能管の演奏技法における「型」の形成再考

(社)東洋音楽学会 東日本支部第 94 回定例研究会 要旨
能管の演奏技法における「型」の形成再考
森田 都紀(京都造形芸術大学)
本発表は、「能」で使われる「能管」の演奏技法の変容を「唱歌譜」という
史料の分析を通して明らかにし、「型」を軸とした現在の能管の音楽演出の形
成された歴史的背景を検証しようとするものである。史料の上で演奏技法を遡
り得るのは、能管に流儀が生まれ、唱歌譜を書き記すようになった室町時代末
期以降である。本発表では、管見に入ったなかで最古の成立である室町時
代末期(文禄年間)の唱歌譜のほか、江戸時代初期(万治年間)・中期(宝
永年間)・後期(寛政年間)に成立した唱歌譜と、昭和時代に成立した現行
唱歌譜の、計五譜を用いて、約四百年に渡る演奏技法の変容を紐解いてい
く。そして、演奏技法に型がどのように生まれたのか、型の意味するところは何
か、型の形成を方向づけていたことは何だったのかということを考える。
能管の演奏技法が確立する過程には、流儀が流儀としての体制を整えて
いったことや、江戸幕府の能に対する政策などが多分に関わっていたものと考
えられ、能を取り巻く制度が江戸時代に整えられていく中で、演奏技法の面も
同様に洗練を極めていったことが唱歌譜より分かる。また、その過程で、演奏
技法を伝承する方法自体も少しずつ変容し、それによって、型はそのあり方を
変えながら形成されたことが唱歌譜の解析から推測できる。このことは、型を軸
とした能管の音楽演出のあり方もこんにちまでに大きく変容したことを意味してお
り、能という演劇の演出史の一端に光を当てるものだと思われる。