抄録集ダウンロード - 第4回日本臨床外科学会宮城県支部総会

第4回
日本臨床外科学会宮城県支部総会
平成 29 年 2 月 4 日(土)
東北大学星陵オーディトリアム
当番世話人 仁尾 正記
東北大学大学院医学系研究科 発生・発達医学講座小児外科学分野
学術集会事務局/東北大学大学院医学系研究科 発生・発達医学講座小児外科学分野
〒 980-8574 宮城県仙台市青葉区星陵町 1-1
第 4 回日本臨床外科学会宮城県支部総会 運営事務局
東北大学生活協同組合 キャンパスサポートセンター
〒 989-3121 仙台市青葉区郷六字久保 8-1
TEL:022-226-3886 FAX022-223-4518
E-mai:[email protected]
ご 挨 拶
この度、第 4 回日本臨床外科学会宮城県支部総会をお世話させていただきますことをたいへん
光栄に存じ、会員の皆様に対しこころから御礼申し上げる次第です。
日本臨床外科学会は 1937 年に創設され、現在では会員 1 万 8 千人を越える学会となりました。
本学会はこれまで、外科臨床を重視し様々な医療的課題に取り組んできました。そして、さらな
る学会の発展をめざし、地域に根ざした医療を把握する支部の創設と充実化が掲げられました。
こうして支部の無かった宮城県におきましても設立の機運が高まり、平成 24 年 8 月 13 日に宮城
県支部の設立が決定し現在に至ります。
これまで、3 回の支部総会が開催されましたが、年齢や勤務医・開業医を問わず県内の多くの外
科医にご参加いただき、経験や成果を発表し議論しあえる貴重な機会として成果を上げてまいり
ました。
そして、第 4 回となる今回は、
『一歩先行く臨床外科医を目指して』をテーマと致しました。日々
医療が進歩し情報も飛び交う昨今でありますが、本支部総会にご参加いただくことで、実際に臨
床で行われている外科医療、成果を体感いただき、宮城県はたまた本邦をリードする先進的な外
科医をめざしていただければと考える次第です。
外科臨床におきましては、珍しい症例、貴重な症例にも遭遇いたします。そういった症例の情
報も共有したく、今回は症例報告もより多く受け付けたいと、お声掛けさせていただきました。
皆様にご協力いただき、演題総数は 25 題を賜りました。誠にありがとうございました。
特別講演では、藤盛啓成先生(東北大学病院医療安全推進室・乳腺内分泌外科 医療安全推進
室長、特命教授)に、日々の診療で我々を取り巻く問題である医療安全に関してご講演いただく
予定です。
本支部総会は約半日の会ではございますが、充実した稔り多きものとなりますよう、ご出席い
ただくすべての先生方にお力添えを頂ければ幸いに存じます。
第 4 回日本臨床外科学会宮城県支部総会
当番世話人 仁尾 正記
( 東北大学大学院医学系研究科 発生・発達医学講座小児外科学分野 )
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交通のご案内
■東北大学星陵オーディトリアム
■所在地 仙台市青葉区星陵町 2-1 東北大学医学部内
■交 通 JR・仙台駅より地下鉄「北四番丁駅」下車、徒歩 10 分
JR・仙台駅よりタクシーで 10 分
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会場のご案内
東北大学星陵オーディトリアム
2階
1階
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ご 案 内
◆ 参加者の皆様へ
1. 参加受付
〈受付日時〉 平成 29 年 2 月 4 日(土)9:00 〜
〈受付場所〉 東北大学星陵オーディトリアム 1F「エントランスホール」
〈参加登録費〉 3,000 円
2. 懇親会
〈日時〉 平成 29 年 2 月 4 日(土)18:00 〜
〈会場〉 東北大学星陵オーディトリアム 1F「エントランスホール」
※懇親会費は参加登録費 3,000 円に含まれております。
3. 監事・世話人会
〈日時〉 平成 29 年 2 月 4 日(土) 11:00 〜 11:30
〈会場〉 東北大学星陵オーディトリアム 2F「講堂」
4. ハンズオンセミナー
〈日時〉 平成 29 年 2 月 4 日(土) 9:50 〜 11:50
〈会場〉 東北大学星陵オーディトリアム 2F「大会議室」ハンズオンセミナー会場
5. ランチョンセミナー
〈日時〉 平成 29 年 2 月 4 日(土) 12:00 〜 13:00
〈会場〉 東北大学星陵オーディトリアム 2F「講堂」
6. 認定単位について
本会参加にて、日本医師会生涯教育講座認定単位 5 単位が認定されます。
※宮城県内の日本医師会会員の医師の先生は、受付にて芳名帳へご記名をお願い致します。
県外の先生へは参加証をお渡ししますので、受付へお申し出ください。
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◆ 司会・演者へのご案内
1.
発表時間
症例報告:発表時間 5 分、質疑応答 2 分
原著:発表時間 6 分、質疑応答 2 分
※時間厳守でお願いします。
※演者は発表開始 10 分前までに、次演者席にお着きください。
※発表の 30 分前までに演題受付をお済ませください。
2.
発表形式
発表は、PC プレゼンテーションに限らせていただきます。下記事項にご留意いただき、ご準備いた
だきますようお願いいたします。
PC 持ち込み、あるいはデータ持ち込みのいずれも可能ですが、PC 本体持参の場合もバックアップメ
ディアをご準備ください。
A)データ持ち込み
・会場で使用する OS は Windows7 です。
アプリケーションは PowerPoint2003 以降が使用可能です。
Macintosh は用意しておりませんので、 ご自身のノートパソコンをお持ち込みください。
・受入れ可能なメディアは USB フラッシュメモリーのみです。その他のメディアは受付け出来ません。
また、念のためバックアップをお持ちください。
・PowerPoint ファイル作成に当たっては Windows 標準フォント「MS 明朝、MSP 明朝、MS ゴシック、
MSP ゴシック等」のみご使用ください。それ以外では正しく表示できない可能性があります。
・事前に、必ず他の PC で動作確認をしてください。
・発表データは、持ち込まれたファイル単体で動くようにしてください。
・動画をご使用の場合は Media Player もしくは QuickTime で作成してください。
・動画ファイルを含む場合はフォルダに入れた上で、演題番号をフォルダ名として保存してください。
B)PC 持ち込み
・OS は Windows 及び Macintosh でアプリケーションの制限はありません。念のためバックアップ
をお持ちください。
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日 程 表
オーディトリアム
大会議室
エントランス
9:00
10:00
ハンズオンセミナー
9:50~11:50
11:00
12:00
【監事・世話人会】
11:00~11:30
開会の辞
【ランチョンセミナー】
12:00~13:00
13:00
休憩13:00~13:10
【一般口演1】
13:10~13:50
14:00
【一般口演2】
13:50~14:40
15:00
休憩14:40~14:55
16:00
【一般口演4】
15:30~16:10
【一般口演3】
14:55~15:30
【一般口演5】
16:10~16:50
17:00
休憩16:50~17:00
【特別講演】
17:00~18:00
18:00
閉会の辞
懇親会
18:00~
19:00
20:00
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プログラム
プログラム 2017 年 2 月 4 日(土)
ハンズオンセミナー
2F 大会議室 9:50~11:50 内視鏡下縫合・結紮手技トレーニング ~ベーシック編~
講師:内藤 剛(東北大学大学院医学系研究科外科病態学講座 生体調節外科学分野)
監事・世話人会
オーディトリアム(2F 講堂) 11:00~11:30 ランチョンセミナー
オーディトリアム(2F 講堂) 12:00~13:00 外科医のための感染対策
司会:仁尾 正記(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児外科学分野)
演者:矢野 邦夫(浜松医療センター)
一般演題1 消化管
オーディトリアム(2F 講堂) 13:10~13:50 司会:中西 渉(東北大学先進外科)
1-1 カプセル内視鏡で診断された小腸 SMT の 1 切除例
小久保 翔志
(東北大学消化器外科学)
1-2 大腸全摘後の小腸捻転による腸閉塞の一手術例
上野 知尭
(東北大学消化器外科学)
1-3 腸閉塞で発症した小腸子宮内膜症の 1 例
平野 貴佐雄
(東北医科薬科大学病院)
