『攻めの経営』への転身とプロフェッショナル人材による新た

『攻めの経営』への転身とプロフェッショナル人材による新たな価値の創造
~内閣府「プロフェッショナル人材事業」における事例から~
みずほ情報総研 社会政策コンサルティング部 チーフコンサルタント 田中 文隆
地域企業にとっての人手不足は
若者からみれば「魅力」不足の側面も
田中チーフコンサルタント
営者からの注目を集めている企業がある。
中国地方にある液晶パネルの製造会社は、
リーマン・ショックの
我が国では、若年層を中心に、地
影響を受け、
当時売上の約8割を占めていた大口企業との外注ビ
方圏から1都3県への転入者が転出
ジネスがゼロになってしまう危機に直面した。
これをきっかけに、同
者を20年連続で上回るなど大都市
社は下請け構造から脱却して自社製品の製造・販売に挑戦するこ
圏への人口流入が続いている
(総務
とを決意し、蓄積してきた技術をもとに高級スピーカーの開発に乗
省「住民基本台帳人口移動報告」
り出した。
平成27年
(2015年)
)
。
これは、地方
不得手であったマーケティングや販路開拓については、大手電
における単なる人口減少問題だけで
機メーカーで国内営業部の役員をしていた50代後半の人材を営
なく、地域経済を牽引する地域企業
業部長として招くなど、経営の大きな舵を切った。同社の商品は、
の成長のための担い手不足という面
当該プロフェッショナル人材の経験や人脈が奏功し、
大手量販店
でも問題となる。地方圏では多くの中小企業が地域経済を支えて
での販売が決まるなどビジネスチャンスを拡げている。
いるが、300人未満の企業の大卒求人倍率をみると4倍を超えて
経験豊かなプロフェッショナル人材が同社を選んだのは、大手
おり、人材不足が顕著となっている
(リクルートワークス研究所「第
のメーカーでは味わうことができない商品開発の企画から携わるこ
33回 ワークス大卒求人倍率調査
(2017年卒)
」)
。
とに魅力を感じたからだという。
その後、同社では新卒者等の獲得
一方、企業規模はさらに小さくなるが30人未満の事業所では、
も順調に進んでいる。経営者自らが「攻めの経営への転換」
を発
せっかく就職しても大卒者が2年以内に4割程度離職している現
信、取り組むべきミッションをクリアにすることで優秀な人材を獲得
状がある
(厚生労働省「新規学卒者の事業所規模別・産業別離
し、
魅力的な事業
(しごと)
が若者を呼び寄せたといえるだろう。
職状況」)
。地域企業にとっての人手不足は、若者からみれば、地
なお、当社が経済産業省から受託した
「平成27年度労働移動
方に魅力的な職場や「しごと」
が不足しているという評価ともいえる
の実態等に関する調査」によると、東京圏
(1都3県)
から地方圏
だろう。
への転職者の3割が「縁もゆかりもない地域」
に転職したと回答し
ており、
仕事内容や業務ミッション等を重視した転職を行った実態
「攻めの経営」への転換を決断
都市部からプロフェッショナル人材を登用
が垣間見える。
たとえ、縁やゆかりがなくても地方圏へ移動する転
職者が一定割合いることは、
プロフェッショナルのような人材を確
一方で、
このような地域のしごとに関わる問題に対して
「攻めの
保する場合は、
採用戦略を練るうえでも重要なポイントとなるであろ
経営」への転換を決断、実行して若者の注目、
ひいては地域の経
う。
図表1. 内閣府「プロフェッショナル人材事業」成約事例
(海外展開関連)
業種
経営課題・ミッション
採用ポスト
プロ人材
製造業
生産拠点拡充のため、中国拠点を早期に軌道に乗せる 海外事業部 中国での駐在経験が長く、経理・会計畑の経
必要あり
次長
験のある50代
製造業
世界的に評価が高い製造技術を生かした海外展開を計
管理職候補 商品開発業務の経験、英語力を有した50代
画
製造業
主力商品(食品)
は全国的な有名ブランドであるが、第
課長相当
二の商品の柱を作り、新ブランドの育成、強化が急務
(出所)
プロフェッショナル人材戦略全国事務局
(内閣府よりみずほ情報総研受託)
調べ
14 mizuho global news | 2017 JAN&FEB vol.89
販路開拓の企画管理業務、海外事業の立ち
上げ業務の経験がある40代
内閣府「プロフェッショナ
ル人材事業」始動
400件に上るマッチング
が成立
このような
