シンボルの転換 - 地域拠点としての清掃工場 -

法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol.5(2016 年 3 月) 法政大学
シンボルの転換
- 地域拠点としての清掃工場 CONVERSION OF SYMBOL
- INCINERATION PLANT AS A SYMBOL OF NEIGHBORHOOD 白山詢也
Junya SHIROYAMA
主査 渡邊眞理 副査 岡本哲志・赤松佳珠子 法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
An incineration plant is a type of architecture which is need in a city.But because of the massive, and
unsanitary image, it is avoided as a “Minus Symbol”.Recently, due to technological innovation, the
incineration plant was proved that it has a possibility as an energy facility.I will reinvent the incineration
plant, and propose a small one which is not massive nor closed, and by staying close to the city
and people, it will become a “Symbol of the neighborhood” .
Key Words : waste to energy, incineration plant
0.序章
1.研究
高度成長期以降、物が溢れ、大量に消費し大量に棄
ててゆく都市において、ごみの処理を一手に担う清掃
工場は欠かす事の出来ない建築である。しかしその役
割とは裏腹に、 その圧倒的な巨大さ、 閉鎖的な風貌、
そして不衛生な施設であるという先入観から、都市に
生きる人々から忌避され「負のシンボル」として認識
されている。 そうした境遇を持つ清掃工場であるが、
昨今、ごみの焼却から生じる熱量を回収する技術に注
目 が 及 び、 都 心 域 に お け る エ ネ ル ギ ー 生 成 施 設 と し
て、その社会的価値を大きく変えようとしている。私
は清掃工場が持つその潜在力に着目し、縮小しゆく未
来の社会に向け、より都市に調和する形態を持ち、よ
東京都23区を事例に、都心域における清掃工場の
り人々の生活に寄り添う様な清掃工場を提案したいと
実態を研究する。清掃工場の分布と規模を示した物で
考えた。小さく、そして生み出すエネルギーを地域の
あるが、各区毎に1つの清掃工場が分布していること
活力とする姿を描き、「負」 から「地域」 へのシンボ
がわかる。ここへ収集車が区全体の一般廃棄物を運ん
ルの転換を図りたい。
で焼却処理が施され、燃え残った灰は更に専用の収集
車によって湾岸の埋立場へ輸送される。
次に清掃工場の動向を探るため、23区の人口推移
2.計画
と捨てられたごみの総量をグラフで比較した。人口に
ついて、縮小する社会においても東京への人口流入は
減らず、総人口は増加していたが、これから緩やかに
減っていく事がわかった。そして一般廃棄物の総量は
リサイクルや中古品などの再資源化・減量化の意識の
高まりに伴い減少に推移している事がわかった。
しかし人口と廃棄物量の減少傾向に反して、清掃工場
〈計画コンセプト〉
は巨大化の一途を辿っていた。この要因として、主に
「小さな清掃工場 / 地域エネルギー拠点」
以下の3つが挙げられる。第一に収集車の高性能化に
本計画における清掃工場は既存よりはるかに小型化し
よ り、 広 範 囲 に わ た る 大 規 模 な 収 集 計 画 が 一 般 的 に
た小さな清掃工場として提案する。都市景に調和する
なったこと。第二に環境問題を背景に、排ガス浄化機
スケールを持ち、人々の生活に近しい建築を目指す。
器などの要求される設備が増えたこと。最後にエネル
ギー生成施設としての機運の高まりにより、より多く
さらに生成したエネル
のごみを集めより多くを生成する事が施設計画の軸に
ギーを地域の活力として
あること、である。
用いる事も考えていく。
その手法として、敷地
となる地域を分析し、そ
の場所に適した公共的な
プログラムを小さな清掃
工 場 に 付 随 さ せ る 事 で、
「エネルギーを軸に地域
東京都23区の人口推移グラフ
と繋がる建築」を目指
す。
年間一般廃棄物量の推移グラフ
〈敷地〉
研究を経て、清掃工場の巨大化に批評的な目線を持
つべきだと考えた。縮小する社会とエネルギー施設と
しての潜在力とを重ね合わせた時、清掃工場にはより
適切なスケールと都市に対する振る舞い方があるので
はないだろうか。特にエネルギーの重要性は、東日本
大震災などを経て、都市に生きる人々に深く刻まれて
いる。都市にありふれたごみをもとに恒常的にエネル
ギーを生成し続けられる清掃工場は、災害拠点として
も考えられつつある。だからこそ清掃工場という建築
