製鋼スラグと浚渫土を活用したアマモ場創生技術の評価

1
第14回環境研究シンポジウム
「レジリエントな社会・国土を創る環境研究」
製鋼スラグと浚渫土を活用した
アマモ場創生技術の評価
産業技術総合研究所
環境管理研究部門
海洋環境動態評価研究グループ
塚崎 あゆみ
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
アマモ場とは?
2
アマモ
沿岸砂泥域(~潮下帯)に
おける主要な一次生産者
となる海草
地下茎・根をもつ
日本各地に分布
水質環境
海草(アマモ)
生態系
アマモ場
グリーン(ブルー)
レジリエンス
国土保全
海藻
温暖化
緩和
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
河口・沿岸域の主要な浅場生態系
➡ 多様な生態系サービスの提供
•
•
•
•
水質改善(濁り・富栄養化)
生物多様性の保全(海のゆりかご)
海岸浸食の低減
温室効果ガス (CO2)の吸収・削減
= Blue Carbon
沿岸海洋環境の悪化
3
アマモ場
面積減少
アマモ場の保全・再生
天然アマモ場
25,000
浅場がない場合
浅場造成
22,635
面積 (ha)
20,000
15,000
10,623
10,000
5,574
5,000
7,011
6,381
1978
1989~90
造成土壌となる海砂の
採取制限・禁止
0
1960
1966
1971
瀬戸内海におけるアマモ場面積の推移
出典:1960、1966、1971年:水産庁南西海区水産研究所調査
1989~1990年:第4回自然環境保全基礎調査(環境省)
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
利用可能な
代替材料は?
産業副産物を有効活用した浅場創生技術の提案
4
●利用可能な基盤材料=2つの産業副産物 毎年大量に発生
製鋼スラグ
製鋼スラグ×浚渫土混合土壌に
よるアマモ場生態系創生技術
産業副産物の大量活用
+
沿岸環境の修復・創生
製鋼過程の産業副産物
発生量:年間1,150万t
浚渫土
泊地や航路の建設副産物
発生量:年間2,083万m3
産業副産物を活用した
レジリエントな沿岸環境創生
製鋼スラグとは?
鉄鉱石
MnO
銑鉄
製鋼スラグ
鋼
高炉
SiO2
Fe2O3
高炉スラグ
転炉
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
脱硫スラグ
脱リンスラグ
脱炭スラグetc.
CaO
製鋼スラグの主要元素組成
産業副産物を活用したアマモ場創生技術の課題
解決すべき課題
 造成土壌の強度
科学的な評価に基づいた
産業副産物の海域利用に対する
 アマモの成長
 底生生物群集の定着
社会的受容性の確保
 底質・水質環境の汚染の懸念
 造成アマモ場の持続性
粒子状有機物
アマモ葉
成長?
汚染?
底生生物?
アマモ根
間隙水
固相
造成アマモ場における物質循環
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造成土壌
5
海水かけ流し水槽を用いた擬似現場実験
6
アマモ水槽実験
擬似現場実験
1. アマモ水槽
2. 柱状コア水槽
産総研阿賀臨海実験場
(広島県 呉市)
試験混合土壌
・脱リンスラグ 添加率
(w%: 浚渫土に対して)
92%, 85%, 70%, 25%
・対照区: 天然砂
周辺漁協との情報交換
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
柱状コア実験
測定項目
生物
 アマモの成長
 底生動物
 微生物群集組成
化学・物理分析
 pH、炭酸系
 土壌強度
 栄養塩
 微量金属元素
造成土壌強度に対するスラグ混合の効果
土壌強度が低すぎる場合:
せん断強さ
浚渫土のみ
土壌強度が高すぎる場合:
・アマモの移植が困難
・アマモ根の成長を阻害
・埋在性底生生物の移入が困難
(浚渫土100%の硬度を1する)
アマモ水槽土壌のベーンせん断試験を
実施
浚渫土のみ
浸食・流出
7
8
6
スラグ
4
天然砂
浚渫土100%
2
0
0
25
50
75
100
スラグ・天然砂混合率(%)
499日後のアマモ水槽土壌硬度
スラグとの混合により土壌強度が向上
浚渫土の1.8~5.5倍
天然砂混合土壌の1.3~3.3倍
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
スラグの生物影響
8
1.2
スラグでアマモは育つのか?