1-4 当院における大腸憩室炎の検討
二科 オリエ
(みやぎ県南中核病院)
1-5 腫瘤形成性虫垂炎への待機的虫垂切除の検討
大久保 龍二
(宮城県立こども病院外科)
一般演題2 救急・外来
オーディトリアム(2F 講堂) 13:50~14:40 司会:赤石 隆(医療法人社団赤石会赤石病院)
2-1 手術療法で診断した大網血腫の1例
黒川 耀貴
(坂総合病院外科)
2-2 CV ポートカテーテルの心臓内脱落の 1 例
廣岡 秀人
(仙台市立病院心臓血管外科)
2-3 胃癌術後に末梢静脈カテーテル関連血流感染による敗血症を呈した1例
二瓶 憲
(総合南東北病院)
2-4 在宅褥瘡患者における日帰り手術の2症例
村田 幸生
(むらた日帰り外科手術・WOC クリニック)
2-5 外科外来の Tips 胼胝・鶏眼の効果的な切除法
今野 喜郎
(今野外科整形外科)
2-6 宮城における血液緊急搬送の現状と対策
中川 国利
(宮城県立赤十字血液センター)
一般演題3 肝・胆・膵
オーディトリアム(2F 講堂) 14:55~15:30 司会:有明 恭平(東北大学 肝胆膵外科)
3-1 糖原病 1 型合併肝腫瘍に対する肝切除における周術期管理の検討
中西 渉
(東北大学先進外科)
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3-2 腹腔鏡下肝切除術~自験例4例の検討
菅原 弘光
(JR 仙台病院外科)
3-3 vWD 患者に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の 1 例
望月 保志
(東北大学消化器外科学)
3-4 先天性胆管拡張症に対する腹腔鏡下肝外胆管切除術
森川 孝則
(東北大学消化器外科学分野)
一般演題4 ヘルニア
オーディトリアム(2F 講堂) 15:30~16:10 司会:入野田 崇(東北大学病院高度救命救急センター)
4-1 傍上行結腸窩ヘルニアの一例
片方 雅紀
(仙台オープン病院)
4-2 腹腔鏡補助下結腸切除術後のポートサイトヘルニアの 1 例
内藤 覚
(仙台赤十字病院)
4-3 全身麻酔不能な肺高血圧症を合併した繰り返す閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対して、
整復後に待機的前方アプローチで修復した 1 例
伊勢 一郎
(東北大学消化器外科学)
4-4 半月状線ヘルニア嵌頓の 1 例
平沼 和希子
(石巻赤十字病院)
4-5 IPOM で修復した腹腔鏡下再発鼠径ヘルニア手術 ―腹膜縫合困難症例―
貝羽 義浩
(仙台市立病院外科)
一般演題5 その他
オーディトリアム(2F 講堂) 16:10~16:50 司会:工藤 博典(東北大学病院小児外科)
5-1 総大腿動脈ステント留置後に血行再建を行った一例
梅津 道久
(東北大学先進外科学分野)
5-2 直腸癌術後リンパ節再発を疑い切除した結節性筋膜炎の一例
相澤 卓
(東北大学消化器外科学)
5-3 傍陰嚢アプローチで精巣固定術を施行した会陰部異所性精巣の 1 例
橋本 昌俊
(東北大学小児外科)
5-4 心嚢液貯留を伴う胸部食道癌手術の一例
今野 卓朗
(東北大学先進外科)
5-5 進行再発乳癌における mTOR 阻害剤の治療効果
飯田 雅史
(東北大学腫瘍外科)
特別講演
オーディトリアム(2F 講堂) 17:00~18:00 最近の外科関連医療事故から学ぶ
司会:仁尾 正記(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児外科学分野)
演者:藤盛 啓成(東北大学病院医療安全推進室・乳腺内分泌外科)
懇親会
1F エントランス 18:00~ - 11 -
特別講演抄録
特別講演
最近の外科関連医療事故から学ぶ
東北大学病院医療安全推進室・乳腺内分泌外科 医療安全推進室長・GRM・特命教授
ふじもり
けいせい
藤盛 啓成
1999 年 1 月に起こった横浜市立大学附属病院における手術患者取り違え事件は患者確認方法など手
術・麻酔における診療の問題を明らかにし、その後の我が国の医療安全に大きな影響を与えた。その後、
2002 年 11 月に慈恵医大青戸病院における腹腔鏡下前立腺手術死亡事件が起こった。この事件では、執
刀した医師の倫理性、手術のガバナンス、手術技量の評価、輸血体制のあり方などの問題が提起され、
執刀した医師達は業務上過失致死で起訴され有罪判決となった。2004 年 12 月には、東京医大心臓外科
において同一の執刀医の手術を受けた患者が 2003 年 1 月以降 4 人あいついで死亡するという事件が発
覚し、高度の技量を必要とする手術に対する執刀医の技量評価、組織のガバナンスの重要性が再認識
された。2008 年 8 月以降、福島県大野病院事件、東京女子医大人工心肺事件、杏林大学割り箸事件で
刑事訴追を受けた医師があいついで無罪が確定すると、しばらくは手術に伴う医療事故が大きな社会
問題として取り上げられることはなかった。
2014 年 4 月千葉がんセンターで腹腔鏡下膵臓切除を受けた患者があいついで死亡していることが発
覚し、その後東京女子医大プロポフォール死亡事故そして群馬大学の高難度手術において死亡例が多
発していることがあいついで報道された。群馬大学医学部附属病院は日本外科学会の事故調査報告を
受けて 2016 年 7 月 27 日に最終調査報告書を公表した。この報告書では個別事例の調査結果が記載さ
れていないが、患者の同意が取得できた事例については群馬大学のホームページで順次公表されてい
る < http://www. gunma-u.ac.jp/outline/hospital/g7901/kakuzireikekka >(2016 年 11 月 1 日 現 在
で調査対象 50 例中 32 例が公表)。群馬大学の死亡多発事故では、かつての外科に関連した医療事故の
教訓が活かされず、大学病院内のガバナンスの欠陥から死亡の多発を防ぐことができなかったことが
明らかとなっている。また東京女子医大と群馬大学では事故調査のあり方そのものに失敗し、当初の
調査結果公表がさらなる問題を引き起こす結果となった。
本講演では、我が国の外科手術に関連した医療事故を振り返り、千葉がんセンター、東京女子医大
および群馬大学の各事案を公開情報から分析し、外科診療における医療安全上の教訓を考察する。また、
外科関連医療事故の民事責任、刑事責任そして行政処分について解説する。
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【略歴】
学歴
昭和 55 年東北大学医学部卒
平成元年 3 月東北大学医学博士号取得
職歴
昭和 55 年 6 月~ 58 年八戸市立八戸市民病院外科研修
昭和 58 年
東北大学医学部第二外科入局(大学院研究生)
平成 8 年~平成 12 年 東北大学医学部第二外科医局長
平成 11 年
東北大学大学院医学研究科外科病態学講座
先進外科学分野講師
平成 11 年 4 月~平成 13 年 3 月 集中治療部副部長(兼務)
平成 13 年 8 月 16 日~平成 20 年 11 月 30 日 手術部副部長(兼務)
平成 12 年~平成 20 年同 腫瘍外科学分野助教授(平成 18 年以降准教授)
平成 17 年
東北大学病院医療安全推進室副室長・GRM・准教授
平成 20 年
東北大学病院乳腺内分泌外科兼務
平成 24 年 4 月~現在 東北大学病院医療安全推進室長・特命教授
平成 28 年 4 月~ 東北大学病院病院長特別補佐
(その他)
財団法人宮城県腎臓協会監事、宮城県社会保険支払い基金審査委員、宮城県医師会常任理事(医療安
全担当)、日本コーチ協会認定メディカルコーチ・MCTP トレーニングプログラム修了(平成 23 年
6 月 1 日)
専門領域
医療安全管理一般
診療関係:臓器移植(肝臓、腎臓、膵臓)、甲状腺内分泌外科
所属学会・研究会
日本医療の質・安全学会(代議員)、医療事故・紛争対応研究会(東北ブロック世話人)、宮城医療安
全研究会(代表幹事)、日本移植学会、国際移植学会、日本外科学会(認定医)、日本医学教育学会、
日本内分泌外科学会(評議員・甲状腺外科専門医)、日本甲状腺外科学会
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ランチョンセミナー
ランチョンセミナー
外科医のための感染対策
浜松医療センター 副院長 兼 感染症内科長
や
の
くにお
矢野 邦夫
外科医は手術における感染対策のみならず、救急外来や集中治療室での感染対策にも精通していな
ければならない。手術に関しては、環境対策、手指衛生、予防抗菌薬など様々な対策が必要である。
同時に患者が HBV、HCV、HIV などに感染している場合の対応も熟知しておかなければならない。
救急外来では外傷患者など様々な患者が受診もしくは搬送される。これらの患者もまた HBV などの
血液媒介病原体やインフルエンザウイルスなどに感染していることがあり、その救命処置を実施する
