技術紹介 防災関連 流木災害対策の必要な森林を抽出する 手法の開発 航空レーザ測量成果を活用した流木災害対策手法の検討 環境部 青木 規 ・小 林 竜 大 はじめに 近年、流木を伴った土石流等の流下により、下流域に 本報告では、航空レーザ測量成果等を活用することに 甚大な被害を及ぼす「流木災害」が顕在化し、大きな問 よって、流木災害対策が必要な森林を抽出する手法を開 題となっています。集中豪雨の頻度増加や森林資源の量 発したので、その成果について紹介します。 的な充実に伴い、今後これまで以上に流木災害の発生リ スクが高まるおそれがあります。 調査・解析の方法 調査・解析の手順は、山腹及び渓流の流木発生危険箇 所を抽出し、危険箇所から発生する流木量を推定します。 ᒣ⭡䛾ὶᮌⓎ⏕༴ 㝤⟠ᡤ䛾ᢳฟ ὶ䛾ὶᮌⓎ⏕ ༴㝤⟠ᡤ䛾ᢳฟ 危険箇所の面積と流木量、保全対象の重要性を総合的に ὶᇦෆ䛾ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ䛾ᢳฟ 評価して、 流木災害対策が必要な流域を抽出します(図 1) 。 ① 山腹の流木発生危険箇所の抽出 ὶᮌ㔞䛾⟬ฟ 山腹の流木発生危険箇所は、地形的に山腹崩壊の危険 のある箇所と、森林の土砂崩壊防止機能の低い箇所を重 ಖᑐ㇟䛾 ⿕ᐖᐃ ね合わせることで、崩壊の危険度が高くかつ脆弱な森林 ὶᮌ⅏ᐖᑐ⟇䛾ᚲせ䛺ὶᇦ䛾㑅ᐃ からなる斜面を抽出します(図 2) 。山腹崩壊の危険のあ る箇所は、林野庁の山地災害危険地区調査要領に基づき、 図1 調査・解析のフロー 地形・地質、土層深、齢級を因子に判定を行います。森 林の土砂崩壊防止機能は、航空レーザ測量データの解析 及びオルソ写真判読により、森林の樹種、樹冠高、立木 密度、胸高直径、材積等の情報を推定し、森林の土砂崩 壊防止機能に大きく影響すると考えられている「樹種」 「立 木密度」 「胸高直径」を対象に、樹木根系の崩壊防止力に 関する研究成果をもとに評価点を設定し(表 1) 、各評価 点を乗ずることにより判定します。 表1 森林の土砂崩壊防止機能評価点 䚷ᶞ✀䠄㻼䠍䠅 ༊ศ 䚷❧ᮌᐦᗘ䠄㻼㻞㻕 Ⅼᩘ 㻭 䠄ཧ⪃ᶞ✀䠖䝇䜼䚸 㔪䞉ᗈኳ↛⏕ᯘ䠅 㔪ⴥᶞேᕤᯘ ⬚㧗┤ᚄ 㔪ⴥᶞேᕤᯘ௨እ 䠄䟛䠅 ᳃ᯘࡢᅵ◁ᔂቯ㜵Ṇᶵ⬟ ᳃ᯘ䛾ᅵ◁ᔂቯ 㜵Ṇᶵ⬟༊ศ Ⅼ㻼 㼍 䡚㻜㻚㻟 㻝㻞㻡䡚㻝㻟㻡 㼎 㻜㻚㻟䡚㻜㻚㻤 㻝㻜㻜䡚㻝㻞㻡 㼏 㻜㻚㻤䡚㻝㻚㻟 䡚㻝㻜㻜 㼐 㻝㻚㻟௨ୖ Ⅼᩘ 㻭 㻝㻟㻡௨ୖ 㻮 㻯 㻰 Ⰽ༊ศ Ⅼᩘ 㻠㻜㻜䡚㻢㻜㻜 㻜㻚㻡 㻜㻚㻡 㻝㻜䡚㻝㻡 㻜㻚㻞 㻢㻜㻜䡚㻤㻜㻜 㻜㻚㻤 㻜㻚㻤 㻝㻡䡚㻞㻜 㻜㻚㻡 㻝㻚㻢 㻮 䠄ཧ⪃ᶞ✀䠖䝠䝜䜻䚸 ᗈⴥᶞḟᯘ䠅 Ⅼᩘ ᮏᩘ 䠄ᮏ㻛㼔㼍䠅 䚷⬚㧗┤ᚄ䠄㻼㻟䠅 ᒣ⭡ᔂቯ༴㝤ᗘ ᒣ⭡ᔂቯ ༴㝤ᗘ༊ศ 㻤㻜㻜䡚㻝㻘㻢㻜㻜 㻝㻚㻜 㻝㻚㻜 㻞㻜䡚㻞㻡 㻝㻚㻜 㻝㻘㻢㻜㻜䡚㻝㻘㻤㻜㻜 㻜㻚㻣 㻝㻚㻜 㻞㻡䡚㻟㻜 㻝㻚㻥 㻝㻘㻤㻜㻜䡚㻞㻘㻜㻜㻜 㻜㻚㻠 㻝㻚㻜 㻟㻜䡚㻟㻡 㻟㻚㻜 㻟㻡䡚㻠㻜 㻠㻚㻠 㻝㻚㻞 㻯 㻜㻚㻤 䠄ཧ⪃ᶞ✀䠖䝬䝒㢮䠅 䈜᳃ᯘ䛾ᅵ◁ᔂቯ㜵Ṇᶵ⬟䠄㻼䠅 䠙ᶞ✀䠄㻼㻝䠅㽢❧ᮌᐦᗘ䠄㻼㻞䠅㽢⬚㧗┤ᚄ䠄㻼㻟䠅㻌 82 For the Future 2017 ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ 図2 山腹の流木発生危険箇所の抽出例 Ⰽ༊ศ ② 渓流の流木発生危険箇所の抽出 渓流の流木発生危険箇所は、航空レーザ測量データを もとに作成した 10m 等高線図から、渓流を抽出し、各渓 流ごとに土石流の流下幅を算出して、その範囲を渓流の 流木発生危険箇所として抽出します。 ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ ③ 流域内の流木発生危険箇所の抽出 山腹及び渓流の流木発生危険箇所を合わせたものが流 ὶᇦෆࡢὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ 域内の流木発生危険箇所となります(図 3)。 ὶᇦ⏺ ὶ䛾ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ ④ 流木量の算出 図3 流域内の流木発生危険箇所の抽出例 流木量の算出は、流域の最下流部を算定基準点として、 それより上流域を対象に「土石流・流木対策の手引き(林 ᒣ⭡䛾ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ㻌 野庁 ,2012)に示されている算定式を用いて算出します。 㼀䠄ὶᮌ㔞䠅䠙䡐䞉䠄㼀㻝䠇㼀㻞㻗㼀㻟䠅 ὶ䛾ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ㻌 㼀㻝䠖ᑐ㇟ὶ䛾␁ᯘ䛾❧ᮌ㔞䚸䜎䛯䛿ᗋ䞉ᓊ㏆䛻ሁ✚䛧䛶䛔䜛ಽᮌ䛾㔞 㼀㻞䠖᪂つᔂቯⓎ⏕䚸ᅵ▼ὶ䛾ᓊ㣗䛻క䛔Ⓨ⏕䛜ண 䛥䜜䜛ὶᮌ䛾㔞 ⟬ᐃᇶ‽Ⅼ㻌 㼀㻟䠖᪤ᔂቯᆅෆ䛾ಽᮌ䛾㔞 㸸ὶᮌⓎ⏕༴㝤⟠ᡤ 䡐䠖ὶฟ⋡䠄タ䛒䜚 㻜㻚㻡 ⛬ᗘ䚸タ䛺䛧 0.7 ⛬ᗘ䠅 図4 流木量算定範囲のイメージ図 算定範囲は、渓床に接する山腹の流木発生危険箇所及 (土石流・流木対策の手引きP12図2に加筆) び渓流の流木発生危険箇所とします(図 4)。 流木発生危険箇所の立木の材積は、航空レーザ測量で 得られる樹冠高データから算定します。高密度のレーザ 防災関連 データがある針葉樹林の場合は、樹頂点抽出解析(弊社 特許 4279894 号)により立木本数を算定し、単木ごと に立木材積の推定が可能です。それ以外の場合は、現地 プロット調査の材積量と樹冠高データから求めた総体積 から相関式を求め、総体積法と呼ばれている手法により 推定することが可能です。 図5 倒木量推定のイメージ図 山腹や渓床の倒木は、航空レーザ測量で得られる数値 標高モデル(DEM)と数値表層モデル(DSM)の差分 ⑤ 流木災害対策が必要な流域の選定 から算出される倒木群の容積と、現地調査で得られる倒 流木災害対策の必要な流域は、各流域の流木発生危険 木材積との比較から実材積率を算出し、流域全体の倒木 箇所面積率(%)及び流木量(m )と、被害想定範囲内 量を推定することが可能と考えられます(図 5)。 の保全対象の種類と数量から総合的に評価します。 3 おわりに 本内容は、林野庁森林整備部治山課より受託した「流 抽出する手法 手引書(案)」が作成されました。今後は、 域山地災害等対策調査(流木災害対策手法検討調査) 」委 手引書(案)に基づき、航空レーザ測量成果を活用した 託事業の一部を紹介したものです。この事業では、学識 広域の流木災害対策に対応していきたいと考えています。 経験者の助言を得ながら「流木災害対策の必要な森林を 83 For the Future 2017
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