特 集 将来へチャレンジする推進工法技術 解 説 技術開発で成長・発展する 推進工法技術 い し づ か 石塚 せ ん じ 千司 ㈱福田組技術企画部参与 (シールド・推進担当) 1 二十数年前に社内でシールド・推進工事に携わっ はじめに ていた社員による勉強会があり、技術開発に関する 昭 和 23 年(1948)5 月 に 日 本 で 初 め て 内 径 テーマを模索したことがありました。その際に出たテー 600mm、延長 6m の鋳鉄管をさや管とした推進工事 マが表−1です。この中に現在、実現しているものも が行われてから、69 年目になります。その後、昭和 多数ありますが、少し悔しいのは、支圧壁のプレキャ 50 年代に入り様々な推進工法協会が設立され、本格 スト化です。今では総合評価のアイテムとして度々採 的な推進工法の普及活動に入りました。 用させていただいております。秩父コンクリート工業さ 私の入社も昭和 50 年 4 月であり、シールド工事や んありがとうございます。 推進工事にかかわることになりました。最初は現場勤 務から始まり、その後間接部門に移り、現場支援や 技術開発に携わってきました。幸か不幸か一貫して 現状の課題 非開削工事に関する業務です。この間に夢物語と思 都市部におけるインフラ整備もかなり充実してきた われた技術も、現在実用化されているものも多数あり 近年では、非開削工法による工事も減少の傾向にあ ます。「技術の進歩は恐るべし」です。 ります。反面、より厳しい施工環境のもとでの工事が 表−1 開発テーマ ・中押装置を使わない長距離推進工法 ・無排土推進工法 ・浅い土被りでも可能な推進工法 ・急傾斜・鉛直推進工法 ・下水管の再生工法 ・既設管の入替工法(泥水方式) ・軟弱地盤用掘進機(掘進方法) ・ビッ ト交換が機内から可能な掘進機 ・直接に鋼矢板を切削して発進できる掘削機 ・到達補足薬液注入ができる掘進機 ・ローリング,ピッチングの自動制御装置を備えた掘進機 ・シールド, 推進の自動制御システム ・推進工法でのトラブル対応システム ・到達立坑からのマシーン誘導装置 ・バックリング防止機能付き坑口リング ・高水圧対抗型坑口リング ・セミシールド機の水没防止装置 ・泥水プラントのコンパク ト・ユニッ ト化 ・支圧壁のプレキャスト化 ・中押しジャッキの解体の簡素化 ・産廃にならない加泥材 26 2 月刊推進技術 Vol. 31 No. 1 2017 要求され、様々な推進工法が開発されています。地 中の障害物や鋼材を撤去もしくは切断できる工法、掘 進機が到達立坑無しで回収できる工法、推進工法と シールド工法を併用した工法など、技術開発は目覚 ましい発展を遂げています。 しかし、忘れてならないのが、地中に埋設された 管路の老朽化です。下水道管の寿命は 50 年と言われ ていますが、様々な条件下で劣化の進行が予想以上 に早く、道路陥没等の事故も多いのも現実です。また、 日本は世界有数の温泉と地震の多い国であり、これに よる管路への影響も無視できるものではありません。 3 は、終わりにしたいところです。 老朽管対策 平成初期に、開発されたパイプリニューアルシステ ム工法や置換式推進工法は、当時驚嘆するもので大 4 将来の技術 いに期待しました。必ずこの密閉型掘進機による工法 (公社)日本推進技術協会で取り上げている改築推進 が、改築推進の主流となるものと確信しました。しか 工法は、地中に埋設された老朽管の再生手段として し、時代の流れは管更生工法へと向いていきました。 不可欠であり、積極的な採用およびさらなる技術の開 だれもが管路の老朽化に対しては意識しているとこ 発と経済性の追求が求められています。 ろであり、平成 21 年に(公社)日本推進技術協会が改 ひとつ提案したいのは、老朽管を撤去し、その部 築推進工法として取り上げて設計積算要領を発刊した 分を地山状態に戻す技術の実用化です。過去にはこ ことは大いに評価されるべきことと思います。しかし の種の技術も開発はされていますが、実用化には至っ ながら、本格的な改築推進工法の普及には至ってい ていません。事情によっては、役目を終えた管路が ません。 不要になるケースも考えられます。昔であれば、開削 管更生工法による管路の処置は、既設管の劣化が で撤去するところですが、非開削で敷設した管につい さらに進行した場合、再度の処置が必要となります。 ては、やはり図−1 のような非開削での撤去が必要だ その時代にはもっと画期的な技術に対処が可能に と考えます。撤去によって、道路下の再利用できる空 なっているかもしれませんが、課題を先送りにするの 間も増え、再度、推進工法の出番も生じるというもの です。近い将来、これらの工法が、今の推進工法と 同様に採用されることを期待します。 5 おわりに 私は「必要は発明の母」という言葉が好きです。 今何が求められているのか、何が「必要」なのか を見つけ出して技術開発に挑んでほしいと思います。 実際に技術開発と言ってもアイディアやひらめきは、 現在の不具合の解消、苦渋作業の解消、出来形や精 度の向上、トラブルの対策や発生の未然防止など色々 なことに起因すると思います。そして、その原点は現 場にあると思います。ですから、大物の魚を釣ること だけを狙うのではなく、砂浜や堤防で気楽に魚を釣る 感覚が大切であると思います。このような目で現場を みてもらえば必ずテーマはあるものと思われます。 技術開発には時間とお金が掛かりますが、技術屋 として汗を流し、結果を得たときの喜びは格別なもの があります。日本の推進技術が世界の中で、生き残 るためには、さらなる推進技術の研鑽と開発が唯一 の手段であると思います。 図−1 改築推進イメージ これからの若い推進技術者に期待します。 月刊推進技術 Vol. 31 No. 1 2017 27
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