スラグ
200
92%
85%
70%
25%
100
1.0
アマモ葉生産速度
(g C/m2/day)
株数(本/m2)
300
スラグ
天然砂
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
92%
0
85%
70%
25%
スラグ・天然砂添加率
アマモの一次生産速度
株数(本/m2)
300
200
天然砂
92%
85%
70%
25%
100
アマモの成長は
・浚渫土の混合率に依存
・対照区と顕著な差は認められず
スラグ造成土壌においても
アマモは順調に生育
0
アマモ株数の経時変化
様々な生物の定着を確認
(二枚貝、軟体動物、甲殻類、棘皮動物等)
柱状コア実験
9
土壌内部および土壌表面ー海水間の
物質循環を詳細に把握
海水
アマモ水槽実験の場合
化学成分の鉛直
分布など経時変化
底生生物の定着
を調べにくい
アマモの成長
柱状コア
排水
0~5 cm
:1 cm間隔でコアカット
5~17.5 cm :2.5 cm間隔でコアカット
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水槽海水 ・水温
・酸化還元電位
間隙水
・pH
固相
・全炭酸
・アルカリ度
・金属元素
・有機炭素、窒素、リン
・栄養塩
・微生物群集組成
鉛直分布および経時変化
底質の化学環境 土壌pHの経時変化
0日目
10日目
10
63日目
379日目
スラグ
柱状コア
0~5cm: 1cm 間隔
5~15cm: 2.5 cm間隔
MnO
天然砂
SiO2
Fe2O3
CaO
(石灰)
スラグの主要元素組成
スラグ・天然砂添加率
• スラグの主成分 (石灰) が溶出し高アルカリ化
• 表層では海水への拡散により速やかに緩和
アマモ根 = 2, 3 cm深
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
アマモの成長阻害はみられず。
底質の化学環境 土壌間隙水の栄養塩濃度(379日後)
11
間隙水中のリン・窒素 = アマモの生育に不可欠な栄養塩
●リン
スラグ表層: 天然砂と同程度
スラグ深層: 天然砂より1-2桁低濃度
スラグ
天然砂
スラグ・天然砂 添加率
●窒素
NH4>>NO2,NO3
スラグ>天然砂
微生物による代謝
スラグ
天然砂
スラグ・天然砂 添加率
スラグ
混合率
高アルカリ化 (深層)
➡リン濃度の著しい低下
考えられるリンの除去プロセス
• ヒドロキシアパタイト (HAP) の生成
• ストラバイト (MAP) の生成
• ブルサイト [Mg(OH)2] への吸着
2~379日後のスラグコア間隙水の
リン vs pHプロット
表層、水柱
➡アマモへのリン供給
12
細菌群集による窒素循環への影響:メタゲノム解析
15%
40
30
10%
20
5%
0%
50
10
スラグ
75%
天然砂
75%
天然
アマモ場
0
20%
Kiloniellaceae
NH4-N
15%
40
30
10%
20
5%
0%
50
10
スラグ
75%
天然砂
天然
75% アマモ場
0
メタゲノム解析結果
細菌群集組成が変化
間隙水の化学分析結果
Clostridiales = 嫌気的分解
NH4-N(アンモニア)増加
⇒ 有機物(タンパク質など)→ NH3
Kiloniellales = 硝酸還元活性
⇒ 有機物 + NO3 → CO2 + NH3
細菌群集の代謝に
よる物質フローの
変化
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
NH4-N (µM)
Clostridiales
NH4-N
キロニエラ目
Relative abundance
20%
Proteobacteria_Alphaproteobacteria_Kiloniellales
NH4-N (µM)
Relative abundance
Firmicutes_Clostridia_Clostridiales
クロストリジウム目
周辺環境 (水質) への影響評価 海水への栄養塩溶出
土壌間隙水➡海水の栄養塩溶出速度
水質悪化?
