2017年4月8日(土) - CiRA

iPS細胞発表10周年・浜松労災病院開院50周年
記念合同シンポジウム
iPS細胞の現在と未来
2017年4月8日
(土)
グランドホテル浜松 2階 「鳳中」
スケジュール
11:30
13:00 ∼ 13:05
13:05 ∼ 13:10
13:10 ∼ 13:30
13:30 ∼ 13:50
13:50 ∼ 14:20
開場・受付開始
開会の挨拶
山中 伸弥 所長・教授(京都大学iPS細胞研究所)
シンポジウム開演
(司会)今野 弘之 学長(浜松医科大学)
講演① 有井 滋樹 院長(浜松労災病院)
「臓器移植・がん治療の現状とiPS細胞への期待」
講演② 金子 新 准教授(京都大学iPS細胞研究所)
「iPS細胞を用いた新たながん治療の開発」
講演③ 山中 伸弥 所長・教授(京都大学iPS細胞研究所)
「iPS細胞がつくる新しい医学」
14:20 ∼ 14:35
休憩
14:35 ∼ 14:55
トークセッション
14:55 ∼ 15:00
閉会の挨拶
鈴木 康友 市長(浜松市)
主催:労働者健康安全機構 浜松労災病院・京都大学 iPS 細胞研究所
司 会
浜松医科大学
今野 弘之 学長
[略歴]
国立大学法人浜松医科大学長。医学博士。1978年慶應義塾大学医学部卒業。
同年慶應義塾大学外科学教室入局。1985年米国サンディエゴ州立大学サン
ディエゴ校留学。1987年浜松医科大学第二外科助手。1992年浜松医科大
学第二外科講師。1998年浜松医科大学外科学第二講座助教授。2004年浜
松医科大学外科学第二講座教授。2010年浜松医科大学医学部附属病院副病
院長。2014年浜松医科大学医学部附属病院長・副学長(教授併任)
。2014
年 日 本 胃 癌 学 会 理 事 長。2015年 第70回 日 本 消 化 器 外 科 学 会 総 会 会 長。
2016年より現職。国際感覚のある優れた医療人と独創力のある研究者の育
成に尽力している。
講演概要
講 演 ①
浜松労災病院
有井 滋樹 院長
「臓器移植・がん治療の現状と
iPS細胞への期待」
【講演要旨】
心臓や肝臓の高度な機能不全に対して臓器移植は逆転ホームランのような
治療といえます。肝移植を例にとりますと、それには生体肝移植と脳死肝移植
があります。生体肝移植は京大チームが中心となり、我が国がその確立に大き
く貢献した治療法です。ほとんどがご家族からの臓器提供であり、健康な人に
肝切除という大きな手術を行なわねばなりません。現在、生体肝移植は若干減
少傾向にあり、年間400 ― 450例ほどが行なわれています。一方、脳死者か
らの臓器提供による脳死肝移植は欧米では主流で、米国では年間約7000例が
行なわれていますが、我が国では臓器提供者が非常に少ないため、年間約50
例にすぎません。このように臓器移植が抱える最大の問題は他人の臓器を必要
とすることです。
癌治療についても非常に進歩しているとはいえ、年間30万人以上の方が亡
くなり、我が国の死因のトップです。癌全体の5年生存率は50%を超えまし
たが、癌腫によってはまだまだ低い生存率です。たとえば膵臓癌、肝臓癌の5
年生存率は最近の国立がんセンターの報告ではそれぞれ約7%、34%ときわ
めて不良です。その原因は切除ができない進行癌が多いためですが、その時に
は抗がん剤などによる化学療法、放射線治療、免疫療法が中心となります。そ
れぞれが大きく進歩していますが、まだ満足される状況ではありません。
このような課題をブレークスルーする方法としてiPS細胞に期待がかかりま
す。細胞レベルの移植はすでに網膜でおこなわれているところです。臓器移植
についてはたとえばiPS細胞を利用して豚の体内に人間の臓器を造る研究、癌
治療においては癌細胞を効率よく死滅させるリンパ球の作製などが研究途上の
ようです。さらには難病に対する創薬にもiPS細胞の有用性が期待されていま
す。本講演では臓器移植と癌治療の現況と課題、そしてiPS細胞に対する期待
について述べる予定です。
講 演 ②
京都大学 iPS 細胞研究所
金子 新 准教授
「iPS細胞を用いた
新たながん治療の開発」
【講演要旨】
がんの新しい治療法として免疫療法が注目を集めています。
私達を菌やウイルスなどの外敵から守るために発達してきた免疫反応。そ
の破壊力をがん治療に応用しようという試みは20世紀の終わりから少しずつ
前進を続け、今まさに収穫の時を迎えています。その大きなきっかけは、Tリ