「ひと」
と
「しごと」の好
循環をつくるために、地方では新た
な挑戦が始まっている。政府の地方
創生の主要施策である
「プロフェッ
ショナル 人 材 事 業 」
図表2. 内閣府「プロフェッショナル人材事業」の全体像
では、全国46道府県
地域の中堅・中小企業
民間人材マーケット
にプロフェッショナル
プロフェッショナル人
従来事業
からの脱却
(気づき)
新事業開発
新販路開拓等
(攻めの経営)
戦略実現を狙う
プロ人材ニーズの
掘り起こし
人材ニーズ
されている
( 詳 細は、
人材ニーズ
人材戦略拠点が設置
マッチング
求職者
材 戦 略ポータルサイ
ト http://www.projinzai.go.jp/を参照)
。
当社では、平成27年
・経営者の気づきを促進
・市場を活用しマッチング
・人材ニーズの掘り起こし
・その後もフォローアップ
プロフェッショナル人材戦略拠点
度よりプロフェッショナ
ル人材事業の全国事
プロフェッショナル人材戦略マネージャー
連携
務局運営事業を内閣
●地域金融機関と連携し、
「攻めの経営」
への転換促進
府より受託している。
●プロ人材ニーズの掘り起こし、
その採用をサポート
各拠点では、
そのマ
ネジャーを中心として
連携
●関係者との連携・サポートをコーディネート
金融機関
民間人材ビジネス事業者
地域の中堅・中小企
業に対して
「攻めの経
連携
連携
営」への転身を働きか
日本人材機構
けるとともに、民間の
人材ビジネス事 業 者
等を通じて「攻めの経
(出所)
内閣府プロフェッショナル人材戦略ポータルサイト http://www.pro-jinzai.go.jp/
営」に目覚めた地域企業と、
それを実践するプロフェッショナル人
含め、
出向
(人材交流)
という形態でも地方企業での活躍ステージ
材のマッチングを促進している。2016年度が事業の本格開始と
は広がるだろう。前述の内閣府「プロフェッショナル人材事業」
で
なるが、地域企業の潜在的な人材ニーズの掘り起こしが進み、
す
は、
さらなる打ち手として、
地域企業の求めを起点とすることを条件
でに400件に上る地域企業とプロフェッショナル人材のマッチング
として、
都市部大企業等と連携した人材交流
(出向・研修)
施策も
(転職)
が成立している。生産性向上人材や海外展開を牽引す
新たに開始している。2016年11月時点ですでに8社とパートナー
る販路開拓人材、
管理業務体制の強化を行う経営管理人材、
新
シップを結んでおり、
役職定年前後の人材や中堅の経験蓄積、
親
規事業開発を行う事業分野拡張人材など多岐にわたるミッション
の介護等支援などの多様な活用例が期待されている。
で成約が見られている。
これらの実現のためには、企業と人材の双方のニーズを明確
化し、共有されることが重要である。今後は、双方をつなぎ、新たな
大企業人材の兼業・副業によるタレント活用も
視野に
マッチング・プレイスを提供する人材ビジネス等のプラットフォーム
プロフェッショナル人材の地域還流は多様な形態で実現され
地域還流は緒に就いたばかりであるが、地域企業の経営革新、
さ
る。
ロート製薬の「社外チャレンジワーク制度」
など大手メーカーを
らには地方創生へのインパクトは大きいといえるだろう。
サービスの進展も望まれるところである。
プロフェッショナル人材の
中心に兼業・副業等を認める動きがあるように、
場所に関係なく東
京でも地方でも、
その経験とスキルは活用されるようになるはずだ。
田中 文隆 プロフィール
国も
「働き方改革実現会議」
において、
兼業・副業をアジェンダとし
早稲田大学政治経済学部卒業、大手銀行勤務後、早稲田大学大学
院アジア太平洋研究科修士課程修了。2001年、みずほ情報総研
(当
時:富士総合研究所)
に入社。2004~2005年、厚生労働省政策統括
官付労働政策担当参事官室に出向
(労働経済白書執筆に従事)
。地
域雇用創出政策、産業人材政策、多様な働き方に関する政策等の官
公庁関連の受託調査研究業務に多数従事。
て設定して、経済産業省を中心として実態調査を行うほか、普及
策や労働時間管理等の指針について議論を深める動きをみせて
いる。
また、前述の経営幹部のようなケースにとどまらず、中堅人材も
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