医療者に伝播することがある。そのため、自己を守るための感染対策を徹底しなければならない。
集中治療室においては患者には血管内カテーテルが留置され、そこには様々な薬剤の注入のために
頻回なアクセスがおこなわれている。さらに、集中治療室の患者は重症であることから、抵抗力が低
下した脆弱な患者でもあり、日常は問題とならないような日和見病原体によって容易に感染症を呈し
てしまう。そのため、患者を感染症から守るための感染対策を徹底する必要がある。
CDC( 米国疾病管理予防センター ) は既に様々なガイドラインを公開しており、それらは極めて科学
的である。具体的には隔離予防策、インフルエンザ、ノロウイルス、耐性菌対策、血液体液曝露対策
など院内感染の問題点と対策について包括的かつ網羅的に記述している。
環境制御では環境表面に付着している病原体のヒトへの伝播経路はその表面に触れた「手」である
ということから、手指衛生が極めて重要であり、手指の高頻度接触表面に重点をおいた対策が必要で
ある。手指衛生については石鹸と流水による手洗いよりも、アルコール手指消毒が重要であるとする
根拠を解説する。同時に、液体石鹸の問題点についても指摘する予定である。インフルエンザではウ
イルスの伝播様式およびワクチンについて解説する。この場合、外来や病室の換気が重要であること
も付け加える予定である。血液体液曝露については HBV ワクチンの重要性を説明するとともに HIV
感染症の急性感染期の特徴について述べる。また、ノロウイルスについては感染力が強力であることと、
エアロゾル感染すること、短期免疫の存在すること、感染した場合の職場復帰のタイミングについて
解説する予定である。本講演が臨床外科の先生方に役立つことを希望するものである。
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【略歴】
1981 年 3 月 名古屋大学医学部卒業
1981 年 4 月 名古屋掖済会 ( エキサイカイ ) 病院
1987 年 7 月 名古屋第 2 赤十字病院
1988 年 7 月 名古屋大学第一内科
1989 年 12 月 米国フレッドハッチンソン癌研究所
1993 年 4 月 浜松医療センター血液科
1996 年 7 月 米国ワシントン州立大学感染症科(エイズ臨床短期留学)
米国エイズトレーニングセンター臨床研修終了
1997 年 4 月 浜松医療センター感染症内科長
2008 年 7 月 副院長 医学博士、ICD、感染症専門医・指導医、血液専門医、輸血専門医、内科認定医、抗菌化学療法指導医、
浜松医科大学臨床教授
著書:感染対策のレシピ ( リーダムハウス )、エビデンスに基づいた抗菌薬の適正使用マニュアル ( メディ
カ出版 )、ねころんで読める CDC ガイドライン ( メディカ出版 ) など多数
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一般演題抄録
1-1 消化管
症例報告
カプセル内視鏡で診断された小腸 SMT の 1 切除例
小久保 翔志、大沼 忍、唐澤 秀明、渡辺 和宏、土屋 堯裕、井本 博文、
青木 豪、田中 直樹、工藤 克昌、阿部 友哉、長尾 宗紀、武者 宏昭、
元井 冬彦、内藤 剛、海野 倫明
東北大学消化器外科学
症例:32 歳男性。主訴:黒色便と労作時息切れ。現病歴と経過:上記主訴に A 病院を受診、Hb 7 台と貧血を認め精査
加療目的に入院した。経過から消化管出血が疑われ、上部内視鏡、下部内視鏡、腹部造影 CT を施行したが異常所見は
認められなかった。その後、原因不明の消化管出血として精査目的に B 病院に紹介された。B 病院でカプセル内視鏡を
施行したところ、中部小腸に粘膜下腫瘍を認め、更なる精査加療目的に C 病院に紹介された。C 病院で経肛門的ダブル
バルーン内視鏡を施行したところ、バウヒン弁から 200-300cm の位置に粘膜下腫瘍を認め、点墨が施行された。また、
バウヒン弁から 100cm の位置にメッケル憩室を認めた。手術に際し、BMI 40 kg/m2 ( 身長 182 cm, 体重 135 kg) の高度
肥満という危険因子があったため当科紹介となった。手術は腹腔鏡下に施行、トライツ靭帯より 300cm 肛門側に 20mm
大の粘膜下腫瘍あり、小腸部分切除を施行、また、メッケル憩室も切除した。粘膜下腫瘍の病理検査の結果、粘膜下層
内に膵腺房、膵導管、ラ氏島組織が観察され、Heinrich I 型の異所性膵と診断された。悪性所見は認めなかった。術後
経過は良好で第 7 病日に退院となった。
考察:カプセル内視鏡の良い適応として、本症例のように上部内視鏡と下部内視鏡では出血源が不明の消化管出血が挙
げられる。今回は腹部造影 CT でも腫瘍性病変を同定することができず、カプセル内視鏡で小腸腫瘍が発見された。ダ
ブルバルーン内視鏡も施行することで、更に正確な位置診断を得ることができ、安全に手術が施行できた。結語:原因
不明の消化管出血に対して、カプセル内視鏡は有用であると思われた。
1-2 消化管
症例報告
大腸全摘後の小腸捻転による腸閉塞の一手術例
上野 知尭、井本 博文、長尾 宗紀、阿部 友哉、渡辺 和宏、大沼 忍、唐澤 秀明、
武者 宏昭、田中 直樹、工藤 克昌、青木 豪、元井 冬彦、内藤 剛、
海野 倫明
東北大学 消化器外科学
症例は 70 歳代の女性。50 歳代に潰瘍性大腸炎に対して腹腔鏡補助下大腸全摘術、回腸嚢肛門吻合術を施行された。約
5 年前より腸閉塞を反復しており、いずれも保存的治療で軽快していた。今回も嘔気・嘔吐を主訴に当院救急外来を受
診した。腹部は膨満し、腹部単純 X 線写真で著明に拡張した小腸を認めた。腹部造影 CT では左下腹部での小腸の捻転
とその口側小腸の拡張、中等量の腹水がみられ、軽度のアシドーシスも認められたことから同日緊急開腹術を施行した。
回腸嚢の口側の小腸が広範囲に約 360°捻転した状態で腹壁などと癒着していた。明らかな血流障害はなく、癒着剥離を
行った上で捻転を解除し、イレウス管を挿入し腸管減圧を行い、癒着防止シートを留置し手術を終了した。経過は良好で、
術後 2 週間で退院となった。退院後 7 ヶ月の時点で、腸閉塞の再燃はみられていない。大腸全摘術後は、回盲部での小
腸および小腸間膜の固定がなくなることもあり、小腸捻転による腸閉塞を呈する危険性があることを念頭において診療
をすすめる必要があると考えられた。
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1-3 消化管
症例報告
腸閉塞で発症した小腸子宮内膜症の 1 例
平野 貴佐雄、荒木 孝明、木村 俊一、岩指 元、向田 和明、児山 香、
小川 仁、柴田 近
東北医科薬科大学病院
【背景】子宮内膜症は子宮内膜以外の部位に子宮内膜組織が出現することを指し、閉経前女性の約 10%に認められる。
消化管に出現する腸管子宮内膜症は全子宮内膜症の約 10% とされ、小腸子宮内膜症はそのうち約 7% を占める比較的稀
な疾患である。
【症例】40 歳女性。妊娠出産歴なし、特記すべき既往歴なし。腹痛、嘔吐を主訴に当院へ救急搬送された。採血上、炎
症反応は軽度で、CA125 軽度高値を認めた。腹部レントゲンで小腸の拡張像を認め腸閉塞と診断した。造影 CT 検査で
は回腸末端の狭窄および口側小腸の拡張を認め、回腸に閉塞部位が存在すると考えられたが、腹水貯留や Closed loop
等の絞扼を示す所見は認めずイレウス管にて保存的治療を開始した。小腸内視鏡検査では回腸末端部に内腔狭窄を認め
たものの粘膜面に腫瘍性病変や潰瘍形成等の異常を認めず、腸閉塞の原因は不明であった。保存的治療にて症状は軽快
したが、小腸造影検査で回腸末端部に高度の狭窄を認めたため、手術適応と判断した。発症から 10 日目に全身麻酔下に
腹腔鏡補助下回盲部部分切除術を施行し、術後第 10 病日に退院となった。標本の肉眼所見ではバウヒン弁より約 1.5㎝
口側に回腸壁肥厚部、漿膜下層および固有筋層に子宮内膜組織を認め、回腸子宮内膜症と診断した。【考察】小腸子宮内
膜症は回腸に好発し腸閉塞をきたして手術治療を要する事が多いが、術前診断率は低いとされ本症例のように病理組織
検査で判明することも少なくない。また小腸子宮内膜症の 68%は月経期に発症するとされるが、本症例のように月経間
期発症の場合もあるので注意を要する。CA125 高値の報告が散見され、診断の一助となると考えられる。手術歴のない
若年女性の腸閉塞の原因として小腸子宮内膜症も念頭に置くべきである。
1-4 消化管
原著
当院における大腸憩室炎の検討
二科 オリエ、上野 達也、髙橋 道長、後藤 慎二、嶋 健太郎、堂地 大輔、
井上 亨悦
みやぎ県南中核病院
【背景】大腸憩室炎は、大半は保存的治療にて改善するが、一部は穿孔や膿瘍を形成するため、手術適応となるが、その
タイミング、術式の判断に難渋することも少なくない。
【目的】保存的に軽快した症例と手術を施行した症例を比較検討して、手術症例の特徴を検討した。
