小学生を対象とした「札幌雪学習/雪体験授業」の実施について 及川 公志*1 1.はじめに 2.2 札幌らしい特色ある学校教育の推進 札幌市では、地域力を活かした雪対策を進めるため、平成 また、札幌市教育委員会が実施している「札幌らしい 27年度から「冬みち地域連携事業」を立ち上げ、その主要な 特色ある学校教育」では、札幌市の全ての子どもが共通 取組として、小学生を対象に、「雪」を楽しんだり克服した して取り組む学習活動のテーマの1つに【雪】を掲げ、 りする活動を通して冬の暮らしに関心を持ち、除雪などに対 学習を実践する学校教育の指導展開例として、小学校の する意識が浸透することを目指す「札幌雪学習」の検討・実 「教育課程編成の手引」(平成27年2月改訂)【社会編】 施をしている。 において、大雪時でも生活に支障をきたさないために、 また、除雪に関する体験学習を通して、将来にわたって自 行政に「してもらう除雪」から、一人一人が自ら(或い ら積極的に除雪のマナー向上に努めたり、除雪ボランティア は周りの人たちと協力して一緒に)「する除雪」への意 等による地域貢献活動が行われることを目的とした「雪体験 識の転換を図る授業を掲載した。 このような背景のもと、札幌市建設局雪対策室では、 授業」を実施している。 市教育委員会と連携しながら授業展開することとし、各 2.「札幌雪学習」および「雪体験授業」実施の背景 小学校の協力を得ながら「札幌雪学習」および「雪体験 2.1 地域力を活かした雪対策の必要性 授業」を実施している。 市政世論調査では、毎年、除雪に関することが市政に 対する要望施策の第1位となっており、市民の除雪に対 3.札幌雪学習 する要望は依然として高い状況にある。その一方で、除 3.1 対象教科および学年 雪従事者の不足や、除雪機械・ダンプトラック等の確保の困 札幌雪学習は、小学校での雪に関する授業をすべて対象に 難化など、札幌市の除排雪を取り巻く環境は一層厳しさを増 したもので、各学校が授業に取り入れやすく、雪に関する学 しており、さらには、少子高齢化の進行により除雪に係る地 習の多い社会科や理科、生活科・総合的な学習の時間のみな 域の負担感が増加するなど、新たな課題が浮き彫りとなって らず、国語や外国語など、あらゆる教科、すべての学年を対 いる。 象に活用できる学習である。対象とする教科毎に求められる これらの課題の解決に向けては、行政の力だけでは限界が 目標を認識した上で、教科を専門とする市内小学校教諭を中 あり、これまで以上に地域力を活かした雪対策を進める必要 心にプロジェクトを設置して、既存のプログラムの内容を分 がある。 また、路上駐車や、敷地から道路への雪出しといった、 析し、関係機関と連携しながら学習メニューの構築を行う。 冬のルール・マナー違反に起因する除雪の作業効率の低 札幌雪学習のプログラム(現行の単元をベースとしたイメージ) 下や作業量の増加も問題となっており、町内会等との合 同パトロールやメディアを用いた啓発活動を実施してい るが、除雪事業者からは依然として作業の支障となって いる地域があるという意見が多数寄せられている。 社 会科 理科 生活科・総合的な学習の時間 国語 外国語 …… 1年 冬をたのしむ・雪や氷で遊ぶ 雪の観察 2年 3年 昔の雪の暮らし 4年 冬の暮らし・除雪 冬の行事に参加する 雪を調べる 冬の生き物 冬を表す言葉 雪の結晶 5年 雪について英語で紹介する 自然災害(雪害) 6年 図1 冬の天気 政治のしくみ 雪の随筆を書く 雪の Question 札 幌 雪 学 習 の 対 象 プ ロ グ ラ ム と 教 科 ・学 年 なお、除排雪事業を所管する市雪対策室にとって、除雪の 写 真1 冬 の ル ー ル ・ マ ナ ー 違 反 ( 路 上 駐 車 ・ 雪 出 し ) 体験学習のみではなく、「雪」全体の学習を対象とすること について、次のようなメリットがある。 *1 札幌市 建設局 土木部 雪対策室 事業課 ・児童にとって、除雪の学習のみを単発で行うと唐突感が 雪学習パッケージの制作に際しては、プロジェクトチーム 生まれて身に付きにくいことから、除雪を含めた雪全体 を中心とした公開による研究授業を小学校で実施する。この の学習の枠組を構築することで、除雪の学習についても 研究授業を踏まえて、学習指導案やツール等の修正作業を行 身に付きやすくなる。 い、パッケージを完成させていく。 ・小学校教諭にとって、除雪の学習を雪全体の学習の中に 含めることで、授業カリキュラムに取り入れやすくなる。 