経済の羅針盤 2017年働き方改革は進むのか 経済調査部 主任エコノミスト 柵山 薄氷状態の雇用者数増 ここもと、雇用の改善が著しい。雇用者数はこの4年で 200万人以上増加し、5,700万人を超えた。自営業者な ども含めた就業者数でも、 リーマン・ショック前の水準を 順子(さくやま じゅんこ) 要超過幅もリーマン・ショック前に近づいている。つまり、 労働投入量は伸び悩んでいる現状でさえ需要超過とな るほど、人手不足の状況にあるということだ。 働き方改革は能力開発意欲を引き出せるか 上回った。 こうしたもと、 このままでは中長期的な経済発展を支え 一方、雇用者数増を支える人口に目を向けると、生産 る労働力の確保は困難になるとの問題意識から、政府は 年齢人口 (15-64歳) は1995年をピークに1割以上も減 2016年に 「一億総活躍プラン」 を策定し、それを踏まえた 少、人口でみても2008年をピークに減少に転じている。 「働き方改革」 を2016年度内にまとめる予定だ。 「働き方 改革実現会議」 では、 同一労働同一賃金がメインテーマと れてきたが、未だに雇用の増加基調は続いている。 され、正規・非正規間の所得格差縮小に向けた方策が検 こうした人手不足問題の延命装置となったのは、結婚し 討されている。 ている女性やシニア層の労働参加率上昇だ。これまで結 女性やシニア層などの労働参加が実現しつつあるもの 婚や出産を機に退職していた女性の就業継続、専業主婦 の、家庭責任や健康上の理由から労働時間に制約のある の労働市場への参入、60歳以降も働き続けるシニア層 人の割合が増える中、労働投入量を増やすことは困難に の増加が、人口減少圧力を押さえ込んだ。逆に言えば、労 なっている。成長力維持のためには、労働参加だけでな 働参加率の上昇が止まれば、人手不足問題は即座に顕在 く、労働の質、生産性を上昇させていくことが不可欠だ。 化する。まさに、雇用者数増加の持続は薄氷を踏む状況 にもかかわらず、現状の労働市場では、時間に制約が だ。 ある労働者=短時間労働者=非正規労働者という道がほ 労働投入量ではすでに限界 経済の羅針盤 そのため、人手不足が成長のボトルネックになると懸念さ とんどだ。非正規労働者に対して、企業側は育成機会を 十分に用意しているとは言えず、十分に育成しきれてい さらに問題なのは、経済成長を考える上でより重要な ない状況である。また、成果と賃金の関連性は低く、本人 労働投入量 (雇用者数×平均労働時間) でみれば、伸びは の能力開発意欲も引き出しきれていない。 緩慢なことだ。パート比率の上昇により、平均労働時間が 同一労働同一賃金、正規・非正規間の所得格差縮小は、 低下しているため、雇用者数はリーマン・ショック前を5% 賃金上昇に見合うよう企業に非正規労働者の能力開発を 近く上回るにもかかわらず、労働投入量では未だにリー 促すとともに、非正規労働者自らの能力開発意欲を引き マン・ショック前をとらえることができない。 出すことで、生産性向上につなげる一策だ。2017年度に こうした緩慢な伸びでも、 日本銀行の需給ギャップでみ は働き方改革が実行に移される見込みだが、皆が自分の れば、労働投入ギャップ (実際の労働投入量-平均的稼働 持つ力を伸ばし発揮することのできる社会の実現への一 率を基にした労働投入量) のマイナス幅は縮小し、2016 歩となるか、小手先の対応に留まり人手不足が顕在化す 年7-9月期においてはプラス (労働需要超過) に転化、需 るか、岐路に立っている。 第一生命経済研レポート 2017.02 4
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