【方法】2010 年 1 月~ 2016 年 3 月の間、大腸憩室炎の診断で、当院入院加療となった症例について、保存加療群と外科
的治療群を比較検討した。また、外科的治療群では、その特徴や術式についても検討した。
【結果】上記期間に、大腸憩室炎に対し当院入院加療となった症例は 196 例であり、発症部位の内訳は、上行結腸 143 例、
横行結腸 5 例、下行結腸 12 例、S 状結腸 39 例であった。そのうち、手術となったのは 12 例あり、それらは全て S 状結
腸憩室炎であった。手術に至った経緯は、穿孔、膿瘍形成、再発であり、年齢は 41 歳~ 93 歳で、70 歳以上の高齢者は
7 人であった。術式は、S 状結腸切除術が 4 例、ハルトマン手術が 2 例、双孔式回腸人工肛門造設術が 4 例、双孔式横行
結腸人工肛門造設術が 1 例、単孔式回腸人工肛門造設術が 1 例であった。双孔式回腸人工肛門造設例は、4 例中 2 例が
人工肛門閉鎖実施されており、残る 2 例も今後検討中である。また、横行結腸人工肛門造設例も人工肛門閉鎖を実施さ
れていた。ハルトマン手術実施例では、再建実施例はなかった。
【考察】手術に至ったのは全て S 状結腸であり、憩室部腸管を切除し吻合できることもあるが、人工肛門造設となること
が多い結果であった。また、S 状結腸憩室炎以外では、保存加療のみで治療可能であると考えられた。
- 23 -
1-5 消化管
原著
腫瘤形成性虫垂炎への待機的虫垂切除の検討
大久保 龍二、福澤 太一、遠藤 尚文
宮城県立こども病院 外科
背景:腫瘤形成性虫垂炎において術中・術後の合併症リスクを考慮し、保存的加療後に一定の期間をあけて手術する待
機的虫垂切除術 ( Interval Appendectomy: IA) が広く行われているが、同治療法の適応や有用性は未だ確立されていな
い
目的:腫瘤形成性虫垂炎における治療内容及び成績を検討し治療法検討への一助とすること
方法:当院で 2006 年 6 月~ 2016 年 3 月に加療した腫瘤形成性虫垂炎 20 例において一期的虫垂切除術 ( Primary
Appendectomy: PA) を行った A 群 (6 例 ) と保存的加療への反応が不良で手術を行った B 群 (5 例 )、そして IA を行った
C 群 (9 例 ) に分け患者背景・治療成績などに関し後方視的検討を加えた
結果:A / B / C 各群で年齢 ( 歳 )・初回入院時白血球数 (/ μ l)・CRP 値 (mg/dl) はそれぞれ 7.5 / 9.6 / 9.1、21,300 /
16,220 / 18,188、16.1 / 13.3 / 13.7 で、腫瘤最大径 (mm)・糞石の有無 ( 例 ) はそれぞれ 46.5 / 41.2 / 54.0、5 / 4 / 5
で有意差は認めなかった。C 群の手術待機期間は 96 日 ( 中央値 ) で、1 例で初回治療時に抗菌薬に加え腹腔ドレナージ
を施行した。腹腔鏡手術から開腹手術への移行は各群で 2 例ずつ存在した。術後常食摂取までの日数・術後在院日数・
総在院日数は A / B / C 各群でそれぞれ 4.1 / 3.8 / 2.1 (A vs C: p 値 =0.035)、10.1 / 12.6 / 5.0 (A vs C: p 値 =0.015、
B vs C: p 値 =0.001)、10.1 / 14.6 / 19.5 (A vs C: p 値 =0.005) で有意差を認めた。術後合併症は A 群で 1 例、B 群で 2
例認めた。
考察:腫瘤形成性虫垂炎に対する IA は早期手術に比べ術後合併症のリスクを軽減し、更に術後回復が良好である可能
性が示唆された
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2-1 救急・外来
症例報告
手術療法で診断した大網血腫の1例
黒川 耀貴、伊在井 淳子、宮本 慶一、高津 有紀子、小野 翼、盛口 佳宏、
佐澤 由郎、松田 好郎、阿南 陽二、小熊 信
宮城厚生協会 坂総合病院 外科
症例は77歳男性。既往症は心房細動(ワーファリン内服中)、高血圧症があり、腹部手術歴は虫垂切除術があった。右
鼠径部の膨隆を主訴として初診となり、右鼠径ヘルニアの診断であったために術前精査を外来で開始していた。初診か
ら3日後に腹痛を主訴に受診。理学所見上、腹部は緊満し、自発痛は腹部全体に及んでおり、右鼠径部の腫脹も認めて
いたため、鼠径ヘルニア嵌頓の可能性を考え造影CT検査を施行した。腹部全体に液体貯留が見られ、左上腹部には吸
収値の高い腫瘤性病変を認めた。また、貧血の進行を認めたため、鼠径ヘルニアに関連した腹腔内臓器、血管損傷によ
る腹腔内出血の可能性があると判断し、緊急手術を行う方針とした。手術所見では、左上腹部の大網に血腫を認め、大
網部分切除術、右鼠径ヘルニア手術を施行した。切除標本の病理組織診断では、大網内動脈の解離瘤を認めており、そ
の破裂による血腫と診断され、新生血管や器質化変化から血腫形成から約7日は経過していると判断された。大網血腫
は発生機序によって外傷性と非外傷性に区別され、自験例は非外傷性であった。また、誘因としては抗血小板薬や抗凝
固薬の内服、血管性疾患の既往などが考えられている。大網血腫の疫学、診断、治療を文献的考察を加えて報告する。
2-2 救急・外来
症例報告
CV ポートカテーテルの心臓内脱落の 1 例
廣岡 秀人 1)、渡辺 徹雄 1,2)、外山 秀司 1)、中野 善之 1,2)、佐山 淳造 2)、貝羽 義浩 2)、関口 悟 2)、菊池 寛 2)、櫻井 遊 2)、岡本 宏史 2)、米田 海 2)、
菅野 裕樹 2)、小笠原 紀信 2)、津田 雅視 3)、長谷川 哲也 3)
1)
仙台市立病院 心臓血管外科、2)仙台市立病院 外科、3)仙台市立病院 放射線科
中心静脈 (CV) ポートの留置に関する合併症としてカテーテル断裂は頻度が少ないが報告されている。今回我々は CV ポー
トカテーテルの断裂、心臓内脱落し、両端が固定されていた例に対し、カテーテルを介在させることで安全にスネアを
用い回収できた 1 例を経験したので報告する。
症例は 78 歳女性。2012 年大腸癌再発に対し、左鎖骨下静脈から CV ポートを留置、化学療法 (SOX+Bmab) 施行、以
後再発の兆候なく経過し、この間 CV ポートは使用せず経過観察となっていた。2016 年 11 月、経過観察の CT で、CV ポー
トのカテーテルが逸脱し上大静脈から心臓内にあることが判明した。カテーテルは CT 上、上大静脈から右房を通過し
ているものの、三尖弁部、右室内には認められず、冠静脈洞内に迷入し固定されていると判断した。また、上大静脈側
の断端は右側壁に接しており、カテーテル両端が固定されている形となっており、単純にグースネックスネアで先端を
捕捉することは難しいと考えられた。そこで RH 型カテーテルを右心房内で迷入しているカテーテルに絡め、RH カテー
テル沿いに進めたグースネックスネアにより RH カテーテルごと迷入したカテーテルを捕捉する方針とした。
2016 年 12 月、経右大腿静脈的にカテーテルインターベンションを施行。前述の方法で迷入したカテーテルを腸骨静脈
まで引きおろし、再度グーズネックカテーテルで捕捉し直し、抜去することに成功した。
CV ポートカテーテルの断裂は非常にまれで、数例報告されているが、カテーテル鉗子による抜去や開心・開胸術によ
り摘出した報告も認められる。カテーテルを介在させ間接的にスネアで捕捉する今回の方法は、鉗子による静脈内・心
房内の損傷などのリスクが低くできると考えられた。
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2-3 救急・外来
症例報告
胃癌術後に末梢静脈カテーテル関連血流感染による敗血症を呈した1例
二瓶 憲、三井 一浩、木村 卓也、吉野 泰啓
総合南東北病院
症例は 75 歳 , 男性 . 糖尿病を合併した早期胃癌に対し , 腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した . 術後 6 日目に発熱 , 悪寒 ,
戦慄が出現し , 翌日には 39.9℃の発熱 , 低血圧を認め , 左前腕部に留置した末梢静脈カテーテル刺入部の発赤 , 腫脹 , 水
疱形成を認めた . 画像検査上は縫合不全や腹腔内膿瘍は否定的であったが , 術後の腹腔内感染あるいは末梢静脈カテーテ
ル関連血流感染症による敗血症を疑い , カテーテルを抜去し , Meropenem の投与を開始した . カテーテル刺入部の水疱
液および血液培養検査にて Escherichia coli が検出され , 末梢静脈カテーテル関連感染症による敗血症の診断となった .
Meropenem を 10 日間投与し , 軽快 , 術後 21 日目に退院となった . 周術期に末梢静脈カテーテル関連感染症による敗血
症を呈した報告は稀であり , 文献的考察を加え報告する .
