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金融テーマ解説
Financial Market Update
2017/2/1
チーフ・アナリスト
大槻 奈那
金融政策は“無風”。物価下振れリスクと為替不安定化で、緩和長期化の方向
●金融政策も物価見通しも維持。先週来長期金利が上昇していたが今後の動きは不透明
●物価の下振れリスクは高まっている。トランプ米大統領の日中の通貨安誘導を批判する
発言もあり、日銀の長期金利のメド引き上げ等の可能性は低下、緩和は長期化へ
●我々の個人投資家アンケートでも、現状の政策下では 2%の目標達成を危ぶむ声が圧倒
的。「投資や消費をするより貯金を増やすべき」という回答も増加。今後追加的な施策
が、恐らく政府サイドから打たれない限り消費に弾みをつけるのは難しい
1 月 31 日、日銀の金融政策決定会合で現状維持が発表された。同時に発表された展望レ
ポートでも、基準改定もあった GDP 見通しが若干上方修正されたものの、物価予想の中
央値は据え置かれた。但し、委員の中の物価見通しの最高値は、2017 年度、2018 年度そ
れぞれ前回から 0.1 ポイントずつ引き下げられ、1.7%、1.9%の上昇となった。委員の殆
どが 2018 年度までの 2%達成は難しいとみていることになる(図表 1)。
図表1:日銀展望レポートに示された物価見通し
(出所)日本銀行資料。▼、●は、個々の政策委員の物価見通しを示し、▼は下振れリスク
が大きいという見方、●は上下リスクがバランスしているという見方を示す。
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更に、日本時間 2 月 1 日未明、トランプ米大統領が中国と日本の通貨安誘導を批判する発
言を行ったこともあり、為替にも不透明感が増している。これらによって、金融緩和の一
層の長期化の可能性が高まった。3 月 15-16 日に次の決定会合が予定されているが、少な
くとも展望レポートが出る 4 月 27 日まで政策の方向性の変更は考えにくいだろう。
先週来、長期金利が上昇しており、円金利をドル金利に転換するコストを示すベーシスス
ワップレートも改善していたが、これらの点から反転の可能性が高まっていると思われる
(図表 2、3)。
図表3:ベーシススワップレート(円金利をドル金利に転換するコスト)
図表2:10年国債利回り
2017/1/31
2017/1/29
2017/1/27
2017/1/25
2017/1/23
2017/1/21
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2017/1/13
2017/1/9
2017/1/11
2017/1/7
2017/1/5
2017/1/3
-30
0.06
2017/1/1
0.07
2016/12/30
-20
2016/12/28
0.08
2016/12/26
-10
2016/12/24
0.09
2016/12/22
0
0.10 (%)
-40
0.05
-50
0.04
コ
ス
ト
高
-60
0.03
-70
(出所)Bloombergデータよりマネックス証券作成
2017/1/31
2017/1/29
2017/1/27
2017/1/25
2017/1/23
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2017/1/13
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2017/1/11
2017/1/7
2017/1/5
2017/1/3
2017/1/1
2016/12/30
2016/12/28
2016/12/26
2016/12/24
2016/12/22
0.02
-80
-90
(出所)Bloombergよりマネックス証券作成
物価上昇に対する施策としては力不足の状態が続く。我々の日銀政策決定会合に関する事
前アンケートによれば、個人投資家は、現在の日銀の政策は総じてデフレ脱却に貢献して
おらず、2018 年度の 2%達成は難しいと考えている(図表 8、図表 9)。相変わらず、家計
の財布のひもは固く(図表 4)、
「投資や消費より、貯金を増やすべきだ」とする回答が増加
した(図表 5)。
このようなセンチメントに対して金融政策でできることは限られている。今回のアンケー
トでは、前回に続き、
「マイナス金利の停止(金利引き上げ)」が、各種の緩和策よりもむ
しろ効果があるという意見が多かった(図表 11)。
とはいえ、物価下振れリスクが大きく、為替が不安定な情勢で、緩和の方針性を大きく修
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正する可能性はゼロに近い。当面は、賃上げなど政府や企業側の施策がない限り、投資や
消費に弾みをつけるのは難しいだろう。
金融政策に関する個人投資家アンケート調査:
期間 2017/1/23~2017/1/26 回答者数 610 名
図表4: 1年前と比較して、家計を引き締めているか?(回答者数610名)
図表4:1年前と比較して、家計を引き締めているか?
