10年後を見通した 水田農業確立へ

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10年後を見通した
水田農業確立へ
村木秀雄
北海道JAいわみざわ 代表理事組合長
将来を見据えた地域農業の振興、地域社会への貢献、組
織・運営の健全性などが評価され、平成27年度表彰農
業協同組合・特別優良表彰を受けました。
◆グループ化で営農指導を強化
マネギなどがあります。
――農業振興の取り組みについてお聞かせく
合併時の組合員戸数は2,700戸でしたが、
ださい。
今は1,200戸を切りました。今後10年もたつと
販売取扱高については、平成 5 年の合併し
800戸を下回る予測ですが、若い農業者を中
た年は大冷害で、次の年に200億円を超えた
心に経営面積は大きくなっており、単純計算
のをピークに、その後は米価の低迷や麦など
すると、将来800戸になると1戸当たり25haく
に対する助成金の支払い方法が変わったこと
らいの規模になります。すでに100ha を超え
もあり、現在は130億円前後で推移していま
る経営体も、8 戸あります。今のところ農地の
す。水田を中心に1万8,200ha の農地がありま
荒廃化は心配していません。
す。転作率58%で、米の作付けが減り、米の
将来、組合員が減ると、JAをどのように維
比率は下がっていますが、基本は転作の麦・
持するか。施設の集約や機構改革などを今か
大豆を組み合わせた水田農業です。ほかに昭
ら考える必要があると思っています。そのひと
和40年代から作付けが拡大した1,240ha のタ
つとして出向く営農という方針の中で、昨年
32人の営農指導員を新たに配置しました。
32人のうち、営農専門の職員は半分くらい
で、あとは新しい人を配置しました。経験者と
ペアを組んで指導し一人前に育てます。組織
的にも一本化することで、米と野菜の出荷時
期が重なる時期など、担当作目の部署だけで
なく、営農の5 部門が一緒に動けるようにしま
した。一種のグループ制です。指導方針は、
JAいわみざわ本所
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月刊 JA
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一定の生産レベルを下回る生産者を重点的に
むらき・ひでお
昭 和63年 岩 見 沢 市 農 協 理 事。 平
成 5 年 J A い わ み ざ わ 理 事、14
年専務理事を経て、20年代表理事
組合 長、26年 ホ ク レ ン 理 事 に 就
任、現在に至る。
撮影・JAいわみざわ総合企画室 川㟢祐樹
サポートし、平均のレベルに上げることです。
の米麦、それに野菜との複合経営でと考えて
もうひとつ、生産資材店舗を本所に集約し
いましたが、野菜は面積が増えると労力がか
ました。合併前の 6JAのまま、6 店舗ありま
かり、野菜への特化は難しいことが分かりま
したが、いずれも30分以内で行き来できる範
した。やはり規模が大きくなると、機械でこな
囲です。そこでおととし、資材センターとして
せる米麦など土地利用型の作付けが主流となっ
1か所にまとめました。批判もありましたが、
てしまいます。いま22の農業生産法人が頑
新しいセンターは繁忙期は無休で、朝 7 時か
張っていますが、将来を考えるとやはり法人
ら、午後 8 時まで営業しています。2 年たちま
化の方向が主体となっていくと考えています。
すが、統合に対する不満の声は聞かれません。
作付けは米が6,100ha、麦4,900ha、大豆
統合で得た1%は利用者に還元すると約束し、
1,900ha、それにタマネギとかナタネなどがあ
肥料、農薬の取扱高の1%を戻しています。
り、品目が多岐にわたっています。本来、水
田地帯なので米の価格が安定しないとやって
――農業者が半分以下になる中、どのような
いけません。面積が大きくなると、労働力の
地域農業の将来像を描いていますか。
面で麦、大豆と組み合わせがよく、また麦、大
当初は、1万8,000ha を 3 分割し、6,000ha
豆などには交付金があり、そちらにシフトして
ずつそれぞれ農業生産法人、大型の個人経営
いるのが現状です。ただ産地交付金が減額に
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JAトップインタビュー JAいわみざわ
「出向く営農」で活躍する営農指導員
職員資質向上のための研修会
なり、これからも米と麦・大豆でいいのか、難
をつくることが必要ですが、それとともに大切
しいところです。価格の上げ、下げの変動が
なことは、JAが地域で行っていることを准組
激しいと、作物ごとに大きな施設を抱えるJ
合員に知ってもらうことです。
Aとしては大変です。この点で、面積の大き
全中の優良農協の表彰で特別優良表彰を受
い北海道と府県の農業政策が同じでいいのか
けましたが、これを契機に昨年11月の1か月、
という疑問も感じるところです。
管内の小中学校の給食に新米を提供しました。
JAの役職員や組合員だけで受賞を祝うよりは、
◆米を中心に据えた取り組み
この喜びを地域で共有しようと考えてのこと
――農業者所得増大への取り組みは?