2-4 救急・外来
症例報告
在宅褥瘡患者における日帰り手術の2症例
村田 幸生
むらた日帰り外科手術・WOC クリニック
【はじめに】当院は日帰り手術専門クリニックとして開院した傍ら、在宅外科専門診療も行っている。今回、在宅訪問に
おける褥瘡患者の日帰り手術症例を経験したので報告する。【症例 1】30代女性。障害者施設より紹介。15年前に転
落事故による脳挫傷後の脳性麻痺にて寝たきり状態。5年前に仙骨部褥瘡出現。近隣総合病院皮膚科にて陰圧療法や手
術療法が行われたが改善しないとのことであった。初診時は瘢痕組織の中にポケットが存在している状態であった。外
科的・化学的デブリドマンや外科的処置を施すも改善せず、平成27年10月19日に臀部穿通枝皮弁を施行した。術
後1年経過にて再発なし。【症例 2】80 代女性。特別養護老人ホームより紹介。平成25年に転倒し Th12 以下の完全麻
痺状態。施設入居時より右坐骨結節部に褥瘡を認めた。近隣総合病院皮膚科にて陰圧療法施行したが完治しないとのこ
とであった。外科的・化学的デブリドマンや人口真皮など施行したが改善せず。MRSA 感染も認めた。局所感染コントロー
ル施行後の平成28年5月16日に両側 V-Y 前進皮弁を施行した。術後半年再発なく経過している。【考察】在宅褥瘡
日帰り手術ははじめに術後の安静を図る事が重要であり、徹底した指導をした上で行うことが望ましく、全身管理が必
要な基礎疾患や合併症がある場合は困難であると思われる。また、原則的に皮弁移植が適応で、坐骨部や仙骨部は良い
適応と思われる。【まとめ】在院日数短縮のあおりを受ける疾患として褥瘡は位置している昨今。最終的に手術が適当と
思われる場合、日帰り手術も選択肢としてあり得ると思われる。
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2-5 救急・外来
原著
外科外来の Tips 胼胝・鶏眼の効果的な切除法
今野 喜郎
今野外科整形外科
外科外来で行われる処置・小手術手技については、施設ごとの流儀があり、必ずしもまとまったコンセンサスがあるわ
けではない。今回は「外科外来の Tips」として、演者が考案した、胼胝(タコ)・鶏眼(ウオノメ)の効果的な切除法
を紹介する。従来これらの角化症に対してはスピール膏にて軟化させ、メスで削り取るのが標準治療であるが、演者は
スピール膏を用いず、直接メスにて角化部分を削るようにしている。そのコツは肥厚角化した患部の縁に水平にメスで
切り込んだ後、角化部分を翻転して角化層と真皮の境界を見極めながら切り進むことであり、真皮に切り込むことなく
角化部分のみを効果的に切除することが出来る。もし鶏眼で中央角栓があれば、その部分を深く切り込むことで角栓ま
で切除可能である。万が一真皮に切り込んでしまった場合は、綿棒にグルタールアルデヒドを含ませて押し付けること
で容易に止血できる。切除後は皮膚保護剤としてハイドロサイトを用いている。
本法のメリットはスピール膏の前処置が不要なことであり、スピール膏にて軟化された角化層は白濁しているため、
角質と真皮との境界が判別しにくいのに対して、本法では角質は半透明なのでその境界が透見できるために真皮ギリギ
リまで十分な角質層の切除が可能である。唯一の難点は翻転時の疼痛であるが、許容範囲と考える。今回はこれらの手
技をイラスト、動画にて提示する。角化症は本来は皮膚科の疾患であるが、爪疾患等と同様、外科的手技に習熟した外
科医が担当すべきであると考えている。
2-6 救急・外来
原著
宮城における血液緊急搬送の現状と対策
中川 国利
宮城県赤十字血液センター
【目的】血液緊急搬送件数の増加に伴い緊急要請への対応が困難になりつつある。そこで適切なる供給体制を構築するた
め、緊急搬送の現状と対策を検討した。
【方法】過去 10 年間の血液緊急搬送件数の推移、さらに平成 26 年度の緊急搬送の疾患名、製剤別内訳、依頼時間、施設
別臨時便の比率などについて検討した。
【結果】過去 10 年間の血液供給量はほぼ一定にもかかわらず、臨時搬送は年 5563 件から 7958 件に、また緊急搬送件数
は 371 件から 524 件に漸増した。平成 26 年度の緊急搬送における定期便と臨時便との比率は施設により大きく異なり、
9 割を定期便で依頼する施設がある一方で、全体の 5 割を臨時便で依頼する施設もあった。緊急搬送は血液供給量の少
ない医療機関に、また特定の医療機関に多い傾向にあった。主な疾患は緊急手術や吐・下血で、高度貧血も 12.6% と多かっ
た。搬送の製剤別内訳では赤血球のみが 53.2%と半数を占め、赤血球・血漿・血小板は 9.5%と低かった。また少量の赤
血球依頼も散見された。緊急搬送の発注時間は、終業時間に近い 15 ~ 17 時台が全体の 27.1% を占めた。
【結語】血液搬送費が無料のため、必要時に随時発注する医療機関が増えつつある。血液センターは人員や車両を増やし
てきたが、近年は大幅な赤字財政である。したがって真の緊急要請にも確実に対応するためには、臨時便回数を減少させ、
限りある人員や車両を有効活用する必要がある。血液センターとしては供給ルートや定期搬送時間などの見直しを図り、
より効率的な供給体制を構築する必要がある。一方、医療機関には血液センターの実情を理解して頂き、定期搬送への
集約、他患者使用予定血液の前倒し使用、院内在庫の見直し、さらには重症患者の高度機能病院への集約をお願いしたい。
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3-1 肝・胆・膵
症例報告
糖原病 1 型合併肝腫瘍に対する肝切除における周術期管理の検討
中西 渉、清水 健司、宮澤 恒持、原 康之、戸子台 和哲、中西 史、宮城 重人、
中野 徹、亀井 尚、大内 憲明
東北大学医学部 先進外科学分野
糖原病 1 型は glucose-6-phosphatase 欠損による先天性代謝性疾患であり、肝腫大、低血糖、高脂血症、高尿酸血症を特
徴とする。経過中高率に肝細胞腺腫を発症する。破裂や癌化する危険性があることから肝切除術を要することがある。
当科で肝切除を施行した 2 例について検討した。
症例 1 男性。生後 1 歳 8 ヶ月で、糖原病 1a 型の診断となった。2000 年 11 月計 3 ヶ所に腫瘤を指摘された。肝細胞腺腫
が疑われ手術目的に当科紹介となった。2001 年 1 月 (24 歳時 ) に肝右葉切除術および左葉の腫瘍核出術施行した。術直
後より低血糖およびアシドーシスあり高濃度のブドウ糖溶液を輸液した。病理診断は肝細胞腺腫であった。
症例 2 女性。生後 5 ヶ月で糖原病 1a 型の診断となったが、後に遺伝子診断で 1b 型であることが判明した。2006 年 19
歳時に多発肝腫瘤を指摘された。S6 の腫瘤はφ 9cm と大きく、肝細胞癌も否定出来ないため手術の方針となり S6 部分
切除術施行した。病理診断は腺腫であったが一部に異型細胞を認めた。その後外来でフォローされていたが、2013 年 7
月 26 歳時にもともと指摘されていた S2 の腫瘤がφ 8cm まで増大したため再手術の方針とし、S2 部分切除術を施行した。
術中 pringle 法による肝阻血を解除する際、急激な血圧が低下・心拍数の上昇を認めた。術直後より低血糖また乳酸ア
シドーシスを認め、管理を必要とした。病理診断は腺腫であった。2016 年 6 月 29 歳時に S4 の腫瘍が増大したため、再々
手術の方針となり、肝切除を施行した。術中の循環動態の急激な変動は認めなかった。乳酸アシドーシスおよび低血糖
への管理を要した。
糖原病 1 型では周術期においては低血糖および乳酸アシドーシスが必発であり適切な対処を要する。肝腫大を呈する症
例では、術中の血圧低下に注意が必要と考えられた。
3-2 肝・胆・膵
症例報告
腹腔鏡下肝切除術〜自験例4例の検討
菅原 弘光、市来 正隆、蔡 景襄、鎌田 啓介、桂 一憲
東日本旅客鉄道株式会社 JR 仙台病院 外科
【はじめに】2010 年 4 月の診療報酬改定で腹腔鏡下肝切除術 ( 部分切除・外側区域切除 ) が保険収載され、一般病院でも
保険診療として腹腔鏡下肝切除術が可能となった。当科では 2013 年に初めて腹腔鏡下肝切除術を施行し、以降慎重に症
例を重ねてきた。
【対象】2015 年 2 月から 2016 年 7 月に施行した腹腔鏡下肝切除術の自験例 4 例
【方法】手術時間、出血量、術後合併症などを調査した。
【手術手技】術中体位は 右葉系は左半側臥位、左葉系は仰臥位として行った。肝切離はラジオ波による前凝固の後に ,
肝表層から LCS にて肝離断を開始して、IO 電極にて止血を行い、CUSA にて肝深層実質を離断した。脈管処理はクリッ
プを使用した。Pringle 法による全肝血流遮断は 1 例に施行した。術者・カメラ助手は患者の左側、第一助手は右側で行っ
た。
【結果】症例は 4 例、年齢の中央値は 68.8 歳 (59-74 歳 )、男性 3 例、女性 1 例、最終診断は転移性肝癌 2 例 (50 %)、肝
細胞癌 2 例 (50 %) であった。合併症として C 型肝炎 1 例、アルコール肝硬変1例を認めた。術式は全て部分切除であり、
腫瘍径の中央値は 1.9 cm(0.8-2.6 cm)、部位は S3 : 1 例、S5 : 2 例、S6: 1 例であった。 全て完全腹腔鏡下にて施行し、
胆摘は1例に施行した。手術時間の中央値は 156 分 (117-255 分 )、出血量の中央値は 17 ml (0-60 ml) であった。輸血症
例はなく、術後入院期間 14 日 (8-24 日 ) であった。術後合併症は、切除部膿瘍を 1 例 (25 %) に認めたが、保存的に軽快
した。Clavien-Dindo grade III 以上の合併症は認めなかった。
【結語】未だ少ない経験数であるが、安全に腹腔鏡下肝切除術を施行できた。今後も適応を厳格にして安全性を担保し、
施行していきたい。
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3-3 肝・胆・膵
症例報告
vWD 患者に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の 1 例
望月 保志、前田 晋平、高舘 達之、深瀬 耕二、坂田 直昭、水間 正道、
大塚 英郎、森川 孝則、中川 圭、林 洋毅、元井 冬彦、内藤 剛、
海野 倫明
東北大学 消化器外科学
症例は 68 歳男性. 20 歳頃左大腿骨骨折の治療時に出血傾向を,また 41 歳時に痔瘻手術後に術後出血 6000cc があり当
院血液内科にて 2N 型 von Willebrand 病(以下 vWD)と診断され,経過観察されていた.以前から胆嚢結石を指摘さ
れており,年に数回右季肋部痛を自覚することもあった.2016 年 2 月に CT で胆嚢結石 / 総胆管結石を指摘され,加療
を勧めたが過去の術後出血歴のため,ご本人の治療意思確認に難渋していた.その後血液免疫科コンサルトの上加療を
行う方針となり当院消化器内科にて EST および採石を行い,問題無く経過した.今回,胆嚢摘出術目的に当科紹介となり,
同年 11 月に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.術前に乾燥濃縮人血液凝固第 VIII 因子製剤(コンファクト F)を 3000 単
位投与し,手術時間 86 分 / 出血量 17ml で手術を終えることができた.術中に止血に難渋するような出血傾向は認めなかっ
た.また,術直後 1000 単位と第 7 病日までの 1 日 1 回 2000 単位投与を行い,術後出血などの合併症なく経過し,第 12
病日に退院となった.vWD は von Willebrand 因子の異常により出血傾向を示す遺伝性疾患であり,vWD 患者の手術に
おいては周術期の止血管理が重要である.医中誌において「von Willebrand」「手術」をキーワードに過去 20 年間にお
いて会議録を除いて検索したところ,消化器外科領域に関して手術報告は 11 例なされており,1 型 4 例 /2 型 4 例 / 後天性,
不明が各 1 例であった.いずれの症例においても DDAVP や補充療法により良好な止血コントロールが得られていた.
