拡大する世帯収入格差にどう対処するか

リサーチ TODAY
2017 年 1 月 30 日
拡大する世帯収入格差にどう対処するか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
総務省の「全国消費実態調査」によると、二人以上の世帯の年間収入格差は拡大を続けている。また、
世帯主の年齢階級別にみると、おおむね年齢の上昇とともに格差が拡大している。みずほ総合研究所は、
世帯の年間収入格差に関するリポートを発表している1。現役世代の格差は中長期的に拡大しているが、
直近の調査では縮小している。高齢者世帯の格差は中長期的には縮小傾向にあり、所得再配分効果の
向上や、高齢無職世帯の割合の上昇等が要因とみられる。現在、政府が推進する働き方改革では格差問
題に関する政策も実施される見通しであるが、そこでは以上の格差の実情を反映した実効性のある改革推
進が期待される。下記の図表は、総務省の「全国消費実態調査」による、二人以上の世帯の年間収入格差
を示すものである。格差を示すジニ係数の上昇が続いている。
■図表:年間収入のジニ係数の推移(二人以上の世帯)
大
(ジニ係数)
0.32
0.308
0.31
0.311
0.314
0.301
0.297
0.30
格差
0.293
0.29
0.280
0.28
0.271
0.27
0.26
小
1979
84
89
94
99
2004
09
14 (年)
(資料)総務省「全国消費実態調査」(2014 年)よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は、世帯主の年齢階級別の年間収入のジニ係数を示している。世帯主の年齢が30~
39歳のジニ係数が最も低く、40歳代以降60歳代までは年齢とともにジニ係数が上昇している。一般的に、
収入格差は年齢の上昇とともに拡大する傾向がある。高齢化に伴い、高齢者世帯の割合が高まっているこ
とが全体の格差を拡大させる一因になっている。60歳代以上は、60歳定年を定める企業が多いなか、60歳
で退職して賃金がなくなる人がいる一方で、60歳以降も働き続ける人もおり、世帯主が60歳未満の世帯と
比較し賃金の有無による収入格差が拡大している。
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2017 年 1 月 30 日
■図表:世帯主の年齢階級別の年間収入のジニ係数(二人以上の世帯、2014年)
0.40
(ジニ係数)
0.339
0.35
0.314
0.305
0.284
0.30
0.249
0.25
0.227
0.223
30歳未満
30~39
0.20
平均
40~49
50~59
(世帯主の年齢階級)
60~69
70歳以上
(資料)総務省「全国消費実態調査」(2014 年)よりみずほ総合研究所作成
下記の図表は、世帯主60歳以上の年間収入のジニ係数の推移を示す。高齢者世帯の年間収入は、平
均と比較して格差が大きい傾向にあるが、この20年間でみると高齢者世帯の収入格差は縮小傾向を続け
ている。このように、高齢者世帯の年間収入格差が縮小している要因として、まず社会保障制度等による所
得再分配効果の向上が挙げられる。ここでは、年金等の現金給付のほか医療保険等の現物給付によるも
のも含まれる。また、高齢者世帯のうち無職世帯の割合が上昇していることも、高齢者の世代内の収入格
差の縮小に寄与している。従って、ここでは格差の縮小を必ずしも前向きと評価しにくい面もある。
安倍政権のもと、昨年9月に「働き方改革実現会議」が設置された。同会議では、同一労働同一賃金の
実現など非正規雇用の処遇改善、賃金の引き上げ、格差を固定化させない教育の在り方、高齢者の就業
促進など格差問題に関するテーマが幅広く議論されている。日本の潜在成長率が低い要因の一つに人口
要因があるため、働き方の改善によって潜在成長率引き上げの制約となる要因を改善する成長戦略の重
要性が一層増している。
■図表:平均と世帯主60歳以上の年間収入のジニ係数の推移(二人以上の世帯)
0.40
(ジニ係数)
1994年
1999年
2004年
2009年
2014年
0.35
0.30
0.383
0.356
0.25
0.308 0.311 0.314
0.297 0.301
0.336 0.336 0.327 0.339
0.347 0.343
世帯主60~69歳
世帯主70歳以上
0.310
0.305
0.20
平均
(注)1994 年~2004 年の世帯主 60~69 歳、70 歳以上のジニ係数は、世帯主の年齢階級、年間収入十分位階級別
1 世帯当たりの年間収入より、みずほ総合研究所が計算。
(資料)総務省「全国消費実態調査」(各年版)よりみずほ総合研究所作成
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堀江奈保子 「世帯の年間収入格差が拡大」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2017 年 1 月 11 日)
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