていくことができ
れば 、 ど んな状況 においても自分を忘れることなく、「平常 心」で いられるの
ではないでしょうか。
こういう内容の話になると、一番先に思い浮かぶのがイチロー選手のこと
です。イチロー選手は、日常生活をほぼルーティン化しているともいわれ、
起床から就寝まで、ほぼ同じ行動パターンをすることでとても有名でした。
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また、みなさんもイチロー選手がバッターボックスに入った際に、袖を引
っ張りながら、バットの先端を投手側バックスクリーン方向へ向けるしぐさ
を行っているシーンを何度も見たことがあるのではないでしょうか。
イチロー選手は毎回、バッターボックスで同様のしぐさを一度も欠かさず
行っているのです。ルーティンとは、決まった一連の動き、一連の動作をす
るという意味ですが、イチロー選手がこのようにルーティンを大切にしてい
るのは、毎日ほぼ同じことを繰り返すことで、いつもと少しでも違う感覚が
あればすぐに気づくことができるからです。これはイチロー選手のケガの予
防にも関係があるといわれています。ケガをしてからでは遅いのです。ルー
ティンを意識して、常に調整できる状態にしていることが伺えます。
イチロー選手だって人間ですから、どこか弱い部分あると思います。しか
し、イチロー選手がすごいのは、その弱い部分があることを自分自身でしっ
かりとつかんでいて、弱い部分が引き金になって動揺しないように、常日頃
から自己管理を徹底していることです。
例えばプロ野球の選手は、自分が活躍した翌日のスポーツ新聞を楽しみに
する人が多いようですが、イチロー選手はスポーツ新聞の類は読まないそう
です。その姿勢は好調時でも、不調時でも変わらないということです。
理由はただ一つ。読むと心が揺れてしまうからです。イチロー選手は心を
不安定にする原因になるものはできるかぎり排除します。そうしたことは、
イチロー選手がこれまでインタビューで答えたときの言葉からもわかります。
「 打率 3割 を守ろ うとすれば辛い打席も 、ヒットを一本増やしたいと思えば
楽 しめ ま す 」。こ れは 9年連 続200本 安打 を達 成し たあ とのインタビューで 答
えたときの言葉です。
イチロー選手が言うとおり、打率を意識するとバッターは苦しくなります。
打率は毎日変動するからです。しかし、安打数は一本一本の積み重ねですか
ら、増えていくことはあっても、減ることはありません。打率のように上が
ったり、下がったりするものだと心が安定しません。結果を積み重ねること
ができるもの、自分がコントロールできるものに目を向けることで心を安定
させるように自己管理しているのがイチロー流なのです。
ルーティンを大切にすることでさまざまなことがらに振り回されない、あ
りのままの自分、
「平常心」を保つことができる自分を創り上げているのです。
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