同疾患の中では中等度の出血傾向を認める 2N 型 v WD 患者に対する腹腔鏡手術も適切な周術期止血管理により安全に
施行できるものと考えられた.
3-4 肝・胆・膵
原著
先天性胆管拡張症に対する腹腔鏡下肝外胆管切除術
森川 孝則、大塚 英郎、石田 晶玄、高舘 達之、有明 恭平、青木 豪、益田 邦洋、
深瀬 耕二、坂田 直昭、水間 正道、中川 圭、林 洋毅、
元井 冬彦、内藤 剛、海野 倫明
東北大学大学院 消化器外科学分野
[ 背景 ] 先天性胆管拡張症は若年女性に多く,腹腔鏡下肝外胆管切除・肝管空腸吻合術は発癌リスクを低下させることが
主目的であることから,われわれは,本術式が整容性・低侵襲性と腫瘍学的妥当性のバランスが良好な術式と判断し,
2011 年よりその導入を開始している.今回,その手術手技の要点を供覧し,短期成績を報告する.[ 手術手技 ] 手術適
応は戸谷 I 型の先天性胆道拡張症とし,戸谷 IV-A 型は適応外としている.患者体位は開脚位,術者は患者左側に立ち 5 ポー
トにて手術を開始する.Calot 三角を剥離し胆嚢動脈を切離し,総肝管をテーピングした後,可及的に膵内胆管の剥離を
行い,術中胆道造影にて胆管走行を確認する.総肝管を切離した後,さらに膵内胆管を剥離し,合流部付近で結紮切離
している.再建は臍部創にて Y 吻合を行い,後結腸経路にて空腸を挙上し,肝管空腸吻合を行う.肝管空腸吻合は連続
一層縫合を行っているが,肝管径の細い症例では lost stent を挿入し結節縫合にて吻合している. [ 結果 ] 2011 年 9 月
より倫理委員会の承認を得て腹腔鏡下肝外胆管切除術を,2012 年 5 月からはロボット支援腹腔鏡下肝外胆管切除術を開
始した.現在までに 11 例に対し同術式を行っており(腹腔鏡下 6 例,ロボット支援腹腔鏡下:5 例),フォローアップ
期間中央値は 35.6 ヶ月であった.周術期因子では,手術時間中央値 430 (316-615) 分,出血量中央値 10 (3-140) mL,C-D
Grade IIIa 以上の術後合併症を 2 例に認め,1 例は Y 吻合部からの出血で吻合部切除再吻合を行っている.同時期に開
腹肝外胆管切除術を施行した 7 例と比較すると,周術期成績では腹腔鏡群の出血量が有意に少なく (p<0.001),術後在院
日数が短い傾向にあった (p=0.083). [ 結語 ] 先天性胆道拡張症に対する腹腔鏡下肝外胆管切除術は,適切な症例選択と
手術手技を用いれば,開腹術より低侵襲かつ有用な術式と考えられる.
- 29 -
4-1 ヘルニア
症例報告
傍上行結腸窩ヘルニアの一例
片方 雅紀、小林 実、岡田 恭穂、安藤 涼平、田巻 佐和子、市川 英孝、
赤澤 直也、矢澤 貴、大石 英和、小山 淳、柿田 徹也、及川 昌也、本多 博、
土屋 誉
仙台オープン病院
症例は手術歴のない 88 歳女性。右側腹部痛を主訴に近医を受診、採血で炎症反応の上昇を認め、腸炎、虫垂炎の疑いで、
入院のうえ保存的に加療されていた。しかし、症状改善なく、入院翌日の CT で小腸の拡張を認めたため、腸閉塞の疑
いで当院に紹介となった。当院受診時、右側腹部に強い自発痛、圧痛を認め、造影 CT で右側腹部に回腸の closed loop
形成と loop 内の小腸壁の造影効果不良、さらには腹水貯留を認めた。上記所見より絞扼性イレウスと診断し、同日緊急
手術を施行した。
全身麻酔下にて正中切開で開腹すると、腹腔内には暗赤色の腹水が中等量貯留していた。絞扼部位を検索したところ、
回腸末端から 80cm 口側の回腸が 6.5cm にわたり、盲腸末端より 8cm 頭側の右傍結腸溝の後腹膜に出来た間隙に嵌頓し
ていた。用手的に嵌頓腸管を整復することが困難であったため、ヘルニア門を切開・開放することで嵌頓を解除した。
嵌頓腸管は不可逆的な虚血に陥っていたため、これを含めた腸管を 10cm 切除し Albert-Lembert 縫合にて端端吻合を施
行した。開放したヘルニア嚢は再嵌頓のおそれがあると判断し、結節縫合にて閉鎖した。腹腔内を十分に洗浄し、手術
を終了した。術後は、誤嚥性肺炎を合併したが、徐々に状態は回復し、術後 41 日目に退院となった。病理結果で、腸管
は粘膜から固有筋層にかけて広範に壊死に陥っていた。その他、腫瘍性病変などは認められなかった。
本症例は内ヘルニアによって絞扼性イレウスを発症したが、内ヘルニアのうち後腹膜にできた間隙に腹腔内臓器が嵌入
する病態は腹膜窩ヘルニアに分類される。腹膜窩ヘルニアには傍十二指腸窩、盲腸周囲窩、傍上行結腸窩、横行結腸間
膜窩、傍下行結腸窩ヘルニアなどが含まれ、その中でも本症例のような傍上行結腸窩ヘルニアは非常に稀であり、国内
でも報告例が少ないことから、多少の文献的考察を加えてこれを報告する。
4-2 ヘルニア
症例報告
腹腔鏡補助下結腸切除術後のポートサイトヘルニアの 1 例
内藤 覚、鈴木 秀幸、金子 直征、深町 伸、小林 照忠、大越 崇彦、
舟山 裕士
仙台赤十字病院
症例は 66 歳女性 . S 状結腸癌の診断で腹腔鏡補助下 S 状結腸切除術を施行した . 手術創は① 10mm カメラポート(臍右上)
② 12mm ポート(右下腹部)③ 5mm ポート(右上腹部)④ 5mm ポート(左下腹部)⑤小開腹創(約 80mm 臍下)で行い ,
④より 8mm CLIO ドレーンを挿入した .
術後第 1 病日より水分を開始 , 若干の腸管麻痺の術後遷延は示唆されたものの経過は良好であった . 術後第 5 病日にド
レーンを抜去したが , その 2 時間後より , 腹痛 , 嘔気 , 嘔吐が出現し , ドレーン抜去部に圧痛を認めた . 翌日施行された腹
部 X-p にて鏡面像を認め , 腹部 CT にて小腸の拡張および内部の液体貯留 , ポート抜去部と一致する腹壁内に小腸の逸脱
を認めた . 用手的に整復を試みるも還納せず , ポートサイトヘルニアの診断で同日緊急手術を施行した .
手術では脱出した小腸は腹直筋前鞘で締められており , 直ちに還納することができなかった . そのため , 皮切を 3cm 程度
延長した上 , 前鞘切開を行い , 小腸を腹腔内に還納した . その後 , 腹腔鏡にて観察を行い , 腸管切除は不要と判断した . 創
部は腹腹膜 , 腹直筋前・後鞘をそれぞれ ,2-0 Biosyn にて連続縫合し , 皮下を 4-0PDS で寄せた後 ,4-0PDS で埋没縫合を施
した . 術後経過は良好で再手術後第 12 病日に退院となった . 腹腔鏡手術後に発症するポートサイトヘルニアは比較的稀な合併症であり,その頻度は約 0.02% といわれている . その
多くが 10mm ポートで発症しており , 筋膜の不十分な縫合閉鎖やポート抜去時の腸管・組織の陥入 , 腹壁の脆弱性など
がリスク要因として考えられている . 今回の症例は 5mm ポート抜去部で発症したが ,5mm ポートの創はデバイスを用い
ない限り筋膜縫合は困難である . また , ドレーン抜去後に発症したことから抜去時に腸管を巻き込んだ可能性も考えられ
る . 本症例後 , 当院では陰圧を解除してからドレーンを抜去するように心がけている . ドレーン抜去直後に発生したポートサイトヘルニアの症例を経験したので , 若干の文献的考察を加え報告する .