過剰な溶出は起こらない
深度 (cm)
富栄養化
貧酸素化
0
0
100
200
日数
300
400
溶出速度 (µmol/m2/d)
溶出速度(µmol/m2/d)
2000
溶出速度を算出
土壌間隙水
=濃い
200
窒素
4000
濃度勾配などから
溶出
0
-10 cm
6000
-2000
海水
=薄い
10 cm
8000
13
リン
150
スラグ 92%
100
スラグ 85%
50
スラグ 70%
0
スラグ 25%
-50
0
100
200
300
400
日数
スラグ混合土壌から海水への栄養塩溶出速度の経時変化
・天然の沿岸海域で報告されている溶出速度の範囲内
・1年以上経過後も混合土壌内には栄養塩の大部分 (窒素97%, リン99%) が残存
➡ 水質悪化を引き起こすことなく長期的にアマモの生育を支える施肥機能
14
スラグ造成アマモ場における物質循環
粒子状有機物
C:119-206 g/m2 /年
N:16-29 g/m2 /年
P: 3-6 g/m2 /年
アマモ葉
汚染?
海水への溶出
C: 1.5-21.2 g/m2 /年
成長? g/m2 /年
N:0.08-0.95
P:0.01-0.20 g/m2 /年
N:0.66-0.96 g/m2 /年
P:0.03-0.20 g/m2 /年
底生生物?
アマモ根
N:14-52 g/m2
P:222-1827 g/m2
•
•
•
•
アマモの成長
底生生物群集の定着
底質・水質環境の汚染
造成アマモ場の持続性
• 粒子状有機物のトラップ
*
間隙水
固相*
N:0.2-8.5 mg/m2
P:1.5-19 mg/m2
造成土壌
*0-10 cm層の積算値
順調に成長
様々な底生生物が定着
汚染なし 栄養塩の溶出は天然海域の範囲内
アマモに対して100年の施肥ポテンシャル
栄養塩と炭素を効率的に堆積
➡ 造成アマモ場の持続性 + 水質浄化 + CO2吸収 (Blue Carbon)
• 土壌強度の向上
海岸浸食の低減
➡ 国土強靭化(被災藻場復興)、島嶼諸国支援
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
まとめ
産業副産物を活用した土壌によるアマモ場創生技術の評価を
おこなった。
・脱リンスラグ×浚渫土 ➡アマモ場造成土壌
順調なアマモの生育
多様な底生生物の定着
底質・水質への汚染なし
高い施肥ポテンシャル 造成アマモ場の持続性に期待
土壌強度向上
・脱炭スラグ×浚渫土
高アルカリ化
過度な土壌強度の増加
今後の検討課題:
材料により特性や影響が異なる
⇒ 個別の評価が重要、材料に適した利用法の検討
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
15
製鋼スラグ海域適用例
16
アマモ場
脱リンスラグ
垂直護岸
深堀跡
脱炭スラグ
脱リンスラグ+浚渫土:アマモ場造成土壌
周辺環境への影響が少ない。
アマモへの長期間の施肥効果をもつ。
脱炭スラグ+浚渫土:浅場造成基盤土壌
より大量の需要に対応可能(供給とのバランス)。
浚渫土の軟弱性の改善効果が高い。
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
ご清聴ありがとうございました
17
18
室内実験 スラグ・浚渫土の化学特性/安全性評価
脱リンスラグ
(mg/kg)
1.E+05
脱炭スラグ
浚渫土
1.E+03
希塩酸等への溶出
試験(土壌汚染対策
1.E+01
法に準拠)
Li
Na
Mg
Al
K
Ca
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
As
Rb
Sr
Ag
Cd
Sn
Sb
Ba
Hg
Pb
Bi
Th
U
Si
P
1.E-01
ICP-MSによる元素分析
700
500
400
