チャイナ・プラス・ワンは現実的か、中国の存在は

リサーチ TODAY
2017 年 1 月 23 日
チャイナ・プラス・ワンは現実的か、中国の存在は大きい
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
下記の図表は、中国の対内直接投資の推移を示す。日本の中国への直接投資はトップの座にあったが、
日本と中国の政治的緊張関係が高まったことで、急速に直接投資額が減少し2015年には第3位にまで低
下した。日本企業は引き続き海外直接投資をビジネスモデルに掲げるなか、中国以外の国々への進出も
含めた「チャイナ・プラス・ワン」の戦略が指摘されることが多かった。中国の代替的候補地としてはアジア諸
国、なかでも東南アジアの重要性が指摘されてきた。当社でも、こうした日本企業の動きをアンケート調査
等を含めて議論してきた。「チャイナ・プラス・ワン」議論の背景には、日本人の中国に対する根強い不信感
があり、さらに中国の代替となる存在を重視したいとの意識も色濃くあるように思われる。ただし、本稿では、
中国を好む好まざるにかかわらず、「チャイナ・プラス・ワン」の戦略はそう容易ではないこと、少なくとも中国
を市場としてとらえた場合に無視することが不可能な点を議論する。
■図表:中国の対内直接投資の推移
8,000
(100万ドル)
日本
シンガポール
米国
7,000
6,000
(100万ドル)
韓国
ドイツ
160,000
140,000
対内直接投資計
(右目盛)
120,000
5,000
100,000
4,000
80,000
3,000
60,000
2,000
40,000
1,000
20,000
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
0
(年)
(資料)中国商務部よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表は中国の名目GDPの推移である。ここで注目すべき点は、2010年から2015年までの6
年間の平均で毎年1兆ドルの増加があることだ。2016年には中国経済の調整が生じたこともあり、増加幅は
2010年代以降では最も小さい0.2兆ドルに止まると予想される。ただし、それまでの増加ペースが毎年1兆
ドルであったことは脅威的だ。
1
リサーチTODAY
2017 年 1 月 23 日
■図表:中国の名目GDP(ドル建て)
12
(兆ドル)
(%)
成長率(名目ドルベース、右目盛)
0.2
0.6
0.9
増
加
幅
1.1
10
1.5
8
6
25
名目GDP(ドル建て)
1.0
30
0.9
4
2
20
15
10
5
0
0
2010
11
12
13
14
15
16
(年)
(資料)IMF よりみずほ総合研究所作成
ここで、毎年1兆ドルがどの程度の規模感であることを下記の図表で考えてみたい。1兆ドルとは、東南ア
ジアで最も大きな経済規模を持つインドネシア1国分の名目GDPを上回るということだ。すなわち、2010年
代以降、毎年、東南アジアの最大国クラスの規模が中国のなかで生じていると考えられる。昨年のような例
外的な年でさえもベトナム1国分が生まれたに等しい経済規模の拡大が見られた。こうした規模感を認識す
れば、中国を代替する「チャイナ・プラス・ワン」の戦略、ましてや中国を抜きにする「チャイナフリー」は現実
的でないことがわかる。もちろん、サプライチェーンを含め中国一辺倒からの代替策を考える必要はある。
従って、東南アジア地域への進出の重要性に変わりはないが、中国を抜きにしたビジネスが成り立ちにくい
現実も改めて認識する必要がある。今後、どう中国と向き合うかは日本にとって永遠の課題である。
■図表:名目GDP(2015年)
20
(兆ドル)
18.0
【上位10カ国】
【主な新興国】
15
11.2
10
4.1 3.4
5
1.4 1.3 1.2 0.9 0.7
0.5 0.4 0.3 0.3 0.3 0.3 0.3 0.2
ベトナム
フィリピン
シンガポール
マレーシア
香港
南アフリカ
タイ
台湾
トルコ
インドネシア
オーストラリア
ロシア
韓国
カナダ
ブラジル
イタリア
インド
フランス
英国
ドイツ
日本
中国
米国
0
2.9 2.4
2.1 1.8 1.8 1.6
(資料)IMF"World Economic Outlook Database October 2016 "よりみずほ総合研究所作成
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
2