3.2 プロジェクトの設置 札幌雪学習の目的を達成するため、市雪対策室が事務局と なり、小学校教諭、市教育委員会職員、区土木部職員により プロジェクトチームを構成している。 プロジェクトチームにより検討会を実施し、学習パッケー ジの検討や制作を行うほか、研究授業の実践、ニューズレタ ーの発行などを行っている。 写真2 雪学習・研究授業の様子 プロジェクトチーム 事務局 ・市雪対策室,委託会社 【検討委員】 ・小学校教諭 ・市教育委員会職員 ・区土木部職員 ・教材開発 ・札幌雪学習の実施(授業実践) ・ニューズレターの検討 ・パッケージの検討 など ツールの作成にあたっては、雪学習の指導案と同様に、実 際にツールを活用する教諭を中心としたプロジェクトチーム で検討を実施する。また、各プログラムに対するツールの効 密な連携 ・会議運営/補助(日程調 整 、資料作成) ・ニューズレターの発行 ・パッケージの製作 ・研 究 授 業実 施の 支援 など 果や汎用性、修正や変更の容易性などを十分に考慮して検討 を行う。 表1 雪学習ツール(例) ツール 図2 札幌雪学習プロジェクトの体制 3.3 雪学習パッケージの制作 雪学習パッケージは、小学校教諭が雪に関する授業に活用 しやすいように、学習指導案、および指導案に沿った副読本 や写真素材などを含めたツール(教材)を作成し、一つの学 習パッケージとしてセット化したものである。 学習指導案 教員の授業の進め方について 記載した学習指導の計画書 ツール ●副読本/テキスト ●ワークシート + ●テスト用紙 ●写真素材、図表等 特 長 授業に役立つ資料や児童向けのテキスト等の情 Webページ 報の集約ができ、児童も教諭もツールを閲覧す ることができるため、授業でも活用可能。 児童の理解を深める上で効果的で、一般的なプ ワークシート リンターで印刷できるため、コストパフォーマ ンスにも優れている。 学習指導案に対応した副読本で、児童の理解を 副読本・テキス 深めるのに効果的。汎用的に用いることが可 ト 能。 教諭の負担を軽減するとともに、副読本やテキ 副読本指導書 ストの汎用化、教育レベルの均一化を図るとと もに、授業の普及にも繋がる。 授業後に、児童の授業に対する理解度を確認す テスト用紙 るために用いる。授業の復習にも繋がり、理解 の向上に役立つ。 学習指導案に対応した素材をインターネット上 写真素材 に整理することで、コストパフォーマンスの向 上とともに、汎用性を高めることができる。 学習指導案に対応した素材をインターネット上 動画素材 に整理することで、コストパフォーマンスの向 上とともに、汎用性を高めることができる。 3.4 雪学習パッケージの活用方法 雪学習パッケージの活用方法については、まず、札幌雪学 習プロジェクトで授業を検討し、研究授業等を経て制作した 雪学習パッケージをWebサイト(インターネットサイトの札 幌市ホームページまたは小学校ネットワーク内の教育支援シ 図3 雪学習パッケージの構成(例) ステム)にアップロードする。なお、権利関係等の事由で一 般公開できないツールについては、教育支援システムへの掲 4.雪体験授業 載を行う。 4.1 対象教科および学年 将来のまちづくりを担う子どもたちが札幌の雪対策や冬の 暮らしに関心を持ち、除雪に対する意識が浸透するよう、除 札幌雪学習 プロジェクト 制作した雪学習パッケージのアップロード Web サイト(札幌市 HP または 教 育 支 援 システム) 雪学習 パッケージ No.1 雪学習 パッケージ No.2 雪学習 パッケージ NO.3 雪学習 パッケージ NO.4 雪学習 パッケージ NO.5 雪に関する体験学習を小学校高学年を対象に実施している。 区土木部が主体となり、小学校毎に実施に向けた協議を行 いながら、社会科や総合的な学習の時間などの教科の中で各 種体験学習を行う。現在の教育課程編成の手引では、4年生 の社会科で除雪に関する授業カリキュラムが組み込まれてお り、この時間を利用して体験学習を実施するケースが多い。 各小学校教諭が授業に用 いる雪学習パッケージを選択、 ダウンロードし授業を実施 4.2 授業の構成 雪体験授業は、社会科あるいは総合的な学習の時間等を用 いて1校1回あたり2~3コマで実施する。最初の1コマ (例えば3時間目)で除雪に関する講義を行い除雪の基礎知 識を学んでもらい、次の1コマ(例えば4時間目)から体験 A 小 学校 B 小学校 C 小学校 手引を元に各小学校教諭が カリキュラムを検討 学習を行う。こうすることで、除雪の知識を得たうえで除雪 について自ら考え、行動することを身に付けてもらうよう授 業構成が練られている。 