300
200
➡擬似現場実験の実施へ
スラグF
スラグE
スラグD
スラグC
スラグB
スラグA
コムケ湖
陸上土壌
多摩川懸濁物
水島港浚渫土
むつ小川原
バンズ
三津口湾アマモ場
瀬野川河口干潟
可溶性の高いリン
100
好気・嫌気的条件でのpHの
変化および海水溶出試験
• スラグは種類により組成が大きく異なる
• スラグのリン含量は天然堆積物の
10-150倍
• スラグや浚渫土からの有害金属の溶出は
認められず
Organic P
Detrital P
Authigenic P
Fe(III)-bound P
Biogenic P
600
東京湾堆積物
リン含量 (μmolP/g)
800
0
19
連続抽出法によるリンの形態分別
阿賀漁協に
説明
造成土壌から海水への栄養塩のフラックス – 天然堆積物との比較 –
DIN フラックス
(µmol/m2/day)
PO4-P フラックス
(µmol/m2/day)
スラグ (Day-212, 6月)
48.4~183
2.1~32.2
This study
スラグ (Day-379, 11月)
-12.3~127
4.1~13.3
This study
珪砂 (Day-212, 6月)
23.3~277
6.4~23.8
This study
珪砂 (Day-379, 11月)
-22.8~23.3
2.0~7.8
This study
Estuarine sediments
0.0~6410
-54.7~1100
Reef lagoon sediments
-154~890
-23~28
Ullman and Sandstrom (1987)
Coastal marine sediments
225~833
38~684
Conley et al. (1997)
Tropical lagoon sediments
-120~1680
-60~300
Grenz et al. (2010)
48~840
-72~1970
Gaertner-Mazouni (2012)
Intertidal sediments
-13.2~301
-0.1~4.9
Ospina-Alvarez et al. (2014)
Seagrass bed sediments
104~305
12.4~37.1
Erftemeijer and Middleburg (1995)
n.a.
120~1180
鈴村 他 (2003)
Sites & samples
Atoll lagoon sediments
東京湾
20
References
Fisher et al. (1982)
スラグの入った堆積物から栄養塩の極端な放出は見られなかった。
➡混合土壌が富栄養化の原因となることはない。
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スラグのアマモ場でどれだけのCO2を固定できるのか?
・ 7.7×102 ha/年のアマモ場 1年間に製鋼スラグで新たに造成可能な面積
・ アマモ葉による炭素固定量 1.5-21.2 g C/m2 /年
・粒子状有機物
119-206 g C/m2 /年
条件
👈👈アマモの葉:
40-600 t CO2/年
粒子状有機物:3330-5770 t CO2/年
150億 t
33億 t
264億 t
81億 t
9-17億 t
Blue Carbon
排出されたCO2のゆくえ
(IPCC第4次評価報告書、UNEP報告書;2009をもとに作成)
 地球上の生物によって固定される炭素のうち55%が海洋生物によるもの
(Blue Carbon; UNEP, 2009)
 海洋の0.2%の沿岸域が海洋全体で固定されるCO2の約半分を固定。
Blue Carbonの固定速度は熱帯雨林の2-11倍(UNEP, 2009)
21
浚渫土やスラグを使って年間どれだけの藻場を造成できるのか?