201701
35.2%
9.3%
55.4%
201612
35.3%
10.4%
54.3%
201610
34.8%
9.0%
56.2%
201609
44.9%
201608
37.7%
0%
20%
4.7%
50.4%
9.1%
40%
引き締めている
53.2%
60%
緩めている
80%
変わらない
(出所)マネックス証券作成
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100%
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図表5:貯金を増やすべきか投資すべきか?(回答者数610名)
図表5:貯金を殖やすべきか、投資をすべきか
201701
31.3%
201612
28.4%
20.8%
201610
29.7%
26.0%
0%
40.3%
49.5%
30.2%
20%
43.8%
40%
60%
80%
100%
貯金を増やすべきだ
貯金を取り崩して買い物や投資をすべきだ
どちらともいえない
(出所)マネックス証券作成
図表6:マイナス金利導入決定後、あなたの投資意欲に変化はあったか?(回答者数610
名)
図表6:2016年1月の日銀のマイナス金利導入決定後、あなたの
投資意欲に変化はあったか?
201701
25.6%
201612
54.8%
18.6%
201610
62.1%
13.7%
201609
8.8%
201608
10.7%
0%
19.7%
19.3%
64.3%
22.0%
59.0%
32.1%
76.0%
20%
投資意欲が高まった
40%
13.3%
60%
投資意欲が変わらない
80%
投資意欲が減退した
(出所)マネックス証券作成
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100%
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(上記質問に「投資意欲が高まった」とお答えされた方におたずねします。)
図表7:具体的にはどのような資産に投資、または投資を検討したか (複数回答可) (回
答者数156名)
図表7:新たな投資先の選択肢
日本株/日本株投信
136
外国株/外国株投信
50
J-REIT
26
外国債券関連投信
17
日本債券関連投信
14
その他
15
0
50
100
150
(出所)マネックス証券作成
図表8:日銀のマイナス金利導入は、インフレ期待の拡大に貢献していると思うか(回答
者数610名)
図表8:日銀のマイナス金利導入は、インフレ期待の拡大に
貢献しているか
15.7%
36.6%
47.7%
貢献している
貢献していない
わからない/どちらともいえない
(出所)マネックス証券作成
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図表9:日銀はインフレ率2%達成を「2018年度頃」としていますが、達成できると思うか
(回答者数610名)
図表9:日銀はインフレ率2%達成を「2018年度頃」としています
が、達成できると思うか
8.0%
20.7%
71.3%
達成できる
達成できない
わからない/どちらともいえない
(出所)マネックス証券作成
図表10:日銀の次の追加緩和の時期はいつか(回答者数610名)
図表10:日銀の次の追加緩和の時期はいつか
0.7%
9.2%
27.2%
12.1%
11.5%
27.7%
11.6%
1月
3月
4月
6月
それ以降、黒田総裁任期満了前
黒田総裁任期満了まではない
わからない
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図表11:日銀がどのような金融政策を行ったら、投資に強気になれるか?(回答者数610
名)
図表11:日銀がどのような金融政策を行ったら、投資に強気にな
れるか?
マイナス金利政策の停止(金利引き上げ)
231
ETF・JREIT買入の更なる増額
181
国債買い入れ増額/買い入れ対象の拡大(財
投機関債、地方債、長期社債等)
126
国債の直接引き受け(いわゆるヘリ コプター
マネー)
124
マイナス金利幅の拡大
96
イールドカーブ操作の変更 (長期金利目標の
引き上げなど)
68
国債買い入れ減額、または買い入れメドの停
止
60
その他
54
0
50
100
150
(出所)マネックス証券作成
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200
250
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ません。記載した情報、予想及び判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推
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