FF2017 流木災害対策の必要な森林を抽出する手法の開発

技術紹介 防災関連
流木災害対策の必要な森林を抽出する
手法の開発
航空レーザ測量成果を活用した流木災害対策手法の検討
環境部
青木 規 ・小 林 竜 大
はじめに
近年、流木を伴った土石流等の流下により、下流域に
本報告では、航空レーザ測量成果等を活用することに
甚大な被害を及ぼす「流木災害」が顕在化し、大きな問
よって、流木災害対策が必要な森林を抽出する手法を開
題となっています。集中豪雨の頻度増加や森林資源の量
発したので、その成果について紹介します。
的な充実に伴い、今後これまで以上に流木災害の発生リ
スクが高まるおそれがあります。
調査・解析の方法
調査・解析の手順は、山腹及び渓流の流木発生危険箇
所を抽出し、危険箇所から発生する流木量を推定します。
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危険箇所の面積と流木量、保全対象の重要性を総合的に
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評価して、
流木災害対策が必要な流域を抽出します(図 1)
。
① 山腹の流木発生危険箇所の抽出
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山腹の流木発生危険箇所は、地形的に山腹崩壊の危険
のある箇所と、森林の土砂崩壊防止機能の低い箇所を重
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ね合わせることで、崩壊の危険度が高くかつ脆弱な森林
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からなる斜面を抽出します(図 2)
。山腹崩壊の危険のあ
る箇所は、林野庁の山地災害危険地区調査要領に基づき、
図1 調査・解析のフロー
地形・地質、土層深、齢級を因子に判定を行います。森
林の土砂崩壊防止機能は、航空レーザ測量データの解析
及びオルソ写真判読により、森林の樹種、樹冠高、立木
密度、胸高直径、材積等の情報を推定し、森林の土砂崩
壊防止機能に大きく影響すると考えられている「樹種」
「立
木密度」
「胸高直径」を対象に、樹木根系の崩壊防止力に
関する研究成果をもとに評価点を設定し(表 1)
、各評価
点を乗ずることにより判定します。
表1 森林の土砂崩壊防止機能評価点
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For the Future 2017
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図2 山腹の流木発生危険箇所の抽出例
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② 渓流の流木発生危険箇所の抽出
渓流の流木発生危険箇所は、航空レーザ測量データを
もとに作成した 10m 等高線図から、渓流を抽出し、各渓
流ごとに土石流の流下幅を算出して、その範囲を渓流の
流木発生危険箇所として抽出します。
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③ 流域内の流木発生危険箇所の抽出
山腹及び渓流の流木発生危険箇所を合わせたものが流
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域内の流木発生危険箇所となります(図 3)。
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④ 流木量の算出
図3 流域内の流木発生危険箇所の抽出例
流木量の算出は、流域の最下流部を算定基準点として、
それより上流域を対象に「土石流・流木対策の手引き(林
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野庁 ,2012)に示されている算定式を用いて算出します。
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図4 流木量算定範囲のイメージ図
算定範囲は、渓床に接する山腹の流木発生危険箇所及
(土石流・流木対策の手引きP12図2に加筆)
び渓流の流木発生危険箇所とします(図 4)。
流木発生危険箇所の立木の材積は、航空レーザ測量で
得られる樹冠高データから算定します。高密度のレーザ
防災関連
データがある針葉樹林の場合は、樹頂点抽出解析(弊社
特許 4279894 号)により立木本数を算定し、単木ごと
に立木材積の推定が可能です。それ以外の場合は、現地
プロット調査の材積量と樹冠高データから求めた総体積
から相関式を求め、総体積法と呼ばれている手法により
推定することが可能です。
図5 倒木量推定のイメージ図
山腹や渓床の倒木は、航空レーザ測量で得られる数値
標高モデル(DEM)と数値表層モデル(DSM)の差分
⑤ 流木災害対策が必要な流域の選定
から算出される倒木群の容積と、現地調査で得られる倒
流木災害対策の必要な流域は、各流域の流木発生危険
木材積との比較から実材積率を算出し、流域全体の倒木
箇所面積率(%)及び流木量(m )と、被害想定範囲内
量を推定することが可能と考えられます(図 5)。
の保全対象の種類と数量から総合的に評価します。
3
おわりに
本内容は、林野庁森林整備部治山課より受託した「流
抽出する手法 手引書(案)」が作成されました。今後は、
域山地災害等対策調査(流木災害対策手法検討調査)
」委
手引書(案)に基づき、航空レーザ測量成果を活用した
託事業の一部を紹介したものです。この事業では、学識
広域の流木災害対策に対応していきたいと考えています。
経験者の助言を得ながら「流木災害対策の必要な森林を
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For the Future 2017