無人ヘリ・UAVによる生育情報収集 および判定技術手法

グリーンレポートNo.572(2017年2月号)
●巻頭連載 :
「農匠ナビ1000」の成果(農業経営者が開発実践した技術パッケージ)
第11回
無人ヘリ・UAVによる生育情報収集
および判定技術手法
∼水稲の施肥設計、
葉色判定に活用できる
“空からのテクノロジー”∼
さまざまな分野で無人機の利用が注目を集めている。マンションなどに荷物を届ける宅
配サービスや災害現場での利用など、実用化に向けた実証実験が行われており、農業では、
飛行中にカメラやセンサを用いて葉色などの情報を収集する技術の研究が進んでいる。
ここでは、産業用無人ヘリコプターとUAV(Unmanned aerial vehicle、ドローンと
呼ばれることも多い)を用いた農業技術について紹介する。
産業用無人ヘリコプターによる水稲の生育情報の省力収集技術
∼生育診断機器を搭載した産業用無人ヘリコプターによって水稲群落の生育情報を迅速に取得∼
中井 譲
㈲フクハラファーム 常務取締役 福原悠平
滋賀県農業技術振興センター 栽培研究部 営農システム係 専門員 今日の水稲生産では、生産性向上と環境保全を両立す
値が大きくなる。
る技術開発が求められている。こうした課題に対処する
植生指数(NDVI)=(NIR−R)/(NIR+R)
には、水稲の生育や環境を迅速に診断し、診断結果に基
NIR:近赤域の反射光強度を太陽光強度で除した値
づいた栽培管理や資材の適正な使用が求められる。これ
R:赤色域の反射光強度を太陽光強度で除した値
を受けて、産業用無人ヘリコプターに生育診断機器を搭
測定した植生指数を施肥対策に活用
載した観測装置(以下、無人ヘリ生育観測装置)が開発
されたので(市来ら・2014年)
、その実用性を検討した。
無人ヘリ生育観測装置は、植生指数(NDVI)を10a
当たり約40秒で測定できる。また、図−1のとおり、
GPS
無人ヘリ生育観測装置の概要
で測位した位置情報付きのデータは、表計算ソフトによ
り圃場マップ化できる。
無人ヘリ生育観測装置は、産業用無人ヘリコプター、
センサ部および制御部により構成されている(写真−1)
。
45m
図−2のとお
り、水稲の幼穂
センサ部は、赤色域、近赤域の太陽光強度と反射光強度
0.764 0.733 0.786 0.787 0.768 0.681
を測定する4つのセンサ(フォトダイオード)により構
成されている。
0.745 0.752 0.783 0.797 0.788 0.742
形成期(出穂25
日前頃)におけ
る植生指数が高
生育情報である
植生指数
(NDVI)
0.738 0.772 0.786 0.797 0.794 0.765
くなるにつれて、
は、植物による光
0.733 0.762 0.779 0.794 0.781 0.780 60
m
単位面積当たり
の反射の特徴を活
制御部
センサ部
0.732 0.718 0.777 0.793 0.787 0.776
かし、生育状況を
把握することを目
的として考案され
た指標である(下
0.741 0.713 0.742 0.777 0.775 0.765
上部:太陽光強度センサ
水口側
平均値 0.765
標準偏差 0.030
下部:反射光強度センサ
式)
。なお、植生
指数は、−1から
(2015年・品種「コシヒカリ」
)
1メッシュは短辺7.5m、長辺10mである
■部分は平均値を上回った地点を示す
制御部
1の間の値を示し、
生育が旺盛なほど
図−1 幼穂形成期の植生指数(NDVI)の
圃場マップ例
センサ部
写真−1 無人ヘリ生育観測装置
2
の穎花数が多く
なる傾向がみら
れる。 しかし、
「 コシヒカリ 」
では、穎花数の
増加にともなっ
て収量が高くな
っても、外観品
質、食味が低下
グリーンレポートNo.572(2017年2月号)
な単位面積当た
りの穎 花 数 は
28,000 ∼ 30,000
粒/㎡であるこ
とが報告されて
いる(川口ら・
1995年など)
。
測定した植生
指数から穎花数
が過剰になるこ
35,000
とが予想される場合は、幼穂形成期以降の施肥対策など
単位面積当たり穎花数
︵粒 ㎡
/ ︶
するため、適正
で品質低下を防止できる可能性がある。また、植生指数
30,000
は次年度以降の施肥設計において、適正な穎花数に誘導
するために活用できる。なお、植生指数を施肥診断や施
y=127366x−60074
R2=0.407
(n=7)
25,000
肥設計に活用するには、数多くの圃場でデータを収集し
て指標をつくることが必要である。
20,000
0.67
0.68
0.69
0.70
植生指数
(NDVI)
0.71
【引用文献】
市来秀之・吉野知佳・林和信・重松健太・紺屋秀之・中井譲(2014)
:
無人ヘリ携帯共用作物生育観測装置による空中測定,農業食料工学会
年次大会講演要旨73,83.
