VDIトラブル“駆け込み寺”の メンバーがこっそり語る裏事情

失敗事例で学ぶ
ハマりどころと落とし穴
VDIトラブル
“駆け込み寺”
の
メンバーがこっそり語る裏事情
大規模VDIの導入は、
ユーザーから
「使いものにならない」
といった不満が出やすい。
問題は見積もりや設計にあるのか、
あるいは……。
プロがこっそり語る裏事情をレポート。
セキュリティの強化やディザスタリカバリー対応、ワークライフ
件が少なくないそうだが、基準が曖昧な状態で安価な提案を採用
バランスの改善などを目的に、仮想デスクトップインフラ(VDI)
しても失敗に終わる確率が高いという。
を導入する企業が増えている。だが、「導入成功事例」を参考に
同課長補佐 藤森 譲氏は「『快適に使えればいい』といった場合、
相見積もりを取って慎重に検討したにもかかわらず、スムーズに動
そもそも『快適』がどういう状態なのかを具体化することが重要
作せずイライラしたユーザーからのクレームが押し寄せた……と
です。VDI 導入前に、OS やアプリケーションの動作にどのくらい
いう残念な話を少なからず耳にする。
時間がかかるかを計測しておき、それを基準として参照すること
そんな状況に危機感を持つとあるコンサルティンググループが、
で、VDI 導入に効果があるのかないのか、副作用があるのかどう
某日都内某所で しらふでは語りにくい問題
かが分かります」と話す。
について本音を
語っていた。VDI 導入後に想定外の課題が持ち上がった際の「駆
さらに、VDI ならではの感覚値も考慮すべきだという。「例えば
け込み寺」になっているグループだ。
ログインの場合、進行状況の見える物理 PC とは異なり、VDI で
本稿では、当日語られた「同じ要件の VDI の見積もりで金額に
は準備が完了するまで何も状況が分からない状態で待たされるた
数倍の開きが出る裏事情」
「ストレージの IOPS にこだわるシステ
め、ユーザーからログインが遅いというクレームにつながりやすい
ムインテグレーター(SIer)に注意した方がいい理由」
「間違った
のです」(岡澤氏)
サイジングが横行する理由」などの詳細をレポートする。
SIer が現状分析を避けるのには
安いからといって飛び付くと危ない!
激安見積もり が生まれる理由
VDI 導入に際しては、仮想マシン(VM)の状況だけなく、そ
VDI 導入に際して企業がまず抱くのが
「ユーザー数などの要件・
の中のアプリケーションの使用状況も把握して設計する必要があ
条件が同じなのに、なぜ、SIer 各社の見積もりに数倍もの差が生
る。しかし、多くの SIer は事前のアセスメントに積極的とはいえ
じるか」という疑問だ。
ない状況があるようだ。
日商エレクトロニクス IT プラットフォーム事業本部 IT プラット
これには VDI 市場の価格競争の激化に加え、日本の IT 業界特
フォームビジネス推進部 第一課 岡澤陽平氏は、大きな理由の 1
有の事情がある、と木村氏は指摘する。
つに「SIer 側の思惑の違い」があると分析する。
「日本ではアセスメントがまだ認知されていません。それ自体の費
「この手の見積もりには 2 タイプあります。1 つは導入後のトラ
用が掛かる上に VDI に適合しない という結果になることもあり
ブルを避ける目的でスペックにかなりのマージンを取った高めの
得ます。そうなると、
SIer としては VDI の提案が非常に難しくなる
提案。もう 1 つは『とにかく受注する』ために、導入後の実用的
ため、アセスメントをせずに提案を進めがちです。しかし、これは
な稼働などを考慮せずに切り詰めた激安の提案です。これが、金
本当にお客さまのことを考えた提案とはいえません」
(木村氏)
額差が発生する大きな要因の 1 つです」(岡澤氏)
工数を掛けずに深い分析が行えるツールが存在しないことも大
加えて同課長の木村悦治氏は、導入企業側にも課題はあると述
きな理由だ。
べる。「VDI 導入に際して自社なりの基準がなければ、提案内容
企業規模が大きくなればなるほど、誰がどんなアプリケーション
を判断しようがありません。VDI 導入の前提として『普段、社員
をどんなパターンで利用しているか、同時にどれだけのユーザーが
がどんなアプリケーションをどんな風に使っているか』
『どのくらい
利用しているかを把握するのは難しく、時間がかかる。だが、手
データをため込み、どのくらいディスクを利用しているか』を把握
作業で労力をかけて分析するとなれば、それだけ見積もり額も高
していないケースが多い」と指摘する。
くなってしまう。失注を恐れるあまり、現状分析に目をつむるケー
「一般的な構成で」「同業他社と同じくらいで」という曖昧な要
スまであるそうだ。
ワケがある
都内某所の会合風景
「きちんと指標を取った上でどの程度のサイジングが必要かを
付かず、運用していたケース」(岡澤氏)もあるという。
証明できれば、提案に対する納得感が得られる。事前のアセスメ
「この時は、他にも不要なサービスが立ち上がっていた結果、ス