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4-3 ヘルニア
症例報告
全身麻酔不能な肺高血圧症を合併した繰り返す閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対して、
整復後に待機的前方アプローチで修復した 1 例
伊勢 一郎、田中 直樹、井本 博文、唐澤 秀明、青木 豪、工藤 克昌、大沼 忍、
渡辺 和宏、長尾 宗紀、阿部 友哉、武者 宏昭、元井 冬彦、内藤 剛、
海野 倫明
東北大学 消化器外科学
閉鎖孔ヘルニアは痩せた高齢女性に多い疾患で、不顕性の嵌頓を来すため、腸閉塞発症後に緊急開腹手術の対象となる
ことの多い疾患である。今回、全身麻酔不能な慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (CTEPH) を有する閉鎖孔ヘルニア嵌頓症例に
対して、繰り返す嵌頓を用手整復しながら、肺高血圧症を治療し、改善後に脊椎麻酔下に前方アプローチでヘルニア修
復術を施行したので報告する。症例は 80 才代の女性。嘔吐、上腹部痛を主訴に前医を受診し、右閉鎖孔ヘルニア嵌頓に
よるイレウスの診断となった。用手整復した後、待機的手術を予定していたが、術前検査にて肺高血圧を認め、肺高血
圧の精査加療、両側閉鎖孔ヘルニアに対する根治手術目的に当院紹介となった。右心カテーテル検査、肺換気血流シン
チおよび造影 CT で CTEPH と診断された。周術期には循環血液量の変化に伴う肺高血圧の悪化など、致死的な合併症
の危険が示唆されたため、術前にグアニル酸シクラーゼ刺激薬投与、経皮的肺動脈拡張術を用い、右心負荷を改善した
後に、両側閉鎖孔ヘルニア根治術を施行した。全身麻酔による体血管抵抗の低下、陽圧換気による肺血流量の低下を配
慮し、脊椎麻酔でも手術可能な前方アプローチでの修復術を選択した。周術期は PGI2 誘導体を用いた循環管理を行い、
合併症なく術後 10 日目に退院した。慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (CTEPH) は肺高血圧症の臨床分類の 1 つで、器質化し
た血栓により、肺血流分布ならびに肺循環動態の異常をきたし、肺高血圧を合併する疾患である。周術期には循環血液
量の変化に伴う肺高血圧の悪化など、致死的な合併症の危険がある。本症例では、繰り返す閉鎖孔ヘルニア嵌頓に対し
てその都度整復しながら、肺高血圧症をコントロールし、待機的に前方アプローチで修復術を施行し、良好な結果を得た。
4-4 ヘルニア
症例報告
半月状線ヘルニア嵌頓の 1 例
平沼 和希子、神山 篤史、工藤 渉、原田 哲嗣、清水 孝規、三頭 啓明、東 恭平、
梶原 大輝、福富 俊明、清水 拓也、佐藤 明史、乙供 茂、初貝 和明、市川 宏文、
金田 巖
石巻赤十字病院
【背景】半月状線ヘルニアは腹直筋外縁の半月状線上に発生する稀な腹壁ヘルニアである。【症例】85 歳女性【主訴】腹
痛【既往歴】56 歳時 子宮筋腫に対して子宮全摘術施行 ( 下腹部正中切開 )。【現病歴】3 年前より月 1 回程の頻度で自然
寛解する腹痛を自覚し、半年程前からその頻度が増加していた。平成 28 年 7 月、前日より改善しない腹痛を主訴に当院
ER を受診した。当初腹壁瘢痕ヘルニア嵌頓による腸閉塞と診断された。初診時は用手還納され、待期手術の方針となっ
ていた。初診時から 1 ヶ月後に再度嵌頓し、用手整復困難であったため緊急手術の方針となった。【身体所見】下腹部正
中よりやや左側にテニスボール大の膨隆があり、同部に圧痛を認めた。【画像所見】造影 CT で左下腹部に腸管脱出を伴
うヘルニアと広範な小腸の拡張を認めた。【手術所見】前回切開部ではなく、腹直筋と腹横筋の間に約 3 横指の筋膜欠損
部を認め、手拳大のヘルニア嚢が嵌頓していた。ヘルニア嚢内には小腸を認めたが壊死所見はなく、腸切除は施行しなかっ
た。小腸を還納した後に、ヘルニア嚢を縫合閉鎖し、ヘルニア門は腹直筋前鞘と鼠径靭帯を結節縫合して閉鎖した。【経
過】経過良好のため、術後 4 病日に退院した。手術より半年経過した現時点で、再発は認めていない。【考察】半月状線
ヘルニアは発生頻度の稀な疾患で、特異的な所見に乏しく診断に苦慮することが多い。本症例は腹部手術歴があり、ま
た肥満体型だったため身体診察に難渋した。腹壁瘢痕ヘルニアとの鑑別を要した 1 例であり、予め本疾患を念頭に置い
た診療が重要と思われた。
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4-5 ヘルニア
症例報告
IPOM で修復した腹腔鏡下再発鼠径ヘルニア手術―腹膜縫合困難症例―
貝羽 義浩 1)、初貝 和明 2)
1)
仙台市立病院 外科、2)石巻赤十字病院 外科
再発鼠径ヘルニアに対して、筆者らはヘルニア門を確実に同定し修復するために、すべて腹腔鏡下手術にてヘルニア門
を観察した後、再発鼠径ヘルニアの修復を行っている。しかし、前回手術のため、腹膜の十分な剥離ができず、腹膜の
縫合閉鎖が困難な症例に遭遇し、IPOM(intraperitoneal onlay mesh repair) を施行した症例を経験したので報告する。
症例は 61 歳女性。3年前に外鼠径ヘルニアにて iliopubic tract repair 施行されたが、翌年再発しクーゲル法にて再修復
された。しかし、その 2 年後再再発したため、腹腔鏡下修復術を行った。前回メッシュは、腹側に移動し、外鼠径ヘル
ニア (I-3) として再再発していた。通常の TAPP と同様にヘルニア嚢を処理したが、腹側に移動した前回メッシュ部分の
腹膜が固く剥離困難で、腹膜閉鎖は不可能と判断し、15 x 15cm の PCO メッシュを用いて、IPOM を施行した。外側
の iliopubic tract より背側には、疼痛三角があり、タッキングできないため、背側腹膜を iliopubic tract より腹側に挙上
し、タッキングした。術後経過は良好で、第 3 病日に退院しその後再発は認めていない。本症例のビデオを供覧する。
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5-1 その他
症例報告
総大腿動脈ステント留置後に血行再建を行った一例
梅津 道久、赤松 大二朗、後藤 均、大原 勝人、橋本 宗敬、土田 憲、
田島 悠太
東北大学 先進外科学分野
【症例】50 歳男性【既往歴】7 年前、みぎ急性下肢虚血を発症し近医で救肢困難と判断されて膝下切断を受け、以降義足
で生活していた。心房細動の既往はない。
【現病歴】二ヶ月前、突然ひだり下肢の冷感と安静時痛を自覚し近医を受診した。
ひだり外腸骨動脈(EIA)から脛骨腓骨幹(TP trunk)まで閉塞しており、ひだり急性下肢虚血と診断され、初期治
療として血管内治療による血栓吸引・バルーン拡張と、ステント留置が行われた。しかし、3 日目に再閉塞し、最終的
に総腸骨動脈 (CIA) から総大腿動脈(CFA)、深大腿動脈(DFA)へのステント留置が行われた。その後も安静時痛が
続くため、当科へ紹介された。【来院時所見】CIA - CFA - DFA のステントは開存していたが浅大腿動脈(SFA)- TP
trunk は閉塞していた。【方針】今後、長期開存が見込めない DFA が急性閉塞した場合、救肢は非常に困難であると判
断し、下腿へのバイパス手術を行う方針とした。【手術】ステントが留置された CFA を露出し、造影を行ったところ前
脛骨動脈(ATA)、後脛骨動脈(PTA)は開存していたため、PTA 遠位へバイパスする方針とした。インフローとする
CFA の開存性の担保と自家静脈吻合を容易にするため、ステントが留置された CFA をニッパーで切断し、人工血管で
EIA-DFA バイパスを行った。ついで、遠位 PTA を露出し、置換した人工血管の側面から大伏在静脈を用いて PTA へ
バイパスした。術後の経過は問題なく、自力歩行ができるまで回復した。【結論】PAD 治療においては、原因と病変部
位に応じて適切に治療を選択しなければならない。
5-2 その他
症例報告
直腸癌術後リンパ節再発を疑い切除した結節性筋膜炎の一例
相澤 卓、唐澤 秀明、大沼 忍、土屋 堯裕、井本 博文、青木 豪、
工藤 克昌、渡辺 和宏、田中 直樹、長尾 宗紀、阿部 友哉、武者 宏昭、
元井 冬彦、内藤 剛、海野 倫明
東北大学消化器外科学
症例は 52 歳男性。2015 年 4 月に直腸癌に対して腹腔鏡補助下高位前方切除施行し、最終診断は直腸癌 (RS), pT2(MP),