川口祐男・木谷吉則・高橋渉・南山恵(1995)
:品質・食味からみた
コシヒカリの目標穎花数,北陸作物学会報30,53-54.
0.72
図−2 「コシヒカリ」の幼穂形成期の
植生指数と単位面積当たり穎花数
(2014年、2015年)
植生指数は、旧型機による測定値のため、
図−1の測定値の90%程度の値を示す
UAVを利用した簡易な水稲葉色判定法
∼UAVに葉色板を取り付け撮影、
目視比較または判定ソフト
(試作品)
で葉色値を取得∼
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
農業技術革新工学研究センター 高度作業支援システム研究領域 高度情報化システムユニット長 吉田智一
生育中の水稲葉色の判定を生産者自身が比較的手軽に、
かつ短時間にできることをめざして、市販の可視光デジ
タルカメラ付きUAVと水稲用葉色板を組み合わせた簡易
撮影画像を見ながら目視で、
または専用の画像処理判定ソフトで葉色判定
な水稲葉色判定手法を検討した。
葉色判定は大きく2通りが可能となっている。試験に
上空から水稲群落と葉色板を同じ画面内に映し込むこ
使用した3機種をはじめ、現在市販されている多くのカ
とで、太陽光の影響を極力抑えつつ、撮影画像を目視比
メラ付きUAVは、手元のコントローラ上で機体カメラ
較または専用の画像処理判定ソフト(試作品)で解析し
の撮影画像をリアルタイムに確認できる。この機能を使
て葉色値を得ようというものである。後述する運用上の
って、飛行・撮影しながら、その場で画像内の葉色板と
注意点を守れば、試作判定ソフトは撮影画像の色相デー
水稲群落の葉色を目視比較して葉色値を判定する。葉色
タを使用することで一定程度の葉色判定が可能である。
板を持って自分が歩き回る代わりに葉色板付きUAVに飛
び回ってもらうイメージである。
市販のカメラ付きUAVに葉色板を取り付けて
水稲群落を撮影
もうひとつは、試験時に試作した画像処理判定ソフト
で撮影画像を解析して葉色値を判定する方法である(写
今回の試験では、国内でも広く普及していると思われ
真−3)
。この判定ソフトはWindows OS上で動作する
るParrot社製「AR.Drone 2 GPS」
、DJI社製「Phantom
試作品であるが、照会いただければ提供可能である。機
Vision 2 +」
「Inspire- 1 」の3機種のUAVを用いた。い
能的には、静止画(JPEG形式)または動画(MP 4 形式)
ずれも取り付け具を加工して機体カメラ前方に葉色板
を解析して葉色値を判定する。使用にあたっては①妥当
(葉色値2∼6)を設置し、撮影画像内に映り込むよう
な判定結果を得るために晴天時の撮影ではUAV機体の陰
にしている(写真−2)
。後は、UAVを飛行させ1∼5
が葉色板に重ならないようにする②曇天時に撮影したほ
mの上空から緩やかに見下ろすように水稲群落を撮影す
うが、妥当な判定結果を得やすい、などのこれまでに確
る。この撮影方法は、人が葉色板を持って水稲群落を見
認された特性に
通して判定する場合の計測法に倣ったものである。
注意しながら撮
影するとよい。
AR.Drone2 GPS
約5万円
Phantom2 Vision2+
約13万円
葉色板をカメラ
前方に設置
UAVの標準
機能で撮影
Inspire-1
約38万円
写真−2 市販UAV機3機種と葉色板取り付け状況
写真−3 画像処理判定ソフトの動作画面例
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