は、これからの社会において、絶対的な「負」の象徴
ではなく都市と人々に近い象徴として受け入れられる
べきである。
敷地は23区から葛飾区を選定した。
葛 飾 区 で は 葛 飾 清 掃 工 場 が 区 全 域 の ご み (500t/ 日 )
の処理を一手に担っている。この葛飾清掃工場も、
周囲の建築物とは逸脱したスケールを持つ事が写真や
下図から読み取れる。
「小さな清掃工場 / 地域エネルギー拠点」ダイアグラム
〈都市に点在する清掃工場へ〉
葛飾清掃工場がもつ焼却炉の能力が 500t/ 日に対し
て、 仮 設 型 の 焼 却 炉 は 50t/ 日 で あ る。 よ っ て 本 計 画
に お い て は 10 基 の 小 さ な 清 掃 工 場 を 区 内 に 点 在 さ せ
る事とする。
敷地の選定
公共建築の抽出
〈清掃工場の小型化〉
清 掃 工 場 は、 そ の 大 半 が 焼 却 炉 な ど の 設 備 機 械 に
よって構成されており、周囲の壁面はそれらを覆う箱
10 の地域に分ける
に過ぎない。よって建築の大きさは設備機械の大きさ
に 深 く 由 来 す る。 本 提 案 に お け る 清 掃 工 場 の 小 型 化
は、仮設用の小さな焼却炉を用いる事で実現させる。
その他の主要な道路
幹線道路
河川
葛飾区
仮設型の小さな焼却炉
この仮設用の焼却炉は1日に 50t のごみを燃やすこ
とができ、更に排ガス浄化装置なども付随して稼働さ
〈点在化のプロセス〉
せる事が可能であるため、都市域での運用も可能であ
清掃工場は収集車の良好な運用が要である。よって
ると考えられる。また一般的な単位ごみ量あたりのエ
それぞれの敷地は交通のし易い道路に面している事が
ネルギー生成量が記された資料から、この仮設用焼却
望ましい。敷地選定のプロセスとして、始めに区内の
炉 を 用 い た 小 さ な 清 掃 工 場 は、 一 日 に 約 1200kwh( 一
主 要 な 道 路 交 通 網 を 抽 出 し た の ち、 区 を 10 カ 所 の 地
般家庭の 1 日の消費電力は 10kwh 前後 ) のエネルギー
域へ区分する。更に公共施設など周辺環境を分析して
を生成する事が可能である。
敷地とプログラムが決定される。
児童館
収集車プラットホーム
仮設焼却炉
清掃局管理オフィス
都市公園
3.設計
4.終章
〈ケーススタディ - 児童館+小さな清掃工場 -〉
〈謝辞〉
10 基 の 小 さ な 清 掃 工 場 の う ち、 ケ ー ス ス タ デ ィ と
修士設計を制作するにあたり、多くの方々に協力し
して児童館と一体化した提案を示す。敷地は葛飾区新
て頂き完成させる事が出来ました。
宿地区にある児童図書館跡地を選定した。プログラム
この場を借りて深く感謝申し上げます。
の児童館は、旧図書館の6万部の児童図書を有効利用
特に設計指導の飯田善彦先生からは熱心なご指導を
する事と周辺に児童のための空間が少ない事から設定
賜り、研究室指導の渡邊眞理教授には本設計以外でも
した。建築の構成として、下層中層高層の三層構成に
様々な活動を通して多くを学ばせて頂きました。
なっており、それぞれ、下層は都市公園・収集車の車
また副査の、岡本哲志教授、赤松佳珠子教授からも
道・駐車場、中層に清掃工場を管理するオフィス、
お忙しい中で貴重な時間を頂いてご指導して頂けた事
高 層 に 児 童 館 を 配 置 し て い る。 こ の 三 層 構 成 に よ っ
を心から感謝しています。
て、焼却炉と児童館がそれぞれ独立して建替えを行う
本当に有り難うございました。
事ができ、設備更新や要求の変化へ応じ易くなってい
る。エネルギーは児童館や都市公園の熱源の他、隣接
する中学校へ供給される。地上レベルや児童館の随所
から中心の焼却炉が垣間見え、そこに人が集い、地域
的な活性が生まれる。そうして清掃工場は負のシンボ
ルから地域のシンボルへと転換する。
〈参考文献〉
1) 東京二十三区清掃一部事務組合:平成 26 年度 清掃工場等作業年報
2) 環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課循環型社会推進室:
日本の廃棄物処理・リサイクル技術 −持続可能な社会に向けて− . 日本環境衛生センター .2013
3) 環境省 大臣官房廃棄物・リサイクル対策部企画課循環型社会推進室:
日本の廃棄物処理の歴史と現状 .2014
4) 藤吉秀昭:エネルギー拠点としてのごみ処理施設の展望 .2013
5) 鈴木良典:廃棄物発電の現状と課題 .2014
6) 桐谷 維:東京都ごみ問題の現状と展望 . 総合都市研究第 53 号 .1994
7) 東京都23区清掃一部事務組合 HP .http://www.union.tokyo23-seisou.lg.jp/kojo/
8) 中和機構株式会社 HP .http://www.chuwastar.co.jp/tub800.htm
9) 東京都環境局 HP .http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/
10)Google マップ https://www.google.co.jp/maps/