ントは海外では当たり前ですが、日本ではまだまだこれからです」
ワップ領域への書き込み頻度が高かったので、Liquidware Labs
(木村氏)
での調査結果を踏まえて最適化の提案をしました」(岡澤氏)
「IOPS が重要」とハコモノを
追加提案されるケースにご用心
オンラインゲームも「一般ユーザーの
リソース利用状況」を侮ることなかれ
VDI の動作を左右するのがストレージ性能、すなわち IOPS
計測してみると、導入企業の想定と現実に大きな隔たりがある
だ。VDI 導入後のレスポンス改善のため、安易に「IOPS 改善の
ことも多い。
ため、ハイエンドのストレージシステムを導入しましょう」と提案
「『事務担当者はライトユーザーだから、そんなにリソースはいら
してくる SIer は珍しくない。だが、IOPS の数字だけにとらわれ、
ない』という声をよく聞きます。実際の現場は、想定外の過酷な
アセスメントを行わないままでは、無駄な投資に終わってしまう恐
使い方をしているケースが多いのです。使うアプリを全て常駐させ
れがある。
て使っている場合は事務業務であっても負荷はヘビーになります」
「表面的には I/O 性能が問題と見えても別のところに真因が潜
(藤森氏)
んでいることが多いのです」(藤森氏)
他にも、想定外の問題が発覚したケースもある。
日商エレクトロニクスは、VDI のアセスメント、マイグレーショ
「あるユーザーがやたらとリソースを使っているので、調査してみ
ン、モニタリングをカバーするツールである「Liquidware Labs」
たらオンラインゲームで遊んでいた、という事件もありました。も
の国内総代理店だ。Liquidware Labs は、ゲスト OS の詳細を
し調査していなければ、状況が分からず、ゲームに使うリソースも
分析できるので、トラブルを抱えた VDI 導入企業が駆け込んでく
設計に組み込んでしまうところでした」(岡澤氏)
ることも少なくないという。
Liquidware Labs のツールでは誰がどんなアプリケーションを
例えば「ログインの時間がかかる」という問題は、Liquidware
利用しているかが一目瞭然となるため、リソースの最適化だけでな
Labs ならば、認証やポリシー適用でそれぞれ何秒かかっているかが
く、移行対象アプリケーションの選定やライセンス管理の最適化
確認できる。Windows の標準ツールでも手間を掛ければ収集可能
にも活用可能という。
だが、VDI のように多数のユーザーがいる環境では非現実的だ。
「よく見ていくと、
メモリ不足でスワップファイルへの書き込みが増
「とにかく導入する」よりも
VDI は、
えていたり、CPU の割り込み処理が増えてコンテキストスイッチが
「精度の高い現状把握」が今後につながる
多数発生していたりして膨大な I/O が発生して処理が遅くなってい
結局のところ、VDI 導入を検討する際に留意すべきポイントは
るケースもあります。確かにストレージを追加すれば表面的な問題
何だろうか。
は解消されますが、根本原因の解決ではありません」
(藤森氏)
木村氏は「一にも二にも現状把握」とあらためて強調する。と
アプリケーションの使い方や運用方法に原因があることも少な
はいえ予算などの都合上、安価なシステムで「見切り発車」的な
くない。中には、「自分たちで作った VDI のマスターイメージに、
導入を選択せざるを得ないケースもある。岡澤氏は、そうした事
デフラグのような不要なサービスを盛り込んでしまったことに気
情に理解を示した上で、それでも把握すべきだという。
Liquidware Labs 分析画面(図中のコメントは日商エレクトロニクスのアセスメント
チームが持つナレッジを基にしたアドバイス)
アプリケーション利用状況の分析例
「たとえそうなるにしても、導入後の環境をモニタリングし、そ
日商エレクトロニクスでは、今後も冷静なセカンドオピニオンを
の情報をもって拡張計画を立てていくことが重要です。
さもなけれ
提供する「医者の立場」で、Liquidware Labs のツールを「高
ば 安物買いの銭失い になりかねません。ネットワークなど他の
性能な MRI」のように活用しながら、VDI 導入と運用を成功に導
IT 投資に比べると、VDI は費用対効果が見えにくい。だからこそ、
く手助けをしていくという。
事前に性能値や目的を明確にすることが重要です」(岡澤氏)
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※この冊子は、TechTargetジャパン
(http://techtarget.itmedia.co.jp/)
およびキーマンズネット
(http://www.keyman.or.jp/)
に2014年9月に掲載されたコンテンツを再構成したものです。
http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1609/29/news03.html