教育課程編成の手引 ①講義 図4 雪学習パッケージの活用の流れ (除雪の基礎知識) 【1 コマ】 ②除雪に関する 体験学習 【1~2 コマ】 各小学校では、教育課程編成の手引を元に授業カリキュラ ムを検討する際に、必要に応じて雪学習パッケージを選択・ 図6 1校あたりの雪体験授業の構成 採用し、Webサイトからダウンロードして授業を行う。 3.5 ニューズレター「雪学習NEWS」の発行 「雪学習NEWS」は、札幌市立小学校のすべての教諭を対 象に、札幌の冬についての話題や知識などの情報を届けてい るニューズレターであり、冬のシーズンを中心に、定期的に 作成・発行し、全教諭に配布している。 また、市(雪対策室)ホームページでも公開しており、教 諭と児童等とのコミュニケーションの一助となっているほか、 札幌雪学習の対外的な周知を図っている。 図5 ニューズレター「雪学習NEWS」 写 真3 雪 体 験 授 業 ( 上 : 講 義 、 下 : 体 験 学 習 ) の 様 子 4.3 体験学習メニュー この紙芝居によって、児童にとって雪体験授業の復習とな 雪体験授業においては、区土木部が独自に体験学習メニュ り、除雪に対する理解度の向上に役立てるとともに、児童を ーを構築し、それぞれの小学校が希望する授業内容や目的な 介した大人への情報提供やルール・マナー啓発にも繋がり、 どを考慮して実施するメニューを決定している。 将来だけでなく現在においても冬期道路環境の向上に寄与す るものと考えている。 表2 体験学習メニュー(例) 名 称 「砂入りペッ トボトル製作 体験」、「ペ ットボトル砂 詰め体験」 内容・目的など つるつる路面による転倒防 止として撒く砂をペットボ トルに詰めた「砂入りペッ トボトル」作りを行い、砂 撒き活動への意識を身につ ける。 「砂撒きボラ ンティア」、 「 砂撒 き体 験」 砂入りペットボトルや砂袋 を用いて、通学路等の歩道 上で滑りやすくなっている 箇 所に 砂を 撒くこ とに よ り、本人はもとより通行人 の安全に寄与する。 「 除雪 機械 (除雪車)試 乗体験」 除雪機械(除雪車)に試乗 し、車内からの見通しや死 角の確認を行い、除雪機械 に近寄ることの危険性につ いて学習するとともに、機 械操作の難しさを知る。 「スクールゾ ー ン( 通学 路)危険場所 マップ作成」 冬期の通学路において危険 (または安全)だと思う場 所を地図に記し、「危険場 所マップ」を作成すること により、通学時の安全への 意識の向上を図る。 「除雪の苦情 要 望対 応実 習」、「除雪 の電話説明体 験」 市 民役 (苦 情要望 を言 う 役)と職員役(それに対応 する役)に分かれ、模擬電 話を用いて会話をし、除雪 に係る苦情要望を把握する とともに、その対応策につ いて考える。 「ルール・マ ナー啓発ポス タ ー作 成体 験」 学習の様子 迷惑駐車や敷地内から道路 への雪出しといった除雪に 係るルール・マナー違反を 啓 発す るポ スター を作 成 し、それを店舗等の窓に掲 示するなど、ルールやマナ ーの防止に寄与する。 図7 紙芝居「おうち講座」の一部 5.おわりに 高齢者宅や消火栓・ごみステーション等の公共施設の除雪 ボランティア活動の普及、あるいは路上駐車や道路への雪出 し等といったルール・マナー違反の解消を図るには、1人1 人への周知や啓発だけではなく、社会全体を変えていくこと が必要であると考える。そのために、子どもの頃からの雪を 介した支え合いの精神の育みやマナー遵守の学習機会を創出 することは大変重要である。 すべての子どもに対するこの取組は、社会での効果の発現 には時間を要するが、将来の冬における住み良い街の形成や 豊かな暮らしの醸成に向けての言わば先行投資であり、確実 4.4 紙芝居「おうち講座」の配布 に地域に根差すためのプロセスであると考えている。 雪体験授業では、授業を実施した児童全員を対象に紙芝居 今後も長期的展望に立った学習施策として、教育関係機関 「おうち講座」を配布している。この紙芝居は、講義で学ん との連携を継続し、札幌らしい特色ある学校教育の推進に寄 だ除雪の内容(年間降雪量、除雪延長、除雪と排雪の違い、 与しながら、市民と行政とが協働で取り組む除排雪の拡充・ 除雪におけるルール・マナーなど)についてクイズなどを用 発展に努めていきたい。 いながら掲載しており、児童が自分の父母に対して読み聞か せることを目的に作成しているものである。
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