ざっくりと見積もると…
条件
・スラグ70%+浚渫土30%の混合土壌
・製鋼スラグ 発生量1150万トン/年
浚渫土
発生量2083万m3/年 をフルに藻場造成に使用可能とする。
スラグ70%+浚渫土30%の場合だとスラグの発生量が律速となる
7.7×106 m3/年の混合土壌を作成可能
👈👈東京ドーム6.2杯分
・厚さ2mで敷き詰めてアマモ場を造成
3.9×102 ha/年のアマモ場が造成可能
👈👈1990年の瀬戸内海のアマモ場
面積(6.4×103 ha)の6%
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22
メタゲノム解析-細菌群集と化学パラメータとの関係-
RNA
Root
RNA
次世代シーケンサーを用いて
混合土壌のメタゲノム解析を
行った。
界
門
綱
目
科
属
種
Kingdom
Phylum
Class
Order
Family
Genus
Species
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
23
ミニコア間隙水のリン酸塩濃度の経時変化
Day-0
Day-10
PO4-P (µM)
0 20 40 60
深度 (cm)
製鋼スラグ 0
深度 (cm)
天然砂
スラグ・天然砂
混合率
Day-63
Day-212
Day-379
PO4-P (µM)
0 20 40 60
PO4-P (µM)
0 20 40 60
PO4-P (µM)
0 20 40 60
24
PO4-P (µM)
0 20 40 60
0
0
0
0
5
5
5
5
5
10
10
10
10
10
15
15
15
15
15
0
PO4-P (µM)
20 40 60
0
PO4-P (µM)
20 40 60
0
PO4-P (µM)
20 40 60
PO4-P (µM)
0 20 40 60
0
0
0
0
0
0
5
5
5
5
5
10
10
10
10
10
15
15
15
15
15
92%
70%
85%
25%
PO4-P (µM)
20 40 60
92%
70%
スラグ表層: 天然砂と同程度
スラグ深層: 天然砂より1-2桁低濃度
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
85%
25%
ミニコア間隙水の溶存無機窒素濃度の経時変化
0
0
DIN (µM)
400
800
10
15
15
92%
70%
85%
25%
5
10
15
Depth (cm)
5
DIN (µM)
400
800
15
0
DIN (µM)
400
800
0
10
15
DIN (µM)
400
800
0
0
5
5
10
15
0
Depth (cm)
Depth (cm)
10
5
0
10
0
0
5
Depth (cm)
Depth (cm)
Depth (cm)
DIN (µM)
0
400
800
5
15
15
DIN (µM)
0
400
800
0
10
10
15
Depth (cm)
5
Day-379
DIN (µM)
0
400
800
0
0
10
Day-212
DIN (µM)
0
400
800
DIN (µM)
0
400
800
0
5
天然砂
Day-63
Depth (cm)
DIN (µM)
0
400
800
Depth (cm)
製鋼スラグ
Day-10
Depth (cm)
Day-0
25
5
10
15
92%
70%
85%
25%
無機窒素(DIN)のほとんどがアンモニア態窒素
(NH4>>NO2,NO3)
対照区によりスラグ区でアンモニア濃度が高い
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スラグ-浚渫土混合土壌の人工アマモ場で見えてきた物質フロー像
スラグ
根圏で吸収:
土壌強度向上
HAP - MAP的作用による
海水への溶出抑制
アマモの成長をサ
PO43ポート
溶出
NH4
リン
イオウ代謝の抑制
スラグ
(青潮・貧酸素化)
硫化物抑制?
硝酸還元
鉄
アミノ酸
硫酸還元
SO42有機物
H2 S
浚渫土
有機物
イオウ酸化
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有機酸
フルボ酸
発酵的作用
窒素代謝に係る有機
物分解プロセスの加
速:アンモニア産生
26
微生物群集のメタゲノム解析手法とは?
