総まくり 140 会社法 講師 加藤喬 第3章 株式の準共有 株式が複数の者の準共有(民法 264 条)に属する状態が、共同相続(民法 898 条) により頻繁に生じる。 そして、準共有株式については、共有者が「当該株式についての権利を行使する者 一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式に ついての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使するこ とに同意した場合は、この限りでない。 」とされている(106 条) 。 これは、準共有株主が格別に権利を行使することから生じうる混乱を回避し、会社 の事務処理の便宜を図る観点から、準共有株式の権利行使の方法について、民法の共 有規定に対する 「特別の定め」 (民法 264 条但書) を設けたものである (最判 H27.2.19‐ 百 12) 。 【論点 1】株式の共同相続(最判 S45.1.22‐百 13 など) 株式について共同相続が生じた場合、株式は金銭債権のように当然に分割承継さ れるのか、それとも共同相続人の準共有(898 条)に属することになるのか。 ↓ 株式は、議決権などの会社経営に関する権利も含んだ会社に対する地位を表章す るものであり、金銭債権等の可分債権(民法 427 条)とは異なる。 ↓ また、仮に株式を可分債権と同様に考えたとしても、株式はその性質上端数が生じ 得るものだから、その場合には準共有関係を認めざるを得ない。 ↓ したがって、株式について共同相続が生じた場合、株式は当然に分割承継されるの ではなく、共同相続人の準共有に属することになると解する。 【論点 2】株式の相続による原告適格の承継(最判 S45.1.22‐百 13) 株式は、株主が株式会社から経済的利益を受ける自益権と、株主が会社経営に対し て参与・監督・是正する共益権からなる。この共益権には、会社の組織に関する訴え (828 条以下)を提起する権限も含まれる。 それでは、会社の組織に関する訴えを提起している株主について相続が生じた場 合には、当該訴訟の原告適格も相続されることになるか。 ↓ 共益権は自益権の価値の実現を保障するために認められた、自益権と密接不可分 の関係において全体として法律上の地位としての株式に包含されるものである。 ↓ したがって、株式の移転が認められている以上(127 条参照) 、共益権も自益権と ともに譲渡又は相続の対象になると解すべきである。 ↓ そして、相続の場合には、相続が包括承継(民法 896 条本文)であること、及び 28 相続時に提訴期間が経過している場合に相続という偶然の事情により提訴の途が閉 ざされるのは不合理であることから、株式の相続人は、会社の組織に関する訴えを提 起する権限のみならず、同訴訟に関する相続人の原告適格も承継取得すると解すべ きである。 ↓ これに対し、株式の譲渡の場合には、譲受人は、会社の組織に関する訴えを提起す る権限を承継するにとどまり、譲渡人の原告適格までは承継できないと解すべきで ある。なぜならば、譲渡は特定承継である上、偶然の事情ではないため、相続の場合 と同様に考えることはできないからである。 【論点 3】準共有株式の権利行使者の指定方法(最判 H9.1.28‐百 11) 準共有株式の権利行使者を指定(106 条本文)するためには、持分価格の過半数の 決定で足りるか、それとも準共有者全員の一致を要するか。 ↓ 仮に全員一致を要すると、準共有者のうち一人でも反対すれば全員の社員権の行 使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来たすおそれがあり、会社の事 務処理の便宜を考慮した 106 条本文の趣旨に反する。 ↓ したがって、持分価格の過半数の決定で足りると解する(持分価格多数決説) 。 (判例)会社の信義則違反により指定・通知が不要とされる場合(最判 H2.12.4‐百 10) 事案)BCD が X 社の 1 人株主 A を共同相続したところ、遺産分割協議及び権利行者 の指定・通知が未了である間に、X 社において、株主総会で D・E・F を取締役 に選任する決議がなされたとして同人らの取締役就任登記がなされた。そこで、 B が準共有株主としての地位に基づき取締役選任決議不存在確認の訴えを提起 したところ、X 社は権利行使者の指定・通知を欠くとして B の原告適格を争っ た。 判旨)本判決は、「共同相続人が準共有株主としての地位に基づいて株主総会の決議 不存在確認の訴えを提起する場合も、…権利行使者としての指定を受けてその旨 を会社に通知していないときは、特段の事情のない限り、原告適格を有しないも のと解するのが相当である」と述べた上で、「準共有…株式が発行済株式の全部 に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされ たとしてその旨登記されている」という事実関係に着目して「特段の事情が存在」 するとして、 「他の共同相続人は右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有 する」とした。 解説)判旨でいう「特段の事情」とは、権利行使者の指定・通知がないことを理由と して会社が権利行使を拒否することが信義則に反するような場合を意味する(田 中 126 頁) 。 本件では、BCD は X 社の全株式の準共有者であるから、同人らの準共有株式 29 総まくり 140 会社法 講師 加藤喬 について権利行使者の指定・通知がなされないまま行われた取締役選任決議は、 手続的瑕疵の重大性から法律上存在しないものと評価され得る。 そうすると、X 社は、本案上の主張としては、同人らによる権利行使者の指定・ 通知があったことを前提として株主総会の開催・決議の成立を主張することにな る。 それにもかかわらず、X 社が、本案前の主張として、権利行使者の指定・通知 を欠くことを理由として B の原告適格を争うことは、106 条の「規定の趣旨を同 一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく 信義則に反し許されない」こととなる。 【論点 4】106 条但書の法意(最判 H27.2.19‐百 12) 株式会社が 106 条但書の同意をした場合、民法の共有規定によることなく、準共 有株式の権利行使が適法となるのか。 ↓ 106 条本文は、会社の事務処理の便宜を図る観点から、民法の共有規定に対する 「特別の定め」 (民法 264 条但書)を設けたものであり、106 条但書は会社の同意 がある場合には民法の共有規定に対する「特別の定め」である 106 条本文の適用が 排除されることを定めたものである。 ↓ したがって、106 条但書の同意がある場合には、106 条本文の適用が排除される だけであるから、準共有株式の権利行使については民法 251 条又は 252 条が適用 されることになる。 ↓ そして、準「共有…株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって 直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない 限り」 、準共有「株式の管理に関する行為として、民法 252 条本文により、各共有 者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる」ものと解する。 (解説) 本判決は、上記のように述べた上で、議決権行使の対象議案である①取締役の選 任・②代表取締役の選任・③本店の所在を変更する旨の定款変更・本店の移転のい ずれについても、準共有株式の管理に関する行為に属するとした。 これに対し、組織再編行為や解散に関する議決権行使であれば、準共有株式の変 更に関する行為に当たり、準共有者全員の同意が必要となろう(百 12 解説)。 30
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