特集 公共工事の品質確保と入札契約の適正化 公共建築の品質確保に向けた官庁営繕部の取組みについて やま もと かず き 山 本 和 樹* 公共工事の品質を確保するためには、品確法の基本理念に則り適切な発注を行い、発注者としての責務 を果たしていく必要がある。また、公共発注機関が発注関係事務を適切に実施するための環境整備として、 発注者間の連携を進めていく必要もあり、国土交通省官庁営繕部が改正品確法等を踏まえて進めている最 近の主な取組みを紹介する。 1.はじめに ⑴「適正な予定価格の設定」に関する取組み 平成26年6月に施行された「改正品確法」では、 運用指針では、「積算に用いる価格が実際の取引 発注者の責務に係わる規定が明確化され、強化され 価格と乖離しないよう、可能な限り最新の労務単価、 ている。また、各発注者共通の指針として「発注関 資材等の実勢価格を適切に反映する」、「積算に用い 係事務の適切な実施に係る制度の運用に関する指 る価格が実際の取引価格と乖離しているおそれがあ 針」 (以下、 「運用指針」という)が策定された。官 る場合には、適宜見積り等を徴収し、その妥当性を 庁営繕部では、従前から改正前の品確法や同法律に 確認した上で適切に価格を設定する」とされている。 基づく基本方針等に則り取組みを進めてきたところ 官庁営繕部では、適正な予定価格の設定のために であるが、改正品確法や運用指針を踏まえて、公共 「『営繕積算方式』活用マニュアル」や「営繕工事 建築工事固有の課題について、関係団体等と意見交 積算チェックマニュアル」を作成している。 換を行いながら、検討を進めている。得られた成果 また、平成28年度から「入札時積算数量書活用 については、国土交通省の営繕工事での取組みを進 方式」を試行導入しており、これは契約後に当初入 めるとともに、地方公共団体等への普及・促進にも 札手続き時の発注者積算数量に疑義が生じた場合に 取り組んでいる。 受発注者間で協議し、必要に応じて数量を訂正し請 負代金額を変更することを契約事項とするものであ 2.国土交通省官庁営繕部における取組み る。これにより円滑な協議を可能とし、適正な数量 公共建築工事では、品質、コスト、工期の3つが に基づいた請負代金額となることから、工事目的物 重要な柱となる。官庁営繕部では、これまでもプロ の品質確保及び契約の適正化に寄与し、また、発注 ポーザル方式による設計者選定、工事の発注にあ 者が示す数量書の活用の促進により、入札参加者の たって総合評価落札方式の導入等の「品質」を確保 積算の一層の効率化が期待される。これらについて するための取組みを進めてきた。本稿では改正品確 は引き続き、地方公共団体等に対し、各種会議等に 法及び運用指針で示されている取り組むべき事項の おける説明や公共建築相談窓口での相談対応を通じ うち、 「適正な予定価格の設定」 、 「適切な工期設定」、 普及・促進を図っていくこととしている。 「発注者間の連携体制の構築」等に関する官庁営繕 部の最近の主な取組みを紹介する。 《営繕工事における「入札時積算活用方式」の試行についての URL》 http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000026.html *国土交通省 大臣官房官庁営繕部 計画課 計画調整係長 03-5253-8111 月刊建設16−10 17 うこと等により連携を図るように努めなければなら ⑵「適切な工期設定」に関する取組み 改正品確法における発注者の責務として「適切な ない」と規定されている。公共建築に関する発注者 工期を設定するよう努めること」と規定されており、 間の連携等についての取組みを紹介する。 運用指針においても「工事の性格、地域の実情、自 ◦全国営繕主管課長会議の取組み 然条件、週休2日の確保等による不稼働日等を踏ま 公共建築分野では、国土交通省官庁営繕部と都道 えた適切な工期を設定の上、発注・施工時期等の平 府県及び政令市の営繕部局を構成員とする「全国営 準化に努める」とされている。 繕主管課長会議」を毎年度開催し、情報共有や意見 官庁営繕部では、都道府県・政令市と連携して、 交換を行っている。同会議は、官公庁施設の営繕及 平成27年10月に「公共建築工事における工期設定 び保全指導の適正かつ円滑な実施に資することを目 の基本的考え方」をとりまとめ、公共建築工事全体 的として、建築技術等に共通する重要な諸問題につ への適切な工期設定の普及に努めている。 いて協議するために設置されたものである。また、 また、平成28年6月には公共建築工事の各発注 地方ブロックごとにも会議を開催し、各地方での実 者の理解をさらに促進するために、同基本的考え方 務的な課題について意見交換を行うなど連携を図っ の内容について、建設業団体のみなさまのご協力に ている。同会議において、品確法の当初制定後の平 より収集した事例をもとに参考事例(不適切な事例) 成17〜18年度に公共建築における発注関係事務の や防止のため注意すべきポイントをまとめた事例解 支援方策に関する検討を行い、発注者支援業務事例 説を作成し、適切な工期設定のための事前調査表な 集等を取りまとめた。 ど参考資料と併せて公表している。 また、平成28年6月の同会議では、発注関係事 《公共建築工事における工期設定の基本的考え方(事例解説)について URL》 http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk 4_000026.html 務に係る支援方策の事例「発注者支援業務事例集」 の更新、発注者支援パンフレット「公共工事の品質 確保に向けて」のとりまとめ、発注関係事務の実情 ⑶「発注者間の連携体制の構築」に関する取組み 品確法第7条に「発注者は、発注関係事務を適切 把握等のためアンケート調査の実施・結果とりまと に実施するため、必要な職員の配置その他の体制の めといったフォローアップを行い、情報共有を図っ 整備に努めるとともに、他の発注者と情報交換を行 た。