27
メタゲノム解析:
メタゲノミクス。環境サンプルから直接に回収されたゲノムDNAを取り扱う手法。従来の微生物のゲノム
解析では単一菌種の分離・培養過程を経てゲノムDNAを調製していたが、メタゲノム解析は微生物の集団
から直接そのゲノムDNAを調製し、そのヘテロなゲノムDNAをそのままシークエンシングする。そのた
め、メタゲノム解析により従来の方法では困難であった難培養菌のゲノム情報が入手可能となった。
地球上に棲息する細菌の99%以上は単独では培養できない菌種であると推察されており、メタゲノム解
析は環境中に埋没する膨大な数の未知の細菌、未知の遺伝子を解明する手法として期待されている。
DNAシークエンシング:DNAの塩基配列解析。従来法では、解析を目的とするDNA断片をテンプレートと
し、1塩基ずつPCR再合成する際の蛍光を検出して塩基配列を決定する。
次世代シーケンシング:従来法(サンガー法)では1~96のDNA断片を同時処理するのに対し、次世代
シーケンサーでは数千万から数億のDNA断片に対して大量並列に処理可能。
2007年(次世代シーケンサーの誕生)には1回のランで10億塩基のデータ、2011年には1000億塩基のデータを取得でき、
4年で1000倍の増加。
現在、次世代シーケンサーを使えば1回のランで5名のヒト全ゲノム解析を約10日間、70万円で解析可能。2003年に終了
したヒトゲノムプロジェクトで初めてヒト全ゲノムの解読を行った時は、以前のキャピラリー電気泳動のサンガーシーケン
スを用い、配列情報の産出に10年、さらに解析に3年、プロジェクトには3000億円を要した。
27
28
メタゲノム解析による微生物群集の同定
16S rRNA系統解析
16S rRNA系統解析:
細胞内リボソームの小サブユニットのRNA塩基配列を基にした微生物の進化系統を明らかにする方法
リボソーム:
あらゆる生物の細胞内に存在する構造であり、mRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質へと変換する機
構である翻訳が行われる場
リボソームRNA:
リボソームを構成するRNAであり、RNAとしては生体内でもっとも大量に存在する
• リボソームという生物の本質に関わる機能を持ったRNAなので配列の保
存性が高く、極めて関係の遠い生物同士でも配列の比較が可能
• 真核生物、原核生物問わずすべての種に存在し、機能変化に伴う遺伝子
の変異がこれからも起きる可能性が極めて少ない
• ゲノム内にコピーが複数個存在しても、塩基配列にほとんど差が無い。
• 遺伝子の長さが適当に長く(16S rRNAの場合、1600塩基対程度)、系
統解析に十分な情報量を持つ
• 比較的変異しやすい部位も存在し、近縁な種でも比較が可能である
• 細胞内に大量に存在し、PCRの開発がなされる以前から塩基配列の比較
が可能であった
• 全生物にわたって完全に保存された部位が三箇所ほど存在し、そうした
プライマー(ユニバーサルプライマー)を設計することにより塩基配列
の決定が容易である。
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各種スラグに含まれるリンの量と化学形
6種類のスラグ
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沿岸堆積物および懸濁粒子等の
天然試料
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研究の背景 ー沿岸の環境問題ー
豊かで多様性に富んだかつての
沿岸生態系
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垂直護岸・深掘りにより改変された
都市沿岸生態系
陸からの流入負荷
浮遊生態系
干潟
富栄養化
アマモ場
貧酸素
深堀跡
• 流入負荷が分散
• 多様な水質浄化機能
• 豊かな沿岸生態系
• 浄化機能の消失
• 水質悪化
➡表層:富栄養化・赤潮・有機汚濁
➡下層:貧酸素水塊・青潮の発生
• 生態系の喪失(生物多様性の減少)
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沿岸の環境問題 対応策
① 水質規制による流入負荷
削減
排出規制
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② 生態系に対する積極的な修
復・改善技術の適用
貧栄養化
干潟
アマモ場
貧酸素
排出規制の強化 ⇒ 産業活動を抑制
環境省
・新規の水質基準 (底層溶存酸素量)設置
・海域の窒素・リンに係る排水基準値見直し
➡産業界 (経団連)・経産省の強い懸念
➡貧栄養化や砂漠化が顕在化
しかし水質改善には至らず...
排出削減 (規制強化)
干潟・アマモ場創生(浅場造成)、
深堀跡の埋め戻し
➡負荷の分散と浄化機能の強化
➡生き物生息場の復活
➡ただし、大量の基盤材料が必要
積極的な生態系修復・改善技術の適用
H27年12月 中央環境審議会→環境大臣 答申、H28年3月 告示
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