N0, M0, Stage I であった。術後補助化学療法は施行せずに経過観察していた所、術後 1 年の CT にて左総腸骨動脈領域
(#273-lt) の腫瘤を認めた。再発部位として典型的でなく、まず経過観察としたが、フォローアップの PET/CT で同腫瘤
の増大と SUVmax 3.9 の集積を認めた。腫瘍マーカーの上昇は認めなかったが、直腸癌術後リンパ節再発が疑われたため、
2016 年 9 月全身麻酔下に腫瘤摘出術を施行した。腫瘤は総腸骨動静脈の分岐部に存在したが、血管への浸潤は無く、切
除可能であった。病理組織所見では、腫瘤は 34 x 30 mm 大であり、リンパ節の基本構造は観察されなかった。筋膜様
の線維性組織内に存在する境界比較的明瞭な結節性病変であり、紡錘形細胞が錯綜する束状となって密に増生していた。
増生する細胞に高度の異型性はなく、核分裂像はほとんど確認できなかったため、結節性筋膜炎と考えられた。結節性
筋膜炎は良性の繊維芽細胞の増殖病変であり、四肢体幹に主に発生し骨盤内発生は非常に稀な疾患である。術前の鑑別
は困難であったと思われるが、再発を疑った際の組織検査の重要性を考えさせる貴重な症例であり、文献的考察と共に
報告する。
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5-3 その他
症例報告
傍陰嚢アプローチで精巣固定術を施行した会陰部異所性精巣の 1 例
橋本 昌俊、工藤 博典、和田 基、佐々木 英之、風間 理郎、田中 拡、中村 恵美、
櫻井 毅、遠藤 悠紀、仁尾 正記
東北大学小児外科
【症例】生後 10 か月、男児
【家族的・既往的】特記すべきことなし
【周生期歴】胎児期に異常認めず。
【現病歴】生後 2 か月時に発熱で近医を受診した際、左精巣の位置異常を認め、経過観察の後、生後 10 か月で当科紹介となっ
た。
【現症】胸腹部に異常なし。触診では左陰嚢は空虚であった。陰嚢より肛門側会陰部のやや左側皮下に表面平滑、弾性軟
で可動性良好な腫瘤を触知し左精巣と判断した。左鼠径ヘルニアは認めなかった。
【エコー所見】同部に楕円形の境界明瞭な 1.0 × 0.6㎝ の低エコー像を認めた。右精巣は陰嚢内に位置し 1.4 × 0.7㎝であっ
た。
【経過】その後会陰部の精巣の位置に変化なく、1 歳 7 か月時に会陰部異所性精巣として精巣固定術を施行した。
【手術所見】左傍陰嚢を切開して皮下を剥離、会陰部精巣を同定して精巣導帯を切離し、さらに精索を剥離授動した。総
鞘膜を切開し精巣を露出、精巣垂を切除した。同じ創から Dartos パウチを作成し、陰嚢皮下に精巣を固定して閉創した。
【術後経過】術翌日に退院。術後 7 か月の現在、左精巣の固定は良好で萎縮も認めない。
【考察】会陰部異所性精巣に対する手術の報告は、本邦では自験例を含め 15 例であった。その多くは鼠径部アプローチ
であり、傍陰嚢アプローチの報告はなかった。会陰部精巣では精巣血管の長さが十分であるため、傍陰嚢アプローチで
容易に精巣固定ができる。文献的にも精索の剥離操作が問題となる例はみられないことから、皮膚切開が 1 ヶ所で済む
本術式は妥当と思われた。
【結語】比較的まれな会陰部異所性精巣を経験した。今回採用した傍陰嚢アプローチは、手技も簡便で整容性も高く、会
陰部異所性精巣に対して有用と考えられた。
5-4 その他
症例報告
心嚢液貯留を伴う胸部食道癌手術の一例
今野 卓朗 1)、谷山 裕亮 1)、小関 健 1)、石田 裕嵩 1,2)、丸山 祥太 1)、佐藤 千晃 1)、
武山 大輔 1)、藤島 史喜 2)、櫻井 直 1)、中野 徹 1)、亀井 尚 1)、大内 憲明 1)
1)
東北大学大学院医学系研究科先進外科学分野、2)東北大学病院病理診断学
【背景】食道癌に心嚢液貯留を伴う場合 , 心機能障害などの基礎疾患による場合を除けば , 放射線治療後の変化や , 癌性
心膜炎が原因であることが一般的である . 今回 , 術前未治療かつ貯留していた心嚢液が癌細胞陰性であった症例を経験
したため報告する .【症例】72 歳男性 . 嚥下時のつかえ感を主訴に受診 . 上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道に 1 型腫
瘍あり , 生検で扁平上皮癌の診断 . 所属リンパ節の腫大を認め , 術前化学療法の適応となるが , 肉眼形態から肉腫成分の
併存を考慮し , 手術を先行する方針とした . 術前の CT で心嚢液の貯留を認め , 癌性心膜炎を否定する必要があったが ,
心嚢液は安全に穿刺できるほどの量ではなかった . そこで , 手術開始時に心窩部アプローチで心膜を開窓し , 黄色透明
な心嚢液を採取した . 迅速細胞診の結果 , 悪性所見を認めなかったため , 食道切除術を施行した . 手術所見は , 食道周囲
~上縦隔の癒着が強く , 胸膜は肥厚し , 一部浮腫状であり , 炎症性変化が窺われた . 術後 7 病日の上部消化管造影検査で
は縫合不全の所見なく , 食事を開始 . 術後 13 病日に退院 . 切除標本の病理組織像は , 高分化扁平上皮癌 , pT3, pN2, cM0,
pStageIII であった . 外膜を中心に厚い線維性の組織を伴い , リンパ節においては随所に腫瘍の変性を認め , 腫瘍に対す
る組織反応がみられた .【考察】食道の他 , 各臓器でも腫瘍周囲のへ癒着が浸潤ではなく腫瘍による炎症の波及である症
例が時に見受けられる . 本症例でも癒着が強かったことや腫瘍への組織反応がみられたことを考慮すると , 心嚢液も食道
癌による炎症の波及により生じた可能性が考えられた . 腫瘍に対する炎症性細胞浸潤の程度は症例によりさまざまとす
る報告があり , 治療方針決定のため心嚢液の良悪性を評価しておくことは重要である .
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5-5 その他
原著
進行再発乳癌における mTOR 阻害剤の治療効果
飯田 雅史、佐藤 章子、原田 成美、宮下 穣、渡部 剛、多田 寛、鈴木 昭彦、
石田 孝宣、大内 憲明
東北大学 腫瘍外科
【目的】mTOR 阻害剤であるエべロリムスは、本邦で 2014 年 3 月に承認された新規分子標的治療薬であり、ER 陽性 /
HER2 陰性乳癌に対してエキセメスタン (EXE) 単独療法と比較しエベロリムス併用による無増悪生存期間の有意な延長
が報告された(2.8 vs 6.9 ヶ月)(BOLERO-2 試験 )。今回、進行再発乳癌に対してエベロリムス投与を経験したので治療
成績および安全性について報告する。
【対象・方法】当院にて 2014 年 10 月~ 2016 年 12 月にエベロリムス+ EXE 療法を開始し、2ヶ月以上治療継続した 15
例を対象として診療録を基に後方視的に調査し使用実態と有害事象および治療効果を検討した。
【結果】年齢中央値は 55 歳 (39-72) で、手術不能進行症例が 5 例、再発症例が 10 例であった。転移部位は、骨 12 例、肝 11 例、
肺 8 例、リンパ節 7 例、脳 2 例(重複含む)であった。投与ライン中央値は 6th(2-13) であり、8 例は EXE 既治療であった。
TTF 中央値は 6.0 ヶ月(2.1-14.7)であった。最良治療効果判定は、CR/PR 0 例、long SD 7 例、SD 3 例、PD 5 例であ
り、臨床的有用率(CBR)は 46.7%であった。中止理由は 11 例が PD、2 例が副作用(間質性肺炎、皮膚障害)であり、
2 例は投与継続中である。10 例で投与後に腫瘍マーカー (CEA/CA15-3) が 20% 以上低下し、2 例では 50% 以上低下した。
有害事象は、血液毒性は血小板減少 3 例(G3 以上 1 例)であったが何れも治療継続可能であった。非血液毒性は、口内
炎 8 例(G3 以上 1 例)、間質性肺炎 3 例(G3 以上 1 例)、皮膚障害 4 例(G3 以上 1 例)であり何れも対症療法で症状が
軽快したが、G3 以上の間質性肺炎の一例と皮膚障害の一例は治療中止した。
【結語】エベロリムスは、前治療歴が多い進行再発乳癌患者でも病勢をコントロールできる症例もあり、有効な治療選択
肢の一つであると思われた。有害事象は特徴的な副作用があるが、late line 投与が多い中管理可能であり忍容性は比較
的良好であった。薬剤が高価なこともあり、治療効果が期待できる症例の適切な選択基準設定が望まれる。
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