このアンケート調査は全国の市町村に対して行 優れた品質を確保する選定 設計等の品質確保 国土交通省告示第15号を踏まえた新築設計の業務委託料のほか、改修設計の業務委 託料の算定方法について規定 「営繕積算方式」活用マニュアル(平成28年4月) 「公共建築工事積算基準」等に基づく積算方法をベースとして、共通費の適切な積上等 現場の実態を踏まえた課題への対応方法についても紹介 + 適正な予定価格の設定 コスト 工 期 工事において総合評価落札方式を活用するほか、設計においては設計者の創造性、 技術力、経験等を評価するためプロポーザル方式を活用 官庁施設の設計業務等積算基準 品 質 + 総合評価落札方式、設計プロポーザル等 営繕工事積算チェックマニュアル(平成28年3月) 積算数量の拾い忘れ等の防止を図るため、積算業務の過程においてチェックすべき項 目等を整理 入札時積算数量書活用方式(平成28年4月) 適切な設計変更 契約後、入札時積算数量書の積算数量に疑義が生じた場合に、受発注者間で協議し、 必要に応じて数量を訂正し請負代金額を変更することを契約事項とする 営繕工事請負契約における設計変更ガイドライン(平成27年5月) ・Q&A(平成27年10月) 適切な工期の設定 発注者と受注者間の設計変更・手続き等を適切に実施するためのガイドラインと そのQ&A 公共建築工事における工期設定の基本的考え方(平成27年10月) ・事例解説(平成28年6月) 工期設定について、調査・設計から施工の各段階において基本となる考え方及び その事例解説・参考資料をまとめたもの 発注者間の連携 全国営繕主管課長会議 都道府県等において公共建築の整備を担当する部局と情報共有を図るなど連携 参考情報の官庁営繕HPへの掲載 官庁営繕のページに建築事業実施のための参考情報を掲載 公共建築相談窓口 国土交通省本省及び各地方整備局等の営繕部において、地方公共団体等の公共建 築発注者からの問合せに対応 図−1 品確法を踏まえた官庁営繕の主な取組み 18 月刊建設16−10 い、1,425市町村から回答をいただき、営繕関係部 局の技術職員が5名未満の市町村が全体の7割を占 めるという状況や、国、都道府県等に望む支援とし て「基準、要領等のノウハウの共有」、「研修の開催、 講師の派遣等」 、 「相談窓口の設置」という回答が多 い等の結果となった。 《 「公共建築における発注関係事務に係る支援方策」のフォ ローアップ(平成 28 年度)URL》 http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk4_000028.html ◦公共建築相談窓口での相談の受付 0.6%0.1% 5.5% 10人以上 7.7% 5~9人 15.0% 31.4% 2~4人 27.9% 0人 11.6% 1人 0人 1人 2~4人 5~9人 10~19人 20~49人 50~99人 100人以上 図−2 公共建築工事の発注者の現状(市町村) (アンケート調査結果より) 平成14年度から、本省及び各地方整備局等に公 共建築に係る技術的な相談を幅広く受け付ける相談 窓口(公共建築相談窓口)を設置し、公共発注機関 等からのご相談に対応している。 平成27年度は、不調・不落の場合の対応、積算 基準の取扱い、入札手続きに関するご相談を中心に、 図−3 公共建築相談窓口の対応状況(平成 27 年度) 全国の合計で2,488件のご相談をいただいた。平成 し、公共建築工事の特徴を踏まえた事業を適切に実 27年度と比べて全体件数が増加しており、相談者 施するために基本とすべき発注者のあり方や、多様 の内訳は、公共発注機関からの相談が約8割、民間 な発注者が役割・責任を果たしていくための方策に その他からの相談が約2割となっている。また、平 ついて、建築分科会官公庁施設部会において、現在、 成28年度の相談件数は6月末時点で、平成27年度 審議をいただいているところである。 同時期の実績と同数程度の相談をいただいている。 「公共建築相談窓口」では、営繕部の職員が丁寧 に対応するので、お気軽にご相談いただきたい。ま 《社会資本整備審議会 建築分科会 官庁施設部会 URL》 http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s203_shisetsu01.html 3.おわりに た官庁営繕部ホームページで、これまで寄せられた 品確法の目的に示されているとおり、公共工事の ご相談のうち、主なものをQ&Aにして掲載してい 品質確保は、豊かな国民生活の実現等にも寄与する るので、参考にしていただきたい。 ものである。良質な公共建築を整備し、これを長期 《公共建築相談窓口 URL》 http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000016.html 《官庁営繕のQ&A URL》 http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk6_000063.html ⑷ 社会資本整備審議会への諮問 品確法の改正や基礎ぐい工事問題等を契機として、 公共建築工事の発注者についても、設計者、施工者 等との適切な役割分担を踏まえ、事業の各段階にお に維持していくためにも、発注者がしっかりとその 責務を果たすことが必要である。 官庁営繕部では今後も各公共発注機関と連携して、 公共建築の品質確保に向けた取組みを推進していく こととしている。 ※本 稿の中でご紹介した内容の詳細については、文中 のほか、次のホームページに掲載している。 いて発注者の役割・責任を果たすことが求められて 《国土交通省HPの官庁営繕コーナーのURL》 いる。また、一方で、官公庁施設整備の発注者は、 http://www.mlit.go.jp/gobuild/index.html 体制等が多様な状況にある。 「公共建築の品質確保」 、 「円滑な施工確保」、 「入札・契 このような背景を踏まえ、平成28年6月に、国 約手法」 、 「全国営繕主管課長会議」 、 「関係法令及び技 土交通大臣から社会資本整備審議会に対して「官公 術基準」 、 「公共建築相談窓口」等のアイコンから必要 庁施設整備における発注者のあり方について」諮問 な情報をご参照ください。 月刊建設16−10 19
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