ンパ球と呼ばれる免疫細胞に備わる、がん細胞を認識する能力を高める方法
や、がん細胞との戦いで疲れてしまったTリンパ球の能力を取り戻す方法など
に関する理解が深まり、相次いで実用化が達成されたことです。
私たちはiPS細胞の持つ性質を活用して、がん細胞を攻撃するTリンパ球を
戦いに疲れていない状態へと若返らせ、大量に増やす方法を発見しました。
再生したTリンパ球は実験動物のがんに集まり、がん細胞を狙って攻撃できる
ことも分かってきています。
本日の講演では、免疫はどうやってがんと戦うのか、がん細胞と戦えるTリ
ンパ球がiPS細胞を介して再生される仕組み、再生Tリンパ球の研究状況と実
用化への展望などをお話いたします。
講 演 ③
京都大学 iPS 細胞研究所 山中 伸弥 所長・教授
「iPS細胞がつくる新しい医学」
【講演要旨】
2006年にマウス、2007年にヒトの細胞に4つの遺伝子を導入すること
によりiPS細胞の作製に成功したという報告をしてから10年が経ちました。
iPS細胞には、ほぼ無限に増殖する能力と体のいろいろな細胞に分化すること
ができる能力があります。この特徴を活かし、再生医療や創薬に向けた研究が
活発に行われています。
再生医療の分野では、2014年、理化学研究所のチームが中心となり、加
齢黄斑変性という眼の病気の患者さんに対して、患者さん由来のiPS細胞から
網膜の細胞シートを作って移植するという、iPS細胞技術を利用した世界初の
手術が行われました。一方、患者さんご自身に由来する細胞を移植する自家移
植は多くの時間と費用を要するため、私たちは、拒絶反応を起こしにくい細胞
の型をもつドナー由来のiPS細胞をあらかじめ作製しておく、再生医療用iPS
細胞ストックプロジェクトを進めています。血液疾患やパーキンソン病、角膜
疾患、脊髄損傷等の疾患においても、臨床応用が近づいています。
また、創薬の分野では、患者さん由来の疾患特異的iPS細胞を用いて、実験
室内で患部の細胞の病態を再現したり、薬の候補になる物質を探索したりする
研究が進められています。このような研究から、すでに病気の治療に用いられ
ている薬が他の病気の治療にも利用できる可能性が示唆されています。また、
患者さんの体質に応じて最適な薬を処方する個別化医薬の実現にもiPS細胞技
術が貢献できると期待されています。
演者略歴
浜松労災病院 有井 滋樹 院長
独立行政法人労働者健康安全機構 浜松労災病院長。東京医科歯科大学名誉教授。1973
年京都大学医学部卒業。1982年京都大学医学部第1外科助手、1984年米国ニューヨー
ク州立ローゼルパークメモリアル研究所留学(Dept of Diagnostic Immunology and
Biochemistry)、1985年帰国 京都大学医学部第1外科助手に復職、1993年同講師、
1998年同助教授、2000年東京医科歯科大学 肝胆膵・総合外科教授、2010年東京医
科歯科大学付属病院 副院長兼任、2012年より現職。専門は消化器外科、肝胆膵悪性腫
瘍に対する外科治療である。
京都大学iPS細胞研究所 金子 新 准教授
京都大学iPS細胞研究所准教授。同附属細胞調製施設長兼務。1995年筑波大学医学専門
学群卒業。2002年筑波大学大学院博士課程修了。2003年筑波大学血液病態制御医学
(血液内科)講師、2005年伊国サンラファエレ科学研究所留学。2008年東京大学医科
学研究所幹細胞治療分野特任助教、2009年同助教、2012年より現職。iPS細胞を使っ
た免疫再生治療の実現に向けた研究に取り組んでいる。
京都大学iPS細胞研究所 山中 伸弥 所長・教授
京都大学iPS細胞研究所長・教授。米国グラッドストーン研究所上席研究員兼務。1987
年神戸大学医学部卒業。1993年大阪市立大学大学院博士課程修了。1993年米国グラッ
ドストーン研究所留学。1996年大阪市立大学医学部薬理学教室助手。1999年奈良先端
科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授、2003年同教授。2004年京都大学
再生医科学研究所教授、2007年同物質-細胞統合システム拠点教授、2010年4月より現
職。iPS細胞研究所長として、iPS細胞技術の医学応用を実現するために、iPS細胞を用い
た病態解明や創薬、再生医療など医療応用に向けた研究を推進している。