“不安み” しかない。 「ねえ,朝からなにやってんの。 」 「ほら, “痛さ” と “痛み” ってあんじゃん。これ, どこが違うのかって思ってさ。 」 「で,いろいろ書いてんの? また? そんな の,どうだっていいじゃん。ってか,きのう飲 みすぎた。あたま痛い。 」 「 “悲しさまぎらす この酒を 誰が名付けた 夢追い酒と” ってさ,このシビアな感じが,また よくね?」 「よくない。」 「でさ,俺なりに, “─み” と “─さ” がどこが違 うのか書いたんだけどさ,ちょっと見てみてく 「それさ, “痛さ” ? それとも“痛み” ?」 んない? “─み”が付く「痛み」とかは,じわじ 「知らないって。 」 わくるっていうか,情緒的なんだよな。ハートで 「松田聖子の歌で“なつかしい痛みだわ” っ 感じるんだよハートで。だけど “─さ”が付く「痛 てあるだろ。 『SWEET MEMORIES』な。こ さ」とかはさ, 「痛い」っていう形容詞を文法的 れ, “なつかしい痛さだわ”ってすると,なん に名詞に変換しただけっていうか,特別なニュ か落ち着かないんだよな。」 アンスは加わってないわけ。すごくね?」 「落ち着かないって,もともとそんな歌詞じゃ ないんだから,あたりまえじゃん。 」 「でもさ,シャネルズの『ハリケーン』ってあ んだろ。 」 「眠くなってきた。また寝る。」 「そういうときさ, “眠さに負けそう”とか “ 眠気が 襲ってきた”とか言うだろ。 “眠み” っ て言わないよな。」 「知らない。あたしまだ生まれてない。」 「ふつうに言うでしょ。 “眠みが強い”とか。」 「あれだとさ, “ 離さない 今度こそは 「うそだろ! 俺の大統一理論では,言わな 移り気な 罪の痛さに泣いた”ってなってん だよな。不思議じゃね?」 「そんなこと朝から考えるほうがよっぽど 不思議。ってか,理解不能。 」 「あとさ, 『悲しみよこんにちは』ってあん いはずだ。」 「もう無理。眠みがやばみ。つらみ。」 「ちょ,待て。 “やばみ”ってなんだ。 “つらみ” はあ れだろ, “ 恨 みつらみ”の“つらみ”か? 俺に恨みでもあんのか?」 じゃん。斉藤由貴の名曲な。」 「それも知らない。 」 ことしから,わたしはこの男の人と一緒にな 「これもさ, 『 悲しさよこんにちは』だと,な る。大丈夫だろうか。不安みしかない。のろけ んかシビアな感じになるんだよな。だけどさ, 話とかじゃなく,まじで。でもまあ,退屈はし 『夢追い酒』な,渥美二郎。 」 「なにそれ,もしかして演歌? もっと知ら ないって。 」 なさそうだ。あ, “しなそうだ” か? こっちから ネタ振るのはくやしいけど,聞いてみるか。 作:塩田雄大(しおだ たけひろ) JANUARY 2017 83
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