です。
北海道のJAグループは平成27年のJA北
海道大会で、具体的な数値を掲げ、農業者の
◆生産者による直まき・ICT 研究会
所得20%増大を決議しています。コスト削減
――担い手づくりを含めた、稲作の将来像を
もそのひとつであり、そして重要なのは全体
お聞かせください。
の底上げです。所得増というと6 次産業化な
いま道内では1,850ha の水稲直まきがありま
どに目が行きがちですが、現実には限られて
すが、うち430ha を当JAが占めています。若
います。いまよりも10kg でも20kg でも収量を
い農業者を中心に直まき研究会もあり、生産
上げ、平準化することが重要だと思います。
者自らが収量安定を目指して頑張っています。
また情報通信技術を応用した ICT 農業利活用
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――准組合員の比率が圧倒的に大きくなって
研究会もあり、先を見越した取り組みに積極
いますが……。
的な農業者が多い地域だと思っています。
JAいわみざわの組合員で見ると、実質的
JA青年部員は空知管内で13JA・約1,200
に 9 割は准組合員です。従って正組合員だけ
人で、うちJAいわみざわが200人います。組
で地域密着の事業運営はできません。いろい
合員数が減っている中で、しっかりした活動
ろな面で協力してもらっており、准組合員の
をしています。青年部で開く営農セミナーの
利用が規制されると、地域社会に大きな影響
受講態度を見ても、その真剣さが感じられま
が出ます。JAは、そうならないような仕組み
す。資材センター統合のときも、若い人が積
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学校給食への米の贈呈(左から村木組合長、松野岩見沢
市長、JAの引頭専務、遠藤常務)
極的に賛同してくれました。こうした若い人に
分野でも対応できるようになってほしい。職員
JAを利用してもらい、事業をつなげるのがわ
の能力を平均的にレベルアップすることを目
れわれの役割だと思っています。
標に、より多くの研修の機会をつくっていま
JAトップインタビュー JAいわみざわ
コスト削減の水稲直まき
す。そして、職員は、いろいろなJAの試みに
――今後、地域農業の振興に向け、どのよう
対して組合員がどう受け止めているかを、組
な指導をしていきますか。
合員の立場に立って考えてほしい。
なかなか先を見通すことが難しいときで
JA事業の利用率は大規模経営の組合員ほ
すが、職員や組合員には、環太平洋連携協定
ど低いのも事実です。誰のためのJAかとい
(TPP)や国の農業政策がどうなっても、どう
う意識づけをしっかりしていかないと、これか
したらこの地域の農業が成り立つかを常に頭
らJAはやっていけなくなります。青年部にも、
に入れて考えるようにと話しています。
これからは若いあなた方の時代だよと、機会
農地の集積は進んでいますが、農家は地域
あるごとに話しています。また、昨年から、役
に残ります。環境保全型農業直接支払交付金
員も職員と一緒に組合員訪問をしていますが、
事業などに参加して地域を守っています。住
職員の意識が変わりつつあります。
民が減って活動の維持が大変ですが、それが
いよいよできなくなったら、行政やJAが関与
せざるを得ないと考えています。地域・組合
員あってのJAです。荒廃地が出れば、JAが
やらなければならないというときが来ると思い
ます。
(写真は全てJAいわみざわ提供)
◎JAいわみざわの概況
平成5年、隣接する岩見沢市、岩見沢幌向・北海北村・空
知大富・三笠市の5JAが合併してJAいわみざわ誕生。
平成13年JAくりさわ町を加えて、現在に至る。
北海道
◆組合員の立場で考える職員に
――これからどのような職員を育てていこう
とお考えですか。
JAは総合事業を行っているので、ひとつ
の部署にずっといるわけではありません。どの
JAいわみざわ
▽組合員数
1万5,554人
(うち正組合員1,530人)
▽貯金残高
850億9,200万円
▽長期共済契約高
2,137億円
▽購買品供給高
123億3,600万円
▽販売品取扱高
128億2,600万円
▽職員数
235人(うち正職員228人)
(平成27年度末)
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